海岸砂防林と津波被害
能代営林署の海岸砂防林は、米代川(八幡平を源流とし秋田県北、天然秋田スギの郷土地帯を流れ、能代平野を貫流し日本海にそそいでいる)の河口を挟む日本海岸沿いの砂浜で、河口の左岸は後谷地(300ha)、右岸(北側)が大開浜(40ha)の2団地になっている。
主風は、北西風で、冬期間とくに12月〜2月頃までの西高東低の冬型の気圧配置の日々(太平洋岸の晴天の日)には、雪と砂まじりの強風が吹きすさんでいる。
後谷地団地
現在は、内陸部は能代市の住宅地としてひらかれており、その前方は、木材工業団地、能代港と環境は著しく変化をし、むしろ飛砂防備保安林の機能よりも散策路、憩いの広場など、森林浴の場(保険保安林)として大いに活用されている。また、これらの施設のさらに500m前線には、この度の津波により多くの人命が失われた能代石炭火力発電所敷地の造成のための4000トンケーソン(高さ5m、これをさらに2m以上の大波が越えている)と、港の防波堤などがあり、これらに守られ津波被害からまぬがれた。
大開浜団地
前方は海にひらかれ、内陸部には、レジャー、保養地等となっており、この度の津波は、海抜高5mの砂丘の上の松をのり越え、さらに内陸部海岸砂防林境(汀線から350m)からさらに200mの奥地にまで浸水し、レジャー施設等にまで被害を与えているが、自らも大きな被害をうけた砂防林の諸効果の発揮によって、その被害を最小限にくいとめている。
このため、大開浜団地についてさらに詳述すると、砂防林は、昭和8年に施業を始め8分どおりの完成をみたが、戦時中の放置または燃料採取等によりほとんど全滅し、昭和23年から再び復旧をはじめた。補助的に、モッコ、トロッコによる砂の運搬も行っているが、現在の機械力と違ってささやかなもので、主体は自然力による砂丘造成であり、思うように砂がたまらず復旧には長い年月を要した。また、クロマツの植栽も、強い季節風のため一冬でほとんど枯死するというような苦い経験をしながらも、津波被害前には、一部の補植、防風垣の補修を残す程度で、ほぼ全域に植栽も終って、完成の段階にまで達していた。
日本海中部地震、昭和58年5月26日正午、マグニチュード7.7という日本海側としては最大規模の地震の発生により大きな津波を伴って沿岸市町村を襲い、多くの人命を奪うとともに、家屋、農地、公共施設などに大きな被害をあたえた。
大開浜砂防林も、地震による陥没、亀裂のほか津波のために大きな被害を受けたが、本来の飛砂防備の使命のほかに、砂防林後方の諸施設の津波被害を軽減するという大きな役割を果たした。
なお、海岸砂防林の概略図と被害状況は前図のとおいである。
津波による被害
防浪砂丘は,越波,掃流(ひき波)により各所で寸断されたり,丘頂がえぐり取られ,堆砂垣の古い杭が露出したりの大被害となった。
反面,欠壊をまぬがれた箇所の丘頂は,ハマニンニクの強靭な茎葉と根系で地表が保護され,表面浸蝕されずに残っており,このようなところでは新しい芽ぶきもはじまって,自然再生されつつある。
欠壊箇所をみると,水みちになったと思われる海岸線に直角な運搬路の延長線,及び,比較的丘頂の凹部と思われる箇所に多いことからも,掃流による欠壊も考えられる。
防浪砂丘の背後のクロマツ幼船体(昭和44年植栽,ha当り1万本)は埋砂,根系露出,流失,折損,浸塩水等により全滅に近く,特に米代川よりの部分は,米代川方向に傾斜していることから掃流の水みちとなり浸蝕害が大きくなっている。
植生の状態とその後の回復力をみると,ハマニンニク(はもの科,主として本州中部以北の海浜の砂場に生ずる。その葉がニンニクの葉に似ていることからこの名がある)は,浸塩水にも耐え,その後は旺盛に回復している。アキグミ(ぐみ科,山野に生ずる落葉潅木)はほとんど枯死し再生されていない。
ハマナス(いばら科,関東以北の海浜の砂地に生ずる落葉潅木,浜梨の意)は枯死したものも多いが,一部,荒地に可憐な紅い花を咲かせたのも印象的であった。
クロマツは単なる越水箇所については,一時,芽が下をむくという状態のところも見うけられたが,大部分は回復している。しかし,凹地とか,砂丘間の低凹地は塩水が一時停滞し,海の魚(イワシ,ポラ等の青魚のほか,カレイ,タイ等の底魚まで)がマツ林の下で森林浴と,時の流れにのったかと今では洒落も出るが,潜水の深さと減水状態から自然滲透には一週間を要するという判断から,このままでは枯死はまぬがれない。なんとかマツを守りたい一心から,排水路の掘削をはじめ,やっと48時間後に排水に成功し,クロマツの無事を願った。残念ながら,その後の晴天続きなどもあり,現在では枯死の状態となっている。しかし,クロマツの緑の下で森林浴を経験した沢山の魚を海水に放流でき,緑化思想を日本海にまで普及できたと自らを慰めているところである。クロマツはその後の天候にも影響されると思うが,一日程度の塩水潜水でも,ほぼ枯死するのではと思っている。
後背地のクロマツ(昭和36年植栽,高さ3〜5m,ha当り5500本)の成林地の被害は,塩水が一過性であったことから生理的な影響は少なかっが,前線の防風垣材料のよしずとか,その他河ロに近いことから漂流物が多くこれらによる物理的傷害(幹折,倒伏,根返り,樹皮剥脱等)が多く発生した。しかも,林内にはおぴただしい数のこれら漂流物が堆積され処理に苦労しているが,このことが砂防林後方の民地諸施設への被害を少なくしたことにもなり,その効果は大きい。なお民有地界のクロマツは,昭和34年植樹,高さ4〜7m,ha当り4300本。
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砂防林の効用
ここで砂防林の津波被害の軽減効果を整理するム砂防林は津波を防ぐことを目的とした施設ではないが,主砂丘の高さとマツ等の喬木を主体とする植生鮮は,林立する幹の抵抗等により,津波の速度とエネルギーを減じることと,漂流物の阻止,及び根系等による砂の移動を阻止するなどにより,津波の破壊力を減じ,被害軽減に大きな効果を発揮した。
砂防林は,その効用からして復旧を急がなければならないところであり,厳寒と風雪をおして,今年度から復旧作業に着手している。先ず,砂丘の補修,一帯の地形補正,防浪砂丘の地盤補強のための根固ブロックの配備,植生群保護のための防風ネットの構築等を行っており,これらの基礎工事の完了をまって,自然力との調和をもとめながら,クロマツを主体とする林帯,主砂丘頂や法面,前線帯へ,ハマニンニク等の砂草,潅木類の植生群の再生をはかっていくことにしているが,これには,やはり長い年月を要することになると思う。
能代海岸砂防林は,幾多の先人ご努力により造成され,また,長い歴史の中で破壊されることはあったが,市民と深いかかわりの中で育ってきたこともあり愛着の心も強く,毎年継続して行われている市民によるクリーンアップ作戦にも多数の方々が参加され,日常も林内での散策,ジョギング,茸とり等,森林浴に親しむ方々が多く,市民が護り育てていく林である。はからずもこの度の震災では大被害を蒙ったが,その後背地の諸施設が,この海岸砂防林によって護られたその効果は高く評価され,一層,その重要性が認識されている。
最後に,被害後,多くの方々が調査においでになり,色々と御意見をいただき,また,はげましの言葉も頂戴いたしましたことを,この紙面をおかりして厚くお礼申しあげます。
出版物一覧
緑化樹木の生産者価格指数
No.128 昭和57年10月15日現在 No.29 昭和58年1月15日現在 No.30 昭和58年3月15日現在 No.31 昭和58年10月15日現在 各頒価500円(〒240円)
工場緑化ハンドブック・A5版330頁 頒価6,000円(〒300円)
人とみどり・「再版」頒価500円(〒250円) A5判,128頁
自然景観のアセスメントについて −みどりの景観を保全するために− 頒価2,500円(〒共)
河川と緑化 頒価700円(〒共)
河川緑化に関する調査研究 頒価2,000円(〒共)
工場緑化現況調査報告書(56年) 頒価3,000円(〒共)
第9次(56年)緑化樹木の生産状況調査報告書 頒価3,200円(〒350円)
第10次(57年)緑化樹木の生産状況調査報告書 頒価3,300円(〒350円)
緑化地の土壌改良の手引き・改訂版 領価1,000円(〒共)
緑化樹木のポット栽培の手引き 頒価1,500円(〒共)
緑の環境・日本緑化センター10年の歩み 頒価1,000円(〒別)
中小規模工場緑化現況調査報告書(57年) 頒価1,000円(〒共)
■申込先・財団法人 日本緑化センター 〒107 東京都港区赤坂1−9−13 三会堂ピル TEL(03)585−3561(代)