はしがき
昭和58年5月26日正午に発生した日本海中部地震津波では、100名の生命が失われた。白昼でありながら多数の死者が出た一因として、日本海での津波発生がきわめて稀であった事が挙げられよう。この地域は津波常襲地帯とは考えられていなかった。そのうえ、従来の常識では理解できない現象が生じた。例えば、最高15mに近い遡上高が、なだらかな海岸線の浜で生じたことである。いわゆる津波常襲地帯と云われる地域は屈曲した海岸線を持ち、その湾奥で最大遡上高が発生するのが常であった。
この様に、平均的な津波とは異なるものであったが、津波に関連する学問の現状を検定する好機となった。近年整備されつつあった地震観測網は、断層運動を解明するに必要な観測資料を提供した。海底地盤隆起の推定が、これまでのどの津波に対するより、詳細に行われることが予想された。一方、津波観測網の方は現在でも未発達の状況にあり、正確な津波の形態は把握されにくい。この時の初期の報道では、被害の大きさに比べ、潮位記録を参照した津波高が以上に小さいという事実があった。幸い、当日は快晴無風無波浪に近い状況であったため、沿岸各地でビデオや写真が得られ、また多数の目撃者がおり、津波の再現に役立った。こうして、従来に比べ精度の良い比較検討資料が揃う事となった。目撃された津波には、分散項の効いたソリトン波列や沿岸を繰り返し襲ったエッジボアがあった。これらを再現する理論はまだ完成しておらず、とくにエッジボアについては実験例もきわめて少なく、理論と呼べるものはないのが現状であった。津波の破壊力が顕著な影響を与えた構造物としては、侵食対策に好んで使用されてきたブロック構造物があった。この種の構造物が大津波を経験したのはこれが最初であった。
この計画研究では、日本海中部地震の断層運動の解明に始まり、津波の発生、伝播と増幅、沿岸での変形と破壊力にいたる全過程を追跡する事を目的とした。チリ津波以後の30年間に発達した学問の適用性を検定するとともに、現在の知識では解決出来ない問題は何であるかを明らかにする。ここで確立される手法は、もちろん日本海中部地震津波のみならず、他の津波にも応用可能なものである。第1章では、地震断層運動を取り扱う。日本海中部地震を起こした地帯の過去の地震活動の総括から始まり、前震の経過、余震活動とその分布、震源域の確定、本震の震源過程について、各種のデータを使用して様々な角度から、詳細に論ずる。近い将来に必要となるであろう断層パラメーターの即時的決定法の適用性の検討、あるいは日本海での津波の発生効率についてもふれている。
第2章では、海底地盤変動と津波初期波形の関係、陸棚と津波の干渉の結果などが論じられている。地震波から断層運動を求めるとき、断層運動の空間的分解能が時間的分解能より良くない。ここでは、観測された津波波形から断層面すべり量の空間分布を求める方法が開発された。従来使用されてきた逆伝播図による波源域の決定、波線追跡法の適用なども試みられている。
第3章では、検潮井戸の応答特性が克明に調査されている。日本海中部地震時の顕著な現象の一つとして、検潮儀観測値と痕跡値との甚だしい違いが挙げられている。例えば、深浦港では4m弱の津波高が目撃されたが、検潮儀観測値は高々55cmに過ぎなかった。この原因を明らかにし、修正方法が提案されている。そのためには現地観測が必要であり、東北地方を中心に主要41検潮所について、その応答特性が現地実験された。応答特性は時間の関数でもあるため、本計画研究で得られた現地資料は、将来の比較に備えて付属資料として収録した。
第4章では、非線形性の強い波動と沿岸地形の干渉効果について論じられている。水深が変化する場でのMach stem、Edge bore、河川に侵入した段波について、大型の水理実験がなされ、理論の展開が試みられた。前2者についての理論的展開は行われえず、将来の問題点として残されたが、僅かな条件の違いにより波力が大きく異なる可能性があることが明かとなった。
第5章では、津波の数値計算手法の検討である。従来、津波の遡上高に関する限り、誤差15%以内で再現可能とされていたにもかかわらず、日本海中部地震津波の再現に成功したものは無かった。その原因は、津波計算手法にあるのか、初期波形決定法にあるのか、あるいはソリトンなど従来の計算の基礎方程式に含まれていなかった現象に起因するのか、判然としなかった。ここでは、近地遠地両津波の数値計算に使用される基本方程式を整理し、計算にあたっての格子間隔の決定に際して必要な事項を提示した後、日本海中部地震津波の計算を行って、その再現に必要とされる条件を確定した。 第6章では、砕波を伴った津波先端部の特性が取り扱われる。日本海中部地震津波では、先端部に周期10数秒と短周期のソリトン波列が発生し、襲来した場所があった。いままでこれらを取り扱う理論が無いわけではなかったが、精度が悪く、波高を大きく見積もりすぎること、底面摩擦を除外していること、砕波が生ずると適用できないこと、等の欠陥があった。ここでは、ソリトン波列の先行波砕波の影響、崩れ波砕波による波高変化、砕波の数値計算など津波先端部での砕波減少を取り扱う方法を論ずる。
第7章では、津波先端部の波力の推定に当てられる。八森海岸でのブロック散乱で代表される新しい形の災害が生じた。ここでは、津波による衝撃的な波力、ソリトン波列によるブロック構造物の破壊のメカニズムの実験を行った。海岸侵食対策用のブロック構造物の設計方法が見直されることとなった。
この計画研究が次に示す分担者によって行われた。なお、報告書の作成にあたっては、その他の方の協力も得た。次表のうち、下線を施した氏名が協力者である。
分担者及び
協力者(下線)所属・職名 執筆章節
阿部勝征 東京大学地震研究所 助教授 1.4
阿部邦昭 日本歯科大学新潟歯学部 助教授 2.4,2.6,3
石井 紘 東京大学地震研究所 教授 2.1,2.7
泉谷恭男 信州大学工学部 助教授 1.2,1.3
宇多高明 建設省士木研究所 研究室長 4
岡田正実 運輸省気象研究所 主任研究官 3
小俣 篤 建設省土木研究所 研究員 4
梶浦欣二郎 東京大学 名誉教授 4
後藤智明 運輸省港湾技術研究所 主任研究官 5
酒井哲郎 京都大学工学部 教授 6.3
佐竹健治 東京工業大学理学部 技官 2.2,2.3,2.5
首藤伸夫 東北大学工学部 教授 5.8
都司嘉宣 東京大学地震研究所 助教授 4
富樫宏由 長崎大学工学部 教授 7.2
浜口博之 東北大学理学部 教授 1.2
平澤朋朗 東北大学理学部 教授 1.1
増田 徹 東北大学理学部 助手 1.2
松冨英夫 秋田大学鉱山学部 助手 6.2,7.1
真野 明 東北大学工学部 講師 6.1
矢沼 隆 東京大学地震研究所 4
横山揚久 建設省土木研究所 4
渡辺 晃 東京大学工学部 教授 7.3
(首藤伸夫 記)
第1章 地震断層運動の特性
1.1 概説
1.1.1 はじめに
日本海は中国大陸・朝鮮半島と日本列島にはさまれた縁海である。1983年5月26日の日本海中部地震はこの日本海の北半分を占める日本海盆の東南端、水深2,000mから3,000mの海底で発生した。気象庁発表の震源と、弘前大学理学部のデータも加えて東北大学理学部が決定した震源をともに表-1.1.1に示す。両者の差は震源決定誤差の範囲内と考えられる。この地震の気象庁マグニチュード(以下Mと略す)は7.7である。ちなみに米国地質調査所発表の表面波はマグニチュードも7.7であり、気象庁マグニチュードと一致している。
本震の発生に先行して、そのほとんどが微小地震であったが、顕著な前震活動が観測された。この活動は5月14日夜10時半頃に発生したM5.0の最大前震(表-1.1.1参照)に始まる。気象庁によって検知された前震はこの地震だけであるが、東北大学理学部において震源決定された前震の数は全部で23個にのぼる。その多くがM5.0の最大前震発生直後に発生し、活動はいったん沈静化した。そして5月26日11時59分頃マグニチュード2程度の微小地震が発生し、約1分後の本震発生へと続いた。これらの前震活動は、最大前震も含めて、来るべき本震の震源(すなわち、本震という巨大破壊の開始点)のごく近傍、水平方向および深さ方向ともに約5kmの範囲内に集中している。なお、表-1.1.1に示した気象庁による最大前震の震源は正しくないと考えられる。この事実は、本震の破壊域の中で破壊開始点近傍が本震発生の10日以上前から特異な臨界状態になっていたことを示すものである。
しかしながら、本震発生前にこの前震活動を「大地震の前兆現象」と認識することはできなかった。その最大の理由は日本海中部地震の震源域では1964年のM6.9の地震以外に大地震の記録がなく、M7.5クラスの大地震発生域とは考えられていなかったことにある。そのため、この前震活動は群発地震活動と解釈された。
東北・北海道太平洋側の巨大地震は、海と陸のプレートの相互運動を直接の原因として、プレート境界に発生する低角逆断層型の地震である。それに対して、日本海東縁部の地震と大規模プレートの運動との関連は未だ解明されていない。我々のもっている既往地震の経験がきわめて貧弱であるだけに、基礎的なテクトニクスの解明こそが地震発生の長期的予測にとって不可欠である。日本海中部地震がそのなぞを解く貴重な資料を提供してくれた。
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1.1.2 過去の地震活動
太平洋側の千島海溝・日本海溝沿いのきわめて活発な地震活動ほどではないが、日本海東縁部も顕著な地震活動域である。表-1.1.2には最近の約200年間に発生した地震の震源要素が掲げてある。気象庁の地震観測網が整備されはじめた1926年以降とそれ以前とでは、震源要素の精度に質的な差がある、と一般に言われている。また、1926年以降でも最近の震源決定精度に比較すれば十分の精度とはいえない。たとえば、表-1.1.2の6、7、8番の震源要素は気象庁が1982年に公表した「改訂日本付近の主要地震の表(1926-1960)」から採用したものであるが、比較のために気象庁による改訂前の震源とマグニチュードも同表のかっこ内に記載した。両者にはかなりの差異が認められるであろう。
図-1.1.1はこれらの地震のうち主なものの震央を地図上に示したものである。ここでは7番の地震は津波の波源域と発震機構、9、10番は余震域と発震機構が図示されている。今回の日本海中部地震は、その余震域ははるかに大きいものの、9番の地震(1964年5月、M6.9)、そして、図には示されていないが、11番の地震(1964年12月、M6.3)とほぼ同じ位置に発生している。図表からわかることは、まず第1にマグニチュード7.5を超すような大地震はないこと、第2に7,9,11番以外のすべての地震は水深約500mもしくはそれ以下の浅海底で発生していること、第3に今回と同じ震源域の前回の大地震をM6.9の9番の地震とみなせば、その発生以来19年しか経過していないことである。
日本海沿岸地域の地震活動度は太平洋側に較べて低く、同一震源域における大地震の繰り返し間隔は数百年以上と考えられている。表-1.1.1と表-1.1.2からわかるように、1964年の2つの地震(M6.9とM6.3)と今回の地震の震源(破壊の開始点)はほとんど同じである。前項で述べたように、前震活動もほとんど同じ領域であった。このようにみると、日本海中部地震の震源域の中でも破壊の開始点近傍は応力の集中するきわめて特異な領域であると考えざるを得ない。
日本海盆の範囲を水深3,000mの等深線で定義するならば、1971年のサハリン南西沖地震(表-1.1.2の12番)は日本海盆の北東端よりさらに250kmほど北北東に位置する。そして、日本海盆の東縁を北部・中部・南部に分けると、1940年積丹半島沖地震(M7.5)と1983年に日本海中部地震(M7.7)の余震域が北部と南部を占める。中部と南部の境界域には渡島大島が位置し、1741年の大津波の記録がある。その発生原因が渡島大島の大噴火活動であったのか、定かでない。いずれにしてもこの火山の活動は1790年の噴煙活動以来静穏である。
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1.1.3 余震分布
本震は逆断層型の地震である。たとえば、東北大学理学部がP波初動方向から求めた本震の発震機構、すなわち2枚のP波節平面のオリエンテイションは傾斜方向120度(北から時計廻り)で傾斜角22度と傾斜方向275度で傾斜角70度である。このいずれかが断層面である、後述するようなより高度な波形解析、震源域近傍の地震にともなう地殻変動解析、あるいは津波の解析から断層面の識別が可能である。しかし、これらの解析には断層面を識別するだけの十分な解像力がないことが多い。この目的に最も有力な手段が余震の精密な震源分布である。
5月26日の本震発生後7月末迄の2ヶ月余りの期間で、東北大学理学部が震源を決定した余震数は8,000個をこえる。図-1.1.2はこの期間の余震の震央分布である。左図と中図の星印はそれぞれ本震と最大余震の震央を表わす。なお、5月31日から弘前大学理学部の岩崎と三厩の2観測点の波形データが東北大学理学部にテレメターされ、震源決定に寄与するようになった。このため、5月31日を境にして、震源決定の精度に差があることに注意する必要がある。
図-1.1.2からわかるように、余震域は南北に長い逆「く」の字型を呈する。この形状は日本海盆南東縁の水深3,000mもしくは2,000mの等深線の形に似ている。余震域の東縁部は久六島(図-1.1.3参照)を中心として半円状にくぼんでおり、そのあたりを境にして南北2つの顕著な活動域に区分されているように見える。中図の余震域は左図に比較して南北に拡大している。これは南端で発生した6月9日のM6.1とM6.0の2つの大きな余震と、北部に発生した6月21日の最大余震(M7.1)の結果である。つまり、大余震の2次余震の発生によって余震域が拡大したと解釈される。
鉛直断面でみた余震の震源分布が図-1.1.3に示されている。弘前大学の岩崎・三厩の2観測点のデータを含めて処理された、5月31日から6月末までの約1ヶ月間の震源分布を、A~Fの6つの領域のそれぞれについて、作成したものである。本震の断層面を明瞭に示唆するような震源のきれいな面状分布はみられない。しかしながら、C~Fの領域で震源の深さが西から東に向かって深くなる傾向が認められる。本震の2枚のP波節平面の内、陸側に低角で傾斜した面がここで得られた余震の震源分布と調和的である。
一般に地震観測網の内部に震源が入るような地震の震源決定精度は高い。ところが、日本海中部地震のように、陸上の観測網から大きくはずれた海底で発生した場合には、計算に用いる速度構造に結果が左右され易い。特に今の場合、観測網の下は陸の構造であるのに震源域は海の構造というように、速度構造が著しく変化する地域だけに問題は複雑である。この水平方向に不均質な速度構造の影響が次のような方法で調べられている[Sato et al.,1986]。媒質は地殻とマントルの均質な2層とし、その境界面(モホ面)が傾斜したいわゆる傾斜構造を仮定する。陸上の14観測点における多数の地震のデータを用い、傾斜構造のパラメターとそれらの地震の震源の同時決定を行った。
その解析結果によると、モホ面はほぼ真東に5.5度の角度で傾斜し、地殻の厚さは余震域の西端で約19km、日本海沿岸で約28kmとなる。余震分布の結果は図-1.1.4に示す。鉛直面内にプロットされた余震は比較的きれいな震源面を形成している。この震源面を断層面とみなすなら、それは南部領域で約105度の傾斜方向と約20度の傾斜角であり、北部領域でそれぞれ約75度と約20度である。また、断層面の下端は高々20kmで、推定された傾斜構造のモホ面に達していない。
本震発生3日後の5月29日から12日間という短期間ではあったが、余震域の海底に5台の地震計が設置され、余震観測が行なわれた。傾斜構造の効果を近似的に取り入れた、海底と陸上観測点のデータ併合処理により、余震分布の特徴が解明された[Nosaka,Suyehiro,and Urabe,1987]。陸上観測点のデータのみで決定された図-1.1.3の震源と比較すると、併合処理の結果は約5km東に移動し、かつ余震のほとんどが20km以浅であるが、その相対分布に大きな差は見られない。したがって、日本海中部地震は東に15~20度傾斜した低角逆断層であったとする前述の解釈を変更する必要はないと考えられる。しかし、この併合処理の結果においても余震分布はかなり複雑で、特に久六島北西域でこれが顕著である。これは地殻構造の非一様性と本震破壊過程の複雑さを示唆するものであろう。
日本海東縁部の大地震で、陸側に低角で傾斜した面上の逆断層型と明確に断定できる地震は知られていなかった。図-1.1.1の1940積丹半島沖地震と1964年5月の青森県西方沖地震の場合には、どちらも観測データに基いた断層面の識別はなされていない[Fukao and Furumoto,1975]。1964年の新潟地震は当時としては豊富なデータと近代的な断層理論により解析された世界最初の地震として有名である。それでも断層面と共役面の明瞭な識別はできていない。よく知られているように、太平洋側の浅い大地震は陸側(西側)へ低角で傾斜した面上の逆断層運動である。そしてこれが陸のプレートの沈み込み運動のひとつの証拠である。日本海中部地震が同じように陸側(東側)への低角逆断層型であるとすれば、日本海東縁部のテクトニクスを考える上できわめて重要な事実といえよう。したがって、低角逆断層の結論をより確かにするために、第1・2節では遠地記録における表面反射波を利用して比較的大きな余震の震源分布の再検討が試みられる。
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1.2 震源過程
1.2.1 主な余震の震源過程
(1) 遠地の中周期P波記録の解析
1)データと解析手法
解析した3個の余震は、1983年6月9日に発生した気象庁マグニチュード6.1と6.0の地震および6月21日のマグニチュード7.1の最大余震である。気象庁による震源要素を表-1.2.1に示した。また、GDSNによるP波部分の上下動記録の例を図-1.2.1に示した。長周期記録(LPZ)についてはそれ程でもないが、中周期(IPZ)と短周期記録(SPZ)は地震毎にかなり異なっている。RSONは震央距離約78度という遠方の観測点であるため、震源付近から観測点に至る地震波の伝播経路は3つの地震でほぼ共通していると考えて良い。従って、短・中周期記録波形の異なる原因として震源深さの違いと震源過程の微細構造の違いが考えられる。ここではIPZ記録の解析を行う。中周期地震計は周期1~20秒において地動の速度にほぼ比例する特性を有している。
点震源モデルに基づいて計算される合成記録w(t)と観測記録x(t)との一致程度を
と表現し、εを最小とするような震源時間関数(moment rate function)と点震源の深さを求める。Tは扱う記録の長さである。合成記録w(t)は
によって計算される。星印はコンボリューションを意味する。Rpzは観測点における入射P波から地動への変換係数、ρとαは震源域での媒質の密度とP波速度である。伝播経路における地震波の幾何学的な拡がり効果は1/r0の項に含める。
震源時間関数m(t)は厳密には有限な大きさを有する断層面上での食い違いの進行を考慮して計算されるべきであるが、地震の規模がそれほど大きくないこと、および、IPZ記録の得られている観測点の数が少なく、方位分布が偏っていることから、ここでは震源を点として扱い、m(t)を傾斜関数
を10個組み合わせたものとして
と表現した。Aiとtiは各傾斜関数の高さと遅れ時間である。
G(t)は直達P波および震源付近における種々の反射波の放射パターン、反射係数、位相遅れについての関数である。放射パターンを計算するために用いたメカニズム解はS波偏角の分布から求めたもの(6月9日21:49の余震 Φa=91°、δa=39°、Φb=284°、δb=52°:6月21日の余震Φa=123°、δa=52°、Φb=264°、δb=46°)および、東北大学によってP波初動の押引き分布から求められたもの(6月9日22:04の余震 Φa=110°、δa=34°、Φb=290°、δb=56°)である。ここでΦはP波節平面aとbの傾斜方向、δは傾斜角を意味する。震源付近での地震波速度構造は気仙沼-男鹿測線の爆破探査による速度構造[Yoshii and Asano,1972]を参考にして、表-1.2.2に示したような水平5層構造を仮定し、簡単のために平面波近似によってG(t)を計算した。海底地形図によると、3個の余震の震央付近の海深は約2500mであるが、海水層厚として3kmを仮定した方がx(t)とw(t)の一致程度が良かったため、この速度構造を採用した。また、直達P波の他には主要な反射波(海水面、海底面、堆積層下面での1回反射波)のみを考慮した。Q(t)は伝播経路における減衰に関する項であり、地震波の伝播時間をQで割った値を0.7秒と仮定して計算した[carpenter,1966]。I(t)は地震計のインパルス応答である。
震源深さと式(1.2.3)のτとを変化させながら、インバージョン手法[Kikuchi and Kanamori,1982]を応用してεを最小にするようなAiとtiとを求めた。
2)解析結果と考察
各々の地震に関して4観測点のIPZ記録より震源時間関数m(t)と震源深さとを推定した。この際、地震の大きさを考慮してtiを10秒以内に拘束し、εを計算する際のTを30秒とした。各観測点の記録についての結果はほぼ同様であり、ここでは観測点RSONでの記録に関する結果だけを載せた。
図-1.2.2は深さを変えた場合のεの変化を示している。これから、6月9日の余震の震源深さは各々13km、12kmと推定される。6月21日の余震についてはεの極小が深さ11kmおよび17kmに見られる。この地震はM=7.1と他の2個に比べて大きいため点震源で仮定するのに少々無理があるのかもしれないが、ここでは11kmを採用した。図-1.2.3、図-1.2.4、図-1.2.5には観測波形、合成波形、およびm(t)を示した。
6月9日の2つの余震の震央は非常に近く、震源の深さも規模も殆ど等しい。ところが、2つの余震のm(t)の形状はかなり異なっている。m(t)の主要部分に斜線を施したが、21:49の余震のm(t)は比較的単純な断層破壊過程を暗示する。しかし、その継続時間は規模の割には短く、仮に破壊伝播速度3km/sで円形クラックを仮定すると断層面の半径は約3kmとなる。断層面上での平均的な応力降下量は130bars程度にもなり、日本海溝沿いの地震の場合の平均値30barsや日本島弧内に発生する地震の場合の平均値60bars[Abe, 1975]に比べてかなり大きい。ここで求められた震源パラメター値は長周期記録の解析による場合とは異なり、断層面全体に関する値と言うよりも、破壊強度が周辺より大きくて比較的短周期の波動エネルギーを主に放出した部分(アスペリティ)に関する値と考えるべきであろう。一方22:04の余震のm(t)を見ると、約4秒間の破壊伝播の間に2個のアスペリティが破壊したことが想像される。図-1.2.6に2個の余震のm(t)の主要部分のフーリエスペクトル強度を示した。21:49の余震のスペクトルは0.5Hz付近にコーナーを有し、いわゆるω^-2モデル[Aki,1967]に従う形状を示す。これに対し、22:04の余震の場合には2つのコーナー(0.1Hz付近と0.7Hz付近)を有する震源スペクトル[例えば、Izutani,1981,1984;Umeda,1981: 鈴木・平澤,1983;Koyama,1985]を思わせる。22:04の余震は21:49の余震に比べて0.2~0.6Hzの周波数帯における地震波の発生能力がかなり劣っている。図-1.2.7は秋田で観測された加速度記録[Kurata,Fukuhara,and Noda,1983]から求めたこれらの余震のスペクトル比である。加速度記録は伝播経路での散乱や観測点直下での軟弱な地表層内における多重反射などの影響をかなり受けているであろうが、スペクトル比をとることによってその影響を相殺した。GDSN記録解析によって見出された0.2~0.6Hzにおける地震波の発生能力のの違いは、近地で観測された強震加速度記録にも顕著に認められる。
6月21日の最大余震に関しては、図-1.2.5に示したm(t)の形状から、震源における破壊継続時間が3.5秒の2つの台形パルスを2.3秒の時間差で重ね合わせることにより観測波形を満足させられることが分かる。これは最大余震が少なくとも2つの主要破壊からなる多重震源であったことを意味する。
中周期地震記録の解析によって3個の大余震の比較的短周期的な震源の振舞いについて調べたが、2個の余震については多重震源性が認められた。
(2)遠地の長周期SH波記録の解析
1)データと解析手法
比較的大きな余震の震源の位置および震源メカニズムを調べることは、津波を引き起こす大地震のメカニズムをより良く理解するうえで有力な手段の一つである。余震を点震源とみなしたときの断層の深さは中周期記録の詳細な解析により精度良く決定される事は前節にみるとおりである。ここでは前節の結果も参考にしながら、長周期SH波記録を解析して断層の深さ、断層メカニズム解、地震モーメント、及び断層の長さL、断層運動の継続時間Tを推定する。解析した地震は表-1.2.1にある1983年6月9日21時49分に起きたマグニチュード6.1の地震および1983年6月21日15時25分に発生したマグニチュード7.1の最大余震である。解析に用いた記録は世界標準地震観測網(WWSSN)の観測点で記録された長周期記録で6月9日の余震については震央距離42°~80°にある12点、また6月21日の最大余震については47°~80°にある11点である。各々の地震について観測点の方位と震央距離および記録されたSH波形を図-1.2.8(a)、図-1.2.8(b)に示す。
遠地で観測される長周期SH波には直達S波のほかにこれより数秒遅れて地表からの反射波であるsS波が含まれている。ScS波は上記の震央距離においては直達S波から20秒以上遅れて到達するのでここでは考慮する必要はない。直達S波とsS波はその走時と振幅は異なるがパルス幅はほぼ同じと見なすことができる。従って、観測されるSH波形x(t)は直接S波の走時tr、パルス幅τ、0次モーメントAθと、sS波と直達S波の走時差δt、0次モーメントの比aをパラメターとして式(1.2.2)と同じ様な次の合成波形w(t)でモデル化できる。
sθ(t:τ)は単位モーメントをもつ震源時間関数でここではパルス幅τの矩形波を用いる。βは震源でのS波速度である。Q(t)はPREMのモデルに従って計算した。前節と同様に合成波形と観測波形の一致の程度を式(1.2.1)で表し、その値を最小とするようなパラメターtr、τ、Aθ、δtおよびaを各観測点毎に求める。その際の記録の長さTは40秒とした。各観測点で求められたsS波と直達S波の走時差δtをそれぞれの地震について図-1.2.9(a)および図-1.2.9(b)に震央距離の関数として示す。sS波と直達S波の走時差から求められた震源の深さは、6月9日の余震については10km、6月21日の最大余震については9kmとなった。これらの深さは前節で中周期記録から求められた値よりやや浅いが、断層面の拡がりや長周期記録の分解能を考慮するとどちらの地震についても良い一致を示している。深さが決定されると直達S波とsS波との振幅比aから断層メカニズム解が推定される。pur dip slipを仮定して推定されたメカニズム解は6月9日の余震ではΦa=110°、δa=43°、6月21日の最大余震ではΦa=106°、δa=48°となった。推定されたメカニズム解から期待されるsS波とS波との振幅比と各観測点で求められた振幅比の関係をそれぞれの地震について、図-1.2.10(a)および図-1.2.10(b)に示す。どちらの地震についても理論値と観測値は良く一致している。各観測点でのAθの値と得られた断層メカニズム解から地震モーメントが推定できる。図-1.2.11(a)及び図-1.2.11(b)にメカニズム解から計算される放射パターンの係数と各観測点において求められたAθの値の関係を示す。これらの図から6月9日の余震の地震モーメントは1.1×10^25dyne-cm、6月21日の最大余震の地震モーメントは3.4×10^26dyne-cmと推定される。断層の長さLc及び断層運動の継続時間Tcは各観測点で求められたτの値から観測波形の2次モーメントによる方法[Silver and Masuda,1985]を適用して推定される。観測波形の2次モーメントT2は求められたパルス幅τから
であるが、これは断層パラメターを用いて、
と表す事ができる。ここにθは断層の長さ方向とS波の射出方向とのなす角である。Rは断層面上での破壊の伝播モードに関係する量で、破壊が長さ方向、またはその反対方向にだけ進むユニラテラルの場合は1または-1、両方向に同じ長さ進むバイラテラルの場合は0、両方向に異なる長さ進行する場合は0<|R|<1の値をとる。6月9日の余震、および6月21日の最大余震についてのT2とcosθの関係をそれぞれ図-1.2.12(a)、図-1.2.12(b)に示す。断層の幅は微小地震の震源分布を参考にしてそれぞれ5km、7kmと仮定した。求められたRの値は6月9日の余震では0.02、6月21日の最大余震では-0.25で、どちらの地震も破壊の伝播モードはバイラテラルに近いことがわかる。震央の位置から両方向に拡大した断層の長さの比をRの値から求めるとそれぞれ1:1、1:0.9である。断層運動の継続時間、断層の長さは6月9日の余震では4.1秒、17km、6月21日の最大余震では6.0秒、29kmと求められた。破壊の進行速度は6月9日の余震ではS波の63%、6月21日の最大余震ではS波の81%となる。
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1.2.2 本震の震源過程
(1)主な余震の震源分布
グローバルな地震観測網のデータを用いてISCによって決定された6月30日までの余震496個の震央分布を図-1.2.13に示す。震央分布の全体的な傾向は東北大学理学部のローカルな観測網で決定されたもの[海野他, 1985]と良く似ており、逆「く」の字型を呈する。
さて、地震の際に放出された波動エネルギーEsと実体波マグニチュードMsとの関係には
の関係がある[宇津,1977]。図-1.2.13に示した余震のうち、MBの決定されている232個の地震のEsの値を緯度、経度各々0.1度毎のメッシュ内で積算した。図-1.2.14にはEsの積算値を円の大きさで示した。最大のEsを有するのは6月21日の最大余震を含むメッシュである。円の半径はlogEsに比例しており、最大余震を含むメッシュのEs積算値の10^-4以下のEs積算値を有するメッシュでは半径零である。
余震分布に基づいて推定された本震の断層面は本震の震源の南約10kmの地点を南端とし、長さ100~110km、幅約30kmである。断層面は北緯40.8度付近で折れ曲がり、これより南部の走向は北15度東、北部の走向は北15度西となっている[Sato,1985]。図-1.2.14のEsの分布を見ると、Esの大きいメッシュは本震の断層面よりも南の領域、北の領域、および余震分布の折れ曲がり部付近に集中していることが分かる。比較的大きな余震は本震時に完全に破壊された所ではなく、本震の断層面上での応力未解放部分や断層面の縁に発生したものであろう。従って、比較的大きい余震の震源深さを精度良く再決定することによって本震の断層面の形状を推定することが可能である。
1.2.1節では3個の大きな余震の震源時間関数と震源深さを決定したが、図-1.2.3.と図-1.2.4において直達P波から約10秒後に見られる非常に顕著なレイター・フェイズはpwP波(震源近傍の海水面における反射波)であった。pwP波は図-1.2.1のSPZ記録上に置いて、より顕著に認められる。海底下で発生した地震の震源深さを精度良く決定するためにはpwP波と直達P波の時間差を用いることが非常に有効である[Yoshii,1979]。図-1.2.15は、6月9日21:49の余震に関して、GDSN短周期記録から読み取ったpwP-P時間を震央距離に対してプロットしたものである。図にはISCおよびUSGSによってpPとみなされているフェイズとP波の到着時刻差をもプロットした。また、海の深さ2.6km、震源深さ15kmとした場合のpwP-P時間の計算値を実線で示した。この図から、ISCやUSGSによってpPとみなされているフェイズはpwPフェイズであろうと思われる。
GDSNデジタル記録が入手できた地震についてはその短周期記録よりpwP-P時間を読み取った。また、ISCおよびUSGSによるpP-P時間をpwP-P時間であると読みかえ、ISCによる震央位置での海の深さを考慮して余震の震源深さを再決定した。図-1.2.16は震源深さを再決定した41個の余震の震央分布である。震央が本震の断層面よりも北側または南側の領域にあると思われるもの、本震の断層面の水平面への投影と重なると思われるもの、および、余震分布の折れ曲がり部付近に位置するものに分類してシンボルを変えて示した。やや小さいシンボルは、pwP-P時間の読み取り値が少ないか又はばらついているため、震源深さの決定精度があまり良くないと思われる余震である。
図-1.2.17は北緯40.9度より北の余震を走向が北75度東の鉛直断面に投影したものであり、東下りの明瞭な面状分布がみられる。一方、図-1.2.18は北緯40.9度より南の余震を走向が北75度西の鉛直断面に投影したものであるが、北の余震ほど明瞭ではないもののやはり東下りの面状分布がみられる。この結果は東北大学理学部のローカルな微小地震観測網による結果と調和的である。
図-1.2.18において東下りの面状分布を不明瞭にしている東寄りの浅い余震は、どれも余震の震央分布の折れ曲がり部付近に位置している。この地域に浅い余震が存在することは、海底地震計による臨時観測のデータと陸上観測網のデータの併合処理によって見出されている結果[Nosaka,Suyehiro,and Urabe,1987]と調和的である。これらの余震だけに注目するとやはり東下りの分布を示していることから、東寄りの浅い余震の存在は本震の断層面が東下りであることと必ずしも矛盾しない。データが少ない欠点はあるが、比較的大きい余震の分布に基づくと、本震の断層面は低角の東下りで震源付近では比較的深く、余震の震央分布の折れ曲がり部付近ではかなり浅くなっているものと推定される。
(2)本震の震源過程
1)データと解析手法
1.2.1-(2)節で用いた観測波形の2次モーメントによる方法を日本海中部地震に適用して、断層運動の継続時間と断層の長さを推定する。解析に用いた記録はデジタル観測網(GDSN)の観測点で得られた長周期SH波記録であり、震央距離の範囲は61°~94°である。図-1.2.19に各観測点の震央距離と方位、および得られたSH波形記録を示す。震央距離の近い2つの観測点CTAOとRSNTを除いた他の観測点では、1つ1つのSH波には直達S波、sS波のほかに、ScS、sScS波も含まれている。本震の断層運動の継続時間は余震のものに比べて長く、またGDSNの観測システムの周波数応答は20~30秒のところにピークがあるため、1.2.1-(2)節で扱ったWWSSNの観測点で記録された余震の長周期記録に比べて卓越する周期は長い。このように破壊の継続時間が長く、しかも直達SH波の後に複数の波が到達する場合には、1.2.1-(2)節で行ったように直達SH波とsS波の走時差と振幅比から震源の深さ及びメカニズム解を推定することはできない。東北大学、気象庁、USGSにより決定された値、および1.2.2-(1)説に示されている余震分布を基に、震源の深さは14km、断層面の傾斜方向Φは北緯40.8°以南では106°、それより北では84°、傾斜角δは27°として解析する。近地の強震計による観測から日本海中部地震は1つの断層面の上での滑らかなすべりによるものではなく、10数秒の継続時間をもつ破壊が、10数秒~数10秒の間隔を置いて少なくとも2つ以上発生したことによるマルチプルショックであることが明らかにされている[Sato et al.,1985]。図-1.2.19のSH波形記録からもそのことがみてとれる。GDSNの観測システムの応答時間が長いため、それぞれの破壊によるSH波は互いに重なり合い、1つ1つの破壊の特性を個別に取り出して解析することは困難である。ここでは観測されたSH波形はそれぞれの断層運動によるSH波が複数個たがいに重なり合ったものとして一括して取り扱う。k番目の断層運動による直達SH波の走時、パルス幅、モーメントをそれぞれtrk,τk、Aθkとし、sS、ScS、sScS波の直達波に対する走時差と振幅比をδtki、akiとすると観測波形x(t)は、式(1.2.5)を参考にして、
とモデル化される。ここでΣk、Σiはそれぞれki,iについて和をとることを意味する。モデル波形と観測波形の一致の程度を式(1.2.1)の様にとり、εを最小にするパラメターを求める。解析の結果、この地震は3つの主要な破壊から成り立っていることが明らかとなった。図-1.2.20に各観測点での合成波形を示す。1つ目の断層運動によるSH波に関しては各観測点でτi、およびAθ1の値が精度よく求められた。図-1.2.21に各観測点で求められたAθの値と仮定したメカニズムから計算される放射パターン係数の関係を示す。これから、1つ目の破壊の地震モーメントは1.1×10^27dyne-cmと推定される。図-1.2.22にτ1から計算される各観測点での2次モーメントT2とcosθの関係を示す。これからRは0.92と求められ、1つ目の破壊は北方に進行したことを示している。断層運動の継続時間は12秒と求められた。断層の長さはあまり精度良く決定できなかったが、およそ35kmとなった。断層運動の継続時間と断層の長さから、破壊の進行速度はS波の約90%となる。2つ目の破壊は最初の破壊から約25秒遅れて発生し、破壊領域はさらに北方に拡大した。その継続時間は13秒、断層の長さは30km、地震モーメントは1.2×10^27dyne-cmと求められた。最初の破壊が終了してから約13秒の間断層運動は一時休止していたことになる。これは近地の強震動観測から推定された結果[Sato et al.,1985]と一致する。2つ目の破壊に引き続いて3つ目の破壊がさらに北方に進行し、断層運動の継続時間は20秒、断層の長さは40km、地震モーメントは2.0×10^27dyne-cmと求められた。2つ目と3つ目のSH波はそれより1つ前のSH波の後ろの部分に重なってしまうため、1つ目に続く破壊の特性の推定精度はあまり良くない。3つの主要な破壊の特性に関する結果を総合すると断層運動の継続時間は約60秒、断層の長さは約100km、地震モーメントの総和は約4×10^27dyne-cmとなる。本震の震源域は、1983年6月9日の2つの大きな余震と6月21日の最大余震の震源域には及んでおらず、6月9日の余震と6月21日の最大余震は、本震の断層の端で発生したことになる。本解析に示されているように、本震の1つ目の破壊はおよそ北緯40.8度の地点で終了し、2つ目の破壊が始まるまで約13秒間断層運動が一時休止している。また、1つ目の破壊が拡大した領域は1964年5月7日の青森県西方沖地震の震源域と一致していることから、この地点も1つの断層の端と見ることが出来る。1.2.2.-(1)節で明らかになったように、これら本震の断層の端の地点に余震によって放出されたエネルギー密度が高く、非常に興味深い。
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1.3 強震記録による断層パラメターの即時的推定
1.3.1 方法
(1)断層破壊の見かけの継続時間
ここでは長辺の長さが短辺の長さより十分長い断層面を考える。図-1.3.1に太い矢印で示されたように、断層面上での破壊は長辺に沿って双方向に伝播するものとする。断層破壊伝播方向とθの角度を為す方向の観測点における断層破壊の見かけの継続時間dは、例えば、その観測点に最初に到達するS波と最後に到達するS波の時間差として与えられる。観測点までの距離が断層長さに比べて十分大きい場合、dは
と表現できる。ここで、Fは断層破壊伝播に伴うdの方位依存性を表す項で
である。式(1.3.2)の最初の式はFがF^LとF^Sの大きい方の値をとることを意味する。図-1.3.1にみられるように、断層面の短い方の長さはεl、長い方の長さは(1-ε)lである(0≦ε≦0.5)。vは破壊伝播速度、βはS波速度、θは断層面の長い方の部分上での破壊伝播方向と観測点へ向かうS波の射出方向との為す角度である。
(2)強震動継続時間の利用
本研究においては、震央より距離数百km以内において記録された加速度記録の解析を考えている。一般に加速度記録においてはS波が支配的であるが、S波の最初と最後の到達時刻を客観的に読み取ることは非常に困難である。従って、式(1.3.1)のdに代わる新しいパラメターを導入する必要がある。ここでは強震動継続時間Dをdの代わりに用いる事を考える。
全パワーで規格化されたパワー積算曲線(Husid plot)が0.05から0.95まで増加する時間を強震動継続時間と定義する場合がある[Trifunac and Brady,1975]。この定義に基づくと、岩盤上の観測点で記録された水平動の加速度記録のHusid plotはS波到達に伴って単純に直線的に増加する。それに対して、軟弱な地盤上の観測点で記録された加速度記録から求めたHusid plotはS波到達に伴う直線部分に続いて、S波に比較して長周期の表面波の到着に伴うゆっくりとした増加部分が見られる[Dobry,Idriss,and Ng,1978]。表面波とS波の到達時間差は震央距離と共に増加するため、この定義に基づく強震動継続時間は震央距離と共に変化することになってしまう。
強震動継続時間から震源の情報を得ようとする本研究の目的のためには、強震動継続時間が震央距離によらない事が望ましい。そこで、表面波の影響を取り除くために観測された地動加速度x(t)を5~10Hzの帯域通過フィルタh(t)に通して、Husid plotを
と定義する。Tは記録の長さである。P(t)が0.05から0.85まで増加する時間を強震動継続時間Dと定義する。P(t)を0.85で打ち切ることによって、Dが使用した記録の長さに強く影響されることを避けることが出来る。
観測された地動加速度とHusid plotの例が図-1.3.21に示されている。強震動継続時間Dは図のように客観的に得られる。どちらも1983年日本海中部地震の記録であるが、強震動継続時間は観測点によって大きく異なる。これは断層面上での破壊伝播の影響と観測点における地盤の性質とによるためである。
簡単のために、Dとdとの間に
なる関係を仮定する。AとBは観測点の地盤の性質を反映し、かつ、震源の性質にはよらない定数であると考える。
式(1.3.1)と(1.3.4)より、
が得られる。
(3)観測点における地盤の影響の評価
もし、多くの地震に関する多数の観測記録が使えるならば、断層パラメターと同時に観測点定数AとBを決定できる。しかしながら、現在のところ強震記録は少なく、断層パラメター推定に先立ってAとBとを決定しておく必要がある。
また、ε、l、v、θが既知な多くの地震の記録があるのなら、式(1.3.2)と式(1.3.5)によってAとBとを推定する事も可能である。しかしながら、地震のマグニチュードしか知られていない場合が多いため、以下の手続きが必要となる。
強震動継続時間Dの観測値が断層長さlと正相関を有することから[Izutani,1981,1983]、断層面上での破壊伝播の影響を無視して、Dとlの間に簡単な線形関係
を仮定する。これにより、各観測点におけるaとbとは観測記録より得られる。この際、lは余震分布や遠方での長周期地震波解析によって得られている値を用いる。ただし、マグニチュードしか分かっていない地震については経験式[Otsuka,1964]
を用いてlを推定する。
式(1.3.5)と式(1.3.6)とを比べると、aとAとの間に
が成立する必要がある。(F/v)バーは式(1.3.6)によってaを推定するのに用いた地震に関するF/vの平均値であるが、その値を観測値として得ることができないため、ε(0≦ε≦0.5)とθ(全空間)に関するFの理論的期待値を用いる。v/βが0.75の場合のFの期待値は約0.8であることから、式(1.3.8)を
と近似する。ここでvバーはvの平均値である。
Bとbに関しては、式(1.3.5)と式(1.3.6)の比較から
であることがわかる。
(4) 断層パラメター推定法
式(1.3.2)、式(1.3.9)、式(1.3.10)を式(1.3.4)に代入して
が得られる。ここで、vは断層パラメターを推定しようとする地震の断層破壊伝播速度、vバーはaとbとを推定するために記録を解析した地震の破壊伝播速度の平均値である。
断層面上での破壊伝播方向を断層面の走向方向と仮定する。浅い大地震の断層破壊伝播に関する研究結果はこの仮定を支持する[例えば、Kanamori,1970a,b,1971;Abe,1973; kanamori and Ciper,1974]。
S波の射出角をγとすると
である。ここで、φは断層面の長い方の部分上での破壊伝播方向、αは観測点の方位角でともに震央において時計廻りに計る。また、cをS波の見かけ速度とすると、
である。
データがあまり十分ではない現状を考えて、未知のパラメター数を減らすため
および
を仮定する。同じ地域で発生する地震は同じテクトニックな状態の下で発生する事を考えると、式(1.3.14)の仮定は納得出来る。また、大地震の断層破壊伝播速度は1.4から4.0km/sであり[Geller,1976]、S波の見かけ速度が4~5km/sであることから式(1.3.15)も妥当であろう。
遠地で観測された長周期地震波の解析によると、1983年日本海中部地震は主として2つの大地震から構成されており、2つの大地震の間には約10秒間の休止があった[Shimazaki and Mori,1983]。この休止時間を考慮するためにもうひとつの未知パラメターτを追加し、結局、強震動継続時間は
と表現される。Dの観測値と式(1.3.16)による計算値との残差平方和を最小にすることにより[Nakagawa and Oyanagi,1980]、断層パラメターε、l、φ、τを推定できる。
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1.3.2 日本海中部地震への適用
(1) 観測点定数の決定
デジタル化された加速度記録はSMAC-B2型加速度計の理論的な応答特性によって補正し、地動の加速度に変換した。その後、表面波の影響を除くために5~10Hzの帯域通過フィルタをかけ、図-1.3.2に例を示したように強震動継続時間を得た。一般に、同じ地震に関する同じ観測点における水平動2成分の記録から得られた強震動継続時間の値は必ずしも一致しないため、それらの平均値をDとした。
北海道、東北地方において観測点定数を決定するに十分な数の強震記録の得られている6観測点における強震動継続時間と断層長さとの関係を図-1.3.3に示す。
(2) 結果と検討
1983年日本海中部地震に関して、表-1.3.1に示されている港湾技術研究所、弘前大学、電力中央研究所による9観測点における加速度記録の水平動成分を解析した。これらの観測点は震央の回り約130度をカバーしている。9観測点のうち、観測点定数が求められたのは4観測点のみであり、その他の観測点についてはデータが少なくて求められなかった。そのため、図-1.3.3において平均的な傾向を示している釧路(Kushiro-S)観測点における観測点定数を観測点定数の求められていない観測点における値として仮定した。
表-1.3.1に断層パラメター決定に用いたデータが示されている。観測点定数を求めるために用いたデータの断層長さの範囲を考慮してデータに重みを付けた。観測点定数を仮定した観測点についての重みは0.25とした。
最小二乗法によって得られた解が表-1.3.2に示されている。未知パラメター数をなるべく少なくするためにε=0、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5に固定して解を求めた。ε=0.3、0.4、0.5の場合には、初期条件によって異なった解に収束し、安定しなかった。解1~3は断層面の長い方の部分の長さはどれも85kmであり、短い方の部分の長さは0~21kmであることを示している。ε≦0.2の場合に断層面の短い側の長さが不定になることは、本手法にとって避けることの出来ないことである。これを克服するためには、強震動継続時間と共に振幅に関する情報も取り入れた新しい手法を開発する必要があろう。
図-1.3.4に表-1.3.1のデータおよび表-1.3.2の解から計算される0.8(D-b-τ)/aの値を方位角に対してプロットした。これらは断層面の見かけ長さの観測値に相当する。図には式(1.3.16)から計算される理論値が実線で示されているが、両者の一致程度は良い。
ε=0.2の場合の断層面の長さと破壊の伝播方向を図-1.3.5に矢印で示した。図には余震の震央分布および断層モデル[Shimazaki and Mori,1983]も示されているがそれらは調和的である。また、ここで得られた断層破壊の休止時間11秒も、他の研究者による結果[Shimazaki and Mori,1983;Sato,1985]である約10秒と調和的である。
以上に述べたように、断層面上での破壊伝播の影響は近地で観測された強震動継続時間に顕著に現れており、これを利用することによって断層面の長さと破壊伝播方向とを推定できることが確かめられた。また、解析するデータが強震記録であるため、地震発生後非常に短い時間内にこれらの断層パラメターを推定することが可能である。津波伝播に関する数値計算の精度と速度は近年非常に向上しており[Goto and Shuto,1985]、本手法と併せることによって、地震発生後で津波到着前に津波の数値予報を行うことも不可能ではないと思われる[Izutani and Hirasawa,1987a,b]
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1.4 地震断層運動と津波の特性
1.4.1 はじめに
今日の地震学では地震は断層運動としてとらえられ、そのモデルは断層パラメターによって量的に表現される。たとえば、断層面の空間的方位は断層の走向や傾斜角といったパラメターで与えられ、運動の大きさは断層面の大きさや断層面上のすべり量といったパラメターで与えられる。断層運動全体の大きさは地震モーメントまたはモーメント・マグニチュードで表される[たとえば、阿部、1987]。各種の断層パラメターが地震波の観測記録などから決定されるようになったため、地震の大きさに関して精密な定量化が急速に進んだ。
地震の定量化は地震と津波の関係についての研究分野にも強い影響を与えた。たとえば、Abe(1973)などによって津波の観測量と地震の断層モデルとの直接的な関係が実証されて以来、それまで曖昧であった津波の初期水位を断層パラメターから計算された地殻変動量に置き換えて実際的な津波シミュレーションが実行されるようになった[たとえば、Aida,1978]。最近では、津波のエネルギーが断層パラメターから精密に議論されたり、津波の波形記録から断層面上の変位分布が推定されるようになった[Kajiura,1981: 佐竹,1987]。一方、津波の大きさに関する研究にも進展がみられた。津波の規模を表す尺度として、日本では今村(1942)の規模階をもとにしたmスケールが使われている。この尺度はもともと津波のがらの大小広狭の程度を最大遡上高と被害の範囲によって階級分けしたもので、波高のみから決めるとか検潮儀記録から階級を0.5刻みに与えるといった改良が行われてきた[Iida,1958:Iida et al.,1967:羽鳥,1978]。しかし、mは簡便であるものの、地震の大きさとの関連において階級はなじみにくい上に、定義そのものに論理的な厳密さを欠くきらいがある。最近になって国際的に汎用性の高いスケールとして津波マグニチュードMtが導入された[Abe,1979,1981]。Mtは津波の計器観測に基礎をおき、津波の大きさを測るだけでなく、津波を起こした地震の断層運動の大きさにも関連づけられており、実体的意味の明確な量である。
本論では、日本海中部地震津波および日本海の津波について波源での大きさをMtによって明確にし、日本海の津波に共通した特性を明らかにする。さらに、その特性と地震断層運動との関連を発生源の巨視的な全体像という視点から議論する。議論の一部は既にAbe(1985)に公表してある。重要な結論は、「同じ規模の地震であっても日本海に発生した津波は太平洋の津波に比べて約2倍高い」ことであり、「原因は地震断層運動の違いによる」ということである。初めに、Mtを概説する。
1.4.2 Mtの概説
地震の全体としての大きさを表すのにもっとも適当な量は地震モーメントMoである。断層面の面積をS、断層面上の平均のすべり量をD、媒質の剛性率をμとして、これらの量とMoとの間には
の関係がある[Aki,1966]。Moから
によってモーメント・マグニチュードMwが定義される[Kanamori,1977]。ここにMoの単位はdyn・cmである。断層面の差渡しが約100kmを越すような巨大地震の大きさを定量化するといった場合に、広く使用されている通常の地震のマグニチュードは飽和してしまって地震の割に大きくならないのに対して、地震波スペクトルの長周期成分の強さから決められるMwはその様な頭打ちにならない。
MoやMwを決定するには適切な地震計によって記録された地震波の波形を綿密に解析しなければならない。そのような地震記象が利用できるのは近代的な地震計が整備されはじめた1960年頃以降であって、それ以前に起きた地震については地震記象からMoやMwを決定する事が一般に難しい。そのために、Abe(1979)は環太平洋の巨大地震の研究を行うに当たって、長周期波としての性質を持つ津波に着目し、津波から古い時代の巨大地震の大きさを定量化した。定量化を可能にした重要な観測事実は、津波の最大振幅の常用対数が地震のMwに基本的に比例していることである。そこから津波マグニチュードMtが導入された。Mtの定義は
で与えられる。ここに、H(単位m)は検潮儀記録による津波の最大振幅、CとΔCは補正項である。C=9.1としたときのΔCの値は、津波の発生場所と観測地点の組み合わせで与えられる。たとえば、チリで発生した津波を日本で観測すればΔC=0.0、ハワイのホノルルで観測すればΔC=0.2であるといった具合である。Mtの定義に当たって考慮された重要なポイントは、(1)波高を検潮儀という計器観測によって与えること、(2)伝播効果を含めること、(3)Mtを地震のMwに合わせるように補正項を較正することである。この方法によって1837年から1974年の間に起きた65個の巨大地震のMtが決定され、中には地震の大きさに比べて特異な地震津波が存在することも指摘された。
Mtの導入後も検討が進められ、日本周辺を含む北西太平洋の地震津波に適用できるように決定法が改良された[Abe,1981]。重要な改良点は、津波の最大振幅が伝播距離におおむね反比例していることを考慮して、補正項を伝播距離との減衰に関した減衰関数に改めたことである。結果として、地震のマグニチュードの決定式によく似た形式で、
または
が定義された。ここに、H(単位m)は検潮儀による津波の最大片振幅、H2(単位m)は検潮儀による津波の最大両振幅、Δ(単位km)は震央から観測点までの海洋上の最短距離である。片振幅と両振幅の式があるのは津波波高のデータに両者が存在することによる、Δの適用範囲は約100kmから3500kmまでである。この決定方法に従うと、1点の観測値からでもMtが決められるが、複数のデータの使用が望ましい。また、Mtの決定は、検潮儀観測の実施された1890年頃以降に起きた津波に対してしかできないが、計器観測に基づくことを原則とする限りそれは仕方の無いことで、地震マグニチュードの決定の場合と事情は全く同じである。ただし、外国の検潮記録を使用する方法では、太平洋の大津波に限って1830年代まで遡ることが可能である。
太平洋の地震津波についてMtの一般的な性質を次にまとめておく。図-1.4.1は津波観測点と伝播距離の測定例を示す。図-1.4.2はいろいろな大きさの地震津波の最大振幅値と伝播距離の関係を示す。直線はある値のMtに対する関係式である。実測高が地震の大きさによって系統的に違っていることや巨大地震に対して頭打ちにならないことが読み取れる。最大のもの(x印)は1952年11月5日のカムチャッカ地震津波(Mw=9.0、Mt=9.0)の例である。図-1.4.3はMw=8.1~8.3の地震津波の最大振幅値と伝播距離の関係を示す。4例の実測値がMt=8.2の関係式でよく近似されていることが分かる。少し詳しくみると、地震のMwの違いを反映してMw=8.1の実測高は平均としてMt=8.2の関係式よりも小さめである。このことはMtとMwの密接な関係をよく示している。一般に波高は複雑な沿岸地形の影響を受けて必ずしも関係式通りにならないように思われるが、実際にはMtの決定に関する限りその影響は小さいようである。図-1.4.4日本付近の太平洋岸に発生した地震のMtと津波のMwを比べたものである。両者の違いは平均でわずか0.01であり、MtとMwはほぼ同じであるという関係が成り立っている。
Mtは津波で測った地震のマグニチュードであるという見方があるが[都司、1987]、たいていの地震津波に対してそういう関係を示すだけであって、あくまでも波源での津波の大きさを定量化するものである。たとえば、地震のマグニチュードに比べて異常に大きな津波を励起させるような津波地震については、定義通りにMtは地震のマグニチュードよりもはるかに大きな値を示すことが実証されている[Abe,1979,1981]。また、多くのケースに対してMtは海底の鉛直変動の大きさを表現するものといえるが、発生原因の多様性からみて津波のすべてについてそうであると言い切ることはできない。
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1.4.3 日本海中部地震および日本海の地震津波のMt
日本海中部地震(1983年5月26日)とその最大余震(1983年6月21日)の津波の最大振幅値と伝播距離の関係を図-1.4.5に示す。本震の津波の大きさはMt=8.08、余震の津波の大きさはMt=7.32である。一方、本震の津波による浸水高や遡上高の平均として伝播距離に反比例し、かつ同じMtを与えることが梶浦(1986)によって指摘されている。
1894年以降に日本海に発生した地震津波は10例ある(渡辺,1985)。図-1.4.6はMt=7.9の新潟地震(1964年6月16日)およびMt=7.1の秋田県沖地震(1964年5月7日)の例である。これらの他に検潮儀観測からMtが求められたものは秋田県沖地震(1939年5月1日、1964年12月11日)、積丹半島沖地震(1940年8月2日)、留萌沖地震(1947年11月4日)、樺太西方沖地震(1971年9月6日)である。適切なデータが無いためにMtが決められなかったものは丹後地震(1927年3月7日)である。これを除いた9個の地震津波について結果を表-1.4.1にまとめてある。地震の規模を表す量はMwとMsである。Msは外国の地震波観測から決められた表面波マグニチュードである。Mtからみて最大のものはMt=8.1の日本海中部地震津波であり、最小のものはMt=6.5の秋田県沖地震津波である。
9個の地震について津波のMtと地震のMwを比較すると図-1.4.7のようになる。これから得られる重要な事実はMtはMwに密接に関係するものの、Mwより平均で0.2だけ大きいことである。日本海に起きた津波であってもMtは津波のスケールとして合理性を有していることが確かめられたが、系統的な過大評価については、もともと太平洋の地震津波のMtがMwに合うように定義されたという背景からみて興味深いことである。Mtにおいて0.2の過大評価は津波の振幅値が約2倍大きいことに相当する。日本海の津波に共通して見られるMtの過大評価についてその意義を次に検討する。
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1.4.4 日本海の地震津波の特性
太平洋の津波のと対比において日本海の津波のMtが過大評価された。この原因として伝播中の増幅機構の違い、または波源での初期水位の違い、もしくは両者が考えられる。この点を最初に検討する。
波源での津波データとして、波源域の面積So、変位としての平均海面変動量Ho、体積としての平均変動水量Voがある。Soは津波初動の到達時刻と逆伝播図より求められ、Hoは検潮儀による津波の最大振幅に逆伝播図とグリーンの法則を適用して推定される。VoはHoとSoの積として与えられる。表-1.4.1にこれらの値を掲げてある。図-1.4.8に示されているように、日本海の津波のVoは太平洋のものに比べて平均で2.3倍大きく、これをMtに換算すると(log2.3)/1.5=0.2となって、Mtにおける0.2の過大評価と一致する[Abe,1985]。Voの違いは日本海と太平洋の津波の特性の違いを示すが、それが特殊な伝播特性によるのか波源の初期水位によるのかは識別できない。Hoの推定にそれぞれの効果が可能性として含まれているからである。
地震の断層パラメターから海底の鉛直変位を計算し、平均操作によって波源での計算変動量Doを求めることができる[Abe,1973]。計算量Doと観測量Hoはおおまかな量ではあるが、多くの津波に対して両者はほぼ一致することが知られている。このことは、断層モデルを基礎にした津波シミュレーションが相当に良い成果をあげていることと基本的に同じことである。太平洋と日本海の津波のHoとDoの関係を調べると図-1.4.9の結果が得られる。黒丸は太平洋の津波を、白丸は日本海の津波をそれぞれ表す。日本海のうちで最大のものは新潟地震、次に大きなものが日本海中部地震である。結果として、日本海と太平洋に大きな違いはなく、共通してHoとDoはほぼ同じであるといえる。したがって、日本海の津波が太平洋の津波に比べて高いという傾向は伝播特性によるのではなく、波源での初期水位の違いによっていると結論される。
初期水位を違わせた要因は断層運動の特性にある。その一つは、断層運動を起こした媒質の違いである。日本海中部地震や新潟地震の余震分布は断層運動が20kmよりも浅いところで発生したことを示唆する。そのように浅いところで起きた地震に対してMoからDを推定するにはμの値として3~4×10^11dyne/cm^2が仮定される。一方、太平洋の地震の場合は震源域がやや深いために、μの値としてより大きな5~7×10^11dyne/cm^2がしばしば仮定されている。実際にこれらのμの値を用いることによって津波シミュレーションが良い成果をあげていることになる[Aida,1978:Satake,1985]。日本海と太平洋でのμの違いは2倍に近い。式(1.4.1)から分かるように与えられたMoに対してμが小さければその分だけDが大きくなる。したがって、日本海の地震は浅いところで起きたために、媒質の弾性的性質の違いによって、Mwの割にDが大きくなり、そのことが波源での初期水位をより高くしたといえる。仮にμの値を半分の大きさにすると、2倍大きなDになってMtを0.2だけ増加させる。かってBen-Menahem and Rosenman (1972)は一連の研究でμの使用を避けて、DとSの積をもって地震の大きさとして定義した。この量はポテンシー(potency)と呼ばれたが、広く使われるには至らなかった。この表現を用いれば、日本海の地震は太平洋のものに比べ2倍ほど大きなポテンシーをもつために、波源で2倍ほど大きな津波ポテンシャルを有することになる。
津波の初期水位は海底地殻変動の鉛直成分に直接関係するので、断層面上のDの違いばかりでなくその鉛直成分の割合も独立した役割を持つ。平均変動水量Voと断層パラメターの関係は、相当に荒い表現であるが目安として、
で書き表せる。ここに、Moは地震モーメント、μは断層付近の剛性率、δは断層面の傾斜角、λはすべりの方向である。δとλの項は断層面上のすべり量を鉛直成分に直すための近似式である。式から推定されるように、断層面が海底に平行な向き(δ=0°)から傾斜を増やしていけば海底変動の鉛直成分は大きくなるし、すべりが横ずれ(λ=0°)より純粋な縦ずれ(λ=90°)に近いほど変位の鉛直成分は大きい。太平洋の地震の典型はδ=15°、λ<90°であるのに対して、日本海の地震の平均はδ=40°、λ=90°であり、日本海の方がδとλは大きい。羽鳥(1984)はこの効果をVoの違いの説明に適用した。厳密に変位の鉛直成分を求めるには、式(1.4.6)の代わりに食い違いの弾性論に基づいた数値計算が必要である。Kajiura(1981)の計算によれば、これらのδ、λの違いに応じて、同じDであってもその鉛直成分の平均値は最大で2倍位変り得る。したがって、日本海の津波の初期水位を高めた別の要因として、太平洋の地震に比べてより大きな傾斜角をもった断層面上で純粋な逆断層に近い運動が起きたために変位の鉛直成分が大きくなったことがあげられる。
上記の二つの要因に関して具体例を図-1.4.10、表-1.4.2に示す。表-1.4.2のVtは式(1.4.6)にMo、μ、δ、λを与えて単純に計算した理論値であり、観測量Voに比較されるべきものである。一例は、同じMwであるにもかかわらず、Mtに0.5の違いがみられるという新潟地震と宮城県沖地震の比較である(図-1.4.10a)。表-1.4.2に示されているようにMoはほとんど同じであるが、新潟地震の場合のほうがμは小さく、δとλは逆に大きい。これらの違いはVtに6.6/1.5=4.4倍の違いをもたらす。これはMtに換算して0.4の違いに相当し、実際の違いに近い。もう一例は十勝沖地震と日本海中部地震の比較である。十勝沖地震のMoは日本海中部地震のものより3.7倍も大きいにもかかわらず、津波の大きさは図-1.4.10bに示したようにわずかに違うだけである。表-1.4.2に示されているように、日本海中部地震のほうがμは小さく、δとλは逆に大きい。顕著な違いはλにあり、十勝沖地震は大きな横ずれ成分を持つ。これらの断層パラメターの違いが効果的に作用して、二つの地震津波のVtはほとんど同じになってしまい、Mtの値がほぼ同じであることに調和する。
大きな初期水位の原因として、上記以外にSatake(1985)は断層面の形状比の違いに注目している。日本海の地震は断層面の長さの割に幅が狭いために食い違いが太平洋の地震に比べて大きいというものである。単純なモデル計算によればこの効果によって初期水位は1.2倍ほど高められる。さらに、これと同程度の違いは断層面の平均の深さの違いによっても生じうるが、程度は個別の断層パラメターに依存するので一般化は難しい[kajiura,1981]。以上述べたような断層運動の特性に関した要因が総合的に日本海の地震の津波ポテンシャルを高め、結果としてMtはMwよりも系統的に0.2ほど大きくなっていると結論される。
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1.4.5 まとめ
検潮儀による津波の最大振幅から、日本海中部地震津波を含む9個の日本海の地震津波に関して次の特性が明らかにされた。(1)津波のMtは地震のMwよりも平均で0.2大きい。(2)同じMwの地震であっても、波源での平均変動水量Voは太平洋の地震に比べて平均で2.3倍大きい。これらのことから、日本海の津波の一般的な特性として、同じMwの地震であっても太平洋の場合に比べて海岸付近での波高は約2倍高いことが指摘される。さらに、波源での平均海面変動量Hoは断層パラメターからの推定値Doとほぼ同じであることから、地震の大きさの割に日本海の津波は波源でもともと初期水位が約2倍高いと結論される。太平洋の地震津波に比べて高い初期水位が生じる要因として(1)地震が浅いところで起こるために断層面上の変位が大きいこと、(2)断層面の幾何学が海底変動の鉛直成分を大きくさせるような効果を持っていることなどがあげられる。日本海に特徴的な断層運動は、プレートの沈み込み運動が未発達であるという日本海東縁部のテクトニクスに関係しているのかもしれない[中村,1983]。日本海の津波の監視や予測を行うにあたっては、同じ地震規模であっても日本海の地震は太平洋のものよりも効率的に津波を発生させるということに特別の注意を払うべきである。
第2章 海底地盤変動と津波初期波形
2.1 はじめに
日本海沿岸地域に発生する大地震の数は太平洋岸に発生する地震と比較するとかなり少なく、発生する時間間隔も長い。特に東北日本は典型的な島孤-海溝系に位置しており、日本海側の地震発生といえども太平洋プレートが日本海溝から大陸プレートの下に沈み込んでいることと関連していると考えられている。東北日本における構造とプレートの沈み込みを考慮した数値実験によると[里,1980]、応力集中は構造あるいは物質の変化と密接に関係していることが明らかになっている。又計算された応力集中は太平洋側のAseismicフロント下で最も早く0.2bar/yearの割合で進行しており、日本海側の上部地殻においては0.04bar/yearである。太平洋側と比較すると日本海側では応力集中の進行が遅く、これが日本海側の地震の再来周期が太平洋側の地震のそれより長い事に対応する。図-2.1.1[Ishii et al.,1986]の上の図は粘弾性体と東北地方の地殻構造を考慮して100barの力を加えた場合の100年後の応力集中を示している。日本海中部地震の断層面も書き込んである。この図から時間が経過すると上部地殻に応力が集中し、構造の変化しているところに大きな応力集中が起こること及び日本海中部地震は大きな応力集中のところに発生していることがわかる。中段の図は挿入してある図に示されている様に東北地方の北西-南東方向の断面に発生した微小地震の日本海中部地震発生前の一年間の分布と断層面および地殻構造を示している。下段の図は同じ断面における余震の分布を示している。この二つの図を比較すると日本海中部地震発生後余震域から100km以内における微小地震の地震活動が活発になっている。これは日本海中部地震により応力が解放されたため、応力の再分配が生じ微小地震が発生したと考えられる。
今回の日本海中部地震の発生した位置には1964年にマグニチュードが6.9と6.3の地震が発生しており、現在の知識では同じ場所にマグニチュード7.7の地震が発生するとは全く予想出来なかった。
過去に日本海側で発生した津波の最大は1741年に北海道南西沖(渡島半島西方沖)に発生した津波規模階級が3の津波であるとされている。今回の津波も規模階級が3であり日本海側で発生した津波としては最大規模であった。又、この津波は水深が2000mから3000mの比較的深いところで発生しており他の大部分の日本海側の津波が数100mの浅海で発生しているのと比較すると特徴的である。
最近、北米プレートとユーラシアプレートの境界が日本海中部地震発生地域を通っているという説[中村、1983,徳山・末益,1986]があり、新しい海溝の形成が始まっているという考えもある。
以上の様に日本海中部地震及び発生した津波には種々の特徴があり、これを研究することにより、興味ある結果が期待される。
ここでは、第2節において地震の断層モデルに基ずいた海底の地盤変動および断層運動が一様ではなくサブイベントを伴ったものであることを議論する。第3節においては津波の波形から断層運動のすべり量を推定するという新しい試みについて述べる。第4節においては最大余震により発生した津波に関して波源域及び津波の波形について数値実験を実行して調べている。第5節では津波の伝播経路および波高を破線追跡法により簡単に推定する方法について述べている。第6節では今回の津波に見られた特徴及び関連現象について議論している。
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2.2 海底地盤変動と断層運動の不均質性
本節ではまず津波計算の初期条件となる海底地盤変動を地震計に記録された地震波から求める方法について、Satake[1985]による日本海中部地震の解析を例に説明する。次に主に地震波解析によって得られた断層運動の不均質性についての幾つかの研究結果を紹介する。
2.2.1 断層モデルと海底地盤変動
地震計に記録される地震波には地球内部を3次元的に伝播する実体波(P波及びS波)と、地球表面に沿って伝播する表面波(レイリー波及びラブ波)とがある。これらの地震波は震源の運動に関する情報のみならず、震源から観測点までの地球内部構造の情報ももたらす。これらの情報は記録された波の周期(波長)によって異なる。即ち、長波長の波は大きなスケールの情報を持ち、短波長の波は小さなスケールの情報を持つ。従って、まず地震の全体像をとらえるには周期の長い波を用いるのがよい。長波長の波は地球内部構造の小さなスケールの不均質の影響を受けず、また震源が波長に比べて十分小さければ点と見なすことができるからである。
図-2.2.1(a)は日本海中部地震の際に米国カリフォルニアで観測された長周期レイリー波である。横軸は時間(hour)であることに注意。地球表面を大円に沿って伝わってきた波群が次々と観測されている。これらの波の周期はおよそ150~300秒であり、波長にすると700~1500kmにも及ぶ。この地震の震源域はせいぜい100km程度の大きさであるから、これらの波の波長に比べれば十分小さく、点と見なすことができる。
震源を点と見なすことができれば、その点に働く力を地震波から推定することができる。実際には、震源に働く応力テンソルの各成分が一意的に求められる。この力系を図-2.2.2(a)のように表示する。これは点震源の周囲においた仮想的な球面上に震源での力の向きを投影し、さらにその球を水平面上に投影したものである。図の斜線の部分では震源から離れる向きに力が働き、白い部分では震源に向かって力が働いた。図-2.2.1(b)は、この力系から逆に計算した地震波形であるが、観測波形をよく再現していることがわかる。一般に震源での力系は2組の偶力で表せることが多く、またこの2組の偶力は断層運動と等価であることが知られている。図-2.2.2(a)と等価な断層運動の1つは図-2.2.2(b)のようなものである。また、この偶力のモーメントを地震モーメント(Mo)と呼び、これは断層モデルにおいては、断層付近の剛性率(μ)、断層面上のすべり量(D)及び断層の面積(S)との積に対応する。
以上のように、震源に働いた力系については長周期表面波の解析のみから得られるが、これに他の地震学的情報を参考にして断層モデルが作られる。日本海中部地震の場合、余震分布から、断層は途中で折れ曲がっていると考えられ、長さ60km、幅40kmの2枚の断層面からなるモデルが提出されている(図-2.2.3(b))。さらに、断層面上のすべり量は北の断層面上で4m、南で5mであるとされている[Satake,1985]。
この様に断層パラメーターが与えられれば、地上での地盤変動は弾性論に基づいて計算できる[例えば、Mansinha and Smylie,1971]。図-2.2.3(b)はこの断層モデルから計算された地殻変動の様子を示したもので、断層直上では大きく隆起しているのに対し、東部では沈降しているのがわかる。この様な地盤の変動はその空間的な波長(数十km)が水深(数km)に比べて十分大きいので、そのまま海面の変動と考えることができ、これを初期条件として津波が伝播していくのである。
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2.2.2 断層運動の不均質性
地震波の波長が短くなると震源はもはや点とはみなせなくなり、震源域の大きさを考慮する必要がでてくる。断層運動が複雑なものであればそれが地震波形に現れるので、逆に波形を解析することにより震源過程を調べることができる。ここで注意しなければならないのは、前にも述べたように、短周期の地震波は伝播する構造の短波長の不均質の影響をも受けやすいということである。
図-2.2.4に示すのは、震源域に近い弘前で観測された強震記録である。水平動2成分(EW及びNS)に2つの紡錘型のピークがみられる。これは、この地震は短周期の波でみると大きく分けて2つのサブイベントからなっていることを示している。
一般に大きな地震の多くはこの様にいくつかのサブイベントからなる、マルチブルショックであることが知られており、サブイベントの時・空間分布を調べる方法がいくつか提案されている。以下に、日本海中部地震の断層運動の不均質性を調べた幾つかの研究結果を紹介する。
Shimazaki and Mori[1983]は、震源からみて南方と北方に位置する外国の観測点での長周期P波波形の時間的なずれを比較することにより、2つのサブイベントの相対的な位置を推定した(図-2.2.5(a))。図中で白丸は1つめのサブイベントの破壊開始点であり、2つめのサブイベントは約30km北方に位置する。石川他[1984]は、さらに多くの観測点でのP波波形を用いてサブイベントの時・空間分布を求めた。これは断層面を細かく分割して、各々の点震源から発生する波形を求め、観測波形との残差を最小にするようなイベントの時・空間分布を求めるというものである。図-2.2.5(b)にサブイベントの空間分布を示す。断層面の南方での初期破壊(1)の直後にすぐそばで最大のサブイベント(2)が発生し、さらに26秒後に約50km北で2番目に大きいサブイベント(3)が発生している。その他にもいくつかの小さなサブイベントが検出されている。Houston[1986]は、データを増やして同様の結果を得ている。これらはいずれも世界中の観測点で観測された周期10~20秒程度の長周期実体波を用いており、伝播過程の評価には平均的な地球の構造を仮定している。
Sato[1985]は図-2.2.4に示したような強震記録の解析を行った。この波の周期は数秒以下である。震源域の近傍である東北地方北部から北海道南部での記録を用いることによって、伝播する構造の不均質の影響を最小限にしている。その結果、この地震が大きさがほぼ等しい3つのサブイベントからなることを示した(図-2.2.5(c))。Fukuyama and Irikura[1986]はさらに広い地域での強震記録を用い、波形のインバージョンにより、断層面上のサブイベントの分布を求めた。彼らは断層面上で発生した余震からの地震波形をグリーン関数として用いることによって伝播過程の影響を取り除くことを試みている。図-2.2.5(d)に示す様に、断層域の両端でのすべり量が大きい。
以上のように断層運動の不均質性は様々なデータや方法で調べられているが、地震波の種類、周期や解析方法によって、やや異なった結果が得られている。これは、地震波の伝播の影響を完全に評価できていないため、その不確定さが、推定した断層運動にも混入したためであろう。
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2.3 津波波形のインバージョンによる断層面上のすべり量の推定
前節で述べたように、観測される地震波には震源のみならず、伝播経路や地震計の影響が含まれている。断層運動の不均質性を調べるには、波長の短い波を用いる必要があるが、短波長になると同時に構造の不均質の影響も受けやすくなる。地球の3次元的内部構造は、やっと最近調べられ始めたところで、伝播経路の影響を精度よく評価するまでには至っていない。
本節では、断層運動の不均質性を津波波形から調べることを試みる。津波の場合、地震計に対応するのは検潮儀であり、検潮記録をデータとして用いる。検潮記録には地震記録と同様に、波源、伝播経路(外洋及び港湾)及び検潮井戸の影響などが含まれる(図-2.3.1)。ところが津波の場合、線形長波を仮定すれば、その伝播速度は√gh(hは水深)で表され、水深のみに依存する。水深は地震波の速度構造に比べればはるかによく知られている物理量であり、また実際の地形に対して数値計算を行うことによりその伝播過程を正確に評価できる。検潮井戸の津波に対する応答はこれまでよく知られていなかったが、本研究の一環として調べられた(第3章参照)ので、検潮記録に含まれる未知量は波源に関するものだけとなり、逆に検潮記録から波源に関する情報を引き出すことができる。
地震波と津波の違いをもう少し見てみよう。図-2.3.2は横軸に距離、縦軸に時間を取った、いわゆる走時表である。いま、典型的なM7クラスの地震として、断層長さ100km、破壊の継続時間30秒の地震を考えてみる。図にはこの断層上の時・空間的に異なる3ヶ所から出た地震波及び津波の相の走時を描いてある。相1,2は断層の端にある震源から、破壊の始まった時及び終了したときに出た波、相3は破壊の開始時に断層の反対側の端から出た波である。地震波の場合には伝播速度が破壊の伝播速度よりやや速いので、相1と2の到着時間差は2と3の時間差よりも大きい。即ち、地震波を使えば、震源域での断層運動の時間的分解能の方が空間的分解能よりもよい。一方、津波の場合、伝播速度が地震波や破壊伝播速度に比べてずっと小さいので、相3は相1、2よりもずっと遅れて到着する。即ち、津波を使えば、震源域の時間的分解能よりも空間的分解能の方がずっとよい。さらに現状では、験潮記録の時間的分解能はせいぜい1分程度であるから、断層運動の時間的変動を調べるのは難しい。以上の考察から、津波を用いることによって、断層面上の最終すべり量分布のみが調べられることがわかる。
そこで、断層面をいくつかのブロックに細分化して、各々が単位量だけすべったときの地殻変動を求め、これを初期条件として実際の地形について差分法で津波の伝播を計算する。各験潮所に対応する点での波形を計算しグリーン関数とする。i番目の検潮所における、断層面上のj番目のブロックからのグリーン関数をAij(t)とすれば、観測波形bj(t)は各グリーン関数を各ブロックのすべり量xjを重みとして足したものであるから、
と書ける。これは、連立一次方程式であって、マトリクスで表せば表-2.3.3のようになる。時間軸上の各点がデータ1つ1つに対応するので、1ヶ所の検潮記録から数多くのデータが得られる。(2.3.1)は線形であるから容易に解け、各ブロック上でのすべり量xj、即ち断層面上の不均質が求められる。
グリーン関数の計算は、図-2.3.4に示した範囲内の地形データを2.5km格子で与えて、線形長波の式と運動方程式を差分化して行った。8ヶ所の検潮所(図中黒い三角形)の近傍では格子を最小625mまで徐々に細かくした。
まず、今回の方法による断層面上の不均質の分解能を知るために数値実験を行った。Satake[1985]による断層モデル(前節参照)を入力値として、これを初期条件として計算される津波波形をデータと考え、インバージョンを行った。図-2.3.5のように断層面を2等分(これは入力値と同じ)、4等分、6等分して、各々の場合に対してすべり量分布を求めた。その結果、2等分および4等分の場合は誤差5%以内で初期値と一致する解が得られる。6等分すると解は不安定となり、もはや初期値は得られないことがわかった。これは、グリーン関数を計算する際の数値分散及び検潮記録の時間分解能(1分)による制限であると考えられる。いずれにせよ、現在の水深データと検潮記録を使う限り、断層運動の不均質の分解能は断層面の長さの1/4、即ち30km程度である。
日本海中部地震の実際のデータに対して、断層面を4分割したブロック上のすべり量分布を求めたのが図-2.3.6である。8ヶ所における検潮記録を1分毎に数値化し、計283個のデータを用いた。断層面上のすべり量は、北から3番目のブロックで約3m、他の3つでは約2mと求められた。観測波形と計算波形との残差二乗和は21.2cmである。なお、図には求めたパラメーターの誤差行列及び相関行列も示した。誤差行列の対角及び非対角成分がそれぞれパラメータ推定値の分散及び共分散を示し、相関行列の成分は共分散を分散で正規化した相関関数を表す。図を見ると、4つのブロックのすべり量の推定値間の相関は最大で0.66であることがわかる。
図-2.3.7に、得られたモデルから計算した合成波形と観測波形の比較を示す。全体としてよく一致している。波形全体を使ったインバージョンにより得られたすべり量は、津波波形の最大振幅のみから決めたSatake[1985]のモデルよりかなり小さい。津波波形から計算される地震モーメントは4.2×10^27dyne-cmとなり、これもSatake[1985]による7.6×10^27dyne-cmよりかなり小さい。この違いは津波波形全体を使ったためと考えられる。同様の差異は1968年十勝沖地震に対しても見られる[佐竹,1988]。
図-2.3.6に破線で示したのは、検潮記録に対して検潮井戸の補正を施さないデータを用いた場合のすべり量分布である。補正を施さないと、すべり量はさらに小さく求められており、検潮井戸の応答の補正が重要であることを示している。
津波波形のインバージョンから推定されるすべり量最大のブロックは、震源のすぐ北に位置する。これは、前節で紹介した、長周期の実体波から推定される最大のサブイベントの位置と一致する。従って、日本海中部地震の断層運動が均質のものではなく、断層面上のすべり量が震源のすぐ北で最大であったことは、地震波からも津波からも確認された。
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2.4 津波から推定される最大余震の断層モデル
2.4.1 逆伝ぱん図法による波源域の再検討
日本海中部地震の本震後に発生した余震の中で最大の余震であった、1983年6月21日15時25分の余震は、小規模の津波を発生させた。この津波の波源域は羽鳥(1984)によって決定されているが、その結果によると渡島大島を北限とし、渡島小島を東限とする楕円で、長軸の長さは東西60km、短軸の長さは南北40kmである。ところが、この波源域はその最大余震の余震域と一部分が重複するだけで、大部分は重複しない。津波は断層による地表面変位が原因で生ずるので、波源域は断層面と一致するか、またはそれより一回り大きく似た形を取ると考えられる。実際、本震による津波波源域はそのような形をしている[Abe and Ishii,1987]。このような観点で、最大余震の余震域と、羽鳥(1984)による津波波源域を比較すると離れ過ぎている。そこで改めて津波初動の到達時刻を読みなおし、逆伝ぱん図法によって津波波源域を再決定した。海上保安庁水路部発行の100万分の1海底地形図上に2分おきに作図して得た結果が図-2.4.1である。その結果、波源域に近い吉岡、三厩の出発波面は西に移動させたほうが良いことが判り、波源域は余震域に一致することが確認された。男鹿、内浦、秋田の出発波面が波源域内又は反対側のはじにでることは、これらの各点が回折波を第一波として受けたことと関係がある。それだけ変位量が小さかったとも言える。
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2.4.2 数値実験
次にここでえられた波源域に対して適当な断層モデルを仮定し、それによる地表面変位の垂直成分を初期水面変位と見なして、水面変位の時間変化にかんする数値実験を行った。使用した波動方程式は、線形2次元で海底摩擦を無視したものである。差分式になおしたものをleap-frog法により、コンピューターを使って解く。境界条件は海岸に垂直方向には完全反射、計算を打ち切る海側の端では透過するとする。計算の時間間隔は10秒、格子間隔は500mである。計算を行った領域は、波源域をほぼ中央に含み、北は、奥尻島北方50kmから、南は酒田までを含む南北425km、東西355kmの矩形域である。この地域について前述の海底地形図から、digitizerを使って等水深線の座標を読み取り、コンピューターを介して格子空間に水深値を配分する。読み込みに使った等水深線は0mから3500mまで、500m間隔で8種類と、200mの合計9種類である。ただし陸奥湾は省略し簡単化した。計算の対象としたのは、地震発生から2時間で、この間の水位の時間変化を検潮所格子点上で求めると同時に、特定の時間断面で全領域の水位分布を求めた。
2.4.3 断層モデルと津波の関係
さきの逆伝ぱん図法によってもとめた波源域及び羽鳥(1984)による波源域に断層をあてはめて作ったモデルと、地震波によってえられたモデルを引合いに出して観測された検潮記録との比較を行った。Dziewonski A.M.,J.E.Franzen and J.H.Woodhouse[1983]はCentroid moment tensor法によって、この最大余震の断層モデルを求めた。それによると地震モーメントは1.9×10^26dyne.cm、断層の走向はN23.E、傾斜角の1つは45・Eで縦ずれ断層である。東北大、弘前大(1984)は彼らの観測網によるデータに基ずいて、走向はN15・E 、傾斜角の1つは45・Eで縦ずれ断層であるとした。これらの地震波によるモデルのうち、前述のDziewonski et al.[1983]によるものをモデルIV、東北大、弘前大[1984]によるものをモデルIIIとした。次に津波波源域に仮定するモデルであるが、一つは走向はN60・E、傾斜角は45・Eのモデル(モデルII)、もう一つは走向はN60・E、傾斜角は30・Eのモデル(モデルI)である。さらに羽鳥(1984)による波源域に合うような走向はN85・E、傾斜角は30・Eのモデル(モデルV)である。モデル断層面の大きさはいずれも30×23km^2で転位量は0.8mである。剛性率を3.5×10^11dyne・cm^2とすると、地震モーメントは1.9×10^26dyne・cmになる。断層面の深さは地表面に最も近い点でモデルVが5kmのほかは全て1kmと仮定した。各々のモデルの位置は図-2.4.2に示す通りであり、使用したパラメータは表-2.4.1に示してある。
これらのモデルによる変位場を水位に対する初期条件として、水位の時間変化を追跡し6ヶ所の検潮所で観測された時間変化と比較した。観測と計算の両波形に対して、初動ピークの到達時刻の差、つまり走時残差(0-C)に注目し、各観測点ごとにこれを求めた。
ピークの位置が不確かな所を1ヶ所(FUNAKAWA)除外した。(図-2.4.3)各モデルについてその走時残差の2乗平均を取ると、モデルIからVまで順に78、107、118、105、130秒になる。その結果から見ると、モデルIが最も小さく、モデルVが最も大きい。こうして数値実験の結果からみても再決定された波源域はより良く津波波形を説明できる事が判る。最良のモデルIを図-2.4.1に、それをもとにして計算した結果を観測と比較したものを図-2.4.5に示す。この津波の卓越周期が7分と小さかったことは、波源域が小さかったことと調和する。
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2.5 波線追跡法による津波伝播の詳細と波高
津波の伝播及び波形の計算には差分法が一般的に用いられるが、これにはある程度大容量のメモリー、高速の演算機能が要求される。スーパーコンピューターが普及した今日では、これはそれほど困難ではないけれども[例えば、今村・後藤・首藤、1987]まだどこでも手軽にというわけにはいかない。本節では差分法よりも簡便な手法として破線追跡法による津波伝播の計算について述べる。日本海中部地震に対しての波線追跡はすでに行われている[例えば、土屋他、1984]が、ここではさらに到着時間及び最大振幅の推定をも試みる。太平洋全域についての波線追跡の結果はWoods and Okal[1987]及びSatake[1988]に示されている。
波線追跡法の最大の長所は、短い時間で波線を追跡できることである。水深の変化による波線の屈折現象を見ることができ、波線の粗密から相対的な振幅を推定できる。一方、反射波を評価できない、波源から見て島などの陰には波が到達しない部分ができる、等の欠点もある。
波線追跡は本質的に短波長近似であるから、速度の不均質に対して十分に短い波長の波の伝播を表す。ここで扱う大地震からの津波は数十km程度の波長を持つものであるから、さらに長波長の速度構造の変化が津波の伝播に影響する。そこで、海底地形は0.1°格子で与えた後に1°ずつのスムージングを施し、短波長成分を除去した。
長い伝播距離にも耐えるように、曲座標での波線追跡の式を用いた。即ち、
ここで、θとφはそれぞれ時刻Tにおける波線の余緯度と経度、nはその位置でのslowness(速度の逆数)、Rは地球半径、そしてζは南から反時計回りに計った波の射出方向である。上の3式をルンゲ・クッタ・ジル法で数値積分した。積分の時間刻みは1分毎とし、波線が浅部(水深10m)に達したら陸に到着したと見なして、計算を終了する。
図-2.5.1に日本海中部地震及び1940年の積丹半島沖地震(M7.5)に対する波線追跡の結果を示す。波源から方位1°毎に波を射出させた。波線は日本海中央部の大和堆付近で強く屈折している。その結果、能登半島、隠岐諸島、朝鮮半島北部、沿海州の一部に波線が集中している。
大地震の波源域は数十km程度の大きさを持っているのに対して、波線追跡では一点から波を射出している。この点源の仮定の影響を見るために、日本海中部地震の波源域の北、南、及び東端に点源を置いて波線追跡をしたものが図-2.5.2である。波源域から日本海に出る波線は波源域北端の場合に最も多く、南端、東端の場合は近くの陸地へ向かう波線が多い。しかし、全体的なパターン及び地形の影響は3つともそれほど変わらず、この地震に関しては点源の仮定がそれほど無理なものではないことがわかる。また、これらの図は差分法によって更に精密な計算をする際の計算領域の決定にも使える。例えば、能登半島での津波波形を差分法で計算する場合、能登半島には北西方向からも波が到達しているので、少し西まで計算領域を広げる必要がある。
次に、波線追跡を用いて津波の到着時刻及び波高を推定する。到着時刻は、観測点の最も近くで停止した波の伝播時間を求めればよい。振幅の推定の簡便な方法として、グリーンの法則が用いられることがある。これは
ここでbはとなりの波線との間の距離、hは水深、そしてHが津波波高であり、添え字の0、1はそれぞれ波源および観測点を表す。となりの波線との間の距離は波線密度ρrayを用いて表す。これは実際の地形について波線追跡をしたときの波線の数を、一様水深の海に対して波線追跡をしたときの波線の数で割った値である。実際には海岸線に沿ってある程度の長さを取り、その中に到達した波の数を比べる。波線密度を用いると、グリーンの法則は次のように書ける。
ここでΔは波源と観測点との距離、Δ0は波源の大きさである。
図-2.5.3に波線追跡に基づいて推定した振幅及び到着時刻を観測値とともに示す。到着時間及び最大振幅とも、ほとんどの観測点でよく一致している。到着時間は水深データの粗さのために精度上の問題点はあるが、全体の傾向は良く再現している。波高についても能登半島の輪島、韓国東岸の束草(Sokcho)、ソ連沿海州のRudnaya Pristanで大きく、直江津やVladivostokで小さいといった地域差が再現されている。到着時間、振幅共に大まかなパターンは短時間のうちに簡単に予測できることから、波線追跡法は実際の警報システムなどに有用であると思われる。
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2.6 津波の特徴と関連事象
2.6.1 島津波
(1)海岸距離による減衰と島での水位
奥尻島に被害をもたらしたことからも判るように、この津波は島に高い波をもたらした。このことをみるために本州の海岸距離にたいして本州と島の両方における水位の変化をみたものが図-2.6.1.1である[Abe and Ishii,1987]。図中には男鹿と松前の両半島を含む島の水位が、能代付近の震央に最も近い海岸からの距離に対して示してある。これより松前半島、粟島、佐渡島、奥尻島では、同一距離の本州海岸の水位に比べ2-5倍高かったことが判る。一方、男鹿半島では水位は低くなっている。この相違は島の大きさと伝ぱん距離の違いによると考えられる。島での高い水位は、津波に含まれている短波長成分が選択的に島に向かって屈折したためである。実際、島の検潮所で観測された津波は7-8分の短周期波から成り立っている[梶浦,1984]。
(2)入射波の周期と島内水位分布の関係
奥尻島の場合
最も高い水位の観測された点は、南端の青苗岬の付け根から1km程北西の地点でT.P値上7.0mである。西岸では水位は波状に変化し3.7-7.0mであるが、東岸では青苗岬の付け根の部分で6.5mを記録したのが最高で、北にいくほど波状に減衰する。東岸の北端では、1.1mで最も低い。このことから、津波の来襲方向は真南より西よりの方向が考えられる。そこで入射方位をN163Wと仮定して、正弦平面波が入射したとして、島の周囲での振幅分布を有限要素法で求める。振動数は1×10^-3Hzずつ0から20×10^-3まで変化させる[Abe,1986a]。各振動数に対して、観測された最大水位とそれに対応する点での計算最大水位を対比させ、全観測点のデータについて相関係数を計算する。相関係数の振動数による変化をみると1.5×10^-3Hzのとき最大値0.83を得る。
粟島の場合
粟島は北北東から南南西にのびる細長い形をしているが、島の西北西側では2.3-3.2m、東南東側でyは0.9-1.4mと約2倍の違いが生じた。来襲方向では反対方向の2倍の水位になる。さらに詳細にみると、入射する側での最大値、反対側での最小値は中心付近に現れる傾向にある。このことは島の中心に向かって、津波が屈折し水位を高めたことを意味する。粟島についても奥尻島同様、有限要素法を使って正弦平面波入射にたいする振幅分布を計算した。入射方位をN69Wと仮定し、入射波の振動数を20×10^-3Hzまで1×10^-3Hzごとに変化させ、各々の振動数に対して観測水位と計算水位を対比させ、全データ間の相関係数を計算する。相関係数の最大値は1.4×10^-3Hzのときで0.90である。
このように数値実験の結果が両島で近接する振動数1.4-1.5×10^-3Hzにたいして高い相関係数を示したことは注目すべき事である。この振動数の波は波源で生じたとすると理解しやすい。後述の初動の卓越周期がこの程度であったことはこの推察が正しいことを裏ずける。
(3)島における最大水位分布の特徴
島において波源方向に突出した海岸が存在すると、突出部ないしはその付け根部分に水位の最大値が現れることが確認された。奥尻島、粟島、男鹿半島の他、佐渡島[早川,1984]でもこの傾向が認められる。この事から波源に向かって突出した地形が波を屈折させて振幅を増加させていることが判る。そこで振幅の増加と島の大きさの関係をみるために、横軸に島の代表的長さDと波源域の短軸の長さλs(62.5km)との比をとり、縦軸には水位の最大値と最小値の比を取ってプロットする。それが図-2.6.1.2である。図は水位の比が島の大きさとともに増加することを示している。なおこの図には他に首藤[1984]による隠岐島、飛島の測定値も取り入れてある。
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2.6.2 エッジウェーブの発達
津波時に陸棚に沿って伝わるエッジウェーブが発達することは、指摘されてきた。特に千島、カムチャッカ起源の津波は東北日本太平洋岸にエッジウェーブをもたらしてい[Hatori and Takahashi,1964]。[Abe and Ishii,1983]。日本海中部地震津波の際に新潟県沿岸部で、最大振幅波が一定の速度で伝ぱんした現象は、エッジウェーブの発達の結果であると考えられた。エッジウェーブは群速度極小の波なので、それに先行してより短周期の波とより長周期の波の重複波が存在する。岩船、新潟東、西港、内野、寺泊、柏崎、直江津の各験潮所の検潮記録から最大振幅波が速度16.8m/sで伝ぱんしていることが確認された[Abe and Ishii,1987]。それを図-2.6.2.1に示す。この速度は新潟県沿岸の平均的陸棚断面のモデルに対して計算される極小群速度値16.6m/sとほぼ一致し、それに対応する周期25分は観測された値と一致する。図-2.6.2.2はIshii and Abe[1980]の方法で求めた分散曲線である。図中のパラメーターは彼らの定義によるものと同一である。この図から最小群速度16.6m/sが周期25分に対して得られる。
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2.6.3 津波の河川遡上
(1)水位分布
津波の河川遡上を5大河川について調べた。調べた河川は北から米代川、雄物川、最上川、阿賀野川及び信濃川である。最大水位を河口から上流の最遠到達点迄測定し、測定時の水面の海抜高さを推定し、加えてT.P値(東京湾中等潮位上の値)に換算した[Abe,1986b]。その結果を図-2.6.3に示す。この結果から、上流で大量の取水を行っている場合(雄物川、最上川)を除き、最遠到達点での水位は河口水位と等しいことがあきらかにされた。こうしてこれらの河川では上流13-14km地点まで津波が遡上したことが明らかになった。水位分布は米代川の例に典型的に見られるように、遡上距離の中間の地点が最も水位が高い、いわゆる両端固定の弦の振動の振幅分布と類似した形となった。遡上最遠点と河口では振幅最小なので、流速は最大になっていると考えられる。この結果は阿賀野川などの上流と下流の両方に水位観測点のある河川で求めた伝ぱん速度から計算した周期80分と水位の時間変化における周期とが一致することが確認された。
米代川以外の河川では水位の極大が遡上距離の中間に現れる以外はさらに河口側に現れた。その極大点の河口距離はより短いことから、その極大はより短い周期の波によって実現されたと考えられる。この第2の極大は米代川ではみられないことから、波源からでた波が米代川河口又は陸棚境界で反射してできたものであろう。
(2)河川遡上の原動力
前述の阿賀野川連続水位観測結果によると河口距離14km地点で周期80分の波が3波来襲している。この周期は陸棚のモデルに基ずいて計算された固有周期と一致する[Abe, 1986b]。この事から、河川における津波の往復運動は陸棚振動という外力による強制振動であると言える。もっと河口距離の短い地点では、短い周期の波もこれに混じって観測されるが、それは短い河口距離地点で反射して遠くまでは遡上しない。周期の長い波は遠くまで伝わり、周期の短い波は近くで折り返す。河口に入射する段階でどれだけ長い周期の波を含むかによって、遡上距離が決まるのである。こうして今回の津波の遡上に最も寄与したものは陸棚振動であったことが結論ずけられる。
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2.6.4 初動周期と波源域の大きさ
津波の初動は波源から来る直接波であるから、初動には波源の物理的性質が反映される。1983年日本海中部地震津波の検潮記録の第一波、第二波、第三波について、周期と振幅のヒストグラムを作ると、初動部分の卓越周期を知ることができる。その結果を図-2.6.4にしめす。
[Abe and Ishii,1987]。図中のTl、Tsは波源域の長軸の長さをλl、短軸の長さをλsとして、
と表される。ここでhは波源域の平均的深さである。このことから初動3波の卓越周期は長軸方向で励起される最大周期Tlと、短軸方向で励起される最小周期Tsとをそれぞれ上限及び下限とする中間の周期であることが判る。波源域の長軸の長さλlを170km、短軸の長さλsを65km、平均的深さhを2000mとして、Tl及びTsは20.2分及び7.4分である。これより初動卓越周期は波源域の大きさに比例し、水深の平方根に反比例すると言える。
この関係を1964年新潟地震津波に当てはめる時、Tl、Tsはそれぞれ51、16分になる。これも観測された卓越周期の上限と下限に対応している(図-2.6.4.2)。これを先の日本海中部地震津波と比較すると、新潟地震の波源域は長軸95km、短軸30kmとどちらも小さいにもかかわらず、水深が100mと小さいためTl、Tsともに大きくなっている。従って波源域の大きさの相違よりも水深の相違が大きく影響している。このことから水深の卓越周期に及ぼす影響の大きさを指摘できる。
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2.7 まとめ
この章においては日本海中部地震を発生させた海底地盤変動、津波の波形及び津波に関連した現象について述べているが内容は次の様にまとめられる。
1.日本海中部地震の断層モデルによる海底の地盤変動が計算された。
2.断層運動は単純な一様運動ではなく、いくつかのサブイベントからなる不均質な運動である。
3.観測されたは津波波形から断層面のすべり量を求める方法を開発し、すべり量の分布を求めた。
4.津波の伝播経路及び振幅を簡便に見積るために波線追跡法を適用し、警報システムへの応用も可能であることが明らかになった。
5.日本海中部地震の最大余震により発生した津波に関して、数値実験により波源域、断層モデルが求められた。
6.島に到達する津波の波高には異常に高い水位が観測されるところがあるがこれは短波長成分が選択的に島に向かって屈折したことにより生じたものである。
7.いくつかの観測点にエッジウェーブが到達していることが確かめられた。
8.河川を遡上した津波の特徴が調べられ、最遠到達点での水位は河口水位と等しいことが明らかになった。又遡上に最も寄与しているのは陸棚振動であることがわかった。
9.日本海中部地震津波と新潟地震津波の比較により、初動の卓越周期は波源域の大きさに比例し、水深の平方根に反比例することが明らかになった。
第3章 検潮井戸の応答特性
3.1 はじめに
日本海中部地震(1983.5.26)では、震源地に近い海岸に3~10数mの大津波が押し寄せ、大きな災害をもたらした。この津波は、沿海州や朝鮮半島を含め、日本海沿岸各地で検潮儀により記録されたが、その高さは2m程度かそれ以下であり、多くの所で目視や痕跡から得た遡上高よりかなり低い。特に、大きな津波が襲来した港湾では、その差が著しく、マスコミを通じて報道された検潮儀の観測値に数々の疑問が出された。例えば、深浦港では4m弱の高さが目撃されているが、検潮儀で観測された値は55cmにすぎない。このような実態との大きなずれは、関係機関や津波研究者だけでなく、社会的にも問題となり大きな関心が寄せられた。
潮位観測装置としての応答特性は、検潮井戸と導水管による水理フィルターによってほとんど決まるが、関係者によって古くから興味が持たれ、種々の調査が行われている。関口・川崎[1926a,b]は導水管の代わりにゴム管を用いて、海水を通した時の摩擦や流入・流出の効果を調べている。潮位変動に対する応答を模型実験によって確かめること[川崎,1927b,Noye,1974a,b]や、検潮所で井戸内外の水位を測定し、導水管の効果を調べる試み[例えば、川崎、1927a、佐藤,1972]も行われている。また、Kajiura(1983)は北海道から三陸沿岸を襲った大きな津波の遡上高と検潮儀の記録を調べ、外海の0.25~1.0倍(平均は0.5倍)に減衰していたことを指摘した。一方、水理学的な研究も多くあるが、導水管内の水の慣性を重視し、線型応答を考察したもの[森安,1968,Noye,1974b]と、流入・流出の効果を重視して非線形な応答を調べたもの[例えば,Cross,1968,Loomis,1983]がある。非線形応答では、水位差の平方根に比例して海水が出入するが、その典型は導水管を持たない検潮井戸(導水口型)で見られる。その場合でも単純な正弦波の入力に対する周波数特性が計算されている[Noye,1974aほか]。非線形応答の場合は、大きな波浪があると、井戸内外の平均潮位に差が生じることが指摘されている。
これまでの研究では理論や実験による考察が主であり、観測に使用する検潮井戸の応答特性の実態についてはほとんど調べられていない。日本海中部地震津波のあと、各検潮所の構造から津波に対する応答特性を水理学的に推定し、いくつかの検潮所では津波振幅の減衰が構造から予想した値よりかなり大きなことが示された[村上,1983]。また、検潮井戸から水を汲み出し、その後の水位回復の状況から応答特性を測定すること[岡田・網野,1984,Okada,1985]も実施されたが、本格的な実態調査は本研究が最初である。
験潮儀は津波観測の測器として世界的に最も一般的に利用されており、その応用特性を明らかにすることは、津波を観測するうえで重要である。また、津波の発生・伝播などの研究で行う数値実験の結果を観測記録と比較するためにも必要となってくる。今回の調査で筆者らは、関係機関の協力を得て、できるだけ多くの検潮所について現地で測定することに努めた。その結果、日本海中部地震津波が観測された検潮所だけでなく、太平洋沿岸の主な検潮所を含め、これまでに41か所について応答特性を求めることができた。成果の概要は既に学会講演(阿部・岡田・佐竹,1986,佐竹・岡田・阿部,1988)や論文(Satake,Okada and Abe,1988)として発表しているが、ここでは検潮儀による津波観測、応答特性調査の詳細、検潮井戸の応答特性の補正などについて報告する。
なお、潮汐を観測する施設の名称は所管する機関によって異なり、検潮所、験潮所、験潮場、量水標、水位観測所などいろいろな呼び方がある。また、測器も検潮儀、検潮器、験潮儀、験潮器、水位計など種々の名称がある。ここでは検潮所、検潮儀を原則として使用する。
3.2 検潮儀による津波観測
検潮儀による潮汐観測は、全国各地約500か所で実施されており、比較的少数のデジタル記録方式のものを除けば、潮位変動を連続的に自動記録している。基本的な構造は、汀線や岸壁近くに井戸を掘り、導水管で外海と通じて、外海の潮位変化につれて井戸内の水位が上下するようになっているものである[図-3.2.1]。導水管の作用によって周囲の短い波浪を除き、長周期の海洋潮汐を記録するようになっている。検潮井戸の上に台を建て、その上に検潮儀を置く。検潮儀のプーリーに巻いたワイヤーの端を水面に浮かべた浮きにつなげ、プーリーに連結した部分に逆向きに巻いたワイヤーがあり、バランスウェイトが付いている[図-3.2.2]。このウエイトによって、浮きを吊るすワイヤーに一定の張力が与えられている。検潮儀の応答には、浮きの応答、ワイヤーのゆるみの効果なども含まれるが、経験的にみてこれらは井戸内の水位変動に対して1~3秒の遅れを生じる程度である。井戸の水面に流れや著しい波がない限り、津波に対する応答特性を調べる際は、導水管と検潮井戸の効果だけを考慮すればよい。
検潮儀は海洋潮汐を観測することを主要な目的としており、中間的な周期を持つ津波を観測する測器としては、その応答特性が余り考慮されていないし、紙送りが20mm/hourと遅過ぎる。また、大きな地震動があるとワイヤーが揺れて故障したり、大津波でスケールアウトすると障害が生じる。そのような問題を残しながらも、観測点の数が非常に多く、日常的に保守が行われ、連続的に観測していることから、不意に到来する津波でも着実に観測できる。このため、調査研究の資料として検潮記録が最もよく用いられている。
日本海中部地震津波のように大きな災害が発生すると、多くの機関によって各地の被害や津波の高さなどが精力的に調査される。このような現地調査は津波の実態を把握するうえで重要であるが、大多数の津波は顕著な被害を伴わず、現地調査は行われていない。
津波観測を主目的とした装置「津波計」は何種類か考案され、いくつか実用化されている。気象庁の海底地震計システム[気象研究所,1980,1982,藤沢・立山・舟崎,1986]には、水晶振動子を用いた水圧計(津波計)が東海系で1か所、房総系で3か所併設され、津波監視のために東京までテレメータシステムで送信されている。東京大学地震研究所の津波観測所(宮城江ノ島と伊豆大島)では水理フィルターを用いた震研IV型津波計[相田,1962],およびディジタル圧力変換器を利用したERI-V型津波計[相田他,1981]が稼動している。気象庁のものは深海底で、震研のものは海岸近くの浅い所で使用されている。ソ連ではシコタン島沖の海底に津波計(水圧計)を設置し、陸上まで送信している。米国では海岸近くで使用する安価な津波計の開発が進められている[Curtis,1986]。これらの装置は検潮儀と比べ津波観測用としては大変優れているが、これまでのところ観測点が極めて限られており、顕著な津波を観測した例は少ない。
沿岸で波浪を観測するために、水深20~50mの海底に設置されている波浪計は、日本沿岸だけでも数10か所ある。海底から超音波を出し、海面で反射して戻ってくるまでの時間から海面変動を検出する超音波式のものが多いが、サンプリングが毎秒数回にも達し、津波波形をほぼ完全に観測することが可能である。設置場所も港外にあり、海岸で変形する前の波形がスケールアウトすることなく得られるので好都合である。しかし、通常は2~3時間に1回(10分~20分)観測するだけであり、不意に襲来する津波観測用としては使用しずらい。
津波がまれにしか起こらないことから、津波計を多数設置したり、波浪計を連続運転することは、経費、保守の面から容易に実現できそうでない。一方、従来からある検潮儀は津波波形を最も着実に観測できる手段であり、その資料は今後とも津波の調査・研究に欠くことができないだであろう。
検潮記録を収集・解析するためには、各検潮所の場所、検潮儀の特性(縮率、紙送りの速さ)、潮位観測基準面などを知る必要がある。それらをまとめたものに全国験潮場一覧[海岸昇降検知センター,1977]があり、地殻変動を監視するために同センターに登録されている105か所の検潮所については、その詳細な位置を示す図が登録験潮場位置図[海岸昇降検知センター,1980]としてまとめられている。津波記録や施設の状況は"一覧"に載っているそれぞれの観測機関に問い合わせればよいが、戦前・戦中の記録を収集することは、記録の消失、観測機関の組織改変などのために難しい。昭和初期までに建設された132か所の検潮所について1928年に海洋気象台で調査しており、その資料が神戸海洋気象台に残っている[岡田,1978]。当時どこで潮汐観測が行われていたかは、これを見れば一応わかる。
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3.3 検潮井戸の応答特性調査と考察
3.3.1 水理学的考察
検潮所の構造、特に導水管にはいろいうろな型のものが使用されているか、はじめに円筒形の井戸と真直な円筒形導水管1本を持つ基本的な型について考察する。図-3.3.1に示すように、井戸の内径をDu、導水管の長さと内径をL,Dp、井戸外の潮位をH、井戸内の水位をhとする。導水管内の平均流速をuとすると、連続の式は
となる。いま流速の変化(du/dt)が小さいとして無視すれば、水位差(H-h)は、導水管への流入による損失水頭he、管内の摩擦による損失水頭hf、および流出による損失水頭hexの和に等しく、
となる。ここで、
である。gは重力加速度、流入損失係数fe、摩擦損失係数f,流失損失係数fexは導水管の形状や材料によって異なるが、両端に角端をもつ円管であるとすれば、水理学の公式[例えば,水理公式集(土木学会,1971)]から
である。ここで、nはManning(またはKutter)の粗度係数で、導水管としてよく用いられるヒューム管では、n0.013m^-1/3sec程度[村上,1983]である。しかし、管内に生物が付着したり、土砂が堆積するとnの値は大きくなることが考えられる。式(3.3.5)は管内の流れが乱流状態のときに使うものであるが、顕著な津波の場合は臨海Reynolds数(=2310)を十分超えるので問題はない。式(3.3.6)はDp≪Dwの時の値であるが、通常の検潮所は、Dp/Dw≒0.1であり、fexは1.0に近い。。式(3.3.2)~(3.3.6)から、uは
となる。ここでsgnは符号関数、Fは
である。検潮所によっては、導水管の内径が途中で変わったり、管が曲がったりしている所があるが、それらのFについては後で述べる。式(3.3.1)と(3.3.7)から、
と表せる。ここでWは、
であり、無次元化した検潮井戸の応答係数である。
式(3.3.9)は非線形な方程式で、外海の潮位Hの変動から、井戸内の水位hを解析的に求めることは容易ではない。例えば単純な波形の波
が入力した場合についても厳密解は知られていない。そこでRunge-kutta-Gillの方法などで数値積分し、振幅の減衰や位相のずれが調べられている[Cross,1968など]、Noye[1974a]は無次元化した周期数β1を
で定義し、β1の関数としてHとhの振幅比および位相差を数値的に求め、図に示している。
最も簡単な場合で、Hが一定(H=Hθ)であるとすれば、井戸内の水位hは
となる。ここで、hθは初期水位、cは定数で
である。初期に井戸内外でΔh=|Hθ-hθ|の水位差があると、それを回復するのに要する時間Tは
となる。応答係数Wに比べ回復時間の方が直感的に理解しやすいので、今回の調査結果では、応答係数Wとともに、Δh=1mの時の回復時間Tを求めた。
検潮儀による観測で井戸内の水位hが求まっていると、外海の潮位Hは
で計算できる。この式は検潮所の応答特性の補正に使用されているが、(dh/dt)^2の項を含むので、大きな津波になると、記録の読取誤差の影響が大きくなりやすい。
導水管の長さと内径については、海洋観測指針の改訂版[気象庁,1981]に目安が与えられている。n=0.013としてその形状について計算すると、応答係数、1m水位差の回復時間などは表(3.3.1)のとおりになる。導水口型(L=0m)や導水管が非常に短い場合には流入・流出による損失効果が大きいが、数m以上になると管内の摩擦が大きな役割をしていることがわかる。摩擦の大きさは管の長さより、内径の大小が大きく影響する。このようなモデル的な検潮所に日本海中部地震津波のような短周期(周期8分)で大きな波(潮差5m)が来たとすると、振幅の減衰は表の下段のようになる。n=0.013で高々10%,n=0.026で20~30%の減衰である。なお、W=0.0052とすれば無次元化周期はβ1=0.9となり、振幅減衰はNoye[1974a]の図と整合している。しかし、実際の津波とはかなり相違している。これは、津波の波形が単純な正弦波でなく高周波数成分を含んでいること、導水管の形状がモデルと異なること、多かれ少なかれ貝の付着や土砂の堆積で導水管の内部が細くなり、摩擦損失が大きかったことなどによるものであろう。
ここまでの考察では、導水管内の水の慣性の効果(du/dt)を無視していたが、長くて太い導水管ではこの仮定に疑問が残る。それを考慮すると、
となる。津波のように流速が振動する場合は問題があるが、とりあえずhe、hf、hexとして式(3.3.3)~(3.3.6)、(3.3.8)を使うと、
となる。(3.3.1)式を代入すると、hに関する方程式は
となる。計算結果の一例を図(3.3.2)に示すが、導水管が長くても大きな津波に対しては、流速変動の項があまり影響しないことがわかる。しかし、応答特性の調査のように、小さな水位変化を扱う場合はかなり大きな影響を持つことがある。場合によっては、図(3.3.3)のように振動することも起こる。
検潮所の構造は、図(3.2.1)のような1本のまっすぐな導水管を持つものが多いが、立地条件や観測の都合で導水管が途中で曲がっているものや太さが変わっているものがある。2本以上の導水管がある所もある。それらの影響も考慮する必要がある。
(1)導水管が曲がっている場合[図3.3.4]
抵抗係数Fは
である。kは曲がりの数で、fbeは曲がりによる損失係数である。各検潮所の抵抗係数Fを求める際は、直角に屈折しているもの(fbe=0.99)として計算してある。
(2)導水管の内径が変化している場合[図3.3.5]
波浪の影響で記録が乱れることを押えるために、導水管の先端部が細くなっている所がある。このような場合は、導水管の急縮・急拡による水頭損失が生じる。検潮井戸へ流入するときの抵抗係数は
で、流入する際は、
である。fA,fB、LA、LB、DA、DBはAおよびBの部分における摩擦係数、導水管の長さ、内径である。fse、fscは急拡及び急縮による損失係数で、(DA/DB)の値により0.0~1.0の範囲の値をとる。連続の式は、
であり、応答係数Wは流入する場合と流出する場合で少し異なり、
となる。
(3)導水管がn本ある場合[図3.3.6]
各導水管の抵抗係数Fは式(3.3.8)で与えられるが、連続の式は
となり、応答係数Wは
で表される。
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3.3.2 調査の方法
検潮井戸の応答を調べるために、井戸の内と外で同時に水位変動を観測し、その結果を比較したものがある[例えば,川崎,1927a,佐藤,1972,渡辺他,1984]。この方法は日常的にみられる短周期の現象、例えば波浪やサーフビートの振幅減衰の様子を見るためには、簡便で適しているが、観測結果から信頼できる応答係数を求めるのは難しい。今回の調査では、岡田・網野[1984]と同じように、各検潮所で小型ポンプによる排水・注水を行い、導水管の通水試験の結果から応答係数W及び回復時間Tを求めた。
(1)観測方法
調査方法の概略を図(3.3.7)に示すが、主な作業は次のとおりで、1か所の調査に要する時間は準備等を含めて2~3時間である。
1)ポンプで検潮井戸から排水し、井戸内の水位を下げる。導水管を閉じないので、ある程度降下すると、それ以上の水位変化がほとんど見られなくなる。
2)ポンプを停止し、その後の水位変化を十分回復するまで一定の時間間隔(3~10秒)で読みとる。
3)ポンプを移し、外海から井戸へ海水を注ぎ、井戸内の水位を高める。井戸が海から離れていて、ホース(約15m)が足りないときは、あらかじめ海水を井戸からプール(直径約1m、深さ30~40m)へ汲み上げ、その水を井戸へポンプで注ぐ。
4)ポンプを停止し、その後の水位変化を観測する。
潮汐観測業務では毎正時及び満干潮時の値を必要とするので、その時刻を避けて注水及び排水をそれぞれ1~6回実施し、信頼できるデータを得るように努めた。水位変化の読み取りは、1人が時計を見ながら合図し、その合図にしたがってワイヤーに付けた目印の高さを巻尺または定規を用いて読み、別の人が記録した。検潮儀でも水位変化を記録(図3.3.8)しており、自記紙上のペンの位置を刻々読むことも可能である。しかし、ペンの動きは1/10または1/20に縮んでおり、ワイヤーの動きを読むのに比べ多少精度が劣るであろう。人が読むのでサンプリング間隔は3秒間隔が限界であったが、応答が速い所では不十分である。もっと短い間隔で観測するために、時計、定規、およびワイヤーの目印を同時にカメラで続けて写すことを試みた。しかし光線の加減に問題があったのか、時計の秒針や定規の目盛りがうまく写らず、失敗した。
ポンプは期間中に追加、交換を行ったので、時期により規格・性能が多少異なるが、いずれも一般向けのもので、入力電圧100V、消費電力約700watt、最大電流8~9A 最大出力400~500wattである。検潮所周辺にコンセントがあれば一般用の商用電源を使用したが、それができない所では発電機(最大出力750watt)を運転した。ポンプの揚水能力は必ずしも十分ではなく、大船渡(図-3.3.8)のように通水性が非常に良い所では、明瞭な水位変化を起こすことができなかった。このため、1987年に調査したいくつかの検潮所では2台のポンプを使用した。大きな水位差を得るためには、導水管を閉鎖して排水・注水すればよいが、潜水作業を必要とするので、今回は導水管を閉じずに観測した。なお、ホースが折れ曲がると、通水量がかなり減じてしまう。2本のビニールホースを準備したが、肉厚のあるもの(厚さ2.5mm)を使用すると折れ曲がりが生じにくいが、かさばるので運搬に手間がかかる。薄手のもの(サニーホース)は、小さく巻き込め運搬が容易であるが、観測時にくびれが生じ通水性が劣る。
井戸にホースを降ろし注水を始めると、ホースが大きくゆれ、浮きやワイヤーに触れたり、水面に流れや波が生じることがある。ホースの深さを調節しある程度時間を置けばかなり静まるが、浮きが本来の位置からずれたり、井戸水面に波が残ることがある。このような状態でポンプを止めると、浮きが移動したり、波による上下変動が多少続くことになる。プールに貯めた水を注水するときは、静まるまで待てないので、かなり大きく乱れている状態で観測を始めることもある。排水時にはこのような障害はほとんどない。別の問題として、排水・注水いずれの場合もポンプを停止した直後は、ホース内の水が動いておりその影響による水面の上下変化が起きる。特に、陸上に排水しているときはホースの水が全部井戸へ逆流してくる。以上のようなことから。ポンプ停止後数秒以内のデータに大きな誤差が含まれることがある。
通水試験中に井戸外の潮位が変化すると、導水管の通水量に大きく影響するので、井戸内の水位変化を観測する際は、同時に外海の潮位も観測することが望ましい。しかし、今回の調査では、潮位変化を検潮儀の記録と観測データから推定することにし、そのための器材(VTRカメラなど)を準備しなかった。
(2)応答係数の求め方と精度
通水試験で得られたいくつかのデータとその解析結果の例を図(3.3.9)~(3.3.19)に示す。応答が遅い吉岡[図3.3.9]、深浦[図3.3.10]では水位変化が時刻tの2次式で非常によく表せることがわかる。このような場合は、井戸外の潮位が一定として、式(3.3.13)から応答係数Wを正確に求めることができる。例えば、図3.3.9には3通りのWに対する水位変化の様子を示してあるが、Wの推定値(0.0009と0.0005)の誤差は10%よりかなり小さいことがわかる。排水・注水時の記録を比較すると、吉岡では排水時の海から井戸への流水が注水時の流出より明らかに速い。このように有意な差(ほぼ30%以上の差)があるときは、流入時と流出時の応答係数を別々に求め表示してある。図3.3.10には線形応答を仮定したときの応答曲線も示してあるが、非線形応答の方がよく合っている。
外側の水位は、潮汐、波浪だけでなく、港湾の固有振動(セイシュ)やサーフビートによってたえず変動している。このため、通水試験の結果が岩船[図-3.3.11]や釧路[図-3.3.12]のように、最終的水位が一定とならないことが多い。このような場合は、井戸外の潮位変化が図の点線のように直線的に変化する(H=pt+q)ものとして、観測結果と一致するようなwを、データと水位変化をパソコンでディスプレイに表示しながら、試行錯誤的に求めた。その際、井戸内の水位hは、式(3.3.9)をRunge-Kutta-Gillの方法で積分して与えた。これらの図でもWを20%程度変えた場合に予想される水位変てあるが、外海の潮位Hを変えることによって、かなり合わすことができる。ポンプによって与えた初期の水位差を回復するのに要する時間と比べ、同程度または多少短い周期で外海の潮位が変動していると、潮位を直線で近似することに無理があるうえ、推定値と実況に有意な差が生じ、応答係数Wの推定誤差が大きくなる。図に示した岩船と釧路の場合は、各観測から求めたWに10~20%の誤差があるものと思われる。最終的には、何回か行った通水試験の結果の精度を考慮しながら、平均的な値に決めてある。
導水管の通水性がよいと、ポンプによって得られる水位差が小さく、応答係数の精度は一層悪くなる。江差[図-3.3.13]や八戸[図-3.3.14]のように、初期の水位差3cm以上あれば、応答係数を一応求めることができた。係数の精度は観測したときの海の状況によって大きく異なり、波があまりなかった江差では6回の観測は0.004~0.005の範囲であった。多少波があった八戸では0.0015~0.0026であり、最終的には0.002を採用した。
さらに通水性がよいと、準備したポンプ1台では明瞭な水位の上昇・下降が得ることができない。ポンプ停止後の水位変化をあえて読み取った例を示すが、石狩湾新港[図-3.3.15]では外海の変動をそのままへ反映しているようで、排水による影響が認められない。宮古[図-3.3.16]では、1~2cm水位差が得られるが、波浪の影響が同程度あり、信頼できる応答係数を求めることができなかった。このような験潮所については、江差の値より大きいと考え、W>0.005とした。寺泊ではW0.007と江差より大きい値が得られているが、これは導水管の通水性がよいというよりも、井戸の内径(0.6m)が特に小さいために応答が速くなっているものである。
観測データの中には水位回復が山(または谷)のような形をしたり、振動傾向を示すものがある。応答が速過ぎてWが求まらなかったところを除けば、明瞭にみられるのは、岩内[図-3.3.17]、能代[図-3.3.18]、酒田[図-3.3.19]の3か所であるが、いずれも導水管が長く応答が速い。これらの所も式(3.3.9)を用いて応答係数を求めてあるが、導水管内の水の慣性を考慮した式(3.3.19)で計算すると、外潮の潮位として変化の少ないものを採用することができる。応答係数が多少変わる場合があるので、今後検討したい。
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3.3.3 調査結果の概要
各検潮所を所管する関係機関の協力および科研費の研究助成を受けて、筆者らは1986~87年に36か所で応答特性の調査を実施した。また、気象庁で調べられている6か所(深浦、舞鶴、小名浜、銚子、東京、御前崎)の結果も利用することができた。これら41か所(深浦は重複)の配置を図(3.3.20)に示すが、東北日本の主な検潮所を大部分調査することができた。
各検潮所の井戸と導水管に関する特性を表(3.3.2)にまとめてあるが、井戸の内径は両津(井戸内径1.5m)と寺泊(同0.6m)を除き、すべて0.8m~1.2mであり、あまり大きな差異は無い。一方、導水管の形状は立地条件が大きく影響するため、長さで0.3m(吉岡)から23.8m(七尾港(旧))まであり、それにつれて内径も数cmのものから30cmのものまである。深浦など6か所では、導水管の内径が途中で変化しており、井戸側の部分をA、先の部分をBとして表示してある。複数の管を使用しているのは、江差など3か所である。このほかに、忍路、男鹿では導水管の先端に波消しのフィルターがあり、吉岡では金網が付いている。なお、大船渡、小名浜では完成直後に木栓で導水管をしぼっていたが、現在は流出してしぼっていない。
観測データの解析は前項で述べた方法で行い、井戸の応答係数Wを求めたが、応答の速さが直感的にわかりやすい表現として、井戸内外の水位差1mを回復するのに要する時間Tsec/m^(1/2)も式(3.3.15)で求めてある。構造から推定した理論値および現地調査で得た測定値を表(3.3.3)および図(3.3.21)に示す。忍路、吉岡、男鹿の3か所には導水管の先端に消波装置や金網が付いているが、理論値の計算にはそれらの影響を考慮していない。測定された回復時間の分布(図-3.3.22)は、5分以内の短い所が26か所、5~10分の所が11か所となっており、10分以上の所はわずか4か所である。回復時間が流入・流出で異なる検潮所では、短い方で数えてある。
回復時間でみると、理論値が15~260秒であるのに対し、測定値は数10~1300秒とかなり長くなっている。多くの所には、理論値の1~10倍の範囲に入っているが、図(3.3.21)に示すように舞鶴など数か所では回復時間が10倍以上にもなっている。検潮所の保守のために行っている導水管清掃の経験から見て、応答が遅くなる一つの原因は、導水管に生物(貝や海草)が付着したり、土砂、ヘドロ、ゴミが貯り、管内の通水を妨げていることが挙げられる。回復時間が特に遅くなっている所のうち、男鹿(No.10)は消波装置が付いており、舞鶴(No.23)では管の出口付近に割石が積まれており、銚子(No.23)では周辺の海底にヘドロが堆積していた。これらの要因が応答を一層遅くしていると思われる。一方、応答を速くする原因に、井戸や導水管にひび割れや穴が開いたとき、導水管が破損したり、先端部のフィルターが流失したときなどが考えられる。例えば御前崎では理論値より測定値の回復時間が短いが、導水管以外からも海水が出入していることが清掃時に確かめられている。
導水管が途中で細くなっていると、海水が井戸へ流入するときと流出するときで抵抗係数が異なるが、理論的に予想される差は表(3.3.3)に示したように、ごくわずかである。そのため、図(3.3.21)では両者を1つの値として表示してある。しかし、現地調査の結果では、約30%(12か所)の検潮所で流入と流出の速さが有意に異なっており、図ではその範囲を縦線で示した。これは、生物付着などによって流入と流出時の摩擦係数に大きな差が生じたり、管の端付近に土砂が大量に貯り、特定方法の水の流れが強く阻害されるためであろう。例えば、導水管の先端に海草が生えていると、流入時には海草が管内に入るが、流出時には海にたなびき、管内の摩擦に及ぼす効果が異なってくる。9か所では流入が速く、3か所では流出が速くなっているが、流入が流出より速くなりやすい理由はよくわからない。
深浦では2回調査が行われており、1983年11月のときはT=410secであったが、86年6月にはT=790secとなり、回復時間が2年半の間に2倍近くに延びている。応答係数は、検潮所の構造だけでなく、生物付着、土砂・ヘドロの堆積などによって大きく変化するので、津波の調査のためには、できるだけ現地で測定した当時の値を使用するのがよい。
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3.4 津波記録に対する検潮井戸の応答特性補正
3.4.1 補正の必要性
海岸や港湾に置ける津波波形を調べるためには、検潮儀の自記記録から井戸の応答を補正し、検潮井戸の外側の水位変化を求める必要がある。単純な正弦波に対する振幅減衰率、位相ずれは、式(3.3.12)の無次元化周期β1
で決まる。ここでωは角周波数、aは入力波の振幅(m)、検潮井戸のTwは水位差の回復時間(sec/m^(-1/2))、Tinは入力波の周期である。
日本海中部地震のような短周期の大津波(a=2.5m, Tin=8分)に対する応答例を図(3.4.1)に示すが、Tw=1min/m^(-1/2)(β1=0.62)の場合は、振幅減衰はごくわずかで、位相のずれは20°程度である。Twが長くなるにつれて、当然ながら振幅減衰が激しくなり、位相のずれが大きくなる。一応の目安としては、β1が0.9以下であれば振幅減衰が10%以下であり、問題とならないであろう。逆に、β1が2.5より大きくなると振幅が半分程度またはそれ以下に減衰しており、補正なしには津波の実態を推定できない。
日本海中部地震の際に観測された検潮記録の高さと、遡上高(港湾技研,1983,大学グループ,1984,気象庁,1984,防災センター,1984などの報告から採用)を比べたものを図(3.4.2)に示すが、全体的傾向として、遡上高が大きい所で減衰率が大きくなっている。これは、震源地に近い海岸では短を示す。津波が押し寄せてきたが、遠周期の大きく離れた所では波高が小さく、周期が比較的長くなっていたためであろう。しかし、小さい津波でも応答が非常に遅い検潮所では、依然として遡上高よりかなり低い。なお、遡上高は同じ港内でも場所によってかなり異なるのが普通であり、図(3.4.2)に示す波高の減衰は、検潮所の応答効果のみではない。例えば、深浦検潮所の直前の海では港内の半分以下であり[渡辺・岡田・網野,1984]であり、津波の高さとして、港内の値(3.8m)を採れば、検潮記録の値はその17%に過ぎないが、すぐ近くの値(1.5m)をとれば43%となる。野代の場合も同様で、港湾技研(1983)の資料によると、周辺の高い値は4m以上になっているが、検潮所近くの水路では1.9mという値もある。図では4.1mと2.8mを採用している。いずれにしても、大津波が襲来した所や回復時間の長い検潮所では、津波記録と実際の津波波形にかなり大きな差があるので、応答特性の補正が必要になる。
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3.4.2 補正方法と問題点
計算機でデータ処理するためには、検潮儀によって得られたアナログ記録を数値化する必要があるが、紙送りが20mm/hと非常に遅いために、いくつかの問題がある。
1)研究者が使用するものは、検潮記録ではなく、それを何回が複写したものであり、複写の際に波形が歪んでいる。
2)デジタイザーの読取用標識(十字形や点)を波形記録にそって移動させながら数値化を行うが、どうしても手振れがあり完全に記録を追跡することはできない。数値のまるめによる誤差もある。
3)検潮儀の記録ペンの幅が0.2~0.5mmあり、一定していない。鋭い山・谷の部分では、インクが乾かないうちに重複して描いているので、線幅が特に広い。記録時に表面張力の影響で変形している恐れがある。
以上のようなことから、注意深く作業しても、記録紙上で0.1~0.2mmの相対誤差は避けられない。
一例として、日本海中部地震津波のときに深浦検潮所で得られた検潮記録(図3.4.3)を2倍に拡大複写し、分解能0.1mmのデジタイザーで数値化した結果を図(3.4.4)に示す。11時から20時までの約1400点について(X,Y)モードで数値化してあるが、時刻(X成分)が逆転または同じものは手で修正してある。当然ながら、元の検潮記録に似ているが、コピーの際に生じたと思われる図形歪のために、図(3.4.3)と完全に重ねることはできない。また、水位変化の早さ(Δh/Δt)を数値データから求めると、図(3.4.5)のように、数値化の誤差に起因する短周期の変動がかなり大きい。導水管の効果は(dh/dt)^2に比例するので、式(3.3.16)でそのまま検潮井戸外の潮位を推定すると、大きな誤差が残る。適当なフィルターを用いて数値データ(または推定潮位)を平滑化する必要があるが、フィルターの種類によって波形が変わってくる。
検潮井戸外における水位変化を推定する試み[岡田・網野,1984,梶浦,1986,Satake,Okada and Abe,1988]が既に行われているが、同じ記録(深浦検潮所)を複写したものを使用し、同じ応答係数で計算しているが、別々のコピーを独立に数値化し、データ処理が異なるために、波形がかなり相違している。最高波として、岡田らは第3波1.3mを推定しているのに対し、梶浦の結果では第3波1.8m,Satakeらは第5波で1.5mとなっている。
ここでは、図(3.4.4)のデータを用いて推定した一例を図(3.4.6)に示す。初めに重みをつけた移動平均
で一度平滑化し、(Δh/Δt)に現れる短周期変動を減らしてから、式(3.3.16)で計算してある。津波としては、依然として不自然な振動波形であるが、この方法では、強いフィルターを用いない限り、滑らかで自然な振動波形を得ることができない。数値化の誤差とその影響を考えると、統計情報量(ABIC)を用いた方法などを検討する必要があろう。
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3.4.3 応答特性補正の例
日本海中部地震津波の記録が得られた検潮所のうち、震源に比較的近い6か所(岩内、江差、吉岡、深浦、酒田、岩船)について現地で測定した応答係数を用いて、検潮井戸外側の潮位変化を推定した。これらの結果は既に論文[Satake,Okada and Abe,1988]として発表してあるが、その内容を紹介する。
検潮記録の数値化は、1分ごと(自記紙上では1/3mm)に行い、数値データの平滑化はハニングのウインドー(Hanning window)で3回実施した。この平滑化で短周期変動はかなり減じており、周期4分の波は元の1/10以下となっている[Blackman and Tukey,1958]。潮位推定は式(3.3.16)で行うが、検潮井戸への流入と流出によって応答係数が異なる所(岩内、吉岡、酒田)は(dh/dt)の符号によって、それぞれの値を使用する。計算結果は図(3.4.7)に示すが、実線が検潮儀の記録で、波線が補正後の潮位である。
吉岡、深浦では応答特性の補正によって最大振幅が2倍以上になり最高値約1.5mは現地調査で得られた検潮付近の遡上高にほぼ一致している。吉岡の検潮記録では、津波波形が正の方へずれていたが、応答速度の差を考慮すると、ほぼ解消されており、補正効果が十分認められる。しかし、波形の細かい点については、前述のように、数値化にともなう誤差やフィルターの効果によるものがかなり含まれており、あまり意味がない。その他の地点では、岩内の補正の効果が多少認められているが、岩内、江差、酒田ではほとんど差が見られない。これらの所では、津波の周期・振幅に比較して、検潮所の水位回復時間が短かったため、導水管の影響をあまり受けずに記録されていると考えられる。
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3.5 検討とまとめ
津波の調査研究にとって、検潮記録は欠くことができないが、日本海中部地震津波を契機に、検潮井戸の応答特性が大きな問題となった。この問題は津波記録を解析するうえで重要であり、本研究費の助成を受け本格的な実態調査と考察を行った。
一連の調査では小型ポンプによる検潮井戸への排水・注水を行い、ポンプ停止後の水位変化から応答係数を求めた。解析の際、井戸外の潮位が時刻tの一次式で表されると仮定しているが、場所によってはうねりやサーフビートの影響が認められた。導水管が10m以上で内径が15cm程度になると、通水試験の際に管内の慣性効果で、ポンプ停止後に井戸内水位が振動することがある。これらの問題を解決するためには、データの取得を工夫するとともに、通水試験の際は井戸内外で同時に水位を観測する必要があろう。
各検潮所の水位差回復時間を見ると、5分以内の検潮所が60%余りを占めるが、井戸と導水管の構造から水理学的に予想されるものよりかなり長く、場所によっては10倍以上になっている。消波装置によって応答が遅くなっている場合もあるが、大部分の所は生物付着や土砂堆積の影響が考えられる。生物付着等は年月とともに変わっており、深浦検潮所では2年半の間に回復時間が2倍近くになっていた。また流入と流出によって回復時間が大きく異なる場合があるが、検潮所の構造からはほとんど期待できないので、生物付着や土砂の堆積によるものと思われる。しかし、貝・海草の付着や土砂の堆積がどのような状態で作用しているのか、潜水調査をしていないので、詳しいことはわからない。検潮井戸の応答が年月とともに変わるので、通水試験を繰り返し行うのがよい。特に、顕著な津波が観測された折は、記録が得られた検潮所について早急に応答特性を調べることが大事である。なお、気象庁関係の検潮所では、導水管の保守をかねて、津波等の観測のために応答特性の調査を時折行うことになった。
測定で得られた応答係数を用いて、深浦など6か所の検潮記録から井戸外側における津波波形の推定を試みた。導水管の影響を大きく受けた所では、応答特性の補正によって最高水位がかなり実際に近づくことなど、補正が有効であることがわかった。しかし、記録する際の紙送りが20mm/hourと非常に遅いために、数値化する際の誤差の影響が大きく、別々に数値化して波形推定をした結果を比べると、その様子がかなり異なっている。補正方法は今後も検討する必要があるが、抜本的に改善するためには記録方法を10~20秒の間隔でディジタルサンプリングすることが望まれる。
謝辞
各地での調査に際しては、検潮所を所管する下記の機関ならびに関係者から数々のご配慮とご支援を頂きました。また、一部地域の観測では、函館海洋気象台 紺谷俊次氏、北海道大学学生(当時)森谷正義氏、および東京大学院生 畑中雄樹氏の協力を得ました。これら機関ならびに関係者に深く感謝致します。
なお、経費として本研究助成費のほかに、一部は所属機関・大学の研究費も使用した。
調査に協力を頂いた機関等
・気象庁関係 気象庁海洋気象部海洋課、函館海洋気象台、札幌管区気象台、根室測候所、釧路地方気象台、仙台管区気象台、深浦測候所、八戸測候所、宮古測候所、大船渡測候所、石巻測候所、小名浜測候所、東京管区気象台、富山地方気象台、銚子地方気象台、御前崎測候所
・海上保安庁関係 海上保安庁水路部沿岸調査課、第一管区海上保安本部、第二管区海上保安本部、釜石海上保安部、吉岡漁業協同組合(吉岡験潮所委託管理)
・国土地理院関係 国土地理院測地部第三課、忍路験潮場看守 信太和郎氏、小木検潮場看守 伊藤修氏、秋田県立男鹿水族館(男鹿験潮場委託管理)
・北海道開発局関係 小樽開発建設部、小樽港湾建設事務所、岩内港湾事業所、函館開発建設部、江差港湾建設事務所、帯広開発建設部、十勝港湾建設事務所、室蘭開発建設部、室蘭港湾建設事務所、浦河港湾建設事務所
・第一港湾建設局関係 酒田港工事事務所、新潟港工事事務所、金沢港工事事務所、(同)七尾工場、(同)輪島工場
・東北地方建設局関係 北上川下流工事事務所
・自治体関係 秋田県能代港建設事務所、(同)船川港湾事務所、新潟県村上土木事務所、(同)相川土木事務所、(同)相川土木事務所両津分所、(同)与板土木事務所、(同)柏崎土木事務所、(同)直江津港湾事務所、岩手県久慈土木事務所、(同)島越波高観測所、宮城県気仙沼漁港事務所、千葉県銚子漁港事務所、株式会社中元組(寺泊検潮所委託管理)、株式会社植木組(柏崎検潮所委託管理)
第4章 ボアの実験と理論
4.1.1 はじめに
日本海中部地震の津波のさいには、男鹿半島の北海岸、港、河口付近の海域、及びいくつかの河川内で、段波(ボア)の形をなして進行するのが観察された。沖合いから海岸線にむかってやってきた津波が河口付近の海岸線に近づくと、河口が「ラッパ状」に開いているときには、津波の峰線は汀線にある角度をなしてぶつかる。このとき、汀線付近で反射波した波の峰が特に高くなる、いわゆるエッジ・ボア edge bore が形成される。海岸がゆるやかな傾斜の浜をなしているときには、上方から見ていると、一時的に浜にrun upした海水が波の進行前方に先回りして、一種の渦を形成することがある。このような効果は津波による河口付近の洗堀、テトラポットの流失などを考慮するうえで重要であろうと考えられる。
河口付近の河の両岸に垂直に近い護岸構造物の壁が設けられており、その壁が津波の進行方向と鋭角をなしていてしだいに川幅が狭まるときには、波の峰が次々に反射し、反射の後もその峰の線の位置は未反射の部分の峰の線の位置とさほど大きくは離れていない位置を、ほぼ同方向に走り始める。この2つの峰の間の距離は海岸線に近いところほど小さい。線形的に考えると、海岸線のところでは完全に重なって、合成波の峰の高さは入射波のそれの2倍になるはずである。実際にはこのとき、そこでの非線形効果によって、反射前後の2種の波の峰が合体して有限の長さの単一の波の峰を作ることがある。この合体した波の峰の移動する方向は、反射前の波の進行方向とも反射後の波の進行方向とも異なり、その平均方向、つまり海岸線に平行に進行する。上から見ると、入射する波、反射する波、およびこの「合体した単一の波」の3つの波が合わさって、Y字形をなして見える。すなわち上から見た場合には、このY字形が海岸線に沿って横に平行移動しているように見えるのである。合体した波の峰は非線形性、および底面での摩擦による減衰が絶え間なく影響していて、ときに孤立波の分裂、あるいはUndular boreのように海岸線付近で波の分裂を生ずるなど、川を遡るボアと同じような性質を帯びてくる。このような現象はMach stemとよばれており、いくつかの理論的、および実験的研究例がある。
今回の日本海中部地震では、川に侵入した津波が、ボアの形をなして進行する姿が、アマチュアカメラマンの写真や、ビデオの映像や、ヘリコプターから撮影されたテレビ画像に捕らえられた。このようなボアをなす津波に動的な振舞いを含めて詳細な画像が得られたのは、今回の津波を除いてほかに例がほとんどない。ただ断片的には、例えばチリ津波のときのハワイのヒロの町の川を遡る津波が壁のようなボアの形をなして遡る姿が撮影された例や、明治、昭和の2回の三陸津波のさいに「海が壁のようになって」押し寄せてきた、という表現で語られているような例を、過去の津波記録のなかに見つけることができる。このことから、波高の大きな津波が海岸線近くに接近したとき、かなり普遍的にボアの形をとるらしいことは従来から知られていた。
以上、Mach stem, edge bore および川を遡るボアの形となって現れた津波の諸形態は、どれも流体力学的には強い非線形性の効いた現象であって、理論的な取り扱いが難しく、また津波の実験をして意味のある研究成果で、ただちに今回のような津波のさいに現れたボアに適用できるものは多くはない。
本研究では、主としてつくば市にある、建設省土木研究所内の大型の室内実験水槽を用いて津波のボアの上述の3つの形態を実験的に解明した。あわせて川を遡上する津波ボアの理論的考察を行った。
4.1.2 日本海中部地震の津波でのボアの観察例
1983年の日本海中部地震により発生した日本海中部地震津波は、日本海東北沿岸を襲い多大の被害をもたらした。この津波にはいくつかの特徴的な津波波形が観察された。
海岸に来襲した津波は、遠浅の海岸を進行し変形した結果、段波の先端にクノイド波状の短周期波を伴った波状段波(undular bore)となったようすが、男鹿半島北岸などで観察された。また、秋田沿岸では弓形の海岸線の数ヶ所で汀線に接近する津波がedge boreの形態をなしているのが目撃されている[Shuto,1985]。
写真-4.1.1~4.1.4は海岸線に沿って進行する津波の連続写真を示す。写真には男鹿半島方面から北へ向かって進行するboreが写されており、汀線際で波高が高く波峰線が海岸線に対し直角に近い角度をなしていることから、edge boreが形成されていると考えられる。
能代市を流れる米代川の南に本流と平行に走る、中島貯木場の水路を遡上した津波先端部短周期波を有する波状段波がみとめられた。また、米代川本流では、河道の横断方向に直線的な波峰を有した波状段波が進行していく状況が観察された[首藤,1984]。また、本荘市を流れる子吉川、新潟県の石川、阿賀ノ川、信濃川、島根県隠岐島後の中村川などでも起きていたことが報告されている。本研究では、海岸線近傍におけるボアの形態をとって進行する津波について、非線形性の波の峰の増幅効果と波の分裂効果、2次元的な変形、エネルギーの減衰、などに着目して実験的検討を行なった。
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4.1.3 Mach stemおよびBoreに関する研究史
Mach stemはgas dynamicsにおけるshock waveの研究で見出された[Witham,1974]。表面波においてはPerroud[1957]やChen[1961]の先駆的な実験がWiegel[1964]によって紹介されている。その後、Miles[1977-a,and -b]は、KdV方程式を用いて斜めに入射する2つの孤立波の相互干渉を理論的に取り扱い、海岸壁面でのMach stemの波高や発生限界を求めた。Milesの理論では入射角と波高水深比を変数としたとき海岸壁でのMach stemの波高は極値を持ち、その値は入射波の波高の4倍になる。Melville[1980]はMilesの理論を検証するため実験を行い、Miles理論のそのような極値は見られないことを示した。また、Yueら[1980]はStoks波の屈折・回折の解析に放物型近似を用いてMach stemの数値計算を行っている。
Edge boreの存在はよく知られているが、現象が複雑であり実験も難しいことから研究事例は余り多くない。実験的研究としては、Chen[1961]によるedge boreの形態や発生条件に関する研究およびそれに続くDavidら[1973]の研究などを挙げることができる。Chenの研究によりedge boreの形態が明らかにされている。
河口部より河道へ津波が進入する際の変形は、河口部での回折、河道内での反射、回折などの複雑な現象が混在している。そのため、防災上重要な課題であるにもかかわらず、ほとんど研究されていないのが現状である。河道の中を津波がBoreとして遡る現象については、特性曲線が限振幅の長波の研究に有効ではあるが、この方法ではフロント部の構造まで立ち入った議論はできない。Boreのフロント部の構造については、Chester[1966]、Freemanら[1970]、Johnson[1970]などによる研究がある。いずれも水の内部粘性によるエネルギー散逸を仮定している。さらに、Pelinovskii[1982]はソ連の津波の非線形問題に関する研究を総括した教科書を著作しており、その著書の一章をundular boreの問題にあてている。われわれにとってなじみの薄いソ連での成果が紹介されている。
4.1.4 本研究で行った実験と理論考察
(1)実験と理論考察
非線形長波の反射、屈折および回折に関する既往の理論的な研究は、孤立波やStokes波を対象とした水平床の条件下での研究が主である。しかし、実際に海岸に来襲する津波、あるいは河川に侵入した後の津波は、砕波段波(breaking bore)や段波の先端に短周期派を伴った波状段波の形をとる場合が多い。そこで、波状段波の反射、屈折、回折現象を明らかにすることを目的に実験を行った。さらに、海底地形は、波の進行方向に傾斜させた海浜を対象にした。具体的には、津波の進行方向に1/100の勾配を持つ海底条件のもとで、以下に示す3つの水理模型実験を行った。
1)Mach stemに関する実験(実験I)
波の進行方向に対してθの角度を有する鉛直海岸壁を設け、Mach stemの発生条件およびその挙動を調べる。
2)Edge boreに関する実験(実験II)
1)と同じ条件で、鉛直海岸壁ではなく砂浜を模した緩やかな傾斜をなす汀線海岸面でのedge boreの発生条件、挙動を調べる。
3)波状段波の河道浸入に関する実験(実験III)
海岸および河道側岸を鉛直壁として河口部の模型を設ける。河口への導入部の海岸線形状を変え、河口部での波の変形や河道を進行する際の波の変形を調べる。
なお、3)の実験の河道内部を伝わるundular boreに対しては本研究で新たに波形に関する理論考察を行い、それを検証するため小水槽による実験を行った。
(2)実験施設
実験に用いた水槽は建設省土木研究所海洋沿岸実験施設内の津波実験水槽である。津波実験水槽は図-4.1.1に示すように、長さ約30m、幅30m、床勾配1/100のモルタル製の固定床平面水槽と、30m×3m×3mの空気室を持つ起潮装置からなる、実験においては、5cm程度の波高が得られるように、平面水槽の中央部を15mに仕切り水路として使用した。水平方向の座標系x,yは水路の隅(0点)を原点として、水路沖方向にx軸、横断方向にY軸を定めた。各実験での水位は水路の岸側末端(x=0)を汀線として、起潮装置前面の水路端水深を29.85cmに設定した。
起潮装置はニューマチックタイプである(写真-4.1.5)。低周波発信器の制御により送風機を駆動し、起潮装置空気室内の空気圧を増減させて孤立波を発生させた。超低周波発信器からの出力信号は図-4.1.2に示すようなパルス波である。このパルス波の初期設定圧(Pf)、振幅(Hp)、および周期(Tp)を設定することにより波の条件を与えた。計器盤を写真-4.1.6に示す。実験においてはPfを-400mmAqに固定し、HpとTpを変化させて波の条件を設定した。ここにmmAqは水柱圧単位である。
(3)実験に用いた非線形長波の特性
実験に用いた波の設定条件を表-4.1.1に示す。
実験Iでは同表のa~dの波条件を用いた。実験IIではb、c、実験IIIではe、fの波条件を用いた。これらの条件を用いて発生させた孤立波の起潮装置前面(図-4.1.1のPo)での時間波形(η)を図-4.1.3に示す。a~fの波条件に関し、静水面から最高水位までの高さをH1として表-4.1.1に示した。
Hpが同一の場合、Tpが長いほどHiは大きくなる。また、図-4.1.3の各波形に見られる2つ目のピークは反射波を表している。発生した孤立波は、1/100勾配斜面を進行するにつれ段波へと変形し、段波の先端に短周期波が形成されて波状段波になる。本報では波状段波の各特性値として、図-4.1.4に示す4つのパラメータ(hs、H1、Ho、h)を選んだ。H1は段波先端部の分裂第一波の波高、Hoは分裂波の生じていない段波部の波高である。
実験に用いた6ケースの波条件について、進行に伴う浅水変形の例を以下に示す。ここに示す結果は、波の進行方向と小さな角度を持って交差する海岸壁の影響が最も小さい測線で測定された結果であり、一次元変形の特性を表すと考えてよい。測定結果は沖から岸向きの順に示す。図-4.1.5はaの波条件での測定結果である。横軸はは起潮装置前面Poでの水位が上昇を開始する時刻を基準とした時間、縦軸は静水位基準の水位である。段波として進行してきた波はx=8.8m地点で先端が2波に分裂し、波状段波となった。その波形を見ると、x=10.8地点よりx=6.1m地点までの区間では先端の分裂波の波高が増加している。x=5.8mではH1=5.7cmとなり、x=6.1m地点のH1=5.8cmと比較するとH1が低下している。これは砕波によって波高低下が生じたものである。しかし、段波部の波高Hoは1=0.8mで約3.5cm、x=6.1mで約3.6cmとあまり変化していない。図-4.1.6に示す波条件cのケースの結果も、波の分裂位置や段波部の形状が異なる他は、基本的にはaと同様の変化を示す。
波条件eでの実験結果を図-4.1.7に示す。この波条件では、各測点とも段波部の波高Hoは約1cmと小さい。eの波条件は実験IIIに用いたが、この実験では0≦x≦8mを水平床としてある。x=7.55m付近より先端部第一波の波高が増加し、水平床上で波状段波というより孤立波に近い形状に変化した。x=3mでは先端部第一波が段波から分離した1つの波になっていることがわかる。
次に、実験に用いた波の砕波特性を水位測定の結果を用いて整理した。Chester[1966]はポアズイユ流れの場で粘性を考慮した弱い段波の解を求め、先端部における短周期波の存在領域を示した。Johnson[1970]は減衰項を含んだKdV方程式により、H1は先端から無限遠位置での段波波高Hoの1.5倍より小さいという理論解を示した。ここでは、波の進行方向に並んだ2つの測点において、波の進行後にH1が減少したときを砕波と定義した。そして、減少直前のH1を砕波波高とし、分裂波の砕波限界を検討した。Hoは図-4.1.4に定義した値を用いた。斜面上を進行する波状段波を扱っているため、Hoの取り方には若干の問題はあるが、緩勾配なので現象の本質を議論する上での影響は小さいと考えられる。砕波直前のH1とHoの比H1/HoをHo/hsで整理した結果を図-4.1.8に示す。同図にはH1/Hoごとに代表的な測定波形も併せて示した。H1/HoとHo/hsは良い対応関係を示し、H1/Ho>1.5にもデータが多いことがわかる。波形例によるとH1/Ho>4ではHoの値が小さく波状段波の波形としがたいデータもみられる。これらはcの波条件の測定結果である。しかし、典型的な波状段波の波形を示す波形例(4)、(5)のデータも2<H1/Ho<3の範囲にある。このように、斜面上を進行する波状段波においては、H1/Ho>1.5でも非砕波の条件が存在することがわかる。
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4.2 Mach stemに関する実験
4.2.1 実験の目的
Mach stemは鉛直海岸岸壁に孤立波が斜めに入射する場合に、海岸壁近くで形成され、従来の研究では主としてその非線形の反射・回折現象が研究の対象とされてきた。
Perroud[1957]は、孤立波の進行方向と直立壁の法線とが45°より小さい角度をなす場合に、壁面と垂直な波峰を有するMach stemが形成されることを示した。このようなのMach stemの発生の模式図を図-4.2.1に示す[Melville, 1980]。θは波の進行方向と鉛直壁のなす角、ΦoはMach stem領域の広がり角である。Miles[1977-b]は水平床上の孤立波に対するMach reflectionの理論解を示した。Milesの理論によると鉛直壁に沿う波高分布は次式で表される。
ここに、
αw:鉛直壁に沿う波高Hwと水深hの比(Hw/h)
αi:入射波高Hiと水深hの比(Hi/h)
k=θ/(3αi)^(1/2)
である。また、Mach stem領域の広がり角Φoは次式で表わされる。
Mach stemが発生するための海岸壁の津波の進行方向となす角度θは次式を満足する。
Melville[1980]は実験的にΦ*およびMach stemの発生条件についてほぼ同様の結果を得た。Melvilleの実験結果をもとにして得られたαw/αiとkの関係を次ページの図-4.2.2に示す。Melvilleの実験結果では、Milesの理論解に示されたようにαw/αiの極大値は存在しない。
本研究は、一様斜面上を進行する波状段波を対象にしてMelvilleと同様の実験を行い、Mach stemの挙動を明らかにすることを目的とする。実験は1/100勾配の水路床上に、波の進行方向とθなる角度を持って交差する鉛直壁を設け、そこで生じる反射による波の変形を調べた。実験では、波の進行方向に対する鉛直壁の交差角を変えた時のMach stemの発生状況、発達形態の相違を明らかにする。また、従来の水平床上での孤立波を対象にした理論や実験結果と、斜面上での波状段波の場合の実験結果との違いを示す。
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4.2.2 実験方法
実験は、x=19.85mの点から波の進行方向に対してθの角度を有する鉛直壁を設置して行った(図-4.2.3参照)。θは10°~45°の間で5通り変化させ、各場合について、表-4.1.1のa~d.の4通りの入射波条件をおのおのに与えて、合計20ケースの実験を行った。鉛直壁はラワン合板製であり、越波しないよう充分な1高さとした。鉛直壁と水路床および側壁の間には防水処理を施した。
鉛直壁近くでの波の変形を調べるため、鉛直壁と平行に7測線、水路横断方向に5測線の測点格子を設定し、各格子点で水位時間波形を測定した。また、鉛直壁の影響を受けない地点での波の変形を調べるため、鉛直壁と向かい合う水路側壁に沿って測線を設定した。各ケースの測点の配置を次ページの図-4.2.4に示す。海岸線に平行にそれに近い順にA~Gの測線を設け、さらに海岸線の影響をほとんど受けないと考えられるH測線を設定した。各測線上で浅い方から順次1,2,3..8の座標番号をつけた。以後、各測点は測線の交点の座標を用いて5B、4C等のように呼ぶ。水位時間波形の測定には容量式波高計を用いた。また、各ケースともビデオ撮影を行いMach stemの発生状況を記録した。
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4.2.3 実験結果
(1)各測点における水位変化
入射波をbとしたときの水位変化記録が、壁の向きθが変わるとどう変化するかを見てみよう。ここには測線A,G,H上の各測点、および先端部第一波が破波する直前の横断方向測線上の測点の波形を示すことにする。
まず、入射角θ=10°のケースの測定結果を図-4.2.5に示す。この場合には、海岸線に最も近い測線Aでの記録も、最も遠い測線Hでの記録もほぼ似たような水位変化が記録された。測点番号4に沿って、横断方向にA,B,C,..G,の水位記録を見てもあまり大きな変化はない。ただし、相互の波高を比較すると、測点4Aで第一波の波高がH1=7.4cmであるのに対して、測点4HではH1=5.5cmとなっており、4AのH1の方が約3割大きくなっている。測線Aでは砕波による波高低下が測点3Aと4Aの間で生じているが、測線Hでは測点2Hと3Hの間で生じており、測線Aの方が早く砕波していることになる。ビデオ撮影によるとこのケースでは明瞭なMach stemの形成がみられる。
図-4.2.6はθ=20°のケースの結果を示す。測線AとHで波の変形の差が顕著となっている。また測点4上の横断方向(A→H)の波形変化を見ると、4Aから4Fまでの間の波形は類似しており、4G、4Hと比べ4A~4Fでは先端部第一波の波高H1が著しく高い。また、どの図にも鉛直壁からの反射波がはっきりとは現れていない。ビデオ画像によると、このケースでもMach stemの形成が見られる。測点4A~4Fの先端部第一波の波峰はMach stemであると考えられる。
写真-4.2.1、4.2.2にθ=20°、入射波aのケースで鉛直上方から壁近くの波峰をとらえたビデオ画像を示す。海岸壁に垂直な波の峰をなすMach stemが見られる。写真-4.2.1がMach stemの砕波直前、写真-4.2.2が砕波直後の状況である。
θ=30°のケース(図-4.2.7)では、測線A,G,H上での水位記録のようすが異なる。横断方向の測線3上で見ると、分裂後の波の数は測線Aで3波であるのに対し、測線Hでは2波しかなく、しかも2波目はごく小さな山をなしているに過ぎない。そのようすをもう少し詳しく述べると次のようになっている。測線A上の波形変化を見ると、まずMach stemが孤立波として分裂するのが測線Hに比べかなり早く、分離後は孤立波第一波の波高H1の増加が著しい。その結果、測線Hで2波の分裂波が生じる間に測線Aでは3波の分裂波が生じ、各分裂波の波峰線は図-4.2.8(a)に模式的に示すようになる。すなわち、鉛直壁にごく近い測線A付近では3つの波峰線が見られるのに対し、鉛直壁からある程度離れた測線上では分裂後の孤立波の数は2つになる。測点3E、3Fには第一波と第二波の重なるようすが表われている。
海岸線に近いA測線と遠いH測線でこのような孤立波分裂のようすの差は、おそらくつぎのようなことからくるものであろう。すなわち、Mach stemとは入射波と反射波の峰が合成され、そこでの(弱)非線形の作用によってMach stemという単一の波の形成と孤立波分裂を起こすものである。A測線のように海岸線に近いところでは、入射波と反射波の峰どうしの距離の差が少ないため、Mach stemは背の高い、峰の前後幅(実効波長)の短い波となるであろう。これに反して海岸線から離れたE測線のあたりでは、入射波と反射波の峰どうしの距離が大きいので、合成される峰も背の低い、幅の長いものしかできない。孤立波分裂の理論によると背の高い山の母体ほど多数の、しかも第一波として背の高い「強い」(含まれるエネルギーの大きな)孤立波を分裂させる「能力」がある、というKdV方程式系の法則がある。それゆえ、海岸に近い測線に沿っては、海岸から離れた測線でよりもより多くの孤立波を分裂させ、かつ第一波として、より「強い」孤立波をうみだすことになる。これに対して海岸線から離れた所では背の低い孤立波が1、2個しか生み出されることがない、ということになる。海岸線からさらに離れたH測線のあたりでは、入射波の峰の位置と反射波のそれとが離れすぎていて、もはや単一の合体した峰が形成されることなく、Mach stem形成による孤立波の分裂はもはや起きない。ただし、H測線上でも水深が徐々に浅くなるから、それに起因する孤立波のサイズの安定形からのずれと、それによる孤立波分裂は緩やかに進行することはありうる。
θ=35°のケース(図-4.2.9)では、測線AとHでの波形変化は著しく異なる。例えば海岸線から遠い測点4Hでは段波先端部の波高が3~6cmなのに対し、海岸線に近い測点4Aではその値が9.2cmになっている。また、横断方向の第3線上の3A、3Cに著しく波高の高い分裂第一波が見られる。一方、3Fと3Gには段波の先端部に水位4cm程度の「肩」状の突出部が見られる。また、測点2Gには先端部の波高4.6cmの波峰の次にこれより波高の大きな6.3cmの波峰が見られる。測線Hの進行波の波形から判断する限り、測点2Gに見られる波高7.3cmの2波目の波峰が形成されたとは考えられず、この波峰は反射第一波の波峰と考えられる。このことより測点3Gの波高7.1cmの波峰も反射第一波の波峰であり、3F、および3Gで見られた「肩」状の波形先端部の突出が入射波による水位の上昇を示すと考えられる。測点3Fでは壁面に近いため入射波と反射波の位相が近づいている。このように測線3上では3Eより壁から離れるにつれ、Mach stemによる単一の波の峰が形成されることはなく、入射波と反射波が分離して現れたと考えられる。この状況の波峰形状を模式的に図-4.2.8(b)に示した。測点1Hには入射波と反射波とが分離した波形が見られる。これに対してθ=45°のケース(図-4.2.10)では、測線Aを除いて反射波と進行波とを明白に区別して見ることができる。図中に反射第一波の波峰を矢印で示した。このケースでは、測線3上の一連の波形に見られるように、H1は測点3GでH14.2cmに対し測点3CでH1=4.9cmとあまり変化していない。波形変化より見ると、入射波と反射波は分離していることが明らかであり、θ=45°ではMach stemがほとんど生じていないことがわかる。
次に、bの波を入射させたときのH1の水路横断方向(A→H)の各測点で記録された水位の最高値(以下ではこの値を単に「波高」と呼ぶ)の分布を図-4.2.11~図-4.2.15に示す。図の横軸は鉛直海岸壁面から各測点までの距離である。波高分布は横断方向測線2~6(図-4.2.4)の各々について示した。分裂の生じていないデータについては欠測として扱った。
θ=10°の場合(図-4.2.11)の波高分布は横断方向にほぼ一様であるが、海岸壁近傍では測線4の位置で波高は最も大きくなり、ここから測線3、2へと進行するにつれて波高が低下している。一方、海岸壁の影響が小さいと見られるy'>6mの範囲(測線H上)では、測点3の位置で波高が最高となる。海岸壁付近と沖合いとで波高が最高となる位置に差が生ずる原因は、海岸壁に近いところでは波高の増加が早く、したがって砕波が起きる位置もより前方に来るのに対して、海岸壁から離れたところでは、砕波の起きるのが後方(陸より、xのプラス方向)に来るからである、と解釈できる。
θ=20°(図-4.2.12)、θ=30°(図-4.2.13)のケースではθ=10°の場合に比べて海岸壁付近の波高の増加が顕著である。これは、前述したようにこの付近での各測点の水位変化記録の曲線上に反射波が見られず、入射波の波峰と反射波のそれとが合体してMach stemが形成されたことに起因する。
θ=35°(図-4.2.14)では波高の高い部分がy'<2mに限られている。この範囲ではMach stemが起きておらず、入射波と反射波の波峰が分離しており(図-4.2.8(b)参照)、そこで記録波高は単に進行波の最高水位(波高)を示すと考えられる。そのため、H1の大きな範囲が限定されたと考えられる。
θ=45°(図-4.2.15)では、波高が高い領域が海岸壁近傍に限られている。このケースでは水路横断方向に進行する反射波が明瞭に見られ(図-4.2.10参照)、ビデオ映像でもMach stemの形成は見られなかった。
各ケースの海岸壁に沿う測線AでのH1の変化を図-4.2.16に示す。各ケースとも波の進行とともにH1が増加し、砕波後低下する傾向は同じである。しかし、反射波峰が見られるようになるθ=35°およびMach stemが形成されないθ=45°の場合では砕波直前の波高増加が急激である。このようにMach stemが形成される場合とされない場合とでは、海岸壁付近の波の変形に差があることがわかる。
Miles[1977]は鉛直海岸壁に沿う波高変化を予想する理論式(4.2.1)を導き、Melville[1980]が実験によって検証を行った。図-4.2.2に示したようにMelvilleの実験の結果、式(4.2.1)より求まる海岸壁位置での波高の無次元パラメータ(αw/αi)に極大値は生じなかった。本実験では浅水変形が生じるため、Milesらが用いたパラメータをそのままの形で用いることはできない。そこで、ここでは海岸壁に沿う測線A上でのH1の最大値H1wと、同じ横断測線上の測線HでのH1を入射波高としたH1iとの比H1w/H1iをパラメータに直立壁の傾き各θとの関係を示す(図-4.2.17)。同じ横断測線上での比較なので水深hは等しい。そこで、Milesらと同様に波高水深比α(=H/h)で表示することとして、αw/αi(=H1w/H1i)を縦軸とした。波条件による差は見られないが、Melvilleの実験と同じくθ=30°~35°でαw/αiは一定になる傾向を示す。ただし、Melvilleの実験ではαw/αiが一定になる値がほぼ2であるのに対し、この実験では3~3.5になっている。これは、本実験が浅水変形を伴った波状段波を対象にしているためと考えられえる。
(2)波峰線形状の変化
つぎに波状段波先端部第一波の波峰線形状の変化について述べることにする。波条件による違いは顕著に表われなかったため、これらの図は代表的波条件としてaを選んで示した。図-4.2.5~4.2.7および図-4.2.9、4.2.10を見れば分かるように、同じ横断測線上でも先端に分裂波がある波形と無い波形が共存するために、波峰位置の定義が問題となる。ここでは各測線の時間波形において、段波先端部に分裂波がある場合にはその頂点位置の時刻を、無い場合でも段波前面の屈曲店が明瞭な場合にはその点の時刻を求め、波峰位置の到達時刻とした。波峰位置が求まらない場合には欠測と扱った。図中の○印が測点を示す。分裂波の生じていない測点を図中「?」で、また砕波後の段波が通過した測点を黒塗りで示した。なお、測定は全測点同時にではなく、5回程度に分けて行った。実験の再現性は良く、各回の波峰の到達時刻相互の誤差は平均して±0.1秒程度である。波峰線図は壁に沿った測線Aの測点での波峰到達時刻を基準として、各測点での到達時刻を一次内挿することにより求めた。
Mach stemは海岸壁に垂直な波峰を形成する。θ=10°のケース(図-4.2.18)では、海岸壁近くで波峰線が進行方向により進みでる傾向が見られ、弱いながらMach stemの形成がみられる。実際にこの角度を図上で測定してみると海岸壁と波峰線がなす角度は約90°である。海岸壁からの距離が大きくなるにしたがい、波峰線は徐々に横断方向に平行になる。
θ=20°のケース(図-4.2.19)では、海岸壁近くでの波峰の突出がθ=10°に比べ明瞭になる。この図でも海岸壁と波峰線のなす角度は約90°である。波条件の違いにより入射波高が大きいケースでは砕波位置が沖にずれるものの、波峰線のパターンは各ケースで大きな差はなかった。
θ=30°のケース(図-4.2.20)になると、海岸壁に垂直な波峰線と水路横断方向に平行な波峰線との海岸がさらに明瞭となり、Mach stemの波峰の形成が明らかである。その一方で、海岸壁に垂直な波峰を有するMach stemの領域は、θ=20°に比べ狭くなっていることがわかる。また、入射波高が大きいケースほど「?」で表記した分裂の不明瞭なケースの測点数が多かった。これは、海岸壁付近での分裂および砕波変形が急速になり(図-4.2.7参照)、海岸壁付近と海岸壁の影響が小さい領域とで波の変形に大きな差を生じたため、分裂波の生じる測点が海岸壁付近に限られてきたことよる。
この傾向はθ=35°のケース(図-4.2.21)ではさらに顕著となる。この図では沖向きに凸形をした波峰線が描かれている。これは、波の変形速度が海岸壁からの距離により異なるため、波峰の識別が困難になったことによる。図-4.2.9を見れば分かるように、θ=35°の場合ではMach stemの波峰から進行波と反射波に分離する部分で図-4.2.22に模式的に示す波形となる。この場合、先端部での突出(「肩」の部分)は入射波峰の一部を表わし、先端部第一波の波峰は主に反射波峰を表わすと考えられる。そのため、先端部第一波の波峰位置は入射波のみの波峰位置よりも明らかに位相が遅れていると考えられる。そのため、沖向きに凸形の波峰線となった。
θ=45°の場合(図-4.2.23)でも、一部沖向きに凸形の波峰線が見られるが、ほぼ横断方向に直線的な波峰線形状になっている。θ=45°の場合では反射波の波峰も明瞭なので、反射第一波の波峰線を同様の方法で図-4.2.24に示した。波峰線は岸沖方向にほぼ直線的であり、θ=45°の海岸壁によりMach stemが形成されない通常の反射が生じたことがわかる。
次に、Mach stemの領域の広がりについて検討する。Milesは水平床での孤立波に対するMach stem領域の拡がり角Φo(図-4.2.1参照)を理論的に求め、式(4.2.2)を導いた。Melville[1980]の実験結果も定量的にはやや異なるが、定性的にはこの理論式と適合している。横軸に鉛直壁の傾き角度θ、縦軸にΦoをとって整理した結果が図-4.2.25である。ただし、図-4.2.18~4.2.21、および図-4.2.25に示した波峰線図からは直接Φoを求めることができない。そこで、以下では次のようにしてΦoを求めた。まず、Mach stemの出発点を、波の進行方向と小さな角度を持って交差する鉛直海岸壁の沖端とする。次に、Mach stemと水路横断方向に平行な入射波の波峰線の海岸点(波峰線の屈曲点)が明瞭な砕波直前の波峰線を用い、その境界線と海岸壁の沖端、すなわちMach stemの出発点を結んだ直線がMach stemの広がりを表すとする(図-4.2.1参照)。そして、その直線と鉛直海岸壁とがなす角をΦoとした。図より、θが大きくなるほどΦoは直線的に減少し、θに関して式(4.2.2)と同じ傾向を示すことがわかる。入射波高がΦoに与える効果は明瞭ではない。これは、浅水変形が同時に生じていること、Mach stemの変形が段波部の変形の影響を受けることによると考えられる。さらに、Φoの定義法にも一部問題があろう。実験は斜面上を進行する波状段波を対象としており、理論式をそのまま適用できない。しかし、定性的意味において実験結果は式(4.2.2)と同様の傾向を示すことがわかった。
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4.2.4 Mach stemの実験に関する結論
1/100勾配一様斜面上を進行する波状段波を対象にして、その先端部第一波に着目してMach stemの挙動を明らかにするための実験を行った。実験によって得られた主な結論をまとめると以下のようである。
1)Mach stemはθ≦35°のケースで形成された。θ=35°のケースではMach stemの波峰から分離する入射波と反射波の波峰が見られた。このケースでは、波高の大きな範囲が海岸壁付近に限定された。θ=45°のケースでは後に海岸壁のすぐ近くから水路横断方向に進行する反射波が明瞭に見られ、Mach stemは形成されなかった。
2)本実験でのMach stemの形成は浅水変形を伴うため、海岸壁に近いところでは分裂を生じ、ある程度以上離れたところでは分裂を起こさない波形が共存するケースがあった。
3)Mach stemから入射波と反射波とに分離する波峰が見られたθ=35°のケース、およびMach stemが形成されなかったθ=45°のケースの海岸壁に沿う波高変化によると、砕波直前の波高増加がθ≦30°のケースに比べθ=35°、45°の場合は急激であった。
4)水平床上での孤立波を対象としたMilesの理論式(4.2.1)と実験結果を比較した。実験では浅水変形が生じるため、Milesが用いたパラメータをそのままの形で用いることはできない。そこで、海岸壁に沿う測線A上の各測点で得られたH1の最大値H1wと、同じ横断測線上で海岸壁から最も離れた測線HでのH1を入射波高としたH1iとの比H1w/H1i(=αw/αi)をパラメータとした。波条件による差は見られなかったが、Melvilleの実験と同じくθ=30°~35°でαw/αiは一定になる傾向を示し、Milesの理論式で予測される極大値は生じなかった。ただし、Melvilleの実験ではαw/αiが一定になる値はほぼ2であるのに対し、本実験での値は3~3.5であった。
5)水平床上での孤立波を対象としたMach stem領域の広がり角Φoに関するMilesの理論式(4.2.2)と実験結果を比較した。実験結果は定性的に式(4.2.2)に相似した傾向を示し、Φoはθが大きくなるほど直線的に減少し、θに関して式(4.2.2)と同じ傾向を示した。入射波高がΦoに与える影響は明瞭でなかった。
4.3 Edge boreに関する実験
4.3.1 実験の目的
Chen[1961]は図-4.3.1に示すように、波の進行方向とある小さな角度をもって交差する斜面を設置し、その交差各θと斜面の勾配βを変えて波の伝播状況を調べた。その結果、edge boreはθとβにより3つの形態に分類された(図-4.3.2)。
1)Edge bore先端部に渦を形成し進行する形態
2)Edge bore先端部に渦を形成せず、先端が激しく混合して進行する形態
3)Edge bore先端部に渦を形成せず、あまり混合もせず進行する形態
さらに、Chenはθとβをパラメータとして壁面での砕波、非砕波の区分を示すと共に、Edge boreの背後には幾筋もの小さな波列(以下rippleと呼ぶ)が形成されることを示した(図-4.3.1参照)。
本研究の実験目的は、一様斜面上を進行する波状段波により発生するEdge boreの挙動を明きらかにすることにある。Chenはβ≧20°(tanβ>1/3)と急勾配な壁面を対象にした実験を行った。ここでは砂浜海岸を想定して緩勾配の斜面も実験対象に加え、1/30≦tanβ≦1/5の範囲で実験を行った。また、Edge boreが形成されず通常の屈折が生じるようになるtanβの限界についても検討した。実験では、水位時間波形や波先端を連ねた波先線の変形を平面的に把握するため、1ケースあたり100点程度の測点を配置した。また、ビデオによりEdge boreの形成状況を撮影した。
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4.3.2 実験方法
実験は、津波水槽内にラワン合板を用いて波の進行方向に対する交差角θ、水平となす角βの斜面を設置して行った。斜面模型はθを20°と30°の2ケース、tanβを1/5、1/10、1/20、1/30の4ケースを与えた。それらの組み合わせで合計7ケース設定した(表-4.3.1)。図-4.3.3に斜面の設置状況を示す。図中破線で示す汀線位置が斜面の法尻と平行でないのは、水路床が1/100勾配を持つためである。静水深は全模型共x=0mで0とした。起潮装置前面の水路沖端での水位は29.85cmである。
実験は表4.1.1のb、c2ケースの波条件を用いて14ケース行った。測点配置の一例(模型ケース1、波条件b)を図-4.3.4に示す。水位波形の測定は、図に示すように1ケースあたり約100点の測点を格子状に配置して行った。さらに入射波の変形状況を知るため、斜面と向かい合う水路側壁沿いに測点を設定した。測定には容量式波高計を用いた。また、波の進行状況をビデオにより撮影した。
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4.3.3 実験結果
(1)水位時間波形の空間変化
水位時間波形の測定例を図-4.3.5~4.3.8に示す。これらはθ=30°、波条件cの下で壁面の勾配tanβのみを1/5から1/30の間で変化させたケースの結果である。各図では基準座標系における横断方向距離y、および汀線からの横断方向距離y'により測定位置を示した。図には、汀線に平行な測線を3測線(汀線上およびその陸側と沖側の測線)と水路側壁に沿う測線(y=14.0m)の計4測線上での測定結果を示した。
tanβ=1/5のケース(図-4.3.5)では、汀線と重なる測線(y'=0)上のx=5.0m測点のところで最高水位が生じている。その値は10.0cmで、y=14.0m測線上のx=5.0m測点の最高水位より約2倍大きい。汀線上、波の進行方向への波形変化を調べるために、x=8.8m測点から5.0m測点の間で、反射波と考えられる波峰に矢印をつけて示した。入射波に反射波が追いつき、x=4.6mでは両者が重なったことが分かる。その後、x=4.2m測点と3.0m測点の間では先端部に高さ2~4cmの小さな波峰が見られる。これは、Chenの模式図(図-4.3.2)に示されるように、陸側斜面上で突出した波先部の水流が汀線方向に回り込んだことにより形成されたと考えられる。θ=20°、波条件cの場合の回り込み流れの状況を写真-4.3.1に示す。これは水路上方より撮影したものである。さらに、汀線上、x=4.2m測点での小さな波峰の形成に対応して、陸上のy'=-0.4m線上では沖合いよりx=4.6m測点まで上昇していた最高水位が、x=4.2m測点において低下している。これは、陸上での波高が増加したことにより波速が増し、その結果陸上の波峰が進行方向に突出して、斜面を下る下降流、すなわち回り込み流れ(渦)が発生するというパターンに対応すると考えられる。下降流が発生したため、陸上での波高が低下したと考えられる。tanβ=1/5、θ=20°でもedge bore形成状況はほとんど同じであった。写真-4.3.2、4.3.3にはθ=20°、波条件bの場合でのedge boreの状況を示す。写真-4.3.2回り込み流れ発生直後、写真4.3.3はその後edge boreが成長した状況を示している。
tanβ=1/10のケース(図-4.3.6)では、y=14.0m測線上での段波の波高H0は波の進行に伴い3cmから5cmへと増加している。一方、汀線上(y'=0m)の全測点では、水位変化記録の後半に8~9cmの水位上昇が見られる。y=14.0m測線上の段波H0が3~5cmであることから、この水位上昇は1/10勾配斜面からの反射波と考えられる。さらに、y'=1.4m、y=4.0mの測点でt=21.4秒に見られる波峰も反射波と考えられる。汀線上の波形は、y'=1.4m測線上で同じxの値を有する地点の波形と比較してかなり異なる。これらに対し、波形の先端部形状は同じxの値を有する地点のy'=1.4m測線上とy=14.0m測線上とはほとんど変わらない。つまり、汀線距離y'=1.4m測線より大きいところでは入射波と反射波とは分離して観測されることがわかる。このケースでもビデオ映像によるとedge boreの発生が見られた(写真-4.3.4参照)。
以上のことより、edge boreの形成による2次元的な波の変形は汀線付近より陸側で生じ、それより沖側では入射波と反射波が分離して進行していると考えられる。
汀線上では、x≦7.0mの範囲の測点における波形先端部にいくつもの段が見られる。最初に結果を示した1/5勾配斜面の場合(図-4.3.5参照)に比較して1/10勾配斜面では屈折波の遡上が生じ易いため、反射波と遡上波とが重合して段が形成されたと考えられる。汀線上のx=7.0m測点では水位約3cmの先端部第一波と反射波と考えられる水位8.2cmの段波先端との位相差は約1.3秒であるが、x=4m測点での位相差は約0.9秒に縮まっている。陸上のy'=-0.6m測線上でも、5.0m≦x≦7.8mの範囲には階段状の波形が見られ、波の進行とともにそれらが重なっていく変化がみられる。以上のように、汀線付近より陸側では、反射波が入射波に追いつき、波の先端水位を上昇させることがわかる。このケースのビデオ映像の連続写真を写真-4.3.5~4.3.8に示す。写真4.3.5には汀線より陸側に3つの段が見られるが、写真-4.3.6ではほぼ1つに重なり、edge boreが形成された。さらに、写真-4.3.7では渦を伴う回り込み流れが生じていることが分かる。写真-4.3.8では回り込み流れが大きく発達している。以上のような波の変形により、汀線付近に渦を伴ったedge boreが形成されると考えられる。
図-4.3.7、4.3.8に示すtanβ=1/20、1/30の場合では、汀線上およびその沖の各測点での波形には反射波による水位の上昇はあまり見られない。写真-4.3.9にtanβ=1/30のケースにおける波の遡上状況を示す。このように、緩勾配のケースのビデオ映像にはedge boreの形成は見られず、斜面上をゆるいカーブをなすフロントの形をとった波が遡上するのみであった。これらの緩勾配のケースでは砕波および斜面遡上に伴うエネルギー減衰が大きいために、あまり反射波が生じないと考えられる。tanβ=1/20の場合では、汀線上の各測点において時間波形の後半に反射によると考えられる緩やかな水位上昇が見られる。一方、tanβ=1/30の場合では汀線上の各測点共に、そのような水位上昇もほとんど見られない。
(2)波先線の変化
全測点への波先の到達時刻を求め、最も陸側の各測点に波が到達した時刻を基準として波先線を描いた。
θ=30°、波条件c、tanβ=1/5のケースの結果を図-4.3.9に示す。x≦6mの範囲で汀線と鋭角に交わっていた汀線付近の波先線が、波の進行に伴い汀線から離れた沖側の波峰線とほぼ平行になるように前進した。さらに、x=4.5m付近に達すると、汀線付近の波先線は汀線から離れた地点に比べ進行方向に突出したことがわかる。汀線付近の波高の増加(図-4.3.5参照)、およびそれに伴う波速の増加によってこのような波先の突出が生じたと考えられる。この波先の突出がedge boreの形成に対応すると考えられる。このときのedge boreは、図-4.3.2に示した3種のタイプのうち渦を伴うタイプである。また、Chenが観察したedge bore背後のripple(図-4.3.1参照)は、このケースのビデオ撮影の結果にははっきりと見られなかった。
波条件bの場合では、波先の突出量はこのケースほど大きくないが、ほぼ同様の結果が得られている。同じtanβ=1/5でθ=20°、波条件cのケースでは、渦の発生は明瞭ではないがrippleは顕著に見られた(写真-4.3.1)。このケースのedge boreの模式図を図-4.3.10に示す。図に示すように斜面陸上で波先が鋭く突出し、遡上線に並ぶようにrippleの波峰線が観察された。写真-4.3.10は段波先端部の状況を示す。先端部第一波が砕波し、その後に第二波、第三波が見られる。1/5斜面上には波先の突出が明瞭であり、突出部分から波の後へ向かういくつかのrippleの波峰が見られる。
θ=30°、tanβ=1/10、波条件cのケース(図-4.3.11)では、汀線付近での波先の突出は生じていない。x≦5mの範囲では汀線付近の波先線が汀線から離れた地点の波先線とほぼ平行となっている。ビデオによると、この後波先が突出し、edge boreが形成された。渦は形成されたが、rippleは見られなかった。このケースのedge boreの模式図を図-4.3.12に示す。波先の突出量はtanβ=1/5の場合に比べ大きくないが、横断方向の幅は広くなった。また、分裂波の波峰がedge boreに集まる状況がよく観察された。
斜面勾配1/10、波条件cの条件でθ=20°のケースの波先線図を図-4.3.13に示す。x=3.2m測点より汀線付近の波先の突出がみられる。このケースではedge boreは形成されたが、渦の形成は明瞭でない。以上のように1/10勾配斜面の場合では、波が1/100勾配の水路床上を水深2~3cmの浅い領域にまで進行しないとedge boreは形成されなかった。
θ=30°、波条件c、tanβ=1/20および1/30の場合の波先線図を各々図ー4.3.14、4.3.15に示す。両ケース共斜面上の波先線は通常の屈折パターンを示し、これらの場合ではedge boreは形成されないことがわかる。
θ=20°の場合もθ=30°の場合とほとんど同じ傾向を示した。θ=20°の場合では斜面への入射角度が小さいために遡上高が小さい。そのため、tanβ=1/10の場合の図-4.3.11(θ=30°)と図-4.3.13(θ=20°)とを比べると、θ=30°の場合の方が波先線の遡上先端はより屈折した形状となっている。最後にedge boreの発生状況を表-4.3.2にまとめて記す。θ=20°と30°では、両者とも1/20より緩勾配でedge boreは形成されなくなった。渦の発生はθ=30°の方が顕著であるが、rippleはθ=20°の方がよく見られた。
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4.3.4 結論
1/100勾配一様斜面上を進行する波状段波を対象として、edge boreの挙動を明らかにするための実験を行った。実験は波の進行方向にある角度を持って交差し、その勾配が1/30≦tanβ≦1/5を満足する斜面を設置して行った。主な結論を以下に記す。
1)Edge boreはtanβ=1/5、1/10の条件で発生し、tanβ=1/20、1/30の条件では発生しなかった。
2)tanβ=1/5のケースでは、Chenの示した渦を有するedge boreが形成された。渦を伴うedge boreの形成は、陸上での波高の増加により波速が増加するため陸上の波先が突出し、その結果斜面を下る下降流、すなわち回り込み流れ(渦)が発生するというパターンを持つと考えられる。
3)tanβ=1/10のケースでは、汀線より沖で入射波と反射波が分離した水位時間波形が測定された。このケースでは、edge boreの形成による2次元的な波の変形は汀線付近より陸側で生じていると考えられれる。
4)tanβ=1/20、1/30のケースでは、汀線上およびその沖の各測点の波形に反射による水位の上昇はあまり見られなかった。これらの緩勾配のケースでは、砕波および斜面遡上に伴うエネルギー減衰が大きいために、あまり反射が生じず、斜面上で通常の屈折、遡上が生じたと考えられる。特にtanβ=1/30の場合では、各測点の水位変化記録に反射波による水位上昇はほとんど見られなかった。
5)Chenが観察したedge bore背後のrippleは、tanβ=1/5、θ=30°のケースにははっきりと見られなかった。tanβ=1/5、θ=20°のケースでは、渦の発生は明瞭でないがrippleが顕著に見られた。
6)θ=20°とθ=30°の条件で、斜面上の波の変形はほとんど同じ傾向を示した。渦の発生はθ=30°の方が顕著であった。一方、rippleはθ=20°の方が良く見られた。
4.4 河道に浸入する波状段波(Undular bore)津波の理論と実験
4.4.1 ボアの理論の背景
河川に侵入する津波の振舞いを明らかにすることは、河川堤防からの越流を防ぎ、河岸係留船や河川構造物の安全を確保す上で重要な課題である。海岸で形成されたMach stemやedge boreがV字形の湾の奥に位置する河口を経由して河道に侵入する場合には、河道側岸部で波高が高くなることも考えられる。
このような川道に浸入したあと川の中を遡る津波については日本海中部津波のさいに多くの映像がえられている。日本海中部地震の津波が河川に侵入してボアとして遡る形状をよく見ると、2つのタイプにわけることができる。
一つは段波の部分がほとんど「波状」とはならず、波の直後から平坦な水面をなしている場合であって、いわば「ステップ」状の形状をしている場合である。これは、主として津波が河口浸入してすぐのところでみられたものである。4人の釣り人が犠牲になった青森県十三湖の河口、能代市米代川本流河口にはいってきた直後の津波の形、さらにヘリコプターから撮影された八郎潟水路河口付近にやってきた津波などは、このような形状をしている。この場合には、波のところでは、烈しい渦が生じており、「水の壁が崩れながら」前進するという形をなしている。水理学の跳水の分類では「強い跳水」と呼ばれるものに対応している。いまこのタイプのボアを「強いボア(strong bore)」とよぶことにする。
もう一つの形は、ボアがいくつかの「波」を形成して進行するもので、先頭の波の「崩れ」は小さいかまったく見られないものである。この場合先頭の波(第一波)の頂点の水位高さは海側の津波の高さより高くなっているのが普通である。このタイプのボアを、「波状段波」(undular bore)、または、一見穏やかに進行するように見えることから、「弱いボア(weak bore)」と呼ぶことにする(図-4.4.1)。
ボアとは波の進行とともに、波の前面と後面の間に水位の差が見られる現象である。波の来る前と後で水位が異なっているという条件を満たすためには、波のところで必ず幾ばくかのエネルギーの消滅があることが前提として含まれている。したがって、ボアが、強いボアの形をとるにしろ、弱いボア(波状段波)の形をとるにしろ、なんらかの機構でエネルギーの消滅、散逸の効果が考慮されていなければならない。波状段波が形成される過程は一見KdV方程式系に従う孤立波(soliton)の分裂の現象に似ているようにみえる。しかしながら、KdV方程式系に従う系では、エネルギーの散逸は仮定されていない(逆にエネルギーの保存が議論される)こと、および、波の左右の無限遠方で水位がゼロに復帰することが前提とされている、という点でボアの現象と似てはいるが、本質は異なるものと考えなくてはならない。
水路を遡るUndular boreの支配する方程式については、Chester[1966]やJohnson[1970]が、水路内での水の鉛直速度分布がPoiseille flowの形をとると仮定した条件を与えて導いている。それらの理論では、エネルギーの散逸の機構としては、水の内部粘性(分子粘性、あるいは擬似的に層流分布を作り出す渦粘性)を仮定している。実際に津波の形で現れるボアにこれに対してPoiseille flow形の鉛直流速場を期待するのは無理であると考えられる。Pelinovskii[1982]は、エネルギー散逸の機構として内部粘性のみならず底面摩擦なども考慮しており、方程式中の摩擦項の表現も数種類のものを提案している。
本研究では、内部粘性的なエネルギー散逸機構から導かれる形の式を仮定し、ボアの形状の理論解を求め、河道に浸入した津波の実験結果と比較することにする。
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4.4.2 ボアの理論
粘性を無視した流体の基本方程式から、水面の変異ηの大きさは水深Dに対してε^1の微小量であり、また、現象が長波理論によって第一次近似的に説明しうる、と仮定して、水深が水平スケール(実効波長λ)に対してδなる微小量であるとする。つまり、
O(η/D)=ε、 O(D/λ)=δ
であるとする。KdV方程式の理論と同じようにδの2乗がεと同じ程度の微小量であるというUrsellの仮定をおく。その際さい水の粘性を無視して有限振幅の長波の解求めると、KdV方程式に達するが、粘性を無視しない場合には、次のKdV-Burger方程式に達する。
ここで、Coは線形近似による長波速度でCo=√(gD)、Rは粘性効果(次元は動粘性係数と同一)を表す係数であって、運動が完全に層流的に分子粘性に支配されるときには、
と置くと、Orderの見積もりによって、Qは定数となることが、知られる。Chester[1966」、およびJohnson[1970]は鉛直速度分布がPoiseille flowの形をとる場合には、この式のQの値が次に様な値となることを示した。
Q=(1-2/5F^2)/3
ここで、Fは一種のフルード数であって、F=Uo/√(gD) (Uoはボアの速度)である。
式(4.4.1)は
なる変換によって、
に移る。いまz→-∞でξ=0であり、z→+∞でξ→∞とする。ここでさらに、
および
という変換をほどこせば、
という、非線形常微分方程式に帰着する。この式は関数で表わされるような解析解は得られないが、相平面を調べることにより解の安定性を知ることができる。すなわち、V=dV/dTと置けば、(V,W)の関係式
となる。この系は原点(0,0)、および(1,0)で分母分子ともにゼロになることから、この2つの場所に特異点があることがわかる。粘性の程度を表すパラメータpを与えれば原点を発する解曲線が決まる。具体的には、(4.4.7)式をRunge-kutta法で数値積分することにより解曲線を求めることができる。
0≦p≦4なるpを与えると、原点から右下方に伸び、特異点(1,0)の周りを周回する螺旋となる一本の解曲線が決まる(図-4.2.2)。実際にこの曲線を求めるさいには、出発点となるべき原点が特異点であるので注意を要する。本研究では原点にごく近い点として、0.001x(cosθ、sinθ)なる点を近似原点とした。ここでθは任意に選べるわけではない。θは原点から出発する解曲線の角度であるから近似的に
dW/dV=W/V=tanθ
であり、(4.4.7)式で原点付近ではV-1→-1であるから、原点付近で、
tanθ=p+4cotθ
がなりたっているはずである。これはtanθの2次式であって、
となり、この関係からθが求まる。
図-4.4.2からもわかるように解曲線は(1,0)に漸近する螺旋曲線を描く。従って、(4.4.7)にRunge-kutta法を適用するさいにVの増分dVは常に正の小さい数をあたえれば良いのではない。さらに、V軸を横切るとき(W=0)にdW/dVは無限大となるため、その付近の解曲線を定めるときにはWを独立変数、Vを従属変数として
に対してRunge-kutta法を適用することになる。実際の数値計算では(1,0)を通る2本直線
でわけられる4つの領域に応じて、(4.4.8)と(4.4.10)の使い分け、dV、あるいはdWの正負使い分けを行った。
このVとWの関係を表す解曲線は多価関数であるが、適当に区分して、W=g(V)の一価陽関数で表せたとすれば、次の二種類の積分を適宜つないで、VをTの陽関数で表した数値解が得られる。
理論的にはp=0(粘性ゼロ)のときには、孤立波の解に等しく、原点を出発した解曲線は(V,W)=(1.5,0)を通るはずである。このケースに対して行った数値解の結果では、|dV|、|dW|=0.001としたとき累積誤差のために、(1.4997,0)を通った。まず数値計算としては厳密解にきわめて近いものが求まっていると判定してよいであろう。
この積分計算の結果の例を図-4.4.3に示す。pの値が0.2ぐらいのときには典型的なundular bore(弱いボア)の形をとっている。顕著な波の山を数個以上数えることができる。しかも、第一波の山の頂上の高さは、津波による水位上昇分(ζ∞)よりさらに1.4倍ほど高いところにまで達する。p=0.8ぐらいになると、明白にみえる波の数は2,3となる。そして、第一波の高さはζ∞の1.25倍の程度にとどまる。p=1.0をこえると、第一波の後に続くくぼみと、後続の波の山はほとんどみることができなくなる。つまり、p=1.0より大きいときには、水面の形は事実上単一のステップを描くだけになる。つまりこの場合がこの章の最初に提案した「strong bore」のケースに相当すると考えられる。この第一波の高さとζ∞の比率、つまり津波高さの「増幅率」を粘性パラメータpの関数として表すと図-4.4.4のようになる(図ではζ∞をbで表してある)。pがゼロに近いほど増幅率が大きいのであるが、1.5を越えることはなく、KdV方程式の理論にいう孤立波分裂のときの「最高2.0倍まで」とは明らかに違う方程式系であることがこのことからも分かる。
KdV-Burger方程式という単一の式が、Undular boreと、Strong boreの両方のケースの理論解を与えていることに注意すべきである。この理論波形を、V=Fp(T)というう関数記号で表せば、(4.4.3)、および(4.4.5)式で行った諸変換操作をすべて戻して、有次元で表記されたKdV-Burger方程式の解として、次の公式が得られる。
ここで、
KdV方程式の解としての孤立波(ソリトン)「波高」を与えると「波長」(実効値)が決ってしまうという特徴があった。逆に言うと、孤立波は波長を任意に与えることができるという自由度があった。ところがKdV-Burger方程式(4.4.1)の波状段波の解では、pの値とζ∞の値が決まると関数形が完全に定まってしまって、波高、波長とも選ぶ余地なく決まってしまう。この点も(4.4.1)式の支配する解がKdV方程式系の孤立波分裂と一見似ているように見えて、実はまったく異なるものであることが了解される。
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4.4.3 波状段波理論検証実験
前節の理論解を検証するため、図-4.4.5に示すようなアクリル製の小型水路を用いて、東大理学部地球物理学教室海洋学実験室内で模型実験を行った。装置は幅7cmの「河川部分」と、1m四方の「海」よりなっている。河口のゲートGを閉めて海側の水位を河川部より高く設定しておき、急にゲートを開くことにより、河口から遡るBore(津波)を発生させ、これをサーボ式水位センサーS1、S2、およびS3によって水位測定した。
実験で得られた波形と、KdV-Burger方程式による解(p=0.2)との比較例を図-4.4.6に示す。この小水槽実験に関する限り、理論波形は観測波形とかなりよい一致を示しているといえる。
ところで、(4.4.1)式中の粘性パラメータpについては理論的にどの様な値をとるかをよそくすることは難しい。pは内部粘性だけではなく、川の底面の粗度に左右されるであろう底面摩擦にも大きく左右されるからである。また内部粘性のも、水の分子粘性の値とすべきか、あるいは乱流的な渦粘性を考慮すべきかは明らかではない。つまりは、数多くの実験を通じて定められるべき数である、ということになる。
われわれが行った個々の実験のケースについて、(4.4.1)式のpがどのようにさだまるのかを調べてみた。横軸にζ∞(津波による海側水位の上昇量)を川の上流側深さD1で割った数を取り、縦軸に実験結果の波形から理論解に合わせたpの値を取ると、図-4.4.7のようになる。これでみると、ζ∞/D1が0.6以上、つまりボアの前面と後面の水深比率が1.6を超えるとき、p=1.0以上となって、事実上ステップ状の水面形をなすStrong boreとなり、これ以下のとき、ボアが波状をなすUndular boreの形を取ることが判明した。
図-4.4.8は縦軸にボアの前面水深h1、横軸に後面水深h2をとり、目視でstrong boreと成ったか(●)、あるいはUndular boreとなったか(○)を区別した結果をプロットしたものである。この比率が1.6のあたりできれいにこの2つの場合に分かれている。この小水槽実験では、ボア前後の水深比率1.6のときがこの両タイプのボアのいずれになるかを分かつ限界であると判定される。ただし、この結論がより大きな実験水槽、あるいは実際の津波にもあてはまるかどうかについては、いま少しの検証を要する。
図-4.4.9は、横軸にボア前後の水深比率、縦軸にUndular boreの第一波の増幅率の実測値をとったものである。○と●の区別は前図と同じ。増幅が起きるのはUndular boreの形を取る場合(○)のみであって、その増幅率は水深比率が1.0に近いほど大きく、しかも1.5を超えることがなかった。つまりKdV-Burger方程式の理論にきわめてよく対応する結果がでた。このことは、川を遡る津波が前述のKdV-Burgerの方程式によって、きわめて適切に表現されていることを示している。
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4.4.4 ラッパ状河口から河道に進入する波状段波の実験
本節では、河口がラッパ状にすぼまり、河道につながる水路に進入する津波の様子を調べた大規模実験について述べる。実験は土木研究所の室内水槽で行った。
Mach stemやedge boreが河道に進入し、変形する過程については、これまでの研究成果のなかで応用できるものは少ない。さらに、Mach stemやedge boreが河道を遡行する際にどのように変形するかについても不明な点が多い。
ここでは、河口周辺の海岸線を直線の鉛直境界壁とし、境界壁に沿って変形した波が河道へ浸入し、河川を遡行する際に生じる波の変形を解析的、および実験的に明らかにする。波の入射方向に対する境界壁の角度を変え模型条件を設定した。水位変化の測定にあたっては、特に河口の隅角部に細かく測点を配置し、1ケースあたり約100点で水位時間波形の測定を行った。
実験は、津波水槽内に鉛直壁を持った河道側岸を設け、奥行き8mの河道を造り、河口に続く直立境界壁の傾き角θと河道幅Bを変えて行った(図-4.4.10参照)。鉛直壁はラワン合板で製作した。模型条件として、Bは2、4、8mと3ケース変え、またθも30、45、90(°)と3ケース変え、合計で9ケースとした(表-4.4.1)。
また、河道部を水平にするため水路床を水平に改造した。静水深は河道部で8cm、起潮装置前面で29.85cmと設定した。
実験はe、f、2ケースの波条件を用いて18ケース行った。波条件eは波状段波より孤立波に近い波条件である(図-4.1.7参照)。また、波条件fは典型的な波状段波の条件である。実験では図-4.4.11~4.4.13に示す測点で、水位時間波形の測定を行った。また、ビデオにより波の変形状況を撮影した。
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4.4.5 実験結果
(1)水位時間波形の空間変化
B=4m、波条件fのケースについて、θを変えた場合の河口隅角部近傍における水位時間波形について以下に論ずる。θ=30°のケースの測定結果を図-4.4.14に示す。θ=30°の条件では実験I(4.2章)で示したようにMach stemの発生が見られた。x=9.0mの測線上では、10.42m≦y≦11.55mの範囲でy≧12.05mの範囲に比べH1が高い。また、10.42m≦y≦11.55mの範囲の波形には反射波の波峰も見られないことから、この範囲の先端部第一波はMach stemと考えられる。Mach stemの形成状況を写真-4.4.1に示す。壁近傍の測点(9.0m、10.42m)と測点(8.5m、10.71m)の波形を比較すると、後者ではH1が低下している。これは、Mach stemが砕波したことを表わしている。一方、y=13m測線上ではx=7.5mと8.0mの間に砕波点があり、砕波位置が横断方向にかなり異なることがわかる。x=8.0m測線上では各測点のH1の差が大きいのに対し、x=7.0m測線上では各測点のH1はほぼ等しくなっていることから、横断方向の波高分布が急速に一様化したことがわかる。砕波後の段波の状況を写真-4.4.2に示す。写真に見られるように、河道浸入後、段波先端部の混合域は横断方向に急速に広がった。
θ=45°のケースの結果を図-4.4.15に示す。実験Iでは、θ=45°の場合にMach stemは形成されずに通常の反射が生じた。河口到達直前の段波先端部の波峰を写真-4.4.3に示す。横断方向と平行な入射波峰と、その波峰にほぼ直行する反射波峰が明瞭に見られる。図-4.4.15には、反射第一波と判断される波峰を細い矢印で示した。x≦8mの河道内に位置する測点の波形を見ると、ほとんどの波形に反射波があり45°傾いた境界壁からの反射波が河道内に回折したことがわかる。また、x=7.5mと8.0m測線上では、y=11mに位置する側岸に近い測点ほど入射波と反射波の位相差が小さくなる。波形に太い矢印を付けて示した波峰は、傾いた境界壁から反射した波の回折波が入射波に追いつき重なって形成されたと考えられる。すなわち、河道内を波が進行するのに伴い、y=11mにある河道側壁に近い測点により順に回折波が入射波に追いつき波高を増し、その後砕波している。写真-4.4.4は河道内での先端部第一波波峰の進行状況を示す。側岸近くでは砕波しており、砕波している波峰より反射波峰が沖に向かって延びている。この反射波峰が河道横断方向(写真下側)へ進行しつつ、入射波峰と重なったと考えられる。
図-4.4.15において、x=9.0m測線上を横断方向に見ると、y=14.95mでは分裂波がなく段波部の波高Hoが約4cmなのに対して、y=10.05mではH1=11.6cmであった。一方、x=7.0m測線上では、y=14.95mのH1=6.3cmに対してy=11.05mでH1=5.9mである。このように河道内では横断方向波高分布の一様化が進行したことがわかる。θ=90°のケースの結果(図-4.4.16)にも、反射第一波と判断される波峰に矢印を記した。このケースでは段波先端部の波形はx=8.05m、y≦11.05mの測線を除くと横断方向にほとんど変化していないため、入射波と反射波の区別が明瞭である。x=8m線上にある水路横断方向の鉛直壁から河道内に反射波が回折しているが、その影響は非常に小さい。x≦7.55mの範囲の河道内では横断方向にほぼ等しい波形を有する波が進行していることがわかる。
次にθ=30°の場合について、鉛直境界壁およびそれに続く河道側岸に沿う測線上と横断方向測線上のH1の分布を調べた。図-4.4.17はB=2m 、波条件eにおけるH1の分布である。上段が壁に沿う分布、下段が横断方向の分布を示す。H1の横断方向分布は河口を横断する測線、およびその沖側約1m、岸側(河道内)約1.2mに位置する合計4本の測線について示した。壁沿いでは、原因は不明であるがx=14mより12mの間でH1は減少している。その後、x=10mまでH1は急激に増し、河道内では増減を繰り返している。7.5m≦x≦8m区間での波高減少は砕波によるものであり、その後の増減は対岸(y=15m)からの反射波によると考えられる。横断方向の波高分布では、河道内の波高のピークが波の進行と共に の大きいほうに移っている。すなわち、河口から上流側に1.2m離れたx=7.2mの測線上では、y=13.9m付近で波高は最大となるのに対し、x=6mでは対岸(y=15m)で波高が最大値を示す。
B=2mで波条件fのケースにおけるH1の分布(図-4.4.18)では、河口浸入直前(8m≦x≦9.5m)で砕波によりH1が急激に減少した。横断方向の波高分布を見ると、x=8.8m測線上では、砕波の為12.5m≦y≦13.3mの範囲のH1はy=13.8m付近のH1より小さい。河道進入時(x=8m)のH1のピークはy=14.5mにあり、その後x=6mでは対岸(y=15m)近くでH1が大きくなっている。
B=4m、波条件e、fのケースのH1の分布を図-4.4.19と図-4.4.20に示す。壁に沿う波高分布によると、波条件eではx=8mの河口付近で、波条件fでは河口沖1m(x=9m)付近で砕波が生じたことがわかる。波条件eのケースの横断方向波高分布によると、河道内のx=7mでも河道側岸(y=11m)近くで依然波高が高い。測点(6m、11m)の波高は、測点(8m、11m)の値の約1/2まで低下したが、x=6m測線上のy≦13mの河道中央より側岸寄りでは依然として波高が高い。入射波工の低いこのケースでは側岸部の波高の高い領域(Mach stem)が、比較的緩い速度で河道中央へ広がったことが分かる。一方、波条件fのケース(図-4.4.20)の横断方向波高分布によると、x=9mからx=8mの間で壁近くのH1が急激に小さくなった。そして、x=6mではほぼ一様な波高分布になっており、波高分布の一様化が急速に生じた。入射波高の高いこのケースでは砕波による段波先段部での混合が激しいため、波高分布の一様化が横断方向へ急激に進んだと考えられる。
B=8m、波条件eとfのケースのH1の分布を図-4.4.21、4.4.22に示す。これらの結果はB=4mの場合(図-4.4.19、4.4.20)の波高分布とほぼ同じ傾向を示し、横断方向波高分布の変化過程が明らかである。すなわち、波条件eのケース(図-4.4.21)では、波の進行に伴い横断方向の波高分布のピーク位置が河道中央(yの大きい方)へ移動している。しかし、波の進行に伴うその変化は比較的緩やかであり、河道側壁(y=7m)近くでH1が大きい期間が長いことがわかる。一方、波条件fのケース(図-4.4.22)では、横断方向の波高分布を見ると壁近くのH1が急速に低下し、x=6mでは横断方向にほぼ一様なH1の分布になっている。
以上のように、河道幅の広いB=4、8mのケースでは、波条件により河道内における波の変形状況が異なる。入射波高の低い波条件eの場合では、壁近くの波高が高い領域(Mach stem)がそのピーク波高を低下させつつ徐々に河道横断方向へ広がった。一方、入射波高が高く砕波による段波先端部での混合が激しい波条件fの場合では、河道横断方向の波高の一様化が急速に進行した。
次に、B=4mでθ=45°、90°の場合の壁沿いおよび横断方向のH1の分布について考察する。ただし、θ=90°の場合の壁に沿うH1の分布は、河道側壁沿いおよびその延長上のy=11.05m測線上での分布を示す。θ=45°、波条件eのケース(図-4.4.23)では、壁に沿うH1の変化はあまり大きくない。H1は河口より約0.5m沖(x=8.5m)で砕波して低くなった後、x<8mの水平床上ではほぼ一定である。横断方向の波高分布も一様に近い形状を持ち、河道側壁(y=11m)近くでややH1が大きいのみである。波条件fのケース(図-4.4.24)の壁に沿うH1の分布を見ると、河口(x=8m)までH1は急激に増加し、砕波により急激に低下した後、x<6.5mではほぼ一定となった。横断方向分布によると、測点(8m、11m)と点(9m、10m)に明らかなように境界壁近傍のみ局所的にH1が大きいが、河道内に位置するx=7mと6m測線上ではほぼ一様な分布になっている。θ=90°のケース(図-4.4.25、4.4.26)の壁に沿うH1の分布を見ると、両波条件ともに河口(x=8m)周辺を除いて河道内のH1の変化は小さい。横断方向のH1の分布も、x=8.05mにおいて反射によりy≦11mの範囲でH1の増加がみられる他は一様な分布になっている。
(2)波先端の変化
河道内での波高の一様化にみられるような波の場の横断方向変化を、波先線の変形の面より検討する。波先線の描き方は実験IIと同様である。以下ではBが4mと一定の場合について述べる。θ=30°のケースでは壁沿いにMach stemが形成された。図-4.4.27と図-4.4.28を見ると、波条件e、fともに河口部(s=8m)付近で波の進行方向に30°傾いた境界壁近くの波先の突出した部分(Mach stem)が河道内へ広がっていく状況がみられる(両図y=11~13mの範囲)。砕波に伴う波先端部での混合が激しい波条件fのケースでは、波条件eのケースに比べ7≦x≦8mの範囲で壁(y=11m)近くの波先の突出量が大きい。しかし、x=8mからx=1mにかけて壁近くの波先端の突出部分が急速に広がり、横断方向に直線状の波先を示すようになった(図-4.4.28)。このことから、段波先端部の混合が激しい波条件fの場合に横断方向の波の一様化が早く進行することがわかる。θ=45°のケース(図-4.4.29と図-4.4.30)では、波条件e、fともに壁面近くの波先線は河口(x=8m)付近においてあまり突出していない。
ただし、波条件fのケースでは、x=2~5mの範囲で河道側岸(y=11m)に近いほど波先は進行方向に突出している。これは、45°に傾いた境界壁からの回折波が入射波に追いついて先端部の波高が増し、そのため波速が増加したことによると考えられる。(図-4.4.15参照)。このように、θ=45°の場合では波の進行方向に傾いた境界壁から反射した波が河道内に回折し、波の進行に影響することがわかった。
θ=90°のケース(図-4.4.31と図-4.4.32)では、波条件e、fともに河道内を横断方向にほぼ平行に波先線が進行している。θ=90°の場合、河口部での波の変形の影響は河道内にほとんど及ばず、河道内を一次元的に波が進行することがわかる。
(3)結論
1/100勾配の一様斜面上を進行する波状段波が、海岸で変形した後、河道へ進入して河川を遡行する際の変形を実験的に明らかにした。実験によって得られた主な結論を以下に記す。
1)河道幅B=2mのケースでは、河道に進入した波が河道両側岸で反射を繰り返し、横断方向に一様化した。河道幅B=4、8mのケースでは、波条件により河道内での波の変形状況が異なった。入射波高の低い波条件eでは、河道側岸部の波高が高い領域(Mach stem)が河道横断方向へそのピーク波高を低下させつつ徐々に広がった。一方、入射波高が高く、砕波による段波先端部での混合が激しい波条件fでは、河道横断方向に波高の一様化が急速に進行した。
2)θ=30°のケースでは、段波先端部の混合が激しい波条件fの場合に横断方向の波の一様化が早く進行した。また、θ=45°のケースでは傾いた境界壁から反射した波が河道内に回折し、波の進行に影響することがわかった。θ=90°のケースでは、河口部での波の変形の影響は河道内にほとんど及ばず、河道内を一次元的に波が進行することがわかった。
1/100勾配を有する一様斜面上を進行する波状段波を対象として、その先端部第一波に着目してMach stem、edge boreの挙動、および河道内に波状段波が浸入する際の変形を実験的に明らかにした。Mach stemに関しては、波高分布やMach stemの広がりについてMelvilleが行った実験と定性的には同じ傾向が得られた。水平床上の孤立波を対象としたMilesの理論やMelvilleの実験とは定量的比較に無理があり、別の理論的枠組が必要である。
Edge boreについては、1/100勾配斜面上を進行する波状段波に関して、波の進行方向に対する斜面の傾き角、斜面勾配、波条件ごとにChenが示したedge boreの形態を整理できた。また、斜面勾配がtanβ=1/20以下に緩いとedge boreは形成されないことを示した。今後実験データよりedge boreの形成機構をさらに検討する必要がある。
河道浸入時の波の変形に関しては、海岸線の傾き角、波条件の違いによる河道内での波の変形の相違を示した。段波先端部での混合が激しい場合には、河道内で波高の一様化が急速に進行し、波峰は横断方向に直線状に変化することがわかった。一方、混合が弱い場合には、河道側岸部の波高が高い領域(Mach stem)は比較的ゆっくりと徐々に河道中央へ広がった。
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第5章 津波数値計算精度の向上
5.1 序
津波の数値解析は,長波に対する方程式を差分化して行なわれる.この時,誤差は,(1)どの方程式系を使用するか,(2)どの様な差分化を行なうか,(3)空間格子,時間間隔の大きさはどの程度であるか,によって左右される.これらの問題は相互に関連し合う部分も有り,必ずしも独立に議論できるとは限らない.ここでは,差分化のスキームとしてはリープ・フロッグ法を採用する事を前提に,所要の精度を得るために必要な基本方程式系の種類や格子間隔の大きさについて検討する.
5.2 基本方程式の選択
5.2.1 深海計算(近地津波)
波源域における津波は,その波長が数10kmから100kmの程度,波高は数mの程度であるのに対し,水深は数kmの程度であるから,線形長波であるとの仮定がよい近似を与える.伝播により津波は波形を変えるが,通常水深50mくらいまでは深海とみなし,線形理論で計算しても差し支えない[例えば,土木学会水理公式集昭和60年度版].線形長波の方程式は連続の式,運動の式からなり,次の通りである.
ここで,ηは水面の鉛直変位,ξは海底面の鉛直変位, M, Nはx, y方向の単位幅当たりの流量, hは静水時の水深,gは重力の加速度である.
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5.2.2 浅海計算(近地津波)
浅くなると,移流項や海底摩擦項を加えないと誤差が大きくなる.
これは波源域を含まない時の式であり,もし波源が含まれる場合には,連続の式の右辺に式(5.2.1)と同様の項を必要とする.さらに,水深の項は(h+η)の代わりに(h-ξ+η)としなくてはならない.Qは(M^2+N^2)^-1/2で与えられる合流量,fcは摩擦係数であり,底面の摩擦を比較的性質の良く知られているマニングの粗度係数nを使って与えるには,fc=gn^2(h+η)^-1/3とする[例えば,土木学会水理公式集昭和60年度版].
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5.2.3 浅海における分散項を含んだ式(近地津波)
波高の大きい津波が浅い海を十分長く走ると,水位の高い背後が次第に波先端に追いつき,それに伴って先端部付近での水粒子軌道の曲率が大きくなる.このため水圧分布は静水圧からずれ,水平流速の鉛直分布も一様分布からはずれて来る.この時,浅水理論では表現出来ない現象が生ずる.波先端部で短周期の波群が発生し成長するものであり,分散効果と呼ばれる.Boussinesq以来これを取り入れた長波の式は数多くあるが,ここでは最も新しく,線形の分散項のみなちず,非線形項の一部をも含んだ2次元の後藤の式[後藤,1984]を以下に示す.
ただし,M=(h+n)u,N=(h+n)v,D=h+n, F1= , F2= ,
である.式(5.2.8),(5.2.9)の右辺が分散項である.ここには,海底摩擦を含んでいないが,必要ならば式(5.2、5),(5.2.6)の右辺第2項と同じ表現とすればよい.
分散によって生ずる波群の波長は100mの程度であるから,計算格子の寸法は大きくても10mを越えてはならないであろう.本来はさらに小さい格子とするのが望ましいが,地図作成時の測量の精度がこれに対応したものになっているか疑われる.このように格子数も極端に増え計算時間がかかり,しかも高階の微係数を含んでいるので計算が困難になる.こうしたこともあって,分散項を入れた2次元計算の実例はまだ報告されていない.
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5.2.4 津波の大洋伝播(遠地津波)
太平洋を横断して伝播しつつある津波は,水深に比べ波長が長く,波高が小さいので線形として扱ってよいが,コリオリの力と分散項を考慮すること,地球が球形である効果の作用があるので緯度経度座標を使用することが必要となる.ただし,沿岸に来ると上記の様に非線形項や摩擦の効果が効くので,浅水理論を使用しなくてはならない.そこで,伝播計算と遡上計算をわけ,伝播計算の出力を遡上計算の入力として使用すればよい.
まず,分散項の入っていない線形長波の式は次の通りである[今村・後藤・首藤,1986].
ここで,Rは地球の半径,(θ,λ)は緯度・経度座標, N, Mはそれぞれの方向の単位幅当たりの流量, fはコリオリの係数,ηは水位, gは重力の加速度である.
線形波理論によると,初期波形は形を変えずに伝播する.しかし,初期波形は単一の正弦波からなっているとは限らず,様々な周波数成分を含んでいるのが普通である.わずかではあるが,周波数毎に波速が異なるので,長時間伝播すると次第に短周期成分ほど遅れが目立つようになる(図-5.5.3を参照).こうした効果は分散項を含んだ次のような式で表現できる.もともとこれと類似の方程式はBoussinesqによって導かれており,非線形項を含んでいた.津波の大洋伝播では非線形項は必要が無いので省略してある.移流項を含まないので,線形Boussinesq方程式とよばれている[今村・後藤・首藤,1987].
後にふれるように,差分化の際に不可避的に持ち込まれる数値分散項を利用する事により,線形長波の式によっても分散効果を含んだ計算が可能となる.
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5.2.5 方程式の適用範囲
以上に述べた方程式は,現象毎に使い分ける必要がある.問題となるのは,線形と非線形の領域,分散項を必要とするか否かの判定である.いくらかでも量的に判定しようとすれば,例えば首藤(1976)の研究などを参照すればよい.
しかし,目的が津波による最大の遡上高を求める事であり,波形の詳細や流速,波圧等を求める事でなければ,概略次の様に判断しても大きな間違いは生じない.すなわち,近地津波にあっては水深50mまでは深海であるとし,線形理論で計算する.それ以浅では浅水理論を使用する.遠地津波にあっては大洋伝播の計算でも分散項を省略する事は出来ない.Boussinesqの線形理論を用いるか,後に述べるR.D.値を1になるように設定して線形理論で計算する.
もし,主要な目的が波形,流速,波圧を再現する事であったとすると,特に沿岸では非線形項や分散項を同時に含んだ式によらなくてはならないが,その精度についての検討は現在ではほとんどなされていない.今後の重要な課題である.
5.3 計算の安定性
津波数値計算に使用されている線形長波,浅水理論,分散項を含んだ式などは,いずれも波動方程式の近似式である.
従って,陽解法を用いる場合,いわゆるC.F.L.条件が計算の安定を保証するために必要とされる.空間格子の寸法をΔx,時間間隔をΔt,このメッシュでおおわれる海域の最大水深をhmとすると,2次元の場合 (Δx=Δyの場合)
という式で与えられる.
分散項まで入れた1次元計算では,全水深Dを使用して,もう少し厳しい安定条件が要求される[Goto&Shuto,1983].
浅水理論を使用すると波速は水位の高い方が早いから,波先端に津波背後の山が追いつき砕波が生ずるか,或は砕波とはならないまでも水面傾斜がきわめて急峻となる場合がある.このような場所では数値的な振動が発生し易く計算の続行が不可能となる.これを防止するには,減衰効果の大きい計算スキームを採用するのも一つの方法である.しかし,この場合水面傾斜の大きい部分にだけ適用するという訳にはいかないから,採択したスキームの波形全体に対する効果を確かめておく必要が生ずる.数値計算に常用されているリープ・フロッグ法の使用を前提に,もし傾斜の大きな部分にのみ適用できる方法があれば,その方が望ましい.1方法として,人工的な拡散項を導入し数値的な振動を消去する試みがある[Goto&Shuto,1983].
図-5.3.1は,斜面上の津波の計算例である.Case Aでは,格子間隔は12.5m, Case Bでは25.Omとしてある.いずれも通常の浅水理論による計算で,格子寸法の2倍の波長を持つ振動が生じており,数値的な振動である事がわかる.これに次の様な人工的な拡散項を入れて計算すると,Case Cの様に振動が消え,
正しい波形が得られる.
ただし,β1は次の様に選択して使用する.
ここで,γの値を適切に選ぶと,この拡散項は数値振動の生じやすい区域でのみ作用しその他では働かない.図-5.3.1の計算では,β1=1.O, γ=0.5としてある.
この拡散項を入れた計算での安定条件は次のようにC.F.L.条件を修正したものとなる.
こうした人工的な拡散項は数値的振動を抑えるが,逆に効きすぎると波面の傾斜が緩やかになりすぎる.
これをさらに調節する手法もある[Goto&Shuto,1983].
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5.4 打ち上げ高の計算精度向上
津波先端は移動境界であり,その場所が時々刻々変化する.従って空間に固定したオイラー座標系では扱いにくい.水粒子に固定したラグランジュ座標系なちばこの難点を解消できるが,水粒子の行き先は必ずしも出力を得たいと考えている地点とは同一ではなく,複雑な地形を対象とする現実問題では必ずしも妥当な座標系ではない.このため,先端部を堰で近似的に表現する相田の方法や,1格子背後の量で近似する岩崎・真野の手法が,オイラー座標系の方程式と組み合わされて使用される.ただし,近似的な先端条件であるから,注意しないと誤差を生ずる可能性がある.
誤差の生ずる原因は,空間格子の寸法に関して平均化がなされること,最先端空間格子への海側からの入力がこの格子での振動を生じさせる外力項として作用し格子寸法に支配される固有振勤が生じ得ること,などであろう.こう云う観点からすると,斜面勾配α,重力の加速度g,格子寸法Δx,津波の周期Tに関係する無次元数が計算精度に関連するパラメタとなる.図-5.4.1(a),(b),(c)は,このパラメタと計算結果の精度を比較したものである.(a)はラグランジュ座標による計算結果で,境界条件が物理的にも正しく表現されているから,Δxの取り方如何は結果にほとんど影響していない.(b)は相田の方法,(c)は岩崎・真野の方法による.この両者のいずれを取るにしても,Δx/αgT^2が大きくなると誤差が増える.誤差を5%以内に抑えるためには,次式の条件が満たされるように空間格子を選ばなくてはならない[Goto&Shuto,1983].
そのほか,現実の遡上計算における問題として,水没・露出を繰り返す地点での水深ゼロの判定がある.津波遡上計算に対してこれを検討した文献は無いが,洪水氾濫やダム破壊問題で検討した例がある.洪水氾濫の一数値実験では,最大水深14cm位の場合,先端水深0.O1mm, O.1mm,1mm以下を地表露出と判定する様にしても,フロントの位置の再現には差がなかった事が報告されている[中川・高橋・加納,1983].またダム破壊問題では,打ち切り水深の貯水池内水位h1に対する比が0.OO5より大きいと先端の進行速度が遅れるが,これ以下なら差が無いとされている[松富,1985].この様にどの位の水深をもって露出していると判定するかは,場合によっては計算結果に影響を及ぼしかねないが,通常の津波遡上計算では5mm-10mm位より薄くなれば水が無いと判断している.
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5.5 数値拡散項,数値分散項の発生と対策
5.5.1 数値拡散項の発生原因
数値拡散項は,運動方程式の移流項の差分化から発生する.後藤・小川(1982)はこの説明のために,最も簡単な移流方程式として次式を考える.
ここでCは伝達速度である.この式をリープ・フロッグ法で差分するとき,時間微分に対して前進差分を使用すると,次の様に表わされる.
また,空間差分には中央差分を採用すると,移流項は
と与えられる.従って,未知量は次のように解かれる.
この差分式を解くことは,式(5.5.2)を考えに入れれば,Δt^2+Δx^2のオーダーで,次の微分方程式を解くことに相当している.
この第3項は,式(5.5.1)の関係を2度使用して,xに関する2階微分に書き改め得るから,
の様な拡散項を含んだ式を解くことになっているのである.
このように移流方程式をリープ・フロッグ法で差分化すると,数値粘性で現わされる拡散項を通じてエネルギー逸散が起こる.もっとも,上の式(5.5.6)の表現では,負の拡散項であるが故にFを集中させる働きがあり,この場合誤差を集積して,ついには計算が不安定となる.従って,計算を安定に続行するためには,移流項の差分をCが正の時は後退差分,負の時は前進差分とする,いわゆる風上差分を採用して差分の安定化をはかる.それぞれにつき,
前進差分(C<O)では
後退差分(C>0)では
を解いていることに相当する.常に数値拡散係数が負にならないように選ぶから計算は安定化するが,今度はこれに起因するエネルギー逸散は避けがたく,伝播に伴い波高が減少する.
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5.5.2 数値分散項の発生
差分化による分散項の発生は,線形長波の方程式を例にとると,以下の様に説明される.これは移流項を含まない式であるから,前項とはまったく発生原因が別である[今村・後藤・首藤,1987].水平床における線形長波の連続の式,運動の式は
で与えられる.ここで,Ca=(gh)^1/2, hは静水深である.
リープ・フロッグで差分化すると,次のように表わされる.
これらの式は,5.5.1でと同じく打ち切り誤差を含んだものであり,これらを解くことは,結局は次のような微分方程式を解くことに相当している.
ただし,前例と同じく誤差項のうち最大のもののみを考えている.ここで,第3項は,差分化により生じた分散効果を有する項で,係数中のkはCθΔt/Δxである.
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5.5.3 数値拡散項,分散項の効果による波高変化
数値的に含まれる事となった拡散項は津波のエネルギーを消散させるので,波高は伝播に従って減少する.分散項は津波の主峰から高周波成分を分離させる様に働き,その結果波形及び波高に変化をもたらす.
こうした影響の大きさは,式(5.5.6),(5.5.7),(5.5.8)あるいは式(5.5.13)の拡散項や分散項の係数に依存しており,時間格子・空間格子の寸法が関係して来る.
図-5.5.1(a),(b),表-5.5.1はこの点の検討をした結果である[長谷川ら,1987].支配方程式は線形長波で,一様水深の一次元水路の境界から単位振幅の正弦波を入力して,伝播に伴う波高減衰の関係を調べている.ここで使用されているパラメタは2個である.一つはM値であり,C.F.L.条件で決められる時間格子間隔の最大値Δtcで実際に使用したΔtを割り,それ(Courant数に相当)を100倍した値である.他はN値で,津波波長LをΔtで割った値であり,言い替えれば 波形をどれだけなめらかに表現したかを表わす,波形の分解能とも云うべき量である.
図-5.5.1から判る通り,波高変化に与える影響はN値の方が大きい.日本近海での近地津波を対象とする事を考えると,一定水深が4波長以上続くことは稀である.従って,4波長伝播しても波高減衰が5%以下にとどまるという条件を設定すると,あまり誤差の入っていない波形を次の水深条件の区域への入力として使用できる事となり,最終結果への誤差の集積が少なくてすむに違いない.この様な条件は,表-5.5.1で枠をつけたM値とN値の組合せで満たされる.一般的に云うと,N値が20以上は必要とされるのである.
表-5.5.1は,その基が線形長波であるから,前項の議論からわかる通り,数値分散の効果を検定した結果である.
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5.5.4 数値分散項の利用
数値分散項は,波形の変化をもたらすから,物理的に正しい波形が得られるよう,その取扱には十分注意が必要である.この性質を逆手にとり,低次の方程式でも高次の近似解に近い結果を得る事も出来る.
その例を以下に示す.
遠地津波の大洋での伝播は,水深が大きく,波高が小さく,波長が長いので,線形長波の式が良い近似を与えると思われがちであるが必ずしもそうではない.走行距離が長いため,周波数毎の波速の差が次第に効いてきて,長周期成分に対して短周期成分が遅れて来るという分散効果が生ずる.線形長波理論では,波速は水深のみで決まるから,波形は変形せずに伝播し,分散効果は生じない.これを表現するには,Boussinesqの式の様に分散項を含む式を使用しなければならない.移流項は小さいとして省略すると,線形Boussinesq理論と呼ばれる次式となる.ここでは,水位ηに関する式として表現されている.
これと式(5.5.13)とを比較すれば,ともに第3項が分散項である.線形長波理論であっても,数値的に入り込んでくる分散項の係数が式(5.5.14)の物理的に正しい分散項のそれと一致する様に空間格子間隔を選べば,より高次近似の線形Boussinesq理論と同等の効果を期待出来る.式(5.5.13)のkは,空間格子,時間格子の寸法のみでなく,Cg=(gh)^1/2をも含んでいるので,場所によって変化する水深毎に格子間隔を選び直さねばならないから,事はそう単純ではない.現実の計算では,対象区域全体の平均水深に対応するような波速に対し,数値分散項の効果が物理的なそれと同等になるように選べば良いであろう.すなわち,式(5.5.13),(5.5.14)の第3項の係数の比として次式で与えられるR.D.値を1に近いように選べば,線形長波近似で計算しても高次近似と似た効果を挙げる事となる.
図-5.5.2は,1964年アラスカ津波を例にとり,線形長波理論の差分化による数値分散効果を調べた計算例である.計算格子間隔が大きくなるほど,副断層に起因する鋭い波形が再現できないこと,背後に大きな分散波を生じて結果主峰が減衰し全体の波形の変形が大きいことが判るであろう.
図-5.5.3は,R.D.=O.21(Δx=2km)の時の,支配方程式による波形の差を示すものである.この計算とR.D.=1.08とした図-5.5.4とを比較すると,数値分散項の適切な選択が線形長波の解を高次近似である線形Boussinesqに近付けている事が明瞭に判る.少なくとも主峰に対してはほとんど差がなく,それに続く波群でも,位相の差は無視できないものの,波高はきわめて近い値を取っている.
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5.6 領域の接続
5.6.1 誤差の原因
陸上での津波遡上計算を精度良く実施するには,水深が浅くなるのに対応して空間格子の寸法を小さくする必要が生じて来る.波源の位置では水深が大きいので通常数kmの大きさの空間格子となるが,陸上部では時として20m程度の格子寸法となることもある.対象地域全体を一気に計算しようとすると,格子点数がきわめて大きくなり,計算機容量を超過する事態も発生する.
このような時には,外海域と内海域,あるいは遡上域とに分割して計算を行なう.まず比較的粗い格子を採用して,外海計算と呼ばれる全海域に対する計算を実行する.もちろんこの時,内海域をも含んでいなくてはならないが,そこでの格子寸法は大きいままにしておいて計算する.ただし,陸上への遡上は計算せず,汀線あるいはその近くに鉛直壁をおいて固定境界とし,そこでは完全反射の条件を設定する.内海計算領域の海側境界にあたる位置で得られたこの外海計算の結果を,内海計算の入力として採用する.この時,外海計算の結果は,入射波,反射波の重合したものである事に注意しなくてはならない.反射波は,実際の海岸地形をごく粗く近似した海岸から反射してきたもので,これをそのままにして内海計算や遡上計算の入力として使用する事は,粗い近似の海岸からの反射を正しいものと認めた計算をする事になり,遡上計算の詳細をすでに束縛する条件として採用した事になってしまう.この様な事を避けるには,内海計算領域の境界で,外海計算出力を入射波と反射波とに分離し,その入射波成分のみを入力し,反射波を自由透過せしめるする境界条件を設定すればよい.
このように外海,内海に分けて計算する時,誤差の入り込んでくる原因には,次のような事が考えられよう.まず,(1)外海計算の出力は大きな格子に対して与えられており,これを内海計算の入力にするには小さな格子に内挿して配分するが,この時に生ずる内挿誤差,(2)汀線を完全反射の鉛直壁と仮定したために生ずる外海計算の波形の誤差,(3)内海計算への入力として入射波を分離する際には線形波と仮定することが多いのでこれに起因する誤差,などが挙げられよう.
(1)の種類の誤差は,外海,内海に分割する計算でなくとも,岸に向かって次第に格子を細分化するときには避けられない.通常,区域接続の場所では,格子間隔を半分,あるいは3分割してつなぎ,満足すべき結果が得られている.接続の状況がうまくいかないと,ここで数値的な振動が生じ,時には不安定になることがあるので注意しなければならない.しかしながら,接続条件の違いと差分スキームの差による不安定問題や計算精度については,研究されていない.
(2),(3)については,次項以下にしめす研究がある.
5.6.2 仮想汀線の効果
(2)については,一次元,一様勾配の斜面上の線形長波に関し理論的に研究した例がある[泉宮・磯部,1986].まず,臨時の鉛直壁を汀線(x=0)からx=rの距離に設置して外海計算を行い,その結果から距離x=lの地点での入射波を分離して求め,それを岸側の内海計算への入力とした場合,当初から遡上計算を行なったものに比ぺ,どの様な差が生ずるかを検討したものである.無次元数z(x)を,津波の周期T,海底勾配α,重力の加速度g,汀線からの距離xで次のように定義するとき,
x=lで接合した事による遡上高の,本来あるべき遡上高に対する比Rは,次式となる.
ただし,Jθ,J1,Y1はz(r)に対する零次,一次のペッセル関数,一次のノイマン関数である.
いま,仮想汀線を鉛直壁としても,その位置を現実の汀線に設けるならば,この比は1となり,誤差は生じない.しかし,この仮定では,仮想汀線を設置する利点はない.浅い場所で津波の引きの時点で海底が露出し,その条件を満たすために,移動境界を導入し,結局は遡上計算を必要とするからである.外海計算では,海底を露出させない深さの位置に鉛直壁を設置するのがよい、つまり,ある程度の水深,例えば10m位の所に鉛直壁をおくと計算が楽に実行出来るのである.例として,水深50mに鉛直壁をおき,海底勾配1/50,津波卓越周期10分とすると,Rは0,95となる.このことは,津波の数値計算において領域を分割して入射波成分のみをその境界で入力すれば,同時に全領域を計算した結果と比較して,遡上高にして約5%の誤差しか生じないことを意味している.
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5.6.3 特性曲線による境界条件の分離
外海内海の接合地点が比較的沖合いであれば,仮想汀線の位置や形状の影響は反射波形に大きくは現われないから,外海計算の結果を反射波をも含めてそのまま接合境界で入力しても差し支えない.通常の条件では,水深200m位の所に接合境界を設置すればよい様である.
もし,計算量の節約のために接合地点を岸に近付ようとするならば,前節で述べたように大きな誤差が生じない位置に外海計算時の汀線や内海計算への接合地点を設置しなければならない.そのうえ,入射波成分を分離して,それを入力とした遡上計算をしなくては精度が上がらない.
入射波,反射波の分離は,線形長波の仮定の下で行なわれる.一次元問題とすれば,外海計算の出力である流速と水位を使用して,比較的簡単に分離できる.実際には,二次元問題であるから,入射波や反射波の波向をも考慮にいれなくてはなちず,かなり複雑になってしまう[泉宮・磯部,1986].
5.7 屈折計算の精度
津波常襲地帯として著名なのは,三陸地方や熊野灘沿岸の様に,いわゆるリアス式海岸で海岸線に屈曲が多い場所であった.そこでの津波増幅は,(1)浅水効果の他に,(2)湾形が奥に行くに連れせばまる事に起因する集中効果,(3)湾長と水深できまる固有周期と来襲津波の周期が一致する事による共鳴効果とがあげられていた. ところが昭和58年日本海中部地震津波では,延長55kmもの平滑な海岸線のほぼ中央に近い地点(峰浜)で最高の打ち上げ高が生じており,通常の津波数値シミュレーションでは,15mに近い最高打ち上げ高を再現できなかった.分散効果を示す波列の成長の写真が得られた事もあって,従来の増幅機構とは異なるものがこうした大きな打ち上げ高の原因と考えられるにいたった.しかし,分散効果が働いて波状段波が成長したとしても,その周期は10s程度ときわめて短く,ほとんどが海岸汀線近くで砕波してしまう.砕波によって岸へ供給される水量は小さいから,緩斜面上への打ち上げ高には効かないのではないかとの疑問も出されていた.
従来の空間格子に比べ1/3から1/5の大きさの格子を使用した浅水理論による計算の結果から,最も重要な事は比較的深い場所での屈折である事がわかった[長谷川ら,1987].図-5.7.1がその状況を示している.水深100m以深の海底地形が津波の進行方向を変化させ,最大打ち上げ高の生じた峰浜村への集中をもたちしていることが判るであろう.このような小さい格子を使用した浅水理論の計算の結果,分散項をいれなくても,打ち上げ高計算値は実際の測定値ときわめてよい一致を示したのである.
所で,従来から,計算値と実測値とが一致しにくい地形のある事が知られていた.例えば,(1)砂嘴や岬で遮蔽された陰の部分に位置する場所,(2)津波の主進行方向が海岸線に沿う方向である時,この海岸線に直交する湾軸を持つ湾の中,である.実例としては,安政東海津波時の下田港や御前崎,三陸大津波時の越喜来湾崎浜等があげられていた.
今まで,津波波形を良く表現しようとする立場からの検討がなされてはきた.こうした時,水深条件としては,一様水深,一様勾配,あるいは両者の単純な組合せといった地形であり,一次元問題としての取扱が多かった.これに対し,平面的な拡がりをもった地形を良く表現し,津波の集中状況を正確にしようとする立場からの検討の例は皆無に近かった.この節では,地形表現精度の影響の一つの例として,津波が海岸線に直交するように入射する場合,屈折現象の精度をあげる為の条件を取り上げよう[佐山・後藤・首藤,1986].
一定水深部が一様勾配斜面と結合している海岸を考える.斜面部とθθの角をなして線形長波が入射しているとき,波向線の向きはスネルの法則に従うものとして理論解を得る事が出来る.一様斜面を一定水深からなる小部分の集合として表現し,各境界での屈折がスネルの法則に従うものとして,その集積によって波向線の変化を求めると,数値解と同等の結果が得られる.これを差分近似解と呼ぷ事にする.
今,平行等深線の方向にy軸,これと直交し岸に向かう方向に正のx軸を取り,原点を一定水深部と斜面部との接合地点に置く.平行等深線に直な方向にはかった斜面水平長をLθ,これをN分割すると仮定する時,空間格子の一個の長さはLθ/Nである.
原点を入射角度θθで通過した波向線の汀線でのy座標が,差分近似解ではY(N),理論解ではYと与えられるならば,両者の差を理論解で割った次式で,屈折による誤差を評価出来る.
これを斜面x方向の分割数N,入射角の関数として図示したのが,図-5.7.2である.安政東海津波の下田地点を適用例として取り上げる.図-5.7.3に示すように,伊豆半島東南岸の沖合いでは,津波は矢印の方向に進んでいる.400m等深線を図中の一点鎖線の様に近似し,ここを屈折の開始点とするとき,入射角は85°である.斜面を屈折開始点より常に水深が減少するように取って行くと,図中のa-b線となる.この斜面長13,800m,入射角85°に対し,誤差を5%以内にとどめる為に必要な分割数は図-5.7.2からN=89で,差分格子間隔は172mとなる.格子間隔の差による波向線の差を図-5.7.3に示す.図中の実線は格子間隔100m,点線は800mとした数値計算の結果を利用して波向線を描いたものであり,粗い格子の場合ほど屈折しない事が明確にうかがわれる.
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5.8 結論
最大打ち上げ高のみを問題にするならば,実際の津波計算では,次の様にすればよい.
まず,近地津波について考えよう.容量の大きい計算機を採用し,外海と内海とに分割した計算をしない方が,問題が少なくて良い.やむなく分割して計算する場合には,なるべく深い所で接続する方が,入射波反射波の分離にあたって非線形効果や波向の影響が少なくてすむ.普通は水深200m位の所で接統する.深い所では線形長波の式を使用できるが,水深が浅くなると海底摩擦や非線形効果が無視できなくなる.
特に水深50m以浅ではこの両者を省略する事は出来ない.
波源の位置や平面形状が与えられると,卓越する津波周期は次の様にして概算できる.短軸の方向の長さを一波長とし,波源の平均水深できまる波速でこれを割れぱ,これが津波の卓越周期Tが与えられる.
但し,1964年アラスカ地震津波の様な場合には,副断層を対象として卓越周期を選ばなければならない.
等深線の入った地図で,各場所々々での水深hを基に局所的な波速を算出し,これに上記の周期を掛けると,局所的な波長が得られる.空間格子の寸法はこれよりも小さいものでなくてはならない.理想的には,局所的な波長の1/30の大きさ以下になるように格子の大きさを決めるのがよい.津波から遮蔽される様な地形の場所では,格子の大きさが屈折を正しく表現出来るか否かを別途確かめておく必要がある.
以上の様にして定めた格子間隔は,遡上計算での先端位置の精度の点からも十分である場合が普通であるが,非常に緩やかな斜面への遡上計算の際には,一応式(5.4.1)が満足されているか否かの検討を要する.また,緩やかな斜面上の波高の大きい津波では,先端が段波になり,数値不安定の発生する場合があ
る.空間波形をうちだして,格子間隔の2倍程度の振動の有無を調べるべきである.もし,数値不安定である事が判明すれば,5.3で述べた処理をしなくてはならない.
遠地津波の大洋伝播は深海計算になるが,分散効果を必要となる.線形Boussinesq理論に従って計算するか,あるいはR.D.値を1に近くなるように格子間隔を設定して,線形長波理論で計算する.この時,沿岸での境界条件は鉛直壁による完全反射でよい.いずれにしろ,大きな格子を使うから,その平均水深も大きく,計算途上で海底が露出する様な事は考慮する必要が無い.空間格子の寸法は細かい程良いが,かりに10°とすると,太平洋を覆う格子点数は75万点と膨大なものとなる.したがって,大洋での伝播計算と日本沿岸の遡上計算とを同時に行なう事は,スーパーコンピューターを使用したとしても,計算機容量の点で得策ではない.それに加えて,沿岸では海底摩擦を入れた浅水理論を使用しなくてはならない.大洋伝播計算の水深2000m付近での出力を新たに入力に選び,細かな格子と浅水理論とで沿岸での遡上計算をするのが,計算精度,計算時間の点から実用的であろう.
現在,打ち上げ高だけなら,比較的よい精度で計算が実行出来る様になった.波形,流速,波圧の様な沿岸構造物の安定計算に必要な諸量を精度良く求める事が残された重要な課題である.
第6章 砕波を伴った津波先端部の特性
6.1 緩斜面上における津波先端部の特性
6.1.1 はじめに
本節は、緩斜面の浅水域を伝播した津波が先端部でソリトン分裂するような場合を扱い、それがさらに岸近くに伝播したときの波形や流速の特性について調ぺたものである。前半はソリトンが砕波してから段波に発達するまでの過程を、後半は段波状に変形した波が汀線に到達してから後の陸上での変形過程を示す。いずれの過程においても理論解析と水理実験を行いそれらの比較によって解析の中で導入した未定係数を決めている。
この2つの物理現象に共通していることは、逸散の効果が大きいということである。砕波変形過程については水面近くでの砕波による乱れの影響が、また陸上遡上の過程においては底面での摩擦の影響が大きい。理論解析ではこれらの効果を取り入れるためにレイノルズ方程式を用い、渦動粘性係数を導入してモデル化した。前者ではこの逸散効果の他に周波数分散効果を含めた運動方程式を導き差分法によって解く。後者では底面摩擦を考えた場合に陸上部での波先端が特異点となって従来その取扱が曖昧であったものを、底面摩擦による流速分布を考えることにより先端部の特異性が変化することを示しその構造を明らかにする。
理論解析と並んで重要なのが実験であるが、前者については長水路を用いてソリトン分裂、浅水変形、砕波をさせ波高計とプロペラ流速計による計測をおこなった。後者では瞬間的な流速分布を測定することが重要であるため、水素気泡法の可視化による定量的計測を行なった。水素気泡法で測れる流速の大きさには限度があるため、後者の実験では波の規模を小さくし砕波波高で前者の約1/10にして実験を行なった。
6.1.2 ソリトン波列の砕波変形
(1) 序
緩勾配の浅海域で発達したソリトン波列はその波速の違いから波高の大きい順に整列し、汀線に近ずくにしたがって先頭の波から順に砕波していくことになる。このとき空間的あるいは時間的にみると砕波している領域と非砕波の領域が混在していることになり、このような現象を表わす方程式としては非線形性・分散性の効果の他に逸散の効果を持つ必要がある。
砕波変形も周期的な波に対しては、一周期について平均したエネルギー方程式を基礎式とする解析が従来行なわれてきているが、これではソリトン分裂の現象が表わせない。またソリトン波列の位相関係によっては後ろの波が前の波に追いついて大きな陸上遡上高や、大きな流体力を発生させることが[永富、後藤、真野、1985]によって指摘されており、各位相毎の変形を調べなければならない。以上のことから基礎式としては、レイノルズの運動方程式を用いることにし、これに分散の効果を表わせるように変形する。斜面上での反射を含む非線形・分散方程式としては [Peregrine、1967]が知られているが、これを砕波後の波動場にも拡張して適用しようしようとすると、非回転の条件と水面での水粒子が水面に留まるという運動学的条件が成立しないので、この点を検討しておく必要がある。
[Peregrine、1967]の解析では非回転の条件は水平方向の流速の鉛直分布を求める際に使われているが。分散効果を運動方程式の中に取り込むためには、鉛直方向の流速分布を考えれぱよく。非回転の条件は陽には使わなくてもよいことを示す。一方水面での運動学的条件については、[Peregrine、1978]等
によって砕波後の乱れ領域の可視化が行なわれ、水面に置いたトレーサーが波動内部に取り込まれることが示され、水面での水粒子が水面に留まるとは限らないごとが示されている。このとき細かくみると水面での流線は分岐あるいは合流の特異点となると考えられるが、取扱がやっかいになるので局所的現象として無視し、非砕波の時に用いている水面での運動学的境界条件を砕波後も準用することとした。
次に砕波後の波高減衰を表現するためにレイノルズ方程式を基にし鉛直方向に水底から水面まで積分した式に渦動粘性係数を用いてモデル化した。緩斜面上の砕波に関しては対象が主に周期波ではあるが、砕波後の流速場が[Stive、1980]、[Sakai、1984]、[Nadaoka、1986] らによって測られており、それらの結果を基に次のような仮定を設けた。
1)加速度の中で局所項が大きく、移流項と局所項の大きさの比は波高水深比のオーダーである。また乱れの流速成分は平均流速よりも小さい。
2)レイノルズ応力の中の剪断応力項を鉛直方向に積分すると底面と自由水面における剪断力が残るが、底面境界層は砕波後も水深に較べて小さく、水深のスケールでの流速分布を考えるときには底面は滑りの条件を使う。底面剪断力は底面摩擦係数を使って表わす。
3)自由水面での剪断力については、[Nadaoka、1986]が波峰前面で大きな値が存在することを示しており、位相平均流速の歪速度の分布と対応していることを述ぺているが、鉛直方向に積分した方程式ではこのこの局所的な歪速度の分布を表現するのが難しい。この場所は乱れの伝播方向の勾配が大きくなるところと対応しており、原因はいすれも渦の発生によるものと考えられるので、レイノルズ応力の垂直応力で評価し、水面での剪断応力は無視する。
(2) 理論
静水面上に岸向きにx軸をとり、鉛直上方にy軸をとる。レイノルズ方程式と連続の方程式は次のようになる。
ここで u(x,y,t),v(x,y,t)は各々x,y方向の水粒子速度であり、オーバーバーは統計的な平均量を表わす。u'、v'は乱れ成分、pは圧力、ρは密度、νは分子動粘性係数である。
水面と底面での運動学的境界条件は、
水面での力学的境界条件は、
式(6.1.3)を境界条件(6.1.4)、(6.1.5)を使って底面から水面まで積分すると、
ここでUとDは各々断面平均流速と全水深で、
式(6.1.1)を底面から水面まで積分した式を(6.1.9)とし、境界条件(6.1.4)と式(6.1.7)を使って書き換えると式(6.1.9)の左辺は
ここでβは運動量補正係数であり、次式で定義される。
次に右辺の圧力を評価するために、鉛直方向のレイノルズ方程式を考え加速度の局所項までを求めることにする。連続方程式をyで積分すると、
鉛直方向の加速度は重力に較べて微小であると仮定すると、上式のuは平均流速Uで置き換えることができる。底面での境界条件(6.1.5)を使って積分定数を決めると、
これを式(6.1.2)の左辺第1項に代入し、左辺第2、第3項および右辺の第3項、第4項は序論で述べた仮定の1)より、加速度の局所項に較べて微小項であるので省略する。yに関して積分して水面での境界条件(6.1.6)を考慮すると、
これを式(6.1.9)の右辺の第1項に代入して、
式(6.1.9)の右辺第3項は摩擦係数fを用いて、
式(6.1.9)の右辺第2項に動粘性係数Aを導入すると、
ここで渦動粘性係数を決めるための代表長さとしてはγζ、代表的な流速としては非線形長波の波速√gDを用いた。こごでγは砕波による乱れの鉛直方向への広がりを表わす係数で1以下の値をとる。これらの量については後で詳しく検討する。
ここでΠは比例定数である。以上を整理すると式(6.1.9)は次のようになる
右辺の第1項と、第2項は[Peregrine、1967]の方程式の分散項と同じ形をしており、周波数分散の効果をもっている。右辺の第3項が砕波による渦粘性項、第4項が底面摩擦の項である。
式(6.1.7)と(6.1.17)が従属変数DとUに対する支配方程式となる。これらの連立微分方程式の解法には差分法を用い、[Peregrine、1966]のPredictor-Corrector法によって解いた。この方法は空間方向に中央差分、時間方向には単段法で相加平均をとることにより中央差分の精度を実現しており、本質的には Crank-Nicolson法と変わらない。Peregrineの方程式と違って式(17)は渦粘性項を含んでおりこのような方程式を解くためには数値粘性効果のの小さなものを用いなければならないが、Crank-Nicolson法は数値粘性が零であり適当な方法といえよう。
空間差分格子間隔は1波当り約270点、タイムステップはΔt=1/360 secとした。
(3) 水理実験
図-6.1.1に実験に使用した水路の概要を示す。全長100m,幅1m,低水路部分の高1m,高水路部分の高さO.5mの鉄筋コンクリート製の2次元水路である。水路端から20.5mは低水路部分でそこから45度の斜面がO.5mあり高水路へと続いている。高水路部において、17.4mの一様水深部を設け、その後ろに勾配tanθ=1/75の斜面を設置した。斜面の表面はビニコートで仕上げてある。造波は、低水路部において造波板を水平方向に一回移動させることにより行なった。造波した波は一山の波であるが、伝播に伴って波高が高くなり高水路部の一様水深部で2このソリトンに分裂した後斜面に入射するようになっている。水深は低水路部で0.7m、高水路部でO.2mとした。後で述べる数値計算の境界条件は斜面法先での波形を与えたが、この波高水深比は第1波で0.56、第2波で0.27であり、斜面上での砕波形式はspilling型である。各波の砕波位置は、第1波がX=5.3m、第2波が10.2mであった。
座標系は静水面上岸向きにx軸をとり、斜面法先の位置を原点とした。
水理量の測定には、容量式波高計、抵抗線式波高計、φ3mmの超小型プロペラ式流速計を用いた。波高計の1台は斜面法先に常置した。斜面上における測定は、第1波の砕波位置から第2波の砕波位置までの間で行なった。波高はx方向に25cm間隔で、流速はx方向に50cm間隔、y方向に1cm間隅で測定した。測定結果は20HzでA/D変換し電子計算機で処理した。
(4) 結果およぴ考察
1) 伝播軌跡
図-6.1.2に第1波先端と第2波波頂の伝播軌跡を示す。砕波位置は第1波でx=5.3m(B.P.1)、第2波でx=10.2m(B.P.2)であった。第1波は砕波後波速が小さくなり第2波が次第に追いついてくる。追いつき位置はx=17.6m(C.P.)で、汀線を越えた位置である。遡上高は6.lcm(x=19.6m)であった。
2) 水面波形
図-6.1.3に水面波形の経時変化を示す。
第1波の立ち上がり点が一致するように描いてある。斜面法先における第1波の波高水深比は0.56,第2波は0.27であった。
第1波の砕波点の波高水深比は1.06で斜面勾配と初期波高によって砕波波高水深比を表わした[Camfield、Street、1969]の実験式の値1.08とほぼ等しい。第1波は砕波後急速に波高を減衰させx=10.2mでは段波に発達している。さらにこの位置では第2波前面は第1波の段波波形に接続しており、第2波が段波の上を進行していることが分かる。第2波の砕波点での波高水深比は1.25となって第1波と違ってCamfieldらの実験式とは大きく異なっており、第1波の水位上昇分を静水深に加えて補正すると0.85となり近い値になる。
図-6.1.4は波高の変化を示したものである。図中○印は砕波前、●印は砕波後を示す。砕波前までの波高増加は水深の-1/4乗則に近い変化をしている。砕波点で波高が最大になりその後急速に波高が減衰している。
3) 流速分布
図-6.1.5にx=7mでの水面波形、およびy=6cmから1cm間隔で底面までの水平流速の経時変化を示す。
第1波の波峰付近の流速はy=2cm~-1cmの静水面付近で大きく乱れており、この乱れは波峰の後ろまで続いていることが分かる。第2波は砕波前であり乱れはy=-7cmを除いて見られない。図-6.1.6は同じくx=12mでの水面波形と水平流速の経時変化である。第2波が第1波の段波の上を伝播しており、第2波も砕波している。前と同様第2波の波峰で静水面付近の流速に大きな乱れが見られる。鉛直方向に1cm間隔で測定したこれらの流速分布を平均した平均流速の経時変化を図-6.1.7に示す。ここで鉛直方向の流速は数回に分けて計測しており、流速のピークの時刻を合わせることにより位相を合わせた。
断面平均流速が分かったので、式(6.1.10)を使って運動量補正係数を計算することができる。砕波後の第1波波頂の位相での運動量補正係数βmaxを図-6.1.8に示す。砕波時βmaxは約1.2の最大値をとりそのご伝播に伴って減少する。
4) 段波長
段波の先端部の立ち上がりの長さを段波長とし実験より求めた。静水面付近の水平流速の経時変化を用い先端の立ち上がりから、ピークまでの経過時間に伝播速度を掛けて段波長lとした。これを図-6.1.9に示す。汀線近くまではほぼ一定で、それ以降減少していることがわかる。
5) 数値解析の初期条件
数値解析は砕波前と砕波後の2つに分けて行なった。砕波前の計算は斜面法先での実測波形を境界条件とし式(6.1.7)と式(6.1.17)で渦動粘性の項を除いた式を支配方程式として解いたもので水理実験における第1波の砕波時刻まで計算した。底面摩擦係数は[南、真野、1986]の結果よりf=0.01としこの値を全領域で用いた。このときの水位・流速空間分布波形を初期条件として砕波後の計算を行なった。支配方程式は式(6.1.7)と(6.1.17)である。図-6.1.10にこの初期条件を示す。図中の実線が計算値である。点線は砕波点での実測波形をその点での波速を使って時間軸を空間軸に換算してプロットしたものである。第1波の立ち上がりの波形や、第1波、第2波のピークの値はよく一致しているが、第2波の位相が遅れている。これは定型波ではないので波速による空間波形への換算は距離が離れるにしたがって誤差がでるごとによるものと考えられる。
6) 第1波の波高変化
本数値計算で決めなければなけれぱならないパラメータはΠの値ととγの分布、βの分布である。このなかで最も影響の大きなパラメータはnであり、これをO.Ol~0.02と変えて計算した結果を図-6.1.11に示す。縦軸は砕波後の第1波の波高を示す。実験値との比較の結果、0.15とした。
次に効果の大きいのはγの分布である。計算のケースとしてγ=1で一定の場合即ち混合距離がすべての領域で波高ζに比例している場合と、式(6.1.18)で与えられる場台の2種類行なった。
ここでXb、Xmaxは各々第1波の砕波点、波峰のx座標であり、cは波速である。この式は第1波の砕波点の波頂から乱れが始まって、それが鉛直方向と水平方向に広がっていくモデルであり、波頂で最大値をもちその最大値は砕波点で零で段波形成点以降は1で一定である。空間方向には指数関数的に減衰し第1披の砕波点の位置で最大値の10%になるように調整してある。砕波による乱れは波峰の前面で作られその位置は波峰の伝播とともに移動するが、乱れを移流する流速場はソリトン波列の場合に戻り流れが生じるまではすべて正であり絶えず伝播方向に移流される。波速は流速よりも大きいので波峰の位置を中心に考えると乱れは後方に移流されることになる。図-6.1.5に示した流速の経時変化を場所毎に較べてみるとこのことが定性的に確かめられる。
第1波の波高変化に及ぼすγの影響を図-6.1.12に示した。γ=1の場合には砕波後急激に波高が減衰しているのに対して、γに分布を与えた場合にはそれがなだらかになっており実験値にも近づいている。
これは鉛直方向への広がりの効果を表わしているが、空間方向への広がりは波形を見ると明らかになる。
図-6.1.13にx=7.0mでの水位の時間変化を示した。γ=1とすると第2波は砕波前であるにも関わらず波高の減衰が生じている。γに分布を考えた場合には減衰は生ぜず実験値とも近い値になっている。図-6.1.14は同じ場所での断面平均流速の分布を比較したものであるが同様の傾向が見られる。第1波については波形流速ともかなりよく実験値を再現しているが、第2波の流速に付いては実験値の方がちいさくなっている。
運動量補正係数についてはβ=1一定の場合と図-6.1.8の分布から波頂から離れるにしたがって指数関数的にちいさくなり段波長離れたところで最大値の10%に減衰するような分布を与えた場合の2種類計算を行なった。この比較を図-6.1.12に示してあるが段波形成点以前ではあまりさがでずβmaxの小さくなった段波形成点以降で差が現われている。
7) 渦動粘性係数のパラメータ
渦動粘性係数を支配するパラメータを式(6.1.17)と跳水長や段波長の実験値より推定する。式(6.1.17)で分散項を無視し、β=1、水深一定、A一定と考えると
浅水長波の進行波の関係式を準用すると、
これを(6.1.19)に代入すると、変形されたBurgers方程式が得られる
このような微分方程式は[Whitham、1974]に解法が示されている。境界条件x->∞、U->0、Ux->0またx->-∞、U->U1、Ux->0のもとに解くと、
ここで、W=√gh+ 3U1/4
いまx=l/2のとき(3U1/4A)(l/2)=e1とすると、Aは次のように表わされる
一方lを跳水長あるいは段波長とすると、[Bakhmeteff、Matzke、1936]による
l=(4~5.5)D
また段波長に対する本実験の場合
l=(2~4)D
これらの係数をe2とし、U1を段波の関係を使って置き換えると結局式(6.1.21)は
砕波後はD/hがほぼ一定に保たれるので、式(6.1.22)は渦動粘性係数Aが水面変位と波速に比例した形をとることがしめされた。逆にD/hがほぼ一定ということから、水面変位のの代わりに、全水深や静水深をとる可能性も残されるが、砕波後の乱れの領域に関する可視化実験によれば、乱れの領域の鉛直方向の広がりはほぼ静水位より上に限られ水面変位が妥当な混合距離といえよう。なお本研究ではソリトンを扱ったので水面変位はすべて正であるが周期はの様な波に拡張するためには波谷からの高さの様に修正が必要となろう。
(5) 結語
以上本節で得られた結論を要約すると次の通りである。
1)非線形性、分散性、逸散性を有する運動方程式を導き、これを解くことにより砕波後の実験波形や断面平均流速を再現できることが示された。
2)渦動粘性係数のなかの定数が波高減衰に大きな影響を与えるごとが示され、その値が推定できた。
3)砕波点からの乱れの発達、空間方向への広がりを表わすパラメータγを考えることにより、砕波直後の波高の減衰特性や、第1波が砕波していて第2波が非砕波のような状態をもうまく表わせることが分かった。
4)渦動粘性係数のパラメーターについて跳水や段波の経験式を使って考察を行なった。
ここで用いた係数γは第1波に対して選んであるが、第1波の段波の上を追いつきながら伝播する第2波については、第1波の乱れの影響が第2波にどのように影響するか、また第2波が砕波したときに新たな乱れの発生をどの様に考えるか等問題点が多数残されており今後の課題である。
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6.1.3 陸上を遡上する波先端の変形
(1) 序
ここでは、沖合いで砕波して段波状になった波が、汀線に入射した後の先端部の変形を調ぺる。
陸上を遡上する波の先端部分では、底面摩擦力が重要な役割を果たすことがしられており、浅水理論の運動方程式に底面摩擦項をくわえてこれを解く試みが数多く行われてきている。この底面摩擦項には、Chezyの摩擦公式やManningの摩擦公式など種々の公式が適用されてきているが、それらに共通している事は、この項が、局所的な水深のべき乗を分母に持っているということであり、水深が零となる、陸上での波の先端は特異点となるということである。この特異点は時間とともに移動するのでいっそう問題の解決を困難にしている。
この特異性をさけるために、従来多くの試みがなされてきているがそれらは大きく分けると次の2つになる。
1) 波の先端部に仮想の水深を仮定してフルード数が一定という条件を先端条件として解くもので、[Freemn, LeMehaute,1964]、[岩崎、富樫、1969]、[Chu、Abe、1983]などの研究がある。
2)波の先端部で流速が一定であると仮定して、伝播方向に積分した運動方程式を用いたり、先端位置を補外して解くもので、[Whitham、1955]、[Cross、1967]、[Sakkas、Strelkoff、1973]、[松富、1981]などの研究がある。
これらの研究においては実験などとの比較によりそれぞれ方法の妥当性を検討しているが、仮想水深の大きさや、境界域の長さ、摩擦項等の未知の部分を多く含んでいること、また陸上遡上のどの段階での上ような仮定が成立するかといった詳しい測定もなされていない。
本研究では底面摩擦とそれに伴う流速分布を考え、底面から水面まで積分した運動方程式を導き、それから特性方程式を導く。波先端部での特性曲線群と波先端軌跡の関係を明らかにし、流速分布を考えるか一様とするかによって先端部の特異性が変わってくることを示す。
さらに先端部での流速分布を可視化の手法を用いて詳しく測定し、これを用いて数値解析し先端部の変形特性を明らかにしようとするものである。
(2) 特性方程式の誘導
図-6.1.15に示すように、一様勾配の斜面を考え、x軸を底面に沿って上向きにとり、原点を静水時の汀線に、y軸を底面に直角にとる。圧力分布に静水圧分布を仮定し、境界層近似を用いると、2次元非圧縮性流体のx方向の運動方程式は次のように書ける。
ここで、斜面の勾配をtanθ、uとvはおのおのxおよびy方向の水粒子速度で、統計的平均量である。また、Dはy軸方向に測った底面から水面までの水深、νtは渦動粘性を含めた、全動粘性係数である。
水面および底面における運動学的境界条件は、
水面における力学的な境界条件は式(6.1.6)と同じであり、水面では流速勾配が無いと仮定する。
いま境界層の外側の流速をUとし、流速分布の相似を仮定して次の無次元量を導入する。
このとき底面における無次元流速勾配は一定となり、これをηで表わすと、
式(6.1.23)を境界条件(6.1.24)~(6.1.27)を使って底面から水面まで積分すると、
ここでM=UDは流量であり、Uは(6.1.8)で定義した断面平均流速、aは境界層の外側の流速と断面平均流速を結びつける換算係数であり、βは(6.1.10)で定義した運動量補正係数であるが、aとbを使って次のようにも表わせる。
一方連続方程式は(6.1.3)と同じであり、これを底面から水面まで積分した式は(6.1.17)と同じである。
式(6.1.7)と(6.1.29)を連立して、従属変数DとUを解けば良いがここでは特性曲線の形に変形して解くことを考える。この2本の微分方程式をベクトル表示すると、
ここで
この中でゴチックの記号はベクトル量を表し、上添のTは、ベクトルの転置を表す。
ベクトルFはMの関数であるので、式(6.1.30)は次のように書き換える事ができる、
ここで
この係数行列は2つの実数の固有値をもち、それをζ±で表すと、
これらの固有値に対する左固有ベクトルは
微分方程式Lと固有ベクトルλ±のスカラー積をとると、
となる。ここでdx/dt=ζ±量の方向にそう実質微分を、d/dtで表わすことにすれば、上式は次のように書かれる。
Mの各成分の微分の方向がすべてζ±の方向であるのでこれが特性曲線の方向になり、上式は特性曲線の上で成り立つ特性方程式となる。成分で表わすと次の常微分方程式となる。
ここで、zσは変数zの特性パラメータσによる常微分を表す。また、G(1)はベクトルGの第1成分を表す。
また、これは重力の斜面方向の成分と底面摩擦力の和であり、これらの力の存在によって、いわゆるRiemann Invariantは存在しないことになる。微分方程式が与えられた場合に、特性方程式を求める演算は、[Courant、Friedrich、1948]に詳しく述べられており本質的には同じものであるが、ここでは、固有値と固有ベクトルの概念を用いて導いた。
いま1本のζ+特性曲線の上に2点、PとQをとり、Q点を通る、ζ-特性曲線上にもう1点Rをとる。
Q点はP点や、R点より時間的に後の点とする。各特性曲線上で式(6.10)を積分すると次式を得る、
ここで下添のP,Q,Rはそれぞれの点での量であることを表している。
(3) 数値解析の方法および境界条件
点P,Q,Rがいずれも波先端の境界上にないばあいには、点P,Rでの諸量を既知量として式(6.1.41)~(6.1.44)を数値積分することにより、Q点での未知量x,t,M,Dを求めることができる。ここで数値積分には台形公式を用いた。これらの積分の上限値はQ点での値であり、未知量であるので逐次近似法を用いる。
波先端での境界条件は水深が零であるということと、波先端の移動速度が先端での水粒子速度と等しいという2つの条件であり、式で表すと次のようになる
ここでξは波先端のx座標を表し、下添字のsは先端での量を示す。
最初に波の先端での特性曲線の傾きを調べてみる。水深が零の条件を使うと、式(6.1.36)は、
ここで、sgn(Us)はUsの符号を表わす。流速分布形を一様でないとすると、運動量補正係数βは1より大きくなり、ζs+ とζs-は相異なる値をとることがわかる。このとき先端での水粒子速度Usとの大小関係は遡上時には、
すなわち波の先端では、2本の特性曲線は角度をなして交わっており、波先端の軌跡は図-6.1.16に示すように、それらの交点を連ねた、節点軌跡となる。時間の経過と共に、ζ+特性曲線は、先端に近付き、ζ-特性曲線は離れて行く。よって波先端の未知量ξ、tsおよびUs,を時間の経過に従って求めるためには、ζ+特性曲線と、波先端の軌跡の交点を考えて、式(6.1.41),(6.1.42),(6.1.46)を連立させて解けば良いことになる。
流速分布がy軸方向に一様とすると、β=1となりζ±とUsは3つとも同じになるので右側の図のような包絡線軌跡となる。
いまβ>1で、点Qが波先端に位置する場合を考える。このとき境界条件より水深が零となるので、式(6.1.41)における、G(1)はこの点で無限大となり、積分区間の端点の関数値を使う台形公式は直接用いることができない。そこで最初にD(x,t)に関数形を与え、積分の存在を調ぺることにする。今x-t平面における等D線(波先端の軌跡は1っの等D線である)に直角な方向をnとしその方向にとった距離をδnとする。Dのn方向の変化がδnのα乗に比例すると仮定すると、t軸の方向や特性曲線の方向は、遡上時にはいずれもこのnの方向とは直交しないので、これらの方向に対するDの変化もδnαに比例することになる。特性パラメータσとして特性曲線に沿う距離をとると特性曲線上でのDの変化は、
D-1(σ)のσに関する積分が存在するのは、0<α<1の場合に限られる。G(1)の中の摩擦項に関する積分をIとおくと、Dに関する部分積分を1回おこなった後台形公式を適用することにより、次のように変形できる。
以上により有界な3つの方程式が得られたので、先端での前述の3つの未知量は逐次近似法で求めることが出来る。
このほか、ζ-特性曲線のR点が波の先端に位置するときにも同様な積分を行なう。
β=1の場合には2本の特性曲線と波先端軌跡の方向が一致するので底面摩擦項の積分が存在するためには0<α<1/2となり、範囲が半分になる。
沖側の境界条件は静水時の汀線で水深と流速を実験結果より与える。
(4) 水理実験
実験は図-6.1.15に示すような、長さ20cm,高さ50cm,幅80cmの水路においておこなった。水路の中を幅40cmに仕切り、片側に型枠用ベニヤ板で勾配1/30の斜面を作った。水路の一端にはプランジャー型の造波機を設置し、起動時のプランジャーの位置を最も高い位置に調節して1周期波のみ造波した。
実験条件は斜面法先水深24cm、周期1.92sec、波高1.1cmの波を起こし第1波を対象とした。砕波地点は汀線より沖側30cmの所で、静水深1.Ocm、砕波波高1.6cmであり、spilling型の砕波である。
計測は抵抗線式波高と高速度カメラによった。流速の測定には可視化の手法を用いた。すなわち、汀線上またはx=30cmの地点に50μmの白金線を張り、これに電圧300~400V,周期0.02secの矩形パルスを印加し(計測技研(株)製HV-201型)、水素気泡を発生させた。これに水路上方よりスリット型キセノン放電管発光のストロボスコープ(菅原研究所(株)製S-3AA)を0.025secで発光させ;た。水路側方からストリークカメラ(菅原研究所(株)製c-1000s)で撮影した。
境界層の底面近くの流速分布を精度良く測定するためには、水素気泡の発生時刻とストロボの発光時刻のタイミングをうまく制御する必要があり、図-6.1.17に示すような2つの遅延装置を用いて、図-6.1.18に示すようなタイミングで制御した。τ2は白金線に電圧印可してから水素気泡の剥離が完了するまでの時間で実験の結果8msecとした。Tcは写真の撮影間隔で25msecとした。また1本のフィルムでは500msec程度しか撮影できず、波が汀線に到達してから最大遡上に達するまで数回に分けて測定しなけれぱならない。この各測定のタイミングをτ1で調節した。
(5) 結果及び考察
1) 水面波形
図-6.1.19に各地点の水位の経時変化を示した。ここでx'は汀線を原点とし水平沖向きを負にとってある。x'=-720cmが斜面法先であるが、斜面を伝播するにしたがって波形前面が前傾化してきておりx'=-30cmで砕波するが、この時点ですでに段波状に変形している。
2) 流速分布
図-6.1.20、図-6.1.21に汀線及びx=30cmにおける流速の断面分布を無次元化して示した。
図中の記号は各時刻にたいおうするもので波先端が汀線を通過した時刻を零としてある。両地点とも比較的良くまとまっておりこの様な基準量を使うことによりほぼ相似になっている。分布形状の時間変化を前に定義したa,b,βによって調べたのが図-6.1.22と図-6.1.23である。各量ともほほ一定であるが、細かくみると汀線では最初a,b,β共小さく、段波が到達した直後は一様分布に近いごとが分かる。
時間がたつとこれらの量は徐々に1から離れていき、境界層が発達してきている。また汀線での値とx=30cmでの値を較べると後者のほうがa,bとも小さくなって来ており、段波が陸上伝播とともに底面の摩擦の影響を受けて境界層が空間方向にも発達していることが分かる。
3) 汀線での境界条件
流速分布を無次元化するときに用いた代表流速Uと水深Dの汀線での経時変化を図-6.1.24に示す。図中丸と三角印が実測値であり、実線はこの実測値に合うような関数を下のように推定しプロットしたものである。
水深は最初は時間のO.43乗で変化していることが分かる。これは前に述べたαに相当する量であり先端での底面摩擦項の積分が存在するαの範囲に入っている。t=0.320sec付近を境にして水深は減少し始めている。流速の測定値は0.1sec程度より後で得られており、それ以前では先端部の乱れが大きいためタイムラインが乱れ流速はもとまっていない。波の先端位置の軌跡はかなり精度良く求められるので原点でのこの値と先端での境界条件(6.1.46)を用いて式(6.1.52)の原点での値76.4を決めた。なおこのとき換算係数aの値が必要になるが平均値a=0.89を用いている。またこの流速と水深の関数形から求めたフルード数Frも図中に示してある。最初水位が上昇している間は流れは射流であり、減少しているところでは常流になっていることが分かる。この関数を次に述べる陸上遡上の数値解析の汀線境界条件として用いた。
4) 数値解析結果
流速分布に関する係数は解析領域を通じて一定であると仮定して計算を行なった。用いた係数はa=0.89,b=O.85,η=5.6とした。図-6.1.25はνt=0.02cm^2/sの場合の特性曲線網である。汀線近くでは、最初は射流であるので2本の特性曲線がすべてxの正の方向を向いているが、0.3sec付近から特性曲線の方向が正負に分かれこの図からも常流になっていることが分かる。射流の領域は波が陸上を遡上するにしたがって減少しx=60cm付近では先端とその隣の2、3個の特性曲線網でだけ射流になっている。ζ+の傾きはほぼ一定である。
図-6.1.26には波先端の軌跡に及ぼす全動粘性係数の影響を示す。νt=0.02cm^2/sの場合がよく実験値を再現しており、分子粘性と同程度の渦粘性が含まれていることが推測される。図-6.1.27は空間波形を比較したものであるがここでもνt=0.02cm^2/sの場合が良く実験値を再現している。
図-6.1.28には計算による空間波形、断面平均流速の空間分布、およびこの流速で定義したフル一ド数の空間分布の時間発展を示した。時刻t=0.2secから1.6secまで0.2sec刻みでプロットしてある。波先端部は舌状になって遡上しており、xが増すにしたがって先端部の流速は空間方向にほぼ一定になっている。また特性曲線網の所でも説明したようにxの大きな所で射流部分は先端のごく近傍に限られており、序で述べたような波先端に仮想の水深を考えFrを一定とする解析や流速を一定とする解析はこの部分でよい近似となることを示唆している。
式(6.1.23)において底面剪断応力τθは、
で表わされるので、底面摩擦係数fを次式で定義すれば、
剪断応力を消去して次式を得る。
ここで用いた係数を代入し、ν=O.01cm^2/sとすると、 f=12.4/Reが求められる。いちばん最初にも述ぺた通り、この研究においては流速分布を測定することが重要なポイントであるが、可視化の方法で測定を可能にするため波の規模を小さく抑える必要があった。このため得られた全動粘性係数や摩擦係数のパラメータ依存性は層流のものと近くなったものと考えられる。
(6) 結語
以上本節で得られた結果を要約すると次の通りである。
1)流速分布を考慮した運動方程式を基礎方程式として、特性方程式を導いた。波先端の軌跡は、β>1の場合に節点軌跡となり、β=1の場合の包絡線軌跡とは異なることを示した。
2)特性方程式を積分した式を示し、積分が有界となる指数αの範囲を明らかにした。
3)水理実験を行い流速分布の特性を明らかにした。
4)汀線で測定した水理実験結果を境界条件として特性曲線法による数値解析を行い、波先端の軌跡、空間波形などを精度良く再現することを示した。
5)従来陸上遡上を解析するときに用いられてきた仮定との関係を考察した。また底面摩擦係数の形を提案した。
6.1.3 おわりに
以上緩斜面上の津波先端部の変形特性を、砕波変形、陸上遡上変形の2つのテーマについて、理論解析、水理実験を通して明らかにした。
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6.2 孤立波的津波の崩れ波型砕波の発達と水面形の簡易推定法
6.2.1 序
段波そのものの斜面上での変形特性や砕波津波の陸上遡上高の推定を目的としたものを除けば、砕波後の波の変形に関する研究は、波高減衰を中心として、海浜流や海浜変形に関連して行われてきた。その際、崩れ波型や巻き波型砕波のモデル化が行われ、種々なものが提案されてきた。従来の砕波後の波の変形に関する研究の総括は、椹木と堀川の文献[椹木,1973;堀川,1985]に詳しい。
波高減衰に関しては、代表的海底地形に対して、かなりの知見が得られてきている。海浜流の数値計算などという、実用にも供されつつある[たとえば、西村,1982]。しかし、海岸構造物などへの波力についてはもとより、砕波面の伝播速度、砕波部そのものの高さやその水面形については、実験的にも理論的にもほとんど検討されておらず、未解明の状態にある。これらは、波力の算定などにおいて、是非とも必要とされるものである[たとえば、松冨・浅田・楢岡,1987a]。
ところで、1983年日本海中部地震津波は、秋田県北部海岸でソリトン波列や分裂には至らなかった孤立的な波を形成し、砕波しながら陸上へ遡上した。そのためか、海岸諸構造物として設置されていた異型ブロックが、通常の短周期波では考えられないような被害の受け方をした。津波によるソリトン波列や孤立的な波の砕波時の水面形、波力やエネルギー消費機構などが、津波問題において取り上げられようとしている[首藤,1984]。
以上の波の砕波変形問題の研究の状況と必要性に基づき、本研究は、最も基本的な水平床上での孤立波の崩れ波型砕波による波高減衰、砕波面の伝播速度、砕波部の高さとその水面形を、簡単なモデルで理論的に推定しようとするものである。ただし、津波によって形成されるソリトン波列や孤立的な波を対象としており、その個々の波は巨視的には孤立波理論の適用できる波である、という考えに立っている。
解析手法は、質量保存則と抵抗力を考慮した運動量保存則に基づく、段波モデル法である。抵抗力を考慮し、その効果を論じた研究はすでに幾つかある[たとえば、Horikawa and Kuo,1966;椹木・岩田・松本,1974;泉宮・堀川,1983;など]。段波モデル法では砕波面の伝播を精度よく表現できない、と実験的に指摘されてきた[たとえば、椹木,1973;Horikawa and Kuo,1966]。本研究では、流速分布の非一様性と圧力の非静水圧性を考慮し、運動量フラックスと圧力の補正を行うことで、その適用性を高める。巨視的な砕波後の波の諸変形特性を、解析的に推定することを目的としているのである。
6.2.2 基本式
孤立波の伝播速度で動く移動座標系で議論することにする。孤立波理論として、次のBoussinesqの第1近似解を用いることにする[Boussinesq,1871]。
ここで、η:静水面から水表面までの水位、Hb:孤立波の砕波波高、h:静水深、cs:孤立波の伝播速度、u:断面平均水粒子速度、 D:砕波開始時の波頂での全水深、H:任意点での全水深、g:重力加速度、x:砕波点を原点とし、岸向きを正とする水平距離座標、t:砕波時を原点とする時間。
式(6.2.2)の伝播速度で動く移動座標系での孤立波の諸量は
ここで、X、cとUは各々移動座標系での水平距離座標、伝播速度と断面平均水粒子速度である。式(6.2.6)より、移動座標系での孤立波における流量は、あらゆる点で
であると判断される。
ところで、本研究では、孤立波は崩れ波型砕波により二つの領域に分けられるとして、議論を進めることにする。すなわち、伝播方向に断面平均水粒子速度の一様な領域と孤立波の諸性質をそのまま保持し続ける領域の二つである。その様子を図-6.2.1に示す。この断面平均水粒子速度の一様性の仮定は、同じ砕波段波を形成する、ダム破壊流れ問題で用いられているものである[松冨,1985]。よって、断面平均水粒子速度一様域の諸水理量を求めることが、本研究の目的となる。
断面平均水粒子速度一様域の諸水理量は、その領域全体の連続式と運動量式を誘導し、それらを解くことで求められる。いま、対象領域後端位置をξ、そこでの全水深と断面平均水粒子速度を各々HξとUξ、本領域先端位置をa、そこでの全水深と孤立波の性質を有する側の断面平均水粒子速度を各々Ha、とUa、水の密度をρとする。X=ξから、単位時間に本領域に流入する質量Minは、ξが時間的に移動するものなので、
X=aから、単位時間に流出する質量Moutは
よって、本領域の連続式は
ここで、Mは本領域の全質量で、式(6.2.7)の関係が使用されている。
X=ξから、単位時間に本領域に流入する運動量Pinは
X=aから、単位時間に流出する運動量Poutは
ここで、β'は移動座標系での運動量補正係数である。また、本領域の境界に働く外力Fは、本領域後端と先端での圧力および底面抵抗の三つである。以上より、本領域の運動量式は
ここで、P:本領域の全運動量、γ^2:圧力と運動量フラックス(圧力に換算)の合成補正係数、K:抵抗係数。運動量補正係数β'はγ^2の導入により1とされている。γ^2は本研究モデル適用可能区間での平均的な値の定数と仮定し、底面剪断応力はτo=ρK(Uξ+cs)^2と定義している。γ^2の大体の値は理論的に評価し得るものである(6.2.4項(2)参照)。
仮定から得られるP=MUξの関係を用いると、式(6.2.10)および(6.2.13)から
Mは、本領域外での水面形を不変としているので、
よって、式(6.2.14)は
また、式(6.2.4)および(6.2.7)から、次式群が得られる。
結局、式(6.2.17)から(6.2.20)を式(6.2.16)に代入すれば、
ここで、a=da/dt.
式(6.2.21)には、水粒子速度Uξと先端位置aの二つの未知数が含まれている。方程式は閉じておらず、このままでは解けない。Uξとaの間に何等かの新たな関係式が必要である。本研究では、Uξと先端移動速度aとの間に、次の関係を導入して解くことにする。
式(6.2.22)は、式(6.2.10)と(6.2.13)で非定常項と抵抗項を無視した後、a=ξとして得られる理想段波モデル式の一部分に、Hξ≒Haの関係を用いて誘導した近似式である。
式(6.2.22)を式(6.2.21)に代入して得られるものは、そのままでは簡単に解けそうにない。本研究では、砕波後のあまり長くない間を対象とすることで、その解決が図られる。つまり、水平床上での特徴である波の再生までは対象としない。この時、aとξは小さく、これらによるTaylor展開式の第2項までを考慮する近似化を行えば、
よって、式(6.2.18)、式(6.2.23)から(6.2.25)を式(6.2.14)に代入し、O(a^2、ξ^2 )までを考慮すると、
aとξの関係は、式(6.2.22)から、近似的に次式のように置けよう。
ここで、μ(>0)は、aとξの間に線形的な関係を得たいがゆえに導入された波速近似化係数で、不変定数として取り扱われる。本来は、γ^2と同じく、Kやt(換言すれば、aやξ)などに関係するものである。式(6.2.27)の近似は、図-6.2.2に示すように、円弧を直線で近似したことに相当している。よって、式(6.2.22)および(6.2.27)を式(6.2.26)に代入すれば、
式(6.2.28)が本研究の基本式である。
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6.2.3 基本式の解
砕波段波先端の初期移動速度aθは、式(6.2.7)と(6.2.22)より、
式(6.2.28)を解くに当たって、次の無次元変数を新たに導入する。
ここで、αは砕波始点から初期先端移動速度のままで継続的に移動する点に対する、実際の砕波段波先端の無次元遅れ距離を示し、τは、その遅れが生じ始めてからの、無次元経過時間を示す。式(6.2.30)および(6.2.31)を用いて式(6.2.28)を書き直すと、
ここで、α=dα/dτ、α=d^2α/dτ^2。
さらに、次の変数を新たに導入する。
これにより、独立変数の変域は半無限領域から有限領域、つまり、0≦p≦γ一h/Dとなり、α=pf'-f,α=1/f"となる。よって、式(6.2.32)は
式(6.2.35)はf(p)に関する二階の常微分方程式である。その解として、pの級数解
を仮定し、初期条件(τ=0のとき、α=α=0)の基で解くことにする。式(6.2.36)を式(6.2.35)に代入し、pに関して恒等的に成立するように各係数を決める。たとえば、級数解の第1近似として次式を得る。
ただし、初期条件より、bθ=b1=Oとなる。
式(6.2.30)、(6.2.31)、(6.2.33)、(6.2.34)および(6.2.37)より、先端軌跡と先端移動速度に関する第1近似解として、次式が得られる。
波高減衰は、式(6.2.22)の第1行目の関係、すなわち、理想段波モデルの関係をHξ (=h+ηb)について解き、そのHξから静水深hを差し引けば得られる。その結果は近似的に
ここで、ηbは砕波後の波の静水面からの最大水位、X'は固定座標系での段波先端位置である。
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6.2.4 解の性質と適用性
6.2.3項で得られた結果の性質と実際問題への適用性について、具体的計算例と実験結果との比較を通して、検討することにする。
(1) 解の性質
図-6.2.3は第1近似と第2近似の固定座標系での先端軌跡を示したものである。図中の()内の数値がその近似度を示している。この図によると、第1近似解と第2近似解は広い範囲にわたってほぼ同じ結果を示している。第1近似解はかなりの範囲まで適用可能であることが伺われる。よって、以下の理論計算例では、全て第1近似解を用いることにする。
図-6.2.4と5は、抵抗係数を種々と変化させた場合の先端軌跡と波高減衰を示したものである。図-6.2.5には、K=O.O1と0.002とした場合の段波先端での静水面からの水位(破線)も示されている。
図-6.2.4によると、対象段波の先端軌跡は抵抗にあまり影響されないことが判る。同じことは、図-6.2.5からも伺うことができる。段波先端での水位の抵抗係数による変化は比較的小さい。しかし、同じく図-6.2.5から判るように、波高減衰は抵抗係数の値によりかなり大きく変化する。このことは、6.2.3項の結果を実際問題へ適用する際、抵抗係数の選択が重要因子となることを示唆している。
図-6.2,5は、抵抗係数が大きくなると、段波波高が小さくなることも示している。ただし、Hb、γやμが同じとしてのことである。この理論結果の妥当性や、抵抗の効果が大きくなるにつれ、対象波の砕波波高が大きくなることなどが、最近、詳細な実験により確認されている[松冨,1988]。
本モデル結果には、砕波形成直後の短い間、段波波頂での水位(図-6.2.5の実線)が段波先端での水位(同図中の破線)よりも小さいという、実際には起こり得ない不合理が生じている。これは、μが定数とされ、γとして本モデル適用範囲での平均的な値が採用されていることによる。非定常項と抵抗項の影響が無視された、式(6.2.22)の理想段波式から誘導される式(6.2.40)を用いて、段波波頂水位が評価されていることにもよる。
(2) 解の適用性
実験に使用した水路は高さ0.5m、幅0.3m、長さ11.Omの水平に設置された鋼製矩形水路で、水路下流側の10m部分が両面ガラス張りのものである。この水路上流端には、プランジャー型造波機が据え付けられており、孤立波はそれを一度だけ押し下げる(ストロークと周期は一種類に固定)ことにより造波された。ガラスの片面には、波高減衰や段波の先端軌跡、先端水位と空間波形(6.2.5項で議論する)読み取りのため、5cm間隔のメッシュが刻まれている。実験装置の概要を図-6.2.6に示す。
実験ケースは、静水深を0.1mに固定し、底面桟粗度(5×5×300mmの角柱木製桟を水路縦断方向に5cm間隔で設置)有無とした、2ケースである。ただし、桟粗度有りでの静水深は桟粗度底面からのものである。
測定項目とその方法は、空間波形についてはモーター・ドライブ・カメラ(約5コマ/秒)、波高減衰と段波の先端軌跡、先端水位についてはビデオ・システムと3台の容量式波高計である。だだし、ビデオの撮影範囲は砕波点より約0.1m手前から0.8m先までとし、その終点付近にO.25m間隔で設置された第1本目の波高計が入るようにした。ビデオの解析には1/60秒まで読み取り可能なビデオ・モーション・アナライザーを、波高計出力の記録にはペン・レコーダーを用いた。
先端軌跡に関する第1近似解と実験値(桟粗度無し)との比較例を図-6.2.7に示す。実験値は5波分で、実線が理論曲線である。この理論曲線は、γ=0.8と固定し、実験値に良く適合するように、μの値を調節して求めたものである。抵抗係数は、先ずManningの粗度係数nを推定し(底面、側壁ともにO.013m^-1/3s)、本モデル適用範囲内での平均的水位から計算される径深Rを用いて、換算(K=gn^2/R^1/3)されたものが採用されている。合成補正係数γ=0.8は、砕波限界の誘導の際と同じく、Boussinesq理論において、0(η^2/h^2)または0(H^2/h^2)の項まで考慮して議論すれば、概略説明つくものである[松冨,1987b]。μ=0.48は、図-6.2.2の円孤を図中の直線で近似したことを意味する。図-6.2.7には、孤立波の伝播速度で動く点の軌跡(一点鎖線)とγ=1としだ時の段波初速度で動く点の軌跡(破線)も示されている。
図-6.2.8は波高減衰(実線)と段波先端での静水面からの水位(破線)に関する理論値と実験値の比較を示したものである。実験値は図-6.2.7で使用した波と同一の波から得られたものである。黒丸が波高減衰、白丸が段波先端での水位を示す。この図より、砕波直後の短い間を除いて、波高減衰と段波先端での水位に関する本研究結果は実用に供し得るものである、と判断される。
図-6.2.9と10は、底面条件を変えた場合(桟粗度有り)の段波先端軌跡、波高減衰と段波先端での水位について、理論値と実験値の比較を示したものである。実験値は同じく5波分で、図中の各線の意味も各々図-6.2.7、8と同じである。理論における抵抗係数は、底面と側壁のnを各々0.022とO.013(m^-1/3s)とし、Einsteinの方法[たとえば、Chow,1959]で合成粗度係数を求め、後は図-6.2.8の時と同じようにして推定されている。これらの図より、底面条件に応じた抵抗係数を採用すれば、6.2.3項の結果は、γ=0.8、μ=0.48として、ほぼ実用に供し得ることが判断される。
以上の検討結果より、砕波直後の短い間を除いて、本モデルは波高減衰、段波の先端軌跡とその高さを同時に予測できるモデルである、と判断される。
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6.2.5 換算法による水面形の推定
定常跳水や移動跳水(砕波段波)の流れの場に関する実験的研究は、従来より数多く行われてきている。
その結論の一つは、それらの混合領域での流れの場は壁面噴流[たとえば、Rajaratnam,1965]、自由剪断層[Peregrine and Svendsen,1978]や後流[Battjes and Sakai,1981]などと類似している、ということである。これから推して、ダム破壊流れの先端部[松冨,1985;松冨,1986]と孤立波の崩れ波型砕波部の流れの場は、同じ非定常な砕波段波として、類似している、と考えられる。そこで、本項では、孤立波の砕波段波をダム破壊流れの砕波段波に換算し、著者の手法[松冨,1986]を用いて、換算された段波の水面形を求めることにする。実験値との比較により、それが孤立波の崩れ波型砕波の水面形の推定値として、妥当なものであるかどうがの検討も行うことにする。
段波波高、段波伝播速度と段波波長が与えられれば、ダム破壊流れの段波は、初期のダム上・下流側水深比h1/h0をパラメータとして、特定される。孤立波の崩れ波型砕波による段波の、任意時刻での段波波高ΔH、段波伝播速度aθと段波波長Lξは各々
ここで、段波は速度Uaで動く移動座標系で表現されている。これは、段波下流側の流速が零、すなわち、静水中を伝播する段波を想定していることに当たる。よって、換算ダム破壊流れの初期下流側水深hθは、h1/hθをパラメータとして、次式のRitter理論[Ritter,1892]より求められる。
ここで、Ue:換算水粒子速度、ε:Ueとさaeの比で、時間的に不変な値、 Cθ=√ghθ。
具体的手順は次の通りである。i)任意のh1/hθの値を仮定する。ただし、水面形推定手法の適用可能範囲内での値である。ii)次式のダム破壊問題でのStoker理論[Stoker,1957]よりUeθとaeo求め、ε(=Ueθ/aeθ)を決定する。これで、hθが一義的に定まることになる。
ここで、Ueθ:換算初期水粒子速度、aeθ:換算初期先端移動速度、 Heθ:換算初期段波の全水深、C1:√gh1。水面形推定手法の適用可能範囲は、aeθ>aeという条件より求められる。
hθが定まれば、h1/hθの値は既知なので、h1も定まることになる。したがって、次の換算ダム破壊流れの先端移動速度と段波波長に関する第1近似解[松冨,1985;松冨,1986]に、以上の換算諸結果を代入すれば、換算抵抗係数Keと換算時間teが求まる。
ここで、aeθ・=aeθ/c1、ae:換算ダム破壊流れ先端位置、ξe:換算ダム破壊流れ後端位置。これで、換算ダム破壊流れとその水面形推定に必要とされる量が全て求まることになる。
以上の換算諸量を用いて、水面形は次の手順で求められる[松冨,1986]。
i)式(6.2.48)の関係を満たすVθeとheの組(vθe・,he・)を、式(6.2.49)と(6.2.50)より求める。
ここで、he:任意点での換算水深、Vθe:任意点での換算底面流速、ξe≦xe≦ξeθ、ξeθ:換算ダム破壊流れのコア領域終端位置で、未知量、A:段波内の水平方向水粒子速度の鉛直分布に関する定数で、本研究では2.0を採用。
ii)i)で求めだhe・(<he)まで、式(6.2.50)より水面形を求める。これはコア領域終端背後での水面形である。
iii)i)で求めたvθe・を式(6.2.49)に代入して、ξeθを求める。
iv)i)で求めたhe・より小さいhe(>hθ)を適当に与え、式(6.2.48)よりその時のvθeを求める。
v)そのheとvθeを式(6.2.51)に代入し、コア厚deを求める。
vl)iii)とv)で求めたξeθとdeを式(6.2.52)に代入し、適当に与えられたheの位置xeを求める。
以上のiv)からvi)を繰り返せば、ξeθ≦xe≦aeでの水面形が得られる。
このようにして得られた水面形と孤立波の崩れ波型砕波による砕波段波の代表的実験波形との比較例を図-6.2.11に示す。ただし、実験燈は空間波形(瞬間値)で、6.2.3項の理論が適用可能と判断されるところでの比較である。推定波形は、既述の通り、h1/hθをパラメータとする。そのため、図中には、h1/hθ=15、20、25とした3ケースが示されている。この図によると、これらの推定波形間に大差はない。推定波形のh1/hθへの依存性は小さいことが判る。しかし、最先端部では、その値の小さい方がより実験値に適合するようである。h1/hθが小さくなるとは、結果として生ずる段波波高と段波下流側水深との比が小さくなるということである。これは、換言すれば、孤立波の崩れ波型砕波による段波の実状に(この場合の段波波高と段波下流側水深との比は、どの想定されたh1/hθでのその比よりも小さい)、より近付くということである。
よって、このことは推察され得ることである。
図-6.2.11によると、実験で得られた空間波形は、瞬間値であるため波打っており、推定値と大きくずれているところも一部分見受けられる。しかし、段波先端部と後端部の大部分で、両者は良く一致している。
孤立波の崩れ波型砕波による段波の水面形推定に、本項の方法がかなり有効であることが認められる。したがって、砕波直後の短い間を除いて、本研究の結果は、実際の孤立波の崩れ波型砕波による波高減衰や砕波段波の先端軌跡、高さと水面形を統一的に推定し得るものである、と判断される。
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6.2.6 結語
1983年日本海中部地震津波の際、秋田県北部海岸でみられたように、津波は陸岸近くでソリトン波列や分裂には至らない孤立的な波を形成することがある。これらの個々の波が孤立波とみなせるとすると、孤立波の砕波変形問題は津波においても重要な問題となる。しかるに、現在までに得られているこの間題についての知見は、十分とは言い難い。
本研究は、波や流れの場の簡単なモデル化により、孤立波の崩れ波型砕波による波高減衰や砕波段波の先端軌跡、高さと水面形の理論的推定を試みたものである。本モデルには、砕披形成直後の短い間、段波波頂での水位が段波先端での水位よりも小さくなるという、不合理がある。適用範囲が狭いという、改良すべき点などもある。しかし、その結果は、γ≒0.8、μ≒0.48とすることで、対象段波の発達の最も著しい段階に供せることが確認された。この段階は工学的に最も重要な段階と思われる。
6.3 周期性の波の巻き波型砕波の数値計算
6.3.1 はじめに
1983年5月の日本海中部地震津波の特徴の1つである津波先端部での短周期成分の異常な発達を解明するため,津波先端部形状の決定に関連して,特に周期性の波の巻き波型砕波の数値計算を行い,その再現を試みる.
6.3.2 数値計算法
(1) 数値計算法の選択
一般に砕波現象はその変化が激しく,また多量の気泡を連行するため、実験および観測によって解明するには限度がある.ここでは実験や観測を補うものとして,数値計算手法を採用した.数値計算によって二次元の波動を再現する手法としては,砕波するまでは現象がほぼ非回転運動としてよいことから,ポテンシャル流れを仮定して有限要素法や境界要素法で計算することが既になされている[例えばNew,Mclver and Peregrine,1985].しかしながらここで対象としている現象は、流体のシヤーが卓越し多量の気泡を連行した現象であるので,これらの手法は利用出来ない.そこで,ここではせん断流れにも適用可能ないわゆるMAC法を用いる.この方法は元々自由水面を有する流れに適用するために開発されたものであり,しかも時間的な変化を計算出来る.
MAC法は1965年にF.H.Harlowを中心に開発され[Welch et al.,1966],その後様々な改良がなされて現在に至っている.既に初期の段階で表面波の伝播の計算に適用ざれ,砕波についても計算例があるが,その結果は実際現象と比べてかなり異なったものであった.さらに1970年にはHarlowが差分法の改良を行い,計算時間を大幅に短縮したSMAC法を開発した.その後砕波現象に適用した例としては,1981年頃からの宮田らの研究がある[Miyata,1986].そこでは特に砕波の峯から飛び出す水塊の形状を正確に表現し,また水塊と前面の水面との接触の判定を正確に行う工夫がなされている.
ここでは,前述のSMAC法を採用した.計算プログラムは,京都大学大型計算機センターのライブラリーにある武本らの開発したもの[武本他,1981]を用いた.
(2) SMAC法
2次元の非圧縮性流体の連続式および運動方程式は,次式で与えられる.
ここでpは圧力を流体密度で割ったもの(以後圧力と呼ぷ),gx,gyは重力加速度の水平方向(x)および鉛直方向(y)成分,νは動粘性係数,uおよびvは流速のxおよびy方向成分である.式(6.3.2)および(6.3.3)を式(6.3.1)を用いて変形すると次式のようになる.
式(6.3.4)および(6.3.5)から求められる流速uおよびvは任意の圧力θに対して渦度を正しく輪送しているが,必ずしも連続式(6.3.1)を満たすとは限らない.そこで連続式をも満たす真の流速をuおよびvとし,式(6.3.4)および(6.3.5)から求められる流速を仮流速u',v'とすると,真の流速uおよびvは次式で与えられることがわかる.
ここで,ψは次のボアソンの式(6.3.7)を満たす.
この式の右辺は,上述のように一般には0ではない.また,真の圧力pは次式で与えられる.
以上の関係を差分化するため,計算領域を長方形または正方形の格子網に分割する.格子1つ1つを,ここではセルと呼ぶ.変数の配置を,図-6.3.1に示す.式(6.3.4)および(6.3.5)を差分化すると,加速度項から△t時間後の仮流速u',v'を求める式が得られる.
ポアッソンの式(6.3.7)を差分化して解く際,繰り返し計算をする必要があるが,ここではS.0.R.法(逐次過緩和法)を用いる.
MAC法の特徴の1つは自由水面を有する流れの計算に適していることであり,流体内部に,それ自体は質量を有しない流体速度で移動する粒子(マーカー)を多数配置し,計算時間ステップ毎に計算された流体の真の流速でマーカーを移動させて流体の自由表面の形状を求める点にある.マーカーの移動に用いる流速は,マーカーの位置を取り巻くいくつかの流速計算点での流速から内挿する.
マーカーの位置によって時間ステップ毎の流体の形状が分かるので,各セルに流体が存在するかどうかがわかる.そこで各セルを,流体で満たされるセル(Fセルと呼ぶ),自由表面が存在するセル(Sセル),流体が存在しないセル(Eセル)等に分類する.特に自由表面が存在するセルでは,自由表面での境界条件を課す.
自由表面での境界条件の1つの力学的条件のうちの法線方向の条件は,次式で与えられる.
ここでpθは外部の圧力で一般にはO,μは粘性係数,nは自由表面の法線方向, Vnは法線方向の流速である.この式の差分化は,ここでは自由表面の存在するSセルの辺上の流速からそのセルの中心での圧力を求める形にしており,前述の宮田らが用いたirregular starsは用いていない.
一方接線方向の条件は,次式で与えられる.
ここでmは自由表面の接線方向,Vmは接線方向流速である.この条件式の差分化においても,自由表面の形状を考慮していない.なお宮田らは自由表面での力学的条件において粘性を無視しており,従って接線条件は課していない.
なお,自由表面での運動学的条件は,この方法ではマーカーを移動させて自由表面を決めていくので,必要がない.
以上の境界条件は,真の流速を計算した後に自由表面での流速を決定するのに用いるが,その後マーカーを移動して,次の時間ステップの計算に入ってからもう一度用いる.すなわち新たな自由表面が決定された後仮流速を求める前に,新たに決定されたSセルでもう一度用いる.その際,境界条件の計算の前に,式(6.3.1)の連続式を用いてSセルの一部の流速を決定する.
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6.3.3 水塊の突入の際の計算過程
この研究の目的である津波の先端部形状の決定のための巻き波型砕波の数値計算においては,波の峯から飛び出した水塊が前面のトラフ水面に衝突し,水中に突入する過程が特に問題になる.水塊が他の水面に接する際に,前述のSMAC法による計算では,どのような計算が行われるかを調べるため,次のような簡単な条件での計算をまず行った.
図-6.3.2に示すように,高さ20cm,幅40cmの長方形領域を考える.その下側部分には水深8cmの一様な流れ(右向きに10cm/s)が存在しており,斜め右上から左下に(tanα=1/2),水平速度50cm/s ,鉛直速度25cm/sで水塊が落下する状況を考える.
計算条件は,表-6.3.1に示す通りである.緩和パラメータと収束判定係数は,何れも前述のポアッソンの式の繰り返し計算のパラメータである.
図-6.3.3は,上部水塊と下部流体の間に,セル1個分のEセルが存在している時点での水塊先端付近のセルの標識と,連続式によって計算される流速を示している.図中白丸は計算されるx方向(ここでは水平方向)流速,黒丸はy方向(ここでは鉛直方向)流速である.破線の正方形は,計算に関係する流速の定義点を結んたものである.
図-6.3.4は,この後式(6.3.9)の法線方向力学的条件で決定される圧力の位置を示している.さらに図-6.3.5は,この後式(6.3.10)の接線方向力学的条件で決定される流速を示している.ここで,u24+1/2,10とu25+1/2,10は,下部流体の速度からも計算されるが,その後上部水塊の流速から再び計算される.
図-6.3.6.は,その後運動方程式(6.3.4)と(6.3.5)から計算される仮流速を示している.この図からわかるように,u24+1/2,9およびu25+1/2,9を計算するのに,u24+1/2,10 およびu25+1/2,10を用いており,これらはその直前図-6.3.5で示されるように,接線条件を通して上部水塊の影響を受けている.したがって,この段階で下部流体の運動に上部水塊の影響が入ることになる.
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6.3.4 巻き波型砕波の砕波後の運動の数値シミュレーション
砕波後の運動の数値シミュレーションを行う場合,計算時間を短縮するためには,砕波直前の状況を初期状態として計算を始めた方がよい.砕波直前の水位,流速のデータとして最初実験結果を利用したが,計算結果は実際現象特に峯からの水塊の巻き込みをうまく表現出来なかった.そのためここでは,初期状態として,実験水槽で造波された規則波が一様勾配斜面上で砕波する直前までを有限要素法で数値計算した滝川、岩垣、中川[1983]の計算結果のうち砕波直前の結果を用いることにした.滝川らの計算ケースの条件を,表-6.3.2に示す.ここでiは斜面勾配,hiは水槽の斜面前面の一様水深部水深,Tは波の周期,2ξは造波板の振幅の2倍,Hθ/Lθは沖波波形勾配,hbは砕波水深, Hbは砕波高, Sは崩れ波型砕波,Pは巻き波型砕波を意味する.ここでは巻き波型砕波の中でも特に沖波波形勾配の小さいケース6とケース3を取り上げた.
図-6.3.7は,滝川らの計算結果のうちケース6の砕波直前の波形と水粒子速度ベクトルの空間分布を示している.以下のMAC法による数値計算では,この状態を初期条件に用いた.なお滝川らの計算結果には圧力の結果が含まれていない.6.3.2.(2)で述べたように,ここで用いる計算法では任意の圧力に対して仮の流速を計算し,そのあと連続式を満たすように圧力を補正するので,ここでは圧力の初期値として波形から計算した静水圧を用いた.ケース6と3の,MAC法による数値計算の条件を,表-6.3.3に示している.
ここで△xと△yはセルのx方向およびy方向の大きさ,Mesh数はx方向およびy方向のセルの数,△tは計算時間ステップ,νは動粘性係数である.ここで用いた△tは計算の安定条件を満たしている.
図-6.3.8は,計算領域を示している.
図から分かるようにx軸を斜面に平行にとった.そのため重力はx方向成分をも有する.計算領域を出来るだけ小さくするため,図に示したようにx方向に約90cmの領域とした.波の峯が前進して右側境界に近付いた時点で計算を一旦停止し,計算領域を右側にずらした新しい領域で計算を続ける方法をとった.図-6.3.9は,ケース6と3における計算を一旦停止した時間ステップと計算領域の移動距離を示している.計算領域の移動の時間ステップを境にして,計算をrun1, run2およびrun3としている。
左右境界での水深と流速は,各runにおいて一定とした.また流速はx方向成分のみとし,水深方向に一様とした.すなわちrun1においては,計算の初期状態として用いた滝川らの計算結果から,左右境界位置における水深及び流速の平均的な値を採用した.まだrun2およびrun3においては,その前のrunの最後の時間ステップでの計算結果から,run1の場合と同様に決定した.各runの間における流出入の水深一定,流速一定,x成分のみ,水深方向一様の仮定は実際と異なるが,各runの計算時間が0.3sec以内であることから、興味の対象である波の峯および水塊の突入点付近の運動には影響を与えないと考えられる.
(1)ケース6
図-6.3.10,(1)-(6)は,ケース6のいくつかの時間ステップでの計算結果を示している.各図の上側が流速ベクトル図,下側がマーカー図を示す.図中マーカー図が不自然に乱れている部分および水面形が不連続になっている部分が,波の峯より右側および左側に生じているが,これは左右境界での流速及び水位の与え方に問題があったことを示している.ただし,これらの乱れは,砕波による水塊の前面水面への突入点付近の運動には影響を与えてはいない.
図の(1)は,計算の初期状態を示している.静水深hから計算した線形長波の波速√gh=110cm/sであり,最大水粒子速度umax、は√ghにほぼ等しい.図の(2)で分かるように,時間の経過とともに次第に波の前面が切り立ち,峯付近の流速が大きくなってくる.さらに時間が経過すると(図(3)),波の峯から飛び出した水塊がその下部に空気を取り込み,巻き込む様子が見られる.その後(図(4))水塊は前面の水面に突入し,新たな第2の水塊の眺ね上がりが見られる.この突っ込み点においては,突っ込む水塊の流速ベクトルの向きと,トラフ水面付近の流速ベクトルの向きは反対であり,この点で強いシアーが働いて強い乱れが発生するものと考えられる.写真-6.3.1(酒井、田中、1985)は,実験水槽内の一様勾配斜面上で砕けた波の水塊の突入と眺ね上がりを示している.水塊の突入とともに多量の気泡が水中に連行されるとともに,多量の水滴が眺び上がっている.図-6.3.10ではこのような多量の気泡及び水滴は見られない.これは1つには気泡や水滴を表現するにはセルの大きさが大きすぎるためである.
その後(図(5))第2の水塊はざらに前面の水面に突入し,第3の水塊をはね上げる.第1および第2の水塊の突入に伴って,それぞれの突っ込み点の背後に明瞭な2つの水平渦状運動が見られる.しかしこの渦も,写真-6.3.1の水中の気泡がほぼ底面に達していることから,実際のものより規模が小さいことが分かる.更に時間が経過して波の周期の約1/4経過すると(図(6)),計3つの水平渦状運動と3番目の跳ね上がりが見られる.この渦状運動は,いずれも同じ回転方向を有しており,隣合う渦状運動の間で流速の向きが逆のため,強いシヤーが働く.この現象は,実験においても確かめられている[酒井、田中,1985,灘岡、小谷野、日野,1985].
(2)ケース3
図-6.3.11,(1)-(3)は,ケース3のいくつかの時間ステップでの計算結果を示している.図の(1)では,波の前面がほぼ垂直になった状態である.図の(2)では,波の峯から水塊が飛び出している.図-6.3.10,(3)のケース6の場合に比べると,水塊およびその下の空気の部分(air tube)のスケールが小さい.表-6.3.2の計算条件を見ると,ケース3と6の相違は斜面勾配と砕波水深および砕波高であり,砕波高はむしろケース3のほうが大きい.ケース3の水塊およびair tubeのスケールが小さいのは,斜面勾配がケース6より緩やかで崩れ波型砕波に近いためと考えられる.さらに時間が経過すると(図(3))第2の水塊が飛び上がるが、その先端が不自然に細長く水平に延びている.計算上の問題があると考えられる.
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6.3.5 崩れ波型砕波の砕波後の運動の数値シミュレーション
砕波形式による砕波後の運動の相違を検討するため,表-6.3.2の滝川らの数値計算のうちケース4と1についても,巻き波型砕波の場合と同じ方法で数値シミュレーションを行った.
(1)ケース4
図-6.3.12,(1)-(3)は,ケース4のいくつかの計算ステップでの計算結果を示している.図の(1)では,峯から水塊が飛び出している.これは巻き波型砕波の場合と同じであり,水塊の飛び出しが砕波形式によらず存在するという観察[Basco,1985]を確かめるものである.図の(2)は,その後水塊が前面のトラフ水面に突入すると言うよりも滑るように進む様子を示している.図-6.3.10.(4)のケース6に比べると,air tubeの発達が見られない.図の(3)は,さらに時間が経過した後の結果である.この図から、崩れ波型砕波の場合でも水塊の突入と眺ね上がりの繰り返しおよびそれによる水平渦状運動の連なりが生じることが分かる.
(2)ケース1
図-6.3.13は,ケース1の計算結果の一例である.この図はちょうど水塊が前面の水面に突入する状況を示している.図-6.3.12,(2)のケース4の場合に比べて,小さいair tubeが見られる.その後の運動についてはケース4と変わりはない.
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6.3.6 水粒子速度,循環,渦度,圧力
6.3.4.および6.3.5.の計算結果を用いて,表題の4つの水理量の空間分布および時間変化を調べる.
ただしケース3の計算結果は,6.3.4.で述べたように計算の途中から不自然な結果が生じており,一方ケース1は6.3.5.で述べたようにケース4とほとんど変わらないので,ここでは巻き波型砕波としてケース6を,崩れ波型砕波としてケース4を選んで検討する.
(1) 水粒子速度
定量的な検討を行うためには,計算値の精度がどの程度か予め検討しておく必要がある.そのためには同じ条件での物理実験の計測値があれば,それと比較して議論できる.しかしながらいま対象としている現象は物理実験では正確な測定が困難な現象であり,計算値の精度を議論出来るような精度の高い計測値はない.宮田[1986]は計算結果を実験結果と比較しているが,それは水面形と圧力に限られており,水粒子速度に関しては比較していない.また比較すべき解析結果もない.
ただし水塊が前面水面に接するまではポテンシャル理論で計算されており,比較することが出来る.
例えばNewら(1985)によると,峯から飛び出した水塊内の水平方向水粒子速度はその平均水深と波長で与えられる微小振幅波の波速の1.5から2.0倍になる.ケース6の水塊が前面水面に突入する前のx方向(正確には水平方向ではない)最大水粒子速度は水塊内で生じるが,その値は230cm/secで微小振幅波の波速の約2.1倍となる.いま各セルでのx方向水粒子速度の値がその回りの8つのセルの値の120%以上の場合はその値を無視して最大水粒子速度をもとめると,この場合には約180cm/secとなり,微小振幅波の波速の約1.6倍になる.このことから,以下では周りの8つのセルにおける速度の120%以上にならない最大の値を各時間ステップにおける最大値とする.
図-6.3.14,(1)-(5)は,ケース6の5つの時間ステップでのx方向水粒子速度の空間分布を示している.図(1)は峯の前面がほぼ垂直になった時点であり,最大x方向水粒子速度は垂直になった前面に現れ,その値は163cm/secで,水深から決まる線形長波の波速√gh=110cm/secの約1.5倍となっている.図(2)は,峯から飛び出した水塊が発達している状況で,その最大値は水塊内に生じて183cm/sec,ghとの比は約1.6である.図(3)は,水塊の前面水面への突っ込みが始まった時点で,最大値は水塊の先端付近に生じ246cm/secで、√ghとの比は約2.2である。図(4)は、第2の水塊がトラフ水面に接した時点のもので、最大水粒子速度は減少している。さらに図(5)は、第3の水塊がトラフ水面に接する時点のもので、最大水粒子速度はさらに減少している。
図-6.3.15,(1),(2)は、ケース4の2つの時間ステップでのx方向水粒子速度の空間分布を示している。ケース6と同様に、峰の前面が次第に切り立ち、その後水塊が飛び出すが、図(1)はその状態の図で、最大水粒子速度は水塊内に生じ、値は256cm/secで、水深から決まる線形長波の波速 gh=125cm/secとの比は約2.0である。図(2)はその後水塊が前面水面に接した時点であるが、最大値は減少している。
このように、砕波後の峯から飛び出した水塊内のx方向水粒子速度は水深から決まる線形長波の波速の2倍以上にもなるが、巻き波型砕波のケース6の場合、水塊が前面水面に突入する時点で生じるのに対し、崩れ波型砕波のケース4の場合は、水塊が前面水面に接する前に生じる。
(2) 循環
図-6.3.10,(6)や図-6.3.12,(3)に見られるように、砕波後、砕波形式にかかわらずいくつかの水平渦状運動が発生することがわかる。ここではこの渦状運動を評価するため、その循環を計算する。循環の計算経路は一般に流線に沿った閉曲線を選べばよいが、この計算では1cmxO.5cmの長方形セルの辺上で水粒子速度が与えられているので、閉曲線を正方形とした。その中心はベクトル図から決定した。
一辺の長さは、大きくするほど循環の値が大きくなり、また水面から出てしまうので、4cmとした。図-6.3.16は巻き波型砕波のケース6の計算結果を示す。図中には発生の順に第1番目から3番目の渦状運動までの循環値の時間的変化を示している。図から明らかなように、その値は最大1000cm^2/sec程度で、いずれも指数関数的に減少している。
図-6.3.17は、崩れ波型砕波のケース4の結果である。この場合は、第2番目のものを除くとその値がやや小さいことがわかる。水深から決まる線形長波の波速と水深の積√gh×hを計算すると、ケース6では約1400cm^2/sec、ケース4では約2000cm^2/secとなる。従って、巻き波型砕波のケース6の場合は循環は√gh×hの約0.7倍に、また崩れ波型砕波のケース4の場合は約0・5倍になることがわかる。
(3) 渦度
1.OcmxO.5cmのセルの辺上で水粒子速度が計算されているので、次式で渦度を計算した。
すなわち考えているセルの左側と下側のセルの流速を用いて、その差から渦度を求めた。渦度に関しても、水粒子速度と同様に周りのセルでの値より120%以上の値を示す最大値は無視した。なお初期状態で渦度を計算したところ、ケース6では-IOsec^-1程度の値が生じた。これは滝川らの計算値から流速定義点での値を線形内挿したことによるものと考えられ、以下では誤差と考える。
図-6.3.18,(1)-(4)は、ケース6のいくつかのタイムステップにおける渦度の空間分布を示している。
図(1)は、峰の前面がほぼ垂直になった時点で、その付近で渦度がやや大きくなっている(-38sec^-1)。
図(2)では峰から飛び出した水塊が発達している時点で、その付け根の付近でさらに大きくなっている(-92sec^-1)。図(3)は、水塊が前面水面に突入した時点で、突入点で渦度が急激に大きくなっている(-273sec^-1)。図(4)は、第3の水塊が前面水面に接した時点で、その付近でさらに大きくなっている(-317sec^-1)。
図-6.3.19は、ケース4の第2の水塊が前面水面に接した直後の時点での渦度の分布を示している。
前面水面から飛び出した第3の水塊の先端で大きな値(-335sec^-1)が生じている。崩れ波型砕波のケース4の場合は、これ以前の変化は巻き波型砕波のケース6の場合とほぼ同じである。また第2の水塊の前面水面との接触の後は、ケース6と異なり、渦度の値が次第に減少している。
このように砕波形式の異なる2つのケースで,渦度の空間分布とその時間的変化の傾向はほぼ似ている。
ただし値そのものは全体としてはケース6の方がやや大きく、ケース4の方が減衰が早いようである。
(4) 圧力
図-6.3.20,(1)-(4)は、ケース6のいくつかの時点での圧力の空間分布を示している。図(1)は、波の峰の前面が垂直になる時点で、圧力はほぼ静水圧分布である事がわかる。図(2)は、峰からの水塊が発達している時点で、水塊の背後の圧力が大きくなり、水塊を押し出している事がわかる。図(3)は水塊が前面水面に突入した時点で、その付近で圧力が大きくなっている。図(4)は第2の水塊が前面水面に接した直後で、やはりその接触点付近でやや圧力が大きくなっている。崩れ波型砕波の場合も、巻き波型砕波のケース6の場合とほぼ同様である。全体として崩れ波型砕波のケース4の方が、水塊の背後の圧力増加が小さく、その持続時間が短い。
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6・3・7 あとがき
ここでは1983年の日本海中部地震津波で見られた津波先端部での短周期成分の異常な発達の解明に関連して、周期性の巻き波型砕波の砕波後の運動の数値計算を行った。数値計算法としては、砕波後の強いせん断流れに適用できるMAC法を用いた。滝川ら[1983]による水槽内の一様勾配斜面上で砕ける直前の波の有限要素法による数値計算結果を初期条件として用いた。
巻き波型砕波の数値計算結果から、砕波後の峰からの水塊の飛び出しと前面のトラフ水面への突入という過程の繰り返しと、それに伴ういくつかの水平渦状運動の発生を確認した。この結果を崩れ波型砕波の数値計算結果と比較し、崩れ波型砕波でも上記の過程は存在すること、ただし峯からの水塊は前面水面を滑るように進むことがわかった。
ほぼ水平方向に対応する斜面方向の水粒子速度の最大値は、水深で決まる線形長波の波速の約2倍程度になる。水平渦状運動の循環の値は、水深で決まる線形長波波速と水深の積の値の0.5~0.7倍になる。渦度は、峯からの水塊が前面水面に接する事により急激に大きくなる。圧力は峯からの水塊の背後で大きくなり、また水塊が前面水面に接するところで大きくなる。
最後にこの研究を行うに当り有益な助言を頂いた岩垣雄一京都大学名誉教授(名城大学教授)および土屋義人京都大学防災研教授に感謝するとともに、貴重な計算データを提供していただいた滝川清熊本大学講師および数値計算に際して協力していただいた当時京都大学大学院学生の水谷太作、田中秀明、村井和彦の3君に謝意を表する。
第7章 津波先端部の波力
7.1 砕波段波衝突による衝撃波力の推定法
7.1.1 序
ドライ・ベッド上のサージング・フロント衝突による、構造物などへの衝撃波力評価に関する理論的研究として、Crossの研究[Cross,1967]が代表としてある。彼の研究は、陸上遡上津波を対象とした、ゲート急開流れのサージング・フロントに、Cumberbatch理論[Cumberbatch,1960]を適用したものである。その結果の有用性も、実験値との比較により、確認されている。
一方、下流側水深を有する、砕波段波衝突による衝撃波力の理論的推定を試みた研究例はほとんどない。
同じく、津波を対象としたゲート急開流れの砕波段波にCumberbatch理論を適用した、Crossの研究が挙げられる程度である。しかし、その研究にしても、完全に理論的なわけではない。衝撃波力評価の際に必要とされる段波の水面形(正確には水面勾配と水深)や段波移動速度などに、実験値が用いられている。それらの理論的推定が、まだ困難な研究の進捗状況であったためである。
本研究は、著者が対象段波の水面形や移動速度などの理論的推定を可能にしたので[松冨,1986a]、その理論をCrossの考えに適用することで、砕波段波衝突による衝撃波力の完全な理論的推定を試みようとするものである。
その理論結果の妥当性は、実験値との比較により検討される。しかし、全衝撃波力の経時変化に関する既往の実験データは一つしかない。このデータが精度良いものかどうかは、検討結果の信頼性に関係する。検討結果の信頼性を高めるには、多くの実験データとの比較・検討が不可欠と思われる。また、今後のこの種の研究の発展のためにも、利用できる実験データの蓄積は重要である。そのため、新たに実験を行い、理論結果の妥当性を検討することにする。実験データの提供ということも、本研究の目的の一つとする。
7.1.2 理論
本研究は、図-7.1.1に示すように、初期下流側水深と流速を有する場合の、ゲート急開流れの砕波段波が鉛直壁に衝突する時で、静水圧が支配的とならない、段波衝突後の比較的短い間での波力を対象とする。すなわち、全体からみれば小さい全静水圧と砕波段波の持つ運動量が力積に変換された時の全圧力(一般に、この全圧力を衝撃波力と呼ぶ)との合力を対象にする。本研究では、この合力を全波力または全衝撃波力と呼んでいる。
Crossに従えば、Cumberbatch理論を用いて、対象段波衝突による全(衝撃)波力Fは、近似的に次式で推定される[Cross,1967]
ここで、ρ:水の密度、g:重力加速度、hとu:各々衝突壁がない時の、壁の据えられる位置での入射段波の全水深と断面平均水平方向水粒子速度、tanθ(>0):水面勾配、CF:force coefficientと呼ばれるもので[Cumberbatch,1960]、式(7.1.2)はCuraberbatch理論の近似としてCrossにより導かれたものである。式(7.1.1)の右辺第一項が静水圧項、第二項が運動量が力積に変換された時の全圧力項である。水面勾配にかかっている指数1.2は、その近似の程度により、多少変化し得るものである。
本来ならば、Cumberbatch理論は下流側水深を有する段波には適用できない。段波内部の流況は、Cumberbatch理論で想定されている(ドライ・ベッド上の流れの)流況と、異なるからである。しかし、本研究例のように、段波下流側水深hθが段波波高に比べて十分に小さい場合は(図-7.1.3、8、9と10参照)、下流側水深有無による流れ先端部での流況の差は、それほど大きくないものと考えられる。本研究で示される方法は、段波下流側水深が段波波高に比べてかなり小さい場合にのみ、適用可能なものなのである。
全波力の経時的変化は、式(7.1.1)と(7.1.2)から判断されるように、衝突壁がない時の、壁の据えられる位置での入射段波の時々刻々の水深、水面勾配と流速が与えられれば、推定可能となる。本研究では、その水深と水面勾配をこ各々著者の水深に関する次の理論式[松冨,1986a];
ξ≦x≦ξθで
ξθ≦x≦aで
と、それらを空間微分して得られる次式:
ξ≦x≦ξθで
ξθ≦x≦aで
で評価することにする。ここで、x:ゲート位置を原点とし、下流方向を正とする水平距離座標、a:段波先端位置、ξ:段波後端位置、ξθ:コア領域終端位置、a:段波先端移動速度、U:段波後端での断面平均水平方向水粒子速度、vθ:底面での水粒子速度、uθ:初期のゲート下流側での断面平均水粒子速度、d:コア厚、K:抵抗係数、A:段波内の水平方向水粒子速度の鉛直分布に関する定数である。また、流速uには、近似的にx=ξでの流速U(≒a)を採用することにする。これは、波力評価に用いているCumberbatch理論が、ドライ・ベッド上の波形不変な(流れ方向に流速一様で、流速=流れ先端移動速度となる)流れの衝突に対するものであることによる。
著者の水面形推定法における段波のモデル化では、水平方向水粒子速度の鉛直分布を考慮している[松冨,1986a]。uとして、段波各点(段波が移動していることより、このようにも表現される)での断面平均流速を採用するのが、理論的に整合性がある。事実、全衝撃波力に関しては、その方が段波の立ち上がり部分で実験値により良く一致する。しかし、著者のモデルでは、段波先端に近づくにつれて、uが単調減少的にuθ(≪a)に近づき、波圧も単調減少的に小さくなる(ピークを持たない)という、不合理を生じる。理論的に整合性のある方法を採用するには、Madsen and Svendsenのような[Madsen and Svendsen,1983]、段波先端でvs=uθとならない、より厳密な段波モデルを採用する必要があろう。ここで、vsは水表面での水平方向水粒子速度で、彼等の場合、uθ=Oである。
とは言うものの、波力評価にCumberbatch理論を用いていることを考えると、本研究のように水面勾配を正確に求め、段波内全体で流速(段波移動速度に近いもの)が同じというモデルの方が良いかもしれない。対象段波の場合(θ<45°)、式(7.1.1)の静水圧項を小さいと考えると(この妥当性は次項(1)での計算例で示される)、水面勾配の推定精度次第で、全波力は倍程度に変化し得るものである。これについては、Crossの論文[Cross,1967]の図-7を参照されたい。
本研究では、Aの値として、2.Oを採用している。a、ξやξθなどの評価方法については、著者の論文[松冨,1986a]を参照されたい。また、対象段波の水面形推定における段波のモデル化と式中の諸記号については、図-7.1.2を参照されたい。
ところで、式(7.1.6)は段波先端(x=a)でO/Oの不定形となる。このままでは、段波衝突時の全衝撃波力や衝撃波圧を評価することができない。本理論では、この時に最大衝撃波圧を生じ(たとえば、図-7.1.3(c)参照)、その評価は非常に重要である。そこで、不定形の極限値を得る手法で、その解を求めることにする。その結果として、次式が得られる。
ここで、添字x=aは段波先端での値であることを表す。
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7.1.3 解の適用性
本理論の実際問題への適用性について、実験結果との比較を通して、検討することにする。
(1) 既往実験値との比較
波力の実験は難しいこともあってか、特に本研究対象の段波衝突による波力の実験例は少ない。入射段波条件や全波力の経時変化などもはっきりしている実験値としては、Crossのものが利用できる程度である。それも、一実験値の利用ができるだけで、初期ゲート上流側水深h1≒O.366m、hθ≒O.006m、uθ≒Om/s、底面勾配i≒O.002の条件の基で得られたものである。ただし、段波衝突直後に発生する最大衝撃波圧に関しては、福井らのもの[Fukui et al.,1963]が利用できる。そこで先ず、Crossの実験値と福井らの実験値や実験式との比較により、本研究で示された理論的手法の妥当性を検討することにする。
図-7.1.3(a)は、入射段波水位の経時変化の比較を示したものである。ゲート地点からの距離x≒4.7mでのものである。水位の立ち上がり始めをともに時間の原点(t=0)としてある。理論値は、段波を進行させ、想定壁面位置での水位変化を求めたものである。
抵抗係数としては、Crossの与えたChezyの流速係数Ch(=98)から換算(K=g/Ch^2≒O.OO1)されたものを採用している。想定壁面位置を通過した後の段波の水面形と先端移動速度aは変わらないと仮定して、t=0での空間波形を移動させた時の水位変化もほぼ同じ結果となった。この図によると、理論値の方が全般的に実験値より大きい。特に、t=0.2sまでの水位の立ち上がり過程には、大きな違いが認められる。この理由として、i)実験でのhθの評価の正確性、ii)気泡を含んだ流れに対する波高計の応答性や iii)実験値は排水のことを考えて緩い斜面上で得られたものであるが、理論値は水平床として評価されている、などが考えられる。特に、i)の段波下流側水深は段波水深に大きな影響をおよぼすものである。
これらの点については、次項の本研究実験値との比較において、簡単に考察される。
図-7.1.3(b)は、全波力の経時変化の比較を示したものである。ゲート地点からの距離x≒5.1mでのものである。図には、段波衝突後鉛直方向に投げ出された流体塊が落下してきた時に生じる、波力の増大部分までは示されていない。その部分は対象外の波力だからである(次項参照)。この図によると、理論値と実験値は比較的良く一致している。ちなみに、全波力のほぼ一定となっている、t=0.4s前後での理論における全静水圧の全波力に占める割合は、10%程度である。
本理論では、コア領域終端点(x=ξθ点で、図-7.1.2参照)での水面勾配が食い違っているため、波力もその点で食い違いを見せる。しかし、その大きさは、最大全波力からみれば、無視できる程度であることが図-7.1.3(b)から判断される。図中には、Stoker理論[Stoker,1957]で評価される全静水圧も、合わせて示されている。ただし、壁面衝突開始時の段波と同一水理条件を有する理想的定常段波が、壁面に衝突して、完全反射する時のものである。Stoker理論で評価される全静水圧は、段波衝突直後の短い間に形成される全衝撃波力よりも、かなり大きいようである。衝撃的な全波力の評価には、本研究の方法がより合理的であると判断される。さらに、図中には、段波先端衝突時の水面勾配として式(7.1.7)を用いて評価した、全衝撃波力が黒丸で示されている。この値は、t=0の時の段波先端(x=a)近傍での水深と水面勾配を用いて評価された波力から、外挿して求めたものとほぼ同じであった。
図-7.1.3(c)は、衝撃波圧pの経時変化の比較を示したものである。ゲート地点からの距離x≒5.1mでのものであるが、段波水深に関する実験値は4.7mでのものを用いている(図-7.1.3(a)参照)。ここで、衝撃波圧pは、全波力Fと段波水深hを用いて、p=F/hで定義されている。実際の段波衝突後の衝撃波力の作用範囲は、流体塊が鉛直方向に投げ出されるため、入射段波水深幅よりも広い[Cumberbatch,1960]。たとえば、次項で述べるh1=O.45mの実験では、入射段波水深h≒0.13mの時で、作用範囲(投げ出された流体塊の先端高さ)は約0.4mであった。ただし、投げ出された流体塊部分での衝撃波力は小さいこと[Cumberbatch,1960]、この波圧の定義での理論値と実験値の比較に、問題はないことを断っておく。この図によると、発生時刻に差が見られるが、理論と実験の最大衝撃波圧pm(理論値は図中の黒丸)はほほ同じ値を示している。しかし、ほほ一定となる、t=O.1s以後での理論波圧は、過少評価傾向にある。これは主に、図-7.1.3(a)からも判断されるように、その領域での両者間の段波水位差に起因しているものと推定される。
図-7.1.4は、図-7.1.3(c)に示された、理論による最大衝撃波圧(黒丸)と最大衝撃波圧に関する福井らの実験式および実験値[Fukui et al.,1963]との比較を示したものである。図中、白丸が実験値で、黒丸(黒三角)が理論値、すなわち、式(7.1.9a)(式(7.1.9b))で評価されたものである。この場合の理論値は、段波下流側水深が非常に小さいので(約O.006m)、断面平均的な衝撃波圧(本研究の衝撃波圧がF/hで定義されていることによる)と考える必要はない。また、図中の実線が福井らの実験曲線で、鉛直壁に対する彼らの実験式は次式である。
ここで、ζは入射段波波高で、本研究では(Hξ-hθ)に相当する。Hξはx=ξでの全水深である。図-7.1.4によると、式(7.1.8)は実験値に対して少し大きめの値を与えるようである。実験係数である波圧係数(0.51)が、もう少し小さく評価されても良いように思われる。図中の破線は、福井らの論文[Fukui etaし,1963]の図-14中に示されている、実験曲線である。こちらの方が、式(7.1.8)の実線に比べて、実験値との一致度が良い。破線は段波伝播速度aのほぼ3乗に比例している。
式(7.1.8)に相当する本研究の理論式は次式である。
ここで、式(7.1.9a)から式(7.1.9b)への近似は、段波下流側水深が段波波高に比べて非常に小さい(hθ≪ζ)、と想定してのことである。福井らの実験での最大衝撃波圧は、段波下流側の静水面位置で生じているので、式(7.1.1)の静水圧項は無視されている。ちなみに、本理論計算例でのその全静水圧の全衝撃波力に対する割合は、1%以下である。図-7.1.4によると、理論値は、式(7.1.8)の実験式による推定値に比べて、かなり小さめ(約1/2)である。しかし、実験値と比べると、ほぼ妥当なところに位置しており、本理論の実際問題への有用性が伺われる。
(2) 本研究実験値との比較
利用できる既往の実験値は非常に少ない。同一地点での入射段波水位と全衝撃波力の経時変化に関する実験データは皆無である。また、それら実験値の精度も不明である。実験データの提供(蓄積)ということも含め、本理論の妥当性に関する検討結果の信頼性を高めるためにも、実験を行う必要がある。 実験に使用した水路は高さ0.5m、幅0.3m、長さ11.0mの水平に設置された鋼製矩形水路で、水路下流側の10m部分が両面ガラス張りのものである。ガラスの片面には、経時的流れ先端位置と空間波形読み取りのため、5cm間隔のメッシュが刻まれている。ゲートとして、手動の引き揚げ式のもの(塩化ビニール樹脂製で、厚さ12mm)が用いられた。水路下流端から6mのところに位置している。ゲート下流側の水深調節のため、水路下流端に取り外し可能な堰も取り付けられた。また、波力測定には、しっかりと固定できる、受圧板付きのL型鋼棒が用いられた。受圧板は塩化ビニール樹脂製で、その諸元は10×295×500mmである。L型鋼棒の諸元は断面40×70mm、固定時水平部長さ550mm、鉛直部長き970mmである。この波力計の固有振動数は、受圧板を取り付けた状態で、約27Hzである。波力の評価には、防水歪みゲージで鋼棒鉛直部の歪みを測定し、それを力に換算する方法が取られた。つまり、全波力の測定が行われた。実験装置の概要を図-7.1.5に示す。
上述の波力測定法では、波力計のキャリブレーションが問題となる。合波力の作用点が時間的に移動するからである。本研究ではそれを、バネ秤(秤量50kg)を用い、全衝撃波力のピーク値付近(ほぼ一定値となるt=O.4s付近。図-7.1.8(b)、9(b)と10(b)参照)の合波力(静水圧を除く)の作用点に対してのみ行った。つまり、前項での衝撃波圧の定義から想像つくように、衝撃波圧は底面から入射段波水位まで等分布的に働くと考え、衝突壁がない時の、全衝撃波力ピーク時付近での入射段波水深の1/2点に対して行った。この結果のみを用いて波力を評価すると、ピーク前の波力が過大評価されることになる。しかし、作用点をその移動範囲内(z=10~66mm)で変えてキャリブレーションを行ったところ、本波力計では高々数%であることを確認した。
図-7.1.6に、波力計のキャリブレーション結果例を示す。hθ=O.02m、h1=O.4mの場合のものである。合波力の作用点は底面から64mmのところである。縦軸は載荷力で、横軸はペン・レコーダー記録紙上の変位量である。図の前面・後面は、各々歪みゲージの貼り付けられたL型鋼棒(受圧板の取り付けられた鉛直部)の側面を示す。上流側が前面で、下流側が後面である。前面と後面の結果はほぼ同じで、直線性も非常に良い。他の実験ケースでのキャリブレーション結果も、同じであった。
実験ケースは、uθとhθを各々零と0.02mに固定し、h1を0.35m、0.40m、O.45mとした、3ケースである。ただし、測定は、各ケースとも、ゲート下流x=3.87mと5.05mの2箇所で行われた。
測定項目は全波力、段波衝突前後の壁面近傍での水面形、衝突壁前面O.4mと1mでの入・反射段波の時間波形、衝突壁を取り除いた時の壁の据えられる位置での入射段波の空間と時間波形である。段波衝突前後の壁面近傍での水面形の測定は、段波衝突後にCumberbatch理論で想定されているような水面形となるかどうかの確認、鉛直方向に投げ出された流体塊の挙動の確認などのために行われた。衝突壁前面での入・反射段波の時間波形の測定は、Stoker理論[Stoker,1975]で予測される反射段波水深の妥当性の確認などのために行われた。これらの測定には、上述の波力測定装置の他に、モーター・ドライブ・カメラ(約5コマ/秒)と容量式波高計が用いられた。波高計の使用に際し、線形応答に必要な水深確保のため、底面下に箱を設ける[たとえば、松冨,1986b]などという特別な細工はなされていない。図-7.1.7に波高計のキャリブレーション結果を示す。本実験ケースのように、常にh≧0.02mとなる場合では、直線性が非常に良いことが判断される。全波力と段波水位の経時変化の記録には、ペン・レコーダーを用いた。
図-7.1.8(a)、(b)と(c)に、h1=O.35m、hθ=0.02m、x=5.05mでの入射段波水位、全衝撃波力と衝撃波圧の経時変化に関する実験値(白丸)と理論値(実線)の比較を示す。ここで、理論における抵抗係数Kは、従来の滑面開水路抵抗則での水深に、Stoker理論[Stoker,1957]より計算される理想段波水深を用いて推定されている。その値は約O.002である。以下の理論計算でのそれも、全て同じ方法で推定されている。滑面水路に対して、この方法が有効であることは確認済みである[松冨,1986a]。また、衝撃波圧に関する実験値は、入射段波水位と全衝撃波力の均された時間波形から評価されている。図-7.1.8(a)と(b)中の破線がその均され、採用された時間波形で、以下の図でも同じである。これは、同一段波で、しかも同一地点でのそれらの実験値が得られないことによる便法である。図-7.1.8(b)中の二点鎖線と黒丸、(c)中の黒丸は各々図-7.1.3(b)と(c)中のそれらと同じものを表す。ちなみに、本実験での反射段波水深(段波反射時の全静水圧と言っても良い)は、Stoker理論で予測されるそれより、若干小さめの傾向であった。
図-7.1.9と10の(a)、(b)、(c)は、各々(h1=O.40m、hθ=O.02m、x=5.05m)と(h1=O.45m、hθ=O.02m、x=5.05m)での入射段波水位、全衝撃波力と衝撃波圧の経時変化に関する、実験値と理論値の比較を示したものである。残りの他のケースについては、著者の論文[松冨,1988]を参照されたい。
図-7.1.8、9と10によると、入射段波水位の経時変化に関する理論値と本実験値の一致度は、Crossの実験値の時と比較して(図-7.1.3(a)参照)、良くなっている。特に、h1=O.35mと0.40mの場合は、t=0.2sまでの水位の立ち上がり過程も良く一致している。理論値とCrossの実験値との不一致は、気泡などのあまり含まれない、ほぼ一定段波水深となる領域でも大きい。hθ=0.O1m、その他は既述の条件と同一条件での付加実験を行ったところ、これと同じ傾向の結果が得られた。Crossの実験値は、ゲート下流側水深が約0.006mという非常に小さな条件で得られたものである。波高計の線形応答に必要な水深確保などという特別な細工は、本実験と同じく、なされていない。理論値とCrossの実験値との不一致は、主に、波高計出力の線形性が十分に保たれていなかったためでないかと思われる。本実験での波高計のキャリブレーション結果については、図-7.1.7を参照されたい。
全衝撃波力の経時変化に関する本実験値は、Crossの実験値と同じ傾向を示している。ただし、どれも単調増加しており、Crossの実験値でのような緩いピークは見られない(図-7.1.3(b)参照)。t=0.5s付近での立ち上がりは、段波衝突後鉛直方向に投げ出された流体塊が落下してきた時に生じるものである。同じような立ち上がりはCrossの実験値でも見られる[Cross,1967]。ただし、その相対的大きさは本実験値に比べて少し小さい。本研究では、この立ち上がりまでの波力を衝撃波力としている。実験値と理論値の一致度も比較的良い。以上より、全衝撃波力に関するCrossの実験値は、ほぼ妥当なものと判断されよう。
衝撃波圧の経時変化に関する本実験値も、Crossの実験値と全体的に同じ傾向を示している。しかし、最大衝撃波圧への立ち上がりが少し緩めの傾向にある。最大値の理論との一致度も、Crossの実験値の時と比べ、あまり良くない。この理由の一つに、本実験で動ひずみ測定器の感度を落し過ぎ、全衝撃波力の立ち上がりが緩慢になっていることが考えられる。その他として、実験データの整理方法の問題(均されたデータを用いて評価していること)などが考えられよう。
以上、本研究理論の妥当性の検討を行った。砕波段波衝突による最大衝撃波圧や全衝撃波力の評価は工学上非常に重要である。本項(1)・(2)での検討結果より、本研究理論の実際問題への有用性が確認されたと判断して良い。
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7.1.4 結語
ゲート急開流れの砕波段波衝突による衝撃波力の一理論的推定法を示した。波力実験を行い、その推定法の妥当性の検討と利用できる実験データの提供を試みた。既往実験データとの比較・検討も行った。本研究で得られた主要な結論は次の通りである。
(1)本研究対象段波衝突による全衝撃波力は、7.1.2で示された方法で、比較的精度良く推定できる。
(2)断面平均的衝撃波圧も、最大値とその後の平坦部での値に関しては、本研究の方法で比較的精度良く推定できる。
(3)本理論では、コア領域終端点(x=ξθ)での水面勾配が不連続なため、全衝撃波力や衝撃波圧もその点で食い違いを見せる。しかし、その大きさは全体からみれば小さく、本研究の方法の有用性を損なうものではない。
(4)全衝撃波力に関するCrossの実験値は、ほぼ妥当なものと判断される。
(5)同一地点での入射段波水位と全衝撃波力の経時変化に関する実験データを提供した。それらの均された時間波形を用いて、衝撃波圧の経時変化に関するデータの提供も行った。ただし、最大衝撃波圧に関しては、あまり精度良い結果が得られていない。
7.2 ソリトン分裂津波による異形ブロック堤の破壊とブロック散乱のメカニズム
7.2.1 諸言
昭和58年5月26日に起きた日本海中部地震津波は非常に珍しいソリトン分裂津波であったが、これによって秋田県沿岸の随所で汀線付近の異形ブロック塊の一部が破壊され、ブロックが砂浜上に広い範囲に亘って散乱した。小笠原等の被災調査報告によれば[小笠原・宇多・川村,1984]、そのブロックは八森海岸では離岸堤の8tの六脚ブロックで、最大散乱距離は30~70m、峰浜海岸では消波堤の4tの3連ブロックで、最大散乱距離は70~135m,八竜海岸では同じく消波堤の4tのコーケンブロックで、最大散乱距離は30~55mであった。各地共、ブロックの散乱個数は数十~数百個という惨憺たる状況で、これは過去に例のない今度の津波災害の新しい特徴であった。
本研究は、このソリトン分裂津波による異形ブロック堤の破壊とブロック散乱のメカニズムを実験的に解明することを目的とする。そのためには、ブロック堤の中にあるブロックと陸上に孤立した1個のブロックに働く波力を測定する必要があるが、堤体の設置位置と配列・構造や異形ブロックの種類が異なるので、実験は、大きく3つに分けて行われた。1つは、8t型六脚ブロックの離岸堤に関するもの、いま1つは、4t型3連ブロックの陸上消波堤に関するものであリ、いずれも"安定実験"と言うよりはむしろここでは"破壊実験"と呼ぶ方が相応しい内容の実験である。そしてもう1つは、前記2種類のブロックの他に4t型のコーケンブロックを加えて3種類、更に重量別では計6種類のブロックによる陸上散乱に関する実験である。
7.2.2 実験
(1) 模型縮尺
首藤の現地調査報告によれぱ[首藤,1984]、分散する前の津波の周期は10分程度、沿岸から幾人かに目視または撮影記録されたソリトンの周期は10秒前後、波高は所によって異なるが、最大6~8mとなっている。これに対して実験装置の造波性能として、初期発生波が、図-7.2.1に示す小段のついた水平床上でソリトン分裂し、十分にえリ分けられて増幅した後に海底斜面法先に入射するような波を造るには、水深h=20~25cmに対してH0/h=0.4~0.5程度が限度であるから、初期発生波高H0は最大10cm程度であり、えり分け終了後の増幅率は1.5~2.0倍程度となる.一方、前述の8~4tの3種類のブロックの現に造られて使用されている模型ブロックの大きさは縮尺1/40~1/60以上である。従って、この他にブロックを取付ける波力計の構造と特性といった測定上の問題点も勘案し、模型縮尺は1/50程度とした。
(2) 模型斜面勾配
現地海岸の海底勾配は、概して汀線から水深5m位まではS=1/20~1/50で、この辺が砕波帯になっているらしくバーとトラフが発達しているが、これから水深10m位まで急に緩やかになってS=1/100~1/150程度となっている所が多いようである。一方、実験水槽の長さ60mという制約に対して、ソリトンのえり分け距離としては少なくとも20~30m程度の水平床部分の長さが必要なことと、実験水深も最大25~30cmは必要であるから、模型の海底斜面勾配をS=1/100として水槽の中央から他端30mに設置した。
現地陸上の浜勾配はかなリ急で、概して汀線から30~50m位までの前浜勾配はS=1/5~1/15位、それから鞍部があって、後浜はS=1/20程度の砂丘斜面に連なっている所が多い。従って、模型の陸上斜面勾配はS=1/10及びそれと1/20を組合わせた複合型斜面勾配とし、実験水深h=10~25cmの大きさに応じ、汀線を移動して任意の地点に設置できるようにした。
(3) 実験装置・器具
造波装置は気圧式で、図-7.2.1の左端に接続されている。入射波が早めにソリトン分裂し易いように設けた高さ25cmの小段のついた水平床とS=1/100の海底勾配斜面はコンクリート製である。また陸上勾配斜面はS=1/10の前浜部は鉄板またはアルミ板製、それに続く長さ20cmの水平小段状の鞍部とS=1/20の後浜部はアクリル板製であり、現地海岸の縦断地形に出来るだけ相似するように造ってある。
波高計は容量式、流速計はφ10mmのプロペラ式である。波力計は水平波力計と合波力計の2種類である[堀越,1984]。いずれも厚さ3mmの燐青銅板製で、水平波力計は幅6mm、長さ25cmの物指し状の平棒、合波力計は幅6mm、長さ15+15=30cmのL型の平棒であり、いずれもその先端にはブロック取付け用のステンレスまたは真鍮製のφ2~3mm、長さ3cm程の支持棒が取付けてある。図-7.2.2に合波力計の検定直線の一例を示すが、直線性および水平力と鉛直力の重ね合わせが良いので、合波力から水平波力を差引いて鉛直波力が求められる。
(4) 実験波の予備実験
図-7.2.3は小段のついた水平床上のソリトン変形の一例であるが、水平床始端(X=11m)での入射波がソリトン変形する範囲は総じてH0/h=0.25~0.45,アーセル数H0L0^2/h^3>100である。入射波は海底斜面法先(X=30m)に到達するまでに略々えり分けが完了して1stソリトンは砕波するが、H0/hが小さい場合は図のように斜面法先に少し入ってから(X=30~35m)砕波するものもある。初期入射波が水平床上でソリトン分裂した後のソリトンのえり分け距離については、岩崎等と同じ手法で整理したが[岩崎他,1978]、平均してXmax<1.5~2.OL0であり、水平床の長さ20m以内であった。また、1stソリトンの波高増幅率は2倍前後である。図-7.2.4は上から3番目までが波高、4番日が流速、5、6番目がブロックに作用する合波力と水平波力の各測定記録の代表的な一例である。3~6番目は汀線より1.5m陸側の同じ測点の記録である。小段上の水平床始端(X=10m)の入射波の波高は約10cmで、H0/h≒0.4となり、かなり大きいので、斜面法先での分散波裂はまだ完全にえり分けられてはいないが、1stソリトンは約2倍に増幅して砕波直前である。この1stソリトンは海底斜面に入ると間もなく砕けるが、汀線の少し前では2ndソリトンに追いつかれて合体し、汀線から陸上の波高、流速及びブロックに作用する波力は2ndソリトン以降のものとなる。汀線より陸側では、斜面勾配によって異なるが、概して1~2.5mの間で3rdソリトンが波先端に追いつき、これが最大遡上高を与える。
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7.2.3 結果と考察
(1) 8t型六脚ブロック式離岸堤の破壊
模型縮尺は1/40である。これは前述の事情から、本実験で使用できる最大級の大きさである。現地八森海岸における離岸堤は、汀線から30~50m海側に設置されており、設置後幾度かの嵩上げ補修と波によって乱されて外見では乱積状であるが、元々は標準3層積である。従って、実験方法も勘案して、モルタル製の離岸堤模型は標準3層積として、実物の中間部(40m)を切り出した形で、水槽幅(1m)の全幅に亘って汀線から1m海側に設置した。模型を設置するに当り、最下層のブロックは、実際の津波災害時には移動しないので、水路床に接着剤で固定した。斜面法先水深は主として25cmであるが、30cmの場合も数例ある。被害判定基準は、ブロック1個分以上移動したものを"D"と定義した。
1) ソリトン分裂津波の特性
図-7.2.1に示す高さ25cmの小段のついた水平床始端に入射する沖合いの分散前の波の特性をアーセル数(Ur=gH0T^2/h^2)で表わすと、これは離岸堤位置の最大波高と流速等で表わされる無次元水理量である;無次元波高(H/h,但しhは斜面法先水深)、フルード数(Fr=U/√g(hd+H)),但しhdは離岸堤位置の水深)及びブロックレイノルズ数(Re=(U/ν)・(V0/γ)^1/3)等とよく相関し、離岸堤位置に入射するソリトン分裂津波の特性は、沖合い入射波のUr数によって略々統一的に把握される(図-7.2.5~7)。
こうした水理量が離岸堤の中のブロックに働く最大合波力等に直接的に結びつけられると現象を理解し易くなるのであるが、事はそれ程単純には処理出来ない。これらの波力への変換過程は複雑で不明であるが、波力によって破壊された結果としての被害規模との関係は得られるようである。従ってまた当然であるが、この離岸堤位置に入射するソリトン分裂津波の特性量を抜きにして、沖合い入射波の特性量と被害規模との関係も得られるので、ここでは紙数の都合により、これのみを図-7.2.8に示す。少しバラツイテはいるが、大体の傾向は出ているように思われる。これによって、沖合い発生波から被災結果までの一連の関係が見出されたと言えよう。しかし、その途中のプロセスには1つのブラックボックスがある。
2) 離岸堤の破壊機構
視察とビデオ観察によれば、六脚ブロック堤の破壊は、図-7.2.9に示す整積法面が形成する斜面上において、最上層陸側にある1個のブロックに働く波力による転倒、斜面に平行な方向の滑動、斜面に直角な力向の滑動、及び浮上等に0よって起こリ、それが次々に波及して(場合によっては殆ど瞬時に)破壊が広がって行くものと想定された。しかし、破壊の仕方は複雑で時には数個連なって破壊し始めることもある。そこで、これらの被害要因と被害率の関係を検討した。ここで被害率は、実際は数%程度の範囲で安定性を検討すればよいわけであるが、安定限界の目安となる1を切る点がどの辺になるか予めわからないことを考慮して、少し大き目の30%程度まで拡大して被災状況を検討した。
a) 転倒による破壊:図-7.2.9に実線で示す斜面上の転倒モーメント比を連続するソリトンの最大故力より計算して図示したのが図-7.2.10である。
離岸堤に入射する先頭ソリトン(1st)から連続する2nd、3rdの2つのソリトンの平均直線と安定限界(M=1)との交点はD=3.2,13.8%となっている。1stソリトンとの交点はなく、全てM>1となって破壊力が大きい。従って、平均的には転倒による破壊の可能性が良く表われている。
b) 滑動による破壊:図-7.2.9に破線で示す斜面に平行な上向きの滑動に対する安定性を同じ波力から算定したのが図-7.2.11である。平均直線は全てM>1となり、この方向に滑動させる破壊力は非常に大きい。一方、図-7.2.12は、図-7.2.9に1点鎖線で示す斜面に直角な方向の滑動に対する安定性を算定したものであるが、殆どがM<1となり、この方向には滑動しないと見てよい。
c) 浮上による破壊:図-7.2.13は、単純に鉛直波力とブロックの水中重量との比をとって図示したものに過ぎないが、パラツキが大きく被害率との相関も良くないにしても、これも破壊に寄与している可能牲を示すものと言えよう。しかし、転倒や滑動による破壊要因に比べると、その効き方は明らかに小さい。
以上3つの破壊要因のうち、理論的には少なくとも1つが選択的に効けば破壊は発生する。
しかし、ビデオフィルムのスローモーション観察によれば、波動中のブロックは、ブロック堤の中でかなリガタガタ揺れていて、その1個が瞬間的に飛び出す場合は上述の選択破壊説が成立つが、交互のかみ合わせが効いて数個連なって破壊する場合は複合破壊となる可能性も考えられる。
また、図-7.2.10~13の解析結果からもわかるように、津波先端部の破壊力という意味では、1st・2ndソリトン就中2ndソリトンの破壊力が大きいが、被害規模が大きくなると3rdソリトンの破壊力も無視出来ない。3rdソリトンは反射波の影響で概して重複波となっている。
3) 安定数 (Stability number)
図は省略するが、六脚ブロックの離岸堤位置における安定数Ns=H/[(Sr-1)・(W0/γ)^1/3]と被害率Dとの関係式は、Ns=1.698+0.009Dとなるので、D=0に相当する安定数は約1.7となる。
(2) 4t型3連ブロック式消波堤の破壊
模型縮尺は1/41とする。この半端な数字は、1/40で造った硬質プラスチック製模型ブロックが、製造後縮小した大きさに合わせたものである。勿論、単位体積重量は実物と同じγ=2.3である。現地峰浜海岸の消波堤は、汀線から30~50m陸側に設置されているので、図-7.2.1に示す複合型陸上縦断地形で汀線から1m位置にある水平小段上に消波堤模型を設置した。この消波堤を設置する水平小段上とそれに接続する後浜部のS=1/20の斜面上2mには、消波堤体と飛散したブロックの滑り止めのために、一面に砂を接着して粗度をつけた。
消波堤の配列の種類は=1=突き合わせ2層積、=2=突き合わせ3層積、=3=落とし突き合わせ3層積、の3つに大別され、その長手方向の中間部(水槽幅1mの金面に並ぺたもの)を切リ出した形になる。実験水槽は、主としてh=25cmとしたが、h=30cmの場合もあるので、実験の種類はこれらの組合わせとなる。消波堤の被害判定基準は、D(ブロック1個分以上移動)とDs(ブロック1/4個分以上1個分以内移動)と定義し、D又はD+Dsによって整理した。
1) ソリトン分裂遡上津波の特性
図-7.2.14は、沖合い入射波が、H0/h=0.48なる実験波の波形、流速及び波力の測定記録の代表的一例である。
(1)-1)の離岸堤の場合と同様に、図の1番上に示す小段上の水平床始端(X=10m)に入射する分散前の波の特性をアーセル数(Ur=gH0T^2/h^2)で表わすと、これは消波堤がない場合の汀線と消波堤の位置における波高と流速の無次元水理量である;無次元波高(H/h)、フルード数(Fr=U/√gh)及びブロックレイノルズ数(Re=(U/ν)・(W0/γ)^1/3)等と良く相関し、汀線と消波堤位置に入射するソリトン分裂遡上津波の特性は、沖合い入射波のUr数よって略々統一的に把握されることがわかる(図-7.2.15~17)。
図-7.2.15で、h=30cmの場合の消波堤位置の波高は直線上に乗らないので敢えて線を画いていないのは、Ur≒600を境にして、先頭ソリトンが、2ndから3rdに分かれるためである。図-7.2.15,17に比べて図-7.2.16のFrのバラツキが多少大きいのは、波高と流速の各々のバラツキが二重になって影響しているためであろう。
2) 消波堤の安定限界とハドソン公式
従来、異形ブロック堤の波浪に対する安定性は、表層ブロックの安定限界重量に関するハドソン公式によって検討され設計されているので、この安定性の検討の仕方に倣って、ソリトン分裂遡上津波が消波堤の安定限界を与える波高と波力及び安定数について、ハドソン公式によって与えられる結果と比較検討する。
a) 波高と波力について
図-7.2.18に示す実験値は、消波堤の被害率D=2%以内の安定限界波高であり、波高はブロックに作用する第1波力の最大値に対応する先頭ソリトンの汀線波高である。この汀線波高は消波堤からの反射波の影響を殆ど受けていない進行波性の強いもので、図-7.2.16に示したFr>1なる射流状の波にほぼ相当するとみなしてよい。ハドソン公式を適用するに当っては、Kd値は現行のKd=10.2を用い、またブロックの配列の種類に対応するブロック堤法面勾配を用いているが、cotθ=10は消波堤の前浜勾配を適用している。図から明らかなように、4tブロックに対する津波の安定限界波高は、ハドソン公式による値よりも概して小さい。
一方、図-7.2.19は、図-7.2.18の波高に対応する波力について、実験値とハドソン公式による値を比較したものである。実験値の波力FNは、合波力のcotθに垂直な成分波力であるが、ハドソン公式で予測される波力より数倍大きい。従って.図-7.2.18,19を対比してみると、津波は波浪に比べてより小さい波高でも、逆に波力は格段に大きいことがわかり、ソリトン分裂遡上津波の際立った特性を示しているものと言えよう。
b) 安定数 (Stability number):
Ns=1/[(Sr-1)・(V0/γ)^1/3]について
図-7.2.18,19の場合と同様に、図-7.2.20は被害率2%以内の安定数について、実験値とハドソン公式を比較したものである。図-7.2.18の波高に対応して、ソリトン分裂遡上津波に対する4t型3連ブロックの安定数は、ハドソン公式による値よりも概して小さく、津波に対してはブロック重量が不足で破壊し易いことを示している。
3) 被害率と被害要因による破壊のメカニズム
消波堤の安定性と破壊の仕方は、その配列の仕方によって多様で複雑であるが、ビデオ観察によれば、被害の発端は基本的にはやはり消波堤の中にある1個のブロックに働く波力による転倒と滑動によって起こリ、それが次々と波及して(場合によっては殆ど瞬時に)破壊が拡がって行くと考えてよいようである。従って、先ずこの初動の波力を探ぐるには、被害率が数%程度の範囲で安定性を検討すればよい。次いでこれとは別に、被害規模を増大させる被害要因を見出すために、被害率を数10%の範囲まで拡げてその破壊性を検討した。
a) 転倒による被害
波力測定を伴う消波堤の安定性実験の結果について、図-7.2.21に従って転倒に対する安定計算を行った結果を示したのが図-7.2.22である。1回の実験での消波堤に入射する先頭ソリトン(これを新たに1stとする)から連続する2nd、3rdの3つのソリトンの転倒モーメントの比M=(XFv+YFh)/XWの平均値から実験直線を求めている。安定限界M=1は概略の目安であるが、2層積ではD=2.8%、3層積ではD=0.9%が交点となっており、消波堤の被害は、上層後列からの転倒によって始まることを示しており、上述のビデオ観察の結果を裏付けている。
また、各実験1回毎のMの大きさは、概して堤高の低い2層積では、1st~3rdと次第に減少し、堤高の高い3層積では逆に1st~3rdへと増大する傾向がある。これは堤高と静水深の違いによって、越波と反射重複の仕方が異なること、汀線から消波堤に衝突するまでの間の1stソリトンに追いつく2ndソリトンの位置が異なること等の理由によるものである。被害は不規則で一律には起こらないが、被災する瞬間は2nd又は3rdソリトンによる場合が多く、時には4thソリトンの場合もある。
b) 滑動による被害
図-7.2.23は、滑動による被害を示している。消波堤は滑動に対する安定性はよくないようで、容易に被災することがわかる。上図の転倒による被害とは異なり、2層積、3層積共に被害率の大きさと余り関係なく、直線の勾配が緩やかで殆ど平行になっているのは、上層後列のブロックに対するFhの効き方がほぼ一定であることを示している。ブロック前列の遮蔽効果によるものと思われる。
c) 被害規模を増大する被害要因
i) 汀線における水理量[岩崎他,1984]:
Qsh=(Hs)max・(Us)max ; について
図-7.2.24は、汀線における波高と流速の最大値の積であるQshと被害率の関係を示す。(Hs)maxは略々汀線における部分重複波の最大波高に相応し、これは図-7.2.14からも推測されるように、1stソリトンの(Us)maxとは位相が異なるので、Qshは汀線での最大流速を意味するものではない。
消波堤を破壊する要因は直接的には勿論波力であるが、被害率が人きくなるともはや波力計は使用できないので、そうした破壊的な波力を与える素因の一つとして、Qshなる水理量で被害率との関係を求めたものであり、比較的相関はよい。(Us)maxは主として滑動に、(Hs)maxは主として転倒による被害に寄与し、その相乗効果が被害の増大をもたらすと考えられる。
ii) 消波堤位置における水理量:
Q=Σ(Hi・Ui);について
図-7.2.25は、消波堤に入射するソリトン分裂遡上津波の先頭(1st)ソリトンから連続する4つのソリトンについて、各々の波高(Hi)と流速(Ui)の積を求め、それら4波の総和(Q)と被害率の関係を示す。
前の図-7.2.24のQshとは異なり、HiとUiは同位相の値であるから、Qは各ソリトンの最大流量そのものを表わす。即ち、被害規模の大小は、ソリトン分裂遡上津波の連続性と密接に開係していることを示していると言えよう。
iii) 汀線と消波堤の位置における安定数:
Ns=H/[(Sr-1)・(W0/γ)^1/3];について
先ず初めに、図-7.2.15に示したように、消波堤がない場合に汀線と消波堤に入射する波高Hs,Hdと沖合い入射波のアーセル数Urとの関係がわかっているから、これを図-7.2.26に示すように消波堤を設けた場合のNs~Urの関係に見直すと、同じUrの波を消波堤に入射させた時の被害率D又はD+Dsとの関係が求められるので、Urを介して図-7.2.27に示すNs~(D+Ds)の関係が得られる。両者の相関は明瞭であるが、被害率による安定数の変化は非常に小さい。型通リに被害率0に相当する安定数を求めれば、汀線では約3.9、消波堤位置では約1.9となる。
(3) 消波ブロックの散乱
(陸上に孤立したブロックの転動)
消波ブロック散乱の実験に用いた模型ブロックは、1/100縮尺で造られた六脚ブロックA1.50型(1/53縮尺で換算して実物約8t相当),A1.25型(1/50縮尺換算で約4t相当), A1.15型(1/50縮尺換算で約3t相当),3連ブロック6t型の1/50縮尺,4t型の1/60縮尺,コーケンブロック(1.0×4単位)4t型の1/40縮尺のもの等計6種類である。このように模型縮尺はブロック毎に異なった取扱いとなる。
さて、異形ブロックが離岸堤や消波堤から飛散して、波と共に一気に地上に投げ出されることは前節までに述べた通リであるが、地上に落下した後の堤体からの最大飛散距離は、六脚ブロックで1m(実物40m)程度、3連ブロックでは約1.5m(実物約60m)程度にはなるようである。しかし、この地上に落下した後のブロックの挙動は、このような固定床実験によっては検討出来ないので、上の数字は参考程度のものであり、何か特別な方法によって検討せざるを得ない。とにかく転がすのは旨くないので、地上に孤立して静止している状態で波を受けた時、その場所で転がるか転がらないかを見極め、転がりそうな波力を受ける範囲を出してみることにした。
1) ブロックの最大転動距離
先に図-7.2.4に示した波力の測定結果より、合波力の最大値から同時刻の水平波力を差引いて鉛直波力を求め、直ちに、例えば3連ブロックの場合であれぱ、図-7.2.28に示すような断面で転倒に対する安定性を計算し、その不安定となる範囲を求めた。図-7.2.4は汀線より陸側1.5mの測点におけるものであるが、これから更に10cmずつ陸側に測点を移動し、順次測定と計算を繰返しながら、不安定から安定となる地点まで続行した。汀線から陸側1.5mまでの間は、波力が概してこれ以上に大きいから、勿論不安定な範囲である。
転倒モーメントの比M=(XFv+YFh)/XW0をとって、測定した6種類のブロックのうち、現地海岸で被災した代表的な3種類のブロックについて、斜面勾配毎に計算値とそれらの平均線を図示したのが図-7.2.29~31である。Mは転倒に対する初動のモーメント比であるが、M>1なる範囲は、津波がブロックを転動させる可能性のある初動の波力を与える範囲と見倣される。尚、ここでいう水平波力Fhとは抗力と慣性力の和であり、鉛直波力は揚力と浮力の和である。また、W0は実重量を各模型縮尺で相似した模型ブロックの重量であり、前節までの離岸堤と消波堤の場合とは取扱いが異なる。それは陸上遡上流の波高が非常に小さく、ブロックが完全に没水しないことが多いためにこのような取扱いとしている。
図-7.2.29~31の横軸は汀線から陸上斜面に沿って測った距離であり、図からM>1となってブロックが転動する可能性のある範囲(ブロック最大転動距離またはブロック遡上長)を読み取ったのが表-7.2.1の上欄である。これは表-7.2.1の下欄に示した被災現場のブロック最大散乱距離(ブロックが実際に転がって移動した距離)とは少し意味が異なり、ブロックの初期移動を与える距離である。
現地海岸の離岸堤は汀線から30~50m海側、消波堤は汀線から30~5Om陸側に設置されているので、測定距離の原点が異なること、砂浜の自然地形と護岸等の裾造物の有無、3地点の入射波の相違等々、水理実験との相違は多々あることを考えても、3地点共概して実験値の最大転動距離は被災記録の最大散乱距離よりもやや大きく、その範囲内に含んで重なり合っているので、両者は略々符合していると見てよいであろう。
見かけは一見峰浜海岸が一番よく合っているようにも見えるが、距離の原点の違いを考えるとむしろ八竜海岸の方がよく合っているとも言えるようである。八森海岸の六脚ブロックについては、8t型の1/50縮尺程度の模型がなかったので、A1.50型(実重量約53t)の1/100縮尺の模型を代用しているが、これを8t相当の模型に見直すと縮尺1/53程度の半端な数字となるので、ここでは丸めて1/50として計算しているが、結果に大きな違いは出ない。しかし、八森海岸の汀線の背後にば消波工と護岸があり、泊川の河口付近以外はブロックが砂浜上にあまり散乱していなかった様子なので、数字だけの単純な比較で細かな議論をするのは意味がない。
尚、現地海岸には対応するブロックがないので、図は省略して参考のために結果のみを記すと、六脚ブロックA1.25型の1/50(約4t相当)では84~99m, A1.15型の1/50(約3t相当)では84~103m,3連ブロック6t型の1/50では60~95mとなったが、表-7.2.1の結果と比較しても大差ないようである。
2) 津波とブロックの遡上高
図-7.2.29~31の各3本の実験直線がM=1の線を切る点は、ブロック最大転動距離またはブロック遡上長を与えることは既に述べた通りであるが、同時にこの点はそれに対応する各斜面勾配毎のブロック最大転動高またはブロック遡上高を与え、その時の波遡上高もわかっている。この関係を調べたのが図-7.2.32~33であリ、両者はかなりよく直線的に相関していることがわかる。
一方、波遡上高を、陸上斜面勾配を無視して、海底斜面勾配S=1/100だけの関数として整理し、富樫・中村の実験式[Togashi.H and A.Fuhrboter,1981]の外挿線と梶浦が修正したKaplanの実験式[梶浦,1984]と比較したのが図-7.2.34であるが、大まかに見れば実験値は略々両式の線上に乗っているようである。しかし、少し細かく見れば、陸上斜面勾配が急なS=1/10の場合は実験値は実験式よりやや大きく、概略平均すると R/H0=2.5程度で、H0≒10cm故、R≒25cmとなっている。従って、縮尺1/40~1/60故、波遡上高は実物で1O~15mとなり、津波時の現地の陸上遡上高をかなりよく再現していることが確認される。
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7.2.4 結論
(1) 沖合い入射波の分裂前の津波特性はUr数で代表され、それはソリトン分裂して選り分け増幅・砕波減衰後の汀線とブロック堤位置への入射波の特性量とよく相関し、更にそれがブロック堤の被害特性に影響する。
(2) 4t型異形ブロック堤の被害率2%以内の波高と波力を安定限界として、これをハドソン公式による値と比較すると、ソリトン分裂遡上津波の破壊力は従来の波浪によるものに比ぺて格段に大きいことがわかった。
(3) 異形ブロック堤は、波力による転倒と滑動及び浮上によって被害が発生するが、概して先頭ソリトンよりも後続するソリトンによって、特に瞬時に被害が拡がって破壊する場合が多く、ブロックは波と共に飛散する。その被害規模はソリトン津波の分裂状況と連続性に影響される。
(4) 陸上に孤立したブロックに働くソリトン分裂津波の波力は汀線から陸側に次第に減少するが、消波堤設置箇所(汀線より30~50m)背後のブロック散乱範囲はほぼ3rdソリトンが波先端に追いつく辺りで、ここで再び大きな波力が発生すると共に、S>1/20であれぱ、これが最大遡上高を与える。
(5) 異形ブロックの種類と重量によって異なるが、6種類の7,6,4,3t相当のブロックの実験による最大転動距離は汀線から60~135mとなり、現地海岸の異形ブロック堤からの最大散乱距離とほぼ符合する。
(6) ブロック遡上長に対応するブロック遡上高と波遡上高はかなり相関がよく、また波遡上高は従来の実験式の外挿線上にあることがわかった。
以上により、ソリトン分裂津波によって異形ブロック堤が破壊し、ブロックが砂浜上に広く散乱した現象は津波先端部の破壊力によるものであり、津波の変形と遡上に密接に関係していることを明らかにした。
謝辞:本研究は文部省科学研究費補助金・自然災害特別研究(1)「日本海中部地震津波の発生・増幅機構と破壊力」(研究代表者:首藤伸夫東北大学教授)による研究であることを付記して謝意を表する。
また、波力計の製作に当っては、真野明東北大学講師と中村武弘長崎大学助手に指導・助言を頂いた。
ここに記して謝意を述べる。
7.3 異型ブロックに作用する津波の波力
7.3.1 緒言
1983年5月26日の正午頃に秋田県能代市西方沖90kmの地点で発生した日本海中部地震は,秋田県,青森県,山形県を始めとする日本海側に多大な被害をもたらした.中でも地震により惹き起こされた津波による被害は特に大きく,住宅,船舶,漁具,農地など様々なものが被災した.この中で,本来海岸線を防御するための海岸構造物が大きな被害を被り,世間の注目を集めた.今回被害をうけた海岸構造物の中で目立ったものは,離岸堤と消波堤である。例えば秋田県八森海岸では,離岸堤14基のうち13基が崩落し,飛散率35-55%を示し,散乱範囲は70mに及んだ.また同県峰浜海岸ては消波堤のブロックが飛散し,飛散距離は最大135m,飛散率35%,構造物全長に対する要復旧延長は80%に達した.これらの構造物は,主に侵食対策用に汀線の近くに置かれていたものてあった.(秋田県土木部,1983a,b)
津波による消波ブロック堤の破壊に関しては,これまて被災事例が少なかったこともあり,従来あまり研究がなされていない。岩崎ら(1984)は,大きな被害を受けた秋田県峰浜海岸の消波堤を対象に,1/100の模型実験を行なった。現地で見られたものと同じく3つに分裂したソリトン分裂津波をテトラポッド模型に作用させた実験から,次のような結果を得た.
1) ブロックは第1波ではやや滑動する程度で,顕著な移動は第2波,第3波の通過時に生じる.
2) 被災率とブロックの平均移動距離とは比例関係にある.
3) 被災率は,汀線最大流速と汀線最大波高の積と,かなり相関がある.
越川(1985)は,テトラポッド水平四層積の消波堤を対象に,孤立波を用いた実験を行い,次の結論を得た.
1) ブロックは,堤体が水没してから浮力と揚力の影響も受けて抜け出るように移動する.
2) 消波堤の破壊には,岸側だけが被災する局所的破壊と,沖側から岸側からへ被災が及ぷ全体的破壊の2形式があり,波高の増大につれて後者に移行する.
3) 消波堤の被災率は静水時の水被り高や天端幅にかなり影響を受ける.
また山口(1986)も同様の実験を行い,被災状況を観察すると共に,1つのブロックに作用する波力を測定した.結果をまとめると次のようになる。
1) 被災率は,津波の衝撃力積とは相関が弱く,全作用力積とはある程度の相関が認められる.
2) 慣性力項を無視したモリソン公式により津波波力の評価がある程度可能である.ただし抗力係数としてかなり小さい値を与える必要がある.
本節では,これらの研究と同様にテトラポッド模型を対象に,ブロック単体としての抗力係数と転倒限界安定力,ならびに単体および水平四層積堤体中のブロックに作用する孤立波の波力に関して行なった実験結果について記述する.
7.3.2 異型ブロックの抗力係数および安定限界力
(1) ブロックの抗力係数の測定実験
従来の研究によれば,津波(孤立波)の作用を受ける消波ブロック堤の被災においては衝撃力の影響は比較的小さいと考えられるので,作用波力の算定にはモリソン公式を用いることにする.被災が問題となるような条件のもとに,モリソン公式中の抗力項と慣性力項の大きさを比較すると,抗力項が卓越し,特に最大波力を生じる位相付近では慣性力はほぼ無視し得る.従って,ブロックに作用する津波の波力の評価には,モリソン公式中の抗力項を与える次式を用いて大過ないものと思われる.
ここで,F:ブロック単体の受ける波力, CD:抗力係数, A:ブロックの流れ方向への投影面積, u:水粒子速度.
本研究で実験対象とした異型ブロックはテトラポッドであり,脚間距離6cm,体積51cm^3,重量110gfの模型を用いた.ブロック単体の抗力係数CDを測定するために,静水中での曳航実験を行なった.二次元水路上の台車にテトラポッド模型を針金で吊し,没水状態で台車を一定の速度で走らせて,針金の傾斜角を測定する.この傾斜角と模型の水中重量から,力の釣合い式を用いて抗力が算定できる.
実験は以下に示す2通りの方法で行なった.(図-7.3.1)
実験1: 針金の一端をテトラポッド模型に他端を台車に,共にヒンジで取り付ける.この場合,曳航中のブロックの姿勢は台車の速度と共に変化する.
実験2: テトラポッド模型と針金は剛結する.曳航中に針金が傾斜してもブロックが常に正立の姿勢になるように剛結の角度を調整する.
これらの実験から抗力係数CDを求めレイノルズ数Reとの関係で整理した結果を図-7.3.2と図-7,3.3に示す.ただし,レイノルズ数は次式で定義した.
ここで,U:台車速度, d:テトラポッド模型の脚間距離,ν:動粘性係数.また,比較のために,円柱および球に対する抗力係数どレイノルズ数の関係も示した.
この結果から以下のことがわかった.
1) 本実験のレイノルズ数の範囲では,テトラポッドの抗力係数は,ほぼ球の抗力係数と円柱の抗力係数の間にある.
2) テトラポッドの姿勢が変化する実験1では,負方向に曳航時の抗力係数が正方向に対するものに比べかなり大きくなっている.一方,実験2では正方向,負方向の抗力係数がほぼ一致している.
一般に抗力係数は,物体によって流れの下流側にできる剥離渦の大きさや数,形状によって異なる.テトラポッド模型の正方向と負方向の形状の違いを考えると,投影面積が同じでも方向によって発生する剥離渦はかなり異なり,そのため抗力係数の値も異なってくると考えられる.実験2で2方向の抗力係数にあまり差異がないのは,テトラポッドと針金を剛結したためその接点でモーメントが生じ,真の力の位置よりも低い位置で釣合ったためと考えられる.そこで,後の解析においては,図-7.3.2に示した実験1の正方向曳航時の結果から定めた抗力係数の値を用いることにする.
(2) ブロックの転倒安定限界力の測定実験
津波による消波堤の被災原因の1つとして重要と考えられる異型フロックの転倒に対する安定限界力を調べるために,以下の2つの実験を行なった.
実験1:粗砂を貼付けた底板上に1個のテトラポッド模型を置き,テトラポッドのある高さに取付けた糸を横方向に引いて,動き出す限界の張力を測定する.
実験2:勾配1/20の斜面上に置かれた水平四層積堤上部のテトラポッドの安定限界力を,実験1と同様に測定する.
一方,テトラポッドの転倒安定限界力Fcは,支点まわりのモーメントの釣合いより,次の理論式で算定できる.
ここで,W:テトラポッドの重量,1G:支点と重心の水平方向距離,1v:支点と作用点の鉛直方向距離,1H:支点と作用点の水平方向距離,φ:力の作用方向が水平となす角度.ただし支点は,実験1ではテトラポッドと底板の接触点,実験2では対象のテトラポッドと他のブロックの接触点である.
実測された安定限界力を式(7.3.3)のFcと比較すると,実験1の場合はかなり良く一致した.一方,実験2の水平四層積の場合には,余りよい一致は得られず,一般に理論値よりも小さい力で移動した.これは特に作用点の高さが小さい場合に顕著であり,力を直接作用させている最上層のブロックよりも下方のブロックも移動してしまうためであると考えられる.水平四層積の場合には,式(7.3.3)で与えられるFcの1/2~2/3が安定限界力となる.なお,これらの実験は空気中で行なったが,水中においても,テトラポッドに働く浮力を重量から差し引けば,同様の関係が成立するものと思われる.
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7.3.3 異型ブロックに作用する津波の波力
(1) 実験方法と実験条件
津波による消波ブロック堤の破壊機構において最も重要と考えられるブロックに作用する波力に関する実験を行った.本実験では,造波水路中に1/20勾配の底斜面を設置し,汀線近くに波力測定装置に接続したテトラポッド模型を配置して,それに働く波力を測定した.また,堤体周辺に流速計を配置して,津波のもとでの流速を測定した.本実験は次の2つに大別される.
実験1: 単独のブロックを所定の高さ・位置に設置し,そのブロックが受ける波力とその位置での流速を測定する.
実験2: 四層積堤体模型を設置し,その中の1つのブロックが受ける波力と近傍流速を測定する.測定対象には最上部岸側ブロックと最下部岸側ブロックを選んだ.
本実験では,津波を模擬した波として孤立波を用いた.ただし,波高が大きい場合には,造波時に既に砕波して段波状になった.消波ブロックとしては前節に示した実験におけると同じテトラポッド模型を用い,実験2においては,四層積に堤体を積み上げた後,波力測定対象のブロック以外はシリコンゴムで固定した.
ただし,同一の水理条件で堤体の被災条件を観察したが,それらの実験では当然ながら堤体は固定していない.
波力の測定には三分力計を用い,支持棒を介してテトラポッド模型を固定した.このテトラポッド模型をアクリル樹脂製にすることにより,測定系の固有振動数は30Hzとなった.一方,流速の測定には,光ファイバー型レーザー流速計を用いた.ただし,この実験での流速測定は,気泡の多く発生する砕波点の近くや静水面よりも上方で行なわれたため,しばしば信号がドロップアウトした.
実験1と2のそれぞれに対して,一様水深部水深とブロック設置水深等を変化させた9ケースについて,それぞれ入射孤立波の条件を11種類に変化させて実験を行なった.
(2) 実測水平波力と理論水平波力の比較
1) 実験1の結果
テトラポッド模型1個を単独に所定の位置に設置した際の作用波力について,実測水平波力波形と式(7.3.1)を用いて求めた理論水平波力波形を比較したものを,水面波形とともに図-7.3.4(a)(b)に例示する.ただし式(7.3.1)中の抗力係数としてはレイノルズ数が5×10^4程度なのでCD=O.9を,また流速uとしては実測水平流速を用いた.特に(a)についてはかなり衝撃的な波力が作用しているが,この衝撃的な波力も含めて,理論水平波力は実測値とよく一致している.他のケースについても,気泡の混入が多く流速測定値の信頼度が明らかに低い場合を徐き,理論値と実測値の一致度はよい.従って,単独のブロックに関する限りは,モリソン公式中の抗力項のみを取り出した式(7.3,1)で水平波力が評価でき,今回の実験条件の範囲ではテトラポッド模型の抗力係数CDは0.9程度としてよいことがわかった.
2) 実験2の結果
堤体中の最上部と最下部の岸側のテトラポッド模型に作用する波力について,実測値と理論値を比較したものを,図-7.3.5(a)(b)(最上部),と図-7.3.6(a)(b)(最下部)に例示した.全ての実験ケースを通してみると,実測水平波力のピーク値は,最上部ブロックに対しては式(7.3.1)による理論値の1/4~1倍,最下部ブロックに対しては1/10~1/4倍程度である.このように理論値が過大評価になってしまうのは,式(7.3.1)中の流速値として,堤体が存在しない場合のブロック位置での実測流速を用いたためである.堤体背後では気泡の発生により流速が測定できなかったために堤体が存在しない場合の流速値を用いたのであるが,実際には堤体の存在により流れが遮蔽されるために真の流速値はかなり小さくなっていたものと思われる.
堤体最上部のテトラポッドに作用する水平波力のピーク値につき,実測値FHMと理論値FHTとの比を求め,堤体の天端高(静水面上の突出高)hcと孤立波の波高Hの比との関係として示したのが図-7.3.7である(図中のh1は一様水深部水深,h2は堤体設置位置水深).ばらつきは大きいものの,FHM/FHTとhc/Hは相関があり,ほぼ次式で与えられる関係にある.
最上部ブロックに作用する波力は堤体を越える際の孤立波の越流流速に関係し,また,堤体の天端高に比し波高が大きくなると堤体との衝突による運動量の損失が減少するために,hc/Hが小さいほど堤体による流速の逓減率が下がり,このような関係が得られたものと考えられる.一方,堤体最下部のテトラポッドに作用する水平波力については,実測値と理論値との一致度は一層悪く,両者の比とhc/Hの間にも明確な相関はみられなかった.
ブロックに作用する波力は,波が到達した瞬間には水平方向岸向きで,その後増大しながら斜め上向きに方向を転じる.この鉛直力成分には,ブロックが水没するための浮力と鉛直方向の流速による鉛直波力の両者が含まれている.堤体中のブロックが最も不安定な状態になるのは,この鉛直力成分のために有効重量が減じしかも水平波力が最大となる時,すなわちブロックが完全に水没している間の最大水平波力が働く瞬間であると考えられる.
(3) 堤体中のブロックの安定限界
上記のことから,堤体最上部のテトラポッドに対してそれが完全に水没している間の最大水平波力を求め,その値FHmaxを孤立波の波高Hとの関係で整理したのが図-7.3.8~図-7.3.10である.図中のh1は一様水深部水深, h2は堤体設置位置の水深である.また,図中の点線,破線,し一点鎖線は,7.3.2節(2)で記述した転倒安定限界力を示しており,それぞれ作用点と支点との鉛直方向距離1u=3.8,3.2,2.3cmに対応する.ただし,力の作用方向角φ=0とし,テトラポッドの有効重量としては空中重量から最大鉛直波力(約70gf)を差し引いた値を用いて算定した.
また,ビデオによる観察結果を用い,孤立波による堤体最上部岸側の被災程度を3つに分類し,記号を分けた.ここで,全壊は堤体最上部岸側テトラポッドが全て崩落した場合,半壊はいくつかが崩落した場合,安定は崩落したブロックがなかった場合に相当する.
これらの図および実験の観察の結果から次のようにいえる.
i) テトラポッドの設置水深h2が大きい場合には,波高Hの増大につれて最大水平波力FHmaxも増大する傾向が明瞭であるが,設置水深が小さい場合に対してはこの傾向はあまり明瞭でない.
ii) 同一実験条件でのテトラポッドの受ける最大水平波力中の最大値は,砕波突っ込み点付近の切り立った波形を示している孤立波あるいは崩れた直後の孤立波によるものである.すなわち孤立波による波力の最大値は突っ込み点付近で生じる.
iii) テトラポッドに働く波力の作用点を求めることができないため,式(7.3.3)によって安定限界力を算定することは困難である.しかしながら図中に示した一点鎖線ないし点線の範囲(支点と作用点の距離IU=2.3~3.8cm)に堤体最上部テトラポッドの安定限界が存在すると考えられる.また,この安定限界波力は,堤体設置位置水深が大きい程増大する.
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7.3.4 結語
消波堤を構成する異形ブロックに作用する津波に対する波力およびブロックの安定性につき,テトラポッド水平四層積型の消波堤を対象として行なった実験結果について記述した.結論を以下にまとめる.
i) 単一のテトラポッドに働く孤立波の水平波力は衝撃力的な部分も含め,抗力として扱って大過ない.
ii) 堤体最上部岸側のブロックに作用する水平波力は,堤体が存在しない場合の流速から式(7.3.1)を用いて算定した理論水平波力よりかなり小さくなる場合がある.この実測水平波力と理論水平波力の比は,堤体の静水面からの突出高さと波高の比と相関を有し,突出高さに比して波高が大きくなれぱ,理論波力は実測波力に近づく.
iii) 堤体最下部岸側ブロックに働く波力については上述のような明確な関係はみられなかったが,実測水平波力は測定対象ブロックが孤立波の突っ込み点近傍に位置するときに最大になる.
iv) 孤立波の場合,最大水平波力が働く位置は,最上部ブロック,最下部ブロック共に波の突っ込み点近傍である.
v) ブロックの受ける水平方向波力は衝撃的な力であるのに対し,鉛直波力は持統的な力で,ブロックが完全に水没している間,浮力よりやや大きいがほぼ一定の値を保つ.
vi) ブロックが最も不安定となるのは,ブロックが完全に水没している間に最大水平波力が働く瞬間である.
vii) 堤体最上部岸側ブロックの安定限界の概略値は,水中重量から鉛直波力を差引いた有効重量から,簡単なモーメントの釣合い式を用いて評価できる.
堤体による流れの遮蔽効果やブロックの積み方とかみ合わせの影響について更に調べると共に,理論的考察を深めて,現地条件への適用を今後目指す必要があろう。
最後に,本実験を行なった東京大学大学院学生(当時)増田進弘君,ならびに本稿中の図面作成に当たった東京大学助手小林智尚君に感謝の意を表する。
第8章 結語
日本海中部地震津波を、その発生から伝播、沿岸への遡上にいたるまで追跡し、現在使用可能な理論の適用性を検計した.それとともに、近い将来解決すべき問題点も明らかになった。最後にあたって、これらの要点を取りまとめると、次の通りである。
津波追跡の出発点となる初期波形は、地震波から断層運動が決められ、ついでそれによる地盤変動から決定されるのが現在の方法である。主要な断層運動は、地震波から得られる情報を使って、様々な手法によって検討比較することが出来る。今回の地震でも、本震の震源過程が三つのイベントからなることが明らかにされ、それぞれの断層パラメーターが決定された。この結果、それぞれの断層面が平面であると仮定するならば、海底面の鉛直変位が計算され、これが水面に現われたものが津波初期波形である。ただし、海底面が水平面である、地殻の構造は均質である、等の仮定が前提となる。こうして決められた津波初期波形は、第一近似と云うべきものである。これにしたがって津波を数値解析すると、少なくとも津波遡上の全体像に関する限り、かなり満足すべき結果を得ることが出来る。
しかし、更に細かな挙動という点からすると、問題点が無いわけではない.今回の津波でも、深浦の波高計が津波先端部を僅かにとらえているが、これは上記の方法で求められる津波に比べ、はるかに急な立ち上がりを示しており、今の所説明がつかない。上記の手法では求め得ない地盤変位が存在したことが原因であるかも知れない.主断層の他に副断層が存在し、後者が津波の最大水位を支配した例として1964年のアラスカ地震があげられる。この時は、地震による地盤変動が陸上にまで現われたため、副断層の影響が確定したのであった.地震波から津波初期波形を求める現在の方法では、こうした第二近似とも云うべき変位を求めることが不可能でおり、将来の課題である。
この問題への一つの解決法として、津波波形からの逆算で地盤変位の空間分布を推定しようとする試みが本研究でなされたが、結果はあまり思わしいものではなかった。その主要な原因は、津波観測の精度が充分でないことにある、津波のみを記録する津波計は全国的にみても数個しかなく、この記録から津波像を決定することほ、現状ではまず不可能である。もちろん、日本海には.津波計は一台も存在しなかった。唯一使用できる資料は検潮記録であるが、これには水理フィルターがかかっており、修正を要する。水理フィルター効果の修正方法は本研究によって提案され、詳細な実測が行なわれた結果、高さについては復元可能な見通しがついたが.それにしても一旦失われたものは、どの様な手法によっても再現できない。しかも、現在の方式では、記録紙の紙送り速度が遅すぎて、読み取りの精度が悪く、誤差が大きくなる嫌いがある。津波観測方法の早急な見直しが必要とされるゆえんである。
しかしながら、津波観測方法の改良は、きわめて難しい。まず、専用観測器を多数準備するのは困難だと思われる。津波は発生が間遠な現象であるから、観測器の維持管理が最大の問題となる。せっかく専用の津波計を設置したところで、通常時には記録が取れないため、次第に無関心になり、肝心の時に作用しない可能性が大きい.従って、現在使用中の検潮儀や波高計の改良、あるいはそれとの併設などが実用的であろう。波高計のうち、比較的深い場所に設置される海底から超音波を発射する型の波高計が、僅かな記録方法改善によって、津波記録用に使用できる。現在の波高計の運用方法は、偶数正時をはさんで20分の観測をする事になっている。地震発生時には、連続観測に切り替えられることとなっているが、津波を取り逃がす恐れがある。連続観測を原則とする方向に運用方法を変えることにより、津波計としても機能させられる。検潮儀の改良にあたっては、まず記録速度の改善が問題となり、従来のものとは別個のシステムを必要とすることとなろう。また、改良が出来たとしても、巨大津波の記録は、場合によっては不可能な事を覚悟して置かなくてはならない.観測機器そのものの水没、あるいは引き波時の海底露出と云ったスケールアウトの問題が残るからである。
現在多用されることとなっている数値計算に関しては、第一近似の初期波形を出発点として、摩擦をともなった浅水理諭を使えば、浸水域を再現できることが明確となった。数値計算の際には、計算格子の寸法が結果の精度に大きな影響を与える。計算の安定性のみならず、数値粘性や数値分散の効果、地形表現の精度が空間格子寸法に依存する事を考慮して、計算計画を決めなくてはならない。日本海中部地震津波の場合、比較的深いところの地形表現の精度が重要であることが判明した。
浸水域の再現は可能であったものの、津波波形の詳細が果して正確に再現できたか否かは検定できなかった。比較対象とすべき信頼にたる津波観測記録の欠如の故である.浸水域の再現が主要な目的であれば、浅水理諭で充分であろうとの結論が出た.もし、日本海中部地震津波のように津波先端部にソリトンが発生しても、その周期は十秒程度ときわめて短く岸近くで砕波するから、浜勾配が緩やかならば、打ち上げ高には大きな影響を及ぼさない.従って、現在の計算方法は、津波対策の根本となる遡上域決定には、ほぼ満足すべきものであるといえるが、対策構造物の設計などには未だ不十分である。安定計算などには、詳細な波形、流速、それにともなう波圧の推定が必要だからである。
沿岸近くの津波については、構造物設計の立場などからすれば、未解明の事柄が数多く残されていることが示された.例えば、本研究で実験されたエッジボアがある.僅かな条件の違いで、波の立ち上がり形状に大きな差が生ずること、従って波力には大差が生ずることになろうと推定された。僅かな斜面勾配の差、あるいは段波入射角の差によって、時には通常の屈折法則にしたがい、時には深浅の差を無視した進行をするなど、きわめて複雑であった。実験例の蓄積は不十分で、理論の展開に見るべきものが無い。ソリトン波列の変化についても、まだ完成にはほど遠い.近い将来の重要な研究課題である。
平面的な広がりを持つ場での分散項を含んだ方程式は、本研究で初めて導入されたが、数値例は示されなかった.この種の計算は、計算格子をきわめて細かく設定せねばならず、現在の大型計算機によっても容易に計算できるとは限らない.そのうえ、計算手法以外の問題が結果の精度を支配する可能性に留意して置く必要が生ずる.則ち、現在の地形図が、計算格子の細かな精密計算に耐えうるかどうかが問題とされることになる。分散効果の効いたソリトンは波長数10mの波である。この波形を正確に表わすには、計算空間格子の大きさは波長の1/20乃至1/30でなくてはならないから、少なくとも5mピッチくらいになる.地形図でこれほどの精度を有するものはほとんどない。計算精度を挙げようとしても、地形の精度がこれに対応せず、それによって制限を受けてしまう結果となる。
日本各地の海岸には、沿岸地帯の防災や開発に応じて、様々な構造物が作られるようになっている。新しい形の構造物は、主として風浪に対して設計されるのが普通であり、津波は考慮されていない。その良い例が異型コンクリートブロックを積み上げた消波工であった。本研究により、設計方法の見荷しが必要とされることが明かとなった。
それとともに、構造物の配置計画に関しても、考慮すべき点のあることが示唆されたといわなくてはならない。秋田県八森海岸では、防潮林前面の海岸に侵食対策として消波工が設置されていた。津波で異型コンクリートプロックが散乱したが、本研究での実験から判断すると、ブロックの最高到達点は津波最高遡上高とほぼ一致するもののようである。そうだとすると、同様の構造物が住宅地帯の前面に存在する場合、津波防災上の新しい問題が発生する事となる.これまで、木材、船舶などが津波で漂流し、家屋への破壊力になった例が数多く報告されている。ブロックが同様に移動させれるものならば、集中的な破壊力としては大きなものになるから、消波工の配置に新しい見地からの制限を加える必要が生ずる.すなわち、人家の前面には、むき出しの消波工を設置すべきでなく、必ず堤防などの構造物を中間に設置しておかなくてはならない。
以上を総合して、現時点での津波研究の現状を判断すると、次のようなこととなろう。
平均的な津波を考えるならば、津波全体像を与える手法は、ほぼ完成の域に達している。一次近似としては、実用に耐え得るとして良い。従って、津波による最大浸水域の復元は、計算計画を注意深く設定することにより可能となっている。
今後の問題は、二次近似としての精度の向上であろう。構造物の設計あるいは津波の局地的な挙動の理解には、もっと小さい寸法(数10mのオーダー)での現象の再現が必要となる。このためには、実験や理論の展開の必要なことは云うまでもないが、なかでも津波観測網の強化によって津波の実態を把握することが不可欠てある.
引用・参考文献
第1章 地震断層運動の特性
阿部勝征,1987:近代的地震学,講座地球科学8,岩波書店,pp.89-167.
今村明恒,1942:日本津波史,海洋の科学,2,pp.74-80.
宇佐美龍夫,1975:資料日本被害地震総覧,東大出版会,327pp.
宇津徳治,1977:地震学,共立出版,286pp.
海野徳仁・長谷川昭・小原一成・松沢 暢・清水 洋・高木章雄・田中和夫・小菅正裕,:1983年日本海中部地震の前震と余震の震源分布,地震,第2輯,第38巻,pp.399-410.
梶浦欣二郎,1986:日本海中部地震津波の波高分布の統計,地震保険調査研究17(津波危険度に関する研究,その1),損害保険料率算定会,pp.33-47.
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羽鳥徳太郎,1978:津波の規模と地震モーメント,地震II,pp.25-34.
羽鳥徳太郎,1984:日本海中部地震津波の波源における水位変動,地震II,pp.23-29.
渡辺偉夫,1983:改訂日本およびその周辺の津波の表,地震,第2輯,第36巻,pp.83-107.
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Kanamori,H.,1971:Focal mechanism of the Tokachi-Oki earthquake of May 16,1968:Contortion of the lithosphere at a junktion of two trenches, Tectofiophysics,Vol.12,,pp.1-13.
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Kikuchi,M.and H.Kanamori,1982:Inversion of complex body waves,Bull.Seism.Soc.Am.,Vol.72,pp.491-506.
Koyama,j.,1985:Earthquake source time-function from coherent and incoherent rupture,Tecto-nophysics,Vol.18,pp.227-242.
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Satake,K.,1986:Re-examination of the 1940 Shakotan-oki earthquake and the fault parameters of the earthquake along the eastern margin of the Japan Sea,Phys.Earth Planet.lnter.,43,pp.137-147.
Sato,T.,1985:Rupture characteristics of the 1983 Nihonka,i-Chubu (Japan Sea) earthquake as inferred from strong motion accelerograms, J.Phys.Earth.,Vol.13,pp.525-557.
Sato,H.,T.Sato,M.Kosuga,and K Tanaka,1985:Source characteristics of the 1983 Nihonkai -Chubu(Japan Sea) earthquakes and seismic activity in northern Tohoku preceding to the earthquakes, Natural Disas.Sci.,Vol.7,No.2,pp.51-66.
Sato,T.,M.Kosuga,K.Tanaka,and H.Sato,1986:Aftershock distribution of the 1983 Nihon-kai-Chubu(Japan Sea)earthquake determined from relocated hypocenters,J.Phys.Earth,Vol.34,pp.203-223.
Shimazaki,K.and J.Mori,1983:Focal mechanism of the May 26,1983 Japan Sea earthquake,地震学会講演会予稿集,No.2,pp.44.
Silver,P.and T.Masuda,1985:A source extent analysis of the Imperial Valley earthquakes of October 15,1979, and the Victoria earthquake of June 9,1980,J.Geophys.Res.,Vol.90,pp.7639-7651.
Trifunac,M.D.and A.G.Brady,1975:A study on the duration of storong earthquake ground motion,Bull.Seism.Soc.Am.,Vol.65,pp.581-626.
Umeda,Y.,1981:An earthquake source model with a ripple generating core,J.Phys.Earth,Vol.29,pp.341-370.
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第2章 海底地盤変動と津波初期波形
石川有三・武尾 実・浜田信生・勝又 護・佐竹健治・阿部勝征・菊地正幸・須藤 研・高橋道夫・柏原静雄・三上直也,1984:1983年日本海中部地震の震源過程,月刊地球,Vol.6,pp.11-17.
今村文彦・後藤智明・首藤伸夫,1987:遠地津波に対する伝播計算の検討-1964年アラスカ津波の外洋伝播計算-,東北大学津波防災実験所研究報告,Vol.4,pp.61-100.
梶浦欣二郎,1984:1983年日本海中部地震による津波の全体像,津波に関する調査研究,1983年日本海中部地震による災害の総合的調査研究,文部省科学研究費自然災害科学総合研究班,pp.70-75.
佐竹健治,1988:津波波形から求めた1968年十勝沖地震の断層面上の不均質性,地震学会春季大会予稿集,14pp.
里 嘉千茂,1980:東北日本孤のサイスモテクトニクスに関する研究,東北大学修士学位論文,130pp.
首藤伸夫他,1984:津波に関する調査研究,1983年日本海中部地震による災害の総合的調査研究,文部省科学研究費自然災害科学総合研究班,pp.69-134.
土屋義人・酒井哲郎・河田恵昭・中村重久・芝野照夫・吉岡 洋・山下隆夫・島田冨美男,1984:日本海中部地震津波による災害について,京大防災研究所年報,Vol.27A,pp.1-29.
東北大学・弘前大学理学部,1984:1983年日本海中部地震の前震・余震活動,地震予知連絡会会報,No.31,pp.22-33.
徳山栄一・末益 誠,1986:富山深海扇状地の形成年代と成因,月刊地球,8,pp.734-739.
中村一明,1983:日本海東縁新生海溝の可能性,地震研究所彙報,58,pp.711-722.
羽鳥徳太郎,1984:1983年日本海中部地震の余震に伴った津波,東京大学地震研究所彙報,Vol.59,pp.105-113.
早川典生,1984:各地の津波痕跡高-佐渡島-,津波に関する調査研究,1983年日本海中部地震による災害の総合的調査研究,文部省科学研究費自然災害科学総合研究班,pp.107-110.
Abe,K.,1986a:An explanation of characteristic distribution of the tsunami maximum inunda-tion heights observed at small Islands, Sci.Tsunami Hazards,Vol.4,No.3,pp.153-164.
Abe,K.,1986b:NOTE:Tsunami propagation in rivers of the Japanese islands, Continental Shelf Res.,Vol.5,No.6,pp.665-677.
Ahe,K.and H.Ishii,1987:Distribution of maximum water levels due to the Japan Sea Tsunami on 26 May 1983,Jour.Oceanogr.Soc.Jpn,Vol.43,PP.169-182.
Dziewonski,A.M.,J.E.Franzen and J.H.Woodhouse,1983:Centroid-moment Tensor Solutions for April-June,1983,1983:Phys.Earth PIanet.Inter.,Vol.33,PP.243-249.
Fukuyama,E.and K.Irikura,1986:Rupture process of the 1983 Japan Sea (akita-oki)earth-quake using a waveform inversion method,Bull.Seism.Soc.Am.,Vo1.76,pp.1623-1640.
Hatori,T.and R.Takahasi,1964:0n the ITURUP tsunami of Oct.13,1963, as observed along the Coast of Japan,Bull.Earthq,Res.Inst.,Tokyo Univ.,Vol.42,pp.543-554.
Houston,H.,1986:Source characteristics of large earthquakes at short periods,Ph.D.thesis at California Institute of Technology.
Ishii,H. and K.Abe,1980:Propagation of tsunami on a liner slope between two flat regions,Part I Edge wave,J.Phys,Earth,Vol.28,pp.531-541.
Mansinha,L.and D.E.Smylie,1971:The displacement fields of inclined faults.Bull.Seism.Soc.Am.Vol.61,pp.1433-1440.
Satake,K.,1985:The mechanism of the 1983 Japan Sea earthquake as inferred from longperiod surface waves and tsunamis,Phys.Earth Planet.lnter.Vol.37,pp.249-260.
Satake,K.,1988:Effects of bathymetry on tsunami propagation:Application of ray tracing to tsunamis, Pure and Applied Geophysics,Vol.126,pp.27-36.
Sato,T.,1985:Rupture characteristics of the 1983 Nihonkai-chubu (Japan Sea)earthquake as inferred from strong motion accelerograms. J. Phys. Earth,Vol.33,pp.525-557.
Shimazaki,K.and J.Mori,1983:Focal mechanism of the May 26,1983 Japan Sea earthquake,地震学会秋季大会予稿集,p.15.
Woods,M.T.and E.A.Okal,1987:Effect of variable bathymetry on the amplitude of teleseismic tsunamis:a ray tracing experiment, Geophys.Res.Lett.,Vol.14,pp.765-768.
第3章 検潮井戸の応答特性
阿部邦明・岡田正美・佐竹健治,1986:日本海津波波源近傍の検潮井戸の応答調査,日本海洋学会秋季大会要旨集,197pp.
相田 勇,1962:長周期波記録計の製作,東京大学地震研究所彙報,40,pp.545-560.
相田 勇・伊達大喜・坂下至功・小山盛雄,1981:津波観測所に設置された新しい長波計測装置(ER1-V型津波計),東京大学地震研究所彙報,56,pp.571-585.
運輸省港湾技術研究所,1983:1983年日本海中部地震津波の実態と二・三の考察,港湾技可資料,470,299pp.
岡田正実,1978:黒潮の大蛇行歴(1854~1977)と潮汐観測,号外海洋科学,黒潮-その諸問題-,pp.81-88.
岡田正実・網野正明,1984:深浦検潮所の応答特性について,日本海洋学会春季大会講演要旨集,pp.135-136.
海岸昇降検知センター,1977:全国験潮所一覧,国土地理院,127PP.
海岸昇降検知センター,1980:登録験潮所位置図,国土地理院,129PP.
梶浦欣二郎,1986:潮位計記録と津波の実態,1983年日本海中部地震震害調査報告書,土木学会,pp.143-147.
川崎英男,1927a:検潮井戸の導管の摩擦に関する風波の影響の実地調査,海と空,海洋学会,7(1),pp.2-5.
川崎英男,1927b:検潮井戸の導管の摩擦の影響に就いて(三),海と空,海洋学会,7(9),pp.135-141.
気象庁,1981:潮汐,海洋観測指針(改訂版),pp.331-356.
気象庁,1984:昭和58年(1983年>日本海中部地震調査報告-災害時自然現象報告書-,気象庁技術報告,106,252pp.
気象研究所,1980:海底地震常時観測システムの開発,気象研究所技術報告,4,233pp.
気象研究所,1982:御前崎南方沖における海底水圧観測,気象研究所技術報告,9,90pp.
国立防災科学技術センター,1984:昭和58年(1983年)日本海中部地震による災害現地調査報告,主要災害調査,23,164pp.
佐藤義正,1972:検潮記録による沿岸波浪の監視について,研究時報,気象庁,24,pp.221-229.
佐竹健治・岡田正実・阿部邦明,1988:津波に対する検潮井戸の応答特性調査-東日本の40検潮所における現地調査-,地震学会春季大会講演予稿集,307pp.
自然災害科学総合研究班,1984:1983年日本海中部地震による災害の総合的調査研究,文部省科学研究費(No.58022002)自然災害特別研究突発災害研究成果,386pp.
関口鯉吉・川崎英男,1926a:検潮井戸の導管の摩擦の影響に就いて(一),海と空,海洋学会,6(6),pp.100-112.
関口鯉吉・川崎英男,1926b:検潮井戸の導管の摩擦の影響に就いて(二),海と空,海洋学会,6(8),pp.134-140:
土木学会,1971:管路および海水路の流れ,水理公式集,技報堂,pp.243-253.
藤沢 格・立山清二・舟崎 淳,1986:房総沖海底地震常時観測システムの概要,測候時報,気象庁,53(3),pp.127-166.
村上和男,1983:検潮井戸の津波に対する応答,港湾技研資料,470,pp.217-223.
森安茂雄,1963:検潮井戸の水面の振動について,研究時報,気象庁,15(1),pp.81-84.
渡辺偉夫・岡田正実・網野正明,1984:検潮記録と津波波高に関する研究,昭和58年(1983年)日本海中部地震に関する緊急研究報告書,科学技術庁,pp.135-147.
Blackman,R.B.and J.M.Tukey,1958:The measurement of power spectra,Dover,New York,190pp.
Cross,R.H.,1968:Tide gage frequency response,J.Waterway Harbor Div.Proc.Am.Soc.Civll Eng.,94,pp.317-330.
Curtis,G.D.,1986:Design and development of a coastal tsunaml gage,Sclence of Tsunaml Haza-rds,4,pp.173-182.
Kajiura,K.,1983:Some statistlcs related to observed tslmaml heights along the coast of Ja-pan,Tsunamis:Their science and engineering,Terra/Tokyo,pp.131-145.
Loomis,H.G.,1983:The nonlinear response of a tlde gage to a tsunami,Proc 1983 Tsunaml Sy-mpo.,pp.177-185.
Noye,B.J.,1974a:Tide-well system I Some non-linear effects of the conventlonal tide well,J.Mar.Res.,32(2),pp.129-153.
Noye,B.J.,1974b:Tide-well system II:The frequency response of a linear tide well system,J.Mar.Res.,32(2),pp155-181.
0kada,M.,1985:Response of some tide-wells in Japan to Tsunamis,Proc.Intern.Tsunami Sym-po.1985,pp.208-213
Satake,K.,M.Okada,and K.Abe,1988:Tide gauge response to tsunamis Measurements at 40 tide gauge stations in Japan,J.Mar.Res.,46(3),(印刷中)
4章 ボアの実験と理論
首藤伸夫,1984:秋田県北海岸における日本海中部地震津波,東北大学工学部津波防災実験所研究報告,Vol.1,pp.12-26.
Chen,T.C.,1961:Experimental study on the solitary wave reflection along a straight sloped wall at oblique angle of incidence,B.E.B.Tech.Memo.,No.124.
Chester,W.,1966:A model of the undular bore on a viscous fluid,J.Fluid Mech.,Vol.24,pp.367-377.
David,D.and J.Lane.,1973:Final report edge bore,Tetra Tech.Inc.,61pp.
Freeman,N.C.and R.S.Johnson.,1970:Shallow water waves on shear flows,J.Fluid Mech.,Vol.42-2,pp.401-409.
Johnson,R.S.,1970:A non-linear equation incorporating damping and dispersion.J.Fluid Mech.,Vol.42,pp.49-60.
Melville,W.K.,1980:On the mach reflection of a solitary wave,J.Fluid Mech.,Vol.98,pp.285-297.
Miles,J.W.,1977:0bliquely interacting solitary waves,J.Fluid Mech.,Vol.79,pp.157-169.
Miles,J.W.,1977:Resonantly interacting solitary waves,J.Fluid Mech.,Vol.79,pp.171-179.
Pelinovskii.,1982:Nonlinear ploblems on waves of tsufiamis,Akademy of Sciences,USSR (in Russian).
Perroud,P.H.,1957:The solitary wave reflection along a straight vertical wall at oblique incidence,Ph.D.Thesis,Univ.California,Berkley.
Shuto,N.,1985:The Nihonkai-chubu earthquake tsunami on the north akita coast, Coastal Eng.in Japan,Vol.28,pp.255-264.
Whitham,G.B.,1974:Linear and nonlinear waves,Wiley-Interscience.Pub.,636pp.
Wiegel,R.L.,1964:0ceanographical Enginerring,Prentice-Hall,532pp.
Yue,D.K.P.and C.C.Mei.,1980:Forward diffraction of stokes wave by a thin wedge,J.Fluid Mech.,Vol.99,pp.33-52.
第5章 数値計算精度の向上
泉宮尊司・磯部雅彦,1986:領域分割による津波の数値計算法に関する研究,第33回海岸工学講演会論文集,pp.214-218.
今村文彦・後藤智明・首藤伸夫,1986:1964年アラスカ津波の外洋伝播計算,第33回海岸工学講演会論文集,pp.209-213.
今村文彦・後藤智明・首藤伸夫,1987:遠地津波に対する伝播計算の検討,東北大学工学部津波防災実験所研究報告,pp.61-100.
後藤智明・小川由信,1982:Leap-frog法を用いた津波の数値計算法,東北大学工学部土木工学科,52pp.
後藤智明,1984:アーセル数が大きい場合の非線形分散波の方程式,土木学会論文集,第351号/II-2,pp.193-201.
佐山順二・後藤智明・首藤伸夫,1986:屈折に関する津波数値計算の誤差,第33回海岸工学講演会論文集,pp.204-208.
首藤伸夫,1976:津波の計算における非線形項と分散項の重要性,第23回海岸工学講演会論文集,pp.432-436.
例えば,土木学会,1985:水理公式集昭和60年度版,pp.574-575.
中川 一・高橋 保・加納茂紀,1983:市街地モデルにおける洪水氾濫の挙動,第38回土木学会年次学術講演会,pp.93-94.
長谷川賢一・鈴木孝夫・稲垣和男・首藤伸夫,1987:津波の数値実験における格子間隔と時間積分間隔に関する研究,土木学会論文集,第381号/II-7,pp.111-120.
松冨英男,1985:ダム破壊流れの数値解析法の検討,土木学会東北支部研究発表会,pp.104-105.
Goto,C.and N.Shuto,1983:Numerical simulation of tsunami propagations and run-up,Tsunamis:Their Science and Engineering,pp.439-451.
第6章 砕波を伴った津波先端部の特性
泉宮尊司・堀川清司,1983:砕波帯における波のエネルギー方程式のモデリング,第30回海岸工学講演会論文集,土木学会,pp.15-19.
岩崎敏夫・富樫宏由,1969:津波陸上遡上の先端条件,第16回海岸工学講演会論文集,土木学会,pp.359-364.
加藤聡也・真野 明,1986:陸上を遡上する波先端付近の流速測定,第33回海岸工学講演会論文集,土木学会,pp.76-79.
酒井哲郎・田中秀明,1985:斜面上の砕波における水塊の突入と渦の挙動,第32回海岸工学講演会論文集,土木学会,pp.70-74.
椎木 享,1973:砕波特論,第9回水工学研修会講義集,土木学会,pp.B-2-1-B-2-38.
椎木 享・岩田好一朗・松本昇,1974:砕波後の波の底面摩擦力に関する実験的研究,第21回海岸工学講演会論文集,土木学会,pp.33-38.
首藤伸夫,1984:秋田県北部海岸における日本海中部地震津波,第31回海岸工学講演会論文集,土木学会,pp.247-251.
滝川 清・岩垣雄一・中川政博,1983:有限要素法による斜面上の波の砕波変形と内部機構の解析,第30回海岸工学講演会論文集,土木学会,pp.20-24.
武本行正・奥村博司・福間 順・藤井 宏,1981:ライブラリープログラムの紹介(44)-MAC法による非圧縮非粘性流体の数値解法プログラム-,京都大学大型計算機センター広報,Vol.14.No.4,pp.210-225.
永富政司・後藤智明・真野 明,1985:ソリトン波列の砕波変形に関する研究,第32回海岸工学講演論文集,土木学会,pp.41-45.
灘岡和夫・小谷野喜二・日野幹雄,1985:二成分ファイバー流速計を用いた砕波帯内流速場の特性と解明,第32回海岸工学講演会論文集,土木学会,PP.50-54.
西村仁嗣,1982:海浜循環流の数値シミュレーション,第29回海岸工学請演会論文集,土木学会,pp.333-337.
堀川清司編,1985:海岸環境工学,東京大学出版会,582pp.
真野 明・加藤聡也,1987:流速分布を考慮した波先端の特性曲線解,土木学会論文集,第387号/II-8,pp.273-280.
松冨英夫,1981:陸上遡上津波の先端条件と先端部の抵抗係数,第28回海岸工学講演会論文集,土木学会,pp.74-78.
松冨英夫,1985:下流側水深を有する場合のダム破壊流れについて,土木学会論文集,No.363/II-4,pp.79-86.
松冨英夫,1986:下流側水深を有するダム破壊流れ先端部の水面形,土木学会論文集,No.375/II-6,pp.161-170.
松冨英夫・浅田 宏・楢岡善治,1987a:砕波段波衝突による波力の一評価方法,第34回海岸工学講演会論文集,土木学会,pp.522-525.
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松冨英夫,1988:抵抗の違いによる孤立波の崩れ波型砕波波高と砕波段波波高の発達の差について,第35回海岸工学講演会論文集,土木学会(印刷中).
南 将人・真野 明,1986:ソリトン波列の砕波後の波速に関する研究,第33回海岸工学講演会論文集,土木学会,pp.71-75.
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Whitham,G.B.,1974:Lifiear and nonlinear waves, A wiley-Ifitersciefice Publication,636pp.
第7章 津波先端部の波力
秋田県土木部,1983a:昭和58年5月日本海中部地震
秋田県土木部,1983b:秋田県沿岸津波実態調査報告書
岩崎敏夫 他,1978:孤立性段波のえり分け距離に関する研究,第25回海岸工学講演会論文集,土木学会,pp.132-136.
岩崎敏夫・真野 明,・永富政司・苫米地鋭,1984:日本海中部地震における津波の流体力について,東北大学工学部津波防災実験所研究報告,第1号,pp.27-40.
小笠原道夫・宇多高明・川村 徹,1984:日本海中部地震津波による河口及び家屋密集地域の浸水被害,第31回海岸工学講演会論文集,土木学会,pp.262-266.
梶浦欣二郎,1984:孤立波の陸上遡上について-砕波と海底摩擦効果の検討-,東北大学工学部津波防災実験所研究報告,第1号,pp.49-62.
越川俊幸,1985:波及性津波による海岸構造物の被災機構,東京大学卒業論文.
首藤伸夫,1984:秋田県北部海岸における日本海中部地震津波,東北大学工学部津波防災実験所研究報告,第1号,pp.12-26.
堀越伸幸,1984:底面粒子の初期移動に及ぼす浸透流の効果に関する実験的研究,東北大学大学院修士論文pp.1-98.
松冨英夫,1986a:下流側水深を有するダム破壊流れ先端部の水面形,土木学会論文集, No.375/II-6,pp.161-170.
松冨英夫,1986b:津波のサージング・フロント,土木学会論文集, No.375/II-6,pp.231-239.
松冨英夫,1988:砕波段波衝突による波力に関する実験,:東北大学工学部津波防災実験所報告,第5号,pp.15-31.
山口幸志,1986:津波による海岸構造物の被災について,東京大学卒業論文.
Cross,R.H.,1967:Tsunami surge forces, Proc.ASCE,Vol.93,WW4,pp.201-231.
Cumberbatch,E.,1960:The impact of a water wedge on a wall,J.F.M.,Vo1.7,pp.353-374.
Fukui,Y.,M.Nakamura,H.Shiraishi,and Y.Sasaki,1963:Hydraulic study ofi tsunami,Coastal Eng.in Japan,Vol.6,pp.67-82.
Madsen,P.A.and I.A.Svendsen,1983:Turbulent bores and hydraulic jumps,J.F.M.,Vol.129.pp.1-25.
Stoker,J.J.,1957:Water waves, Interscience Publishers,Inc.,New York,567pp.
Togashi,H.and A.Fuhrboter,1981:A study on relationships between run-up height of long-period waves and that of short-period waves on umiform sloping beaches,長崎大学工学部研究報告,第17号,pp.87-92.
付録
付 録
解説
検潮井戸の応答特性調査(本文第3章参照)の際に得られた資料のうち、将来も参考になると思われる検潮所の詳細な位置図、構造図、観測データを掲載する。検潮所の配列は次のとおりである。
1 石狩湾新港 2 小樽港 3 忍路 4 岩内港
5 江差 6 吉岡 7 函館 8 深浦
9 能代港 10 男鹿 11 船川港 12 酒田港
13 岩船港 14 新潟西港 15 両津港 16 小木
17 寺泊港 18 柏崎港 19 直江津港 20 富山
21 七尾港 22 輪島港 23 舞鶴 24 花咲
25 釧路 26 十勝港 27 浦河港 28 室蘭港
29 八戸 30 久慈港 31 島越漁港 32 宮古
33 釜石 34 大船渡 35 気仙沼漁港 36 月浜
37 鮎川 38 小名浜 39 銚子漁港 40 東京
41 御前崎
(1)検潮所位置図(図A-1)
各港湾における検潮所の所在地を示すもので、作成の元になった資料は以下のとおりである。
・現地で関係機関から提供を受けたもの
石狩湾新港、小樽港、岩内港、江差港、吉岡、船川港、岩船港、七尾港、輪島港、八戸、久慈港、釜石、気仙沼港 (計13か所)
・海図
函館、舞鶴、花咲、釧路、十勝港、浦河港、室蘭港、宮古、月浜、鮎川、小名浜、銚子、東京、御前崎 (計14か所)
・2万5千万分の1の地図
忍路、小木、島越漁港、大船渡 (計4か所)
・港湾技研資料No.470(1983)の掲載図
深浦、能代港、男鹿、酒田港、新潟西港、両津港、寺泊港、柏崎港、直江津港、富山 (計10か所)
(2)検潮所構造図(図A-2)
所管機関から提供された設計図や見取図をトレースしたものであるが、新潟西港、浦河港、島越漁港、気仙沼漁港、月浜、銚子漁港、御前崎については、適当なものが入手できなかったので、省略してある。
(3)観測データおよび解析結果(図A-3)
現地での応答特性調査の際に得られた観測データとその解析結果を図化したもので、測定中に障害があったものなどは省いてある。図中の上に地名、排水(DRAIN)と注水(POUR)の区別、排水および注水試験の回数、応答係数Wを表示してある。右上の「X ハイン」は解析の区間、「Y ショキチ」は回帰曲線の初期値、「H OUT」は回帰曲線を求める際に想定した井戸外側の初期潮位とその変化速度(mm/sec)である。外側の潮位は図中に点線または実線の直線で示してある。
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