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緒言

昭和八年三月三日三陸沖に發生せる地震が同地方海岸一帯に亘り、大津波を惹起し甚大なる被害を与へたるは周知の事に属す。而して當時本地震により如何なる程度の影響が同地方の地殻に与へられたるかといふ問題は学界のみならず一般に興味を以て提出されたるものなり。當部は其測量標維持の為同地方に散在する測量標の移動を検知するの要あり、傍本問題に答ふる為地震動の比較的激烈なりし地方に限り復旧測量を决意せり、幸當局の許容する処となりしを以て四月上旬本作業に着手せり、その後作業員の努力により三角測量は十月下旬、一等水準測量は年を越して今年一月上旬夫々その外業を完了し、今や其計算整理亦終了せるを以てここに本作業に関し報告せんとす。

第一一等三角測量

一等三角測点は二等三角網の展開並に地震動の影響を顧慮し左の十点を使用せり。 (附図第一) 焼石岳、酢川岳、箟峰山、室根山、五葉山、種山、雷神峠、田束山、三国山、田束山、三国山は補点なれども、本作業に於ては一等本点の観測法に随へり。一,外業昭和七年四月上旬造標作業開始、六月下旬之を終り、續いて七月上旬観測開始、十月下旬完了せり、観測に使用せる経緯儀は、独逸国「カールバンベルヒ」製二七糎型にして視準点には書間は回照器、夜間はアセチリン回光燈を使用せり。造標作業の初期にありては、山地には尚残雪を存し、観測期に入り、七、八月間は予想以上天候不良なりき、加ふるに観測の末期に至りては、焼石岳、酢川岳等は、既に雪におおはるゝに至れり、之等により、作業の蒙りたる障害は决して鮮少なるものにあらざりき。二,内業改測三角点初度の測定は、昭和八年を遡る三十三年乃至三十九年以前明治二十七年乃至三十三年の間に於て、現在と同様なる測器並に方法により実施されたり。凡そ三角測量に於て新旧測量結果を比較し、土地の変動の有無を調査するに當りては、改測網中の一点の位置をその旧値に一致せしむるを要す、尚網中の或る一点に於て新旧方位角の測定存在せざる時は或る二点間の方位角を新旧一致せしむる必要あり、更に三角形辺長算出の基礎となるべき基線測量を改測の際実施せざる塲合には、改測三角網中熟れかの一辺の長さに旧値を採用せざるべからず。本測量に於ては、新旧方位角の測定点を欠き、尚ほ新に基線測量を実施せざりしを以て今回の観測の結果より観察し、比較的変動を受けざりしものと思惟さるゝ二点焼石岳及び雷神峠の位置を旧値と一致せしめ以て上述諸状件を満足せしめたり。右二点より出發し各点の位置を求め之を旧結果と比較し、以てその相對変位を計算せり、その結果は附表第一、二、三,附図第一の如し。尚ほ改測網新旧観測精度は次の如し。式中△は三角形の内角の和の幾何学的値と観測値との差、nは三角形の数を示す。

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数式1

第二二等三角測量

二等三角改測地域は附図第二に示すが如く激震地帯を被覆し釜石附近以南、石巻附近に至る海岸に沿ふて展伸せり。其外業は四月上旬造標作業を開始し十月中旬全観測作業を完了するまで概ね一等三角測量と並進せり。七,八月の悪天候は二等三角観測作業に在りても著しき障害を与へたり、即ち二等三角に於ては一等三角の如くその辺長大ならずと雖も回照器、回光燈を使用せざるが為、日照を見るも濠気盛にして覘標を明確に視準するを得ざりき、然れとも八月を過ぐるに及び明快なる天候を迎へ作業の進度漸く順調に復せり。本作業に使用せる測器は「カールバンベルヒ」製二一糎経緯儀なり。本地域の旧観測は、明治四十年に実施され使用経緯儀は今回と同型なり。改測二等点の位置は関係一等点の新結果を使用し算出せり、旧結果との比較は附表第四附図第三に示すが如し。三角形の閉塞差より計算せる新旧観測精度次の如し。

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数式2

第三一等水準測量

検測線路は水戸ー宮古、蛇田(石巻)ー鮎川、釜石ー黒澤尻の各区間にして総計六七〇キロメートルに達す(附図第四參照)昭和八年五月上旬作業開始、仝九年一月上旬完了せり。旧測量に在りては「カールバンベルヒ」製一等水準儀並に標尺を使用せるも、今回の測量に於ては「ツアイス」製三号型平面鏡附水準儀及び不変金属製標尺を使用せり。新旧測量結果の比較並に測量期日は附図第五乃至第十一に示すが如し。

第四経費

 本測量に要せる経費左の如し。 一等三角造標    二,三九八円五一 仝観測       四、二四五、四五 二等三角造標観測  二,六八三,六九 一等水神観測    九,〇一七、三五  計         一八,三四五,〇〇

結語

本検測に現はれたる変動は三角点水準点とも従来の復旧測量結果に比し遙に小なり就中三角点に在りては更に低次の三角測量を実施し、その実用成果を改定するの要を認め難し。然れども本測量結果が学術的研究資料として貴重なることは論を俟たざる処にして其完璧を期する為には一二等三角測量とも、更に北に数十キロメートル延長するの要あるべし。本復旧水準測量の結果並に之に関連して実施せる水準原点、油壷験潮場間及び地震研究所の委託にかゝる水準原点、水戸間の一等水準測量結果(昭和九年度一等水準点検測成果集録参照)より推定し水準原点は数センチメートル上昇せるやの感あり、之が確定値は今後の測量を待つて决定さるべし。

図表

第1〜11

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附表 第一 三陸震災地一等三角点新旧異動比較表
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附表 第二 一等三角新旧角度比較表
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附表 第三 一等三角新旧辺長比較表
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附表 第四 三陸震災地二等三角点新旧異動比較表
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附図 第一 三陸震災地一等三角点水平移動図
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附図 第二 三陸震災地二等三角網図
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附図 第三 三陸震災地二等三角点水平移動図
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附図 第四 三陸震災地改測一等水準線路図
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附図 第五 水準点変動図(水戸ー日立ー平)
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附図 第六 同(平ー岩沼ー仙台)
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附図 第七 同(仙台ー松島ー蛇田)
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附図 第八 同(蛇田ー萩濱ー鮎川)
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附図 第九 同(釜石ー遠野ー黒澤尻)
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附図 第一〇 同(蛇田ー盛ー釜石)
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附図 第一一 同(釜石ー山田ー宮古)