【土木学会論文集 第351号/II-2 1984年11月】 アーセル数が大きい場合の非線形分散波の方程式 EQUATIONS OF NONLINEAR DISPERSIVE LONG WAVES FOR A LARGE URSELL NUMBER 後藤智明* BY Chiaki GOTO
Abstract
Equations of nonlinear dispersive long waves are derived for a large Ursell number in water of varying depth.The equations include nonlinear dispersive effects.Numerical simulation of solitary waves are carried out by using the present and conventional theories.From comparisons between numerical and experimental results where the present theory provides a better agreement,it is concluded that nonlinear effects of dispersive terms are significantly important for finite amplitude waves.
1.序
1983年5月26日,東北日本海沿岸一帯に猛威を振るった日本海中部地震津波は,なだらかな海岸線に面する秋田県峰浜村の海岸砂丘でT.P.+14mを越す陸上遡上高を示した.この海岸は1/200程度の遠浅海岸であり,波状段波として津波が発達する余裕があったことが従来の津波とは異なった結果をもたらした.
現在,波源域の津波を正確におさえることができると,数値計算法で遡上痕跡高を精度よく再現できることが知られている.しかし,波状段波としての津波の変形を計算することは難しい.これは,分散項を含む長波理論の精度とその計算手法に問題が残されているためである.
長波を記述するパラメーターとしては,波高水深比\epsilon,相対水深&sigmaおよびこれらのパラメーターを結びつけたアーセル数Ur,(={\epsolon}/{\sigma})がよく用いられる.波高水深比は非線形性の強さ,相対水深は鉛直方向加速度(分散性)の重要度の目安を与えるものと考えてよい.長波をアーセル数で分類すると,U_r《1のとき線形理論,U_r》1のとき浅水理論,そしてU_r〜1のとき非線形分散波理論となる.
非線形分散波理論としてはBoussinesqの式1),KdVの式2),Mei-LeMehautの式3),Peregrineの式4)そして角谷の式5)が有名である.本研究の立場を明らかにする意味で従来の理論を簡単に説明する.説明には,斜面からの反射を含みより一般的であるという理由で,Peregrineの展開を用いる.彼の展開では他の展開と同様に波高水深比と相対水深がともに小さく,アーセル数が1のオーダーであると仮定する.その結果,第二次近似で次式を得る.
(1)
(2)
ここで,\bar{u}は断面平均流速,\etaは静水面からの水位変動,hは静水深,gは重力加速度である.式(1),(2)において,左辺の各項は第一次近似と第二次近似の量が加え合わされたもの,右辺は第二次近似の量である.したがって,第一義的な力のつり合いは線形長波の関係で表わされ,非線形項,分散項はそれを修正するものになっていることがわかる.
Peregrineの式と他の非線形分散波の式との関係を調べると,第二次近似の量までは完全に一致することがわかっている.Mei-LeMehauteの式はPeregrineの式を水底流速u_sで表現したものであり,水底流速と断面平均流速との関係は
(3)
で与えられる.Peregrineの式とBoussinesqの式,KdVの式,角谷の式との関係は岩崎6)の説明が詳しい.
以上の説明からわかるように,従来の非線形分散波理論は第一次近似が線形理論といった微小振幅波を対象としたものであり,有限振幅波あるいはごく浅い水域の分散性の波を考える場合には都合が悪い.このことは,従来の計算結果においてソリトン分裂が水理実験結果に比べ早めに起こったり,分裂後の第1波峰水位が高くなりすぎることが指摘されていることでも想像できる6).
最近,分散項に有限振幅の効果を与える試みが行われるようになってきている.Freeman・LeMehaute7)や著者8)は展開の第一次近似である線形長波の関係を第二次近似にあたる分散項の変形に用いたり,静水深を全水深に置き換えすることにより有限振幅性のある分散項に書き改めることを提案している.どちらにしても便宜的な修正であり,物理的根拠に乏しいといわざるを得ない.
本研究では,有限振幅性が著しい場合の非線形分散波の方程式を2種類の方法で導き,数値解法を用いてその性質および従来の理論との差を明らかにする.用いた展開は波高水深比を1のオーダーであると仮定し,相対水深を展開のパラメーターに採用したものであり,アーセル数が大きい場合に相当するものである.
*正会員 工博 東北大学助手 工学部土木工学科
(〒980 仙台市荒巻字青葉〉

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2.方程式の誘導
(1)無次元化
非圧縮性流体の二次元非回転運動を考える.静水面上にx軸,これより鉛直上向にz軸を採用する.(x,z)軸方向の流速を(u,w),\etaを静水面からの水位変動,pを圧力,hを静水深,gを重力加速度,$rhoを密度とおき,次の無次元化を考える.
(4)
ここでl_0,h_0は水平および鉛直方向の特性長,$eta_0は波高に相当し運動の大きさを表わす特性長である.
式(4)の無次元化を施すと,連続および運動の式は以下のようになる.
(5)
(6)
(7)
非回転の条件は
(8)
である.水表面および水底の条件は
(9)
(10)
(11)
である.ここで,\epsilon={\eta_0}/{h_0}は波高水深比,\sigma={h_0}/{l_0}}^2は相対水深を意味する.
(2)摂動法による誘導
いま,運動を\epsilon〜1,\sigma《1と仮定する.すなわち,アーセル数が大きい場合を考える.摂動展開のパラメーターとして\sigmaを選び,式(5)〜(11)の従属変数を次のように展開する.
(12)
式(12)を式(5)〜(11)に代入し整理すると,\sigma_0のオーダーからは
(13)
(14)
なる浅水理論が導かれる.Peregrineの展開では\epsilon〜\sigma《1と仮定するため,最低次近似は線形理論である.
\sigma_1のオーダーからは次の式群を得る.
(15)
(16)
(17)
(18)
(19)
(20)
(21)
である.
鉛直方向の運動の式(17)を積分し,水表面の圧力条件(20)を用いるとP_1は
(22)
となる.U_rは非回転の条件(18)をZ=N_0でU_1=U*なる条件で積分すると,
(23)
となる.
P_1,U_1を水平方向の運動の式(16)に代入すると,
(24)
が導かれる,ここで,G_3^」はである.
連続の式(15)を水表面波形連続条件(19)および水底条件(21)を用いて積分すると,
(25)
が導かれる.式(24),(25)が\sigma_1のオーダーにおける運動の式と連続の式である.
次に,\sigma_0と\sigma_1のオーダーの式を加え合わせることを考える.式(13)と式(25)を加え合わせると,
(26)
となる.式(26)中の大括弧内の項は流量フラックスを意味する.これを全水深(H+N-0十|sigmaN_1)で除することより,\sigma_1までの近似において断面平均流速\bar{U}は
(27)
で表わされる.運動の式に関しては,式(14)と式(24)を加え合わせることにより,
(28)
を得る.
以上のことから,(N_0+\sigmaN_1)を新たにNとおき,断面平均流速を用いて式(26),(28)を書き改めると,\sigma_1のオーダーまでの非線形分散波の方程式として,
(29)
(31)
が導かれる.ここで,Gprimeは$sigma_1のオーダーで現われる鉛直方向加速度に起因する項で
G^」=G_1^」十G_2^」十G_3^」
である.
式(29),(30)を有次元表示にすると
(31)
(32)
となる.ここで,G^」はGに相当する有次元量である.
このGに線形化を施すと,式(31),(32)はPeregrineの式(1),(2)に一致する.
(3)新しい展開法による誘導 ここでは,積分形の基礎方程式を用いた長波理論の新たな展開法を用いて,式(29),(30)に相当する非線形分散波の方程式を誘導する.線形理論および浅水理論までの展開では摂動法を用いてもあまり複雑とはならないが,その第二次近似にあたる非線形分散波理論では第一次近似と第二次近似の加え合わせといった面倒な方法を必要としたのに比べ,この展開法は比較的簡単な計算ですみ,また物理的考察を加えるにはよい方法でもある.
まず,連続の式(5)と運動の式(6),(7)を鉛直方向に積分する.連続の式は水表面波形連続条件と水底条件を用いると,
(33)
となる。鉛直方向の運動の式は水表面圧力条件を用いると,
(34)
となる。ここで,
式(タイトルなし)
である.水平方向の運動の式は
(35)
となる.式(35)の誘導には,水表面波形連続条件,水底条件および式(34)の関係を使っている.鉛直流速Wは連続の式と水底条件から
(36)
と表わされる.
摂動法と同様に,\epsolon〜1,\sigma《1と仮定する.また,水平方向流速ひを断面平均流速びとそれからのずれぴに分ける.非回転の条件(8)から
(37)
であるので,\bar{U}は\sigmaのオーダーの量であると考えてよい.ゆえに,以下の展開を
(38)
の仮定から進める.
式(38)を式(33),(35),(36)に代入し,
(39)
なる関係を用いると,
(40)
(41)
(42)
を得る.ここで,D=H+Nである.
したがって,連続の式は\epsilonのオーダーに関係せずに式(40)の形となる.水平方向の運動の式は,
であるので,\sigma_0のオーダーで
(43)
なる浅水理論,\sigma_1までのオーダーで
(44)
なる非線形分散波理論となる.
式(40),(44)を有次元表示にすると
(45)
(46)
となる.ここで,F_1,F_2はF_1^」,F_2^」に相当する有次元量である.dは全水深を表わす。式(32)と(46)は見掛け上異なった式であるが,式(32)は水底から水表面まで積分すると式(46)に一致する。
ここで示した展開法を用いて,さらに高近似の方程式を導くためには,式(37)を用いてUを\bar{U}で表わすことを考えればよい.

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3.方程式の性質
ここでは,新しく得られた方程式の性質を調べる目的で行った運動の式各項の大きさの比較計算結果について述べる.同時に,圧力分布に関しても,静水圧分布およびPeregrineの近似との比較も示す.
対象とした運動の式は鉛直方向に積分されたもので,水平床を仮定し
(47)
を用いた.初期値としては水平床上の孤立波を与え,式(47)の各項の大きさを差分で計算している.式(47)とPeregrineの運動の式(付録参照)との差は分散項だけであり,他の項は一致する.
圧力分布は,本近似では
(48)
で与えられ,Peregrineの近似では静水面上で
P=$rhog($eta一z)(49)
の静水圧分布,静水面下は
(50)
となる.
Fig.1およびFig.2に波高水深比0.1および0.5の計算結果を示す.各図は上から波形,運動の式各項の大きさ,分散項の大きさ,波峰における圧力分布の比較を示す.図中,$alphaは波高,Sは本近似の分散項全体,P_eはPeregrineの分散項,すなわち,
式(タイトルなし)
である.各項の大きさは最大値で基準化してある.また,Fig.2はFig.1に比べ水平軸が2倍に拡大されている.
Fig.1の波高水深比0.1の結果では,局所項\partial{d\bar{u}/\partial{t}と重力項gd・\partial{\eta}/\partial{x}が大きく,第1義的な力のつり合いは線形理論の関係であることがわかる.移流項\partial{d\bar{u^2}}/\partial{x}と分散項Sはともに小さく,局所項の20%以下の大きさである.分散項の中ではS_1が大きく,S_2,S_3は全体の12%程度の寄与しかない.本近似の分散項SとPeregrineの分散項との差も小さい.
Fig.2の波高水深比が0.5と大きい場合は,移流項および分散項が大きくなり,局所項の65〜85%程度に達する.分散項の中ではS_2およびS_3も大きくなり,S_1の15〜45%の大きさになり無視できなくなる.このため,Peregrineの分散項Pe,とのずれは,大きさだけではなくその分布形状にも違いが現われてくる.
Fig.1の波高水深比0.1の圧力分布は分散効果が小さいため,静水圧分布からのずれは小さい.波高水深比が0.5のFig.2では有限振幅性および分散効果が大きくなるため,静水圧分布からのずれが大きくなる.Peregrine近似の圧力分布とも有意な差が見られる.これは,式(48)〜(50)の比較でも明らかなように,Peregrine近似では鉛直方向加速度に起因する分散項に有限振幅性,非線形性が考慮されていないためである.
以上のことから,波高水深比が小さい場合は本近似とPeregrine近似との差は小さいが,波高水深比が大きくなると,分散項の有限振幅性,非線形性が大きくなり,Peregriae近似との差は無視できなくなることがわかる.また,分散項の中でもS_2,S_3,はS_1とも位相のずれがあるため,波の変形への影響が少なくないものと予想される.

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4.数値解法
斜面上の孤立波の計算例としてはPeregrine4)とMadsen-Mei9)の研究が有名である。Peregrineは彼の導いた式を用いて一様勾配斜面上の孤立波の変形を差分法で計算している.Madsen一MeiはMei-LeMehautの式を水平床と一様勾配斜面を組み合わせた地形について特性曲線法を用いて計算している.ここでは,式(45),(46)を用いた計算を行い,彼らの結果と比較する.同時に,MAC法による計算結果10)およびStreetら11)の水理実験結果との比較も行う.
(1)計算法
計算は差分法とする.計算点の配置はリープフロッグ法と同じように水位と流量を交互におくものとする.差分は陰的な中央差分を採用する.陰解法を使用するので移流項等に風上差分を必要としない.
差分法で計算する場合に問題となることは,差分スキームの特性による数値分散性と数値粘性12)である.本計算では中央差分を用いているため,数値分散性が特に問題となる.本計算法の場合,差分スキームによる数値分散性の大きさは近似的に
(51)
と評価することができる.ここで,\Delta{x},\Delta{y}はそれぞれ空間格子および時間格子の寸法である.したがって,数値分散性の大きさは,\Delta{x}を細かいものに選ぶか,もしくは
式(タイトルなし1)
に近い\Delta{t}を用いることにより,おさえることができる.
この理由から,本計算では
式(タイトルなし2)
を採用している.ここで,h1は計算領域内の最大水深である.
(2)計算結果
Fig.3にPeregrineの計算結果との比較を示す.斜面勾配は1/30,初期条件は波高水深比0.1の孤立波である.図中,実線は式(45),(46)による計算結果,白丸印はPeregrineの式の計算結果である.ただし,白丸印のPeregrineの式を用いた結果はPeregrine自身のものではなく,著者が彼の式を用いて計算したものである.
Peregrineの計算では無次元時間T={t}/\sqrt{h_1*g}=25までしか行われていないが,本研究ではT=30までの結果を示す.両者の差は無視できる程度である.
式(45),(46)を用いた計算結果とPeregrineの式によるものとの差は,T=20まではまったくみられない.
丁=25からはPeregrineの方が波高増幅が大きく,鋭い波峰をもつ結果となる.Peregrineの方が前傾化が著しい理由は,非線形効果に比べ分散効果が過小に評価されるためであると考えられる.Peregrineの式を用いた計算は,Y=31.5以降に計算が不安定となる.ごく浅水域では波高水深比が大きくなり,方程式の精度のうえからもPeregrineの式の適応は問題であるが,数値計算上からも浅水域でのPeregrineの式を用いることは難しいようである.
Fig.4に式(45),(46)の計算結果とMAC法の結果の比較を示す.水底形状はMadsen-Meiの計算と同じ,水平床と1/20の一様勾配斜面が組み合わされたものであり,初期値はx/h_1=10に波峰をもつ波高水深比0.12の孤立波である.
MAC法の計算は従来のSOLA-VOF法13)に斜面の境界条件と水表面セルの条件に関して著者らが工夫を加えたものである.MAC法では格子寸法として\Delta{x}/h_1=4\Delta{z}/h_1=0.1を採用している.
本計算結果とMAC法の計算結果とは多少の位相のずれが認められるが良好な一致を示す.
Fig.5はMadsen-Meiの計算結果との比較である.
Madsen-Meiの結果は第1波峰の波高が大きく,第2波峰の生成が早めの結果となっている.これも先に述べたように,非線形の効果たよる第1波峰背後からの運動量補給に比べ,これをおさえる働きのある分散効果を過小に評価しているためである.
Fig.6はStreetらの水理実験結果と比較したものである.彼らは,本計算と同じ水底形状の水路内に孤立波を発生し,斜面通過後の波形化を調べている.図中のA,B,Cはそれぞれx/h_1=14.65,30.0,41.6の地点の経時変化である。本計算結果の方が従来の式を用いた結果より水理実験結果に近いものとなる.
Fig.7は分散項を考慮していない線形理論と浅水理論による計算結果を式(45),(46)によるものと比較した結果を示す.水底形状はFig.4と同一である.初期波の波高水深比0.1の孤立波である.
線形理論の結果は,分散項を考慮したものに比べ波速が相当遅いものとなる.また,斜面通過後の波形変化はまったく起こらない.浅水理論の結果は前傾化が著しいものとなる.波峰付近で数値計算上のオーバーシュートがみられる.
本研究で行った計算のCPU時間の比較をTable1に示す.線形理論および浅水理論は陽差分法,他の計算は陰差分法を用いた計算である.使用した計算機は東北大学大型計算機センターACOS1000である.

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5.結論
相対水深が小さく,波高水深比を1のオーダー,すなわちアーセル数が大きい場合を仮定し展開を行うと,浅水理論の高次近似にあたる式(45),(46)が導かれる.
この式は従来の非線形分散波理論に比べ,有限振幅性および非線形性を考慮した分散項を含む表現となっている.
孤立波の変形に関する数値解法を通じ,従来の理論では移流項の効果に比べ分散項の効果を過小に評価していることを明らかにした.
線形分散波理論からの類推で分散項が大きいと分散効果も大きいと考える傾向があるが,移流項の効果が大きい非線形分散波にこの考えをそのままあてはめるのは誤りである.強いてあげると,分散項から移流項の大きさを差し引いたものの時空間的な違いが分散効果を表わしているといえよう.線形波の分散とソリトンの分裂とはメカニズムが異なるのである.また,本論文では鉛直方向加速度に起因する項を一括して分散項と名付けているが,有限振幅の波を考える場合には,線形分散項とモードが異なる成分も含まれているから,一括して分散項と名付けることにも問題が残る.
本研究では一次元伝播問題に焦点を当てているが,平面的な広がりを有する二次元伝播問題への拡張も容易である.
謝辞
本研究をまとめるにあたり,ご指導・ご助
言をいただいた東北大学工学部 首藤伸夫教授に謝意を
表わす.また,計算等で協力してくれた東北大学大学院
藤間功司君に感謝する。
付録 新しい展開法によるPeregrineの式の誘導
積分された式(33),(35),(36)を用いる.\epsilon〜\sigma《1と仮定する.水平方向の流速Uを断面平均流速\bar{U}とそれからのずれぴに分ける.非回転の条件(8)からUprimeは\sigmaまたは\epsilonのオーダーであることがわかるので
U=\bar{U}+\epsilon*U^」 (A・1)
とおく.
(A・2)
アーセル数が大きい場合の非線形分散波の方程式
(A・3)
(A・4)
となる.したがって,$epsilon^」までのオーダーからは
(A・5)
(A・6)
なる線形理論,$epsilon_1までのオーダーからは
(A・7)
(A・8)
なる積分されたPeregrineの式を得る.

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8)Goto,C.and Shuto,N.:Numerical simulation of Tsunami propagations and run-ups,Tsunamis:Their Science and Engineering,Terra Scientific Publishing
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9)Madsen,0.S.and Mei,C.C.:Solitary wave over an uneven bottom,J.F.M.,Vol.39,1969.
10)藤間功司・後藤智明・首藤伸夫:MAC法による孤立波の変形の数値計算,昭和58年度土木学会東北支部年講,1984.
11)Street,R.L.,Burges,S.L.and Whitford,P.W.: Dept.of Civil Engng.,Standford Univ.Tech.Rept No.93,1968.
12)たとえば伊藤剛編:数値計算の応用と基礎,アテネ出版,1971.
13)Nichols,B.D.,Hirt,C.W.and Hotchkiss,R.S.:A solution algorithm for transient fluid flow with multiple free boundaries,Los Alamos Scientific Lab.Tept., 1980.
(1984.3.13・受付)
【土木学会論文集 第357号/II-3 1985年5月】 津波による油の拡がりに関する数値計算 A SIMULATION MODEL OF OIL SPREAD DUE TO TSUNAMIS 後藤智明* By Chiaki GOTO
Abstract
A simulation model of oil spread due to tsunamis is developed.The equations for the motion of oil are the Navier-Stokes equation and the continuty equation.Since no effects of surface tension is included,the method is only applicable for a short time,in which the inertia and viscous effects dominate.This method is applied to Miyako Bay, on the North Sanriku Coast in Japan.It is assumed that 2000cubic meter oil spill from tanks due to earthquake.Input tsunami is the same magnitude as Tokachi-oki Tsunami hit in 1968.
1.序
津波による油の拡がりに関する数値計算法を検討する.
津波が直接の原因となって油が流出した例としては,1968年十勝沖地震津波の八戸港の例がある.港内に停泊していたタンカ〜の油槽が破損し,油が港内に拡がったのである。その他,直接の原因は津波ではないが,地震動のため石油タンクが壊れ,油が拡がった例は多い.
1964年の新潟地震では,流出した油が発火し,津波浸水域に火災をひろめている。
津波危険地域である三陸沿岸では,小さな漁港においても船舶用の石油タンクが設置されている所が数多くある。さらに,いくつかの港湾では,石油の大量備蓄が行われ,しかも津波対策が不十分な所が多い.もし,発火点が低い油であれば,流出後に火災を起こす危険が大きく,津波とともに市街地へ流れ込んでくる場合には,想像を絶するような二次災害を引き起こす可能性がある.
たとえ発火性の弱いものであっても,海水汚染により養殖水産業にとっては重大な問題となると思われる.
Fay1)の研究によると,静水面上に放出された油は,蒸発などによる体積減がなく,油層が水底に達しない程度であるならば,慣性力,重力,粘性力,表面張力の効果により拡がり,時間とともに,重カ-慣性力領域,重カ-粘性力領域そして表面張カ-粘性力領域へと変わっていくことが知られている.
重カ-慣性力領域の理論解法としては,Abbot2)の特性曲線法による数値解,Hoult3),Fannelopら4)の相似解を仮定する方法がある.この領域の解を求めるときに最も問題となるのは油層先端の条件である.普通,油層先端速度と油層厚の間に何らかの人為的な条件を設定している.
重カ-粘性力領域には,Hoult3),Fannelopら4)およびBuckHlaster5)の解がある.これらの理論は,油の粘性がきわめて大きく,あたかも平板が水面を滑っているのと同じ状態であると仮定し解かれている.
表面張カ-粘性力領域にはHoult3)の解がある.しかし,実験値とは大きく異なる結果となり,その原因はいまだに明らかにされていない.
一方,数値シミュレーションでは,力のつり合いとは関係なしに,拡散方程式を用いたり6),油層の移動速度を水や風などの移流速度と経験的に結び付けて計算しているもの7)が多い.したがって,計算結果が係数の大小に左右されるといった問題があるようである.
本研究では,油の運動の方程式を導き,それを解くといった,より実現象に近い数値シミュレーション法を検討する.油の拡がりに関する水理実験結果との比較を通じ数値計算の精度を検討する.また,この計算法を現地海岸へ適用することにより,実用上の問題点に関しても考察する.ただし,津波の現象は数時間のオーダーであるのに比べ,放出油量で多少異なるが表面張力の効果が卓越するのは数日後程度であることから,本研究では表面張力の影響を無視している.また,油を移流させる外力としては,津波の水流だけを考える.
*正会員 工博 東北大学助手 工学部土木工学科
(〒980 仙台市荒巻字青葉)
2.支配方程式と計算法
(1)油の連続と運動の式
水平方向に(x,y)軸を採用する.油の水平方向流速を(u_0,v_0),水の流速を(u,v),のとおく.基準面からの油層表面の高さを$eta_0。,水面の高さを&etaとおく。油の密度を$rho_0,水の密度を$rho,重力加速度をgとし,油の鉛直加速度は重力加速度に比べ小さいと仮定すると,油の連続および運動の式は
(1)
(2)
(3)
となる.ここで,D_0は油層の厚さであり,M_0=u_0*D_0,N_0=v_0*D_0である.&tau_x,&tau_yは抵抗力を表わす.
D_0と$eta_0の関係を導く.Fig.1(a)のように油層が水面上に浮いている場合とFig.1(b)のように油層が水底に達する場合に分けて考える.ただし,図に示すように,$eta,$eta_0は鉛直上向を正,h,h_0は鉛直下向を正にとる.
油の鉛直加速度が無視できると,鉛直方向の力のつり合いは,それぞれ
$rho_0*g*D_0=$rho*g*(D_0一$ety0十$eta)≦$rho*g*D (4)
および
$rho0*g*D0>$rho*g*(D0一$eta_0十$eta)=$rho*g*D (5)
で表わされる.したがって,D0と$eta0の関係は
D≧$rho_0*D_0/$rhoのとき $eta_0=$epsilon*D_0+$eta(6)
および
D<$rho0*D_0/$rhoのとき $eta_0=D_0-$eta (7)
となる.ここで,$epsilon={1一$rho_0}/$rhoである.式(6)中の$etaは水流に関する計算結果から既知の値であり,式(7)中のhは地盤データであるので,式(6),(7)により方程式系(1)〜(3)は閉じていることになる.
油層底面に働く抵抗力は相対速度の2乗に比例するものと仮定し,
D≧$rho_0*D_0/$rhoのとき
(8)
D<$rho_0*D_0/$rhoのとき
(9)
とおく.ここで,f,f_Bは抵抗係数である.
(2)計算法
式(1)〜(3)の計算にはリープフロッグ法を用いる.
差分式は津波に関するもの8)とほぼ同じである.計算の初期条件は油層厚および線流量の分布を与えるものとする.
本計算では特別な油層先端条件を用いていない.ただし,差分計算の誤差の特性上,油層先端で厚さが完全に零とはならないため,油層先端厚さと初期油層厚さの比が10-5となる地点を油の拡がりの先端と定める方法を用いている.本研究の範囲では10^-4以下の値を用いれば,全体の拡がり面積に影響を及ぼさない.

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3.計算結果と従来の研究成果の比較
(1)一次元拡がり
式(1)〜(3)を用いた計算で最も問題であると思われることは,抵抗係数の評価に関してである.特に,重カ-粘性力領域では,この抵抗係数の大小が油の拡がりを左右するといっても過言ではない.
ここでは,静水面上への油の一次元拡がりに関して従来の研究成果と計算結果を比較することにより,抵抗係数について検討を行う.油と水の間の抵抗係数としては,首藤ら9)の研究を参考として
f=f^」/Re(10)
を仮定する.ここで,Reは油に関するレイノルズ数で局所的な代表流速をU0,動粘性係数を$ny0とおくと
式(タイトルなし1)
で定義される.f^」は定数である.
計算は,埜口ら10)の水理実験と同様に,水槽端にシャッターをへだてて貯留した油をシャッターを引き上げることにより放出した油の拡がりに関して行う.水の流れはなく,式(4)を満足する水深を有するものと仮定する.
計算は一次元拡がりのみを考え,空間格子を2.5Cm,時間格子を0.05sとする.油は比重0.9,動粘性係数43cstのものであり,貯留量は0.75m^3である.水槽幅は0.5mとする.
Fig.2に埜口らの水理実験結果と\bar{f}の値を変えた5種類の計算結果との比較を示す。図は拡がり長さに関するもので,各軸は,
式(タイトルなし2)
および
式(タイトルなし3)
で無次元化されている.ここで,yは放出油量,.Bは水槽幅である.
f^」の小さい計算では実験値に比べ油の拡がり速度の大きい結果となる.f^」が0.25と大きい計算では,重カ-粘性力領域で拡がり速度が幾分小さめな結果となる.
以上のことから,本研究では油と水の間の抵抗係数としてf^」=0.2すなわちf=0.2/Reを採用する.ただし,油層の拡がりに伴う水の運動を本計算法では全く考えていないので,この抵抗係数は油層先端を含めた平均的なものと考えるべきである.実際,首藤ら9)は油層先端と他の部分では抵抗係数が大きく異なることを報告している.
Fig.3に油の一次元拡がりに関する従来の代表的な研究成果と計算結果を比較したものを示す.計算は上述のものに付け加え放出油量0.0075m^3に関しても行っており,その結果は黒丸印,黒三角印で示してある.従来の研究成果は実線,破線等で示してあり,上述の研究成果以外にSuchom11)の水理実験結果も載せてある.
放出油量のオーダーが異なる2種類の無次元拡がりに関する計算結果の差はほとんどみられず,埜口らおよびSuchonの実験値とよく一致する.したがって,抵抗係数にf=0.2/Reを用いることは当を得ているものと結論づけられる.
Fannelopら4)は,このダム決壊形式の一次元拡がりには,重カー慣性力領域になる前の段階として初期成長(Initial-growth)領域があることを指摘している.本計算結果からはこの領域に相当する現象を明確にとらえることはできない.これは,油層の急激な進行に伴い前方の水も流動するために起こる現象であり,計算では水の運動を一切考えていないことによる.
Fig.4は油層の断面形状に関して従来の研究成果と計算結果を比較したものである.横軸の1が油層先端であり,油層厚さ(縦軸)の基準は放出点の値を用いている.
計算結果は放出油:量0.75m^3のもので,重カ-慣性力および重カ-粘性力の各領域の結果は放出後2.5sおよび8.Osのものである.埜口ら10)の実験値とは条件が多少異なるため直接比較するのは難しいが,実験値が油層先端がくさび状で内部波が生じた結果になるのに比べ,重カ-慣性力領域の計算値は先細りの滑らかなものになる.
相似解を仮定したHoult3)やFannelopら4)の結果は矩形状のものとなっている.重カ-粘性力領域ではHoult,Fannelopらの理論解の形状と類似なものとなる.
(2)二次元拡がり
ここでは,油の二次元拡がりに関する埜口ら12)の水理実験結果と比較する.
埜口らは,幅12m,長さ12m,深さ0.3mの平面水槽1に幅0.31m,奥行き0.5mの小湾を作り,この湾奥から毎分0.0044m^3の油を連続的に放出し,静水上の油の二次元拡がりを測定している.使用した油は,動粘性係数13cst,比重0.86のものである.
Fig.5にこの水理実験と同じ諸元で行った計算結果を示す.計算には,10cmの正方格子および0.1sの時間間隔を用いている.計算値は計算格子に沿った階段状の実線で示している.破線で示されている埜口らの実験値に比べ計算値の方が幾分大きめな拡がりとなるが,良好な一致といえよう.
埜口らは,さらに,幅3.8m,有効実験区間40m,水深4mの大型回流水槽を用いて一様流(30cm/s)中に放出した油の二次元拡がりに関する水理実験を行っている.水路上流の水面直上に幅5cmのといを設置し,といから下流に向けて毎分0.003m^3の油を連続放出している.
Fig.6に実験結果と計算結果の比較を示す.放出開始後2sごとの結果である.流れ方向の拡がり長さについては両者は良好な一致を示すが,流れと垂直方向には多少の差がみられる.特に,流れ方向の油層先端幅には大きな差がある.これは,水流の乱れが原因と考えられ,乱流拡散をも考慮した計算が必要なことを示唆する。

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4.宮古湾に関する計算
(1)津波の計算13)
津波の計算は電算機の記憶容量および演算時間の制限のため,発生および外洋での伝播を扱う外海計算と宮古湾内の流動を詳細に扱う近海計算に分離して行う.まず,外海計算を行い,近海計算のための境界値を出力する.
近海計算では,この境界値を入力条件とし,宮古湾内の津波の水位および流速分布を出力する.
外海計算は北緯38度20分〜43度5分,東経140度30分〜145度15分の領域で線形長波理論を用いて行う.計算格子は水深分布により5910m〜657mの3種類の正方格子を用い,時間間隔を3sとする.対象とした津波は1968年の十勝沖地震津波であり,金森14)の断層パラメーター,羽鳥15)の波源域を用いる.
近海計算では,宮古湾の現況地形を対象とし,天文潮位T.P.Omのときに十勝沖地震津波と同じものが来襲する場合を想定している.Fig.7に宮古湾の地形を示す.
計算は,50mの正方格子,1sの時間間隔を用いて,マニングの摩擦抵抗則(粗度係数は0.02)を考慮した浅水理論で行っている.
(2)油の拡がりの計算
油の拡がりに関する計算は式(1)〜(3)を用いて行う.計算は近海津波計算と同じ50mの正方格子,1sの時間間隔で行う.抵抗係数はf=0.2/Reを用いる.f_Bに関しては0.02を仮定する.対象とする油はすべてB重油とし,比重を0,91,動粘性係数を43cstとおく.
油の初期流出条件としては,宮古港埠頭に2基の石油タンクを想定し,地震動によりタンクが破損したものと仮定する.石油タンクから流出した油は防油堤内に滞油しているものとする.防油堤の高さは地盤上40cmであり,その形状は計算格子(50mの正方格子)に等しいものとする.油量は1石油タンク当たり1000m^3とする.
(3)計算結果
外海津波計算結果と十勝沖地震津波の宮古港検潮記録を比較すると,第1波および第2波は計算値の方が低い水位となり,第3波以降は逆に高い水位となる.そこで,近海津波計算への入力点で波を入射波と反射波の各成分に分離し,入射波成分を補正し近海津波計算に入力することを考える.補正には,予備的な近海計算を数回繰り返すことにより各波峰,波谷ごとに倍率を定める方法を用いる.補正後の計算結果と検潮記録の比較をFig.8に示す.実線が計算結果,黒丸印が検潮記録である.時刻の原点は津波発生時である.
Fig.9およびFig.10に津波の水流に関する近海津波計算結果を示す.図には10cmごとの等水位線と流速ベクトルが描かれている.図中の数字はm単位の水位を表わす.宮古湾内の各地点の水位の経時変化はFlg.7に示されている.
Flg.11には,津波発生後40分から120分までの10分ごとの油の拡がりに関する計算結果が示されている.
図は宮古港の付近を拡大したもので,実線で囲まれた斜線部分が油の拡がり範囲である.
津波発生後40分で津波の第1波峰は閉伊川河口からのびた藤原地区防波堤付近まで達している.しかし,この時刻では宮古港埠頭の津波の水位は防油堤天端を越えておらず油の港内への流出は始まっていない.Fig.11のA,B点は石油タンクの位置を示す.
油の港内への流出は津波発生後42分頃から始まる。
最初は押し波のため陸上に向かって流出するが,次の引き波により港内に流される.
津波発生後70分になると,油の拡がりは宮古港竜ヶ崎防波堤の先端あたりまで達する.100分後では防波堤の開口部を越え,湾中央に向かって一層広範囲に拡がっている.また,110分後からは閉伊川上流へ向かう流れに乗り拡がっていく.
油の拡がり速度は,宮古港竜ヶ崎防波堤先端の開口部で津波の流れに乗ったときが最大で2.5m/sに達する.
しかし,津波の転流により引き戻されたりするので,長時間にわたり平均すると10〜25cm/s程度である.
Flg.12に油の拡がり長さと面積の時間変化を示す.
L_A,L_Bは石油タンクA,Bからの最大拡がり長さ,Sは拡がり面積を表わす.計算は津波発生後120分まで行ったが,油の拡がり面積はたかだか0.8km^2である.
実用的には,もう少し長時間にわたる計算が必要となろう.

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5.結論
本研究では,津波による油の拡がりに関する数値計算法の検討を行ったが,その主要な結論を列挙すると次のとおりである.
(1)油の運動の計算は,式(1)〜(3)と付帯条件(6),(7)を用いて差分法で安定に計算ができる.
(2)油と水の間の抵抗係数としてはf=0.2/Reを用いればよい.
(3)本計算では,水流の乱れによる拡散を一切考えていないが,油層が薄くなる場合には拡がりの重要な因子となるので今後何らかの工夫を要する.
(4)本計算法を現実問題へ応用する場合には,津波の水流以外に津波来襲時の風,気温等の気象条件が油の拡がりに重大な影響を及ぼすものと考えられる.今後これらの取り扱い方法を検討する必要がある.
謝辞
本研究をまとめるにあたり,ご指導,ご助言をいただいた東北大学工学部首藤伸夫教授に謝意を表わす.また,貴重な実験データを提供していただいた工業技術院中国技術試験所埜口英昭氏に感謝する.なお,本研究の一部は文部省科研費(代表者:東京大学工学部堀川清司教授)によって行われた.
参考文献
1)Fay,J.A.:The spread of oil slicks on a clam sea, Plenum Press,1969.
2)Abbot,M.B.:On the spreading of oil fluid over another,La Houille Blanche,Nos.5,6,1961.
3)Hoult,D.P.:Oil on the sea,Annual Review of Fluid Mech.,Vol.4,1972.
4)Fannelop,T.K.and Waldman,G.D.:Dynamics of oil slicks,AIAA J.,Vol.lo,No.4,1971.
5)Buckmaster,J.:Viscous-gravity spreading of an oil slick,J.Fluid Mech.,Vo1.59,1973.
6>Wariluzel,A.and Benque,J.P.:Un modele mathematique de transport et d」etatement d」une nappe d」hydrocarbures,Comptes rendus du colloque,IAHR, 1981.
7)Ambjorm,C.:An operational oil drift model for the Baltic,Comptes rendus du colloque,IAHR,1981.
8)後藤智明・小用由儒:Leap-frog法を用いた津波の数値計算法,東北大河川研報,1982.
9)首藤伸夫・大野操:石油の拡がりの実験,第24回海講論文集,1977.
10)埜口英昭・早川典生・橋本英資・山崎宗広:海上に流出した油の拡がりについて,第26回海講論文集,1979.
11)Suchon,W.:An experimental investigation of oii spreadiag over water,MIT Rept.,1970.
12)埜口英昭・山崎宗広:海面上に連続して放出する油の拡がり,第26回水講論文集,1979.
13)後藤智明:津波による木材の流出に関する計算,第30回海講論文集,1983.
14)Kanamori,H.:Focal mechanism of Tokachi-oki Earthquakes of May 16,1968,Contortion of the lithospere at a junction lf two trenches,Techtonophysics,Vol.12, 1971.
15)羽鳥徳太郎:東北田本太平洋側における津波の波源,地震,Vol.27,1974.
(1984.9.13・受付)
【土木学会論文集 第369号II-5 1986年5月】 非線形分散波式の精度の検討 ACCURACY OF NONLINEAR DISPERSIVE LONG WAVE EQUATIONS 藤間功司*・後藤智明**・首藤伸夫*** By Koji FUJIMA,Chiaki GOTO and Nobuo SHUTO
Abstract
Six equations of higher order approximation derived for U_r and U_r〜1 are examined numerically in comparison with the MAC method,with an emphasis on the development of soliton fission.The reason why the exsisting theories such as the KdV.
Boussinesq and Peregrine equations give a more rapid growth than hydraulic experiment is explained.The best fit is obtained with an equation for U_r》1.
1.緒言
現在における津波数値計算は,実用上十分な精度で打上げ高を再現できるまでに至っている.しかし,詳細な波形や流速のような,海岸部構造物の強度設計や安定計算に必要な諸量については精度が不十分で,これの向上が近い将来の重要な課題である.特に日本海中部地震津波でみられたような波先端部でソリトン分裂を起こす津波に関してはこの短周期成分の精度よい再現が必要である,
ソリトン分裂などの現象を表現できる長波の方程式(非線形分散波式)としては,今のところ,Peregrineの式1),KdVの式2),Boussinesqの式3)などのアーセル数(U_r)が1のオーダーの式と,最近著者らの1人が導いたアーセル数が1より大きい場合の式4)の2種類の系統がある.U_r〜1の場合の式は線形長波の式の高次近似,U_r》1の場合の式は浅水理論の式の高次近似であり,これらの長波理論はU_r〜1の場合とU_r》1の場合の2種類に分類できるといってよい.
この2種類の系統の非線形分散波式に関して,U_r〜1の系統の式を用いた数値計算ではソリトン分裂が実際よりも早く起こり波高増幅も大きくなる5)と指摘されており,U_r》1の系統の式を用いた方が少なくとも斜面上での波の変形では実験に近い計算値を与える6)という結果が得られている.
しかし,砕波点近くまでを含めて論議するには従来の方程式では不十分であり,より高精度の方程式が求められている.一方,津波の実用計算では,広大な海域が対象となるため,計算機容量,経費等の面からの制約もあり,無限に方程式の近似度を上げるわけにもいかない.
そこで,従来の式やより近似の高い式の数値計算結果の傾向を知り,適用範囲を決定し,かつ上記制限下に実用に供し得るものであるかを判断する必要にせまられている.
本研究では,まず新しい展開法を用いてU_r〜1,U_r》1の両者の場合で従来の式よりさらに高次近似の方程式を導く.さらに,MAC法によるソリトン分裂の数値計算結果を用いて従来の非線形分散波式,およびここで導いた高次近似式の精度を数値的に検討する.最後にソリトン分裂の機構を調べ,各非線形分散波式による数値計算がどのような結果を与えるかを考察する.
*学生会員 東北大学大学院工学研究科
(〒980 仙台市荒巻字青葉)
**正会員 工博 運輸省港湾技術研究所水工部主任研究官
***正会員 工博 東北大学教授 工学部土木工学科
(〒980 仙台市荒巻字青葉)
2.展開法
非粘性・非圧縮流体の二次元・非回転運動を考える.
波高,波長,水深の代表的な量をH_0,L_0,h_0とし,波高水深比\epsilon=H_0/h_0。,相対水深\sqrt{\sigma}=h_0/L_0と定義する.このとき,U_r=\epsilon/\sigmaとなる。z^」軸は鉛直上向きで静水面をガ=0,水底をz^」-h^」(x^」)とし,x^」方向流速,z^」方向流速をそれぞれガ,u^」,圧力をp^」,静水面からの水面の変位\etq^」表わす.また,水の密度を\rho,重力加速度をgとする.
連続の式,運動の式,水表面の条件,水底の条件,および非回転の条件を次のような無次元変数を使って無次元化する.
(1)
ただし,記号^」が有次元量を表わす.この無次元化はPeregrineの行ったものと本質的に同じである.
連続の式,運動の式,非回転の式などを鉛直方向に積分すると,基本方程式群として式(2)〜(6)を得る.
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
式(3)の中で左辺第1項が局所項,第2項が移流項,第3項が静水圧項(式(4)右辺第1項による部分),右辺は鉛直方向加速度に起因する静水圧以外の圧力(式(4)右辺第2項〉による項で,便宜上分散項とよぶことにする.式群を有次元に戻すには式(3)左辺第3項と式(4)右辺第1項にg,式(4)左辺に1/\rhoを付ければよい.
ここで,従来の摂動法とは異なり,本来物理現象として存在すべき波形\etaと底面からその波形に至る間についての断面平均流速万を基準にとり,これらに関して流速を展開する方法により方程式を誘導する.たとえばU_r〜1の式を求めるなら,式(2)〜(6)のパラメーターを\epsilon〜\sigma《1とし,式中のパラメーター\sigmaを\epsilonで置き換えてu,wを次のように展開する(この場合,\epsilon,\sigmaがともに展開に関係しており,パラメーターを\epsilonで統一するのは単にU_r》1の場合との混同を避けるためである).
(7)
そしてw_0,u_1,w_1を最終的に方程式に組み込まれる変数である\etaと\bar{u}で表わし,必要な部分までを式(2),(3)に代入して直接\etaと\bar{u}に関する式を導く.ただし,\bar{u}=\bar{u}(x;t),w_0,u_1などは(x,z:t)の関数である.
U_r》1の場合は^epsilon〜1,\sigma《1で,展開のパラメーターは\sigmaになる.この場合,パラメーター\epsilinは展開に一切関係がない.
w_0,u_1等を\etaと\bar{u}で表わすには,式(5)〜(7)から次のようにw_0,u_1,w_1…の順に求めることができる.
(8)
ただし,u_1,u_2,等の積分定数は,断面平均流速の定義
(9)
U_r〜1の場合には
(10)
U_r》1の場合には
(11)
として決定する.

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3.Ur〜1の場合の高次近似式
まず,\epsilon〜\sigma《1としてU_r〜1の場合の式を0(\epsilon^3)の精度まで求めると以下の結果を得る.
(12)
(13)
ここで,0(\epsilon)の精度を有する式は式(12),(13)の中の0(\epsilon)の項,0(\epsilon^2)の精度を有する式では0(\epsilon^3)の項までを考慮すればよい(以下,0(\epsilon^n)の精度を有する式を単に0(\epsilon^n)の式と書く).0(\epsilon)の式は線形長波の式,0(\epsilon^2)の式はPeregrineの式を積分したものに等しい.
このとき,u_1,w_0,w_1働は次のように表わされる.
(14)
(15)
(16)
圧力は,p=p_0+\epsilon*p_1+\epsilonn^2*p_2+…とおけば,式(4)から次のように得られる.
P_0=-a (17)
P_1=\eta (18)
(19)
(20)
さらに水平床として簡単化し,0(\epsilon^4)まで考慮すれば,水平床における式として次式を得る.
(22)
(23)
(24)
(25)
0(\epsilon)〜0(\epsilon^3)までの水平床の式は,同様に式(21),(22)から高次の微小項を取り除くことにより得られる。
水平床で正方向の進行波を考える場合には上の式から刀を消去でき,KdVの式の高次近似式として次式を得る.
(26)
式(タイトルなし)
ここで,0(\epsilon^2)までを考慮したものがKdVの式である.

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4.U_r》1の場合の高次近似式
次に\epsilon〜1,\sigma《1とおいてU_r》1の場合の式を0(\sigma^2)まで求めると,次の結果を得る.
(27)
(28)
式(タイトルなし)
0(\sigma^2)の式は浅水理論,0(\sigma^1)の式は著者らの1人が
導いた非線形分散波式を積分したものとそれぞれ一致す
る.このとき,u_1,w_1,p_1等は次のように与えられる.
(29)
(30)
(31)
(32)
(33)
(34)
さらにU_r〜1の場合と同様に水平床上で正方向の進行波を仮定して方程式から五を消去すれば,0(\sigma)の精
(35)
0(\sigma^0)までなら浅水理論の式と同じである。方程式を\etaのみの式で表わすことは0(\sigma^2)の式でも可能であるが,かなり複雑になる.

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5.方程式の精度の数値的検討
ここでは,MAC法によるソリトン分裂の数値計算結果から,3.,4.で導いた各方程式の移流項,分散項を評価し,各式の精度を数値的に検討する.
MAC法では,断面平均をとるなどの操作を行わず,また微少パラメーターによる展開もせずに直接Eulerの運動の式を用いて計算するため,支配方程式による誤差が少ない.さらにEulerの運動の式には1階微分しか現われないために,数値計算上の誤差も少なく抑えることができる.ただし,x,z,tに関しての差分となるので,計算量は格段に増えることとなる.
(1)MAC法の計算方法
本計算方法7)は,MAC法の一種であるSOLA-VOF8)に斜面の境界条件と水表面セルでの水の授受に関して著者らが工夫を加えたものである.
計算領域をx方向とz方向に格子状に区切り,セルに対し図-1(a)の場所でu,w,pを定義する.
Eulerの連続の式,運動の式を差分化し,式(36)〜(38)を得る.移流項には風上差分を用いている.
(36)
式(タイトルなし1)
(37)
(38)
ここで,DUL,DUR等は
式(タイトルなし2)
を表わす.DWR等はwに関する同様な演算である.
底面の境界条件は,法線方向流速をゼロとするものであるが,本計算では式(36)を用いるときに,斜面セルにおいて式(39)を用いることとし,連続の式に組み入れた形で用いる(図-1(b)).
毒(娠脚・撫脚一秘ゆ・み祠
(39)
式(タイトルなし3)
自由表面での力学的境界条件(水表面で圧力ゼロ)では,水表面セルでの圧力を隣接するセルから直線補間して求める.また,運動学的条件である水表面セルでの水の授受に関しては,たとえば図-1(c)の斜線部の水が隣接するセルへ移動すると考える.
計算のアルゴリズムは以下のとおりである.t=n\Delta{t}のuとw,t=(n-1/2)\Delta{t}時のpと波形が決まっているとする.
1)u,wにより隣接するセル間で水を移動させ,t=(n+1/2)\Delta{t}時の波形を求める.
2)式(37),(38)からt=(n+1)\Delta{t}のu,wを求める.ただし,pとしてはt=(n\1/2)\Delta{t}時の値を用いる.
3)この流速値は前ステップでのpの値を準用したものであり,式(36)を厳密には満たしていない.そこですべてのセルで式(36)が収束条件を満たすようにpの値を変化させ繰り返し計算を行い,t=(n+1/2)\Delta{t}時のpとt=(n+1)\Delta{t}時のu,wを決める.もちろん,1)で決めた水表面を境界条件を与える場所として用いる.
(2)計算結果
数値計算は諸量をすべて無次元化し,図-2に示す計算条件に対し行った。初期条件は置濡10.0に波頂が位置する孤立波の第二次近似解を与えた.初期波高水深比は0.12である.底面形状はx=0〜20,30〜60が水平床,x=20〜30は勾配1/20の一様斜面である.格子間隔は\Delta{x}=0.1,\Delta{z}=0.025,配譜0.05とした.計算は東北大学大型計算機センターACOS-1000により無次元化された時間で41.4まで行い,演算時間は約9時間30分であった.
計算結果を図-3(a)〜(c)に示す.(a)は波形変化である.t=40まで,時間間隔2.5で書かれている.(b)は本計算と同じ問題をMadsen-Mei5)がMei-LeMehauteの式9)を特性曲線法を用いて行った数値計算結果との比較である.(c)は本計算とStreetら10)の実験結果および上述のMadsen-Meiの計算結果との比較である.A,B,C各点(x=14.65,30.0,41.65)での波高経時変化で示してある.A点で実験値が本計算やMadsen-Meiの計算に比べ険しい波形を示しているのは,実験では造波装置の制約で孤立波の理論波形よりも険しい初期波形を作っているためと考えられる.C点では逆に実験値は両計算値より緩やかな波形を示している.また両計算値を比べると,MAC法の結果がMadsen-Meiの計算よりも緩やかな波形となっている.(b)の結果とも考え合わせ,MAC法はMadsen-Meiの計算に比べて分裂が遅く,実験に比べれば分裂がやや早いことがわかる.これはMAC法では従来の方法に比べ実験に近い結果を得ることができるが,摩擦の影響を考慮していないことやMAC法そのものの計算誤差のため完全には一致しないものと解釈できる.
(3)評価
3.および4.で導いた各方程式による移流項,分散項をt=25〜40におけるMAC法の計算結果と比べて評価した結果を図-4(a)〜(d)に示す.上段の図は波形,中段の図はMAC法の結果から求めた静水圧項・移流項・分散項で,これは真の値であるとみなせるものとする.下段の図がMAC法の結果から算出した\etaと\bar{u}を使って各方程式の移流項・分散項を求めた結果である.
ただし中段・下段の図では図中の最大値で規格化してあり,各項の符号は流量(h+\eta)\bar{u}を大きくするように作用しているときを正とした.また,MAC法の計算は演算時間の制約のため,空間格子間隔を求められる精度が得られる範囲で比較的大きく設定してある.そのため数値的に高階微分をとることは困難で,MAC法の結果から計算される\bar{u}をFourier成分に分解し,高周波成分を除去して高階微分を実行している.
以下,MAC法の結果が正しいとみなして各方程式の精度を評価する.
移流項は0(\epsilon^2)の式を除けばどの式でもMAC法の結果にかなり近い.特に,0(\epsilon^4),0(\epsilon^2)の式による近似では,MAC法の結果とほとんど区別できない.0(\epsilon^3),0(\epsilon)の式の結果も,t=30まではMAC法とほとんど同じであり,その後も有意な差はみられない.そこで0(\epsilon^3),0(\epsilon)の式の移流項であり,従来から津波や高潮の計算に用いられている\partial{(h+\eta)\bar{u}^2)}/\Partial{x}即を用いれば十分な精度が得られるといえる.
一方,分散項は式によるばらつきが大きく,MAC法の結果との差も大きい.またその差は時間とともに増大する.
そこで,分散項の誤差の大きさを静水圧項の大きさとの比で表わし,
(40)
D_mn:各式の分散項の最大値
D_m:MAC法の分散項の最大値
S_m:MAC法の静水圧項の最大値
と定義して波の変形に伴う変化を調べた結果を図-5に示す.(a)は\epsilon,(b)は\sigmaによる変化を示す.ただし,対象としている波が孤立波であり,しかも2波に分裂する過程なので,波形から波長を直接定義することは困難である.そこで,便宜上\epsilon,\sigmaは局所的な量として,MAC法の計算波形から図-6のように代表的な寸法H,Lを決め,
\epsilon==H/h,\sigma==(h/L)^2 (41)
から求めた.孤立波の理論波形では,このように\epsilon,\sigmaを定義すれば\sigma〜0.1\epsilonとなる.したがってこの場合の見掛けのアーセル数(U_r)^」は(U_r)^」〜10で本来のアーセル数U_r〜1に相当する.本計算でも孤立波が斜面に上がる前は\sigma〜0.1\epsilonであり,斜面上で\sigmaより\epsilonの方が大きくなって水平床に乗り上げた後にソリトン分裂して再び\sigma〜0.1\epsilonに復帰する.本計算における\epsilon,\sigmaの履歴を図-7に示す。本計算波形での(U_r)^」は,最大でも孤立波の2倍程度の値であり,U_r〜1の\epsilonによる展開の仮定に近い.
図-5から0(\sigma),0(\epsilon^2),0(\epsilon^3),0(\epsilon^4),0(\sigma^2)の式の順で精度がよくなることがわかる.ただし0(\epsilon^2)の式のみが過小評価で他の式では過大評価である.U_r〜1の展開では,0(\epsilon^2),0(\epsilon^3),…と展開を進めても少しずつしかMAC法の結果に漸近しないのに比べ,U_r》1の\sigmaによる展開の方が早く漸近し,有利といえよう.
分散項の誤差が静水圧項の5%に達した時点をその方程式の適用限界とみなせば,表-1に示す数値を得る。
また,実際には分散項の大きさだけでなく,分散項のピークの位置にも方程式による差がみられる.0(\epsilon^2)の式は分散項の位置が波頂に近い方向にずれ,0(\sigma^2)の式では逆に遠い方向にずれている.
さらに,各方程式から評価できる流速・圧力分布をMAC法と比較した結果を図-8に示す.t=40での波頂位置におけるu,pの鉛直分布で示してある.0(\sigma^2)の式での流速分布が最もMAC法の結果に近い.しか
し,MAC法の結果は水表面近くでどの方程式による評価よりも大きな曲率をもっており,ここで誘導した方程式の精度の範囲では水表面近くまで流速分布を正確に表現するのは困難である.圧力分布では0(\sigma^2)と0(\epsilon^4)の式が近い.

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6. 0(\epsilon^2)の式が過大な波高増幅を与える理由
分散効果を取り入れた非線形分散波式の数値計算では,従来,0(\epsilon^2)の式が用いられている.しかし0(\epsilon^2)の式を用いた数値計算では,ソリトン分裂が実験より早く起こり,波高増幅も大きいことがわかっている5)(従来の非線形分散波式はここで導いたような積分された形で表わされていないが,やはりその精度は0(\epsilon^2)である.
ただし,移流項に関しては0(\epsilon^3)の精度をもった形で計算することが多い.
これを説明するために,まず波が水平床の浅海域に乗り上げた直後(t=25)からのソリトン分裂における第1波の成長と分離の機構を考察する。
図-4に示した運動の式の各項により波形変化を考える.少なくとも線形理論の範囲で\etaと\bar{u}は同位相であるので,定性的な議論では運動の式のみから波形変化を考えてもよいと思われる.なお各項の正負は前にも述べたとおり,流量(h+\eta)\bar{u}を大きくするように作用しているときを正にとってある.
t=25(図-4(a))では波頂付近の分散項のゼロ点,すなわち波形曲率の最大点が静水圧項・移流項のゼロ点(波頂)からずれており,時間とともにずれは小さくなることがわかる(図-4(a)〜(d)).これは,斜面通過に伴う波形の前傾によりこの分散項のゼロ点が波頂より前にずれていることを示している.このために分散項は波頂付近で正の値をもち,波高(正確には流量)を大きくするように作用し,波高増幅が起こると考えられる.
次に,波頂の前面と後面での分散項のゼロ点の位置をみると,波形前傾の影響で波頂背後での分散項のゼロ点が前面の分散項のゼロ点に比べて波頂に近い位置にある.また波頂背後の波形曲率が小さいため,波頂背後の分散項のゼロ点より後ろでは分散項はほとんど効かない.図-9にこの様子を示す.いま,局所的な波面の進行速度を考える.静水圧項は波の変形に寄与せず,移流項による波速の増加は水位のみによって決まるので,波頂の前後の水位が同一の点での波速を比べるには分散項の影響のみを考えればよい.図-9のA〜C点間では分散項は波速を遅らせ,C点より前では逆に速めるように作用している.A点より後ろでは分散項はほとんど効いていないので,領域Hでは波の前面よりも波面は速く進行し,逆に領域1では遅く進むことになる.図-10はt=25での静水圧項・移流項・分散項の和と静水圧項の比をとったもので,静水圧項のみなら波速\sqrt{gh}で進行するので,これは\sqrt{gh}を基準にした波速の2乗に対応している.この図から,実際にx=31〜34では波頂前面より波速が速く,x=31以下では遅いことが判断できる.したがって,分散項の位相のずれによって領IIの波面が速く進み第1波が分離することがわかり,領域Iに残された質量が第2波を形成すると考えられる.
結局,ソリトン分裂の原因は波形の前傾であり,波形前傾に伴う分散項の位相のずれによって第1波が成長・分離するといえよう.
したがって,ある非線形分散波式の計算結果の傾向を知るには,ある時刻の波形が与えられたときの,次のステップでの波形変化に直接効くその時刻での分散項の誤差だけでなく,その方程式で計算したときに分散項の位相のずれの大きさがどの程度になるかを考えなければならない.
0(\epsilon^2)の式の分散項は過小評価であった.一方,移流項は0(\epsilon^3)の形を用いることにより精度のよい評価になっているので,0(\epsilon^2)の式を用いると実際よりも波速が速く,前傾が著しい波形になる.そのため分散項の位相のずれが実際よりも大きく評価され,波高が大きく増幅し,分裂の早い結果を与えるものと考えられる.
また,0(\sigma)の式では逆に分散項が過大なので波速は遅れ,前傾化は進まない.したがって0(\sigma)の式を用いた計算では波高増幅が実際より小さくなるものと思われる.
孤立波の斜面上での変形で0(\sigma)の式による計算が実験結果とよく一致する原因は必ずしも明らかではないが,ソリトン分裂が分散項の位相のずれを徐々に解消してゆく過程であるのに対し,斜面上での変形は分散項の位相のずれが時間とともに増大してゆく現象である.したがって分散項が過大でも,位相のずれはやはり時間とともに増大し,水平床での変形のように速やかに位相のずれの効果がなくなるということはない.そこで,位相のずれが実際より小さい分を分散項が過大であることが補って結果的によい一致をみていると考えてよいのであろう.
7.結言
主要な結論を列挙する.
(1)新しい展開法により従来の非線形分散波式より高次近似の方程式を得た.
(2)展開を進めることにより方程式の精度はよくなる.しかし,U_r〜1の仮定のもとでの展開では0(\epsilon^4)程度まででは十分な改善にならず,ここで導いた式の中ではU_r》1の仮定のもとで得た0(\sigma^2)の精度を有する式が,式中の各項の近似でも流速分布の近似でも最もよい結果を与える.ただし,実用に供し得るかどうかは今後の検討が必要である, (3)分散項の誤差が静水圧項の5%に達したときを適用限界として,MAC法による計算結果によって各方程式の適用限界を定めることができた.
(4)著者らが工夫を加えたMAC法により,精度のよいソリトン分裂の数値計算が可能である。
(5)ソリトン分裂は,波形前傾による分散項の位相のずれによって起こる.
(6)Peregrineの式などを用いた計算で実験より波高が大きくなるのは,分散項が過小評価のために波形が実際より前傾化し,分散項の位相のずれが大きくなるからである.
最後に,本研究の一部は文部省科研費(代表:東北大学工学部教授 首藤伸夫)によって行われたことを付記する.
参考文献
1)Peregrine,D.H.:Long waves on a beach,J.Fluid Mech.,Vol.27,part 4,pp.815〜827,1967.
2)Korteweg,D.J.and De Vries,G.:On the change of form of long waves advancing in a rectangular canal and on a new type of long stationary waves,Phil.,Mag.S. 5,Vol.39,No.240,pp.422〜443,1895.
3)Boussinesq,J.:Theorie des ondes et des remous qui se propagent le long d’un canal rectangulaire horizontal,au communiquant an liquide contenue dans ce canal de vitesses sensiblement pareilles de la surface au fond, Liouvilles J.Math.17,pp.55〜108,1872.
4)後藤智明:アーセル数が大きい場合の非線形分散波の方程式,土木学会論文集,第351号,pp.193〜201,1984.
5)Madsen,O.S.and Mei,C.C.:The transformation of a solitary wave over an uneven bottom,J.Fluid Mech., Vol.39,part4,pp.781〜791,1969.
6)長尾昌朋・後藤智明・首藤伸夫:非線形分散波の数値計算,第32回海岸工学講演会論文集,pp.114〜118,1985.
7)藤間功司・後藤智明・首藤伸夫:非線形分散波理論の数値的な検討,第31回海岸工学講演会論文集,pp.93〜97,1984.
8)Nichols,B.D.,Hirt,C.W.and Hotchikiss,R.S.: SOLAVOF:A Solution Algorithm for Transient Fluid Flow with Multiple Free Boundaries,Los Alamos Sci. Labo.Rep.LA-83355,1980.
9)Mei,C.C.and LeMehaute,B.:Note on the equation of long waves over an uneven bottom,J.Geophys. Res.,Vol.71,No.2,PP.393〜400,1966.
10)Street,B.L.,Burges,S.J.and Whitford,P.W.: Dept.Civ.Engng.,Stanford Univ.Tech.Rep.No.93, 1968(たとえば,文献5)中に引用されているものを参照のこと).
(1985.6.28・受付)
【土木学会論文集 第375号II-6 1986年11月】 差分法による津波数値計算の打ち切り誤差 TRUNCATED ERROR OF TSUNAMI NUMERICAL SIMULATION BY THE FINITE DIFFERENCE METHOD 今村文彦*・後藤智明** By Fumihiko IMAMURA and Chiaki GOTO
Abstract
It is well known that truncated error of long wave simulation by the finite difference method appears as the dispersion or dissipation effects and causes numerical damping of wave height.In the present study,the truncated error of tsunami numerical simulation is investigated by using exact and approximate solutions of descretizated equations.As a result of one-dimensional initial value problem,it is clarified that numerical error varies dependently of Fourier spectrum of initial wave profile and resolution \Delta{x}/L and the value K(=\sqrt{gh}\Delta{t}/\Delta{x})are important parameters to estimate trunbated error.
Keywords:tsunami,numerical simulation,trunbated error
1.序言
近年,津波の挙動を予測するのに数値実験的手法がきわめて有効であることが認識されるようになってきた.
実際,適切な初期波形が与えられ十分に細かい差分格子を用いるならば,津波の最大打ち上げ高さを誤差15%以内で再現できるとまでいわれている1),2).しかしながら,この種の計算を経済的にかつ精度よく実施するうえで最も大切であると思われる差分格子寸法の定め方は難しく,もっぱら経験に頼って計算を行っているのも現状である.
このような背景としては,スーパーコンピュータが実用化されることでもわかるように電算機の計算能力の方が数値計算に関するわれわれの技術を上回って発達してきたことがあり,また,計算の安定性を満足する範囲では差分格子が細かいほど精度がよいという収束性に対する絶大なる信頼があることが挙げられる.しかし,電算機が万能視されているといっても限りがあり,大量の計算を経済的に行うことが要求されている今日,数値計算の原点に振り戻って計算誤差に関する検討を再度実施することが必要な時期に来ていると思われる.
そこで本研究では,津波数値計算の主要な誤差として打ち切り誤差を取り上げ,その発生原因および伝播特性について検討を行う.さらに,これらの検討を通し津波数値計算において信頼性の高い結果を得るための条件についても考察する.
ここで行う解析は,一次元伝播問題に関する線形長波計算の初期値問題と等価な差分方程式の厳密解および近似解を新たに求め,本来の微分方程式の解と比較検討するものである.また,代表的な津波波形を初期値にするというように現実問題に関する計算誤差の定量的評価についても行っている.ここで,厳密解とは差分方程式をフーリエ変換することにより導いた解析解を指し,近似解は差分方程式をテーラー級数展開することにより得られた擬似微分方程式から求めたものを意味する.直接差分方程式の解析解を導く方法は数学的には厳密であるが非線形問題への拡張が難しいという欠点がある.一方,擬似微分方程式を用いた方法は近似的なものであるが,物理的なイメージをもちやすく非線形問題への応用が容易であるという長所がある.
ここで取り扱う差分スキームは津波計算によく使用されるリープ・フロッグ法およびその比較としてクランク・ニコルソン法,2ステップ・ラックス・ウェンドロフ法である.リープ・フロッグ法およびクランク・ニコルソン法はそれぞれ陽差分法,陰差分法の違いがあるがともに数値分散性を有するものとして知られている.2ステップ・ラックス・ウェンドロフ法は数値散逸性をもつ代表的な陽差分法である.
本研究の立場を明らかにする意味で数値計算の誤差に関する従来の研究を簡単に説明する.過去の数値計算の研究は計算法自体に関するものが多く,同時にその誤差を詳細に検討しているものは少ない.特に,ここで扱うような発展方程式に関するものはvon Neuman3),Lax4)に代表されるごくわずかなものしかない.しかも,それは計算の安定性と収束性に主眼がおかれたものである.
差分スキームの数値分散性および数値散逸性を検討した例も若干あるが5),6),それらは理想化された一次元移流方程式の定性的な結果を報告するものであり,具体的な問題に関して打ち切り誤差を研究した例は見当たらないといってもよい.その他,ここで取り上げた津波数値計算の誤差に関した研究1),7)もあるが,これらは差分格子間隔を変えた計算を何種類も実施するといった数値実験的手法を用いて行ったものであり,本研究のように理論的に打ち切り誤差を検討したものではない.
*学生会員 工修 東北大学大学院 工学研究科
(〒980 仙台市荒巻字青葉)
**正会員 工博 運輸省港湾技術研究所 水工部
(〒239 横須賀市長瀬3-1-1)
2.離散化誤差(エリアジングの効果)
打ち切り誤差の解析を行う前に連続量を計算格子点上だけで定義した離散量とみなすときに生じる誤差すなわち離散化誤差について説明する.従来の数値計算の誤差解析では常微分方程式に関するものが多く,離散化誤差と打ち切り誤差を同じ意味に用いている場合もあるが8),ここでは発展方程式について検討するため両者を区別して考える.すなわち,微分を差分で代用することにより生ずる打ち切り誤差と無限級数に関する計算を部分和で表わすことに起因する離散化誤差に分けるのである.
離散化誤差の発生は差分計算において表わし得る最小の波長が格子間隔の2倍のものであることからも容易に理解できる.これは,また,フーリエ級数解析におけるエリアジングの効果の問題と考えてもよい.すなわち,有限フーリエ級数展開ではサンプリング間隔(差分計算では格子間隔に相当する〉の2倍を波長とする成分(ナイキスト波数)までしか表現できずこれより大きい波数成分はナイキスト波数より小さい成分に折り重ねられる現象である.この誤差は初期波形だけを論議する範囲では問題とはならないが,その後伝播することにより打ち切り誤差の効果と重なり合って徐々にその影響が現われてくるものと考えるとよい.
エリアジングの効果は以下のように説明することができる9).いま,連続的な波高分布が与えられているものとする.このとき波高\eta(x)は無限フーリエ級数を用いて
(1)
と表わされる.ここで,A_mは複素フーリエ係数である.
また,iは虚数単位\sqrt{-1}を表わす.一方,波高が離散量でありかつ有限個数の場合には次式の有限フーリエ級数で
(2)
と表わされることになる.ここで,Nは計算点の総数,
(3)
である.フーリエ係数A_mとa_mの関係を求めてみると,差分の計算点では\eta(x)=\eta(e)^」のであるので,式(1)を(3)に代入することにより,
(4)
を得る.したがって,有限複素フーリエ係数a_m蹴は同じ波数の無限フーリエ係数A_mとそのナイキスト波数よりも高次成分(lN+m)の総和として表わされることがわかる.これがエリアジングの効果である.エリアジングの効果に関する具体的な論議は打ち切り誤差のところで行う.

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3.差分方程式の解と打ち切り誤差の性質
ここでは,線形長波式を差分法を用いて計算する場合に発生する打ち切り誤差について擬似微分方程式を用いるものおよび差分方程式の厳密解を用いるものの2種類の方法で検討する.
(1)線形長波式の差分形
簡単なため水平床上の一次元伝播問題を考える.このとき線形長波式は
(5)
で表わされる.ここで,\etaは水位,Mは線流量,c_0は線形長波の波速(\sqrt{gh}),hは静水深,gは重力加速度を意味する.
式(5)をリープ・フロッグ法,クランク・ニコルソン法および2ステップ・ラックス・ウェンドロフ法で差分化すると次式のようになる.リープ・フロッグ法では,
(6)
であり,クランク・ニコルソン法では,
(7)
である.2ステップ・ラックス・ウェンドロフ法は本来は2段の計算ステップを踏むことになるが,それをまとめて1段で表わすと,
(8)
となる.以上の差分式において(\Delta{x},\Delta{t}),(j,n)はそれぞれ(x,t)の軸方向の差分格子間隔,格子点番号を意味する.また,図-1にそれぞれの差分法に関して計算点の配置および計算方向を示す.
(2)擬似微分方程式による近似解
まず,リープ・フロッグ差分式の擬似微分方程式を導くことを考える.式(6)の第1項をテーラー級数展開し差分から微分形式に書き換えると,
(9)
となる.ここで,無限回微分が可能であると仮定している.同様にして,この操作を他の項についても行うと,式(6)は
(10)
の形で表わされることになる.この式は擬似微分方程式とよばれ,差分方程式(6)に等価なものである。本来の解くべき線形長波式(5)に比べ,第3項が新たに加わったものとなっており,この項の存在が打ち切り誤差の発生を意味する.したがって,数値計算では線形長波式(5)を解くつもりが実際には打ち切り誤差を含む擬似微分方程式(10)を解いていることになるのである.
次に,この擬似微分方程式の解を導くことを考える.
式(10)は時間に関する高階の微分項が含まれておりこのまま解くことは難しいため,次の線形長波理論からの近似を用いる。すなわち,
(11)
または
(12)
の関係を用いるのである.式(11)と(12)はxの正の方向への進行波を考える場合には一致する.これらの式から時間に関する高階微分を変換し,線流量Mを消去すると式(10)の近似式として
(13)
が求まる.ここで,K==c_0(\Delta{t}/\Delta{x})である.式(13)においても第3項が本来の線形長波式に比べ付加されているものであり打ち切り誤差を表わす.付加された項は高階の偶数回微分からなり,線形Boussinesq式などからの類推で波数分散を意味するものとなっていることがわかる.
式(13)の性質を具体的に調べるため次のような簡単な初期値問題を考える.すなわち,
(14)
なる初期値が与えられた場合である.これは最も簡単な津波の発生・伝播問題に相当している.解としてxの正の方向へ伝播するものを考えると,
(15)
が導かれる.ここで,
(16)
(17)
である.したがって,式(13)の解はフーリエ変換により分解された各波数成分の合成として表わされ,各成分波は波数に関係した位相速度でそれぞれ伝播するといった波数分散現象を呈するものとなる.この波数分散は式(13)の第3項で表わされる打ち切り誤差により発生したもので,式(17)からも明らかなように差分格子間隔に関係する数値的なもので物理的なものと性質を異にしている.
クランク・ニコルソン差分および2ステップ・ラックス・ウェンドロフ差分に関しても同様にして
(18)
および
(19)
なる擬似微分方程式が得られる.式(12)または(13)を用いて近似的ではあるが\etaのみの式にすると,
(20)
および
(21)
が導かれる.両式から,クランク・ニコルソン差分はリープ・フロッグ差分のものと多少異なるが数値分散性を有することがわかり,2ステップ・ラックス・ウェンドロフ差分は高階の奇数階および偶数階微分項を含むため数値散逸性および数値分散性をともにもつものとなっていることが理解できる.
式(20)および(21)の初期値問題(14)の解はxの正の方向への進行波成分のみを考えるなら,
(22)
および
(23)
で与えられる.ここで,
(24)
(25)
(26)
である.
(3)差分方程式の厳密解
まず始めに,リープ・フロッグ差分式のフーリエ級数展開による厳密解法について述べる.
水位\eta,線流量Mの差分解は格子点上だけで定義されている有限かつ離散的なもめである.したがって,そのフーリエ級数展開としては
(27)
を考えればよい.ここで,\bar{\eta_m},\bar{M_m}は有限フーリエ係数であり,時間だけの関数である.また,Nは格子点数を意味する.式(27)を差分方程式(6)に代入し整理すると,
(28)
が導かれる。したがって,任意の一成分だけを考え,\bar{M_m}を両式から消去することにより
(29)
なる常差分方程式を得ることができる.この常差分方程式の初期値問題(14)の解はxの正の方向への進行波成分のみを考えるならば
(30)
で与えられる.したがって,差分方程式(6)の解としては式(30)の総和をとる形で
(31)
となる.ここで,
(32)
(33)
(34)
である.以上の解法は展開の途中にいっさいの近似を用いない厳密なものである.式(34)で表わされる波速は擬似微分方程式の解(17)と多少異なったものとなるが,やはり波数によって変化する分散現象を意味するものである.
次に,クランク・ニコルソン差分および2ステップ・ラックス・ウェンドロフ差分に関しても同様の厳密解を導いてみる.この場合も同様にして,
(35)
および
(36)
が成分波の常差分方程式となる.ここで,
(37)
である。したがって,各差分法の解は,それぞれ
(38)
および
(39)
で与えられる.ここで,
(40)
(41)
(42)
である.
(4)打ち切り誤差の性質
まず始めに,ここで導いた差分方程式の解が数値計算結果を説明し得るものかどうかを考察する.図-2は波高水深比0.1の弧立波(第1次近似)を初期値にして数値計算結果,線形長波式の理論解,差分方程式の厳密解および擬似微分方程式による近似解を比較した一例である.理論解,厳密解,近似解は離散化誤差が同じになるようにして高速フーリエ変換を用いて計算している.左側の図は1波長(静水面上の体積が95%含まれる区間長で定義している)を25分割する差分格子を用いて4波長伝播させた結果であり,右側の図は50分割で8波長伝播させたものである.Kの値は両者ともに0.5である.図から,理論解は弧立波形を保ったまま伝播するが,数値解は波数分散および散逸のため波高が減衰するとともにさざ波が主峰の後端に起こることがわかる.また,差分方程式の厳密解および近似解はともに数値解とよく一致し,数値計算結果は本研究で示した方法で精度よく評価できることも理解される.
次に,打ち切り誤差の性質に関する考察を行う.ともに離散化誤差のところで説明したように数値計算の誤差は打ち切り誤差のみならず離散化誤差との兼ね合いも考慮する必要があり,ここでは両者と同時に説明する.数値計算の誤差にはこのほかに電算機の有限桁性に起因する丸め誤差があるが,付録Aに示すようにその大きさは8桁浮動小数点計算で10^-4%程度の誤差であり打ち切り誤差,離散化誤差に比べ無視できるくらい小さい.図-3は波高水深比0.02の弧立波を初期値としたときの離散化誤差と打ち切り誤差を説明したものである.上段の図は初期波形のフーリエスペクトルを意味し,分割数Nを変化させた場合のエリアジングの効果(離散化誤差)を調べたものである.この図から,1波長当たりの分割数Nに応じてモードm=N/2に相当するナイキスト波数まででフーリエスペクトルが打ち切られるため,それより高波数(高モード)成分は低波数側に折り重ねられている様子がよくわかる.片対数図で描かれているためわかりずらいが各分割数のフーリエスペクトルの積分値は当然一致している.下段の図はリープ・フロッグ差分の打ち切り誤差である数値分散性を上段のフーリエスペクトル図に合わせて描いたものである.3種類のKの値に関して厳密解である式(34)で計算している.この図から,リープ・フロッグ差分の数値分散性はKの値で多少異なるもののナイキスト波数でその効果が最も大きくなり,ナイキスト波数近傍の成分が打ち切り誤差の影響を大きく受けることがわかる.したがって,ナイキスト波数近傍の成分は離散化誤差,打ち切り誤差がともに大きくなることが予想され,数値計算で再現すべきフーリエ成分とナイキスト波数との間の差が十分とれる差分格子を採用する必要があることが理解できる.
リープ・フロッグ差分に関してKの違いによる数値分散性の差を調べたものが図-4である.式(34)から数値計算結果の波速はKとk_m\Delta{x}に関係することがわかっており,横軸にはk_m\Delta{x}に相当する1波長当たりの分割数の逆\Delta{x}/Lを用い,内部パラメーターとしてKを使っている.ナイキスト波数は\Delta{x}/L=0.5に相当する.K=1がリープ・フロッグ差分法の弱安定条件5)の限界でありc/c_0=1となる理想的な差分格子の組合せの条件であるが,実際は任意形状の海底地形に関する計算が普通であり安定条件が最大水深で規定されるためKの値が1以下になる.したがって,計算の安定条
件を満たす範囲でKの値を大きく採ることが打ち切り誤差を小さくするひとつの条件である.
図-5はリープ・フロッグ差分に関して厳密解と近似解を比較したものである.K=0.5の場合である.数値分散性に関して近似解の方が多少小さめなものとなるが両者の差は小さく,近似解を用いても数値計算結果を十分な精度で評価できることがわかる.また,図には近似解の第1項(式(17)の総和をとる項でm=1のみのもの)に関しても描いてあるが,これだけでも非常によい近似になることがわかる.したがって,非線形問題の誤差解析を考える場合には擬似微分方程式による近似解法が有力な手段となることが想像される.図中に,0(\Delta{x}^4)の差分として示されているのは擬似微分方程式における0(\Delta{x}^3)の項を打ち消すように人為的な項を差分式に加えた場合のものを意味する.この場合,差分式は
(43)
となる.ここで,
(44)
である.波速は
(45)
(46)
で表わされる.通常の0(\Delta{x}^2)の差分より精度がよくなることが期待されるが,高波数成分の波速が線形長波理論のものより速くなるため主峰の前面にさざ波が起こるという不都合が生じ,あまり利点のあるものとはならないことが予想される.
図-6は物理的な分散性を有する微小振幅波理論の波速とリープ・フロッグ差分のものを比較した結果である.微小振幅波理論の方が線形長波理論に比べ精度が高いものであるので,多少分散性を有した方が現実の現象に近いという考え方もあるが,図から判断すると物理的な分散と数値的な分散がほぼ同じ振る舞いを示すのは非常に長周期の波に関する計算で差分格子を水深の2倍程度にできる場合に限られるようである.したがって,遠地津波を扱う場合には差分格子間隔を適当に選ぶことにより線形長波理論を用いた計算で物理的な分散効果を考慮したものに近い結果を得ることができる可能性がある.
図-7はクランク・ニコルソン差分,2ステップ・ラックス・ウェンドロフ差分の数値分散性をリープ・フロッグ差分のものと比較したものである.リープ・フロッグ差分に比べ他のものの分散効果が大きいことを示している.これは,式(6)から(8)に示したように連立の差分方程式を解く方法になっているので見通しが悪いが,線流量Mを消去し水位\etaだけの差分方程式にすると1時間ステップ計算するのに必要な空間ステップ数はリープ・フロッグ差分に比べ他の差分が2倍となっていることに起因している.どちらにせよリープ・フロッグ差分の方が約半分の分割数で同程度の精度を得ることになる.
2ステップ・ラックス・ウェンドロフ差分は数値分散性のほかに数値散逸性の効果も有しており,この数値散逸性について調べた結果が図-8である.図の縦軸は1時間ステップ当たりの減衰率に相当するe^-rを採っている.2ステップ・ラックス・ウェンドロフ差分の数値分散性はクランク・ニコルソン差分のものとさほど違わないが数値散逸性の効果により図-2に示した波形のように主峰後端に現われるさざ波の波高が小さくなるのである.

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4.所要の精度を得る条件
前節までの検討により差分法を用いた津波数値計算の打ち切り誤差を定量的に評価する方法が示された.打ち切り誤差は数値分散性または数値散逸性の効果として説明され,ともに波高を減衰するように働くことが明らかにされた.その大きさはフーリエ成分波の波数および差分格子間隔に関係し,また,伝播距離にも比例することが同時に示された.これらの解析は一次元伝播問題について検討されたものであるが,その主要な結果は現実の問題である二次元伝播問題に関しても使用可能なものである.なぜなら,付録Bに二次元伝播問題の打ち切り誤差を調べた結果の一例を示してあるが,その結論から座標軸方向へ伝播する成分の誤差が最も大きくなり,しかもその値は一次元伝播問題の結果に一致することが導けるからである.
ここでは,以上の打ち切り誤差の評価法を利用して,逆に,津波数値計算で所要の精度を得るための差分格子間隔に関する条件について考察する.
代表的な津波波形として選んだものは1964年アラスカ地震津波と1896年明治三陸大津波の一次元波形である.図-9に津波初期波形とそのパワースペクトルを示す.アラスカ津波は陸地近くで発生したもので,陸上部の地盤変化は測量により詳細に求められ海側の部分はそれから推定されて決められたものであり10),この種の津波波源としては精度の高いものと考えてよい.明治三陸大津波は相田11)のモデルを用いている.両者のパワースペクトル形状が大きく異なっているのは,アラスカ津波が主断層と副断層の2重のものが原因となっているのに比べ明治三陸大津波の方はMansinha-Smylie12)の方法で計算された主断層一面で推定されているからである.
したがって,ここでは複雑な津波初期波形と簡単な場合の2種類のケースを取り扱っていることになる.設定した水深は4000mである.
図-10はこの2種類の津波に関して数値計算結果と線形長波式の理論解,リープ・フロッグ差分方程式の厳密解を比較したものである.図の横軸は初期波形の主峰の位置を原点としたときの伝播距離を表わす.アラスカ津波は高波数成分を多く含むため打ち切り誤差の効果である分散性が強く現われた結果となる.その結果,主峰の波高減衰量も著しい.明治三陸大津波は数値計算結果と理論解の差はほとんどみられず,打ち切り誤差の影響が少ない.また,差分方程式の厳密解は主峰背後に発生したさざ波の部分まで数値計算結果と一致し,非常に複雑な初期波形の場合についても本研究で提示した方法で打ち切り誤差の評価ができることがわかる.
以上のような比較から,2種類の代表的な津波数値計算において所要の精度を得るための差分格子間隔の条件を求めた結果が図-11である.図-11は1波長伝播後の波高減衰量に関して
(誤差)=[(理論解)-(数値解)]/(理論解)×100 (47)
で定義した誤差である.Kの値は0.5と0.9の2種類のケースに関して示されている.図の横軸は各津波初期波形の差分分割数である.この図から,平均的なKの値が0.9の場合に誤差を10%以内にする条件が,アラスカ津波で150分割,明治三陸大津波で15分割と求め
ることができる.
1波長以上伝播したときの誤差評価に関しても同種の関係を容易に得ることができるが,1波長程度伝播すると高波数成分は遅れそれ以後の波高減衰が大きくなることは考えにくい.また,本研究で主として対象としているのは日本近海で発生する津波であり,この場合は1波長程度で日本沿岸に到達するので伝播距離としてそれ以上を考える必要はない.ここでアラスカ津波を取り上げたのは,初期波形の精度がよいことそしてその形状が複雑であるという理由による.
5.結言
本研究では,線形長波式を用いた津波数値計算の打ち切り誤差を定量的に評価する方法として差分方程式の厳密解を利用するものおよび擬似微分方程式を導きその近似解を求める方法の2種類を提示した.さらに,代表的な津波としてアラスカ津波および三陸大津波を選び津波数値計算で所要の精度を得るための差分格子間隔に関する条件を明らかにした.
差分格子間隔に関して従来の研究では1波長当たり20〜40分割といわれてきたが,実際は初期波形のスペクトル形状で大きく異なり,高波数成分を多く含むものは100分割以上細かくする必要があることが明らかとなった.
また,本研究で行った打ち切り誤差の解析法は基本的な誤差評価法として津波数値計算以外の発展方程式の計算や有限要素法を用いた計算にも原理的には使用できるものであることを付記しておく.さらに,差分方程式の厳密解を利用する方法は線形問題以外には適用が難しいが,擬似微分方程式による近似解法は,数値計算で発生する誤差を数値計算で評価するといった手法を用いることにより非線形問題へも拡張できるものである.
謝辞
本研究を遂行するにあたり東北大学工学部土木工学科 首藤伸夫教授にはご指導・ご助言を賜った.
また,東北水工研究会諸先生方(幹事:日本大学工学部高橋迪夫・長林久夫講師〉には熱心な討議をいただいた.
ここに記して謝意を表する.
付録A 丸め誤差の大きさ
差分法による津波数値計算の丸め誤差の大きさについて数値実験的手法を用いて調べた結果を報告する.従来の丸め誤差に関する研究8)では打ち切り誤差について本研究で提示したような決定論的な取り扱いはなされておらず確率論的な色彩が強いものであった.これは,与える初期値によって計算の出発点における丸め誤差の分布が変化するため普遍的な丸め誤差の初期値が与えられないという難しさがあったためである.
ここで行うものは数値実験的なもので,計算に利用する桁数を固定する比較的簡便な方法である.現在の電算機の計算処理法としては浮動小数点法が用いられており,正負によって桁数が若干異なるのが普通であるが,ここでは使用桁数を固定する最も単純な方法で調べている.
図-9は波高水深比0.1の弧立波を初期値にしてリープ・フロッグ差分法で計算したものの丸め誤差について示したものである.正解値として4倍精度(35〜36桁)計算の結果を採用し,5桁から16桁計算の波高に関する差を式(47)の形で計算したものである.横軸は計算の時閲ステップ数を表わしている.500ステップが1波長伝播する時間に相当している.通常の単精度(7〜8桁)計算では10^-3〜10^-4程度の誤差となり,本文で述べた打ち切り誤差の大きさ10^1〜10^-1%から判断すると丸め誤差は小さくあまり問題とはならないことがわかる.
図には示していないが倍精度(15〜16桁)計算における丸め誤差の大きさは10^-15%程度の大きさである.
以上の結果は36ビット電算機(東北大学大計センターACOS1000)で計算したものである.他の汎用電算機は32ビットのものが多く,この場合丸め誤差が多少大きくなることも考えられる.
付録B 二次元伝播問題の打ち切り誤差
ここでは,二次元伝播問題に関するリープ・フロッグ差分の打ち切り誤差について若干の検討を試みる.解析法としては擬似微分方程式を用いた近似的なものとする.
最も簡単なものとして空間方向の差分格子間隔が等しい場合を考えると,擬似微分方程式は
(B・1)
となる.この式は一次元伝播問題では式(13)に相当する.ただし,式(B・1)の第3項で表わされる打ち切り誤差は第1次近似である.
式(B・1)から,リープ・フロッグ差分は一次元伝播問題と同様に数値分散性を有しており,成分波の波速{c_1}^」
(B・2)
で表わされることがわかる.ここに,んk_x,k_yはx,y各方向の波数であり,k^2=k_x^2+k_y^2である.式(B・2)から明らかなように,k_xまたはk_yが零の場合,数値分散が最も大きくなり,しかもその大きさは一次元伝播の結果と一致している.したがって,打ち切り誤差の評価としては二次元伝播問題による結果よりも一次元伝播結果を用いた方がより厳しいものになっているということができる.

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12)Mansinha,L.and Smylie,D.:The displacement field of inclined faults,Bull.Seismol.Soc.Amers.,Vol.61, p.1433,1971.
(1986.4.16・受付)
【土木学会論文集第 393号II-9 1988年5月】 津波予警報に対する数値シミュレーションの利用 USE OF NUMERICAL SIMULATION AS A MEANS OF TSUNAMI WARNING 首藤伸夫*・後藤智明**・今村文彦*** By Nobuo SHUTO,Chiaki GOTO and Fumihiko IMAMURA
Abstract
Possibility of quantitative forecasting of local tsunamis sufficiently before their arrivals,by use of a super computer,is examined.Provided that the initial tsunami profile can be determined within a few minutes after an earthqake by Such a metohd as proposed by Izutani and Hirasawa,the tsunami numerical simulation based upon the linear long wave theory can be finished with in two minutes and give practically accurate tsunami heights at every 200m along the castline of the Sanriku district extending from 41°30」N. to 36°20」N.
Keywords:tsunami warning,numerical simulation
1.はじめに
津波常襲地帯の1つである三陸沿岸を対象として,近海で発生した津波を数値計算し,沿岸各地の津波の高さを襲来前に量的に予報することの実現性を,予報精度と予報速度の関連において考察する.
三陸沿岸は有史以来,幾度となく津波による災害を体験している.近年では,明治29年(1896)と昭和8年(1933)に起こった三陸大津波が大きく,この2度の津波による犠牲者は30000余名を数える。
近年,沿岸各地に防潮堤や湾口防波堤など津波防災を目的とした施設が数多く建設されてきている。しかし,これらの施設は発生確率の高い中規模程度の津波を対象としているものであり,大津波を考えたものは数少ない.
巨大津波対策としては防災施設,防災地域計画,防災体制を含めた総合的な対策が取り上げられるようになりつつある.なかでも,津波予報は防災体制の重要な要素であり,正確で適切な予報ができ伝達手段が完備されているならば,人的損害の相当数を軽減できるものと期待されている.
現在,気象庁が津波の予警報を担当しているが,その根拠は震央距離,地震波の全振幅と津波の大きさとの間の統計的な資料である.日本沿岸を18海域に分類し予警報を発せられることとなっており,比較的広い範囲に関する平均的な情報を与えるものであるということができる.
津波予報が地元住民によって一応信頼されていることは事実であるが,その内情は必ずしも簡単ではない.避難などの最終的な判断は現地の責任者が下すのであるが,「現在の予報文ではいかに行動すべきか迷うことが多い.」,「頻繁に警報が出され,しかもこれまではたいした津波でなかったことが多いので,警戒心が緩みがちである.」といった反応が増えつつある.また,住民の一部には警報発令とともに避難とは逆に海岸へ見物に出かける者が増加している.この原因の1つに,ある程度の津波防災施設が完成し,安心感を与えていることが挙げられる.したがって,このままで推移すると,またしても多数の人的被害が生ずる可能性がある.これを防ぐためには,沿岸各地先での具体的な津波高さを伝えることが効果的な方法の1つであろう.これは津波数値予報で可能となる.
津波数値予報として本論文で提案するのは次のような方法である.すなわち,地震発生とともに地震波の情報から推定される断層モデルを用いて津波初期波形を与え,それに基づいて津波数値計算を実施し,予報に供するものである.この際,問題となるのは,1.津波初期波形の迅速な推定方法と,2.数値計算の高精度化・高速度化の2つである.前者に関しては,Kanamori・Given1)および泉谷・平澤2)〜5)の研究例がある.精度など今後の研究を待たなければならない事項が残されているものの,従来,余震域などから決められていた断層の寸法を,比較的容易にかつ短時間で決定することができる手法が確立されつつある.本研究で焦点を当てるのは後者である.特に,数値計算の精度と演算速度に関して詳細な検討を実施し,津波の予報を対象とした最適な数値計算法について考察する.
本論文の内容を簡単に述べると以下のとおりである.
まず,泉谷・平澤の津波初期波形の即時的推定法を前提とした津波の数値予報システムを提案する.次に,提案したシステムに用いる津波数値計算法の精度および演算速度についての詳細な検討を明治29年(1896)三陸大津波を例として実施する.最後に,1968年十勝沖地震津波を例として,泉谷・平澤の手法で決定された初期波形を使用し,津波数値計算を実施し,痕跡値と比較することによって,津波数値予報システムの実用性を検討する.この最後の検討は,現段階で使用できる手法の総合的な精度の検討であるといってよい.誤差は初期波形推定時にすでに生じており,それに続く津波計算でも発生するものである。これらすべてを含め,実用に耐える結果が得られるか否かの検討を行うものである.
なお,本研究は泉谷・平澤との合同研究の結果の一部である.著者らは津波の数値計算を担当した.津波の初期水位すなわち地震断層のパラメーターの推定方法の詳細は泉谷・平澤の研究成果2)剰を参照されたい.
*正会員 工博 東北大学教授 工学部土木工学科
(〒980仙台市荒巻字青葉)
**正会員 工博 運輸省港湾技術研究所海洋水理部
(〒239 横須賀市長瀬3-1-1>
***学生会員 工修 東北大学大学院工学研究科
(〒980 仙台市荒巻字青葉〉
2.対象海域と津波数値予報の方法
本研究で提案する津波数値予報システムの流れを図-1に示す.図-2は泉谷・平澤の即時的断層パラメーターの推定法に関するフローチャートである.断層パラメーターのうち断層の長さと破壊進行方向に関しては各観測点の記録から求めた強振動継続時間を用い,断層幅とすべり量は過去の地震から定めた経験式から,そして傾斜角およびすべり角はP波の初動から推定するのである.
津波初期波形はこのように定められた断層パラメーターを用いてMansinha-Smylie6)の方法で計算される.津波初期波形が定まると各沿岸での津波の水位は長波理論による数値計算により求められる.
三陸沿岸の津波の数値予報を目的とした数値計算法の一例を以下に示す.対象とした海域は,図-3に示す北海道根室半島沖から宮城県沿岸部までの北緯36°20」から43°00」,東経139°40」から145°20」までの範囲である.
この領域をAからDまでの4段階に分け,深海域では計算格子間隔を5.4km(1領域)とし,浅海域はしだいに格子を細かくし,1.8km(4領域),0.6km(5領域〉とし,最終的に0.2km(22領域)まで細分化している.
図中のA,B,Cはそれぞれ5.4km,1.8km,0.6kmの各領域を表わし,D領域は0.2kmを採用した22か所を示す.また,図には羽鳥7)により推定された歴史津波の波源域も同時に示している.
計算の支配方程式は線形長波理論
(1)
ここに,
x,y:空間座標, t:時間座標
\eta:津波の水位, h:静水深
M,N:x,y方向の線流量
g:重力加速度
であり,計算法としてはリープフロッグ差分法8)を用いている.また,計算の迅速性を考え津波の陸上遡上,構造物の効果を一切考えていない.さらに,津波以外の波は考慮しておらず,津波来襲時の天文潮位はT.P.Omとしている.以上のように,この計算法は,深海域から浅海域まで連続的に計算する方法が採用されている点を除くと数値予報を考えた新たな技巧などを考慮したものでもなく,また従来のものに比べ演算速度は速いものの若干精度が劣るものとなっているということができる.
したがって,津波の数値予報の精度を前提として計算の支配方程式,格子間隔,境界条件の設定法など個々の問題点を吟味する必要があり,以下に詳細な検討を行う.
3、数値計算の精度と演算速度に関する検討
ここでは,2.で提案した計算法の支配方程式,格子間隔,境界条件に関する精度について,詳細な検討を行う.また,津波の数値予報では演算時間の高速化も重要な課題であり,両者の兼ね合いに関しても考察する.
なお,数値計算法の検定に用いた津波としては,比較的大規模なものとして1896年に発生した明治三陸大津波を選んでいる.ただし,初期波形には検潮記録と計算結果の比較から試行錯誤により求めた相田9)のモデルを用いている.当時は即時的に断層パラメーターを推定するための地震波データが完備されていなく,泉谷・平澤の方法を適用することができないからである.
(1)計算の支配方程式
前節では支配方程式として線形長波理論の採用を提案した.浅海では誤差が増えると予想されるので,簡単な一次元伝播問題を取り上げ,高次近似項である非線形項,分散項の重要性について以下に検討を行う.
図-4は500m以深の海域に関して線形長波理論と非線形項を考慮した浅水理論,さらに分散項を考えたPeregrineの式10)を用いた計算結果を比較したものの一例である.この計算結果は図-3に示した断面a-a^」に関するもので,津波発生後から100s間隔の津波波形を表わす.また,線形長波理論と浅水理論の計算にはリープフロッグ法,Peregrire式の計算には陰差分法が用いられており,計算格子間隔は計算誤差を小さく抑えるために津波の波長に比べ十分細かい1.35kmを採用している.図から,深海部の津波計算では線形長波理論計算と浅水理論計算の差は全く現われず,非線形項は無視できることがわかる.また,Peregrine式を用いたものは,分散項の効果が主峰の減衰や分散波列の発生となって現われ,多少の差がみられる.しかし,その差は小さく,やはり無視可能であることがわかる.
同様の計算を500m以浅の浅海域に適用したものが図-5である.計算格子間隔としては0.2kmを採用している.図から,浅水理論による計算結果には線形長波理論に比べ波速の差による波形の違いが若干みられるものの無視できる程度であること,Peregrine式を用いたものは深海域の場合に比べ分散効果が大きく現われたものとなることなどがわかる.
図-6は以上の計算結果を最大水位に関して比較したものである.図は,当初3.2m程度の水位であった津波が左右に分かれ減衰することにより1.2m程度の水位となり,その後浅水変形のため増幅している様子を示す.この図からも線形長波理論と浅水理論計算の差は小さいこどおよびPeregrineの式を用いた計算は分散性のため最大水位が低くなることがわかる.なお伝播距離よる計算の方が幾分小さめな値となっているのは,移流項の計算精度が他の項に比べ低く,移流項の打ち切り誤差に起因する数値散逸性が起こるためである.また,演算時間の比較を表-1に示しているが,線形長波理論による計算に比べ浅水理論が1.6倍,Peregrineの式が17倍も必要であることがわかる.以上のことから,高速度の計算が要求される津波の数値予報には線形長波理論を用いることが適切であると判断できよう.
(2)計算格子間隔
a)深海部
ここでは深海部における二次元伝播計算を行い,計算格子間隔の違いによる計算結果の差および演算時間の差について検討する.計算の支配方程式は前節の結果から線形長波理論を用い,従来の三陸沿岸の津波の計算には普通5km程度の計算格子を用いている例が多いことから格子間隔として2.7km,5.4kmおよび10.8kmの3種類を比較の対象として選んでいる.
図-7に格子間隔2.7kmの計算結果の一例を示す。
図は津波発生後から6分ごとの三陸沿岸へ向かう津波の様子を描いたものである.図は鉛直方向に拡大され描かれているので注意が必要である.初期津波の最大水位は4.0m,短軸の水平距離は約50kmである.
図-8は計算格子の異なる3種類の水位の経時変化に関する比較を行ったものである.出力地点は浅海部計算への接続を考慮して水深1000mの等深線上に6点を選んでいる.図中の数字は格子間隔2.7kmの場合の最高水位および最低水位を表わす.各地点いずれも引き波で始まり津波発生後10分から15分後に最大水位を生じている.主峰の水位は計算格子間隔が細かいほど大きく,主峰背後の分散波列の周期も短いことがわかる.これは,数値計算の打ち切り誤差によるもので,ここで採用したリープフロッグ法は数値的な分散性をもち格子悶隔に比例してこの効果が大きくなるためである.
表-2は演算時間および図-8に示した水深1000mでの6地点の最大水位を比較したものである.いずれも格子間隔5.4kmの計算結果を基準とした比率で表わしている.この表から,格子間隔5.4kmの水位に関する結果は2.7kmのものに比べ若干小さくなるものの大差はなく,しかも演算時間が約1/7になることがわかる.
格子間隔10.8kmは演算時間に関しては格子間隔2.7kmに比べ約1/50程度となるが津波の最大水位の減衰が大きい.したがって,計算の精度および演算速度を考えると深海部の津波計算は先に提案した計算格子間隔5.4km程度が適しているものと結論してよい.
b)浅海部
津波計算は2.で説明したように深海部から浅海部まで連続的に実施きれる.しかし,浅くなるにつれ,誤差は深海の場合と異なった様相を示す.ここでは浅海域の結果について,計算格子問隔の差の効果について検討する.計算領域はAからDまでの4段階に分かれている.
深海部として取り扱ってもよいAからCまでの格子間隔をそれぞれ5.4km,1.8km,0.6kmに固定し,沿岸域のD領域のそれを0.2km,0.3kmおよび0.6kmの3種類に変化させ,計算精度や演算時間の差を比較する.
図-9は格子間隔の違いによる海岸線形状および計算結果の差を比較したものである.格子間隔0.2kmのものについては,領域分割および水深分布を同時に示している.図の左側部分をみると,格子間隔0.2km,0.3kmの場合は海岸線が比較的滑らかに近似されているが0.6kmでは格子が粗く階差状の形状となることがわかる.したがって,粗い格子間隔を用いると計算の打ち切り誤差のみならず海岸からの反射の誤差も大きくなることが予想される.図の右側部分は最大水位に関する格子間隔0.2kmの計算結果と痕跡記録11),12)および格子間隔0.2kmを基準とした0.3km,0.6kmの計算結果の比較を行ったものである.ただし,痕跡値には同地点であっても観測者の違いにより差があるものもあり,このようなものに関しては最大値と最小値を結んだ線分で表わし,痕跡値が1つしかない場合は白丸印を用いている.
格子間隔0.2kmの計算結果と痕跡値を比較すると,宮古以北では計算結果の方が若干小さく,宮古以南では大きくなる傾向がみられるが,平均的にはよく一致しているといえる.格子間隔0.2kmの計算結果に比べ,0.3kmおよび0.6kmのものは高水位出現地点で小さく,他の地点で大きくなる傾向がみられる.これは,先に述べた境界近似の精度の違いのほかに,津波水位が格子が代表する四辺形内の平均的な高さとして計算されることが影響している.格子間隔が粗くなると局所的な水位の高まりの表現の精度が悪くなるからである.
以上のように最大水位は計算格子間隔が粗いほど小さめな値となり,津波数値予報の精度を向上するには十分細かい格子間隔を採用する必要があることがわかる.しかし,格子間隔を細かくすると計算量が増加し,予報に間に合わなくなるおそれがある.表-3に示したように格子間隔を半分にすると演算時間は約12倍となることから判断し,現状では0.2km格子を用いるのが適切であると考えられる.これなら,後述するように全計算を所要時間以内に終了することが可能である.
(3)陸上遡上および構造物の効果
前節までの検討には陸上遡上や防波堤・防潮堤といった構造物の影響は考慮されていなかった.ここでは,これらを取り入れた詳細な数値計算を行い,それとの比較により,2.で提案した計算を沿岸で\Delta{x}=0.2kmとして実施することが津波数値予報として十分な精度を有するものであるか否かの検討を行う.
対象としたのは三陸沿岸のほぼ中央に位置する宮古湾である.計算の支配方程式には浅水理論を用い,格子間隔は0.05kmとし,陸上遡上,構造物を考慮した場合と考慮しない場合の2種類の計算を行った.これらの計算は計算機の記憶容量の関係で,外海計算と近海計算に分けて実施した.外海計算は本研究で提案した計算と同じものであり,宮古湾外の水深100mの所で近海計算のための境界入力値を出力し近海計算に結び付けている.なお,宮古湾内の構造物は昭和55年当時のものであり,津波来襲時の天文潮位をT.P.Omとしている.
また,遡上計算の境界条件の与え方としては岩崎ら13)の方法を用いている.
図-10は宮古湾の水深分布と水位の経時変化である.
0.05km格子の計算結果,および陸上遡上を全く許さず,防波堤なしとした0.2km格子の場合の結果をも併せて示している.図から,陸上遡上,構造物の有無は水位の経時変化に差を生じさせるが,最大水位に関しては差が小さいことがわかる.また,格子間隔0.2kmの結果は構造物の効果を考慮していない0.05kmの結果と比較的近いものとなっている.したがって,前節では0.2kmより細かい計算を検討していなかったが,0.2km程度の格子でも津波数値予報としては十分な精度の結果を得ることができるといえよう.
図-11は津波発生後40分の水位および流速分布に対する陸上遡上,構造物の影響を比較したものである.宮古湾中央部付近までのびている防波堤の前面および背後に渦を形成していること,防波堤,防潮堤の効果により津波の浸水が抑えられ陸上遡上域がかなり小さくなることなどがわかる.陸上遡上を考慮しているものは閉井川周辺,その河口部周辺の宮古港各埠頭近傍,津軽石川地区など遡上周辺部においてかなり流速分布の異なる結果となるが,遡上域を離れるとその差は大きくない.しかも,水位分布には遡上域周辺においても顕著な差がみられない.したがって,陸上遡上,構造物の効果は津波の流況を大きく変え,氾濫面積に大きな差をもたらすが,水位に関してはそれほど大きな影響を及ぼさないということができる.
以上のことから最大水位を対象とする津波数値予報では,陸上遡上,構造物の効果を考慮する必要がないとしてよい.また,格子間隔0.05kmと0.2kmの差も小さく,津波数値予報には2.で提案した計算法で十分な精度が得られるものと期待される.
4.数値予報例
(1)予報計算例
泉谷・平澤は彼らの提案した即時的推定法を用いて1968年十勝沖地震の断層パラメーターの計算を行っている.表-4にその結果およびKanamori1)が推定した結果を示す.断層の長さが多少異なるものの両者の推定値は比較的近い.しかし,余震域など確実な資料を使用したKanamoriの値と差があることは無視できない.津波予報の立場からすると,初期条件にすでに誤差が存在し,そのため最終結果が信頼できないものとなる可能性がある.ここでは,こうした誤差を含んでいる泉谷・平澤の手法による断層パラメーターを初期値として採用し,2.,3.で検討した津波計算手法と組み合わせた場合,最終結果がはたして実用に耐え得る精度を有するか否かを検討する.
図-12に最大水位に関する予報計算の結果の一例を示す.図は三陸海岸中央の田老から綾里湾に関するもので,左側が計算の領域分割と津波の最大水位分布,右側が沿岸に沿った最大水位である.また,図には痕跡記録14)が同時に比較され,痕跡値は最大値と最小値を結ぶ線分で表わされている.計算結果と痕跡値は計算結果の方が多少小さめであるが比較的良好な一致を示している。
この予報計算の精度は相田15)の指標
logK=(1/n) (K^」=[痕跡高]/[計算高])
n:データ個数
を用いるとK=1.37,x=1.67となり,Kanamoriの推定値を用いたAida16)の結果K=1.31,x=1.37より若干劣るものとなっている.ただし,Aidaは6地点の痕跡記録との比較であるが,ここでは84地点を用いており,比較地点数が多いことを考えると,相田の結果と大差ないものが得られていると判断してよい.陸上遡上まで考慮し,しかも海底地盤変動を痕跡によく合うように修正しながら行う津波計算においてもK=0.8〜1.2の範囲の結果であることを考えると,K=1.37という結果は現在の津波計算の水準からして実用に供し得るものだと考えてよい.
(2) 予報速度に関する考察
この節では津波の数値予報を実現させるためのもう1つの問題すなわち予報速度に関する考察を行う.津波の数値予報は即時的断層パラメーターの推定と津波の数値計算の2種類の作業に分類できる.即時的断層パラメーター決定は本論文の目的ではないが,現実に東北大学理学部地震予知センターで実施した一例を表ー5に示す.
ただし,使用している計算機は汎用機以下の能力のものであり,高速機(スーパーコンピューター)を考えると予報速度はさらに向上され,約1/10程度以下となることが期待される.
十勝沖地震津波の数値計算に要した演算時間は表ー6のとおりである.計算機としては汎用機(ACOS1000)と高速機(SX−1)の2種類に関して比較している.汎用機が仮想記憶法すなわちCPUと外部記憶装置との入出力を介して計算するのに比べ,高速機はベクトル演算機能に優れ,全データをCPU展開し計算するものであるため入出力に使われるロスタイムがない.津波発生後から90分間の計算に要した時間は汎用機が27分,高速機が1分程度である.
以上のことから高速機を用いるとの条件で,三陸沖の津波の数値予報に必要な時間を推定したものが図ー13である.震央に一番近い観測点までの距離を200kmとするとP波走時は約33秒,S波走時は約55秒であり,震源決定に用いる観測点のうち最も遠いものまでの距離を400kmとするとP波が約60秒,S波が約100秒で到達する.また,断層の長さを200km程度と想定すれば,破壊継続時間は100秒程度である.したがって,地震波の読取りに3〜4分程度が必要となる.その後,データの処理が開始され,断層パラメーターが計算されるまでに5分半程度が必要となる.そして,津波の数値計算が行われ,これに必要な時間は多く見積もっても,1.5分程度である.このような作業のすべてが円滑に行われたものとすると,発震後7分で津波の数値計算まで終了する.三陸沿岸の津波は地震後25分から30分たって海岸に到達するから,地元住民への伝達にさらに10分程度必要としても,津波来襲までに8分以上の余裕を見込むことが可能である.したがって,高速機を用いる条件で津波の数値予報は予報速度の点からも実現可能であると結論できる.
5. 結 論
三陸沿岸を対象とし,日本近海で発生する津波を数値計算により予報することの可能性を,予測精度と予測速度の両面から検討した.その結果,津波の最大水位に主眼をおく数値予報では,ここで提案した手法で十分な精度を有すること,また予報速度に関しても地震発生後7分程度で結果を得ることが可能であることが明らかとなった.ただし,現状の地震観測網ではデータが不足し,精度の高い波源推定値が必ずしも得られるとは保証されないなど,将来解決を要する問題点も数多く残されてはいる.
謝辞
本研究を実施するにあたり東北大学理学部平澤朋郎教授,信州大学工学部泉谷恭男助手のご指導,ご助力を得た.ここに記して謝意を表す.なお,本研究の一部は文部省科学研究費および石原藤次郎研究奨学基金による.
参考文献
1) Kanamori, H. and Give, J.W. :Use of long-period seismic waves for rapld evaluation of tsunami potential of large earthquakes, Tsunamis-Their Science and Engineering, Terra Scientific Pub. Co., pp.37〜49,1983. 189
2) 泉谷恭男・平澤朋郎:強振動の継続時間と震源パラメー タ,第21回自然災害科学シンポジウム,1984.
3) 泉谷恭男・平澤朋郎:加速度記録を用いた断層パラメー タの即時的推定の試み,地震学会講演予稿集,1985.
4) 泉谷恭男・平澤朋郎:断層パラメタの即時的推定法,東 北大学津波実験所研究報告,第3号,pp.1-21,1986.
5) Izutani,Y.and Hirasawa, T. :Use of strong motion duration for rapid evaluation of fault parameters, J. Phys. of Earth (印刷中).
6) Manshinha, L. and Smylie, D. :The displacement fields of inclined faults, Bull. Seism. Soc. Amer., Vol.61, pp.1433〜1440,1971.
7) 羽鳥徳太郎:東北日本太平洋側における津波の波源,地震,第27号,1974.
8) 後藤智明・小川由信:Leap-frog法を用いた津波の数値計算法,東北大学工学部土木工学科河川研究室,52p.,1982.
9) 相田勇:200m等深線上の津波波形と浸水高,地震,第30号,pp.11〜23,1977.
10) Peregrine, D. H. : Long waves on a beach, J. F. M., Vol.27, part 4, pp.815〜827, 1967.
11) 伊木常誠:三陸地方津波実況取調報告,震災予防調査報告第11号,1896.
12) 松尾春雄:三陸津波調査報告,土木試験所報告,1933。
13) 岩崎敏夫・真野明:オイラー座標による二次元津波遡上の計算,第26回海講,pp.70〜74,1979.
14) 気象庁:1968年十勝沖地震調査報告,気象庁技術報告第68号,244p.,1969.
15) 相田勇:三陸沖の古い津波のシミュレーション,地震研究所彙報,第56号,pp.71〜101,1977.
16) A1da,I. :Reliability of a tsunami source model derived from fault parameters, J. Phys. Earth, Vol. 26, pp.57〜73, 1978.
(1987.9.4・受付)
波浪予測を目的とした物理因子重回帰モデル 後藤智明*・柴木秀之**・青野利夫***・ 片山忠****
Abstract
波浪予測手法として用いられている波浪推算モデルと統計モデルは,それぞれ低波浪時の予測精度,波浪発達期の予測遅れの問題が残されてきた,これらの問題を解決する目的で物理因子重回帰モデルを開発した.モデルの予測式は,物理過程を記述した代数方程式で表され,予測結果を風波とうねりの各成分に分離することが可能である.また,本予測モデルは,現地波浪への適用性,予測精度ともに良好な手法である.
Key Words: wave forecast model, multiple regression method. physicl parameter
1. はじめに
港湾建設の施工管理から船舶の航行,海洋性レクリェーションに至る幅広い海洋活動における安全性の確保には,的確な波浪予測情報の提供が不可欠である.
従来より,波浪予測を目的として用いられてきた手法に波浪推算モデル1)-3)がある.しかしながら,波浪推算モデルは,主に高波浪を対象として理論構成がなされていることから,低波浪の推算精度が高波浪と比較して相対的に低く,また波浪推算の外力条件となる風推算の精度も不十分な場合が多い.このような点から,波浪推算結果をそのまま予測値とすることには,波浪予測の精度上の問題があった.
波浪推算モデルにかわる手法として,統計モデル(例えば重回帰波浪予測モデル)を用いた波浪予測手法4)-6)が提案された.統計モデルは,予測波浪に関係する因子として現時刻の観測波浪,風速,気圧を選択し,これらを説明変数とする回帰式を波浪予測の基礎式としたモデルである.この手法の利点は,専門知識を必要とすることなく,容易に波浪予測を実施できるところにある.しかしながら,予測式中の観測波浪に関する項の寄与率が高くなるため,予測値が観測値に強く依存し,観測値に引きずられる形で,予測波高の立ち上がりが遅れるという問題点があった.さらに,長期予測になるほど予測精度が低下するなどの難点もあり,実用化を考える上で多くの課題が残された手法であった.
本研究では,これらの問題を克服するための新たな手法として,波浪推算モデルと統計モデルのそれぞれの長所を組み合わせた物理因子重回帰モデルを提案し,その予測理論を述べるとともに,現地へ適用した結果と予測精度に関する考察を行う.
物理因子重回帰モデルとして,観測波浪を説明変数として用いないモデルⅠと観測波浪を用いるモデルⅡの2種類を提案した.モデルⅠ,は,波浪の発達,伝播,減衰に関する物理的な理論に基礎を置いた波浪推算モデルに類似したモデルである.波浪推算モデルと異なる点は,波浪推算モデルの理論式が微分方程式で表されるのに対し,線形の代数方程式で表されるところにある.予測式を線形の代数方程式で表すことにより,風推算を含む予測誤差を小さくするように予測式中の係数を観測値と推算値との重回帰解析から決めることができる.
モデルⅡは,モデルⅠで説明できない誤差が,時々刻々の推算値と観測値との差,推算エネルギーの増加量等に依存すると考え,これらの因子を用いて予測誤差を小さく抑えるように工夫したモデルである.
なお,モデルⅠ,モデルⅡともに,重回帰モデルに比べると,説明変数の物理的な解釈が可能な方法である.
また,予測結果の出力諸元として,有義波高,有義波周期のみならず,波向別に計算されたエネルギー分布から推定される代表波向,さらには,風波とうねりそれぞれの相当有義波高と相当有義波周期,成分波向などが算出可能である.
*正会員 工博 運輸省港湾技術研究所海洋エネルギー利用
研究室長(〒239 横須賀市長瀬3-1-1)
**正会員 工修 運輸省港湾技術研究所海洋エネルギー利用
研究室 (研修生)
***正会員 工博 運輸省港湾技術研究所海洋エネルギー利用
研究室 (科学技術庁特別研究員)
****前運輸省第二港湾建設局横浜調査設計事務所長(現運輸省
第二港湾建設局東京空港工事事務所長)
2. 波浪予測理論
(1) モデルの仮定
物理因子重回帰モデルの構築を行うにあたり,波浪の発達,伝播,減衰に関して,次のような仮定を行った.
波浪の発達は,無次元波高と無次元フェッチの1/2乗則および無次元周期と無次元フェッチの1/3乗則7)で記述できるものと仮定する.さらに,図ー1に示すように,予測地点を中心とした16方向の波向線を放射状に設定し,それぞれの方向について波浪が独立に発達するものと仮定する.また,図の各波向線上に,100km間隔(図中\delta Fで表す)に計算格子点を設定し,この格子点において波の発達を計算する.
波浪の伝播に関しては,次に示すような仮定を置いた.
本来,波浪の伝播速度は波浪の発達に伴い時間的に変化するものであるが,本モデルでは,波浪を風波とうねりの2成分に分離し,それぞれ成分について代表的な伝播速度を定め,しかもこの伝播速度を一定と仮定する.このことは,風波とうねりの伝播が,図ー2に示すような一定勾配の2本の伝播特性線で表せることに相当する.
図は,横軸に予測地点を原点とした空間座標をとり,縦軸に予測時刻を上端の点とした時間座標を採用したものであり,図ー1に示した任意方向の波向線における波浪の伝播を表したものである.風波とうねりの伝播特性線は勾配の異なる直線で表され,風波が6時間で100kmの伝播,うねりが6時間で200km伝播すると仮定した.
これは,外力条件となる海上風の推算値が6時間毎に与えられること,さらに波浪予測が高速な演算を要求されることから,伝播特性線が6時間毎に波向線上の計算格子点(格子間隔は100km)を通過するように設定したことを意味する.また,風波とうねりの伝播速度を相当する周期で表すと,風波で平均波周期5.9s(有義波周期に換算すると6.9s),うねりで平均波周期11.9s(有義波周期13.8s)となる.なお,図ー2の風波の伝播特性線上に示したE_s(3,J)は,予測時刻より12時間前の,予測地点から200km離れた洋上の格子点におけるJ方向の風波成分エネルギーを表し,うねりの伝播特性線上に示したE_s(5,J)は,予測時刻より12時間前の,予測地点から400km離れた洋上の格子点におけるJ方向のうねり成分エネルギーを表している.本モデルでは,最大2000kmの波向線を仮定するため,風波の伝播特性線が2000km離れた格子を通過する時刻は,予測時刻よリ120時間前となる.すなわち,波浪予測を行うためには,予測時刻より120時間前の海上風の情報が必要となる.
波浪の減衰に関しては,ブレッドシュナイダーの式8)と類似なモデルを仮定した.すなわち,波浪が発達する風域内では,エネルギー平衡状態になるまで減衰は生じないものとし,波浪がその風域から離れた場合,または逆風域に入った場合に,波浪エネルギーは伝播距離に反比例して減衰し,周期は伝播距離に比例して長くなると仮定する.なお,本モデルにおいては,このような減衰過程にある波浪をうねりと定義する.
(2) モデルI
a) 有義波高に関する計算理論
前節の仮定から,風波の発達に関する式は,次式に示す無次元波高と無次元フェッチの1/2乗則,
(1)
で表される.ここに,H_{1/3}は有義波高,Uは海面上10m高度の風速,Fは吹送距離,gは重力加速度である.
式(1)の両辺を2乗し,無次元エネルギーと無次元フェッチの関係で表すと,
(2)
となる.ここに,\epsilonは風波のエネルギーである.この風波のエネルギーの方向分布は常に相似形を保つと仮定すると,次式が成立する.
(3)
ここに,E(θ)は方向別エネルギー,\lambda(θ)は,
(4)
定義されるエネルギーの方向分布関数である.なお,\lambda_0は,
(5)
を満たす正規化係数である.
式(2)を,式(3)を用いて書き換えると,風波の波向別工ネルギーが,
(6)
と表される.本モデルでは,この式(6)が風波エネルギーの発達の基本式となる.
いま,任意方向に関して,風波の伝播特性線上の風エネルギーU^2\lambda(\theta)分布が,図ー3のように表されると仮定する.すなわち,任意の方向Jにおいて,特性線上の計算格子I=ⅠからI=Nのうち,I=1からI=N_Wまでの区間で風波が発達する場合,風波のエネルギーは式(6)から次のように表される.
風波の境界点I=N_WにおけるJ方向の風波のエネルギーはE(N_W,J)=0であるため,I=N_W-1地点の風波エネルギーE(N_W-1,J)は,
(7)
と表される.ここに,\delta Fは格子点問の距離(風波の発達区間のフェッチ)である.同様に,I=N_W-1地点の風波のエネルギーは,
(8)
で表される.ここに,Frは,風エネルギーU(N_W-2,J)^2 \lambda(N_W-2,J)の条件下において,I=N_W-1地点の風波のエネルギーが,E(N_W-1,J)となるための等価フェッチを意味し,
(9)
と表される.この等価フェッチを式(8)に代入すると,
(10)
となる.同様な操作を,波浪予測地点であるI=1まで繰り返し行うと,J方向から来襲する風波のエネルギーは,
(11)
となり,各方向の総和は,
(12)
で表される.ここに,B_W=A\delta Fである.
次に,うねりの伝播特性線上において,図ー4に示すような風のエネルギー分布を仮定する.この特性線上のI=N_SからI=N_Eまでの区間で発達した風波がうねりとして伝播してくる場合,うねりの初期エネルギーは,I=N_S地点の風波エネルギーとなり,
(13)
で表される.波浪の減衰に関する仮定より,うねりのエネルギーは伝播距離に反比例することから,波浪予測地点I=1に到達するうねりのJ方向のエネルギーは,
(14)
となる.ここに,係数A^」は,うねりのエネルギーの減衰に関係する係数である.これより,各方向から来襲するうねりのエネルギーの総和は,
(15)
と表される.ここに,B_S=A^」\delta Fである.
式(12)と式(15)から,波浪予測地点における風波とうねりを合成した全推算波浪エネルギーは,
(16)
で表される.ここに,[\epsilon]_fは予測時刻の波浪エネルギーを意味する.係数B_WとB_Sは,それぞれ.A\delta FおよびA^」\delta Fを意味するが,最終的には推算波浪エネルギーと同時刻の観測波浪エネルギーとの重回帰解析により,両者の差を最小とする回帰係数として決められる.なお,波浪エネルギーから有義波高への換算は,
(17)
により行う.
b) 有義波周期に関する計算理論
有義波高と同様,波浪の発達に関する仮定より,風波の周期の発達は,次式で表される無次元周期と無次元フェッチの1/3乗則,
(18)
で表される.式(18)の両辺を3乗すると,
(19)
となる.ここに,\tauは有義波周期の3乗値を表し,ここでは周期特性量として定義する.また,有義波高と同様に,式(4)の方向分布関数\lambda(\theta)を導入する.これらの仮定より,式(19)は,
(20)
と表される.式(20)が方向別周期特性量の発達に関する基本式となる.
有義波高の場合と同様な展開を行うと,風波の周期特性量の全方向の総和は,
(21)
となる.ここに,D_W=C\delta Fである。
うねりの周期に関する式は,波浪の減衰に関する仮定より,伝播距離に比例して大きくなることから,
(22)
と表される.ここに,D_Sはうねりの周期特性量の係数である.
式(21)と式(22)から,波浪予測地点における風波とうねりを合成した全推算周期特性量は,方向別エネルギーの重み付き平均値として,
(23)
で表される.ここに,[\tau]_fは,予測時刻の周期特性量を表す.D_WおよびD_Sは,有義波高の予測式(16)の係数と同様に,推算値と観測値との重回帰解析により求められる回帰係数である.なお,周期特性量から有義波周期への換算は,
(24)
により行う.
(3) モデルII
モデルIIは,モデルIの予測誤差が,完全にランダムではなく,何らかの物理量に関係していると考えたものである.いま,予測誤差に関係する因子として,現時刻の予測誤差,すなわち現時刻の推算波浪エネルギーと観測波浪エネルギーの差と,風波とうねりそれぞれの推算エネルギーの時間変化量を仮定すると,モデルⅠの予測誤差Erは,
(25)
と表される.ここに,E_W(J),E_S(J)は,予測時刻の風波とうねりの推算エネルギー,E_{Wh}(J),E_{Sb}(J)は,現時刻の風波とうねりの推算エネルギー,[\epsilon]_{Mb}は現時刻の観測波浪エネルギー,C_1からC_7は各項に係る係数,E^」rはこの考え方だけで表現できない誤差である.式(25)を式(16)に考慮し,予測時刻の波浪エネルギーに関して定式化すると,式(16)のモデルⅠに対応するモデルⅡの有義波高予測式として,
(26)
が得られる.式(26)の各係数は,モデルⅠと同様,重回帰解析により,推算値と観測値との差を最小とする回帰係数として求められる.
同様に,有義波周期についても,モデルⅠの予測誤差に関係する因子として,現時刻の推算周期特性量と観測周期特性量の差と,風波とうねりそれぞれの推算周期特性量の時間変化量を用いると,有義波周期の予測式は,
(27)
で表される.ここに,T_W(J),7_S(J)は,予測時刻の風波とうねりの推算周期特性量,:T_{Wb}(J),T_{Sb}(J)は,現時刻の風波とうねりの推算周期特性量,[\tau]_{Mb}は現時刻の観測周期特性量であり,各係数は,推算値と観測値の重回帰解析より求められる回帰係数である.
(4) 地形による遮蔽効果
沿岸に位置する地点の波浪予測を行う場合に,周辺の陸地による遮蔽効果を考慮することが重要となる.地形による遮蔽効果は,方向毎に異なるのが一般的である.
しかし,提案した波浪予測式においては,各方向成分に関して,同一の回帰係数を用いているため,別の方法によって遮蔽効果を取り入れる必要がある.そこで,本モデルでは,風波の推算エネルギーE_W(J)とうねりの推算エネルギーE_S(J)に予測地点の各方向に応じた遮蔽率を乗じ,この値を予測式に代入する方法を採用している。さらに,陸側方向の波向においても波浪が発達することから,図ー1に示すように陸側方向にも計算格子を設け,フェッチが100km以下となる場合には,波浪推算地点の離岸距離に応じた補正率を乗じてエネルギーを計算している.

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3. 波浪予測の試算
(1) 波浪予測地点
物理因子重回帰モデルを波浪予測に適用する地点は,回帰係数の同定を行う必要上,観測波浪が得られている地点でなければならない.本研究では,太平洋側の常陸那珂港(茨城県)とむつ小川原港(青森県),日本海側の深浦港(青森県)の3地点を波浪予測対象港湾とした。
(2)重回帰解析の解析期間
波浪予測式中の回帰係数の同定を行う解析期間は,1983年2月1日〜28日,5月1日〜31日,8月1日〜31日,11月1日〜30日と1989年1月17日〜2月28日,4月17日〜5月16日,8月1日〜31日,9月27日〜10月24日のそれぞれ四季を代表する計8ヶ月間,日数にして252日とした.
(3) 海上風の推算
波浪エネルギー計算の入力データとなる海上風(海面上10m高度)は,前節の回帰係数の同定を行う全期間について計算する必要がある.本研究では,気象図から求まる気圧分布をもとに,傾度風・台風のハイブリッドモデルを用いて理想大気の風を推算し,これを,境界層モデルによって海上風に変換する方法9)採用した.なお,風推算に用いる気圧データはすべて地上天気図から得た.
(4) 回帰係数の同定
常陸那珂港,むつ小川原港,深浦港の3港湾を対象として,推算波浪エネルギーならびに周期特性量を計算し,有義波高と有義波周期の予測式に当てはめ,この推算値と観測値との重回帰解析を行った.この解析により,推算値と観測値の差を最小とする回帰係数が同定される.
回帰係数の同定は,1983年2月,5月,8月,11月と1989年1月〜2月,4月〜5月,8月,9月〜10月の1ヶ月間毎と,それぞれ1983年の4ヶ月間,1989年の4ヶ月間,さらに,1983年と1989年を合わせた全8ヶ月に分けて行い,11の異なる同定期間それぞれにおいて,11種類の異なる回帰係数を求めた.
図ー5は,常陸那珂港における有義波高予測モデルⅠの風波とうねりエネルギーそれぞれに係る回帰係数の同定結果と,11の異なる係数同定期間との関係を示したものである.同定期間が1ヶ月間の場合,求められる回帰係数は期間の違いによりかなりの変動幅を持つが,同定期間が1983年と1989年のそれぞれ4ヶ月間の場合は,各年の1ヶ月間の係数の中間値となる.さらに,全8ヶ月の同定期間の場合は,1983年と1989年のそれぞれ4ヶ月間の係数のほぼ平均値となる.これより,同定期間が長いほど,回帰係数は期間平均値に近づく傾向がわかる.また,4ヶ月間の解析から求めた回帰係数と全8ヶ月間の解析から求めた回帰係数の差が小さいことから,さらに同定期間を長くしても,図ー5に示した8ヶ月間の値と大きな差はないものと予想される.従来の重回帰モデルが,係数の同定期間として3〜4年程度必要であるのに比べて,物理因子重回帰モデルの係数同定期間は,比較的短期間でもよいことがわかる.
図ー6は,常陸那珂港における有義波高予測モデルⅡの5種類の回帰係数と,予測時間を6時間,12時間,24時間,36時間,48時間,72時間,120時間(5日),168時間(1週間)とした場合の関係を示したものである.回帰係数の同定期間は,すべて8ヶ月とした.短期予測において,現時刻の観測有義波高に係る係数は,0.6〜0.8程度の値となる。これは,予測波高の6割から8割程度が現時刻の有義波高に依存することを示している.また,予測時刻の風波とうねりの推算エネルギーに係る係数は正の値となり,現時刻の推算エネルギーに係る係数は,負の値となる.それに対し,予測時間が長期になるとともに,現時刻の観測波浪に係る係数値は減少し,逆に,予測時刻の風波とうねりに係る係数値が増加する。これは,短期予測における予測波高が,現時刻の観測波浪に強く依存するのに対し,長期予測において,現時刻の観測波浪への依存度は低下し,他の説明変数への依存度が強くなることを意味している.そして,予測時間を168時間とした場合,その回帰係数は,モデルⅠの係数に近い値となることが,図一5の同定期間8ヶ月の係数との比較からわかる.
(5) 有義波の予測結果
係数同定されたモデルⅠとモデルⅡの有義波高,有義波周期の予測式により,係数同定期間の有義波高と有義波周期の予測を行った.ここに,本研究では,予測モデルの特性を明らかにすることを目的としていることから,予測計算は係数同定を行った期間と同じ期間において行ったが,先に示したように,回帰係数がほぼ収束する傾向にあることから,同定期間以外について予測計算を行っても同程度の予測精度が得られるものと期待できる.また,海上風の推算は過去の確定した気象図により行い,予報気象図は用いていない.そのため,予測時刻の波浪エネルギーのみを必要とするモデル1の波浪予測は,予測時間の違いによる予測結果の違いはない.ここでは,モデルⅠの予測を仮に12時間予測として,以下に引用した.
図ー7,図ー8および図ー9は,それぞれモデルⅠの12時間とモデルⅡの12時間,168時間の予測式を用いて,1983年2月の常陸那珂港の波浪を予測した結果である.予測結果として,予測波向,予測有義波高と観測値の経時変化の比較,予測有義波周期と観測値の経時変化の比較を示している.
モデルⅠの予測有義波高と観測値とを比較すると,気象擾乱通過時に発生した高波浪のピーク値に多少の差異は見られるが,低波浪と高波浪ともに両者は良い一致を示す.また,予測有義波周期と観測値を比較すると,観測周期に現れる短期変動に対して,予測値は十分に追従しているとは言えないものの,長期的な変動に対しては良く追従している.モデルⅡの12時間予測では,モデルⅠの結果と比較して,短期の波高・周期の変動にも良く追従しており,高波浪のピーク値も良い一致を示している.また,モデルⅡの168時間予測は,モデルⅠの予測結果とよく似た結果となっている.すなわち,モデルⅡの予測結果は,予測時間が長くなるとともに,現時刻の観測波浪への依存度が低下し,その結果,モデルⅠの予測結果に近づいていく傾向があることを示している.
モデルⅠ,Ⅱの予測結果と,従来の重回帰波浪予測モデルを比較するために,むつ小川原港における重回帰波浪予測の例を図ー10に示した.図は,12時間予測に関するものである.先に述べたように3月20日から21日にかけての波浪発達期の予測値は,観測値に比べて波高の立ち上がりが遅れており,この時間差は予測時間とほぼ一致したものとなっている.これに対して,図ー7から図ー9に示した物理因子重回帰モデルの予測値は,波浪が急激に増大する時期についても良い一致を示している.
図ー11および図ー12は,モデルⅡの12時間予測式を用いて,1983年2月のむつ小川原港と深浦港の波浪を予測した結果を示したものである.それぞれ予測値と観測値とを比較すると,むつ小川原港の予測値は,常陸那珂港の例と同様に,観測値と良い一致を示しているが,深浦港に関しては幾分予測精度が低い結果となっている.深浦港の例は,日本海低気圧が周期的に多数通過する期問の予測結果であり,これは,冬季日本海沿岸の代表的な特性でもある.このような時期に出現する高波浪は,風波が主体となっている.本モデルの風波は,モデルの仮定から考えて,予測地点近傍の風場に強い影響を受ける.深浦港のような日本海沿岸の波浪予測精度をさらに向上させるためには,周期的に来襲する日本海低気圧に伴う風場の推算精度を改善することが必要である.
図ー13,図ー14および図ー15は,モデルⅡの12時間予測式を用いて,常陸那珂港むつ小川原港,深浦港の低波浪期の予測を行った結果である.先に示した各地点の高波浪期の予測結果と同様に,予測値は観測値と良く一致している.高波浪期に予測精度が幾分低めであった深浦港も,良好な予測結果となっている.このように,物理因子重回帰波浪予測モデルは,高波浪期にも低波浪期にも共通して,良い予測値を得ることが可能な手法であることが確認できる.
図ー16は,1983年2月の常陸那珂港における予測波浪について,風波とうねりの各成分をモデル上分離して出力した結果である.上から順に,風波とうねりの合成波の予測波向,予測有義波高と観測値の経時変化比較,予測有義波周期と観測値の経時変化比較,風波とうねりそれぞれの成分波波向,風波とうねりそれぞれの相当有義波高と相当有義波周期の経時変化である.現時点の既往研究成果では,観測波浪を風波とうねりに分離する手法が開発されていないことから,2成分の予測結果と観測値とを定量的に比較検討することはできない.ここでは定性的な評価にとどまるが,波向について見ると,波浪発達期に,合成波の波向は風波の波向と一致するのに対し,波浪減衰期に,合成波の波向はうねりの波向と一致する。また,風波とうねりそれぞれの相当有義波高を見ると,予測期間申,最大の高波浪が発達した2月17日は,風波成分が卓越するのに対し,20日〜21日にかけての波浪減衰期は,うねりが卓越している.さらに,風波とうねりそれぞれの相当有義波周期を見ると,期間を通じてうねりの周期が風波の周期よりも大きく,波浪の発達期に,両者はほぼ同じ周期となることがわかる.
予測精度を定量的に評価する方法としては,種々の方法が考えられるが,本研究では次に示す方法を用いた.
有義波高に関しては,観測波高0.Om-1.Omの階級における予測値と観測値との許容誤差を±0.3mとし,それ以上の波高階級における許容誤差を,観測波高の±30%とする.予測値がこの許容誤差の範囲にある場合は,予測が的中したものと評価し,的中範囲に入る予測個数が,全予測個数の何%になるかを計算する.この比率を的中率と定義し,的中率が高いほど予測精度は良いと判断する.また,有義波周期は,全周期階級において,観測周期の±30%を許容誤差の範囲とし,この範囲に入る予測個数が,全予測個数の何%になるかを計算して的中率を求める.
図ー17は,常陸那珂港,むつ小川原港,深浦港の3地点において,モデルⅠの有義波予測とモデルⅡの6時間から168時間までの8種類の有義波高予測を行い,それぞれの予測結果から計算される的中率をまとめたものである.地点間の的中率の差は,予測時間が長期になっても変化せず,短期予測精度の水準が高いほど,長期予測精度の水準は高い.また,各地点とも,モデルⅡの6時間予測から36時間予測にかけての的中率は,次第に低下する傾向にあるが,36時間予測より長期の場合には,図に破線で示した予測モデルⅠの的中率と同水準に収束している.同様に,図ー18は,有義波周期の予測的中率をまとめたものである.有義波高の予測結果と比較すると,的中率の水準は高く,モデルⅡの36時間より長期の予測的中率も,次第に低下する傾向にある.しかしながら,168時間予測の的中率が,モデルⅠの的中率と同水準に収束する傾向は見られる.
このような予測精度の特性は,回帰係数同定の章にお.いても述べたように,予測時間が長くなるとともに,現時刻の観測波浪への依存度が減少し,モデルⅠの予測式に近づくことから説明できる.このことから,長期波浪予測の精度は,モデルⅠの予測精度に左右されるものと考えられ,モデルⅠの予測精度が改善されるとともに,モデルⅡの長期予測精度も向上するものと推察される.
5. おわりに
本研究では,新たな波浪予測手法として,物理因子重回帰モデルを提案した.このモデルでは,波浪を風波とうねりに分離し,それぞれの成分の伝播速度を一定とすることにより,本来なら微分方程式で記述される波浪の発達,伝播,減衰を,代数方程式に書き換え,これを波浪予測式としている.この代数方程式の係数は,重回帰解析により,予測値と観測値との差を最小にする回帰係数として求められる.また,方向別の風波とうねりのエネルギーを説明変数としており,予測される諸元は,有義波高,有義波周期のみならず,波向,風波とうねりそれぞれの相当有義波高,相当有義波周期,成分波向である.
以上のように物理因子重回帰モデルは,従来の波浪予測手法である波浪推算モデルと重回帰モデルの両者の長所を合わせ持ったモデルであり,予測精度,予測結果の出力諸元,実用性などに多くの優れた特徴を有するモデルである.以下に,主要な結論をまとめる.
1. 常陸那珂港,むつ小川原港,深浦港の3地点を対象に,予測式中の回帰係数の同定を行い,係数の特性を検討した.予測モデルⅠの係数は,同定期間の違いにより変化するものの,期闘が長いほど次第に平均的な値になる傾向を有する.また,モデルⅡの短期予測式の5係数の中で,観測波浪に係る係数が大きく,予測値は観測波浪に強く依存する傾向を持つが,長期予測では,観測波浪に係る係数値が小さくなり,次第に観測波浪への依存度は低下する.
2. 物理因子重回帰モデルは,波浪推算モデルや重回帰モデルに比べ良好な予測精度を有し,重回帰モデルの大きな欠点であった高波浪の立ち上がり時に現れる予測値の時間遅れの問題を解決している.長期予測についても,予測精度の低下は一定水準に抑えられ,重回帰モデルのように著しく予測精度が低下する問題もない.さらに,物理因子重回帰モデルは,有義波高,有義波周期の予測のみではなく,波向予測,さらに風波とうねりの分離出力まで行うことが可能である.
なお,本論文における波浪予測特性の考察では,過去の確定した気圧情報を利用している.したがって,実用化を考える際には,予報気象情報を用いたモデル係数の同定を行わなければならない.また,予測精度に関しても再度検討する必要がある.
参考文献
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9) 柴木秀之・後藤智萌:内湾海上風の地形依存性について,第39回海岸工学講演会論文集,pp.141〜145,1992.
(1992.9.22受付)
MULTIPLE REGRESSION MODELS DESCRIBED IN PHYSICAL PARAMETERS FOR THE PURPOSE OF WAVE FORECASTING Chiaki GOTO, Hidenori SHIBAKI, Toshio AONO and Tadashi KATAYAMA
As new models supersede the conventional wave forecast methods, the multiple regression wave forecast models described in physical parameters are developed. In the models, ocean wave separated into wind waves and swells, and assumed that propagation speed of each wave component is constant. From this assumption, the governing equations of the models are expressed as linear algebraic equations. For the verification of models, wave forecast is carried out.
It is clarified that the models show good accuracy and solve the difficulties of the existing wave forecasting models.
円錐形の島に捕捉された長波の特性 藤間功司*・後藤智明**
Abstract
津波が島を襲うと,捕捉現象により波高が増幅する場合がある.そこで,島の有限な大きさと斜面による屈折の効果を考慮した円錐形の島による長波の捕捉に関する理論解を求めた.理論解に基づき,空間水位の変化特性,汀線に沿った遡上高の変化特性,最大遡上高の変化特性などを調べ,捕捉の影響が強く現れる条件を示した.本理論により隠岐や奥尻島の津波痕跡高が良好に説明できる。
Key Words : trapping, tsunami, refraction, Hokkaido-nansei-oki, earthquake
1. はじめに
1993年7月に発生した北海道南西沖地震津波では,奥尻島の海岸に沿って,打ち上げ高の高い地域と低い地域が交互に観測された.このことから,奥尻島で津波が捕捉され,波高増編に寄与した可能性が指摘された(首藤,1993).
また,1983年日本海中部地震津波でも,奥尻島や隠岐で同様の特徴ある実測結果が得られており,その原因が島による捕捉であった可能性が指摘されていた(酒井ら,1984).
津波のような長周期波が島によって捕捉されることは,これまでに,多くの研究により示されている.図級は,長波の捕捉に関し,理論解や数値解が得られている様々な島のモデルを示したものである.図中,hは水深,rは島の中心からの距離である.図のように様々なモデルが用いられているものの,これらのモデルのうち,津波の打ち上げ高分布の検討に使用できる現実的なモデルは(e)だけである.すなわち,(a)-(c)のモデルは水平床の組み合わせであり,斜面による屈折の効果を考慮していない.
(d)のモデルは小さな島を想定したものであり,有限の大きさを持った島には適用できない.また,(f)のモデルでは現地地形に適用すると汀線の水深が無視できず,屈折の効果を正確に取り入れたことにはならない, しかし,(e)のモデルでは支配方程式の特異点が増えるため,解析的な扱いが複雑になる.そのため,Lautenbacher(1970)はGreen関数を用いたシミュレーションにより島まわりの波高を求めた.また,清川ら(1982)は,固有関数展開を用いることにより,解析解を求めた.Green関数を用いた計算は,簡便な数値シミュレーションとして捕捉の研究に供し得る可能性があるが,Lautenbacherの計算ケースだけで捕捉の特性に関して十分な知見が得られたとは言い難い.また,清川らの解は分散性をも考慮した高次の解であるが,実際に理論解を計算するのは必ずしも簡単でない.捕捉に関する基礎的な特性を理解するためには,解を簡単に求められる,簡便な理論解析が必要であろう.
そこでここでは,第1次近似として,複雑な地形の影響や非線形・分散性の効果などを無視し,線形長波理論を用いた(e)のモデルに対する簡便な理論解を求め,島による長周期波の捕捉の特性を明らかにする.
なお,Euler座標を用いた本理論では,波先端の境界条件が完全には満足されず,厳密な遡上解は得られない。
しかし,線形理論の範囲ではLagrange座標を用いて得られる解とEuler座標の解は第1次近似で一致する.したがって,本理論を用いて津波の遡上高を議論しても差し支えないと考えられる.
*正会員 工博 防衛大学校講師 土木工学教室 (〒239神奈川梁横須賀市走水婦1-10-20)
**正会員 工博 東海大学教授 工学部土木工学科(元運輸省港湾技術研究所 海洋エネルギー利用研究室長)
2. 理論解の誘導
(1) 支配方程式
海底形状は,同心円状の等水深線をもち,どの方向にも勾配が一定な円錐形と仮定する。ただし,島の大きさは有限とする.すなわち,水深hは,h=m(r-r_0)で表される.ただし,mは勾配(一定値),r_0は島の海岸線の半径である.また,r>r_1=r_0+r_2では水平床とする.水平床部分の水深をh_1(=mr_2)とする.このような地形の模式図を図ー2に示す.
上記の海底地形をもつ島に,正弦波が入射したときの定常(周期)的な解を求める.基礎方程式は,以下の線形長波理論である.
(1)
(2)
(3)
ここで,x,yは島の中心を原点とし,入射波の進行方向がx軸と一致するようにとった座標であり,u,vはx,y方向の断面平均流速,\etaは平均水面からの水位変動を表す.連続の式からu,vを消去すると次式を得る.
(4)
入射する正弦波の角周波数を\sigma(=2\pi/T,Tは周期)とすると,現象は周期的と仮定したので,
(5)
とおける.したがって,式(4)は以下のように変形される.
(6)
上式を極座標に変換すると次式となる.ただし,水深hはrのみの関数としている.
(7)
また,\zetaは\thetaに関して2\piを周期とする周期関数とおくことができる.すなわち,
(8)
となり,n番目の成分R_nに対しての支配方程式として次式を得る.
(9)
(2) 水平床上の解
水平床部分(r>r_1=r_0+r_2)における解を求めるため,水深を一定(h=h_1)とおぐこのとき,上式は
(10)
となり,解の組合わせは次式で与えられる.
(11)
ただし,
(12)
であり,J_n,N_nはそれぞれn次の第1種,第2種Bessel関数を意味する.以上は,田中(1956)やLonguet-Higgins(1967)の取り扱いと同等である.
(3) 斜面上の解
a) 斜面上の領域における支配方程式
次に,斜面部分(r>r_1=r_0+r_2)における解を求めるため,
(13)
を式(9)に代入する.これにより,次式が得られる.
(14)
上式を解けばよいが,式(14)には2個の確定特異点(r=0,r_0)と1個の不確定特異点(r=∞)があり,解を初等関数で表すことは困難である.そこで,ここでは級数解を組み合わせる手法により解を求める.
方程式の見通しをよくするために,さらに
(15)
とおいて,
(16)
によって座標変換しておく.後の考察で明らかにするが,\betaは島の大きさと汀線近傍における波長との比に関係したパラメタである.目安として,津波の周期Tを5分〜20分,勾配mを1/10〜1/100,島の海岸線の半径r_0を1km〜10krnとすると,\betaは0.3〜13程度の大きさになる.この変換により得られる次式が支配方程式となる.
(17)
上記の支配方程式の極端な場合として,\beta→∞の場合と\beta→0の場合には容易に理論解が求められる.まず,\beta→∞の場合,式(17)は次式で近似できる。
(18)
この解の組合せは,
(!9)
で表される.J_0,N_0は0次の第1種,第2種Bessel関数を表す,つまり,島の半径r_0が非常に大きいと,1次元伝播問題の斜面上の解の組合わせと一致する.
次に,\beta→0の場合(島の半径r_0が非常に小さい,Wongらのモデルの場合),式(17)は以下のように近似される.
(20)
この解の組合わせは,
(21)
で与えられる.J_{\sqrt{1+4n^2}},N_{\sqrt{1+4n^2}}は\sqrt{1+4n^2}次の第1種,第2種Bessel関数を表す.なお,この近似は\xi≫\betaなら良好な精度を有するので,上記の解は,大きい\xiにおける式(17)の近似解として使える。
b) 級数解法
支配方程式(17)の解を求める手法は以下の通りである.まず,原点\xi=0のまわりで級数解を求あておく.
級数の収束半径は\xi<\betaである.決定方程式が重根(ゼロ)をもつので,解のひとつは通常のべき級数に展開され,\xi=0で有界になる.それと独立な,もうひとつの解はlog\xiなる関数形を含み,\xi=0で∞に発散する。
物理的には,\xi=0,すなわち汀線で水位が有限でなければならないので,ここでは前者の解のみ考えればよい.
なお,式(17)にはふたっのパラメタnと\betaが含まれているので,ここで求めるべき解を関数F_{n,\beta}(\xi)と書くことにする.関数F_{n,\beta}(\xi)の\xi=0周辺の級数解は以下のように表される.
(22)
係数a_kは,式(17)の第2項,第3項の係数をTaylor展開して,各項を比較することにより以下のように求められる.ただしa_0は最終的に境界条件によって決まるもので,基本解では自由に定義できる.F_{n,\beta}におけるa_0の定義は,後に述べる.
(23)
上式中の係数b_l,c_lは以下のように与えられる.
(24)
(25)
同様に,任意の正則点ξぎのまわりの級数解が以下のように求められる.収束半径は|\xi-\xi_i|<\xi_iである.
(26)
ただし,係数d_kは,d_0,d_1が与えられたとして,
(27)
であり,係数e_l,f_l,g_lは以下のように与えられる。
(28)
(29)
(30)
次に,変数\xiのとり得る[0,∞]の範囲を,[0,\xi_1],
[\xi_1,\xi_2],[\xi_i,\xi_{i+1}],…,[\xi_{M-1},\xi_M】,[\xi_M,∞]と(M+1)
個の区間に分割する.ただし,最後の区分点\xi_Mは,式(17)の近似解として式(21)が使用できるほど原点から離れているものとする.また,各区分点は,
(31)
を満たすものとする.これにより,[0,\xi_1]から[\xi_{M-1},\xi_M]までの各区間において,区間の始まりの点を中心とした級数解の収束性が保証される,
すなわち,区間[0,\xi_1]の解として,\xi=0近傍の級数解が使えることになる。この際仮にa_0=1としておく.この解をF^{(1)}_{n,\beta}表すことにする.
次に正則点\xi_1のまわりの級数解を求め,区間[\xi_1,\xi_2]における解F^{(2)}_{n,\beta}とする。ただし,式(26)の係数d_kのうち,最初の2項d_0,d_1は,
(32)
と与える.ここで,記号^」は\xiによる微分を表す.これにより,\xi_1においてF_{n,\beta}とF^」_{n,\beta}が連続に接続される.
同様に,次々とF^{(3)}_{n,\beta},F^{(4)}_{n,\beta},…と各区間に対する級数解を求めていくことができる.
最後の区間では解(21)に接続する.すなわち,
(33)
において,定数p,qを次式から求める.
(34)
最後に,nや\betaに関らず,大きな\xiにおけるF_{n,\beta}の大きさが同程度になるよう,各区間の解F^{(1)}_{n,\beta},…,F^{(M+1)}_{n,\beta}を2/\sqrt{p^2+q^2}倍して再定義する。以上の手順により式(17)の解F_{n,\beta}を求めることができる.
実際に級数を何項まで考慮すべきかは,解の接続点6のとり方により異なる.一般的に,ある関数をベキ級数で近似する場合には級数の項数を増やすより区間分割数を増やすほうが経済的である,ここではM=200とし,以下に示すような等間隔の分割をした.
・2≦\beta<20では\xi_1=0.05\beta,…,\beta_M=10\beta(M=200)
・0.5≦\beta<2では\xi_1=0.1\beta,…,\betaM=20\beta(M=200)
・O.2≦\beta<0.5では\xi_1=02\beta,…,\betaM=40\beta(M=200)
本論文で使用したnと\betaの組み合わせの範囲(0.2<\beta<20,0≦n<[\beta]+4)の中では,この分割により各級数を10項まで考慮すれば十分な精度が得られた.ただし,[\beta]は\betaを超えない最大の整数を表す.
なお,F_{n,\beta}(\xi)は,\xi=0付近の級数解により初期値を決め,Runge-Kutta法で数値的に求めることも可能である.上述の理論解とRunge-Kutta法による数値解は良好に一致する.しかし,本理論解を用いると,任意点におけるF_{n,\beta}の値を容易に求めることができ,捕捉の特性に関する様々な検討が可能になる.
c) F^{(1)}_{n,\beta}(\xi)の性質
関数F_{n,\beta}の例を図ー3,4に示す.図ー3は\beta=2の場合,図ー4は\beta=10の場合のグラフである.
これらの図からF_{n,\beta}の関数形は,nが小さいと原点\xi=0に最大値をもつJ_0のような形であり,それに対しnが大きいと原点での値がゼロと見なせるJ_{1,2,…}に似た形であることがわかる.その境は,ほぼn=\beta程度である,例えば,\beta=2の場合,n=0,1ではJ_0のような形であり,n≧3ではJ_{1,2,…}のような形となる.\beta=10の場合,n≦9ではJ_0のような形で,n≧12ではJ_{1,2,…}に似た形となる.
これから,n>\betaのモードは島の汀線近傍ではほとんど現れず,捕捉の汀線近傍での特性を調べるなら,n≦\betaのモードのみ考えればよいといえる.ただし,解がJ_0のような形からJ_{1,2,…}のような形に移行する遷移的な状態(\beta=2におけるn=2の場合や\beta=10におけるn=10,11の場合)では,解の形は複雑に変化する.そのため,関数形によっては,n≒\beta付近で現れる遷移的なモードが汀線における水位変化に寄与することがある.
このように,本モデルの解F_{n,\beta}は,高次モード(n≦\beta程度のモードまで)でも原点で大きな値をとることに特徴がある.したがって,本モデルでは,捕捉による汀線における波高の不均一な分布を求めることが可能になる.
それに対し,水平床を仮定したLonguet-Higginsの解(r=0で有界な解はJ_n)や,r_0=0とした解(21)(r=0で有界な解は\xi^{-1}J_{\sqrt{1+4n^2}}(\xi))では,0次以外のモードにおいてr=0でR_n≒0になる.そのため,汀線における不均一な波高分布が得られない.
さらに,図ー3,4から,F_{n,\beta}がJ_0のような関数形をとるとき(n≦beta),\xiが小さいところ(おおむね\xi<0.5\beta)では,F_{n,\beta}がnによってあまり変化しないことがわかる.この性質には,島周辺に捕捉された波の挙動を議論する際に触れる.
(4) 水平床上の解と斜面上の解との接続
前節までの理論展開から,同心円状の一様斜面上における解は以下のように表すことができる,
(35)
ただし,A_nは複素定数である.これから,\etaの1回微分は以下のように計算される,
(36)
ただし,記号」は,\xiによる微分を表す.
一方,水平床上の散乱波の解は,
(37)
で与えられる.しかも,散乱波がr→∞に進行することを考えれば,C_nとD_nの組み合わせは,第1種ハンケル関数をつくる組み合わせでなければならない,すなわち,
(38)
である.B_nは複素定数である.また,入射波は,振幅を1とすると
(39)
と書けるので,結局,水平床上の解は,次式となる.
(40)
この1回微分は次式で与えられる.
(41)
ここで,記号」はJ_n(z),H^(1)_n(z)のzによる微分を表している.
斜面上の解と水平床上の解を接続するには,r==r_1=r_0+r_2において,\eta,∂\eta/∂rが連続するようA_n,B_nを定めればよい.すなわち,次の連立1次方程式を解くことにより.A_n,B_nを計算する.
(42)
得られた.A_nを式(35)に代入して実数部をとれば,求めるべき解が以下のように得られる.
(43)
ただし,
(44)
である,ここで,A_n,B_nを求める式から,
(45)
であることが証明できるので,最終的に,斜面上の解は以下のように書ける.
(46)
同様に水平床上の解は以下のように書ける.
(47)
ただし,P_n,Q_n,\epsilon_nはrの関数であり.以下の通りである.
(48)
(49)
(50)

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3. 島による捕捉現象の特性
(1) 捕捉条件から見た領域区分
Longuet-Higgins(1967)によれば,水深hがrのみの関数であるとき,捕捉の起こる条件は次式で与えられる.
(51)
この条件を満たすと,ある円に接するように入射してきた波向き線は,円の内側に屈折していく.特に,等号が成り立つ場合には,波向き線はその円上に捕捉され,同じ円周上を回ることになる.
一様勾配の斜面の場合,島の半径をゼロとしたh=mrでは,上の捕捉の条件は満たされない.しかし,島の半径を有限とした本モデルh=m(r−r_0)の場合,
(52)
なので,
(53)
となる、したがって,島が有限の大きさをもっていれば,汀線付近では必ず捕捉が生じることになる.
すなわち,屈折の結果r=2r_0の円より内側に入ってきた波向き線は最終的に汀線まで達し,r=2r_0の円に接するように入射してきた波向き線は,r=2r_0の円周上に捕捉される,r=2r_0の円内に到達しない波向き線は沖へ向かう。このような状況を図ー5に示す.
以上の議論から,r>2r_0の領域は屈折しながら入射してくる波と散乱波が重なりあった領域であり,r<2r_0は波が捕捉され,水位変化が重複波的な挙動を示す領域であると考えられる.
(2) 空間水位分布と汀線水位分布
式(46)により計算した空間水位分布の経時変化の例を図ー6〜図ー8に示す,図ー6〜図ー8は,それぞれ同じ地形に対して異なる周期の波が入射した場合の水位変化である.図中,実線は正の水位のコンター,点線は負の水位のコンターを示しており,各数字は入射波振幅との比である.また,図ー6〜図ー8の場合に対応した,汀線の水位分布の経時変化を図ー9〜図ー11に示す, 図ー6,9は周期が長く,捕捉による波高増幅機構があまり効かない場合である.汀線に沿って波が進行する様子が分かる.また,汀線水位変化は波の入射してくる方向(\theta=\pi)で大きく,島影(\theta=0)で小さい.この地形の場合,\betaが2以下ならこのような水位変化になる.
図ー7,10は,捕捉のため島近傍で波高が大きく増幅した場合である.このとき,波高の高い地域と低い地域が複数箇所明確に現れていることが分かる,また汀線付近では,前項で推論した通り,波が汀線に沿って進行せず,重複波的に振る舞っている.島固有の捕捉周期と入射した波の周期が近いと,このように入射波が大きく増幅され,重複波的な挙動を示すと考えられる.
図ー8,11は,周期が短い場合である.周期11分の場合ほどではないが波高は増幅されており,散乱波による縞模様が多数見られる.
(3) 島近傍における現象
ここでは,島の周囲に波高の高くなる地域が何箇所できるか考察する。まず,島の近くにおける波峰線の性質を議論しておく.波峰線の位置は,ある\xiとtを与えて,
(54)
を満たす\theta_cを求めることにより決められる,汀線付近では,多くの場合,n≦\betaのモードだけが有意であり,しかもその場合,\xi<0.5\betaではF_{n,\beta}はnによって値がそれ程変化しない.したがって,上式を解くことは,実質的に次式を解くことと同じである。
(55)
したがって,汀線の近くでは,波の峰をあらわす\theta_cは\xiに依らない,すなわち,波峰線は汀線から\xi<0.5\betaの範囲では放射線状になる.
さて,r=2r_0上に捕捉される波の波長Lは
(56)
で表される.,したがって,r=2r_0上の波数は,
(57)
になる.実際には散乱波の成分も存在するので,r=2r_0上の波数が厳密に\betaであるとは言えないが,オーダー的にはほぼ\beta程度であり,\betaで特性づけられると考えられる.そして,波峰線は島付近では放射線状であるから,汀線における波数も\beta程度である.
あるモードの波だけ考えれば,波数1に対し2つの(打ち上げ高の)ピークが現れる.したがって,結局,波高が高くなる場所数Nも,おおまかには\betaによって特性づけられると考えてよいであろう.
実際にm,r_0,r_2,Tを変化させてNを数え,\betaに対してプロットした結果が図ー12である.図から,平均的に
(58)
がよい近似であることがわかる.
(4) 周期による汀線最大水位の変化
すでに述べたように,島の形状によって捕捉に関する固有周期のようなものがあり,入射波の周期と捕捉周期が一致すると入射波は著しく増幅されると考えられる.そこで,そのような捕捉の周波数特性を調べるため,m,r_0,r_2を一定として入射波の周期を2分から30分まで変化させ,汀線における水位の最大値R_{Hmax}を求める.R_{Hmax}は,r=r_0,0≦\theta<2\pi,0≦t<Tでの\etaの最大値を意味する.実際にR_{Hmax}を求め,\beta(∝1/T)に対してプロットした図が図ー13である.
共振の条件はr_2にも依るので,r_2の入っていないパラメタ\betaだけでは厳密な議論ができないが,図から,\beta=3〜6付近と\beta=8〜12付近は,複数の共振周波数の密集した周波数帯であると言える.また,r_2が大きくなるほど,ピークが現れる周波数帯の\betaが小さくなる傾向が見られる.
(5) 1次元伝播における打ち上げ高との比較
ここでは,1次元伝播問題における一様斜面による打ち上げ高と比較することにより,どのような場合に,捕捉の影響が強く現れるか考察する.一様勾配斜面による打ち上げ高R_{H1-D}は,次式で表される(Shuto,1972).
(59)
図ー14に,R_{Hmax}/R_{H1^D}=1,2の位置をプロットしている.ただし,島の場合は複数の共振周波数が存在するので,R_{Hmax}/R_{H1^D}のコンターは非常に複雑な形状になる,そこで,ピークが密集した共振周波数帯では,入り組んだコンターを包含する点をプロットしてある.図中の折れ線は,プロットされた点から描いた,捕捉特性を表す領域区分である.周期が長く(1/\betaが大きく),r_2/r_0が小さければ捕捉による顕著な波高増幅はない.反対に,黒丸で囲まれた領域では同一条件下で1次元問題の2倍以上の打ち上げが生じる可能性がある.

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4. 津波痕跡値との比較
(1) 隠岐における日本海中部地震津波本理論の応用例として,日本海中部地震津波で隠岐(島後)で実測された打ち上げ高との比較を試みる.
隠岐島後の海岸線の形は円形に近く,半径r_0=9km程度である(図ー15中の地図参照).海底勾配は方向によって異なるが,海図をもとに隠岐付近の水深分布を直線近似し,m=1/60とする.また,r_2=9kmとする.周期は,検潮記録から6〜7分程度と言われているので,6分とした.すなわち,\betaは8.2程度である.汀線における最大水位R_Hの分布を描いた図が図ー15である.図中の丸印は打ち上げ高の実測値である,ただし,入射方向は,酒井ら(1984)の検討結果から中村の方向とした.
入射波振幅は,理論値と痕跡高が平均的に一致するよう,0.3mとした.
理論解は打ち上げ高の分布の傾向をよく表しており,日本海中部地震津波における隠岐での打ち上げ高は,島による捕捉によりほぼ説明できると言える.また,本理論は長波近似なので,周期が短く\betaが大きいと精度が悪くなると考えられるが,ここで適用した\beta=8程度なら十分実用に供し得ると言える.
なお,上記の諸元を図ー14に当てはめると,隠岐における日本海中部地震津波を表す点は,1/\beta=0.12,r_2/r_0=1となり,2つの共振周波数帯に挟まれた位置にある.また,1次元問題の場合に比べ,増幅率が2倍近いことが分かる.
(2) 奥尻島における北海道南西沖地震津波
次に奥尻島で実測された北海道南西沖地震津波の打ち上げ高との比較を試みる,隠岐が本理論のモデル地形と比較的類似しているのに比べ,奥尻島周辺の地形は複雑で,本理論で仮定した単純な地形では近似することが難しい.しかし,平均的な値として,m=0.075,r_0=8km,r_2=20kmを与える.周期は8分とする.\betaは2.7である.
また,津波来襲方向が必ずしも明らかでないので,ここでは神威脇から青苗岬にかけての海岸で,痕跡高が10m以上の地域の中心点をとり,入射方向とした.入射波振幅は,理論値と痕跡高が平均的に一致するよう,1.3mとした.このようにして汀線における最大水位分布を求めた結果が図ー16である.
理論解は,藻内付近から初松前までの地域を除けば,打ち上げ高の全体的な傾向をよく表している.すなわち,本理論は複雑な地形においても,島をめぐる打ち上げ高の傾向をかなり再現できると言える.藻内付近と初松前で大きな打ち上げ高がでている原因は,入射波形あるいは複雑な地形条件の影響が考えられる、 また,図ー14に当てはめると,1/\beta=0.37,r_2/r_0=2.5なので,日本海中部地震津波における隠岐の場合と同様,増幅率は1次元伝播の2倍近いことが分かる.
5. 結 論
斜面の効果と島の有限な大きさを考慮し,円錐形の島による長周期波の捕捉理論の解を求めた.そして理論解に基づき,島による長波の捕捉の特性を調べた.さらに現地地形に適用し津波の打ち上げ高の観測値との比較を行なった.その結果,以下の結論を得た。
1.島の大きさに比べて波長が長いときには捕捉の影響は顕著に現れず,波は汀線に沿って進行する.
2.捕捉の影響が現れると,汀線に沿って遡上高の高い場所と低い場所が複数箇所現れる.また汀線付近で波は重複波的な挙動を示す,これは,r<2r_0の範囲において必ず波が捕捉されることに関係している.
3.汀線に沿って遡上高が高くなる箇所は(1.5〜1.8)\beta程度である.
4.島の形状によって,捕捉に関する固有周期があり,特定の条件下で波高が著しく増幅される。1次元伝播問題における一様勾配斜面による打ち上げ高との比較により,捕捉の影響が強く現れる条件を示した.
5.隠岐における日本海中部地震津波の打ち上げ高は,本理論によってほぼ説明される.また,奥尻島における北海道南西沖地震津波の打ち上げ高は,藻内付近と初松前を除けば本理論でほぼ説明できる.藻内付近と初松前の打ち上げ高を説明するためには,本理論で考慮していない局所地形の影響などを考慮しなければならない。
参考文献
1) 首藤伸夫:北海道南西沖地震に伴う津波とその教訓,土木学会誌,第78巻,第9号,pp.2-17,1993.
2) 酒井哲郎・石突寿啓:島周辺における津波の挙動(日本海中部地震津波調査),第32回海岸工学講演会論文集,pp.242-246,1984.
3) 田申清:円形島による波浪の回折,第2回海岸工学講演会論文集,pp.33-35,1956.
4) 清川哲志・小林浩・臼野幹雄:軸対称構造物による波の散乱と波九土木学会論文報告集第321号,pp.103-112,1982.
5) Longuet-Higgins,M.S.: On the trapping of wave energy round islands, J.Fluid Mech., Vol.29, part 4, pp.781-821, 1967.
6) Summerfield,W. : Circular islands as resonators of longwave energy, Phil.Trans.Roy.Soc.London, pp.361-402,1972.
7) Wong,K.K., Ippen,A.T. and Harleman,D.R.F.: Interaction of tsunamis with oceanic islands and submarine topographies, M.I.T. Tech.Hydro.Lab. Rep.No.62, 86p.,1963.
8) Lautenbacher,C.C. : Gravity wave refraction by islands, J.Fluid Mech., vol.41, part 3, pp.655-672, 1970.
9) Jonsson,I.G., Skovgaard,O. and Brink- Kjaer,O.:Difraction and refraction calculations from waves incident on an island, J. Marine Research, Vol.34, No.3, 1976.
10) Shuto,N. : Standing Waves in Front of a Sloping Dike,Coastal Engineering in Japan, Vol.15, 1972.
(1994.1.19受付)
CHARACTERISTICS OF LONG WAVES TRAPPED BY CONICAL ISLANDS Koji FUJIMA and Chiaki GOTO
When tsunami attacks islands, there are some cases to damage the islands heavily by the trapping phenomena. Thus, a theoritical solution on the trapping of long waves by conical islands is obtained, which considers the effects of both infinite radius of islands and refraction by slopping beach. Characteristics on variation of spacial distribution of water elevation, characteristics on variation of runup height around coastal line, and characteristics on frequency response of maximum runup height are examined throughthe the oritical solution, then the condition in which the influence of trap is strongly appeared is demonstrated. The heights of tsunami traces in Oki-island and Okushiriisland can be explained satisfactorily by the present theory.
沿岸域の防災に関する 総合数値解析システムの開発 柴木秀之1・青野利夫2・見上敏文3・後藤智明4 1正会員 工修 (株)エコー(〒116東京都台東区北上野2-6-4) 2正会員 工博 東亜建設工業(株)技術研究所(〒230横浜市鶴見区安善町一丁目3) 3正会員 (株) アルファ水工コンサルタンツ(〒063札幌市西区発寒9-14-516-336) 4正会員 工博 東海大学教授工学部土木工学科(〒259-12平塚市北金:目1117)
Abstract
海象災害に関する数値解析の流れを整理し,その解析方法をシステム化した沿岸防災に関する総合数値解析システム(INSPECT system)を新たに開発した,開発したシステムは,日本沿岸を対象に,高波・高潮・津波による突発災害の追算と災害予測を,効率的に処理することを目的にするものである.本論文では,数値解析システムの設計に当たっての基本方針と設計概要にっいて述べる.また,システムの根幹をなす数値シミュレーション理論と日本沿岸の外力解析への適用事例について述べる.
Key Words : INSPECT system, numerical research, coastal disaster, wave, storm surge, tsunami
1. はじめに
わが国は,台風と地震の常襲地域に位置し,冬期に強い北西季節風が吹くという厳しい自然環境にある.
そのため,沿岸域は,海象災害により幾度となく甚大な被害を受けてきた,1959年の伊勢湾台風による高潮災害,翌1960年のチリ地震津波による災害はその代表的なものと言えよう.この2大災害を契機に,沿岸防災に関する研究が脚光を浴び,防災施設の建設も精力的に行われた.しかしながら,1994年北海道南西沖地震津波による奥尻島の甚大な被害例は,過去の被災を踏まえた防災施設の建設により,自然災害を完全に防ぐことに限界があるという貴重な教訓を我々に与えた.
そして,同時に,突発的な海象災害に迅速な対応が可能で,かつ目本沿岸の広範囲における適用が可能な沿岸防災の総合的な解析技術の必要性を痛感した.
沿岸防災を解析する場合,まず始めに行われるのは,発生する災害を引き起こす現象の解明である.現象を科学的な手段を用いて再現し,さらに,将来の再発を予測するのである.このような災害現象の解明を行う場合に,数値シミュレーションは,今日のように電子計算機が発展・普及し,その機能が飛躍的に増大している点から判断すると,最適な手法であると言えよう,しかしながら,数値シミュレーションによる災害現象の解析は,高度な専門技術を必要とする.
そこで,この問題を解決するために,防災に関する既往の数値解析の研究成果を有機的に結び付け,解析の処理方法をシステム化した沿岸防災に関する総合数値解析システム(INSPECT system)を新たに開発した.
開発したシステムは,日本沿岸を対象とし,突発災害の追算と災害予測を効率的に処理することを目的にするものである.また,高度な知識を必要とする従来の解析に比べ,データ作成から数値シミュレーション,結果の評価にいたる一連の処理を半自動化している.本論文では,解析システムを設計するに当たっての基本方針とその方針に沿い開発したシステムの設計概要について述べる.また,システムの根幹をなす高波・高潮・津波の数値シミュレーション理論の概要と日本沿岸の外力解析への適用事例について述べる.
2. 数値解析システムの設計方針
(1)数値解析システムの設計方針
沿岸防災総合数値解析システム(lntegrated Numerical reseach System for Prevention and Estimation of Coastal disaster : INSPECT system)は,日本沿岸に海象災害をもたらす代表的な現象である波浪・高潮・津波の数値シミュレーションとその一連の解析を,簡単な操作により処理することを碧的に開発された一種の防災数値解析のエキスパートシステムである。システムを設計するに当たり,基本とした方針は,煩雑な解析処理と高度な専門知識を必要とすることなく,専門技術者の処理と同等の成果が迅速に出力できるという点である.操作の簡便さを目標とするため,多種にわたる解析処理は対話形式を基本とし,簡単なデータ入力のみで一連の解析が可能なように配慮されている.
(2) 解析システムの機器構成
簡単な操作を基本とするため,当然ながら,使用する機器も操作が簡便なものを選択する必要がある.本数値解析システムは,図ー1に表すエンジニアリング・ワークステーション(EWS)とパーソナルコンピュータ(PC)とその周辺機器により構成され,各々の機器は,その特徴を生かして処理を分担している,これらの機器は,操作が容易でかつ経済的であることから,近年急速に普及している.
システム内において,EWSが分担する機能は,システムの根幹となる波浪・高潮・津波の数値シミュレーションを行うことである.また,PCは,計算に必要な入カデータ作成,計算値と観測値の解析,計算結果の画面と紙面への出力を行う.EWSとPCの間は,ネッ
トワークにより接続され,入・出力情報が相互に伝達される。システムの周辺機器は,EWSとPC各々のハードディスク,PC側に,レーザープリンター・光ディスクユニット・デジタイザーが配備されている.周辺機器が分担する機能は,EWSのハードディスク(1GB)
が推算結果の一時保管,PCのハードディスク(300MB以上)が観測値データベースの保管,レーザープリンターが図表の紙面出力,光ディスクユニットが推算値・気象図・水深図データベース等大容量データの保管,デジタイザーが気象図・水深図アナログ情報のデジタル化である.また,計算結果を動画処理するために,専用のEWS,ビデオの編集・再生等の機器も用意されている.
(3) システムの構成と解析処理
解析システムのソフトウェアは,図ー2に表すように,波候統計解析・波浪推算・高潮計算・津波計算・計算支援の5つのメイン解析システムと支援データベースから構成されている.さらに,メイン解析システムと支援データベースは,各々複数のサブシステムとサブデータベースにより構成されている.
5つのメイン解析システムのうち,波候統計解析は,日本全国の波浪観測値を統計処理するための波浪統計解析と,港湾等の設計波(確率波)を算定するための確率波統計解析の2つのサブシステムが準備されている.波浪推算は,傾度風・台風ハイブリッドモデルと境界層モデルを併用する海上風推算,平面出力型スペクトル法モデルによる日本沿岸を対象とする深海波浪推算,平面出力型パラメータ法モデルによる内湾波浪推算(短フェッチ海域),波の発達・減衰と浅海波浪変形を考慮した平面出力型スペクトル法モデルによる浅海波浪推算,物理因子重回帰モデルによる日本沿岸の波浪予測,単地点出力型スペクトル法モデルによる台風時の波浪予測の6つのサブシステムと,結果の出力システムが準備されている.高潮計算は,多層レベルモデルによる高潮計算,経験則・マスコンハイブリッド風推算モデルによる内湾海上風推算,波浪による水位上昇を考慮した高潮・波浪ハイブリッドモデルによる高潮計算と,結果の出カシステムが準備されている.津波計算は,日本近海の波源津波を対象とする近地津波計算,遠方の波源から大洋を伝播する津波を対象とする遠地津波計算と,結果の出カシステムが準備されている.
計算支援システムは,波浪・高潮・津波計算に共通して用いられ,数値シミュレーションの入・出力を支援するものである.支援システムのうち,気象図処理は,天気図に描かれた気圧等のアナログ情報をデジタル化し,データベース化する.このデータベース化された気圧情報が,波浪・高潮の発達の外力となる海上風推算に利用される.水深図処理は,海底地形図・海図・地形図・深浅測量図等のアナログ情報をデジタル化し,データベース化する.この水深・標高のデジタル情報が,波浪・高潮・津波計算に使用する計算格子と格子点水深データを作成する基礎資料となる.浅海変形計算は,多方向・多周期の浅海域波浪変形計算を行い,任意地点における波向・周期別の屈折・浅水係数表をデータベース化する.本システムでは屈折・浅水係数を合わせて沿岸係数と呼び,この沿岸係数のデータベースは,深海波浪推算により計算される沖波の時系列情報を浅海情報に変換するのに用いられる.
動画処理は,波浪・高潮・津波の計算結果を動画処理し,現象の動的評価を行うことを目的とする.
これらのサブシステムを支援するデータベースとしては,観測波浪・高潮偏差・津波痕跡高等の観測値データベース,気象図データベース,水深図データベース,沿岸係数データベース,台風・断層パラメータ・計算格子・格子点水深等の数値シミュレーシ3ンの入力値データベース,波浪・高潮・津波の推算値データベースの6種類がある.これらのデータベースを複合的に利用することにより,数値シミュレーションの入カデータ作成,観測値と推算値の比較等,解析処理を迅速に行うことが可能となる.
3. システムの解析理論
(1) 波浪解析
a) 風解析
数値解析システムの根幹をなすのは,波浪・高潮・津波現象の数値シミュレーションである.本システムで行う数値シミュレーションの計算理論は次のように概説される.はじめに,波浪発達の外力となる海上風と波浪の計算理論をモデル別に述べる.ここで,海上風とは海上10m高度の風向・風速で定義される.
海上風は,前述した気象図データベースの気圧情報を利用して計算により求める.海上風推算は,傾度風モデルと台風モデルを併用したハイブリッドモデル1)による自由大気の風推算と境界層モデル2)による海上風への変換の過程を踏む.
自由大気の風推算の1つである傾度風モデルの風推算は,自由大気において,気圧傾度力・コリオリカ・遠心力の力学バランスを仮定し,緯度・経度0.5°間隔の格子点気圧値から計算する.この格子点気圧値は,緯度・経度座標系に改めたスプライン平面補間法3)により,気象図データベースの気圧情報を空問補間して求める,台風モデルの風推算は,台風の中心位置・中心気圧と台風規模を表現するパラメータである台風半径から風を推算する.台風の気圧分布は,台風中心から圏外までの気圧を指数関数で近似するMyersモデルを用いる.このモデルで計算される気圧分布から,台風を中心とする対称風(傾度風),台風移動により発生する場の風と2っの合成風が計算きれる.台風モデルを用いる風推算は,場の風という気圧移動に伴う変圧効果を取り込んでいるため,台風影響圏内の風を良く再現することが知られている.
2つのモデルを併用する傾度風・台風ハイブリッドモデルは,気圧分布の同心円近似が可能な台風影響圏内を台風モデルで風推算し,同心円での近似が不可能な気圧場を傾度風モデルで風推算する.そして,2つのモデルの推算風を経験的な関数により空間内挿し,台風影響圏内と傾度風適用範囲を滑らかに接続する.
これにより,推算風は,台風中心からの距離が増加するとともに,次第に傾度風速に漸近する.
推算される自由大気の風を海上風へ変換するために用いる境界層モデルは,大気を自由大気と大気境界層の2層に分離し,自由大気は気圧傾度力とコリオリカ,大気境界層は気圧傾度力・コリオリカ・渦動粘性力がバランスすると仮定するモデルである。大気境界層の全てにおいて,3つのカがバランスし,高度とともに風向・風速は変化する.この力学バランスから,海上風鉛直分布の解析解が求められ,この解から,任意高度の風が高度と海面摩擦速度の関数として計算される.
なお,海面の摩擦速度は,海上風の速度と,本多・光易4)の海面抵抗係数から求める.ここで,境界層モデルの自由大気風に関する基礎式は,直交座標系のカのバランスを表す.これを,曲座標系に変換すれば,遠心力項が力のバランスに現れる.したがって,前述した傾度風・台風ハイブリッドモデルとは,扱う座標系が異なるものの,基礎式の内容は同じである.
b)スペクトル法深海波浪推算
スペクトル法による深海波浪推算は,周波数と波向の関数として表される方向スペクトルの時間的変化を追跡する方法で,基礎式はエネルギー平衡方程式である。本システムでは,磯崎・宇治5)のMRI法を,波浪の発達・減衰のモデル化に利用している.このモデルは,気象庁の波浪予測業務,港湾施設の沖波設計波算定等に多くの実績を持つものである。深海波浪推算では,水深無限大と仮定し,エネルギー伝播速度を周波数のみの関数として定義している.そのため,計算される波浪は,浅海変形の影響を受けない沖波に相当するものとなる.
c)パラメータ法波浪推算
スペクトル法が方向スペクトルを追跡するのに対し,パラメータ法波浪推算6)は,波浪を規定する1つのパラメータである風波のエネルギー変化を追跡するものである,この計算法の波浪発達式は,無次元フェッチと無次元エネルギーの1乗則,無次元波高と無次元周期の3/2乗則の2種類の風波に関する経験則を定式化したものである,風波を対象とする波浪推算法であるため,主に内湾のような短フェッチ海域に適用される、また,風波の経験則を採用していることから,風に対する高い応答性を必要とする低波高の風波の推算に適する特徴を有する.
d)スペクトル法浅海波浪推算
深海波浪推算が浅海変形を受けない沖波を対象とする計算であるのに対し,スペクトル法浅海波浪推算7>は,波浪の発達・減衰と浅海変形を同時に考慮することが可能である.浅海波浪推算も,深海波浪推算と同様に,エネルギー平衡方程式を基礎式とする計算法である.そして,発達・減衰は深海波浪推算モデルと同様の計算を行い,浅海変形は,波浪エネルギーの伝播速度を周波数と水深(空間座標)の関数と定義することにより,屈折と浅水変形を計算する.発達量を無視できない長フェッチ浅海域や湾外からの侵入波が無視できない半閉鎖性内湾の波浪推算において適用する.
ただし,波浪変形を計算する上で,計算格子間隔を1㎞〜数10km程度にする必要があり,広範囲の計算に適用するとジ多大な計算時間を要する.そこで,計算時間を節約するために,外洋域を対象とする深海波浪推算モデルと併用する方法が効率的である.
e)波浪変形計算
ここまでは波浪推算の理論について述べたが,港湾・海岸構造物の設計波を算定するためには,波浪推算だけでは不充分である.第一段階として求められる沖波値から構造物前面における波を推定するためには,浅海域で生ずる浅水・屈折・回折・反射・砕波の諸効果が重要となる。本システムでは,このような浅海効果を考慮した波を推定する方法として,伝播項のみで定式化されたエネルギー平衡方程式による波浪変形計算8)を用いる.
f)波浪予測
次に,平面出力型波浪推算による波浪解析と同様に,沿岸波浪を予測することも,防災上の重要な課題である.波浪推算法は,発達過程にある波を推定することに重点を置いて基礎式が定められていることから,主に高波の推定に用いられるが,波浪予測は低波浪から高波浪までの全ての波高階級を対象とする.特に,施工管理等に波浪予測を利用する場合は,有義波高LOm以下の波高階級が計算対象となる.このような低波高階級も含めて,精度の高い波浪予測を行うために,本システムでは,物理因子重回帰モデル9)を用いる.
物理因子重回帰モデルは,予測式を波浪の発達・伝播・減衰に関する線形回帰式で表し,風波とうねりの波浪エネルギーを説明変数に用いる.この波浪予測モデルは,予測地点のみにおける有義波諸元を計算することを目的とするため,始めに予測地点を中心とする16方向の波向線を放射状に設定し,各々の方向について波浪が独立に発達するものと仮定し,この波向線上で,波向別の成分波の発達量,伝播量を計算する.
そして,全波向から予測地点に伝播する成分波の波浪エネルギーを合成することにより,予測地点の波浪を推定する.
一方,台風来襲時のみを対象とする場合には,波浪推算モデルを利用した波浪予測を行う.この波浪予測法は,予測地点を中心とする波向線上で波浪の方向スペクトルを追跡し,予測地点に到達する方向スペクトルの全成分を合成することにより波浪を推定する.予測の過程で行う計算は,台風モデルによる海上風推算,スペクトル法による波浪推算であり,結果の出力は予測地点のみとする.そのため,本システムでは,この予測方法を単地点出力型スペクトル法3)と呼ぶ.
(2)高潮解析
a)高潮の多層レベルモデル
次に,高潮の計算理論について概説する.高潮による災害は,波浪災害よりも出現頻度は少ないが,一旦発生すると大規模なものとなる.この高潮現象の規模は,発生要因となる気象擾乱,すなわち台風の大きさとほぼ一致し,水深に比べてはるかに大きい.そのため,高潮は,後述する津波と同様に長波理論式で表される.高潮現象は,長波として扱われるが,その特徴は気圧変化による水面の昇降と,暴風による吹き寄せという継続的に作用する外力によりもたらされる強制的な水面変動という点にある.この点は,自由波として伝播・変形する津波と現象が大きく異なる.したがって,高潮の基本方程式は,津波計算の運動量方程式に,気圧勾配項と海面応力項を加えたものとなる.
高潮現象のうち,吹き寄せによる水位上昇は,強風により発達する吹送流が,沿岸部に集中することから発生する.吹送流は,表面流速が最大で,水深が深くなるとともに流速が減少する鉛直分布構造を持つ.このため,吹送流を単層モデルにより近似すると,流れは全水深一様な断面平均流に置き変わり,流量を近似することが可能であるものの,上層流速を過小に評価し,下層流速を過大に評価する問題を含む.そこで,高潮計算では,多層レベルモデル10)を用いて,吹送流の近似精度を高める.さらに,本システムの高潮計算モデルは,海岸護岸の越流と陸域への浸水についても計算することが可能である.
b)内湾海上風の推算
周囲を陸地で囲まれた内湾の海上風は,陸上地形の影響を受けて,外洋の海上風と異なる風場を形成する.この地形効果は,内湾の波浪・高潮の計算精度を大きく左右する.日本沿岸の大規模な高潮は,伊勢湾・大阪湾のような内湾で発達することから,内湾海上風の計算精度の向上は重要な問題となる.
本システムでは,内湾海上風の推算に,経験則・マスコンハイブリッドモデル11)を用いる.経験則2)は,内湾海上風が,有効吹送距離に代表される地形的制約条件に関係する特性を,観測データをもとに定式化したものである.風計算では,陸上地形を3次元計算格子で近似し,地形の起伏を入カデータ化する.この後,初期条件として,各格子点に経験式から推定される海上風場を与え,3次元マスコンモデルを用いて,海上風の風場を求める.マスコンモデルは,質量保存則を束縛条件とする変分方程式を解くものであり,質量保存則を満たすように調整された風向・風速の収束解が求められる.
c)高潮・波浪ハイブリッドモデル
外洋に面する地点で観測される高潮潮位には,波浪による水位上昇量も含まれていることが数多く報告されている12).理論解析13)によれば,海岸部の波浪による水位上昇量は,来襲波高の1割程度に達することが確認されている.このような現象を再現するために,前述した浅海波浪推算により計算される平面波浪場を利用して,Radiation応力を求め,この応力項を含む運動量方程式を基本式とする高潮計算を行う.ここで,平面波浪場は,気象擾乱の移動に伴い時間変化するものである.本システムでは,この計算法を,高潮・波浪ハイブリッドモデルと呼ぶ.ただし,このモデルの計算精度を高めるためには,海岸近傍を100m程度の格子間隔で近似することが必要となる.
(3)津波解析
a)断層モデル
高潮と同様に,津波による災害も,一旦発生すると大規模なものとなる.この津波現象を再現する数値シミュレーションは,初期条件として,地震に伴い生ずる海底地盤変位と同等の海面水位変動を与える.この初期に与える水位は,地震断層モデルから計算される.断層モデルとは,断層面を矩形で近似し,地盤の運動を震源位置と断層の走向・長さ・幅・すべり量・すべり方向・傾斜角の6個のパラメータで幾何学的に表すものである.この断層パラメータを与えさえすれば,弾性理論により断層近傍の海底地盤の鉛直変位が計算で決められ,この鉛直変位分布が初期水位分布となる.
b)近地津波の数値計算
断層モデルにより震源域の初期水位分布,すなわち初期平面波形が与えられると,周囲との水圧差により,水面波となって伝播していく.この波は津波と呼ばれ,波長が数10㎞以上に達するものとなるため,長波近似が可能となる.したがって,津波の現象は長波理論式で記述される.津波の数値シミュレーションとは,津波の水位と流速が,水深と海岸地形の空間的な変化のために,伝播過程で浅水・集中・共鳴効果を受けて変形する過程を数値的に追跡する手法である.この津波数値シミュレーションのうち,賃本近海で発生する津波を対象とする場合に,近地津波計算と呼ぶ14).
本システムでは,既往の研究成果15)に基づいて,計算領域の最低水深に応じて,非線形長波理論と線形長波理論の2つの支配方程式を選択して適用する.選択の基準として,非線形項の大きさが線形項の大きさの10%を超える浅海域では,非線形長波理論(浅水長波理論)を適用する.沖側の境界では,進行性長波の特性曲線の関係をもとに,領域内の波を自由透過させる条件を用いる16).また,陸上への津波の遡上は,非線形長波理論式を用いる場合のみ考慮し,海域格子の水位と陸域格子の地盤高の差を基に,遡上計算の判定を行う.さらに,領域内の防波堤・堤防等について
は,前面水位がその天端高を越える場合に,越流公式
を用いて越流量を計算する.
c)遠地津波の数値計算
日本近海で発生する伝播距離の短い津波に対して,チリ津波のように10,000㎞以上の距離を伝播する津波を遠地津波と呼ぶ17).この遠地津波の現象を扱う場合は,伝播距離の精度を高めるために,緯度・経度で表示される球面座標系を用いる必要がある.また,現象が大規模で,波数分散性を無視することができないため,支配方程式は,コリオリカを考慮した線形分散波理論を適用する.初期条件,沖側境界条件については,近地津波計算と同様である.しかし,海岸線境界では,陸上への遡上を考慮しない.
4.日本沿岸の外力解析への適用
(1)波浪解析と解析システム
a)設計波浪解析の流れと解析システム
始めに,解析システムを利用する目本沿岸の外力解析のうち,波浪解析への適用例について述べる.波浪解析のなかで,重要かつ頻度の高い解析は,沿岸構造物の施設規模を左右する設計波諸元(波高・周期・波向)を決定することである.この設計波浪解析では,波浪災害の原因究明,確率波の算定が主な調査課題となる。図ー3は,港湾の設計沖波を算定する過程を取り上げ,解析手法と関係するシステムを整理したものである.設計沖波の算定は,気象擾乱の抽出,気象図データの作成気象擾乱時の波浪推算,沿岸係数の算定,推算値の検証,極値統計解析,モデル気象擾乱の想定,モデル気象擾乱の波浪推算,設計沖波の決定の順に行われる.関連する解析システムは,波候統計解析,波浪推算システムと支援システムの中の気象図処理,浅海変形計算のサブシステムである。設計波浪解析の手順に沿って,サブシステムは次のように利用される.
気象擾乱の抽出では,対象地点に来襲する高波の発生要因となる気象擾乱を,長期間にわたり期間的な偏りなく決定する.この処理では,波浪統計解析サブシステムにより,年別高波一覧表・期間最大有義波分布等が出力される.これらの情報は,年最大波・極大波に相当する気象擾乱を抽出する場合の根拠となる.
図ー4は,1990年の日本沿岸における最大有義波高・有義波周期と最大波諸元を面的に出力したものである.気象擾乱が抽出されると,この気象擾乱期間の気象図データの作成を行う.気象図データは,風推算の基礎情報となるもので,気象図処理サブシステムにより作成される.図ー5は,気象図データベースに保管された極東天気図と,気圧情報から推算された海上風出力例である.気象図データが作成されると,風推算・波推算を行い,対象地点における高波発生時の有義波高・有義波周期・波向の時系列を計算する.波浪推算システムでは,領域と期間を指定し,EWSにより,連続的に気圧の格子点補間・風推算・波推算が行われる.
風推算は,波浪解析の理論でも述べたように,傾度風・台風ハイブリッドモデル,大気境界層モデルを用
いる.また,波推算は,海域に応じて,平面出力型のスペクトル法深海波浪推算・パラメータ法波浪推算・浅海波浪推算のいずれかを選択する.スペクトル法深海波浪推算は,主に外洋を対象とする広範囲の計算:領域で計算を行うため,地球面上の距離精度が確保される緯度・経度座標系を用いる.例えば,日本沿岸の主要港湾を対象とする場合18)には,風波の発達する広い領域を1/2°格子で近似し,対象港湾に近づくにつれ,陸地の遮蔽効果を表現するために,1/8°,1/24°格子で地形を近似する.一方,パラメータ法は,平面座標系を採用し,内湾のように比較的狭い海域に限定して計算を行う.内湾の地形は,1㎞〜数100m程度の計算格子で近似する.浅海波浪推算も,波浪変形が無視できない浅海域を主に対象として行うことから,パラメータ法と同程度の計算格子を用いる。さらに,浅海波浪推算では,外洋に及ぶ波浪の発達海域を計算領域内に含むことが必要であることから,外洋を対象とする深海波浪推算を併用する.これらの計算法から求められる結果は,全格子点において,擾乱毎に方向別最大有義波高・有義波周期の一覧表として整理され,波浪の推算値データベースに保管する.このデータベースと,次に述べる確率波浪解析システムを利用して,対象地点における設計波を算定する.
確率波浪解析システムは,対象地点の計算値データの抽出,計算値と観測値の相関解析,極値統計解析などの確率波算定に必要な各種処理を行う.まず,長期間にわたる波浪の推算値データベースから,方向別の年最大有義波と極大波が年毎に抽出される,図ー6は,全方位を対象とする年最大有義波と極大波の経年変化を表すものであり,これが対象地点における設計波算定の基礎資料となる.
今,深海波浪推算により計算される沖波相当の計算値が求められる場合について解説を進める.計算値と観測値の相関解析は,計算値の誤差を前提とし,より観測値に近い情報に変換する経験式(補正式)を求めるための処理である.これを迅速に行うために,計算値と同一気象擾乱時の観測値を,波浪の観測値データベースから検索,抽出する.ただし,観測波浪が浅海情報である場合には,沖波計算値を浅海情報に換算した後に,両者の比較を行う必要がある。この換算を行うために,波浪観測地点の沿岸係数を波向・周期別の一覧表の形式にまとめ,該当する波向・周期の係数を沖波値に乗ずる.任意地点の沿岸係数表を作成するために,波浪変形計算を行うのが,浅海変形計算サブシステムである.波浪変形計算を行うためには,計算格子と格子点水深が入カデータとして必要となる。これらのデータは,水深図データベースに保管される対象地点の海岸線・水深情報を利用して作成される. 図ー7は,デジタル化された水深図データベースと,多方向の波浪変形計算領域の範囲を表す.各波向の計算領域は,沖波が沖側境界から直角入射するように作成される.このサブシステムでは,全計算領域の入カデータ作成と全波向・周期の波浪変形計算を,簡単なコントロールデータのみで実行するよっに設計されている.
このようにして,観測値に近い情報へと変換される計算値を利用して,波浪極値統計解析を行う,図ー8は,方向毎に算定された50年確率波高の分布例である.さらに,確率波高に相当する周期は,図に併記される波高・周期の相関図から,等波形勾配線を利用し
て決定する.確率波周期の算定は,発達期から最盛期にかけての波が,一定の波形勾配を有する特性に着目し,確率波高から推定する方法を採用する.
このようにして,本システムを利用すると,日本沿岸の全てを対象とする波浪推算値データベースの蓄積と,これを利用する日本沿岸の波候統計解析19),沿岸確率波分布の作成等の種々の調査を容易に行うことが可能である.図ー9は,日本沿岸を対象とする深海波浪推算により計算された1990年8月8日から12日までの期間最大有義波高の分布である.この波浪推算では,日本沿岸を対象とする1/3°格子と,その外側の1格子で領域構成がされている.1。・格子の範囲は,北緯15°から48°,東経115°から170°であり,太平洋上で発達する波浪を十分に考慮するように設定されている.また,波浪の推算値データベースには,1/3°格子点全てについて,推算期間内の方向別最大有義波諸元が保管される. 次に,外洋と通じる内湾の設計波を算定するために,浅海変形を考慮する必要がある場合は,浅海波浪推算を利用することができる.図‐10は,浅海波浪推算により求められた伊勢湾台風時の最大有義波高の分布である.領域内の地形は,熊野灘から遠州灘にかけての沿岸を1.8㎞,伊勢湾を600m格子で近似している.
計算される平面波浪場を見ると,水深が150m以浅の海域において波浪変形が生じ,波高が減衰する.また,伊勢湾内の西部海域は,外洋からの侵入波の影響を受けていることが確認できる.なお,計算領域の沖側境界では,外洋を対象とする深海波浪推算を先行して行い,この計算から求められる境界格子の方向スペクトルが,計算時間間隔毎に境界条件として与えられる.
b)沿岸波浪予測
波浪解析の中で,設計波浪解析とともに重要なものに,波浪予測がある.本システムの波浪予測法には,日本沿岸を対象に,低波浪期から高波浪期を通じて適用可能な物理因子重回帰モデルによる波浪予測と,台風期を対象とする単地点出力型の波浪予測モデルが挙げられる.
物理因子重回帰モデルによる波浪予測は,予測する時刻と予測計算を行う現時刻の推算波浪エネルギーと,現時刻の観測波浪エネルギーを説明変数とする線形回帰式を波浪予測式として用いる.ここで,予測式中の各説明変数に係る回帰係数は,過去の予測値と観測値との重回帰解析からあらかじめ定めておくことになる.
予測計算においては,説明変数である推算波浪エネルギーを計算するために,現時刻と予測時刻の風推算が必要となる.そこで,現時刻の風推算は速報天気図,予測時刻の風推算は予報天気図から得られる気圧情報を利用して行う.推算海上風から計算される推算波浪エネルギーと観測波浪エネルギーを,波浪予測式に代入すると,瞬時に予測値が計算できる.
図−11は,物理因子重回帰波浪予測モデルを用いた1983年2月の常陸那珂港における12時間後の波浪予測結果である.予測波浪は,風波とうねりの2成分に分離して出力される.上から順に,風波とうねりの合成波の予測波向,予測有義波高と観測値の経時変化,
予測有義波周期と観測値の経時変化,風波とうねりの成分波波向,風波とうねりの相当有義波高と相当有義波周期の各経時変化である.低波浪期,高波浪期とも波浪期,高波浪期ともに,観測値とよく合致する良好な予測結果である.ここで,予測結果を基に,波浪特性について考察を加える.
まず,波浪発達期を見ると,合成波の波向は風波の波向と一致し,波浪減衰期を見ると,合成波の波向はうねりの波向と一致する.また,風波とうねり各々の成分有義波高を見ると,最大の高波が発達した17日は,風波成分が卓越し,20日〜21日にかけての波浪減衰期は,うねり成分が卓越する.周期についても,波浪の発達期は,風波成分と合成波の周期がほぼ同じとなる.ここに述べたように,本システムの波浪予測モデルは,有義波高予測のみならず,有義波周期,波向の予測,風波成分とうねり成分の分離が可能である。
さらに,この沖波予測値は,浅海域の複数地点において沿岸係数データベースを準備すれば,浅海波浪情報に変換することが可能である。すなわち,従来の沖波予測のみならず,港湾・海岸周辺の複数地点を対象とするきめ細かい波浪予測へ応用することが可能である.
一方,台風来襲時のみの波浪予測を目的とする場合,より簡単な方法として単地点出力型の波浪予測モデルがある.図ー12は,高知沖を対象とする台風8219号の波浪追算結果を,PC画面に出力したものである,画面には,台風経路・台風規模・観測波浪の経時変化が表示され,計算の進行とともに有義波高・周期・波向に関する計算値が表示される.この結果は,既往台風の経路・規模等を入力値として与え,台風モデルによる風追算と波浪追算を行ったものであるが,台風の予測経路および規模等の情報を入力すると,台風時の波浪予測を行うことが可能である.なお,入力はマウス・キーボードで行い,予測計算も全てPCのみで行われる.試算の結果,5日間を対象とする波浪予測の所要時間は約1分である.
(2) 設計潮位解析と解析システム
a)設計潮位解析の流れと解析システム
波浪とともに,沿岸構造物の設計を行う場合に必要な外力解析に,設計潮位の解析が挙げられる.特に,沿岸防災を目的とする海岸保全施設等の設計では,設計潮位を定めることが重要な課題となり,設計潮位として高潮・津波により生ずる異常潮位が用いられる.ここでは,本システムを利用する設計潮位解析の流れを述べるとともに,海域別の設計潮位解析への適用事例を挙げる.
設計潮位の算定ならびに防災構造物による潮位の低減効果等を調べるために,高潮・津波の数値シミュレーションがよく用いられる.図ー13は,数値シミュレーションを中心とする設計潮位解析と解析システムの関係を整理したものである.設計潮位は,通常,高潮・津波により生じた既往最大値を基本とする。そのため,始めに,設計潮位に該当する既往最大の高潮・津波水位を定める.そして,既往最大水位の要因となる現象が,高潮であれば台風を,津波であれば波源を選定し,この条件下で,高潮・津波の再現計算を行う.
数値シミュレーションを行うためには,計算範囲の決定と,計算格子・格子点水深による地形近似が必要となる,また,高潮計算であれば台風パラメータ,津波計算であれば断層パラメータ等の入カデータ作成が必要となる.
一般に,高潮・津波の数値シミュレーションは,台風または波源を含む沖合海域から対象とする海岸・港湾区域にかけて,格子間隔の異なる領域を順次結合し,同時計算を行う.計算を短時間で効率的に行うためには,大きい計算格子間隔で地形近似を行えばよい.しかしながら,計算において,数値計算上で現れる離散化誤差と打ち切り誤差を小さく抑えるためには,波長の1/20から1/30以上の細かい格子間隔を適用する必要がある20)・21).高潮・津波の波長は,沖合の深海域で長く,水深が浅くなるとともに短くなる.そのため,計算誤差を小さく抑え,かつ計算を効率的に行うためには,波長が長い深海域で格子間隔を大きくし,波長が短い浅海域で格子間隔を小さくする格子配置計画が重要となる.ここで,本システムでは,沿岸格子を200mで地形近似することを基本としている.
このようにして,既往最大の高潮・津波の再現計算を行った後,計画地形に関する予測計算を行うという段階を踏む.計算結果が得られると,結果の解析と設計潮位の検討が行われる。さらに,必要に応じて,モデル台風・モデル断層による予測計算を行う.
本解析システムは,日本沿岸の海域を選択することで,図に示す一連の潮位解析に関する処理を行うことが可能な数値解析システムとして設計され,どの海域についても適用可能な汎用的システムである.
解析システムの根幹をなす数値シミュレーションの最大の特徴は,決められた書式のコントロー一ルデータを編集するだけで,海域・外力別の計算プログラムを作成し,入カデータを入力値データベースから抽出するように設計されている点である.このコントロールデータの編集はPC画面による対話形式で行い,1つのデータにより,高潮・津波計算に必要な計算格子・格子点水深と,計算範囲・格子間隔・時間間隔・断層パラメータまたは台風定数等の入力情報とが連結し,すばやく計算準備が完了する.
ここで,数値シミュレーションに使用する計算格子・格子点水深は,あらかじめ入力値データベースに登録する.計算格子・格子点水深データは,水深図処理サブシステムと水深図データベースを利用することにより,日本沿岸の海域・陸域の区別なく,任意の計算範囲,任意の格子間隔で作成することが可能である.
また,港湾・海岸等において詳細な地形近似を必要とする場合には,対象港湾・海岸の計画平面図や深浅測量図等をデータベース化すれば,詳細な格子情報が作成できる.
先に,数値シミュレーションにおいて海域を選択すると述べたが,高潮・津波の計算システムは,日本沿岸を海域別に分割してシステム化することを基本としている14)・22).これは,日本沿岸の全てを詳細な地形近似で同時に計算することが効率的ではないことと,海域別に対象とする台風津波の波源が異なるためである.海域別のシステムは,それ自体で完成されたものであるが,海域内の新たな港湾・海岸を対象とする計算を行う必要が生じた場合には,対象とする港湾・海岸の計算格子等の入カデータを,入力値データベースに随時追加・拡張すれば良い.また,断層・台風の情報は,識別番号が割り当てられ,既往高潮の計算では,台風番号を選択して,台風データベースから入カデータを作成する方法を採用しており,既往津波の計算であれば,津波番号を選択することにより,断層パラメータデータベースから入カデータが作成される.
このようにして実行される数値シミュレーションの計算結果は,高潮・津波の出カサブシステムにより画面または紙面に出力される.また,格子点毎の最大高潮偏差・最大津波高等の情報が,高潮・津波の推算値データベースに収録される.この計算値は,観測値デ一タベースに収録されている高潮偏差または津波痕跡高のデータと照合され,計算精度の検証ならびに計算値の補正を容易に行うことが可能となる.図-14は,大正12年関東地震津:波来襲時の南関東沿岸における津波痕跡高と最大津波高計算値の沿岸分布を比較したものであり,痕跡高と計算値の沿岸分布に良好な一致が見られる.
b)海域別高潮解析システム(伊勢湾)
次に,海域別高潮・津波の解析システムの適用例として,過去最悪の高潮災害となった伊勢湾台風時の伊勢湾の高潮解析について述べる.伊勢湾の設計潮位の解析では,伊勢湾台風による高潮の平面分布が,そのまま設計潮位条件を決定するための基礎資料となる.この高潮解析の中心となる高潮数値シミュレーションを精度良く行う上で,計算範囲と計算領域内の地形近似の精度を決定することは,計算準備段階の重要な検討項目となる.
高潮は,台風接近時刻に顕著となるが,台風が遠方に位置する場合も,台風圏内で発生した自由波が外洋を伝播し,湾内に侵入して水位を上昇させることがある.いわゆる高潮前駆波の1要因である.さらに,外洋で発生する吹送流が沿岸部に吹き寄せられ,湾口部から湾内全域の水位上昇に影響を及ぼすことも考えられる.このため,高潮計算の領域は,大陸棚と内湾を中心とする海域と台風の通過海域を含む広範囲の外洋域で構成する.
一方,沿岸部は,港湾構造物等の微細な地形が高潮に与える影響を評価可能なように,数10km程度の格子近似は最低必要となる.また,水深の浅い内湾域では,天文潮位の影響を無視できない.特に,高潮に伴う陸上浸水量を計算する場合には,精度の高い天文潮
位の計算が必要となる.ただし,現在の潮汐計算の技術では,外洋の潮汐計算と内湾の高い精度を必要とする潮汐計算を同時に行うことは,外洋境界条件の情報不足もあり,適切な方法とは言えない.このような点を考慮し,高潮の計算システムでは,計算領域を,外洋領域と内湾領域に分離する方法を採用し,計算の効率化を図る.ここでは,伊勢湾を比較的粗い計算格子で地形近似した外洋領域の高潮計算の例を述べる.
図ー15は,伊勢湾高潮解析システムを利用して計算された外洋領域における伊勢湾台風時の最大高潮偏差の分布である.太平洋を含む広範囲を対象とする外洋領域は,計算を効率的に行うために,8領域で構成し,3240m格子の外洋域から600m格子の伊勢湾を中心とする沿岸域へと,次第に小さい格子により地形を近似する.各々の領域は,1/2または1/3の比率で,段階的に格子結合がなされ,全領域で連続計算を行う.
次に,流速に着目してみる.図ー16は,上層厚を30mとする2層モデルにより計算された伊勢湾台風時の沿岸域における上・下層の流速分布である.図を見ると,風向と同方向の強流速帯が上層に現れている.
一方,下層は反流が生じている.このように,多層化を行うことにより,上層の流速分布は現象により近いものとなる.
さらに,高波が来襲する海岸における発生高潮の計算精度を高めるために,波浪による水位上昇量を考慮する.図ー17は,気圧・風効果のみを考慮したモデルと,波浪による水位上昇も考慮した波浪・高潮ハイブリッドモデルにより求められる伊勢湾台風時の最大高潮偏差の分布を比較したものである.左図の気圧・風効果のみを考慮した場合に,熊野灘で,伊勢湾台風の上陸時の中心気圧950hPaにほぼ該当する60cm程度の最大高潮偏差が計算される.しかし,この計算値は,観測された最大高潮偏差よりも1.Om程度過小となる.
一方,右図に示す波浪効果も考慮した場合,熊野灘から遠州灘にかけての海岸部において,40〜50cm程度の波浪による水位上昇量が風・気圧効果の上に重なって計算される.この結果は,海岸部の地形近似を600m格子で行ったものであり,波浪による水位上昇を計算する上で粗い地形近似である.そのため,波浪による水位上昇は,依然過小と考えられるが,地形近似を10km格子程度で行うと,高潮の再現性はさらに向上する.
ここで述べたように,高潮の設計条件を決定するに当たり,現象を的確に捉え,数値シミュレーションに反映することが重要な点となる.
次に,伊勢湾奥を200m格子で地形近似する港湾内の高潮予測の事例について述べる.図-18は,伊勢湾奥の名古屋港周辺における昭和34年の伊勢湾台風来襲時と高潮防波堤(開口幅500m)設置時の仮想地形の最大高潮偏差の平面分布を表す.左図が再現値,右図
が予測値である.高潮防波堤による名古屋港内の高潮低減効果が予測されている.
c)海域別津波解析システム(三陸沿岸)
次に,津波の海域別解析の事例として,三陸沿岸を対象とする津波解析について述べる.三陸沿岸は,日本の代表的な津波常襲地帯であり,過去に,幾度となく大規模な津波災害が発生している.
図ー19は,三陸沿岸を対象とする津波数値シミュレーションを行う海域の領域区分の構成である14).
三陸沿岸の計算領域は,領域内の水深により,前述した計算誤差を抑えるための格子間隔の設定基準を用いて,33領域に分割している.計算領域は,格子間隔AからFまでの6段階に分けられ,近地津波の波源域を網羅するA領域は格子間隔5,400m,対象港湾である大船渡・釜石・久慈・八戸の4港湾の地形を近似する,F_1〜F_4領域は50m格子である.数値シミュレーションを行う既往の近地津波の断層パラメータは,入力値データベースに登録されている.
一方,遠地津波であるチリ地震津波については,あらかじめ太平洋伝播計算を行い,三陸沿岸における津波入射波形を津波推算値データベースに登録する.そして,チリ津波の入射波形を格子間隔5400mで近似されたA領域の沖側境界において,入射波条件とし
て与え,三陸沿岸の津波数値シミュレーションを行う2段階の方法を用いる.
図−20は,チリ地震津波の太平洋伝播計算から求められた津波の伝播図である.図の数字は,津波発生からの経過時間を表す.チリ地震津波の太平洋伝播計算の範囲は,太平洋全域を含む南緯60度から北緯60度,東経120度から西経70度,計算領域は1領域で,格子間隔は一律に緯度・経度で10分(赤道距離で約18.5㎞)を用い,総計算格子点数は約73万個に及ぶ.
図‐21の上図は,三陸沿岸の津波計算によるチリ地震津波来襲時の大船渡湾の最大津波水位分布である.
図中の数値は,T.P.(m)を基準としている.また,図中に陸上浸水域を表す.大船渡湾のチリ地震津波は,湾口部で1.8m程度,湾奥部で4.5m程度の水位となり,湾全体でみると,湾口部から湾奥部に向かって水位が次第に高くなっている.湾の固有振動との共振による津波増幅と,市街地まで拡がった陸上浸水が再現されている.
一方,下図は,大船渡湾に湾口防波堤が設置される地形を想定する場合に,予測されるチリ地震津波来襲時の最大水位分布である.図を見ると,津波の最大水位は,湾口部で1.2m程度,湾奥部で1.9m程度となり,湾内全体の津波水位は湾口防波堤により半減する.
それに伴い,浸水域も,海岸線に津波防潮堤がなく,かつ地盤高の低い区域に限られることが予想される.
ここに述べた津波や,前述した高潮の数値シミュレーションにより明らかにされる水位・流速の平面情報が,港湾内の防災構造物の機能を定量的に把握し,かつ防災構造物の効果的な配置計画及び構造設計を行う上で有効となる.

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5. おわりに
本論文は,日本沿岸における波浪・高潮・津:波災害を対象とする防災関連調査の効率化を目的として,新たに開発した沿岸防災総合数値解析システム(INSPCT system)の設計概要と,システムの根幹をなす数値シミュレーションの計算理論,日本沿岸海域への適用事例について概説したものである.本システムの特徴を整理すると,以下のようにまとめられる.
1.数値解析システムは,波浪・高潮・津波の数値解析に関する技術と解析方法を系統的に整理し,観測情報の整理,数値シミュレーションの入カデータ作成,数値シミュレーションの実施,結果の解析,評価までの一連の処理を効率的に行えるように開発したものである,システム設計の基本方針は,技術者が,煩雑な解析処理と高度な専門知識を必要とせず,対話形式による簡単な操作で,迅速に成果を出力することである.
2.使用する機器は,操作が簡単で近年広く普及しているエンジニアリングワークステーションとパーソナルコンピュータ,ならびにその周辺機器で構成されている.解析の成果は,画面・紙面出力の2種類を選択することができる。
3.システムは,波候統計解析・波浪推算・津波計算・高潮計算・計算支援の5つのメインシステムと観測値・気象図・水深図・沿岸係数・数値シミュレーションの入力値・推算値の6種類の支援データベースから構成されている.各々のメイン解析システムと支援データベースには,複数のサブシステム・サブデータベースが準備されており,多数のシステムとデータベースを複合的に利用して解析処理を行うように工夫されている.
システムの根幹をなす数値シミュレーションは,海上風・波浪・高潮・津波個々の研究成果を踏まえた最新の数値計算技術に基づくものである、本論文では,システムを現地に適用した事例のうち,代表的なものを解析種類別にとりあげた.
システム開発に当たり,最新の数値シミュレーション技術の導入を目標としたが,今後改良すべき課題も幾つかある.それは,新たに開発される最新の数値計算技術を段階的に取り込むことである.例えば,風推算では,移動性低気圧や前線に見られる変圧効果を盛り込んだモデルがあり,波浪変形計算では,広領域における回折効果を考慮したモデルと海岸近傍における強非線形・強分散性を考慮した平面型モデルとの併用がある.津波計算では,ソリトン分裂する津波を計算する平面型の非線形分散波方程式モデルが挙げられる.
また,高潮計算では,密度効果を考慮したモデル等が挙げられる。
今後,これらの数値計算モデルの開発を継続的に行い,システムに組み込むことにより,システム全体の技術水準を向上させる予定である.一方,既に構築済みのものの中にも,例えば,外洋伝播計算システムは,短周期の津波伝播計算精度に依然問題が残されており,近地津波計算用の海域別システムも津波周期によって,地形近似精度に問題が残る.したがって,今後の計算機能力の向上に合わせて,海域別システムの継続的な地形近似精度の向上(高精度化)を行う必要がある.
さらに,未整備の海域別システムの段階的な構築を行い,9本沿岸全域に適用事例を拡大しながら,システム全体の規模を拡張していく予定である.
謝辞
本研究は,著者らが運輸省港湾技術研究所に在籍していた時代,著者の一人が東京大学工学部土木工学科研究員として在籍していた時代を通じて,解析した結果を新たにとりまとめたものである.東北大学理学部鳥羽教授,東京大学工学部渡辺教授,磯部教授,運輸省港湾技術研究所野田所長,波浪研究室平石室長,京都大学防災研究所高山教授,神戸大学堀江教授から貴重な御指導,御助言を得た。また,港湾技術研究所海象調査研究室からは貴重なデータを提供して頂いた.
さらに,運輸省第二港湾建設局佐藤技官,技術研究所根岸元職員の助力を得た.ここに,記して譜憶を表す.なお,標高・海岸線データは,国土地理院国土数値情報を,水深データは,海上保安庁水路部水深統合データを利用した.
参考文献
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12) 小西達男:外洋に面した港湾で生ずる高潮に対するWave setupの寄与について,海と空,第66巻4号,pp.45-57,1991.
13) 合田良実:浅海域における波浪の砕波変形,港湾技術研究所報告,Vol.14,No.3,pp.5g-106,1975,
14) 後藤智明,佐藤一央:三陸沿岸を対象とした津波数値計算システムの開発,港湾技術研究所報告,Vol.33,No.2,1993.
15) 首藤伸夫:津波の計算における非線形項と分散項の重要性,第23回海岸工学講i演会論文集,pp.432-436,1976.
16) 後藤智明,小川由信:Leap-frog法を用いた津波の数値計算法,東北大学土木工学科資料,1982.後藤智明:遠地津波の外洋伝播計算,港湾技術研究所報告,Vol.30,No.1,pp.3-19,1991.
17) 後藤智明,亀山豊,柴木秀之:日本沿岸波浪の推算システム,海洋開発論文集,Vol.8,1992.
18) 青野利夫,佐藤〜央,後藤智明,池田明弘,貝本沿岸の極大波浪の出現特性について,第40回海岸工学論文集,pp.111-115,1993,
19) 今村文彦,後藤智明:差分法による津波計算の打ち切り誤差,土木学会論文集,Vol.375,pp.241-250,1986.
20) 長谷川賢一,鈴木孝夫,稲垣和男,首藤伸夫:津波の数値計算における格子間隔と時間積分間隔に関する研究,土木学会論文集,Vol.381,pp.111-120,1987.
21) 柴木秀之,戸引勲,額照恭史,後藤智明:南関東津波計算システムの開発,海洋開発論文集,Vol.10,pp.265-270,1994.
(1997.11.7受付)
DEVELOPMENT OF INTEGRATED NUMERICAL RESEARCH SYSTEM FOR PREVENSION AND ESTIMATION OF COASTAL DISASTER Hidenori SHIBAKI, Toshio AONO, Toshifumi MIKAMI and Chiaki GOTO
This paper presented an outline of the design, basic theory of numerical research and applications of the Integrated Numerical Research System for Prevention and Estimation of Coastal disasTers ( INSPECT) system.
This system was developed to efficiently perform studies for preventing disasters on Japanese coasts due to wave, storm surge, and tsunami.
Leap-Frog法を用いた島周辺の津波数値計算における格子間隔選定基準 藤間功司1・正村憲史2・林建二郎3・重村利幸4・後藤智明5 1正会員 工博 防衛大学校助教授 土木工学教室(〒239-8686横須賀市走水1-10-20) 2正会員 修(工) 防衛大学校助手 土木工学教室 3正会員 Ph,D, 防衛大学校助教授 土木工学教室 4正会員 Dr.Eng, 防衛大学校教授 土木工学教室 5正会員 工博 東海大学教授 工学部土木工学科
Abstract
汀線付近に鉛直壁を設置した円錐形の島モデルにおける線形長波理論の過渡波解を求めた.津波数値計算に広く使われている,Staggered格子を使用したLeap-Frog法により求めた数値解を理論解と比較し,格子間隔と津波数値計算の精度との関係を検討した。その結果,計算誤差を代表する相田のパラメタ\kappaの変化が,式(18)で示される簡単なパラメタで表されることが分かった.また,\kappaと最大津波高の誤差や島回りの津波高の最大誤差などとの関係を調べた.これにより,最大津波高などに関して必要な計算精度を仮定すれば,それを得るための格子間隔の基準を決定することが可能になる
Key Words : tsunami, conical island, trapping, tsunami numerical simulation, criterion for grid size
1. はじめに
津波防災計画の策定にあたり,対象地域における歴史津波の再現や,想定地震により発生する津波の予測などに,staggered格子を使用したLeap-Frog法による数値計算が広く用いられている,その際,精度の高い数値計算結果を得るには,十分に細かな格子を用いる必要がある.しかし,今のところ,水平床1次元伝播問題1)と一様勾配斜面上での遡上問題2)に関する基準以外,適切な格子間隔選定基準が得られていない.そこで,屈折の効果が効く平面2次元問題において,精度の良い結果を得るためにどの程度の格子間隔を用いる必要があるか,検討する必要がある.
屈折の効く場合に格子間隔選定基準が定められていない理由は,主として以下の2点であろう.
1.格子間隔選定基準を決定するには,同一の支配方程式と地形条件のもとで得られた数値解と理論解を比較する方法が一般的であるが,斜面を有する2次元問題では理論的に解を求めるのが容易でない.津波の屈折に着目した場合,線形理論で十分な精度を有すると考えられるが,現実には線形理論であっても,エッジ波や円錐形の島回りの解など,ごく限られた場合でしか厳密解が得られていない.
2.周期解を使用してこの種の検討を行うには定常状態に達するまで数値計算を実施しなければならず,かなりの計算時間が必要になる.また,長時間にわたって数値計算を実施するには,進行方向が一定でない散乱波を境界で自由透過させる必要があるが,このような境界条件は必ずしも確立されていない.
ところが,最近,藤間ら3)は円錐形の島回りにおける線形長波理論の過渡波解を求めている.この解は,数値計算に使われる線形長波理論とまったく同じ支配方程式の解であり,また過渡波解であるため上記2.の問題も生じない.そのため,藤間らの解を使えば,島回りの格子間隔選定基準に関する厳密な議論が可能になる.
ただし,藤間ら3)の過渡波解は静水深がゼロの汀線を有するモデル地形で求められているため,同じ地形条件で数値解を求めると解が不安定になる可能性がある.
そこで,藤間らの理論を若干修正し,汀線付近に鉛直壁を設置したモデルに対する理論解を求め,数値解と比較する.そして,理論解と数値解を比較し,鉛直壁に沿った島回りの津波高分布を精度よく再現するための格子間隔選定基準を決定する.
2. 理論解
(1) 周期波解
モデル地形を図ー1に示す,島の海岸線の半径をr_0,勾配をmとする.島斜面上では,水深hはh=m(r-r_0)である.r>r_1=r_0+r_2では,水深h_1(=mr_2)の水平床とする.r=r_3=r_0+r_4に鉛直壁があり,鉛直壁における水深をh_3(=mr_4)とする.ただし,島の中心を原点とし,入射波の進行方向をx軸に取る.
いま,津波の角振動数を\sigmaとし,次式で表わされる周期波解を考える.
(1)
線形長波理論を用いると,R_nの支配方程式として次式が得られる.
(2)
ただし,\xi,\betaは次式で表わされる.
(3)
ここで,gは重力加速度である.
藤間・後藤4)は鉛直壁の存在しないモデルに対する解として,上式のr=r_0で発散しない基本解耳、F_{n,\beta}(\xi)を導いている.しかし,本モデルではF_{n,\beta}と独立なr=r_0で発散する基本解も考慮に入れる必要がある.
そこで,r=r_0で発散する基本解を求め(付録参照),G_{n,\beta}とする.すると,本モデルにおける島斜面上の解は次式で与えられる.
(4)
入射波の振幅を1とし,以下のように表す.
(5)
ただし,J_nはn次の第1種Bessel関数であり,波数k_1は次式で表わされる.
(6)
このとき,水平床上の解は次式で与えられる.
(7)
ただし,H^(1)_nはn次の第1種Hankel関数である,複素定数、A_n,B_n,C_nはr=r_3でr方向流量がゼロになり,r=r_1で斜面上の解と水平床上の解による水位と流量が連続に接続するよう,以下の連立1次方程式を解くことにより得られる.
(8)
ただし,\xi_1,\xi_3は以下の通りである.
(9)
(2) 過渡波解
過渡的な入射波の波形は,次式で表わすことができる、
(10)
ただし,\phiは各成分波の複素振幅である.
この入射波に対する島斜面上での解は次式で与えられる.数値積分は藤間ら3)と同じ手順で行えばよい.
(11)

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3. 格子間隔と数値計算の精度との関係
検討を行ったケースを表ー1に示す.なお,表中のパラメタSは藤間ら3)が導入したパラメタである.S=1と書かれたケースでは,入射波が一谷一山のみ有する引き初動の単一正弦波で,3=2,4の場合は,入射波が2波,4波からなる引き初動の連続正弦波である.すべてのケースで振幅は1m,鉛直壁設置水深h_3は10mである.それぞれのケースに対し,格子間隔\delta xを変えて線形長波理論を用いた数値計算を5〜14通り行い,鉛直壁における水位経時変化の最大値(以後,津波高と呼ぶ)の分布を算出し,理論解と比較する.数値計算には,staggered格子を用いLeap-Frog法で差分化する一般的な津波数値計算手法を用いる.
例として,Case18の数値計算結果と理論解の比較の一部を図ー2に示す,図から分かるように,格子間隔が非常に大きい\delta x=1800mの場合,計算値は全体的に過小評価になっている.この場合,\sqrt{gh_1}T/{\delta x}=20.4であり,水平床部分での数値誤差は無視できる1).しかし,Leap-Frog法には屈折効果を過小評価するという誤差特性があるため,屈折して島に到達すべき津波が島に到達せずに背後に伝わってしまい,結果として島に到達するエネルギー総量が過小評価になったものと考えられる.格子間隔がやや小さい\delta x=800mの場合,平均的な津波高はほぼ理論値と一致するようになるが,ばらつきが大きい.これは,津波を後ろに逸らしてしまうほどの誤差はないものの,到達場所まで正確に計算されていないものと解釈できる.また,円形の汀線(鉛直壁)を直交格子の境界で近似するために汀線で一種の散乱波が生じ,数値振動を引き起こしている,格子間隔がさらに小さく\delta x=200mになると,すべての場所で理論解と数値計算結果が一致するようになる.
これから,既往の数値計算モデルを使用しても,格子間隔を十分小さくすれば島回りの津波伝播を精度よく再現できることが確認できる.
津波数値計算の精度を評価する際,相田のパラメタ(対数を用いた幾何平均Kと標準偏差\kappa)がよく使われている,Kと\kappaはそれぞれ次式で表わされる.
(12)
(13)
ただし,R_{jt},R_{jc}はそれぞれ鉛直壁に面したj番目の格子における津波高の理論値と計算値で,N_dはR_{jt}R_{jc}を算出する格子数を表わす.
さて,Case1〜9の比較から,入射波形のみS=1,2,4と変化させた場合,格子間隔が同じなら,ほとんどKと\kappaに変化がないことが分かった,したがって,計算誤差を議論する際にはSの影響は考慮せず,定常波理論のパラメタのみを考えればよいであろう.
理論展開から明らかなように,周期解は\beta,r_2/r_0,r_4/r_0の3つのパラメタで記述される.そこで,数値計算:格子による島の分割数を表すr_1/\delta xと,\beta,r_2/r_0,r_4/r_0の4つのパラメタのべき乗の積で表される関数形を仮定し,Kと\kappaとの相関を調べたところ,r_4/r_0の影響は比較的小さく,以下のパラメタの組み合わせがKと\kappaの変化をよく表すことが分かった,
(14)
上式のパラメタr_1/(\xi_1\deltax)でKと\kappaの変化をまとめた結果を図一3,4に示す.この2種類の図をもとに格子間隔選定基準を決定することが可能である.
津波高の平均値のみを精度よく再現することが目的であれば,例えば計算誤差を10%以内に抑えたいなら,|K-1|<0.1になるよう\deltaxを決定すればよい.図一3から,この条件は次式により満たされる。
(15)
なお,このパラメタが5より大きいとKは1よりやや小さく(すなわち数値計算の津波高はやや過大評価),\delta xを小さくしていくとKは徐々に1に近づく.この傾向は,長谷川らが示した水平床1次元伝播問題におけるLeap-Frog法の誤差特性と同じである.
津波高分布を正確に再現するためには,\kappaに基づく基準が必要である.しかし,\kappaはいわば計算誤差の標準偏差であり,\kappa<1.1であっても局所的に10%以上の誤差になるため,誤差の大きさを直感的に判断しづらい.そこで,以下の各種誤差と\kappaの関係を調べる.
・最大津波高の誤差E_1
(式)
・最大津波高に対する最大誤差E_2
(式)
・島正面における局所誤差E_3
(式)
・島背後における局所誤差E_4
(式)
・最大局所誤差E_5
(式)
ただし,.R_f,R_bはそれぞれ\theta=180°,0°における津波高である.max{Rj}は鉛直壁に沿った津波高の最大値で,本論文では最大津波高と呼ぶことにする.
例として,図一5に\kappaと最大津波高の誤差E_1との関係を示す,図一2からも分かるように,ある地点での計算結果は,格子間隔が小さくなるにつれて過小評価になったり過大評価になったりしながら理論値に近づく.
したがって,全体としては精度が悪いにも関わらず,地点によって津波高に関する計算精度が高いこともあり得る.最大津波高に関しても同様である.図一5で,\kappaが大きくてもE_1が小さいケースがあるのはこのためである。しかし,\kappaは計算誤差の標準偏差だから,\kappaによって決まる計算誤差の事実上の上限値が存在する.図一5を見ると,図中の曲線より左側でデータがばらついた形になっており,曲線がκによって決まるE_1の上限値であると見なしてよいであろう.
図一5と同様に,\kappaと各種誤差の上限値との関係を求めた結果を表一2に示す.表から,最大津波高の誤差を10%以内に抑えたいなら,\kappa<1.O3になるよう格子間隔を決定すればよいことが分かる.また,そのとき,任意地点における津波高の計算誤差は最大津波高の15%以内である, 図ー4を用いて\kappa<1.O3になるよう基準を決定すれば,島の遡上高分布を再現するための格子間隔選定基準として次式が得られる。
(16)
ところで,上式のパラメタは以下のように変形できる.
(17)
実際の島では,r_2/r_0が0.5〜10程度の値を取ることが多い.このとき,(\sqrt{r_2/r_0}+\swrt{r_0/r_2})の値は2〜3,5の範囲であり,それほど大きく変化しない。したがって,r_2が含まれない簡単なパラメタ
(18)
を使用し,格子間隔選定基準(16)の簡便な近似式を作ることができる可能性がある.
新しいパラメタ(18)と\kappaの関係を図ー6に示す.図から,\kappaが比較的大きい領域では先のパラメタに比べて相関がやや悪いが,\kappaが小さい領域では先のパラメタと同程度の相関があることが分かる.したがって,必要とする計算精度に\kappa=1.O3程度を想定するなら,より簡単な新しいパラメタを使うことに問題はないであろう,新しいパラメタを使うと,\kappa<1.03に対応した基準として次式が求められる.
(19)
この基準により,島の遡上高分布を精度よく再現するために必要な格子間隔を簡便に決定できる.
なお,図ー6における\kappaの上限値は,ほぼ
(20)
で近似できる.上式と表ー2を使うことにより,最大津波高などに必要とされる計算精度を仮定すれば,それを満たすための格子間隔の基準が容易に決定できる.
奥尻島のように方向によって勾配が著しく異なる場合に本研究の結果をそのまま適用することには問題もあるが,例として奥尻島の平均的なパラメタとしてr_0=8km,m=0.075を使い,式(19)の基準を適用すると,北海道南西沖地震津波(T=480s)を計算する際に必要な格子間隔として,123mという基準が得られる.また,勾配として青苗海脚付近の1/120を使った場合同様に41mという基準が得られる.これは円錐形の単純なモデルを使用して得られた結果であり,詳細な地形を考慮すれば,より細かな格子を使用しなければならないこともあり得る,しかし,少なくとも,奥尻島での遡上高を再現するには,平均的に120m,青苗海脚で40mより細かい格子を採用する必要があると結論できる.

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4. パラメタ(18)の物理的意味
前節では,次元解析的な手法により格子間隔選定基準(16)を決定し,近似式として式(19)を提案したが,ここでは式(19)中のパラメタ(18)の物理的意味を考察する.
屈折の効果が効く場合,波向線の到達位置のずれをD,波長をLとすると,L/Dが数値計算の精度を代表するパラメタになり得るであろう,いま,波向線方程式に波速c=\sqrt{gh},h=m(r-r_0)を代入するとx軸に対する波向線の角度を\Thta,波向線に沿った座標をsとし,円錐島の斜面上での波向線の角度変化を表す次式が得られる.
(21)
すなわち,波向線の角度は\delta x間に最大で\delta x/{2(r-r_0)}変化する.佐山ら5)が行った一様勾配斜面上での津波伝播に関する検討によると,Leap-frog法による津波数値計算の結果から求めた波向線は,スネルの法則を用いて\delta x間隔で折れ線を連ねて求めた波向線とほぼ一致する.したがって,既往の津波数値計算手法では,近似的に\delta x間で波向が変化しないと見なしてよいであろう.そこで,波向線位置に関し,\delta x間に最大で\delta x^2/{4(r-r_0)}の計算誤差が生じる(図ー7参照).
したがって,波向線到達位置の誤差Dは
(式)
で特性付けられる。一方,波長は波が汀線に近づくと短くなり,汀線付近でのr方向波長L_{\tau}は
(式)
で表される.したがって,
(22)
と評価できる、津波が捕捉される領域4)の外縁r=2r_0での値を使うと,r=2r_0における\xiの値が\betaなので,上式は以下のように表される.
(23)
すなわち,パラメタ(18)は,波が捕捉される領域における,屈折に関する計算精度を代表していると言える.
また,津波が捕捉される領域の外縁r=2r_0上での水深がmr_0なので,パラメタ(18)は,単純に捕捉領域外縁における波長の分割数と解釈することもできる.
なお,式(23)において,r_0をr_1に,\beta(=\xi|_{r=2r_0})\xi_1(=\xi|_{r=r_1})にと,それぞれ島の斜面外縁での値に置き換えると,先に次元解析的に求めたパラメタ(14)が出てくる.このことから,新しいパラメタ(18)が,波が捕捉される領域での計算精度を記述するパラメタであるのに対し,先のパラメタ(14)は島全体での平均的な計算精度を記述するのに適したパラメタであると言えよう.新しい,簡単なパラメタ(18)を使っても,相田のパラメタ\kappaとの相関がそれほど悪くならないのは,汀線から離れた水深の大きな海域ではあまり計算誤差が生じず,捕捉が生じる領域での誤差が支配的であるためと考えられる.

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5. 結論
藤間らが求めた円錐形の島回りの過渡波解を若干修
正し,汀線付近に鉛直壁を設置した島回りの過渡波解
を求めた。理論解との比較により,格子間隔による数値
計算の精度の変化を検討し,計算誤差が簡単なパラメ
タ(18)で表されることを示した.必要な計算精度を仮
定すれば,それを満たすための格子間隔の基準を決定
できる.島の最大津波高の誤差を10%以内に抑えるた
めの格子間隔の基準(19)を用いれば,奥尻島付近で北
海道南西沖地震津波を再現する格子間隔として,平均
的に120m,青苗海脚で40mという基準が求められる.
付録1 G_{n,\beta}の導出結果
微分方程式(2)の解G_{n,\beta}はF_{n,\beta}と同様の手法によ
り求めることができる。\xi=0近傍での級数解を以下
に示す.ただし,a_k,b_l,c_l等は文献4)の定義に従う.
(1.1)
(1.2)
これ以降文献4)と同じ操作を行うことにより解を
求めることができる.ただし,実際にG_{n,\beta}を計算する
際には,F_{n,\beta}に比べて級数の項数を増やすか,または
級数解を適用する区間を短く設定する必要があった.
参考文献
1) 長谷川賢一,鈴木孝夫,稲垣和男,首藤伸夫:津波の数値実験における格子間隔と時間積分間隔に関する研究,土木学会論文集,No.381/2-7,pp.111-120,1987.
2) Goto,C.and Shuto, N. : Numerical Simulation of Tsunami Propagation and Runup, Tsunamis: Their Science and Engineering, pp.439-451,1983.
3) 藤間功司,Yuliadi,D., Briggs,M.J., 正村憲史,重村利幸,後藤智明、:過渡的な入射波形をもつ津波の島への遡上,土木学会論文集,No,586/2-42,pp.105-115,1998.
4) 藤間功司,後藤智明:円錐形の島に捕捉された長波の特性,土木学会論文集,No.497/2-28,pp.101-110,1994.
5) 佐山順二,後藤智明,首藤伸夫:屈折に関する津波数値計算の誤差,第33回海岸工学講演会論文集,pp.204-208,1986.
(1997.7.25受付)
CRITERION FOR GRID SIZE IN TSUNAMI NUMERICAL SIMULATION AROUND ISLAND USING A LEAP-FROG SCHEME Koji FUJIMA, Kenji MASAMURA, Kenjiro HAYASHI, Toshiyuki SHIGEMUR.A and Chiaki GOTO
Based on the linear long wave theory, theoretical solutions are obtained for the transientt tsunamis propagating into a conical island having a vertical wall around the shoreline. The solutions are compared with the numerical solutions obtained by the Leap-Frog finite difference method using a staggered grid system to examine the relationship between the grid size and accuracy of the numerical simulation. The comparison reveals that. the Aida’s parameter,which is a representative to evaluate the numerical error, is represented by the simple parameter of Eq.(18). The criterion for the grid size can be determined once the required numerical accuracy is set for the prediction of the maximum tsunami height, and so on.
非線形分散波理論を用いた実用的な津波計算モデル 岩瀬浩之1・見上敏文2・後藤智明3 1正会員 東海大学技術員 工学部土木工学科(〒259-1292神奈川県平塚市北金目1117) 2正会員 (株)アルファ水工コンサルタンツ(〒063-0827北灘道札幌市西区発寒9-14-516-336) 3正会員 工博 東海大学教授 工学部土木工学科(〒259-1292神奈川県平塚市北金目1117)
Abstract
有限振輻性を考慮した分散関係および水理実験結果との比較を通し,津波計算に最適な分散項の検証を行った.さらに,領域結合や遡上計算が可能な非線形分散波理論による計算法(2段階混合差分法)を開発した.また,差分式の誤差解析から数値誤差抑舗項を加えた津波計算モデルを提案するとともに,1次元に関する伝播問題から計算精度を検証した,
Key Words : nonlinear dispersive long wave theory, dispersion relation, numerical simulation, tsunami
1. はじめに
沿岸域で津波が増幅するメカニズムとしては,浅水,集中,共振,波形曲率の4つの効果が考えられる。しかしながら,現状の津波数値計算モデル1)〜3)は,線形長波理論や浅水理論(非線形長波理論)を計算の支配方程式としたモデルであり,浅水,集中,共振の3種類の効果が組み込まれているものの波形曲率効果が考慮できていない.
1983年日本海中部地震津波では,15mを越える最大陸上遡上高が北秋田海岸で観測された.この現象は,波形曲率効果すなわちソリトン分裂による増幅機構を考慮しなければ説明がつかない.この様な,日本海中部地震津波の体験により,波形曲率効果を無視して解析することが津波対策を考える上で非常に危険であることが明かとなり,波形曲率効果を考慮した実用的かつ精度の高い津波数値計算モデル開発の機運が高まった.
津波の波形曲率による増幅効果を考慮するためには,非線形分散波理論を支配方程式として用いればよい4).
しかし,実用的な津波数値計算に組み入れるためには,計算の安定性,計算領域の結合,そして陸上遡上の取扱いなど解決を有するいくつかの難点が存在する.
本研究では,これらの難点が克服可能な計算スキームとして2段階混合差分法を提案する.すなわち,1段階目に運動方程式中の局所項,移流項,静水圧項を陽解法(Staggered Leap-frog法)で,そして2段階目で分散項を陰解法で計算する方法である.この方法を利用すると従来の手法で計算領域の結合や陸上遡上の取扱いが可能であるとともに分散項の計算に伴う計算の不安定性が回避できる.また,1段階目の計算で発生した数値誤差を2段階目の計算で抑制することにより,精度の高い計算を行うことができる。なお,本文は,分散関係と数値解析による検討を介した津波計算式の提案と計算方法および誤差抑制手法について説明したものである.
2. 有限振幅性を考慮した分散関係
(1) 支配方程式
高階の微分を含む非線形分散波理論の数値計算には,計算上の種々の問題がある.そこで,考慮する分散項の形は,3階微分形までとする.また,津波の伝播を考える場合,波形曲率効果が問題となるのは,水平勾配が緩やかな場合が多く,分散項中の斜面勾配は無視できることが知られているため5),水平床近似を行った分散項とする.
支配方程式は,浅水理論に高次の摂動展開6)によって導かれる以下の3ケースの分散項を加えた形を考察する.支配方程式は,
(1)
(2)
が候補となる。ここに,\etaは波高,hは静水深,Dは全水深,\bar{u},Mはそれぞれ平均断面流速,流量フラックスを表す.
上記の3つの分散項を対象として,有限振幅性を考慮した分散関係および水理実験との比較から最良な分散項の考察を行う.
(2) 分散関係式
支配方程式の分散項の考察にあたり,藤間ら7)によって導かれた5階微分項を含む高次非線形分散波理論に関する近似的な分散関係式を導出する,水平床近似の藤間らの方程式に,正弦波形を仮定すると,
(3)
なる分散関係式が得られる.ここで,
(4)
(5)
であり,
(式)
である.
なお,\etaは水位,Cは波速,kは波数,hは静水深,Dは全水深である.
一方,方程式(1),(2)の分散関係は式(3)と同形で,
(6)
となり,分散項(A)〜(C)に対応する\betaは,
(7)
となる。
(3) 有限振幅を考慮した分散関係の比較
図ー1は,式(3)を用いて波高水深比の違いによる波峰点の分散関係を比較したものである.縦軸は藤間らの式と支配方程式(1),(2)の無次元波速の差を示し,横軸は相対波数を示す.分散曲線が0軸に近いほど,理論分散に近く,0軸より上は候補とした方程式の波速が速く,下は遅いことを意味する。(A)〜(C)の3つの方程式で,(B)の分散項を含む方程式は,他の方程式に比べ比較的波速差が小さい曲線を描く.以上の考察から,最も波速の差が小さいものとして,(B)の分散項を含む方程式があげられる.

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3. 計算方法
(1) 2段階混合差分法
次に,数値計算と水理実験の比較から,分散項(A)〜(C)の精度を考察する.計算法には,下記に示す2段階混合差分法を用いる.
浅水理論を用いた津波計算では,領域結合および陸上遡上が陽的な差分式により可能となる,しかし,高階微分の分散項を含む非線形分散波理論による津波計算では,分散項を含むため陽解法を用いると安定した解を求めることが困難である.また,全領域を陰差分で解くことは可能であるが,領域の細分化に伴う計算量増加,陸上遡上での波先端の取り扱いが問題となる.
3行対角行列を効率良く計算するには1領域で計算が完結すること,遡上では中央差分を取らない陽差分式で行うことが望ましい.そのため,従来の領域結合と陸上遡上計算が適用でき,分散項も比較的安定に計算できる方法が必要となる.そこで,運動の式(2)を以下のように,2つの式に分割し,1段目を陽解法,2段目を陰解法で計算を行う2段階混合差分法を提案する, 支配方程式における運動の式(2)を,計算の中間値M^*_{1/2}によって2つに分割する.1段目の式では,領域結合2)と陸上遡上計算8),9)を考え,陽的差分式で計算を行う,すなわち,領域結合および陸上遡上に関しては,従来通り浅水理論によって計算を行い分散項は考慮しない.
〔1段目]
(8)
2段目では,計算の安定性を考慮して,分散項を陰的差分式で計算する.
[2段目]
(9)
なお,1段目と2段目を加えることにより,非線形分散波理論式となることが確認できる、ここに,|F.D.の記号は各微分項に対応する差分項を意味する.
このように,陽解法,陰解法を使い分けることにより,1段目の陽解法で浅水理論としての計算と,領域結合・陸上遡上計算を扱い,2段目の陰解法では高階微分の分散項を安定に計算を行うことが可能となる.
(2) 実験比較と支配方程式
水理実験では,図-2に示す水底模型を設置した水槽に,孤立波を伝播させた。観測点Aの波形データを数値計算の境界条件として与え,数値計算は,格子間隔を\delta x=0.02m,\delta t=0.005sとして計算を行った.
図ー3は,観測点B,E,H,Kにおける計算値と実験値を比較したものである.分散項(A)では,実験値に比べ,計算値がやや速く伝播し,分散項(C)では,計算値がやや遅くなる.一方,分散項(B)では,波の先端部が実験値と比較的よく一致している.第1波の波峰点が多少過小評価となり,第2波がやや遅れる結果となるが全般的に実験値とよく一致する結果が得られる.これは,先述した分散関係の検討結果と同一の傾向である.
以上の分散関係および実験値との比較検討より.支配方程式は分散項(B)を用いる.
(10)
(11)
の式形が適切であることがわかる.

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4. 打ち切り誤差の考察
(1) 数値誤差の展開
数値計算では,空間格子問隔が大きくなるにつれ,数値粘性と数値分散,いわゆる打ち切り誤差の影響により計算波高を過小評価とする傾向がある.したがって,数値計算にとって,誤差の考察は必要不可欠である10).本計算法でも,第1段階での計算による打ち切り誤差により,最終的な計算波高が過小評価となる傾向がある.
ここでは,式(1)の差分式および1段目の式(8)からなる浅水理論計算を考察することにより,打ち切り誤差の第1次近似を差し引き,浅水理論による数値誤差を2段目の計算で抑える方法を検討する,式(1),(8)の移流項を除く差分式をテーラー展開により微分式にもどし,1次近似の打ち切り誤差項を残すと,連続の式(1)は,
(12)
運動の式(11)は,
(13)
となる.ここで,Kxは,Kx = √(gD)⊿t/⊿xで表されるクーラン数である.ここで,
(14)
とする,いま,
(15)
とおくと,線形長波理論より,第1次近似の打ち切り誤差項を含む支配方程式は,近似的に,
(16)
(17)
となる.式(17)の右辺の項は分散効果として働くため,数値分散と呼ばれている.
同様にして,差分式(8)の移流項を計算点(i+1/2,n+1/2)を中心にテーラー展開し,差分式にもどすと,M≧0のとき,
(18)
M≦0のとき,
(19)
となる.ここで,
(20)
であり,式(18),(19)の左辺の差分式は,後藤・小川1)が示すものと同様な風上差分を取る.式(18),(19)の右辺第2項は粘性作用として働くため,数値粘性(拡散)と呼ばれている.
(2) 誤差抑制項を加えた差分式
上記のように展開をした,数値誤差の第1次近似を考慮することにより,浅水理論における数値誤差(数値粘性・数値分散性)を極力抑えることが可能となる.
2段目の差分式(9)に誤差抑制項を以下のように加える.
(21)
ここで,右辺第3項目の符号は,M≧0で負,M≦0で正となる.
(3) 実験との比較
ここでは,誤差抑制した数値モデルと,水理実験との比較を行うことにより,数値誤差抑制項の妥当性を検証する.
図ー4は観測点Kでの一定のクーラン数(K_x=0.45)における,空間格子間隔の違いによる計算結果と実験結果を示したものである.誤差抑制項を考慮しない差分式の計算結果(図ー4の上段)は,計算格子間隔が大きくなるにつれ,打ち切り誤差の影響により波高が低くなり,実験値との差が大きくなることが確認できる.一方,誤差抑制項を考慮した差分式による計算結果(図ー4の下段)は,計算格子間隔をある程度大きく取っても,実験値と良好な一致を示している.

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5. 陸上遡上を考慮した計算例
(1) 1次元計算
陸上遡上を考慮した1次元の非線形分散波理論による計算結果と従来の浅水理論による計算結果を図ー5に示す.計算は,水理実験と同様3/10の水底勾配に孤立波を入射条件として与えている.なお,計算格子間隔は,\delta t=0.02m,\delta t=0.001sであり,運動量の損失(底面摩擦・砕波等)は考慮していない.
図ー5の(A)に示すように,浅水理論では計算困難であった津波によるソリトン分裂も本計算式・手法で計算を安定に行うことができる.図ー5の(C)に示す様に,浅水理論に比べ非線形分散波理論の遡上高の方が約1.5倍程度の高い計算結果となる.これは,ソリトン分裂によって波高が高くなり波峰へのエネルギーが集中し,遡上流を加速した結果と考えられる。
(2) 2次元計算例
図ー6は,上述の1次元モデルを2次元へ拡張し,陸上遡上の計算を検証した計算結果である,計算格子間隔は,\delta x=2.5m,\delta t=0.05s,計算格子数は,沖側方向に202個,汀線方向に61個,波高2mの波を沖側より強制的に与えた例である.1次元同様,運動量の損失は考慮していない.2次元計算への遡上適応性を検証するために行った計算であるため,使用した地形は北秋田沿岸領域一部のみを使用した.図ー6の右側は最大遡上時のおける波形であり,従来の浅水理論計算と同様な遡上計算が可能であることが確かめられる.
6. おわりに
本報では,実用性を重視した非線形および分散波効果を考慮した津波計算式と領域結合・陸上遡上の計算可能な差分計算法の提案を行った.主要な結論をまとめると下記のようになる.
(1) 分散関係および水理実験との比較を介し,実用的な津波計算に適した3階微分までの分散項を含む支配方程式を検証した.
(2) 浅水理論を陽解法,分散項を陰解法で計算する2段階混合差分法により,陸上遡上計算ができ,また安定した数値解を得ることができた.
(3) 打ち切り誤差を考察し,誤差抑制項を加えることによって精度の高い計算結果を得た.
なお,今後の課題としては,砕波,陸上遡上後の分散項の取り扱い,現地適用を目的とした2次元拡張に伴う分散効果特性の考察などがある。
謝辞
本研究を行うにあたり,東北大学首藤伸夫教授,東海大学濱野啓造教授,飯田邦彦助教授,青野利夫非常勤講師,(株)エコー柴木秀之氏から貴重な御助言を頂いた.また,水理実験において,東海大学大学院の原信彦・鈴木崇之両君の助力を得た。ここに記して謝意を表す,
参考文献
1) 後藤智明,小川由信:Leap-Frog法を用いた津波計算法, 東北大学土木工学科資料,p.52,1982.
2) 後藤智明,佐藤一央:三陸海岸を対象とした津波数値計算システムの開発,港湾技術研究報告,第32巻,第2号pp.3-44,1993,
3) 岩瀬浩之,柴木秀之,見上敏文,後藤智明:汎用津:波計算システムの開発,東海大学紀要工学部,Vol,36,No.2,pp.139-145,1996、
4) 佐藤慎司:波の分裂と砕波を考慮した津波の数値計算海岸工学講演会論文集,第42巻,pp.376-380,1995.
5) 長尾昌朋,後藤智明,首藤伸夫:非線形分散波の数値:計算,第32回海岸工学講演会論文集,pp.114-118,1985.
6) 後藤智明:アーセル数が大きい場合の非線形分散波の方程式,土木学会論文集,Vol.351,pp.193-201,1984.
7) 藤間功司,後藤智明,首藤伸夫:非線形分散式の精度の検討,土木学会論文集,Vol.396,pp,223-232,1986.
8) 岩崎敏夫,真野明:オイラー座標による二次元津波遡上の数値計算,第26回海岸工学講演会論文集,pp.70-74,1979.
9) 後藤智明,首藤伸夫:各種津波遡上計算法と波先端条件の比較,第27回海岸工学講演会論文集,pp.80-84,1980.
10) 今村文彦,後藤智明:差分法による津波数値計算の打ち切り誤差,土木学会論文集,Vol.375,pp.241-245,1986.
(1997.9.25受付)
PRACTICAL TSUNAMI NUMERICAL SIMULATION MODEL BY USE OF NON-LINEAR DISPERSIVE LONG WAVE THEORY Hiroyuki IWASE, Toshifumi MIKAMI and Chiaki GOTO
The most suitable dispersion terms for tsunami simulation were investigated through the analysis of the dispersion relation and the comparison with hydraulic experiments. A new computation algorithm, two-step mixed finite difference scheme, is also developed for the computation of run-up on land composite regions, and the model of tsunami simulation including correction terms to improve numerical results are introduced by analysis for errors of difference equations, and the calculation of accuracy confirmed by one-dimensional propagation.
陸棚で発生した津波に関する基礎的研究 藤間功司1・正村憲史2・堂薗良一3・重村利幸4・後藤智明5 1正会員 工博 防衛大学校助教授 土木工学教室(〒239-8686横須賀市走水1-10-20) 2正会員 修(工) 防衛大学校助手 土木工学教室 3学生会員 防衛大学校理工学研究科 4正会員 D,Eng. 防衛大学校教授 土木工学教室 5正会員 工博 東海大学教授 工学部土木工学科
Abstract
線形長波理論に基づき,一様勾配斜面上に形成された波源からの津波伝播を表す理論解を求めた,陸棚で発生する津波は,波源の条件によって伝播形態が大きく異なり,特に,波源が汀線付近に存在する場合エッジ波が顕著に現れることを示した.また,波源の長軸・短軸の長さ,波源の位置,方向などのパラメータから,発生する津波の特性を予測する経験式を導いた.さらに,コリオリカの効果について考察した.
Key Words : tsunami, edge wave, trapping, tsunami source
1. はじめに
沿岸近くで地震が発生すると,津波が陸棚に捕捉されエッジ波が発生する可能性がある,エッジ波が発生すると,防災対策上,以下のような注意が必要である.
1.同じ様な周期の波が連続して来襲するたあ,エッジ波の周期と同じ固有周期を持つ湾では,共振現象により水位変動が大きくなる,
2.津波の継続時間が長く,最大波が第1波と限らないため,通常の津波と比較して警戒時間を長くとる必要がある.
3.遠距離においても水位変動の減衰が少なく,被害が広範囲におよぶ可能性がある.
したがって,エッジ波の発生を予測することは,津波防災対策を考える上で重要なことである.しかし,今のところ,波源の規模や方向と発生するエッジ波の規模との関係は必ずしも明らかにされていない,現在,津波の予測には数値計算を用いるのが一般的である.しかし,エッジ波は反射や屈折を繰り返しながら伝播するたあ,数値計算で用いる格子間隔が大きいと高い精度でエッジ波を再現することができない可能性がある.しかも,どの程度の格子間隔を用いれば高い計算精度が得られるか分かっていない.したがって,波源の位置や方向により,励起されるエッジ波がどのように変化するかを数値計算によって検討することは必ずしも実用的とは言えない.
一方,Carrier1)は,一様勾配斜面の直線海岸において指数関数と誤差関数を組み合わせた半無限の波源を考え,線形長波理論の初期値問題に対する解を導いている.理論解析では地形近似の上で制限があるものの,数値計算に比べ,広範囲かつ長時間にわたる津波特性を調べることが格段に容易である.したがって,Carrierの理論を拡張し,任意の初期水位分布に対する解が求められるようにできれば,波源の位置や方向と発生するエッジ波の関係についての基礎的資料を蓄積する有効な手段となり得る.
そこで,本研究では,一様勾配斜面の直線海岸に形成された,任意初期水位分布をもつ有限波源からの津波伝播を表す理論解を求めた.求めた理論解により,波源の位置や方向,初期水位分布および海底勾配を様々に設定して理論解析を行い,そこで得られた解析データを整理することにより,波源のパラメータと発生する津波の定量的関係を表す経験式を作成した.
2. 解析方法
(1) 理論解の誘導
海底形状は,図一1に示す一様勾配直線海岸とする.
ただし,海岸線をy軸に,x軸を沖方向に取る.基礎方程式は,以下の線形長波理論である.
(1)
(2)
(3)
ここでu,vはz,y方向の断面平均流速,hは水深,\etaは平均水面からの水位変動,tは時間,gは重力加速度,fはコリオリ因子を表す.式(1),(2)を利用して式(3)からu,vを消去すると次式を得る.
(4)
いま,次式で表される2次元波動を考える.
(5)
ただし,\sigmaは角周波数,kはy方向の波数であり,k≠0とする.\zeta(x)の中には屈折によるx方向の振動成分が含まれている.なお,k=0の場合は1次元波動を表しており,ベッセル関数で表される解が得られる.
水深h=ax(aは勾配)とおけるから,式(4),(5)からζの支配方程式として次式を得る.
(6)
ただし,
(7)
である.ここで,
(8)
(9)
により変数変換を行うと,次式で表されるFに関する支配方程式を得る.
(10)
これはラゲールの微分方程式であり,左辺第3項の係数が非負整数のとき,すなわち,
(11)
のときのみ,z→∞で発散しない,物理的に意味のある解を持つ.このとき,基本解は次式で与えられる.
(12)
ただし,L_nはn次のラゲール関数を表す.以上はエッジ波の定常解を誘導する過程と同じである^2).
本研究では,以上のエッジ波に関する定常解をもとに,任意初期水位分布からの津波伝播を表す理論解を求める.まず,コリオリカを考慮しないf=0の場合の解を求ある.f=0のとき,式(11)は,
(13)
により満たされる。したがって,波数kをもつ波動\eta_kは以下のように表される.
(14)
さらに,\eta_kの複素振幅を\phi(k)とすると,一般解は以下のように表すことができる.
(15)
したがって,結局,一般解は次式のように書ける.
(16)
ただし,係数A_n,B_nは,式(14)のA」_n,B」_nに\phiを乗じたもので,kの関数である.
係数A_n,B_nは,以下の初期条件から決定する.
(17)
(18)
まず,式(16),(18)から,
(19)
である.すなわち,1次元水平床における初期値問題と同様,正方向・負方向へ伝播する成分の振幅は等しくなる.さらに,式(16),(17)から,次式が得られる.
(20)
さて,初期水位分布\nu_0(x,y)をy方向にフーリエ変換すると,
(21)
なるフーリエ係数c_k(x)が算出できる.式(20)と式(21)を比較すると,
(22)
であることが分かる.ここで,
(23)
なる関数を考えると,式(22)から次式が導かれる.
(24)
すなわち,A_nは関数b_k(\xi)のラゲール関数展開の展開係数と見なすことができる.したがって,A_nは次式から求められる.
(25)
上式の積分を数値的に求めることにより,任意の初期水位分布から.A_nが計算でき,支配方程式と初期条件を満足する解を求めることができる.コリオリカを考慮した解については後述する.
なお,Greenの法則によれば,一様勾配斜面上での長波の浅水係数は(h/h_0)^{-1/4}=(x/x_0)^{-1/4}である(添字0はある基準点での値を示す).すなわち,波の入射地点x_0が同一なら,浅水係数は海底勾配と無関係に決まる.屈折係数に関しても同様である(式(34)参照)。
本理論展開においても,\eta_0(x,y)が同じなら,複素振幅A_nは海底勾配\alphaと無関係に決まる.すなわち,一様勾配斜面を仮定した本モデルでは,\eta_0(x,y)が同じなら,海底勾配は津波高に影響を与えない.ただし,角周波数\alpha_nが\sqrt{\alpha}に比例するため,津波の伝播速度は海底勾配の影響を受け,\sqrt{\alpha}に比例することになる.
(2) 理論解の計算方法
実際の計算においては,有限フーリエ変換を使用し,式(16)を次式で表す.
(26)
ただし,
(27)
(28)
(29)
(30)
である.Kは初期水位の汀線方向のデータ数,\delta{y}は初期水位データの汀線方向サンプリング間隔を表す.また,式(27)は数値積分により計算する.
ところで,\eta_0が実数関数なので,c_{-m}=\bar{c_m}であり,これにより.A_{n,-m}=\bar{A_{nm}}となる。さらに,n,mが十分大きければ|A_{nm}|は減衰するから,実用的には,n,mをそれぞれ十分大きな数N,Mまで考慮すればよい.また,有限波源を考え,かつy方向の領域を十分大きく取れば,本理論解で考慮していないk=0の成分c_0(x)が無視し得る大きさになる.すなわち,実用的には次式を用いて計算を実施できる.
(31)
近似式(31)により理論式(16)を精度良く再現するためには,K,N,M,\delta{y}及び式(27)の数値積分間隔\delta{x}の設定を適切に行う必要がある.本研究では,以下の条件を満たすように計算を実施した.
(式)
以上の条件を用いれば,本研究における波源の形状,規模においては,誤差を概ね最高水位の5%以内に抑えることができる.
(3)理論解析例
1992年4月,アメリカ西海岸のMendocino岬付近で起こった地震により津波が発生した.図一2上段は,Melndocino岬地震の震源の位置とOppenheimer3)らによる津波の波源モデルである.Mendocino岬津波の水位経時変化に関し,本理論解による解析結果と観測データを比較し,図一2下段に示す,図中,理論値と観測値は50cmずらして描いている.また,理論計算において,初期水位分布は図一2上段のOppenheimerらのモデルを用いている.海底勾配は1/100とした.
図一2から,波源に近いNorth Spitでは津波到着が早く入射波数が少ないが,波源から遠いPort OrfordやPoint Reyesでは津波到着が遅く入射波数が多いことなどがよく再現されていることが分かる.水位変化の大きさに関しても,Crescent City 以外では理論解と観測データは概ね一致している.なお,Mendocino岬津波の数値計算はGonzalez4)らが実施しているが,この計算でもCrescent Cityでの大きな水位変化を再現できていない.Gonzalezらは,エッジ波がCrescent City付近で局所的に共振し,大きな水位変化が発生したと推測している.理論解においては局所的な地形変化を考慮していないので,それが原因で起こる現象を再現することはできない.しかし,全般的に本理論解は広範囲・長時間にわたる観測データの傾向をよく表しており,本理論解により沿岸部で発生した津波の伝播特性を考察するのは有効であると言える.
(4)初期水位分布の設定
以下の理論解析では,津波の初期水位分布を次式により与えた.
(32)
ただし,
(式)
である(図一3参照).なお,波源中心とは初期水位\eta_0が\eta_{0max}となる地点を指す.
表一1は本研究での初期水位の各パラメータ及び海底勾配の範囲を示したもので,これまで日本近海で起こった津波を伴う地震のデータ^5)を参考にして決定した.
なお,本研究では解析対象を|y|≦700kmの範囲に限定した.しかし,この長さはほぼ千葉県と青森県の間の距離であり,日本の沿岸部で発生した津波の性質を考察するには十分な長さであろう.

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3. 津波の伝播形態
本節では,波源の違いによる津波の伝播形態の違いを説明するため,初期水位分布が同じで波源の位置dおよび方向θが異なる3ケースの解析結果を示す.各ケースのd及びθの値を表一2に示す.各ケースともa=30km,b=60km,a_{50}/α=b_{50}/b=0.5である.
海底勾配aは1/100である.
(1) 水位経時変化及び水位空間分布
図一4は各ケースの汀線上での水位経時変化の一例である.図は上段からCase1,2,3,左からy=0,200,600kmにおける波形を表している.図から,波源の位置及び方向の変化により津波伝播状況が大きく異なることが分かる.
すなわち,Case1では,水位経時変化の中で規則的で滑らかな波が数波続いている.Case2では,険しく不規則な波列が観測される.また,波源からかなり離れたy=600km地点で初期最高水位と同程度の水位が観測されている.Case3はy=0km地点で高い水位が観測されるが,他の観測地点では高い水位は記録されず,また来襲する波数が少ない.
図一5は,各ケースの水位空間分布の経時変化である.
Case1,2では,コンターが汀線に沿うようにy方向に移動している.津波が汀線付近に捕捉されたためである.一方,Case3では,捕捉現象は見られない.したがって,波源の位置が汀線に近いとエッジ波が発生しやすいと推測できる.ただし,Case1においては,津波が汀線に貼り付くように捕捉されているが,Case2では,それよりも沖合において津波が捕捉されている.
このような捕捉状況の違いがあり,Case1では規則的な波列が観測されるが,Case2では観測されないものと考えられる.
(2) 津波の伝播形態とA_nmの卓越モードの関係
ここでは,津波の伝播形態と本理論解の各モードの振幅を表すA_nmとの関係を調べる.
図一6は,各ケースごとの複素振幅A_nmの絶対値の分布である.ただし,▲印は|A_nm|のピークを表し,各コンターは|A_nm|の最大値の1/5〜4/5の値を表す.規則的なエッジ波が顕著に見られるCase1では,n=0に|A_nm|のピークが存在する.不規則で険しい波列が観測されるCase2では,n=1に|A_nm|のピークが存在する.エッジ波が現れないCase3ではn=3に|A_nm|のピークがある.したがって,津波の伝播形態の違いには.A_nmの卓越モードが影響していると考えられる.
そこで,各モードの波がどのような伝播をしているか波向線を使って説明する。各モードの波(定常エッジ波)の汀線方向の波速C_nは,次式で表される.
(33)
ただし,Lは汀線方向に測った波長を表し,L=2π/|k|である.すなわち,同じ波長であれば,nが大きいほど速い速度で汀線方向に伝播することになる.
波向線は,図一7のように,屈折と反射を繰り返し,全体として汀線方向に進行する.さて,y=0,x=x_0でxの負方向とのなす角が\theta_oの波向線が到達する汀線位置は,波向線方程式またはSnellの法則から,次式で与えられる6).
(34)
また,これに要する時間は次式で与えられる.
(35)
したがって,波向線が最も沖側に達したときの汀線からの距離x_Rと汀線に沿った反射の間隔L_Rの関係は,式(34)にx_0=x_R,\theta_0=\pi/2を代入して,2倍することにより,
(36)
と求められる.波向線がL_R移動するのに要する時間に関しても,同様に
(37)
と求められる.したがって,波向線の汀線方向への見かけの伝播速度C_Rは,次式で与えられる.
(38)
したがって,
(39)
であれば,C_RはC_nと一致する.また,そのとき,L_R=2(2n+1)Lである.
モードn=0の場合,x_R=2L/\pi(≡x_{R0})の波向線を考えるとC_R=C_0となる.すなわち,x_oを通る波向線が0次モードの波を代表する波向線と言えるであろう.この波向線は,波長の長さの約0.6倍の位置が最沖部になる.すなわち,n=0のモードは汀線で細かい反射を繰り返し,汀線付近を伝播する成分である.
このため,A_nmの卓越モードがn=0の場合,波が汀線付近に捕捉され,規則的なエッジ波が卓越するような現象になるのであろう.
n=1の場合,波向線は波長の長さの約1.9倍の位置を最沖部として伝播する.したがって,.A_nmの卓越モードがn=1の場合,波動運動の影響は沖側に及ぶことになる.
一方,n>2の場合,波向線は汀線からはるかに離れてしまう.したがって,n≧2のモードが卓越し,n=0,1のモードにおける|A_nm|の値があまり大きくないような場合,エッジ波は卓越せず,直接入射波主体の伝播形態となると考えられる.
ところで,0次モードが卓越した場合に生成される規則的なエッジ波の周期瑠は,図一3のL_eにより評価することができる.ただし,L_eは,波源を初期最高水位の1/10の高さで切断した際に得られる図形と波源中心を通りy軸に平行な直線の2交点間の距離である.図一8は,L_eを波長とする0次モードのエッジ波の理論周期(次式)と水位経時変化から得られる規則的なエッジ波の周期を比較したものである.
(40)
ただし,解析結果はd=0の場合の結果のみプロットしている.図から規則的なエッジ波の周期が式(40)によって概ね近似できることが分かる.このことからも,規則的なエッジ波の実体が0次モードのエッジ波であることが確認できる.

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4. 沿岸域で発生した津波の基本的特性
ここでは,前節のCase1〜3の波源だけではなく,表一1に示される諸元の範囲で理論解析を実施し,沿岸域で発生した津波の特性について定量的に整理した.
(1)伝播形態の区分
前節のように,津波は,波源の条件によって伝播形態が異なり,エッジ波の発生状況によって,以下の3つのタイプに区分できる.
1.タイプ1:0次モードが卓越し,規則的なエッジ波の発生が見られるもので,前節のCase1に代表される.
同じ様な周期の波が連続入射するため,湾水振動が励起される可能性があるタイプである.
2.タイプ2:1次モードが卓越し,険しく不規則な波群が形成される場合で,Case2に代表される.
3.タイプ3:2次以上のモードが卓越した場合で,直接入射波が主体の津波である.Case3がこれに当たる.
図一9は,理論解析結果から得られた水位経時変化から以下の基準によって上記のどのタイプであるかを判断し,波源の位置によって津波の伝播形態を区分した結果である.
1.タイプ1:\eta/\eta_{0max}が0.1を越える規則的な波動が2波以上存在する場合.
2.タイプ2:タイプ1に該当する規則的なエッジ波は現れないが,不規則なエッジ波が卓越し,汀線上(0≦y≦700km)のどこかで,第1波よりも大きな第2波もしくは第3波が観測される場合.
3.タイプ3:汀線上(0≦y≦700km)のすべての地域で第1波が最大となる場合.
ただし,図中,○,▲,×がそれぞれタイプ1,2,3を表す.ただし,r_xは波源を初期最高水位の1/10の高さで切断した際に得られる図形の最沖(岸)部と直線x=dの距離を表す(図一3).図一9から,波源が汀線付近に存在する場合,規則的なエッジ波が発生するタイプ1になると言える.また,波源が汀線から離れるにしたがって,発生する津波の形態がタイプ2,タイプ3と変わっていく.図中の実線がタイプ1の発生限界であり,次式で与えられる.
(41)
また,破線はタイプ2の発生限界であり,次式で与えられる.
(42)
(2)沿岸域で最大の津波高が観測される地点y_{MX} 本論文では,汀線における最高水位を津波高と呼ぶことにする.汀線に沿って津波高分布が最大値をとる地点(以後,y_{MX})が,波源の位置dによりどのように変化するか調べた結果が図一10である.\theta=0の場合y_{MX}=0となるが,\theta≠0の場合y_{MX}はdと共に増加している。また,\thetaによってその増加率が明確に異なる.図一10中の実線は次式をプロットしたものである.
(43)
上式は,式(34)において,x_0=d,\theta_0=\thetaとしたものであり,波源内の初期最高水位地点から波源の短軸方向に放射した波向線が屈折変化を経て到達する地点を表す.dが大きいとき,すなわち,タイプ2,タイプ3の場合,式(43)がy_{MX}を良好に近似している.
しかし,タイプ1,特にd=0をはじめd≦60kmの場合,式(43)では過小評価となっているケースが多く見られる.タイプ1のy_{MX}のばらつきは,概ね以下の範囲内である.
(44)
(3) 沿岸域での最大津波高\eta_{MX}
汀線に沿った津波高の最大値(y_{MX}での津波高で,以後\eta_{MX}とする)は,図一11のように波源の位置d/a,波源の方向\thetaおよび波源の長軸及び短軸の長さの比b/aにより変化する.
すなわち,津波のエネルギーは主として波源の短軸方向に放射されるが,短軸方向に放射された津波は,d/aが大きいと浅水変形の効果により波高が増大し,\thetaが大きいと方向分散により波高が減少する.また,b/aが大きいと津波の短軸方向へのエネルギー集中度が大きくなるため\eta_{MX}はb/aの増加に伴って大きくなる.また,一般に,a_{50},b_{50}が大きくなると津波高も大きくなるが,その影響の度合いはタイプによって異なる,各パラメータから\eta_{MX}を評価する経験式を求めた結果以下のような式が得られた.
タイプ1(d=0):
(45a)
タイプ1(d≠0):
(45b)
タイプ2,3:
(45c)
図一12は式(45)の評価式と\eta_{MX}の解析値の比較である.図から,評価式(45)が\eta_{MX}の解析値と概ね一致していると言える.
式(45)に実際の数値を代入すると,通常,最大津波高\eta_{MX}はタイプ1が最も小さく,タイプ3が最も大きくなる.
(4) 津波高\eta_{max}の分布
図ー13は,タイプ2及びタイプ3における津波高\eta_{max}の汀線上での分布を示したものである.ただし,y_Gは式(43)で与えられる.図一13中の+印は,第1波が最大波であるタイプ3を表す.それ以外の記号はタイブ2を表す.
図一13から,タイプ3では,観測地点がy_{MX}から離れるにつれ\eta_{MX}が指数関数的に減衰している.平均的にはly-y_G|/d=1付近で\eta_{max}/\eta_{MX}=0.5程度,ly-y_G|/d=2付近で\eta_{max}/\eta_{MX}=0.2以下になる.
すなわち,タイプ3では,\eta_{MX}は他のタイプより大きくなる傾向があるものの,エネルギーはy_{MX}付近の狭い地域に集中し,y_{MX}から離れると津波高が急激に減衰すると言える.タイプ3における各観測地点毎の津波高の上限値を結んだ包絡線的な津波高分布評価式は次式で与えられる.
(46)
一方,タイプ2では,y_Gから離れるにしたがい減衰傾向にあった\eta_{max}が途中から増加に転じている.これは,y_Gから離れた地域で不規則なエッジ波が成長し,第2波以後の波が最大波になるためである.これにより,津波高分布に複数の山・谷が形成され,y_{MX}からかなり離れた地域でも,高い津波高が観測される.すなわち,波源に近い場所で津波高が小さいのに,波源から離れた場所で大きな津波高が発生する可能性があることになり,警戒が必要である.タイプ2における\eta_{max}の評価式として次式が得られる.
(47)
図一13中の実線が式(47)をプロットしたものである.
図から分かるように,式(47)では,詳細な\eta_{max}の分布を考慮せず包絡線的に式を決定している.
なお,式(47)は,d=0を除くタイプ1においても概ね適用できる.すなわち,タイプ1では\eta_{MX}はそれほど大きくないが,y_{MX}から離れても津波高はそれほど減衰しないと言える.ただし,タイプ1でd=0の場合には,\eta_{max}の分布の評価式は以下のようになる.
(48)
(5) 各観測地点での第1波到達時刻t_{1\delta t}
図一14は,Case1〜3での津波の第1波到達時刻t_{1\delta t}の汀線上での分布である.ただし,海底勾配\alphaは0.01,0.015,0.02の3通りである.上段は波源から比較的遠い地点のもの(|y-r_y|≧100km)で,下段は比較的波源に近い地点のものである.ただし,r_yは,波源を初期最高水位の1/10の高さで切断した際に得られる図形の汀線方向の長さの1/2である.第1波到達時刻t_{1\delta t}は,式(35)を利用して以下の手順で精度良く評価できる.1.波源の0.2mコンター上に多数の点波源を設定する,2.各点波源から各観測点に到達する波向線の初期入射角\theta_0を,観測点をy,入射開始地点の座標を(p_x,p_y)として,
(49)
を満足するように逆算する,3.各点波源毎に,式(35)により到達時刻を求める,4.各点波源に対応する到達時刻のうち最小のものを,波源全体を対象とした各観測点への予想される第1波到達時刻とする.
図一14の実線が以上の方法により求めた第1波到達時刻を表しており,良好な精度でt_{1\delta t}を評価していると言える.このことは,複雑な地形においても,水深データが得られれば,同様の手順で津波の第1波到達時刻の算定が可能であることを示している.ただし,その場合,式(35)の代わりに波向線方程式を差分化した数値解法を用いる.
観測点が|y-r_y|≧100kmの地域においては,上記1.のようにコンター上に多数の点波源を設定することなく,座標(d+r_x,r_y)に点波源を与え,2.3.のみにより,t_{1\delta t}を概ね評価できる.さらに,その結果は次式により近似することが可能である.
(50)
図一14の破線が近似式(50)を表しており,波源から離れた場所ではこの式により第1波到達時刻を近似できることが分かる.
(6) 各観測地点での最高水位出現時刻t_{emx}図一15は,横軸に第1波到達時刻,縦軸に最高水位出現時刻t_{emx}をとってプロットしたものである.タイプ3では第1波が最大波となるため,最高水位出現時刻と第1波到達時刻は,ほぼ一致する(厳密には波の立ち上がりと波頂の通過時刻の差だけ異なる).また,タイプ2では,直接波もしくはその後のエッジ波が最大波となり,第1波出現時刻の1〜2,5倍程度の時刻に最大波が出現する.タイプ1では,最大波は第1波出現時刻の1〜4倍程度の時刻に出現する.タイプ1,2では最高水位出現時間が遅く,長時間の警戒が必要であることが分かる.特にタイプ1では警戒時間を長くとる必要がある.
(7) コリオリカの効果
コリオリカは,大規模な波動現象に対し大きな影響を与えるが,ここで,本研究で解析した規模におけるコリオリカの効果について述べる.
コリオリカを考慮した場合,分散関係式(11)を以下の3通りの\sigmaが満たす.
(51)
(52)
(53)
ただし,Qと\betaは
(54)
(55)
を表す.f=0とすると,\sigma_1=\sigma_n,\sigma_2=\sigma_n,\sigma_3=0となる.本研究では,北緯30〜45度を解析対象とし,f=1×10^{-4}s^{-1}とする,また,波源の規模(10〜300km),海底勾配(10^{-2}〜2×10^{-2})を考慮すると,\sqrt{g\alphak}=1.4×10^{-3}s^{-1}~1.1×10^{-2}s^{-1}である.そこでg\alphak\{ll}f^2として式(51)〜式(53)を展開し,コリオリ力の効果を1次オーダーまで取り入れると,
(56)
(57)
(58)
を得る,ただし,
(59)
である.ここで,\sigma_1,\sigma_2,\sigma_3を改めて\sigma_{n1},\sigma_{n2},\sigma_{n3}
と書くと,\etaは以下のように表すことができる.
(60)
係数.A^{」」}_n,B^{」」}_n,C^{」」}_nは以下の条件から決定される.
(61)
なお,これはt=0において\eta,\partial{\eta}/\partial{t},\partial^2{\eta}/\partial{t}^2がコリオリ力を無視した場合と一致することを表している.式(61)から1次オーダーの精度で解を求めると,以下の結果が得られる.
(62)
(63)
(64)
ただし,
(65)
を表す.したがって,最終的に,コリオリ力を1次オーダーまで考慮した解として次式を得る.
(66)
式(66)から,ニリオリカを考慮することで各成分の角周波数及び振幅が補正されることが分かる.コリオリカにより正の方向に進む波は周期が短くなり,振幅が小さくなる.逆に負の方向に進む波は周期が長くなり,振幅が大きくなる.なお,これらの各成分毎の補正は大きくても1%程度である.
波源をx軸に対称になるよう設定した場合,コリオリカを考慮しなければ,津波はyの正負の方向に全く同じ様に伝播する.しかしながら,コリオリ力を考慮した場合,正方向と負方向で違いが現れる.
図一16は,コリオリカを考慮した場合におけるyの正方向と負方向の伝播の違いを比較した結果である.なお,ここでは,タイプ1の波源(Case1)と,タイプ2の波源(Case2)を使用した解析結果をプロットしている.
図から,正方向と負方向の\eta_{max}を比較すると,約10%程度異なる場合があることが分かる.しかし,分布形状には大きな違いが無く,防災対策に影響を与えるような違いとは言えない.したがって,波源から数100km程度の範囲においては基本的にコリオリ力の効果を無視しても重大な問題とはならないであろう.

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5.結論
線形長波理論により,一様勾配直線海岸に形成された任意形状波源から生起される津波の理論解を求めた.
エッジ波に注目すると,伝播形態は,1.タイプ1:0次モードが卓越し,規則的なエッジ波が発生する場合,2.タイプ2:1次モードが卓越し,不規則なエッジ波が発生する場合,3.タイプ3:高次モードが卓越し,直接入射波が主体となる場合,に分類できる.またその発生区分を求め,波源が汀線付近にあるとタイプ1になり,波源が汀線から離れるにしたがってタイプ2,タイプ3と変わっていくことを示した.
また,波源のパラメータと発生する津波の特性との定量的関係を表す経験式を求めた.その結果,以下のことが分かった.
タイプ1では一般に他のタイプに比べ最大津波高が小さいが,波源から離れても津波高はそれほど減衰しない.また津波継続時間が長く,警戒時間を長くとる必要がある.特に,同じ様な周期の波が連続入射するため,共振により局所的に大きな津波高が発生する可能性がある.タイプ2では同じ様な周期の波が連続入射するわけでないが,津波継続時間が長く,長時間の警戒が必要である.また津波高分布に複数の山・谷ができ,波源から遠く離れた場所でもかなり大きな津波高が発生する可能性があるため,注意が必要である.タイプ3の場合,津波高は狭い地域で非常に大きくなり,その地域から離れると津波高は急激に減衰する.またエッジ波は発生せず入射波数が少ない.
最後に,コリオリ力の効果について検証した.波源から数百kmの範囲内では,コリオリカの影響は最大10%程度であり,それほど重要ではないことが分かった.
参考文献
1) Crrier, G.F. :On-self Tsunami Generation and Coastal Propagation, Tsunamis:Progress in Prediction, Disaster Prevention and Warning, pp.1-20,1995.
2) 富永政英:海洋波動ー基礎理論と観測成果ー,共立出版,591p, 1976.
3) Oppenheimer, D., Beroza, G., Carver, G., Dengler, L., Eaton, L., Gee, L., Gonzalez, F., Jayko, A., Li, W.H., Lisowski, M., Magee, M., Marshall, G., Murray, M., McPherson, R., Romanowicz, B., Stake, K.,
Simpson, R., Somerville, P., Stein, R. and Valentine, April 1992 :Subduction at the Triple Junction, Sience 261, pp.433-438, 1993.
4) Gonzalez F.I., Satake, K., Boss, E.F. and Mofjeld, H.O. :Edge Wave and Non-trapped Modes of the 25 April 1992 Cape Mendocino Tsunami, Pure and Applied Geophysics, Vol.144,No.3/4, pp.366-370, 1995
5) 見上敏文,後藤智明:日本周辺における津波初期波形の統計的性質,海岸工学論文集,Vol.42, pp.366-370, 1995.
6) 佐竹順二,後藤智明,首藤伸夫:屈折に関する津波数値計算の誤差,海岸工学論文集,Vol.33, pp.389-402, 1986.
(1998.7.2受付)
FUNDAMENTAL STUDY ON TSUNAMIS GENERATED ON A SHELF Koji FUJIMA, Kenji MASAMURA, Ryoichi DOZONO, Toshiyuki SHIGEMURA and Chiaki GOTO
Based on the linear long wave theory, theoretical solution is obtained for the tsunami which propagates from a tsunmi source generated on a straight beach with an uniform slope, The solution indicates that the behaviors of tsunami generated on a shelf is governed by the conditions of tsunami source and that edge wave is generated considerably in the case when the tsunami source locates near a coastline. The empirical formulas are derived which evaluate the characteristics of tsunami by those of tsunami source such as the lengths of long-axis and short-axis, the position and derection of tsunami source, and so on.
Further, effect of the Colioris is also discussed.
底面境界層の構造を考慮した長波理論解と海底摩擦による波高減衰に関する考察 正村憲史1・藤間功司2・後藤智明3・飯田邦彦4・重村利幸5 1正会員 修(工) 防衛大学校助手 建設環境工学科(〒239-8686横須賀市走水1-10-20) 2正会員 工博 防衛大学校助教授 建設環境工学科 3正会員 工博 東海大学教授 工学部土木工学科 4正会員 工修 東海大学助教授 工学部土木工学科 5正会員 Dr.Eng. 防衛大学校教授 建設環境工学科
Abstract
海底から水面までせん断力が作用していると仮定し,地形や海底摩擦による波高変化を考慮した線形長波理論に関する層流解および乱流解を求めた.そして,層流解の波高減衰率などを層流境界層理論の結果と比較し,水深が浅く周期が長い場合には境界層近似が適用できないことを示した.また,乱流解を用いて反射率を評価したところ,斜面反射率がイリバーレン数だけでなく斜面上の波の数や粗度高さによって変化することが分かった.さらに,長波の数値計算で広く用いられているマニングの式による底面せん断力が本理論解の結果と平均的に等しくなるための粗度係数nを評価したところ,nはほぼ粗度高さのみによって決まることを示した.
Key Words : long wave, bottom friction, wave boundary layer, Manning’s law, reflection coefficient
1. はじめに
浅海域の波浪変形や底質移動において,海底摩擦は非常に重要な役割を果たす.そのため,波動運動に伴う海底摩擦に関しては,これまでにも多くの研究が行われてきた.例えば,土屋・井上1),岩垣ら2),Kajiura3),野田4)は,境界層方程式に基づき,水平床上の波による海底摩擦について調べている.これらの研究では,ポテンシャル層と境界層の運動を分離し,ポテンシャル理論から求められる流速を境界層外縁流速として境界層方程式を解く.そして,境界層内のエネルギー散逸が波エネルギーの減衰に等しいと見なして波高減衰率を求める.すなわち,波動境界層が水深に比べて薄く,短時間・短区間におけるエネルギー損失は小さいが,長い距離を伝播するとエネルギー減衰が無視できなくなるという考えである,この仮定は,水深が比較的深く周期が短い波動に関しては妥当であり,得られた結果は良好な近似になり得る.しかし,水深が浅く周期が長くなり,境界層が水面付近まで発達する場合への適用性には問題がある.
また,Kajiura5)は長周期波を対象に,静水面まで発達した水平床上の振動流境界層(代表流速が場所によって変化しない)を考え,静水面でせん断力がゼロになるという境界条件のもとで解を導いた.最近,田中ら6)も同様の考え方のもとで解を導いている.田中らの摩擦係数は,ある程度水深が深く周期が短いと水深に依らず周期によって決まり,境界層近似理論に近い結果を与える.また,水深が浅く周期が長いと摩擦係数が周期に依らず水深によって決まる,定常流に類似した性質を示す。すなわち,田中らの解は,境界層近似が適用できる通常の波動境界層から,定常流に近い準定常な波動境界層まで含む広い範囲に適用可能な有用な解であると解釈できる.しかし,境界層が水面まで達する場合,境:界層近似理論のような方法で波高減衰率を求めることが理論的に不合理であるため,海底摩擦がどの程度の波高減衰をもたらすかを考察することは必ずしも容易でない.
このように多くの研究が行われているが,そのほとんどは水平床上の波を対象にしており,斜面のように,波高が変化する場合の海底摩擦について調べた研究は少ない.また,津波や高潮など長周期波に対しては,海底摩擦が特に重要であるにも関らず,海底摩擦と波高減衰の関係が十分に理解されているとは言えない.
したがって,境界層が水面まで達していると仮定し,しかも水深変化や海底摩擦による波高変化を考慮し,それに見合う代表流速の変化を取り入れた理論解が得られれば,波高の変化する場での摩擦係数の設定方法や海底摩擦による波高減衰効果を考察する上で有用である.
ここでは,長周期波を対象として,せん断力項を加えた線形長波理論を考える.そして,波の進行に伴い代表流速が変化することを考慮した理論展開を行い,水面でせん断力がゼロになるという境界条件のもとで解を導く,その結果,任意地形に対して相似形の解が存在し,田中らと同じ抵抗則が成立することが示される.
得られた解から流速分布,せん断力分布,海底摩擦係数,平均流速と海底摩擦の位相差,波高減衰率などが直接評価できる.
次に,反射率を評価し,海底摩擦による反射率の変化について検討する.また,実用的な抵抗則としてマニング則を用いた場合に,底面せん断力の平均値が本理論の乱流解と等しくなるための粗度係数nを評価する.
なお,本理論では線形の方程式を使っているため,非線形性の強い場合には,正確な解析ができない.しかし,本理論解を使用した考察により,これまで経験に頼ってきた浅海域での摩擦係数の設定などに,物理的根拠のある基準が得られると期待できる.
2. 理論解
(1) 支配方程式と変数分離
非圧縮流体の二次元波動運動を考える.波高水深比と相対水深は小さいが,(渦)粘性項は無視できないと仮定すると,支配方程式は以下のように書ける.
(1)
(2)
ただし,静水面上にx軸,鉛直上向きにz軸をとっている.u(x,y,z)はx方向流速,h(x)は水深,\eta(x,t)は水位変動,gは重力加速度,\nu_e(x,z)は動粘性係数あるいは渦動粘性係数である.また,Z_0(x)は海底面上で流速がゼロになる高さを表し,層流ならゼロとする、式(1),(2)から\etaを消去すると次式を得る.
(3)
これが解くべき式で,境界条件は以下の通りである.
(4)
(5)
ここで,uとして以下の形の解を想定する.
(6)
ただし,\omegaは角周波数(=2\pi/T,T=周期)である.上式を式(3)に代入すると,以下のように変形できる.
(7)
右辺はxだけの関数だから,これを—A(x)とおく.
(2) Gの解
a) 層流の場合
層流の場合,\nu_e=\nu(動粘性係数),Z_0=0とおく.このとき,Gの支配方程式は式(7)左辺から以下のように書ける.
(8)
上式の解は,境界条件(4),(5)のもとで
(9)
と求められる.ここで,p,p_hは次式で表される.
(10)
b)乱流の場合
乱流の場合,Kajiura3),田中ら6)と同様,
(11)
とおく.ただし,\kappa=0.4である.u_*は摩擦速度,\tau_bは底面せん断力であり,記号^は最大値(絶対値)を意味する.\hat{u_*}はxの関数である.
式(7)から,Gの支配方程式は以下のように書ける.
(12)
境界条件(4),(5)を満たす上式の解は
(13)
である.ただし,J_0,J_1,N_0,N_1はべッセル関数,q,q_h,q_0は以下の通りである.
(14)
(3) F_1の方程式と抵抗則
a)層流の場合
次式によりF_2(x)を定義する.
(15)
すなわち,.F_2(x)e^{-i\omega t}が断面平均流速\bar{u}を表す.
層流に対するG(x,z)は式(9)で与えられるから,
(16)
である.したがって,層流に対するF_1の支配方程式は,式(7)右辺から,以下のように表すことができる.
(17)
さて,F_2の解はh(x)によって異なるが,得られたF_2を使い,流速を
(18)
(19)
と表すことができる.すなわち,せん断力分布は
(20)
となる.ここで,
(21)
と摩擦係数Cを定義すれば,
(22)
が得られる.ただし,\bar{u}は断面平均流速の最大値である.
b) 乱流の場合
乱流に対するG(x,z)は式(13)で与えられるから,
(23)
(24)
である.層流のときと同様,F_2(x)を式(15)で定義すると,F_1に関する支配方程式は以下のように変形できる.
(25)
すなわち,層流の方程式でR_LをR_Tに置換えれば乱流の方程式になる.
乱流においてもF_2の解はh(x)やZ_0(x)によって異なるが,得られたF_2を使い,流速を
(26)
と表すことができる.せん断力分布は次式で求められる.
(27)
ここで,底面せん断力と摩擦速度の関係デb=ρ確から
(28)
なる式が得られる.この式から,\omega,h,Z_0,\bar{u}から繰り返し計算により\bar{u_*}を求めることができる.層流と同じように式(21)で摩擦係数Cを定義すれば,式(28)から決まる\bar{u_*},を使い,Cが次式から求められる.
(29)
なお,式(29)に代わり,式(24),(29)から得られる次式によりCを求めてもよい.
(30)
以上の議論から明らかなように,式(1),(2)のもとでは水深の変化と無関係に流速分布の相似解が存在し,抵抗則が海底形状の変化に依らない、また,本理論解で得られる流速の鉛直分布および抵抗則は,田中らの理論の結果と本質的に同じである.すなわち,水深が変化する場合でも,各場所・各瞬間において田中らの摩擦係数がそのまま使えると言える.
(4) 流速,せん断力および波形
a) 水平床層流の場合
水平床ではR_Lが一定である.このとき,式(17)の解はe^{±iR_Lk_{0x}}の組み合わせで与えられる.ただし,k_0=\omega/\sqrt{gh}である.進行波を得るためにF_2=u_0e^{±iR_Lk_{0x}}を採用すると,断面平均流速および流速分布は,
(31)
(32)
と求められる.せん断力分布は次式で与えられる.
(33)
波形は,式(1)から以下のように求められる.
(34)
すなわち,Re.[RL]はx方向の波数の変化率を表し,I_m.[RL]はx方向の波高減衰率を表す.
b) 斜面層流の場合
斜面の場合,h=mxを式(17)に代入し,
(35)
と変数変換を行うと,以下の支配方程式が得られる.
(36)
ここで,水深の変化が緩やかでR_Lがほぼ一定と仮定できるなら,上式の解はJ_1(R_{L\chi})とN_1(R_{L\chi})の組み合わせで与えられる.F_3としてJ_1(R_{L\chi})を採用した場合,断面平均流速,流速分布,せん断力分布,波形はそれぞれ以下のようになる.
(37)
(38)
(39)
(40)
c) 水平床乱流の場合
乱流の場合,水平床でも厳密には\bar{u_*},がxによって変化すると見なすべきである.しかし,近似的に\bar{u_*}が一定であると見なすと,R_Tが一定となり,式(25)の解はe^{±iR_Tk_{0x}}の組み合わせで与えられる.層流解と同様,F_2=u_0e^{±iR_Lk_{0x}}を採用すると,断面平均流速,流速分布,せん断力分布および波形は以下のようになる.
(41)
(42)
(43)
(44)
d) 斜面乱流の場合
斜面層流と同様の変数変換を行うと,R_Tをほぼ一定と見なせる範囲内で,F_3の解としてJ_1(R_{T\chi})とN_1(R_{T\chi})が得られる.解としてJ_1(R_{T\chi})を採用すると,断面平均流速,流速分布,せん断力分布,底面せん断力,波形はそれぞれ以下のようになる。
(45)
(46)
(47)
(48)

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3. 理論解の基本的性質
本理論の抵抗則は田中らの理論と本質的に同じであるが,本理論展開ではx方向に波形が変化する解が得られるため,波数変化率や波高減衰率の考察が容易である.水平床層流解における波数変化率Re.[R_L]と波高減衰率I_m.[R_L]を図一1に示す.\alpha h→∞のときR_L→1であり,本理論解は周期が短く水深が深い極限において摩擦を考慮しない線形長波理論の解と一致する.すなわち,周期が短く水深が深い場合は波高減衰や波数の変化が小さい.周期が長く水深が浅くなると,波高滅衰が大きくなり,また波長が短くなる.\alpha h→∞の極限では,R_L=\sqrt{3}(\alpha h)^-1 e^{-\epsilon ki}に漸近する.
層流境界層近似では,波高をH=H_oe^{-\epsilon ki}と表すと,波高減衰率\epsilonは\epsilon=k\sqrt{2\nu/\omega}(sinh{2kh}+2kh)となる1).この式を長波近似すると,\epsilon=\sqrt2/4(\alpha h)^{-1}を得る.この関係を図一1中に破線で描いてある.周期が短く水深が深い\alpha h>100の場合,本理論解の波高減衰率は境界層近似理論とほぼ同じ結果を与える.しかし,周期が長く水深が浅くなり,\alpha h<10になると本理論解は境界層近似理論より大きな波高減衰率を与える.\alpha h→0の極限では,本理論解の波高減衰率は,最大で境界層近似理論の3倍以上である.
次に,底面せん断力\tau_bや波形\etaを以下のように表す.
(49)
このとき,\psiは物理量Fと断面平均流速との位相差を表す.ただし,\bar{F}はFの最大値である,底面せん断力および波形と断面平均流速との位相差\psiを図一2に示す.
図から,周期が短く水深が深い場合には波形と断面平均流速がほぼ同位相で,断面平均流速と底面せん断力との間に\pi/4の位相差があることが分かる。これは境界層近似の結果と一致する.図から,やはり{\alpha h}>100では境界層理論は良好な近似になっている.一方,粘性の影響範囲が大きく,{\alpha h}く10になると位相差に関しても境界層理論との差が大きくなる.なお,{\alpha h}→0では断面平均流速と底面せん断力は同位相になり,断面平均流速と波形の間にπ/4の位相差が生じる.
結局,境界層が薄い場合,境界層近似理論の結果は良好な近似となり得るが,周期が長くなり境界層が厚くなる場合,境界層近似理論は良好な近似とは言えず,波高減衰率を過小評価してしまうことが分かる.したがって,浅海域における長周期波の海底摩擦特性を検討するのに境界層近似を使うことは不合理であり,せん断力を水面まで考慮した本モデルを使う必要があると結論できる.
次に,乱流解のパラメータR_Tを図一3に,底面せん断力や波形と断面平均流速との位相差を図一4に示す.基本的に層流の場合と同様な形の曲線が得られている.ただし,層流の場合,津波の周期を考えると水深が数cm程度でないと大きな減衰が起こらないが,乱流の場合には水深数mから数十mでも大きな波高減衰が起こり得る.したがって,実用的には乱流解が重要である.
4. 水深が変化する場合の理論解の例
理論解析の例として,図一5に示す2通りの地形に対する乱流解を求める.図一5上段は沖側から波が入射し,岸側の浅瀬に乗り上げて進行していくステップ地形モデル,図一5下段は斜面上に鉛直壁が設置してあるモデルである.これらの地形に対しては,摩擦を考慮しない場合の理論解が容易に得られるため,摩擦の効果を考察するのに都合が良い.なお,摩擦を考慮しない理論解を求めるには,水平床上の解と斜面上の解を流量と水位が連続するように接続する方法と,以下に説明する本理論解析手法でR_T=1とおいて解を求める方法があり,両者が一致することを確かめている.
本理論解析においては,式(25)の解を求める際に,
(50)
とおき,式(25)を以下の連立方程式と見なして,Runge-Kutta法で数値的に解を求める.
(51)
また,境界条件として,ステップ地形の場合は岸側の水平床で進行波解を,鉛直壁モデルの場合は鉛直壁で流速がゼロという条件を使い,沖側に向かって計算を進める.
求めた解から,断面平均流速と波形が次式によって計算できる.
(52)
また,沖側水平床での解を入射波と反射波の和で表すと,その地点での入射波の流速振幅\hat{u_i}と反射波の流速振幅\hat{u_r}.が,次式で評価できる.
(53)
同時に,入射波振幅a_iと反射波振幅a_rがそれぞれ次式から求められる.
(54)
さて,ステップ地形における解の例を,図一6に示す.
図は,T/8毎の波形変化を表している.図から,水深の深い場所では波高減衰が少なく部分重複波が形成されていること,斜面上で浅水変形し,波長が短くなり波高増幅していること,浅瀬で波高が急激に減衰していることなどが分かる.また,摩擦を考慮しない理論解との最大水位の比較を図一7,8に示す.図一7は沖側水深が深く斜面勾配が急なケースであり,斜面上の波の数が少ない.このケースでは斜面上でほとんど波高減衰していない.一方,図一8は沖側水深が浅く,斜面勾配が緩やかなケースで,斜面上の波の数が多い.この場合,斜面上で10%程度波高が減衰している.したがって,斜面勾配や斜面上の波の数などにより摩擦の影響の大きさが異なることが分かる.
鉛直壁モデルにおける,鉛直壁付近の波形に関し,本理論解と摩擦を考慮しない理論解との比較例を図一9,10に示す.図一9はh_s=1m,図一10はh_s=0.3mとしたケースである.摩擦を考慮しない解では水位が上昇するときと下降するときの波形が同じだが,摩擦の影響を考慮した本理論解では水位上昇時と下降時で波形が異なる.すなわち,x=1〜5kmにある2番目の腹の部分に注目すると,波面が時間とともに前に出る,進行波的な様相を示す.また,x=0〜1kmにある1番目の腹に注目すると,x=0で位相が遅れ,水位上昇時に上に凸な波形,水位下降時に下に凸な波形が得られる.このような波形が得られるのが本理論の特徴である.特に図一10でその傾向が著しく,図一9では摩擦を考慮しない解との差が比較的小さい.
なお,粗度要素が粒径一様な砂粒の場合,z_0=k/30(kは粗度高さ)程度と考えられる.したがって,この場合,z_0/hは大きくても0.01程度と考えるのが妥当である.一方,粗度要素が尖った形状であれば,z_0が大きくなり,k_s/k=10(k,は等価砂粒粗度)ほどにもなるから,z_0/h=0.1程度まで取り得る.図一10は,x=0でz_0/h=0.033だから,粗度要素がやや角張った場合への適応例と考えるべきであろう、また,図一9,10では,z=0で\hat{\eta}/hが約1/4である.したがって,x=0近傍では必ずしも非線形性が無視できるとは言えないが,\hat{\eta}/hが大きい領域はx=0近傍の,波長に比べて非常に短い領域に限られる.したがって,ここで示したような大きなスケールでの波形の特徴や,波高変化などを考慮するのであれば,線形理論を適用することに大きな問題はないと考えられる.
長周期波における海底摩擦の影響を理論的に調べる方法として,運動の式に\hat{u_t}+g\eta_x=-f\bar{u}と流速の1乗に比例する線形抵抗を導入する方法があるが,このモデルでは深海域と浅海域で海底摩擦力の大きさがそれほど違わないため,精度に問題がある.ここに示した例から明らかなように,本理論解では海底摩擦の寄与が深海域で小さく,浅水域で大きい傾向が顕著に表れている。また,図一5のような問題に対して,理論解析を使わず,Leap-Frog法などを用いた数値計算を行う場合,沖側境界において入射波を入射させ,同時に斜面からの反射波を透過させる必要がある.本理論を使用すれば,そのような境界処理は不要であり,しかも正確な解を容易に得ることが可能である。したがって,本理論解は海底摩擦による浅海域での波高減衰を考察するのに有用であると言える.

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5. 反射率に関する考察
摩擦を考慮しない線形長波の理論では,斜面においても反射率が1になる.しかし,本理論解では海底摩擦による波高減衰により,反射率が1より小さくなる、 まず,水平床端に鉛直壁が設置された場合を考える.
層流の場合,式(31),(34)が水平上の厳密な進行波解である.乱流の場合,式(41),(44)は近似解だが,周期やz_0等が現実的な値で,水平床上での1波長程度の伝播を考えるなら,式(25)の数値解と式(41),(44)の近似解は大差がないことが分かった.したがって,乱流の場合もe^{Im.[R_T]k_{0x}}で減衰する解をもとに反射率を議論してもよい.
上記の解を用いると,壁からl離れた場所で測定する反射率K_Rは,鉛直壁で\bar{u}=0という条件から以下のように求められる.
(55)
ただし,層流ならR_TをR_Lに変えればよい.反射率の一例を図一11に示す.反射率をK_R=e^{\epsilon2k_0l}と表したときの\epsilonも描いてある.摩擦係数\hat{C}が小さいとK_R\approx1だが,\hat{C}が大きいとK_Rは小さくなる.また,\hat{C}が同じでも,層流解では乱流解に比べてK_Rがやや大きくなる.なお,乱流解では,\epsilonがz_0/hなどに依らず,ほぼ\hat{C}\hat{\bar{u}}/(\omega h)のみによって決まる.これは,式(30)から,R_TがほぼC\hat{\bar{u}}/(\omega h)の関数と見なすことができることからも容易に理解できる.
次に,図一5下段のモデルに対する乱流解を使用し,斜面における反射率を評価する.z_0を0.1mmから3cm,h_sを10z_0から10m,h_dを10mから500m,x_dを1kmから50km,Tを5分から25分の範囲で変化させ,約200通りの解析を行い,x=x_dでのa_r/a_iを反射率K_Rとした.図一12は,z_0=0.01m,h_s≦1mの場合の解析結果である.図中のI_rは斜面の反射率を記述する際によく使われるイリバーレン数(m/\sqrt{H/L})であり,斜面方向の重力加速度と水粒子加速度の比に関連した量である.すなわち,水粒子の運動にとって,斜面勾配がどれだけ急であるかを表すパラメータと考えて良い.ただし,波形勾配はx=x_dでの入射波の値を使って評価した.また,\chi_d=2k_1\sqrt{h_d/m}である.斜面上の乱流解(48)から分かる通り,\chi=2k_1\sqrt{h/m}はx=-h_s/m(斜面の延長線と静水面の交点)からxまでの波の数に関係した量である.すなわち,\chi_dは波にとって斜面がどれだけ長いかを示すパラメータである.なお,x=-h_s/mからx=0までの波の数\chi_s=2k_1\sqrt{h_s/m}を\chi_dから引いた\chi_d-\chi_sが本来の斜面上での波の数を表す.しかし,図一12ではh_sが小さいケースを選んでいるので,\chi_dの大小が斜面上の波の数の大小を表すと考えて良い.
図から,I_rが大きくなると反射率が増加し,\chi_dが大きくなると反射率が減少する明瞭な傾向が見られる.砕波によってエネルギーが失われる場合には反射率がI_rのみによって決まるが,海底摩擦によってエネルギーが失われる本理論では,斜面の長さを表すパラメータの影響が顕著に現れる.
さらに,h_sが大きいと,図一9,10に示したように摩擦の影響が弱くなり,反射率が大きくなる.また,z_0を大きくすると斜面上での平均的な摩擦力が大きくなり1波長あたりの波高減衰率が増加するため,反射率が小さくなる.z_0の効果を表すパラメータとして,x=-h_s/mから1波長の場所でのz_0/hに関連した量を考えると,\chi_0=2k_1\sqrt[z_0/m}が得られる.
そこで,I_r,\chi_d,\chi_s,\chi_0の簡単な組み合わせを試行z錯誤的に選んで検討したところ,図一13に示した経験的パラメータが,反射率の変化を比較的うまく表すことが分かった.図中の曲線は次式を表しており,ほぼ反射率の傾向を表していると言える.
(56)
(57)
上式の指数関数部分がz_0の効果とh_sの効果を表している.

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6. 海底摩擦係数に関する考察
浅海域における実用的な抵抗則として,マニング則が広く使われている.その際,粗度係数を適当に与えれば良好な精度で津波の浸水域を予測できると言われている.しかし,粗度係数は経験的に決められているのが現状であり,粗度係数の設定が不適当だと物理的に不自然な計算結果が得られてしまうこともある、したがって,周期や水深,海底勾配,海底の粗度高さなどから適切な粗度係数を推定する手法があれば実用的に有用である。
ここでは,実用的に重要な乱流解を使い,浅海域における海底摩擦係数について考察する.浅海域での長周期波を対象にするのであれば,\hat{\bar{u}}は数m/s程度,周期Tは十分から十時間程度と見なしてよいであろう.
z_0は海底の状態によって大きく異なると考えられるが,数mmから数cm程度のオーダーとすると,\hat{\bar{u}}/(\omegaz_0)はほぼ10^{4〜7}程度のオーダーになる.また水深hが数mから数十m程度の領域を考えると,z_0/h=10^{-(3~4)}程度である.
式(29)から求めたCの絶対値である\bar{C}を図一14に示す.図から分かる通り,\hat{\bar{u}}/(\omegaz_0)=10^{4〜7},z_0/h=10^{-(2〜3)}程度では,\hat{\bar{u}}/(\omegaz_0)による\bar{C}の変化はほとんど無視できる.しかし,田中らが指摘している通り,長波だからといって,常に摩擦係数が周期に依らないとは限らない.実際,z_0/h=10^{-4}のときには,\hat{\bar{u}}/(\omegaz_0)=10^4〜2×10^5の範囲で摩擦係数\bar{C}が\hat{\bar{u}}/(\omegaz_0)によって変化している.したがって,\bar{C}がz_0/hだけで決まると見なした準定常抵抗則を使用したとき,それがどの程度の誤差になるかを考察しておく.
式(2)を鉛直方向に積分し,運動方程式における摩擦項と局所項の大きさの比を取ると,
(58)
である.すなわち,\bar{C}がz_0/hのみで決まる領域での\hat{C}の値を\hat{C}_sとおくと,(\hat{C}一\hat{C}_s)\hat{\bar{u}}/(\omega h)が,\hat{C}=\hat{C}_sと見なしたときの摩擦項の誤差と局所項の大きさとの比を表す.図一15に,\hat{C}\hat{\bar{u}}/(\omega h)および\hat{C}一\hat{C}_s)\hat{\bar{u}}/(\omega h)を示す.なお,\hat{C}_sは理論的に次式で与えられる.
(59)
図から,摩擦係数が\hat{\bar{u}}/(\omega z_0)によって変化する領域では運動方程式における摩擦項の役割が小さいため,摩擦係数を\hat{C}_sで近似しても,その誤差はz_0/h=10^{-2}の場合でも局所項の4%以下と,非常に小さいことが分かる.実現象のスケールにおいて\hat{C}が\hat{\bar{u}}/(\omega z_0)によって変化するz_0/h=10^{-4}の場合には,誤差は局所項の1%以下である.もちろん,瞬間的な誤差が1%程度であっても,その状態が非常に長く継続すれば,影響が無視できるとは限らない.しかし,一般論としては,摩擦係数\hat{C}がz_0/hだけで決まると見なし,\hat{C}_sで近似してもそれほど大きな問題にならないと結論できる.
さて,\hat{C}_sとz_0/hの関係を描いた図が図一16である.
図中に破線で示したように,z_0/h=10^{-(2〜4)}の範囲で,\hat{C}_s,は簡単な次式でほぼ近似できる.
(60)
実用的な摩擦係数としてマニング則を使うと,\tau_b/\rho=gn^2h^{-1/3]|\bar{u}|\bar{u}と表される.それに対し本理論では,\tau_b/\rho=\hat{C}\hat{\bar{u}}\bar{u}と表している.\bar{u}=\hat{\bar{u}}e^{-i\omega t}とおくと,それぞれの場合の\tau_bの半周期積分値がそれぞれ
(61)
と求められる.したがって,マニング則を使い,せん断力が平均的に本理論解と同じ値を与えるようにするためには,粗度係数を次式で与えればよい.
(62)
浅海域での\hat{C}として近似式(60)を上式に代入すると,nに対するhの寄与は無視できるほど小さく,nはほぼ次式で評価できることが分かる.
(63)
さらに式(63)において,底質の等価砂粒粗度k_s(z_0=k_s/30)を使用すると,より実用的な式
(64)
が得られる.この式を使うと,k_s=1mmでn=0.015,k_s=10cmでn=0.033という値が得られる.
したがって,nの決定に周期や水深はほとんど影響しておらず,nを粗度高さに関連したパラメータz_0またはk_s、だけで決めることが可能である.マニング則には,管水路や開水路の定常流において,経験的な係数nが粗度高さのみによって決まるという優れた性質があることが知られている.長周期波に適用する場合でも同様の利点があることになる.しかも,式(64)はマニング・ストリックラーの式(n=0.13k_s^{1/6}/\sqrt{g})に非常に近いので,nの値そのものも定常流と同程度である.また,図一4を見ると,周期が長く水深が小さいときには流速と底面せん断力の位相差も小さいので,浅海域の長周期波に対して,マニング則は表現が簡単な割に精度もよく,実用性に優れていると言える, なお,本理論解は線形理論である.しかし,浅海域での長周期波の挙動には非線形性が無視できない.層流境界層における岩垣ら2)の検討では,非線形性を考慮すると波高減衰率が約10%増加する.したがって,実際の長波の数値計算では式(63),(64)のnよりやや大き囲の値を与えるべきであり,式(63),(64)は適当な粗度係数nの下限値を決めるものと解釈すべきであろう.

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7. 結論
境界層近似を用いず,底面から水面までせん断力が作用していると仮定した長波理論解を求めた。得られた理論解は,周期が短く水深が深い場合には境界層近似した結果と大差ないが,周期が長く水深が浅い場合には境界層近似より大きな波高減衰が生じる.
理論解を使用して,海底摩擦による反射率の変化を検討した.鉛直壁による反射率は海底摩擦係数が大きくなるに従って小さくなる.また斜面の場合,イリバーレン数だけでなく,斜面上の波の数や粗度などによっても反射率が変化することが分かった.また,様々なケースの反射率を表す経験式を作成した.
実用的な摩擦係数としてマニング則を使うとき,底面せん断力が本理論解の値と平均的に等しくなるように粗度係数nを決定すると,nは海底勾配や水深周期の影響を受けず,粗度高さに関連したパラメータz_0またはk_sだけで決まる.流速と底面せん断力との位相差も小さく,マニング則は表現が簡単な割に精度が高く,実用的であることが示された.z_0またはk_sからマニングの粗度係数nを決定するには,式(63)または(64)を使えばよい.
非線形性の影響を考慮すると,実際の長波の数値計算では式(63),(64)よりやや大き目の値を与えるべきだと思われるが,これまで経験に頼っていたnの設定方法に,物理的根拠のある基準を定めることができた.
謝辞
本研究を進めるに当たり,岩手県立大学首藤伸夫教授をはじめ東北水工研究会で有意義な助言をいただきました.ここに記して謝意を表します。
参考文献
1)土屋義人,井上雅夫:海底摩擦による波高減衰の基礎的研究(1),第8回海岸工学講演会講演集,pp.19-24,1961.
2)岩垣雄一,土屋義人,陳活雄:海底摩擦による波高減衰め基礎的研究(3)一層流境界層方程式の非線形項の影響について一,第12回海岸工学講演会講演集,pp.41-4g,1965.
3)Kajiura,K.:A Model of the Bottom Boundary Layer in Water Waves, Bull. Earthq. Res. Inst, VoL46,pp.75-123,1968.
4)野田英明:波動による乱流境界層の発達,第16回海岸工学講演会講演:集,pp23-27,1969,
5)Kajiura,K.:On the Bottom Friction in an Oscillatory Current, Bull. Earthq. Res. Inst., VoL42, pp.147-174,1964.
6)田中仁,アーマドサナ,川村育男:波動境界層の準定常性に関する理論および実験土木学会論文集,No.593/2.43,pp.155-164,1998.
(2000.1.11受付)
THEORETICAL SOLUTION OF LONG WAVE CONSIDERING THE STRUCTURE OF BOTTOM BOUNDARY LAYER AND EXAMINATIONS ON WAVE DECAY DUE TO SEA BOTTOM FRICTION Kenji MASAMURA, Koji FUJIMA, Chiaki GOTO, Kunihiko IIDA and Toshiyuki SHIGEMURA
2次元・3次元ハイブリツドモデルを用いた津波の数値解析 正村憲史1・藤間功司2・後藤智明3・飯田邦彦4・重村利幸5 1正会員 修(工) 防衛大学校助手 建設環境工学科(〒239-8686横須賀市走水140-20) 2正会員 工博 防衛大学校助教授 建設環境工学科 3正会員 工博 東海大学教授 工学部土木工学科 4正会員 工修 東海大学助教授 工学部土木工学科 5正会員 Dr.Eng. 防衛大学校教授 建設環境エ学科
Abstract
広い海域では従来と同じ平面2次元モデルを使用し,構造物周辺など3次元性が無視できない領域では非静水圧3次元モデルを使用する.2次元・3次元ハイブリッドモデルを用いた津波数値解析法を開発した.全領域を非静水圧3次元モデルで計算した結果と本ハイブリッドモデルの結果を比較し,領域接続手法の妥当性を検討した.また,津波防波堤周辺の波の挙動に関する水理模型実験を実施し,その実験結果と本手法による津波数値計算結果とを比較することにより,本計算手法の有効性を検証した.本ハイブリッドモデルを用いることにより,防波堤閉口部周辺で発生するような3次元性の強い複雑な流況を計算でき,また全領域での3次元計算に比べて大幅に計算量への負荷を軽減できる.
Key Words : tsunami numerical simulation, 2D/3D hybrid numerical model, tsunami breakwater
1. はじめに
現在の津波数値計算では,海域をいくつかの領域に分割し,深海域で線形長波理論,浅海域で非線形長波理論を用いた手法1),2)が広く使用されている.この計算方法は,広い海域を対象とした計算にも適用することが可能であり,最大遡上高に関して実用上ほぼ十分な精度で痕跡高を再現できる.また,岩瀬ら3)は,より高精度な方程式である非線形分散波理論を用いた計算手法を開発している.岩瀬らの手法により,構造物周辺や地形の急変部を除けば,かなり精密な波形や遡上高を得ることができると期待できる.
しかし,これらの方法は,圧力分布が静水圧に近く,水平流速が鉛直方向にほぼ一様であるとの仮定のもとで誘導された支配方程式を用いている.したがって,構造物周辺など,その近似が成立しない場所への適用性に問題がある.しかし,津波防波堤開口部の潜堤の安定性や船体にかかる流体力,あるいは漂流物が構造物に衝突する際の流体力などを評価する場合,構造物周辺の流速を精度よく再現しなければならない.
そこで,著者らは圧力の静水圧分布を仮定せずに運動方程式をそのまま用いる津波の3次元数値計算手法を開発した4).この計算手法では微分の階数を増やさず,強非線形性・強分散性を考慮できる.しかし,3次元解析法は,計算領域を平面の2次元だけでなく鉛直方向にも直方体格子に区切り,その格子ごとに支配方程式が満たされるよう繰り返し計算を行うため,計算時間及び計算容量が平面計算と比較して莫大なものとなる.これが非静水圧3次元モデルを実用化する上での問題点であった.
ここでは,この問題を解消するため,3次元計算は構造物周辺など3次元性が問題になる領域だけに限定し,その外側の部分は静水圧近似を用いた平面計算を行う,実用的な3次元と2次元の混合計算法(ハイブリッドモデル)を開発する.すなわち,従来の計算法における浅海域での計算領域の中で,構造物周辺の領域だけを3次元領域とし,この領域で,精度のよい,多くの情報を得ようという考え方である.
また,従来の非静水圧3次元モデル4)では,計算領域内に水がまったく入り込めない格子を配置することによって防波堤などの海岸構造物や地底形状を表していた.すなわち,斜面を階段状に近似していたことになる.もちろん,この方法でも格子間隔を小さくすることにより,地形近似誤差を少なくすることは可能であるが,計算時間や計算容量が増える。そこで,本モデルでは榊山・香山5),磯部ら6)が使用したポーラスメディア法を使用して計算格子内での斜面勾配を考慮する.これにより,計算格子が大きくても複雑な境界を実形状に近い形で計算に取り込むことが可能となり,より高精度な計算結果を得ることができる.
ハイブリッドモデルを構築するためには,計算される物理量が異なる2次元領域と3次元領域で,相互に情報を伝達する境界接続法を開発する必要がある.この境界接続法の妥当性を検証するために,3次元領域の広さを変化させた数ケースのハイブリッドモデルによる計算結果と全領域で非静水圧3次元モデルを使用した計算結果を比較する.
また,本計算法の適用性を検討するため,防波堤周辺における津波の挙動に関する水理模型実験を実施し,水理実験の結果と本計算手法による結果,および従来よく使用されている解析法である非線形長波理論を用いた解析結果とを比較検討する.
2. 水理模型実験
まず,ハイブリッドモデルの適用性を検討するために行われた水理実験の概要について説明する.水理模型実験は,図一1に示す防衛大学校の7m×11mの平面水槽を用いて行った.水槽の左端にはピストン型の造波装置が設置してある.水槽の造波板境界以外の3方は直立壁である.
水槽には中央に開口部を持つ津波防波堤の模型を設置した.模型断面を図一2に示す.この防波堤模型は,幅94cm,高さ12.5cmの台形のマウンド上に幅21cmの箱形ケーソンを設置したもので,高知県須崎港の津波防波堤の断面形状を参考として縮尺約1/200でモデル化したものである.
実験および計算にあたり,防波堤開口部中央での静水面をデカルト座標系の原点とし,x軸は波の進行方向に,z軸は鉛直上向きにとる.また,x軸の負の方向(防波堤より造波板側)を沖側,正の方向を港側と呼ぶ.静水深は30cmである.入射波は波高約2cm,周期15sの正弦波である.模型縮尺1/200とし,フルードの相似則を使うと,これらの値は現地周期が3分30秒,現地波高が4,0mに相当する.
実験では静穏な状態から造波し始め,造波開始より入射波:の2周期分である30秒間を測定時間間隔0.05秒で計測を行った.防波堤開口部周辺における水位を容量式波高計,また流速を電磁流速計にて測定している.
水位の計測範囲は,x方向に原点より土0.8m,y方向は原点から防波堤端部までの範囲で,5cm間隔の格子点上で測定した.また,y=0,一20,一40,一65cmのxーz
断面において,x方向に原点より土0.8m,鉛直方向に静水面下2.5cmから底面までの範囲で5cmの格子点上において流速(u,w)を計測した.流速・水位を計測するのと同時に造波板位置を記録することにより,各データの時間を同期した。
また,流速・水位ともに同一点において,それぞれ5回から20回の計測を行った.図一3に5回の観測により得られたデータの例を示す.図では,乱流成分以外はほぼ良好な再現性が得られている.しかし,実験開始時に完全に静穏になっていなかった場合などは,大きく異なる結果が得られることがある.そこで,データから再現性を調べ,大きく異なる結果があった場合には測定をやり直した.実験データは0.5秒問で移動平均し,さらに同一点での計測の平均値をとり,実験値とした.
3. 計算方法
(1) 3次元領域
a) 支配方程式
本計算方法では計算領域を直方体の格子に細かく分割し,それぞれの格子において,図一4に示す通り流速(u,v,w)を格子の境界面に,圧力pを格子の中央に定義する.
地形を表す方法として,榊山・香山5),磯部ら6)が用いたポーラスメディア法を使用する.本来,ポーラスメディア法では透水層とセル内の斜面勾配を計算に取り入れることが可能である.ここでは,透水層は考えないが,セルの中での斜面勾配を考慮する.すなわち,3次元計算領域では以下の支配方程式を使用する.
(1)
(2)
ただし,x_iは座標x,y,zを,u_iは各方向流速u,v,wを表す.\rhoは密度,pは圧力,g_iは重力加速度の各方向成分,\nu_iは渦動粘性係数,e_{ij}は変形速度e{ij}=\partial{u_i}/\partial{x_j}+\partial{u_j}/\partial{x_i}である.\gamma_i,\gamma_vは海底地形や構造物の形状を表現するために導入する透過率・空隙率である.\gamma_iは,セルの四辺における不透過部分の位置から各直方体セルの壁面において流体が通過できる面積の割合(透過率)を計算して与える.例えば,\gamma_xは,図一5のように(3)
とする.
\gamma_vは,各セルにおいて流体が入り込める体積の割合(空隙率)を与える.すなわち,
(4)
である.\deltax,\deltay,\deltazは各方向の格子間隔である.セル中に斜面境界が存在しているとすると,セルの各壁面にかかる単位面積あたりの圧力はp\gamma_iである.したがって,例えばz方向の圧力勾配は一\partial(p\gamma_i)/\partial{x}になる.セル中も斜面からの反力がp\partial{\gamma_i}/\partial{x}とおけるから,その合計をpで割ると式(1)の右辺第1項で近似できる,すなわち,ポーラスメディア法により斜面勾配の効果を取り入れることができる.
乱流モデルとしては様々なモデルが提案されており,工学的手法としてk一\epsilonモデルがよく使われる.しかし,津波の数値計算においてk一\epsilonモデルの乱流計算に必要な細かな計算格子を使うことは事実上不可能であり,ゼロ方程式モデルを使わざるを得ない.一方,格子平均モデル(LES)は本来kー\epsilonモデルよりさらに細かな格子を使うべき乱流モデルであるが,LESで用いられるSGS渦動粘性モデルを大格子の計算に適用しても,かなり妥当な計算結果が得られると報告されている7).
そこで,ここでは便宜的にSGS渦動粘性モデルを適用し,渦動粘性係数を次式で表す.
(5)
(6)
ここでcは定数であり,およそ0.2程度と言われている.本計算においても,c=0.2を用いる.ただし,大きな格子でSGSモデルを使えるという物理的根拠は無いから,本計算はLESではなく,計算格子の大きさに影響された単なるゼロ方程式モデルと解釈すべきである.
b) アルゴリズム
流速を定義する時間と圧力,水表面位置を定義する時間には\deltat/2のずれがあるものとする.また,(n-1/2)ステップにおける流速,そして(n一1)ステップにおける圧力と水表面形状が全計算領域において決定されているとする.次ステップにおける値は以下の手順により計算する.
(a)nステップにおける水表面形を計算する.
(b)初期条件あるいは(nー1/2)ステップの流速と(n一1)ステップの圧力を使用し運動方程式を解き(n+1/2)ステップにおける流速の近似値v*とする.
(c)手順(b)で計算した流速v*を第1次近似値とし, 連続の式を満たすよう繰り返し計算により圧力を 修正する,また,圧力の補正値に応じて,流速値も修正する.
(d)移流項を計算する際の流速値にnステップでの値 v^n=(v*+v~{n-1/2}/2を使い,手順(b),(c)を繰り返す.
(e)最終的に運動方程式と連続の式が完全に満たされたら,新しい流速を(n+1/2)ステップでの値,圧力をnステップの値とする.
手順(a)において,水表面位置の計算には,式(2)を水表面から底面まで積分した以下の式を使用する.
(7)
ただし,nは水位変動,hは静水深を表す.
手順(b),(d)において,運動方程式によって流速を求める際,圧力項は2次精度の中央差分により近似する.移流項の近似では安定した計算を行うため2次精度の風上差分を用いる.ただし,境界および障害物に隣接し,2次精度の差分に必要な流速を得られない場合は1次精度とする.
手順(c)において,すべてのセルで∂\gamma_iu_i/∂x_iをゼロにするためにpを次式により修正する.
(8)
この修正量をp_{i,j,k}に加えて修正することにより連続の式が成立する.ただし,隣接する格子の圧力を修正することにより,再び連続の式を満たさなくなる.そのために繰り返し計算が必要となる.
また,時間発展に関しても差分を2次精度とするため,Crank Nicholson法を用いる.すなわち,手順(d)において繰り返し計算による圧力修正後,運動方程式の再計算する際に,v^n=(v*+v^{n-1/2}/2として移流項をnステップの流速値により計算している.流速と圧力が連動して変更され,最終的にn+1/2ステップでの流速値は,
(9)
を満たす.v^{n+1/2}_{i,j,k},w^{n+1/2}_{i,j,k}も同様に求められる.
(2) 2次元領域
2次元計算領域では以下の非線形長波理論を用いる。
(10)
(11)
(12)
ここで,DはD=h+\etaで表される全水深,fは運動量損失係数,M,Nはx,y方向の流量フラックス,Q=\sqrt{M^2+N^2},\betaは運動量補正係数((3)接続条件を参照)である.
運動量損失係数としては,通常,海底摩擦による損失を考える。マニング則を使うと,
(13)
である.ただしnはマニングの粗度係数で,本計算においてはn=0.015m^{-1/3}s(コンクリート)とする.
防波堤開口部を非線形長波理論で計算する場合には,断面の急縮・急拡による運動量損失f_Dを考慮し,防波堤開口部でf=f_B+f_Dとするのが一般的である.後藤・佐藤1)は,釜石港に関する数値計算においてf_D=0.5を用いている.しかし,本計算では防波堤開口部は2次元計算領域ではないので,f_Dは不要である.
なお,マニング則は2次元領域だけでなく3次元領域においても最下層の底面に面する格子だけに次式のように適用させる.
(14)
ただし,[]iはセル上壁面での値を示す.
(3) 接続条件
図一6のように2次元領域の中に3次元領域を組み込む.2次元領域と3次元領域の境界面上の流量は2次元領域に属するものとする.図中の丸印は水位,三角は流量(流速)を示し,白抜きのマークは2次元領域において計算する値,黒塗りは3次元計算値である.なお,ここでは便宜上,y軸に平行な境界面での接続方法について説明する.x軸に平行な境界面でも同様の方法を用いる.
接続部における水位・流速の共有および計算手順を以下に示す.ただし,境界面上での流量を.M_bと記す.
また,図一8は,以下の手順をt-x座標のみに簡単化して模式的に表したものである.
(a)nステップの水位を求める(2次元,3次元とも).
その際,3次元領域の端点ではM_b^{n-1/2}(2次元領域に属する)を参照する.
(b)2次元領域において流量を求める.M_b^{n+1/2}を計算する際,3次元領域の水位・流量を参照する.
(c)3次元領域において流速を求める.その際,M_b^{n-1/2}を境界条件として使う.
さて,上記(c)で3次元領域での流速を計算する際には,境界における流量だけでなく,流速分布が必要である.しかし,本来,2次元計算では流速鉛直分布に関する情報を与えない.したがって,2次元領域と3次元領域の接続部で,3次元領域における水平方向流速(u,v)が断面平均流速と差が無くなるような地点,すなわち,鉛直方向に分布を持たなくなるまで3次元領域を十分広く取り,境界条件として鉛直方向に一様な流速分布を与えることが最も望ましい.
しかしながら,地形条件や計算機容量の制限などにより,3次元領域を十分に広くとれない場合がある.そのような場合,xy平面に平行な軸を持つ渦(ここでは水平渦と呼ぶ)が消散する前に境界面を通過する可能性があり,境界面において鉛直方向に流速分布を持つようになる.このような場台に流速の一様分布を境界条件として与えると,図一8(2)に示すように接続面に沿った流れが形成されてしまう.そこで,流量に関しては2次元領域と情報を共有し,なおかつ流速の鉛直分布が境界においても保持されるように,∂u^」/∂x=0なる条件を用いる.これによりu^」によるwの増加がゼロになり,接続面に沿った流れが形成されないようになる.ただし,u=\bar{u}+u^」で,\bar{u}が断面平均流速,u^」が平均流速からのずれを表す.\bar{u}は2次元計算で得られたM_bから計算される.また,y,z方向の運動方程式の移流項を計算するときに,3次元領域の外側でのv,wも必要になる.ここでは,vに関してはuと同様の処置を行い,wに関しては∂w_i/∂x=0とする.この条件により,図一8(3)の通り,水平渦が接続面を通過できるようになり,全領域を3次元で計算した場合と大差ない計算結果を得ることができるようになる.
さて,境界面で流速の鉛直分布を考慮するということは,境界面を通したトータルの運動量輸送∫_{-h}^{\eta}u^2dzが,断面平均流速による運動量輪送M^2/Dより大きくなることを考慮するということである.このような,水平渦による余剰運動量輸送の影響を2次元領域においても考慮するために,断面平均流速とのずれを示すパラメーターである運動量補正係数\betaを用いる.ここで,自り方向の運動方程式に現れる\beta_{xx},\beta_{xy}は,
(15)
(16)
の形で書ける.\beta=1が鉛直方向に流速分布が一様な状態であり,\beta>1は鉛直方向に流速が分布を持つことを示す.すなわち,1以上の\betaを2次元領域で与えることは,3次元領域から水平渦の影響を引き継いでいることになる.
さて,水平渦の影響を正しく評価するためには,2次元領域においても正確な\betaを与える必要がある.しかしながら,2次元領域で用いる非線形長波理論は,本来鉛直方向に流速分布が一様であると仮定した方程式であり,\betaの分布を正確に評価することは難しい.よって3次元領域で求めた\betaを用いて2次元領域の\betaを予測する必要がある.ただし,\betaを急激に変化させることは数値計算上問題がある.そこで,接続境界で得られた\betaを2次元領域において数メッシュかけて1になるよう線形的に\betaを与えることにする.本計算例においては,全領域を3次元モデルで計算した結果から得られた\betaをCase b(図一9参照)の領域と照らし合わせ,5メッシュで1になるように設定した.ただし,\betaを与える領域を5メッシュ以上としても,計算結果にほとんど違いは見られなかった.
この\betaを支配方程式に取り入れることにより,3次元領域から2次元領域に移動する水平渦による運動量輸送を考慮できる.しかし,当然ながら2次元領域で消失せず再び3次元領域に移動する水平渦は再現できないから,3次元領域をあまりに小さく設定することは計算精度の点で望ましくない.
なお,一般に水平渦による余剰運動量輸送を表す方法として,\betaを用いる方法と拡散項を用いる方法がある.\betaを用いる方法では,3次元領域での計算結果から\betaを評価するときに流量がゼロになる場所で計算が発散するおそれがあり,拡散項を用いる方法は同じく計算結果から拡散係数を評価するときに流量の最大値で発散するおそれがある.今回の計算では,流量が大きくなる場所で余剰運動量輸送も大きくなる可能性があるため,\betaを用いる方法を採用した.

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4. 全領域を3次元モデルで計算した結果とハイブリッドモデルの計算結果の比較
まず,2次元領域と3次元領域の接続方法の妥当性を検証する.ハイブリッドモデルにより,全領域で非静水圧3次元モデルを使用した計算結果と同じ結果が得られれば,接続方法が妥当であると判断できる。よって,本ハイプリッドモデルの計算結果と,全領域を3次元計算した結果との比較を示す.
計算は水理模型実験の諸元をそのまま用いて行う.ただし,3次元計算領域で格子間隔および計算格子数を表一1の通りに設定し,Case a〜dの4通りの計算を行った。各ケースの3次元領域の広さを図一9に示す.Casea〜dとも3次元領域は正方形領域であり,その中心を開口部の中心すなわち座標の原点においている.また,Case aの3次元領域の長さはほぼ開口幅と,Case dでは,ほぼ水槽幅と同程度に設定した.Case b,cはその中間で,それぞれ開口幅の約2倍,3倍である.3次元領域の外側の水槽全体は2次元領域であり,Case a〜dとも格子数220×140で,格子間隔\delta x=\delta y=5cmである。計算時間間隔は\delta t=0.01秒である.また,造波板位置に関する実験データから造波板移動速度を計算し,2次元領域内の造波境界で流量を与えることにより波を入射させた.
なお,x軸に平行な境界がマウンドと垂直に交差している.開口部から離れたマウンド上では,開口部の3次元的な流れの影響が殆どなく,マウンド斜面上においても水平方向流速が鉛直方向に一様である.すなわち,\betaが1であり2次元計算を行っても支障はない.よって,マウンド上であっても,開口部から離れた場所は2次元領域とする.
図一10〜13に防波堤開口部近傍の断面平均流速\bar{u},\bar{v}の空間分布に関するハイブリッドモデル(Case b)と全領域3次元計算の結果の比較例を示す.図一10,12はハイブリッドモデルによる計算結果,図一11,13は全領域を3次元計算した結果である.図中の点線は2次元領域と3次元領域との境界を表し,図の右側が港側,左側が沖側である。図ー10,11は,第1波が防波堤開口部を通過しているところである.防波堤周辺の流況に関し,ハイブリッドモデルにより全領域3次元計算と同様の結果が得られていることが分かる.また,3次元領域から2次元領域に波が伝わる様子なども,うまく再現されている.また、図一12,13では第1波の引き波が防波堤開口部を通過している.2次元領域から3次元領域への流入,3次元領域から2次元領域への流入,防波堤開口部付近の局所的な流れや防波堤に沿った流れなど,いずれもハイブリッドモデルの結果は,全領域3次元計算の結果と良好に一致している.Case b以外のケースでも,ほぼ同じような良好な結果が得られた.
すなわち,2次元領域と3次元領域の境界を通して波が問題なく伝播しており,ハイブリッドモデルは断面平均流速に関して,妥当な結果を与えていると言える.
図一14に防波堤開口部近傍のx一z断面における空間流速分布に関するハイブリッドモデル(Case a〜c)と全領域3次元計算の結果の比較例を示す。Case dの結果は,Case cの結果とほとんど同じだったので割愛した.ただし,図において,ハイブリッドモデルによる計算結果は,x=0から3次元領域と2次元領域との境界までを示し,全領域3次元計算のものは,一部分だけを抜き出して描いている.図は,水平渦が最も顕著に現れた時間と場所を選んだものだが,Case cのように渦の影響が境界まで及ばないような場合,全領域3次元計算の結果とハイブリッドモデルの結果にはほとんど差がない.また,Case bでは,水平渦が境界上に存在する。しかし,Case bの結果と全領域3次元計算の結果は,境界付近の流速ベクトルの方向にやや差が見られるもの,境界から離れた場所では良好に一致している.ただし,Case aでは,渦の形跡は消失し,本来であれば渦の影響があるところにも,その影響が現れていない.そのため3次元性が弱すぎる結果になっている.したがって,流速の鉛直分布に関しては,Case aでは3次元領域が狭すぎて精度のよい結果が得られていないようである.しかし,Case b程度に3次元領域を設定すれば,境界から離れた地点や防波堤マウンド上ではハイブリッドモデルと全領域3次元計算の結果にそれほど大きな差は無く,流速の鉛直分布に関してもハイブリッドモデルにより良好な結果を得ることが可能であると言える.すなわち,本計算で用いた2次元領域と3次元領域の接続法は概ね妥当であり,本接続手法を用いることによりハイプリッドモデルの計算が可能である.本計算手法は,境界面付近に水平渦がある場合,境界面付近の流速鉛直分布に関し誤差が現れるものの,境界から離れた場所では良好な精度を持っている.したがって,3次元的な流況を知りたい領域をやや大きめに囲む範囲を3次元領域に設定すれば,必要な知見が得られると期待できる.
図一15は,3次元領域(Case c)における防波堤開口部付近の\beta_{xx}のコンターをハイブリッドモデルによる計算より示したものである.図中,\beta_{xx}=1.01と1.06のコンターを描いてある.また,描いている領域はCasecの3次元領域である.この図は,図一16と同じ時間であるので参考にすると,防波堤開口部端部の渦による乱れの激しい場所や,鉛直方向に水平方向流速分布が大きく変化しているマウンドの斜面上では\beta_{xx}が大きくなっている.また,鉛直渦の周辺でも\beta_{xx}が大きくなっている.ところが,Case aでは,\betaがかなり大きい領域が,3次元領域の外に出てしまう.したがって,Case aは\beta_{xx}分布から見ても3次元領域が狭すぎると言える.
計算容量や計算時間に関して,ハイブリッドモデルと全領域3次元計算の結果とを比較する.計算容量は,3次元領域として確保した格子数に比例するから,3次元領域を狭く取れば取るほど節約可能である.計算時間は,表一1に示してある.ハイブリッドモデルを用いればかなりの時間の節約になっていることがわかる,Case aは再現性の面から問題があるが,Case bを用いれば,全領域を3次元計算した場合と流況などの再現結果がほぼ同じであるにも関わらず,計算時間は約1/16しか掛かっていない.また,Case dの結果はCasecの結果とほぼ同じだが,約3倍の計算時間が掛かっている。したがって,3次元計算領域を広く取るほど,高い精度を得ることは可能であるが,3次元領域をむやみに広く取ることは無駄であり,必要な結果や用途に合わせた領域の広さの選定をすべきである.
5. 実験結果および非線形長波理論による計算結果との比較
ここでは全領域において,従来からの津波の数値解析法である非線形長波理論に基づく平面2次元モデルによる解析を実施し,本計算手法による計算結果(Caseb)と比較する.また,同時に水理模型実験の結果とも比較し,本モデルの有効性を検討する.ただし,全領域2次元の計算では\beta=1,f_D=0とした.
図一16,17にy=0,一20,一40,一65cmにおける防波堤開口部近傍の流速u,wの空間分布および水表面形に関するハイブリッドモデル(Case b,左側(a))と実験値(右側(b))の比較の例を示す.図一16(b)において,y=0,一20,一40cmでは防波堤マウンドによって流れが遮蔽され,マウンド横に水平渦が発生している.これは長波近似理論式を利用した数値計算では再現することが出来ないが,本手法(図一16(a))ではほぼ実験結果を再現している.y=一65cmの沖側の流れのパターンが実験と計算で一致していないが,これは防波堤端部から発生した鉛直渦の位置が正しく再現されていないからである.図一17(b)において,y=0cmではx=ー30cm付近,y=一20cmではx=一40cm付近を境に流れの向きが左右に分かれている.これは,第1波の引き波による鉛直渦が防波堤沖側に残る中,防波堤開口部では既に第2波の寄せ波による流れが発生していることを示している.また,y=一65cmの断面において,沖側では港側に向かう流速約20m/sの流れが発生しており,防波堤を越えたところで斜面に沿って下から吹きあがるような流れが発生している.また,さらに港側では約10m/sの湾内に進む流れに戻っている.この様な複雑な流況に関しても,本計算モデルは全体的に実験の傾向をよく再現していると言える.
図一18〜21は,y=0,一20,一40,一65cmでの防波堤開口部近傍の水平方向流速uに関する本手法による計算値(Case b),実験値,および非線形長波理論に基づく計算結果の比較である.なお,ハイブリッドモデル(Case b)の2次元領域と3次元領域との境界はx=士125cmであるが,ここでは流れの3次元性が著しいx=ー80〜80cmでの比較を示す.図18はx=0cmの流速が沖向き最大になるとき,図一20はx=0cmの流速が港向き最大になるとき,図一19,21はその中間である.図一18〜21でほぼ約1周期分になる。丸印は実験値,実線は本手法(Case b)による計算値,破線は非線形長波理論の計算値を表す.
図一18,19の港側全体,また図一20のx=80cmなど流速が鉛直方向にほぼ一様な場所では,本手法による計算値および非線形長波理論の計算値はいずれも実験結果とよく一致している.特に防波堤開口部(x=0)では,y=一65cmを除き,全ての時間で非線形長波理論による計算でも,ほぼ妥当な結果を与える.すなわち,従来の方法でも,港内に流入する流量はほぼ正確に評価できることになる。しかし,図一18のx=一40cm,y=一20cm,図一20のx=40cm,y=ー40cmなど,水表面付近で流速が大きく底面近くで小さいといった流速の鉛直分布を持つ場所がある。非線形長波理論では,このような3次元性を評価できないが,本モデルでは精度よく再現できている.また,図一21のy=0,一20cmにおける,x=60,80cmでは,流速分布が一様に近いにも関わらず,非線形長波理論は流速をかなり過小評価している.同じ時間のy=一40cmで水表面付近に逆向き流速が現れているなど,防波堤開口部で発生した渦が複雑な挙動を示しているが,この渦の存在によってy=0,一20cmでは縮流の効果により流速が大きくなっていると考えられる.非線形長波理論では,渦の複雑な挙動を再現できないから,y=0,一20cmのx=60,80crnでは流速が過小評価になっているのであろう.すなわち,流れの3次元性が強いと,非線形長波理論では断面平均流速に関しても精度が悪くなると言える.本モデルでは,このような現象も再現できる.すなわち,構造物周辺の,3次元的な流況の計算に,ハイブリッドモデルは有用であると分かる.しかしながら,図一18のy=一65cm,x=ー80,一60cmなど,実験結果では鉛直方向になだらかな分布になっているにもかかわらず,計算結果では流速が鉛直方向に変化しているところがある.これは,実験では鉛直方向に軸を持つ鉛直渦により流れがよく混合され,流速が鉛直方向にほぼ一様になっているが,計算では鉛直渦による混合が不十分で,流速が鉛直方向に一様になるのが実験に比べて1〜2s遅くなるためである.
全体の時間を通して,開口部における流れの通過する主たる領域,すなわちy=一40cm以内の開口部中央部では,本モデルによる計算値は実験結果と良い一致を示す。津波防災の観点からは,津波防波堤による最大打ち上げ高の変化,津波防波堤開口部潜堤の安定性,あるいは木材など漂流物の挙動を予測することが特に重要であり,そのためには開口部中央付近の流況の再現が最も重要である.そのような意味で,本モデルは実用上十分な精度を持っている.一方,本モデルは防波堤端部から発生する渦の挙動に関しては十分な精度を持っていないことも分かった.防波堤端部付近のマウンド捨石の安定性や渦に巻き込まれた船舶の挙動を調べるには,将来この点の精度を向上させる必要がある.それには乱流モデルの見直しが必要だか,その場合も本モデルの考え方をプラットフォームとして利用することが可能である.
6. 結論
本研究では,従来の計算方法である2次元モデルと,圧力の静水圧分布を仮定しない3次元モデルを組み合わせたハイブリッドモデルを開発した.本ハイブリッドモデルは,防波堤開口部周辺で発生するような3次元性の強い複雑な流況を精度よく計算でき,またその周りで2次元モデルを用いることにより効率よく計算できる手法である.
本ハイブリッドモデルでは,2次元領域と3次元領域の境界接続法を開発した.この境界接続法では,流速の鉛直分布に情報を持たない平面2次元モデルから,3次元領域側に流量を伝える.3次元領域では,その情報を考慮し,なおかつ接続境界でも3次元領域と同様の流速分布がそのまま保持されるよう,境界条件を設定する.また,3次元側の水位,流量および流速分布の情報として運動量補正係数を2次元領域に与える.
この接続法を用いることにより,全領域3次元計算の結果と比較しても大差のない計算が可能となった.その際,3次元領域をCase b程度(開口部の約2倍)に取れば精度のよい結果が得られる.
また,水理模型実験を実施し,その結果とハイブリッドモデルによる計算結果とを比較した.ハイブリッドモデルを使うことにより,マウンド斜面上など,鉛直方向に水平方向流速の分布が変化しているような複雑な流況も計算可能であることが分かった.全領域を3次元計算することに比べ,本手法は計算時間を大幅に短縮できるので,構造物周辺などの3次元的流況を調べるのに適していると言える、 本モデルは開口部中央部の広い範囲で実験値を精度良く再現しており,津波防災の観点から見ると,本モデルは津波の数値計算手法として実用上十分な精度を持っている.一方,鉛直渦による混合が十分速やかに行われず,防波堤潜堤付近で実験結果と相違する点が発生するなど,乱流モデルについて改良の余地がある点も明らかになった.より一層の精度向上のためには,今後,乱流モデルの見直しが必要ではあるが,領域接続法などに関しては今回用いたモデルの基本的な考え方を適用することが可能である.また,今回の計算では,2次元計算の基本方程式として非線形長波理論を用いたが,計算したい場所の水深や地形などに応じその他の長波理論と組み合わせることも可能である.より高次の微分項を持つ長波理論を使用すれば,目的に応じてより高精度な結果が得られるものと期待できる.
謝辞
本研究に実施にあたっては,内藤里美,小坂亜矢両君(防衛大学校本科4学年)の協力を得た.ここに記して謝意を表する.
参考文献
1)後藤智明,佐藤一央:三陸海岸を対象とした津波数値計算システムの開発,港湾技術研究所報告,第32巻,第2号,pp.3-44,1993.
2)柴木秀之,青野利夫,見上敏文,後藤智明:沿岸域の防災に関する総合数値解析システムの開発,土木学会論文集,No.586/2-42,pp.77-92,1998.
3)岩瀬浩之,見上敏文,後藤智明:非線形分散波理論を用いた実用的な津波計算モデル,土木学会論文集,No.600/2-44,pp.119-124,1998.
4)正村憲史,藤間功司,後藤智明,重村利幸:非静水圧3次元津波数値計算モデルの開発,海岸論文集,第43巻,pp.296-300,1996.
5)榊山勉,香山真裕:消波護岸の越波に関する数値シミュレーション,海岸論文集,第43巻,pp.696-700,1996.
6)磯部雅彦,高橋重雄,余錫平,榊山勉,藤間功司,川崎浩司,蒋勤,秋山実,大山洋志:数値波動水路の耐波設計への適用に関する研究一VOF法基本プログラムの作成一,海洋開発論文集第15巻,pp.321-326,1999.
7)中辻啓二,狩野晋一,栗田秀明:SGS渦動粘性係数を用いた大阪湾潮流の有限要素解析,水工学論文集,第36巻,pp.693-696,1992.
(2000.2.15受付)
NUMERICAL ANALYSIS OF TSUNAMI BY USING 2D/3D HYBRID MODEL Kenji MASAMURA, Koji FUJIMA, Chiaki GOTO, Kunihiko IIDA and Toshiyuki SHIGEMURA
The 2D/3D hybrid tsunami numerical model is developed in which the conventional 2D model is adopted for the calculation in the wide region located far from the coastal structures although the 3D non-hydrostatic pressure numerical model is used in the limited region adjacent to the structures. Applicability of the domain connection technique is examined by comparing the numerical results obtained by the present hybrid model with those obtained by applying the 3D non-hydrostatic pressure numerical model for the whole domain. Further, the results of the model tests are compared with the numerical results obtained by both the present hybrid model and the 2D model, to examine the validity of the present model. It is shown that the present model reduces a calculation load significantly comparing to thecase adopting the 3D model for the whole domain and reproduces the characteristics of three-dimensional complicated flow around the opening of breakwater which cannot be reproduced by the 2D model.
深海域における波数分散効果が近地津波の伝播に及ぼす影響に関する考察 岩瀬浩之1・後藤智明2・藤間功司3・飯田邦彦4 1正会員 株式会社エコー 沿岸デザイン本部環境水工部 (〒=221-0052神奈川県横浜市神奈川区栄町10-35) 2正会員 工博 東海大学教授 工学部土木工学科 3正会員 工博 防衛大学校助教授 システム工学群建設環境学科 4正会員 工修 東海大学助教授 工学部土木工学科
Abstract
代表的な既往津波を対象とした数値解析から,深海域の波数分散効果が近地津波の伝播に及ぼす影響について考察した.水深200m点の波形比較および初期水位分布に対するスペクトル解析から,近地津波であっても波数分散効果が無視できない津波があることを示した、さらに,波数分散効果の影響を定量的に表す指標値を定義し,数値解析において分散項の考慮が必要となる条件値を定めると共に,代表的な断層パラメータ諸量と波源の平均水深から指標値を簡便に算出できる評価式を導いた.また,海底地盤の変動時間が波数分散効果に及ぼす影響について検証し,その限界時間が約1分程度であるこ:とを示した.最後に,1983年日本海中部地震津波を対象とした実地形計算から深海域における分散効果が浅海域へ及ぼす影響について考察した.
Key words : near field tsunami, dispersion effect, index of dispersion effect
1. はじめに
波数分散効果が津波の伝播に与える影響についての研究としては,1983年日本海中部地震津波を機に浅海域を対象としたソリトン分裂波に対する実験・研究が数多く行われている.しかし,深海域における波数分散効果の影響についての研究は少ない.その理由のひとつに,対象が深海域であるため有意な測定結果が皆無であることが挙げられる.
理論的には,Kajiura1)が時間に関するグリーン関数を利用して津波第一波峰の波数分散効果による減衰特性に関して検討している.この理論によると近地で発生した津波の第一波峰の減衰は,2次元伝播問題で伝播時間の-1/6乗に関係し,大きな減衰とはならない.
また,首藤2)はKakutaniの式3)から波数分散効果の影響を定量的に評価し,伝播距離が短い近地津波ではその影響が小さく無視できることを示している.ただし,Kajiuraは一定水深と矩形波源を仮定し,首藤は正弦波を対象としたものであるため,これらの結果をそのまま現実の津波問題に当てはめることには多少の問題が残る.
深海域における波数分散効果は,初期水位分布を構成するフーリエ成分波の相対的な大きさ(波数分布)によって左右される.したがって,被害をもたらすような津波は高角の逆断層タイプのものが多いことを勘案すると,たとえ近地津波であっても津波の波数分散効果を無視できるとは限らない.深海域における波数分散効果は,津波第1波の水位減衰,波長の伸長および分散波列の生成として表れる.これらの諸効果は,沿岸域における津波の増幅現象である共振特性のみならず浅海域における津波のソリトン分裂現象に決定的な影響を及ぼす.したがって,深海域における波数分散効果を無視できない近地津波が,どのような条件の津波なのかを把握し,その影響を正当に評価することは沿岸域の防災計画の策定上重要なことである.
そこで,本研究では深海域における波数分散効果が近地津波の伝播に及ぼす影響について,過去に発生した近地津波を用いた数値解析から考察する.南海道沖,三陸沖,日本海における代表的な既往の近地津波5つを対象に,水深200m点の波形比較および初期水位に対するスペクトル解析から,たとえ近地津波であっても波数分散効果が無視できない津波があることを示す.
さらに,深海域における波数分散効果の影響を定量的に表す指標値を新たに定義し,数値解析において分散項の考慮が必要となる条件値を定めると共に,代表的な断層パラメータ諸量と波源の平均水深から簡便に算出できる評価式を導く。また,海底地盤の変動の継続時間の違いが波数分散効果に与える影響について検証する.最後に,1983年日本海中部地震津波を対象に深海域における波数分散効果が浅海域へ及ぼす影響について考察する.
2. 解析方法
(1) 代表津波の初期水位分布
一般に,津波の初期水位分布は,静的断層パラメータからManshinha and Smylieの方法4)により求められた海底の地盤変位とする,本研究でも同様の方法で初期水位分布を求め,短軸方向に関する1次元伝播解析を利用して深海域における波数分散効果を考察する、その際断層パラメータにより様々な初期水位分布が考えられるが,特に重要視すべきは,沿岸域に甚大な被害をもたらした巨大津波であろう.津波防災対策の策定にあたり,それらの津波の断層パラメータを参考にすることが多いからである.そこで,ここでは南海道沖,三陸沖および日本海の3つの海域での代表的な5つの大規模津波に対して検討を行う.南海道沖としては1707年宝永地震津波5)および1946年南海道地震津波5),三陸沖として1896年明治三陸地震津波6)および1933年昭和三陸地震津波6),そして日本海として1983年日本海中部地震津波7)の合計5種類である.
Fig.1はそれぞれの波源の水位鳥鰍図と波源短軸方向の水位断面図(三陸沖を除く津波に関しては,図中矢印の示す波源を対象)を示したものである.なお,主な断層パラメータ(断層深さd,断層面傾斜角\delta,すべり角\lambda,走行方向長L,傾斜方向長W,すべり量U)および波源域の平均水深\bar{h}をTable1に示す.特に,昭和三陸および日本海中部地震津波は比較的高角な断層モデルであり,昭和三陸津波は正断層モデルである.
(2) 支配方程式
津波の波数分散効果を考慮するには,非線形分散波理論による支配方程式を使用すればよい.なお,今村8)は遠地津波の数値計算で,線形長波理論による支配方程式と空間格子および時間間隔の組み合わせによる数値分散性を利用して波数分散性の代替えとする方法を提案している.この方法を用いれば波数分散効果を含む津波の伝播が効率良く計算することが可能である.しかしながら,この方法では,方向的な分散特性を持つことが知られ,計算格子に対して45°方向の分散性の効果が弱く評価される9).通常,近地津波における計算格子は南北および東西方向の直交座標系によって定義されるが,日本海中部地震津波の様に津波の指向性の強い波源短軸方向が格子に対して45°方向に向く場合が存在する.よって,ここでは波数分散効果を正しく評価するため,一次近似の波数分散項を含むPeregrineの式10)を使用する.Peregrineの式(以下,本論文では非線形分散長波式と呼ぶ)の波数分散性は,高周波領域へ行くに従って微小振幅波理論に比べ強くなることが知られている11),比較的高周波帯まで微小振幅波理論と一致する分散項の型がMadisen and Sorensen12)によって提案されているが,津波計算にそのまま適用するには問題点が残っていることを見上ら13)が示唆している.
鉛直方向に積分された連続式と波数分散項を含むPeregrine式は以下のように表される.
(1)
(2)
(3)
ここで,\etaは水位,hは静水深,Dは全水深,gは重力加速度,M,Nはそれぞれx,y方向の線流量を示す.
また,砕波,海底摩擦項および水平拡散項は対象が深海域を伝播する波であること,コリオリカは近地津波を対象としていることにより本計算モデルでは無視する。
(3)数値計算方法
本数値計算では,上記の支配方程式を著者ら14)が提案した2段階混合差分法を用いて計算する.一般に,非線形項(移流項)を含む支配方程式を差分化する場合,計算の安定性から非線形項は1次精度の風上差分を採ることが多いが,原ら15)は非線形項および分散項を含む支配方程式で陰的解法を採用するときには,非線形項に2次精度の中央差分を採っても安定した計算が行えることを示している.よって,本計算でも非線形項に2次精度の中央差分を採用する.よって,連続の式の差分表示は以下の様になる.
(4)
一方運動の式は,x方向を示すと1段目はM*を計算分割値とした陽的差分式,
(5)
となる.2段目は以下に示す陰的差分式を使用する.
(6)
ここで,x方向の移流項には中央差分が採用されている.また,右辺の最後の2つの項は,1段目で生じる第一次近似の数値分散を抑制するために加えた誤差抑制項である.K_x,K_yは,クーラン数を表す.なお,y方向についても同様に差分化を行う.
(4) 波数分散効果の計算精度
深海域における津波は,非線形性が無視可能なため微小振幅波理論で記述することができる。ここでは微小振幅波理論を真値とし,使用した支配方程式の深海域における波数分散効果の特性を1次元伝播解析から検証する.微小振幅波理論による計算には,高速フーリエ変換を利用した有限複素フーリエ解析を利用する,水平床における有限複素フーリエ解析による水面変動\eta(x,y)は,
(7)
と表される.ここで,Nは初期空間波形のデータ総数,nは成分モード,A_nは各成分モードに対する複素フーリエ係数である.また,c_nは各成分における微小振幅波理論の波速,
(8)
を表し,各成分の波数k_nは
(9)
であり,\deltaxはデータ間隔である.
本研究で用いた非線形分散長波式の深海域における波数分散特性を確認するため,水深1000m毎に水平床伝播計算を実施し,微小振幅波理論との比較を行う.同時に波数分散効果を含まない非線形長波式の計算結果との比較も示す.比較計算に使用した津波初期波形は日本海中部地震津波である.これは,5つの代表津波の中でも最も波長の短い初期波形であり,,波数分散効果の影響が最も顕著に表れると予想されるためである.空間格子長は,5km程度までの後続する分散波列の波長が十分再現可能な様に空間格子を\delta x=100mとし,時間間隔を\delta t=0.05sとする.
Fig.2は,近地津波における波源域から200m水深点までの平均的な距離を考え,津波が約50km伝播した時の空間波形を示したものである.図中の各表示は微小振幅波理論(白丸),分散項を含む非線形分散長波式(実線),分散項を含まない非線形長波式(破線)による計算結果を示す.
第1波に限れば,いずれの水深においても水位の空間分布はよく一致している.一方,後続する分散波列に関しては,水深1000m,2000mのケースでは第2波以降の分散波列もよく一致している.しかしながら,3000m程度の水深では微小振幅波理論との分散関係に多少差が生じることから分散波列の再現精度が劣る.特に,第3波以降の分散波列は,波数分散効果が過大に見積もられる(すなわち,分散波の間隔が広がる)傾向にあり,4000m程度の水深では,第3波目の分散波が微小振幅波理論に比べ半波長程後退するなど,その影響が大きいと言える.これは本研究における非線形分散長波式では,波数分散性が強いこと,すなわち,各成分波の波速が過小評価で,しかも高周波成分ほど誤差が大きくなることに起因している、よって,今回用いた数値計算の分散項の形は,水深が3000m程度の海域を対象する場合には後続する分散波列の周期が過大に計算される特性を持つが,水深が2000m程度の水深では比較的良好な精度を有していると判断できる.
一方,非線形長波式による計算結果では,波数分散効果による波高減衰を表現することはできず,特に水深が2000mを越える海域での津波は波数分散効果による波高の減衰や波長の伸長現象が著しい為,微小振幅波理論との差が大きくなる.ゆえに,日本海中部地震津波のように波源水深が2000mを越え,かつ比較的短い波長の津波に対しては,深海域における波数分散効果は無視できず.数値解析において分散項を考慮した計算が必要と考えられる.

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3. 深海域の波数分散効果
上記の結果を踏まえ,先に示した代表的な津波5つの断面初期波形(Fig.1)を用い,沿岸津波高と相関性が比較的良いと考えられている200m水深地点16)での津波波高と周期の関係から深海域における波数分散効果の影響について考察を行う.海底地形はそれぞれの津波に関して波源領域から沿岸部を簡易的な地形に近似し,1次元伝播解析を行う.Fig.3は,左側に各代表津波の初期波形分布(数字は最大水位)および水深分布を,右側に水深200m地点における時間波形(数字は第1波の最大・最小水位)を示したものである.時間水位を示す図中で,太線は非線形分散波長波式,細線は非線形長波式による計算結果を示している.なお,計算条件は,空間格子を\deltax=100m,時間間隔を\delta t=0.05sとする.
Fig.3より,波数分散効果による第1波の波高減衰,第1波の波長伸長,分散波列の形成などが確認できる,第1波の最高水位は,どの津波でも非線形長波式にくらべ約20%程度減衰しており,津波による大きな違いは見られない,しかし,第1波の波長伸長率や,第1波に対する後続の分散波の大きさに関しては,津波による違いが大きい.そこで,波谷から波谷(昭和三陸は波峰から波峰)までを周期と定義した場合の,各津波における周期伸張率および周期比について考察する.
宝永および南海道地震津波のように波長が長く低角な断層タイプで比較的浅い水深で発生した津波では,非線形長波式に比べ,非線形分散長波式の第1波の周期伸張率(波数分散効果の考慮による周期伸張量)は,それぞれ6%および1%となる,一方,昭和三陸地震津波および日本海中部地震津波のように初期波形の波長が比較的短く波形勾配の大きな津波や平均的な波源水深が3000mを越える明治三陸津波に着目すると,宝永や南海道地震津波と比較して波数分散効果の影響が顕著に現れている.すなわち,明治三陸,昭和三陸および日本海中部地震津波における周期伸張率は,それぞれ19%,25%および17%となり,宝永や南海道地震津波に比べ,かなり大きな値となる.
また,波数分散効果によって生じた分散波列の第1波の周期と第2波の周期比(第1波に対する第2波の大きさ)に着目すると,宝永および南海道地震津波では,それぞれ10%および9%であるのに対し,明治三陸,昭和三陸および日本海中部地震津波では,それぞれ,27%,34%および35%となる。これらの結果から,明治,昭和三陸および日本海中部地震津波は,波数分散効果の影響が大きな津波であると思われる.ただし,ここで使用した初期波形分布は,深海域において波数分散効果を考慮しないで決定したものであり,波形の精度としては多少の問題が残っている.しかしながら,各津波に対する波数分散効果の相対的な影響度合は同じである.よって,三陸地震津波や日本海中部地震津波の深海域における波数分散効果は無視することができない可能性があり,数値解析において波数分散項を考慮した計算が必要と考えられる.
(1) 初期水位スペクトルと波数分散効果
以上の結果から,深海域における津波の波数分散特性は初期水位分布および津波が発生する平均的な水深に大きく左右されることが分かる.ここでは,初期水位分布の短軸方向における断面波形のスペクトル解析から,深海域における波数分散効果の影響を考察する.
Fig.(1)は,それぞれの代表津波における短軸方向の断面波形からフーリエ変換を用い,面積が1となるように規格化されたパワースペクトル.P*(k)を示したものである.また,Fig.(1)は,同パワースペクトルを各津波波源の平均的な水深を考慮し,横軸を相対水深k\bar{h}として採り直したものである(左軸と対応).また,同時に線形分散関係(●印・右軸と対応)を描いた.Fig.(1)から,宝永地震津波や南海道地震津波の持つエネルギーの波数分布は波数分散効果の影響が相対的に小さい場所,すなわち,線形長波理論の波速(Co=\sqrt{gh})と微小振幅波理論による波速(c_s=\sqrt{(g/k)tanh{kh}})の比(c_s/c_0)が1.0に近い領域に集中していることが分かる.
そのため,ほぼ線形長波理論に従って伝播し,Fig.3で示した様に波数分散効果の影響は少ない結果を得ることとなる.しかしながら,三陸地震や日本海中部地震では比較的広い波数帯にエネルギーが分散しているため,深海域における波数分散効果を無視することはできず,水位の大幅な減衰や波長の伸長,分散波列の生成が顕著に生じる.ゆえに,初期水位分布のスペクトル解析を行うことにより,その津波が持つ深海域における波数分散効果の影響度をフーリエ成分波の分布として把握することができる.
(2)波数分散効果指標1Dの定義
1次元伝播計算およびスペクトル解析から,波源水深の深い明治三陸地震津波,波源水深が比較的深くかつ波形勾配の大きい昭和三陸地震津波や日本海中部地震津波の初期水位分布を有する津波では,深海域における波数分散効果が無視できない可能性があることが分かった.ここでは,初期波形分布のスペクトル解析から深海域における波数分散効果の影響度を定量的に与える指標値を定義する.
津波の波数分散効果は初期水位分布と波源水深に大きく影響されることから,深海域での波数分散効果の大きさの目安となるような量として,波源短軸方向における1次元断面の波形パワースペクトルP*(k)と分散関係式による1次モーメントによって定義される量\deltaEを考える.すなわち,\deltaEを
(10)
と定義する.右辺第1項は規格化パワースペクトルの定義からその値は1であり,第2項の積分計算内のカッコ値は分散関係式を使うことができるので,式(10)は以下のように書き改められる.
(11)
ここで,\bar{h}は初期波源域の平均水深である.式(11)は,全ての成分波のエネルギーが線形長波式の波速(C_0)で進行すると仮定した場合の津波エネルギーフラックスと各成分波のエネルギーが微小振幅波理論の波速(c_s)に従って進行すると仮定した場合の津波エネルギーフラックスとの間の誤差に関連した量を示している.よって,式(11)を,深海域における波数分散効果の影響の大きさを表す指標値I_D(lndex of Dispersion effect)として以下のように定義する.
(12)
以上の式を用いて5つの代表津波のI_Dの結果をTable2に示す.宝永地震津波や南海道津波地震の様に平均水深が浅く低角な断層モデルではI_Dの値は小さい.
一方,比較的に波源水深が大きい明治三陸地震津波や高角断層モデルである三陸地震津波や日本海中部地震津波では前者の津波にくらべ大きな値となる。なお,断層パラメータ自身が高々3桁程度の有効数字しかもたないと思われること,波源での平均的な水深を使っていることなどから,I_Dの有効桁数も2桁から3桁程度であると考えられる.そのため,Table2ではI_Dの値として小数点以下2位までを示した.
(3) I_Dと波数分散効果
ここでは,深海域における津波に対する波数分散効果の考慮を判