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1.津波襲来の模様

太平洋沿岸を総なめにした大津波は、岩手県沿岸の陸前高田市、大船渡市、宮古市、釜石市、久慈市地方にも惨怛たる被害を与えた。震源地が丁度日本の裏側の南米チリだっただけに、我が国では全く地震が感じられないまま、予告なしにおそわれた。三陸津波をこれまで何回となく経験している当地方でさえも、この『前ぶれなしの大津波』は、津波の常識を完全にくつがえしたもので、この点今后の津波対策の上に重大な問題を提起している。
当地方では貞観11年(西紀869)の三陸津波を初め、慶長16年(西紀1611)、明治29年、明治37年、そしていまだに語り草となっている昭和8年3月3日の三陸津波が、ともに震源地が近くの三陸沖だっただけに、津波が押しよせる前に、はげしい地震があらわれていたことから『津波の前には必ず地震がある』ことが津波襲来の常識とされていた。
ところが、昭和35年5月24日早朝から太平洋岸一帯を襲った津波は、震源地が南米チリ沖しかも浪源となった地震のあったのは23日朝4時31分の4回目のもので太平洋を1昼夜近い時間経てやってきており、ほとんど地震を感じないまま高波をかぶる、全く寝耳に水だったので型破りの津波を初めて経験したわけである。
このような地震を観測できなかったことは、国内観測所では、海の彼方の地震を観測できるだけの高位率地震観測機の設備していないことで、わずかに高位率の地震観測機をもっている長野県松代の地震観測所だけが地震を観測したにすぎなかったのである。
津波を告げる潮位の異常が、すでに24日朝2時すぎにあらわれたが、これを察知したのは3時間以上もおそく午前5時6分にやっと仙台管区気象台から津波警報が発せられる始末だった。

(1).津波警報発令

1番早く警報が出されたのは、札幌管区象台の24日午前5時、被害の大きかった三陸沿岸を受け持つ八戸地方気象台では同5時19分予報を出したとのことであるが、津波の第1波は同2時47分に岩手県宮古で観測され、同5時19分には八戸で最高の5Mを記録したとのことである。
日本国内各地及び陸前高田市内における波の高さは次の通りである。(第1表参照)


○津波警報発令の遅れた理由
警報の出遅れの理由については、気象庁では次の様に話している。
(1).地球の裏側からの津波による実害はこれまでになかった。
(2).気象業務法に依る津波警報は、日本海の地震に対して出すことになっている。
(3).情報が不足していた。
などを主な理由にあげている。しかし同庁には、23日午前中にハワイの津波情報センターから情報が入っていたが、この情報がかえりみられなかったことに今度の大被害の原因の大半があるとまでいわれたが、これまでの気象庁の話によると、情況は次のようであった。


○津波情報については現在国際的なデーター交換協定はない。
しかし、在日米軍がいる関係で、太平洋地域に津波警報を出す米国組織であるホノルル沿岸測地局からの情報は常時同庁に入る。こんどの場合も半日以上前の23日午前10時20分には「チリ地震で被害を伴なう津波があるかも知れない」との第1報が入電、さらに同日午后6時57分、強さの程度は不明だったがハワイ諸島に対する津波到着予想時間を含めた情報がもたらされていた。
ところが、気象庁地震課では、いままでにチリ附近の地震で実害のある津波をうけた経験がないため、警戒態勢をとらなかったという。ことにハワイからの第2報は退庁時刻后であったため予報官の手許に届かず、この失態を演じてしまったといわれている。

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地図 (第1表)津波の範囲と最大波高
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地図 (第1表)津波の到達状況(時間は日本時間)
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地図 (第1表)市内各地の潮位

(2).全国的の模様

当時、広野地震課長の話では、
関東大震災を上回る大きな海底地震だったため思わぬ大被害となってしまった。経験、情報等の不足による技術の限界をついて「奇襲された」と話していた。
こうしたことから、今度の災害の問題点は、気象庁の津波警報が遅れたことと、震源地までの距離が遠いわりに高い津波が押しよせたことにある。と絞られた。
第1の点については、気象庁地震課の担当官も「たしかに我々のミス」とはっきり認めた。気象庁観測部が第1回目のチリ地震をキャッチしたのは21日午后7時23分頃、地震計の記録から見て、規模約8の大地震であることが推定された。翌22日午后7時51分には第2回目の地震を観測、23日の午前4時15分と同31分には第3回目、第4回目の地震がキャッチされた。この内、特に大きかったのは4回目で、その規模は8.57と推定され、もしこの数字が正しければ、地球上における地震観測の記録上空前のものといわれ、日本に津波をもたらした地震は、この第4回目のものであると言われている。震源地は南緯37°、西経73°、チリ国コンセプション市沖の太平洋と推定され、日本からこの地点までの距離は1万8千km、この距離を津波が伝わるには約22時間〜24時間かかる。(時速約813km)が、地震波はわずかに15分で到達する。したがって、地震波を観測したとき、気象庁が津波来襲の判断を下していれば、おそくも23日の夕方には警報が出来たことにもなる。気象庁観測部が、23日中についに津波警報を出さなかった理由は、
新聞情報以外に現地の模様をつかむデータが入らなかったこと。
これまで日本と地震津浪データを交換する慣習のあった、ハワイのホノルル沿岸測地局がこんどにかぎって沈黙を守りつづけた。
ことである。このため、ハワイで中継する南米チリのバルパライソ、コロンビアのベルボア観測所からのデータもついに気象庁には入らなかった。
気象庁に海外の観測所から初の津波情報が入ったのは、23日午后7時ごろで「タヒチで1M」「クリスマス島変化なし」という内容であった。このため待機中の気象庁担当官は警戒態勢を解いてしまった。
一方震源地までの距離が遠いわりに津波の規模が大きかったことについて、気象庁は次のように説明している。
1.震源地が日本からみて、地球の丁度非裏側に近い場所にあったため、太平洋の真ん中へ一度広がった波が日本附近に集中したのではないか。
2.津波の到着時刻が丁度朝の満潮時に当った。
3.日本の海岸線の様式は「リアス式」が多く、V字型で波高が急に高くなる。
ただし、日本の津波の規模としては、今回のものは「中の下」位で、大きい方とはいえない。とのことであった。本格的な大津波は、三陸沿岸では高さ30M〜40Mにも達するものだと気象庁ではいっていた様である。

(3).市内での模様

当市米崎町堂の前部落の漁民の話では、23日午后11時頃より潮の流れが常時より速く、特に24日午前3時頃には最も速かったとのことであり、又同町脇之沢部落に於ての漁民は、大綱起しの為め(定置漁業)24日午前3時50分頃起きて海辺に出たが、その時の様子では常時より波が大きかった様で、岸辺の舟が1隻流されており0.80M位の高波のように思われる、との話であった。
4時20分頃、常時と異なって異状に潮が大きく引き下っており、津波の襲来を予知したので大声で叫び、また海岸の船を引き上げた人もあった。又同町勝木田部落に於ても海の干潮異状を見て津波を予知し、市役所消防本部に連絡、警鐘の打鐘許可を得て4時30分警鐘を打ち警戒、避難させた后、間もなく市消防車が脇之沢部落に向ってきたが、その時は既に大波は狂える「ライオン」の如く怒涛はあたかも山林に防風が吹きすさぶ如き音をたててやって来た。そしてその消防車も危うく後から波に呑まれるところを脇之沢館米崎巡査駐在所附近に危うく難をのがれたとのことである。

2.被害状況

このような状況下においてうけた今度の大津波による被害は、太平洋岸の20都道府県にわたるといわれれるが、特に漁港、漁船、漁具など水産関係を中心に、農地、農用施設、農作物、住家などに甚大な被害を与え、農地、農業用施設 3億8千万円、治山関係2億5千万円、水産関係■■20億円、林産関係約6億7千万円、畜産関係約1億2千万円で総額138億円にのぼるといわれ、
陸前高田市内に於ては下記のような被害状況であった。


(1)津波被害概況
災害時日 昭和35年5月24日午前4時15分
津波潮高 4m〜7m
建物被害 1.015戸
農林被害 110.300千円
漁業被害 301.852千円
公共施設 153.030千円
その他
合計  1.419478千円
罹災死傷者 死者8人
罹災世帯 615世帯
罹災者数 3376人


(2)農耕地並びに苗代被害
a.水田被害(単位ha但し■■■■)


(3)畑作被害(単位■)


尚、その后市内の被害再調査では約3億2千万円(内公共被害2億5千万円)にのぼる損害を被ったことが判明した。
最も大きな被害の起ったのは、本市広田湾沿岸では午前4時10分頃より午后1時30分までの間に襲来した高潮によるもので、特に第3波、第6波が強く沿岸より250〜400Mの海水が流動したものと推定されている。この間において米崎町勝木田より小友町三日市を経て塩谷鳥島に至る沿岸では満潮線上約6Mにおよぶ高潮となった個所も少なくない。
今回の津波は震源地がはるか南米チリであったため津波の前ぶれとしての強震もなく、明治29年或るいは昭和8年の津波に大きな被害をうけた市内広田町、大船渡市末崎町、三陸村綾里、越喜来地方等のように外洋に面した岬状の地帯ではわずかに2M内外の高潮にとどまり被害を殆んどみなかったのに反し、小友町三日市湾、大船渡湾の奥部等に意外に大きな被害を与えたことは今日までの津波の場合と異る点である。これは震源地が遠く、そのために津波の波長がきわめて長かったために引潮も入潮も比較的緩徐であったため多量の海水が奥へ奥へと押し入り最后にせき止められた所に押し上ったためである。
広田湾沿岸では、気仙町湊、高田松原並びに長砂、米崎町沼田、脇之沢、勝木田より小友町両替三日市を経て矢の浦に至る内湾全域が被害が多かったのである。特に小友町三日市より国鉄小友駅方面に広がる平坦地、米崎町沼田の奥地、高田、気仙町間の平地では海岸から、堤防、鉄路等を粉砕してなお1,000〜1,200Mの奥地まで冠水し、気仙川の如きは矢作、竹駒間に架る鉄橋附近まで(川口より約4km)まで海水が到達した。このため主として海岸平地に開けた耕地をもつこの地方では、収穫間近い麦、花おさまりした果樹は全滅し、また広範な水田地に稲の作付を不能にした。
市内8ヶ町の中全然被害の無かったのは横田町であるが、三方海に囲まれている典型的漁村である広田町に被害らしい被害のなかったことは前述の理由に由るものと考えらる。


○波型の比較
昭和35年5月24日津波々型
明治29年昭和8年津波々型


流失、損傷をうけた主なるものは建造物、農耕地、山林、船舶、漁具、養殖施設、道路、橋梁、堤防、護岸、港湾施設、鉄道、車輌、通信施設等々多方面に亘り量的にも甚大なものであるが、人命被害が死者8名、軽傷10名を出したに止まったことは罹災地域、集落状況から見て不幸中の幸いであったと思う。これは、最高潮(第3波)襲来前すでに警報が報知されていたこと。夜が明けて起床時刻であり避難、救助作業活動も自由であったこと。引き潮や上げ潮がゆるやかで歩行でも逃げ帰る時間的余裕があったことなどが挙げられる。
家屋建物は、基礎の堅固なもの、ブロック建、モルタル造、二階家屋重■のある物や建合の高い物等は比較的流失を免れた。しかし戸障子、壁等をほとんど抜かれ、したがって家具類などの、一切を流失したものが多い。そして、軽くて抵抗の多い物、建合が低く軒下まで浸り浮かされた家は流失の厄にあった。
周囲の地形上から見ると、後方が崖などで入潮がこれにあたり、そのハネ返りで入潮の勢いをそぐような場所にあっては浮いた建物が潮の引いたあと元の場所におさまった。これにひきかえて、後が平地であったり、川沿にあってしかも潮の通り筋にあたる家は殆んど流失した。
道路や堤防の決壊は、入潮の側圧よりもかえって入潮のこえあふれた海水の引潮の落下する海水の重力によって掘り返され破壊されたものが多い。このことは高田町長砂沖より米崎町沼田間の鉄道線路や小友町三日市浦中護岸沿いの田の決壊、気仙川堤防の決壊状況等によって判断されるようである。

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a.水田被害
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(3)畑作被害
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昭和35年5月24日津波々型
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明治29年昭和8年津波々型

3.被害状況写真アルバム

3.被害状況写真
被害状況については、大略前述したのであるが、当時の惨怛たる被災状況は相当多数カメラに収めたのであるが、その中からほんの一部を次に収録してその暴威を偲ぶ資料とする。


★写真説明
1.気仙川口から泥水逆流、大洪水そのものである。
2.長部港、午前8時10分頃第3波が押しよせる、最高時との差約1m。
3.県立高田病院、泥土により水田区画不明となる、鮒等が相当死んでいる。
4.高田松原砂丘決潰のため海水が今までの古川沼を洗っている。
5.米崎町沼田地区、雑多な漂流物の多いことにおどろく。
6.高田松原、かもめ荘及あめこやあと。
7.屋根だけ浮んで田圃に打ち上げられる。
8.水田が決潰流失、手のほどこし様なし、(小友町三日市)。
9.元の位置より10mも移動した鉄路(小友町)。
10.鉄橋横転(高田町長砂)。
11.高田町小泉地区の苗代被害。
12.水田の所々に泥土中から稲株のあとがみられる。(泥土堆積12cm)。
13.無残にやられた麦畑、麦の上に泥をかぶる。
14.気仙町木場、水田漂流物の整理。
15.高田駅前、泥が深くて舟にのって整理する。

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写真 1
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写真 2
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写真 3
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写真 4
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写真 5
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写真 6
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写真 7
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写真 8
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写真 9
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写真 10
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写真 11
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写真 12
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写真 13
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写真 14
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写真 15

4.当時に於ける普及所の活動状況

チリ地震津波当日、当農業改良普及所における宿直当番は加藤徳雄技師が当っていたが、同技師は同日朝4時25分頃早くも津波による非常事態を知り直ちに起床、所内の警備に当るとともに現況の把握につとめていた。同7時20分戸羽所長は、平地一面の泥海、家屋の倒潰、雑流物の漂流道路の決潰等地区民の立騒ぐ惨状裡をおして登庁、直ちに指揮をとり、各職員に津波被害を連絡、非常事態に伴う全員登庁を求め、取り敢えず津波第1報を県養蚕課長宛に打電した。
「電文 津波被害ダイジムショブシタカタフキュウシヨ」
8時10分、生活改善普及員千葉安子のみは通信網杜絶のため連絡つかざるも外全員登庁した。
当時の職員組織は下記の通りである。
○陸前高田農業改良普及所職員
所長戸羽文一
技師佐藤昭
仝千葉三男
仝加藤徳雄
仝菅野貢佑
仝佐藤忠一
技師補千葉安子
所員を、直ちに2班に分け現地被害状況を調査査察し、
9時30分、各調査班の資料を持ち寄り、調査をとりまとめ、専ら今后の対策について所内研究討議会を行ない、応急の対策を決定すると同時に、緊急職員職務分担表を決定、対策並びに対外救援及び復旧等に関する業務に当ることとした。

○.緊急対策重点事項

方針 田植期にあたり、市内の約2分の1に当る被害水田の耕地復旧と、苗の獲得に全力を尽くすと共に、塩害田の除塩指導を行うこと。
そのため、
1.被害地の塩分濃度検定を行ない、無害濃度(0.07%)になるまで除塩を行なわしめ、確認し田植の可否を指示指導する。
2.救援苗の懇請受配の任に当り、尚苗の取扱い、植傷みを防ぐと共に追苗代等の設置指導も行なうこと。
3.田植実施に当っての施肥設計指導並びに用水の効果的利用 適期■■を指導すること。
4.停帯水の排除 海水流入防止指導を行なうこと。
5.畑作大豆の蒔付けについては、畑の塩分検定と除塩指導を行ない、適期播種を指導すること。
6.その他各関係機関と綿密なる連絡をとり、絶えず情況による適時適切なる指導に努力するとともに、よく常に状況を報告すること。

○.対策業務分担表

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対策業務分担表

5.活動日誌(抜粋)

以下、当時の日誌により緊急対策、対外救援状況並びに復興状況等について記してみる。

5.24火(曇)

津波襲来、波の打ち寄せ時刻(註.比較的大きいものだけを当日の宿直□藤技師記録)0425 0615 0740 0850
波のおし寄せる度に市役所消防車及びその他のサイレン、警鐘等が鳴りひびきそのたびにかつての大東亜戦争終戦間際の空襲当時の様に、沿岸市民は勿論高田気仙町々民の多くは寝具、身廻品を持って田課題に避難し、老人等は終日そのまま待機した。


1020 被害苗代について普及速報を16ヶ所に貼付すると共に巡回現地指導を行ない苗の復旧を速かに促した。
★普及速報(5.24)
1.苗代について
(1).浸水被害のかるいものについては、真水でよく何回も洗い流すか、水の不足な処では噴霧器でよく水をかけ葉面をよく洗い流すこと。
(2).被害のひどいものについては
塩水の入らない水田に引抜いて仮植するか、小川■、堰等に立て並べるようにして、日光の当りも多少与えるようにすること。
(3).薬剤の散布
浸水したものはウスプルン1000倍を散布すること。


1110 大船渡農林事務所より芦幸八、甘竹需、今野信夫、金野昭一の各技師は大船渡末崎、小友、米崎、高田各町の沿岸道路、鉄道、通信等すべて不通となったため住田町を迂回してオートバイにて連絡の為め来所する。被害状況並びに現対策、指導等につき報告を行なった。


1800 陸前高田市役所に情報交換、対策打合せに行き協議し、市産業課、農業委員会普及所、市内各農協等をもって津波対策協議会を結成することとし、更に活動実践隊を編成、明日より活動を開始することとする。
緊急を要する水稲苗については、早速明日より救援苗の請願に関係機関に出向くと共に、関係機関からの指示を待ついとまもない急事態なので実践活動隊を三班に分け、直接近隣の東磐井郡、住田町、遠野市等に出向くことに決定した。
★活動実践隊に参加の市内各農協組合長
高田農業協同組合 村上棗喜 米崎農業協同組合 吉田栄一
気仙町農業協同組合 菅野文吾 小友農業協同組合 紺野淳平
■田農業協同組合 藤井喜代治 ■作農業協同組合 高橋早雄
竹駒農業協同組合 吉田通男 下矢作農業協同組合 佐々木寛次郎
横田農業協同組合 菅野利美


1610 市役所内に特設された対策本部電話をもって県養蚕課へ被害状況を報告する。


1720 当所生活改善普及員千葉安子技師補家屋床上浸水2Mとの報告をうける。


1730 所内緊急打ち合せ会を開き、本日より非常勤務をもって当分超勤者2名とする。外日、当直者は諸情報の連絡、報告と救援苗の懇請、受入等について協力、応援することに決定した。

5.25水(晴)

1000 市内各農協生産担当者会議を開催、下記について協議する。

1.苗の確保について

(1).全般的な農業復興対策を講ずる為めに農業復興対策協議会を結成した。
構成員 市内農業団体及び各関係機関
役員及び分掌
会長 農業委員会長 菅野徳之助
副会長 農協協議会長 村上康喜
綜合対策(産業課、農委担当)
部長 産業課長 遠野長作
耕種技術対策(普及所、共済、試験地担当)
部長 普及所長 戸羽文一
種苗資材対策(各農協、農委担当)
部長 高田農協長 村上康喜
事務局 市役所産業課内


(2).活動実践隊の編成
各農協より1人宛の活動隊員を出して活動実践隊を組織し、直ちに明日より3班に分れ大東町、住田町、遠野市内各農協に苗の分譲依頼、懇願に出向き、その結果により集荷に出向くことに決定した。
(a).実践隊の組織
第1班 横田、竹駒農協 遠野方面に出向く。
第2班 米崎、小友農協 住田町方面に出向く。
第3班 矢作、気仙町農協 東磐井郡大東町方面に出向く。
尚、特に各出先関係普及事務所には当普及事務所より被害実状を訴えた救援苗協力方の懇請添書を持参せしめることとする。
(3).被害苗代の苗も活用出来るよう管理すること(潅水薬剤散布)。
(4).市内全農家に、苗確保の協力を呼びかけること。
(5).各地区の実情により追苗代を実施すること。

2.本田について

(1).被災田はよく潅水して塩分除去に努めること。
(2).石灰施用及び客土等により土壌改良を図ること(施用は10a当り120kg程度に止める)。
(3).高田、気仙町耕地の灌漑用水を早急に揚水し除塩処理に利用すること。
(4).施肥は堆積土の程度によるも堆積土の多い処はN分を根付き肥程度を施し、生育の状況を見て追肥を行なう。通常の3〜5割程度を減じ主育状況を勘案追肥し稲作の安全を図る。
(5).土壌塩分検定(矢木式)による結果0.1〜0.15%以上の塩分の検出を見たので充分に除塩作業を行ない0.07以下になってから田植を行なうこと。特に水利の悪い処では、土壌を撹拌して表層の塩分を全層に混じ、総体的に塩分濃度を薄めることが良いと考えられる。


(附)作物と塩分の関係について
一般作物では耕土中の塩素が0.04%(食塩として約0.07%)以上となると害があり、0.38%(食塩として0.6%)になると枯死すると云われている。水稲に於てはその品種、生育時季によってその被害の程度を異にし熊本県農業試験場その他の研究発表を綜合すれば、水稲では、田植后活■するまでの時期が一番塩分に弱く、灌漑水中の含有量が0.1%以上となると被害あり、分けつ期では0.2%まで、■孕期になると0.6%近くまでも耐える程の差があるとのことである。
尚普及所に於ては、専ら現地被害の緊急対策(除塩、流雑物除却作業等)指導に当ることを協議決定した。
更に水稲の晩播、7月1日挿■、苗代日数37日(坪2合蒔)
品種名 ホウネン早主 収穫2.94石
ハツニシキ 2.74石
メグミ早主 2.80石
藤坂5号 2.55石
農林17号 2.42石
最終的には、7月6日植までは可能であるとのことである。
これらの資料も参考にし、種子対策並びに追苗代、田植準備等をすすめることにした。
又県農業試験場南部試験地における水稲潮塩害対策試験成績等も除塩、施肥指導上非常に参考になった。

★水稲潮塩害対策試験

南部試験他
陸前高田市小友町委託


試験方法
イ、供用品種 東北14号(水苗代)
ロ、供用条件
試験成績 生育調査表
収穫物調査表
成熟期収量一覧図

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供用条件
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生育調査表
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成熟期収量一覧図

5.26木(晴)

0800 活動実践隊は、昨日の決議に従い3班に分れ各々出発、普及所より各関係農林事務所、農業改良普及所長宛下記の様な懇願書を持参せしめた。
○津波被害に依る水稲苗不足についてお願い
殿
陸前高田農業改良普及所長
今般津波被害につきましては皆様より色々と御心配を戴きまして誠に有難く深謝致しております目下田植の直前に於て農家は苗諸共奪われました現状でありますのでここに全く策なく色々と考えた上当市内関係機関より余剰苗の分譲懇願に直接参上致し御協力方御願いの筈で御座いますが御多忙中のところ甚だ恐縮で御座いますが農民を最も良く御理解いただけます普及員農民の皆様に罹災農民を御救い下さいますようお働きかけ御協力下さいますよう御願い申し上げます。以上


1130 県養蚕課より津波対策技術指導第1報(下記)が届いた。はじめて関係機関からの指針を得たので非常に心強かった。早速所内に於いて内容的な研究討議会を行ったが、本日までの所独自の指導広報事項と異った事項等も見当らなく職員一同非常に安心した。


5.26 1520 本日よりようやく徒歩細浦まで国道が通じ得るように、自衛隊並びに消防団の手によって路上の流失家屋等が片付けられるに至った。
◎作物等の様子
(1)、玉葱、馬鈴薯、桑葉等は塩害が早くも現われ葉色黄変し■澗し始める。
(2)、甘薯は被害少なし。
(3)、大麦は葉緑、芒白色に変る。
(4)、苗代の被害の大きいものは葉色は黄変し枯死し始める。

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写真 被害をうけた作物 16玉葱
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写真 17苗代
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写真 18馬鈴薯

★5月24日津波の被害農作物に対する技術対策について(第1報)

24日15時 岩手県農林部
1.水稲は苗代で、本田土壌の塩分濃度が0.07%で塩害を受け、0.2%以上になると被害が目立って悪くなるので淡水をかけ流しにして、塩分を除くように努めること。
(イ).海水冠水のため見込のない苗代及び本田の実態を把握し、苗の必要数量の見通しをたてること。
その需給対策については関係機関とも充分連絡の上、なるべく地区内で調整出来るようにし更に不足については地方管内で確保すること。
(ロ).長時間塩水をかぶった苗は使用しない方がよい。短時間のものでも軽微と思われるものは、淡水を灌漑して、洗濯に努めること。
(ハ).田植の終った田で短時間塩水の浸水したものは、淡水の継続灌漑を行い回復に努めること。長時間塩水が停滞し被害の多い見込みのものは植えかえすること。
その場合も淡水を切らさぬよう灌漑する。
(ニ).まだ田植をやらなかった田は、淡水により除塩し田植えすること。
2.塩水をかぶった桑は稚蚕期にあるので、蚕に与えないで努めて山桑を利用すること。
3.畑作物、そ菜などは努めて淡水で除塩に努めること。葉菜類などは塩分に弱いので播きなおしすること。

5.27金(晴)

0800 県養蚕課村上三郎SP、小田島正雄SP並びに県農試土井部長、松本主事一行は県対策本部ジープにて来所、現地の被害状況等を視察后大船渡市に向った。


1100 大船渡農林事務所に於て津波対策協議会が開催され戸羽所長出席、当市内に於ける被害状況を報告すると共に水稲苗の救援を求めた。


1400 戸羽所長帰庁后、県農試土井部長より、今后の水稲対策並びに塩害試験調査等について指導、指示をうけた。


◎作物の様子
苗代被害軽微のものは本葉下葉2.3枚は枯死したるものでも新葉伸び始めるものあり。
耕種技術対策部より、“農業被害の復興対策について”第1報を発行(下記)

★5月24日津波による農業被害の復興対策について(第1報)

5.27
農業被害対策協議会・耕種技術対策部発行
農業の被害から立ち上るため、事務局を市産業課内におき、関係機関の協力を得て、応急対策として水稲の作付に関し種苗の確保と耕地整理に努めることになり、対策として次のことを速急にとりすすめることにして一般農家に呼びかけられた。御協力方願います。

1.苗代について。

(イ)、隣接市町村に救援苗を願うも、除紙より苗代は一般に低温に見舞われ、立枯れ、その他で一般に苗数が少いので、被害苗代では真水の流入掛流し等により回復を計る。追苗代では、早生のハツニシキが良いと思う。
(ロ)、苗は本藁6〜7枚で行い、2〜3本植として苗を大切に取扱い植付けする。救援苗が届いたら苗代を作り仮植するか、直ちに本田に定植し活着を助ける。
(ハ)、追苗代は、早生種の種籾を得て、27度の湯で一昼浸漬し、催芽すれば3〜5日で播種出来る。苗代を作り育苗する場合と直まきとあるが、塩水には直まきのものが発芽主育共によい。この際試みて下さい。詳しくは普及所(デンワ高田259)に向合せられたい。
(ニ)、苗代にツマグロヨコバエその他害虫が発生しているところでは、苗にBHC、マラソン剤に水銀粉剤等を加え散布防除の要がある。

2.本田について。

(イ)、被災田はよく真水を入れ掛流し等で塩分を除く様努める。(2〜3回)
(ロ)、塩害から苗をまもるため炭酸石灰30〜60〆(112〜224kg)程度施すか客土により塩害から稲をまもる。
(ハ)、窒素肥料は1〜2〆程度に留める(石灰窒素は施さない)。
(ニ)、被災田は、明渠排水等により塩分を早く除く。また植付け后は水田表面を乾かさぬ様常時灌漑しておくこと。
(ホ)、塩害地では、潅水前に丁寧に整地して潅水し、一度水が減った頃再び潅水して田植えするのがよい。

○一般作物について。

1.玉葱について。
(イ)、海水の浸入したところでは、藁玉葱として処分する。また抽苔したものもぬきとり藁玉葱として販売する。
(ロ)、ベト病がまんえんの様子、充分気をつけられて、発病したら「ベト」という薬剤を水10立(5.5升)に2.5ccとかして散布する。展着剤は必ず加える 反当り140立(7升位)位茎藁に噴霧器でかけること。発病の初期は「ダイセン」を水5.5升に15〜25gを、まんえんする場合は「ベト」を2,500倍で使う。「ベト」は濃度が濃いと薬害がいくらかでる。(薬剤散布は一度ならず実行のこと)


2.馬鈴薯について
必らず4−4式ボルドー(6斗式ボルドー)にBHC加用か「ポテトックス」を散布する(対象害虫テントウムシダマシ、えき病)また15〜25cm位茎葉が伸びたら土寄せや追肥する。


3.その他
(イ)、海水の浸入した畑は、努めて淡水(真水)をかけ除塩する。また葉物はもう一度まきなおしする。
(ロ)、秋まきキャベツは、極早生は5月20日頃から収穫できた。1ヶの重量600g程度。
(ハ)、促成苺(2月中旬よりビニールかけのものは4月末から出荷され100匁150円(上物)の如し)皆んなでやろう苺づくりを・・・・・・裏作に。
(ニ)、一般果菜類は定植のおくれぬ様やりましょう。甘薯苗に必ず床土を振り込み丈夫な苗を仕立てましょう。タバコ床跡に荏ゴマをまいて7月中旬に定植するよういたしましょう。

5.28 土(雨)

0800〜1200 農産課小田島正雄SP、戸羽所長の案内により小友町〜米崎町〜高田町〜気仙沼の耕地被害状況現地調査指導を行う。


1200 市役所会議室に於て
福田農林大臣、楢橋運輸大臣、山内鉄道監督局長、中道港湾局長、林海上保安庁長官、吾孫国鉄副総裁、自民党農林部長野原正勝代議士の一行津波現地視察見舞に来られたので状況報告、現地説明を行う。
事態の緊急と被害の甚大なることを知られた福田農相は耕地の復旧と田植実施を速急に可能ならしめるため、防衛庁に打電、自衛隊派遣を要請し、決壊した高田町古川沼堤防を緊急応急工事をすることになった。
本日よりようやく自衛隊、消防団の作業により大船渡市細浦まで自動車の運行可能となった。


1430 塩害地活着試験に着手。
塩害地の水田土を採集し県農試南部試験地よりポット6個を借り受け塩分濃度別及び品種別活着試験挿挟を行う。
本日県農林部より、“技術対策”第2報到着する。(下記)


5.28 1610 養蚕課小田島正雄SPの指導を得て、除塩作業その他について所内打合せ会を行った。

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写真 ポット試験実施

★5月24日津波の被害農作物に対する技術対策(第2段)

26日9時 岩手県農林部
5月24日津波の被害農作物に対する技術対策(第1報)を通知したが、その后復旧作業の進展によって、除塩手段もとられていると思われるので、更に次の対策によって指導普及せられたい。
この場合、苗代の被害が甚だしく、苗が使用に堪えない場合は第1報のように、なるべく地区内で確保するよう手配されたい。地区内で充足の見込ない場合は、被害ない地区に対し救援苗の確保方依頼しているので、必要見込量を報告されたい。


1.長時間塩水をかぶり被害の大きい苗は使用しない方がよい。
短時間塩水をかぶったもの、又波浪の■げきが少なく被害軽微のものは次によること。
(イ)、淡水灌漑により洗濯に努めること。
(ロ)、水銀剤の散布を行うこと。
(ハ)、移植后の活着をうながすため、3.3平方米(1坪)当り19g(5匁)位の硫安を追肥すること。


2.新たに苗代を設置する場合は、晩播、晩植となるので次によること。
(イ)、塩水害のないところを選び、畑苗代によるか、電熱育苗の設備を利用すること。
温水浸種の場合の温度と浸種期間
温度15℃−期間6日 温度22℃−期間3日
〃 25℃−〃 2日 〃 27℃−〃 1日
(ロ)、晩播、晩植しても出種のおくれが少なく、いもち病に強い、ハツニシキ、又はトワダなどの品種が望ましい。
ハツニシキなら、6月25日植(水苗坪2〜3合播、30〜40日苗)の場合でも減枚は少なく実用性がある。
(ハ)、地温、外気温が上昇しているので、温度の調節管理に充分注意すること。


3.耕地の除塩作業は、用水灌漑による水利権、ポンプ使用、作業に対する国、県の補助等の関連が生ずるので、地元建設事務所、市町村と協議の上普及指導すること。
(イ)、塩害の除去は、淡水灌漑による洗除が最も効果的な方法である。これについては建設事務所と協議の上行うこと。
(ロ)、水稲は、苗代時及び田植后活着するまでは一番塩分に弱い。
(ハ)、塩分は、表層は勿論であるが、下層土にも集積しているので検足は下層土まで行うこと。


4.除塩作業が終り、田植えのできる水田の施肥は次によること。
(イ)、既に施肥の終っていた水田は、基肥量を勘案し10a(1反)当り硫安7.5kg(2〆)位を代掻施肥すること。
(ロ)、施肥の終っていない水田で、下層土が見分解物質を多く含む泥炭土のようなところは、これ等物質の分解によって生成される有機酸等の作用で、被害が増大するので適量の石灰を施用すること。
(ハ)、(ロ)と同じ結果をまねかぬため、未熟堆厩肥、魚粕等の多用はさけ、完熟堆厩肥を施用し、窒素質肥料は生育期間中肥切れを起さぬよう分肥法によること。
(ニ)、塩害地は、根腐れを起しやすいので、なるべく無硫酸■肥料を施用し、松尾鉄カル10a(1反)当り180kg(50〆)位の含鉄物施用の効果も認められている。


5.畑は、できるだけ淡水による除塩を行い適量石灰施肥の后播種すること。

5.29 日(雨)

0920 市役所産業課高橋主事来所の上、救援苗の見通しと被害田復旧の進度から考えた場合、結果的に仮令無駄に終ることがあっても追苗代を設置し尚万全を期することを打合せ、県農試南部試験地高田圃場に約160坪追苗代を設置する準備を進めた。種子は東磐井郡大東町菊池光夫氏より入手することとした。
北上市農林事務所長瀬川謙一氏、全市農業改良普及所長小野新一両氏は被害見舞、現地視察の為め来所した。


1400 小友町農協組合に於て開催の苗代状況並びに田植対策協議会に戸羽所長出席、苗の被害と今后の補充数量調査、更に水不足状況下に於ける除塩作業及び田植を行うまでの作業順序等を指導協議した。
尚、当日の主な協議打合せ事項は、


1.陸前高田市災害対策本部の対策実施現況について。
イ、対策本部の現況報告(現在までの経過と今后の対策について)。
ロ、対策支部の現況報告(仝上)。
ハ、漁■の対策経過について。


2.農業災害対策について。
イ、被害の調査及び苗止について。
ロ、農業被害対策協議会について。


3.小友町農業被害対策について。
イ、水田の区画不明になったものについての処理の問題。
ロ、流雑物処理についての指示について。(部落共同作業をもってやることに決定)
ハ、埋没水路の整理について。
ニ、救援苗の見通しについて。
ホ、苗不足につき植栽本数を1株2〜3本とすること、植付可能田には田植えを進めること。
ヘ、鉄道線路、堤防附近の流入土砂の除去について。
ト、追苗代の設置を室内育苗(器材は江刺市より二台借用)保温折衷苗代等各部落単位に設置すること。
チ、市役所及び普及所の協力により対策を進めること。

5.30 月(曇)

0910 養蚕課共済係来所、被害状況報告する。
大船渡病害虫防除員鈴森技師来所、被害状況報告する。
所員は全員塩分検定用土壌サンプル採集に出向き1930まで検定実施、128点の検定の結果全部が塩分含量0.15%以上(矢木式検定によりこれ以上の濃度測定は出来なかった。)であることが判明。水稲の特に田植活着時は最も有害なことが判明した。
本日臨時県議会が開会され、チリ地震津波応急対策並びに災害救助費として2億4000万円が計上された。

5.31 火(晴)

大船渡農林事務所に於て開催の津波対策協議会に所長出席する。


1420 農蚕課松本主事来所、被害状況並びに現況報告をなし、水稲苗及び種子並びに大豆種子の斡旋について依頼する。


1500 被害地塩分検定を所員全員で実施す。
対策本部活動隊は千厩方面にトラックにて救援苗及び水稲種子等の懇請に向った。

主な協議事項

1、復旧除塩事業施行について。


除塩事業施行対象面積
大船渡町 40ha 末崎町 10ha
赤崎町 25〃 三陸村 9〃
盛町 15〃 陸前高田市 293〃
○応急工事は実施して後に設計書を出してもよいが、写真等の説明資料を作っておくこと。
○水路の新設等についても部分的写真をとること。(受領証、借上料等を含む)。
○人夫賃についても月日、人数等の記録を必要とする。


被害程度による処置
(1)、全々耕地耕作不可能面積(流出等)
(2)、恒久施設をやれば耕作出来るもの。
(3)、応急対策により耕作出来るもの。
○農地復旧は除塩作業対象にはならない。又排土も除塩にはならない。


事業対象別の判定指針。
(1)、市町村、建設事務所、農業委員会、農業協同組合等の代表者に於て判定し、農民と市、農業委員会に於て決定判定するものと打合わせる(7月5日まで)。但し田植可能を前提としての判定であることとする。
(1)、恒久対策地帯
(2)、応急対策地帯の3区分とする。
(3)、植付不能地帯
○尚、災害復旧用の木材の確保について5月28日付で県農林部長より各関係市町村長宛に文書を出してあるとの事であった。

6.1 水(晴)

0820 市役所対策本部に水稲苗並びに追苗代、補給計画等の現況につき打合せを行う。
東磐井、遠野市、住田町方面救援苗望み薄しとの状況により県農蚕課に水稲苗40万杷、種子36石(120町分)、大豆種子25俵の斡旋方を懇願する。
○同上算出の基礎
○苗代被害(面積は坪。必要量の前記は坪、後期は単位石)
但し把数は輸送間、植付后の枯死を見込んで40万把としたものである。
○苗対策
○苗の入荷計画
○跡作種子対策


0910 本日より住田農業改良普及所より2名づつの応援を求めて土壌塩分検定の土壌採集を実施する。


1310 南部試験地高田圃場に追苗代160坪実施予定の種籾浸種、催芽準備を行う。


2030 同上浸種、催芽は気仙町鉄砲町共同作業場催芽室にて実施し、同町熊谷泰氏に管理を依頼した。

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苗代被害
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苗対策
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苗の入荷計画
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跡作種子対策

6.2

0810 全員土壌塩分検定のため冠水地帯の土壌採集を行い検定実施に取りかかった。


1610 土壌採集地点の地番調査のため市役所に出張調査する。
気仙川揚水工事の促進を図り除塩作業用水の潅水計画の打合せする。
尚、石灰使用を以って除塩対策を計らんとするも市内に於て石灰が少ない由訴え出る農家もあり、又機に乗じて石灰の価格を高め警察署より注意を受けたる者もある様子であった。
“技術対策第3報”県農林部より到着。(後記)

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写真 20.検定用土壌採集
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写真 21.FHK簡易土壌検定法による検定
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写真 22.FHK簡易土壌検定法による検定

塩分の調べ方

(1)土壌を土壌枡の大きい方にすり切り一杯(2cc)とりこれを大型試験管に移す。
(2)蒸留水をメスシリンダーに5ccとりこれを(1)の大型試験管に加える。
(3)ゴム栓をして3分間はげしく振り
(4)漏斗付試験管に■紙をあてて■す。
(5)■液を中型試験管の下の目盛(1cc)までとり
(6)第24液(塩分検定液)を2滴加えて振りまぜ
(7)3分后塩分比表と較べる

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(1)
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(2)
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(3)
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(4)
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(5)
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(6)
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(7)

★5月24日津波の被害農作物の技術対策について(第3段)

5月30日 岩手県農林部
水稲についての対策は第1、第2報のとおりであるが、大体次の順に考えるのがよい。


1、苗代、本田とも極力淡水による除塩灌漑をする。


2、被害が比較的少い苗代の苗を活用する。


3、流失、埋没又は塩害のため見込のない場合は適正品種の稲苗を無被害地から移動し田植えをする。その場合、甚だしく晩植となるときは次のことを参考にする。
(1)、6月上旬までに田植えしようとして播いた苗代は、その侭にしておくと苗が老化するからできるだけ仮植分散すること。
(2)、3合播以上の苗で苗代日数60日以上(4月20日播なら6月19日をすぎたもの)経過する場合は徒長して使用できなくなるから次によること。
(イ)、葉先(1/4程度)を切りとり、うつべいを防ぐこと。
(ロ)、葉色が衰えても窒素の追肥をさしひかえること。
(ハ)、イモチ病防除のため、水銀剤の散布を励行すること。
(ニ)、のびすぎを抑制するため、苗代の水は潅水に保つこと。
但し塩害地は、水を切らさないようにする。


4、晩播、晩植、
本田の準備がおくれる関係で、田植が遅延する場合は、ハツニシキを供用して晩播、晩植する。
その場合の実用的な限界は6月25日頃までだが、条件のよい地帯であれば、7月初旬植えまで期待出来る。
その減枚程度は別表(昭和31、胆江分譲成績抜粋)を参考にせられたい。
○別表 晩植による収量の推移 供用品種 ハツニシキ.( )内は農林17号
出穂は挿挟期がおくれるに従っておくれるが、その差は割合少ない。
一般にハツニシキは主棹葉数のちがいによって、農林17号yろい出穂は早い。
成熟期は両品種共9月5日までに出穂したものは成熟に達するが、それ以后のものは成熟に達しない。従って農林17号は6月26日植えまで、ハツニシキでは7月6日植えまでは大丈夫である。(胆江分場では)
収量は、農林17号では6月26日植えでは375kg(2石5斗)位とれるが、7月1日植えになると300kg(2石)前后に減少する。殊に40日苗は特に不稔粒甚だしく減収した。
一方ハツニシキでは農林17号より減収度少なく、7月1日植えでは約450kg(3石)、7月6日植えでは25日苗でも375kg(2石5斗)弱の収量になった。7月11日植えでは、30日苗までは、225kg(1石5斗)前后になったが、25日苗では150kg(1石)以下に減収した。
結局、晩播、晩植には農林17号より、ハツニシキの方がまさるが、7月6日植えが限度であり、農林17号では6月25日植えが限度である


5、湛水直播
上記対策困難の場合(苗の確保もできず、晩播、晩植対策等困難のとき)は、次の方法により湛水直播をする。
(1)、播種期、温水浸種し、催芽して、なるべく早く播種するのがよい。
限界は、条件のよい地帯でも、藤坂5号で6月20日、南栄、巴まさり等の極早主種は6月末である。
(2)、播種量、10a当り15l〜18l(8升〜1斗)。
おくれるに従い播種量をこの範囲で増加する。
(3)、播き方、畦巾、40cm(1尺3寸)条播。
(4)、施肥量、既に肥料を施している田は、窒素の損失も考えられるが、その侭、直播すること。肥料をやっていない田は、予定していた窒素肥料の2割程度減とすること。
晩期直播について参考までに胆江分場の成績を示すと次のようである。
災害対策等のため晩期直播をする場合、いつ頃まで可能かを知るため、藤坂5号、巴まさりの両品種を供用して、5月27日、6月6日、6月16日、6月26日、7月1日、7月6日の播種期によって試験したところ、次のことがわかった。(巴まさりの成績は省略)
○、播種量 反当 1斗。
○、有効分けつ限界期より最高分けつ期の間に培土。
○晩直播した場合の品種と収量(S31)


6、本田の肥料対策は次による。
肥料の用量は、条件によって甚だしく異るので一概には云えないが、
(1)、窒素肥料については、大体において、流失前の施肥そのままとし、更に晩植の程度、天候の如何によって普通よりも追肥の回数を増す。(塩害地は普通より窒素肥料2〜3割増が、望ましい。)
(2)、塩害地に対する、りん酸肥料の増施。
塩害によって、りん酸の吸収が低下するから、りん酸の施用は普通より多くする方がよい。
りん酸増施の場合、硫酸を含む肥料の方が望ましい。


7、本田の植え方は次による。
6月15日頃までに田植えが出来るときは、慣行程度とし、それよりおくれるに従って1〜2割密植する。この場合並木植えが望ましい。
8、病害防除は次による。
苗代で、苗イモチ病発生のおそれがあるので水銀剤を散布すること。10a 3kg

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別表 晩植による収量の推移
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別表 晩直播した場合の品種と収量

6.3(金)

0830 庄田農業改良普及所より応援2名を得て土壌塩分調査を実施する。
農民は早朝より塩分検定依頼のため所内におしかけて来るので、これらを検定の上除塩の指導、田植実施の可否を指示した。


1020 気仙町長部、高田町高田松原沿線の実態把握調査を実施する。


1710 一般農家は塩害地の田植を急ぐ傾向にあると認められるので対策本部と連絡広報車をもって気仙町〜高田町〜米崎町〜小友町〜広田町を巡回放送、塩害地に対する木植え田植対策を指導した。


6.3 ○広報要旨
塩害田における田植えについてお知らせいたします。
(1)、塩害田は殆んど塩分が強く害がありますから真水を多くかけて充分洗い流しを行い更に消石灰を反当り120kg位を施して土壌とよく混和し、更に真水をかけ流して塩分を少くするように致してから田植えの準備にとりかかって下さい。
(2)、肥料は、既に施してあった処は根付き肥として硫安を反当8kg位を施して活着のよいように致します。
泥土の堆積してある処はさし当り根付き肥を行う程度に致した方が安全と思われます。
まだ肥料をやっていない処で泥のおいていない処は、良く腐った堆肥を反当800kg位、過硫酸石灰は少し多目に80kg位、加里肥料は少し少な目に12kg位、窒素肥料は2〜3割位を減じてやるようにした方が安全と思われます。
(3)、田植は、余り急がず充分塩抜き作業をやったり、又雨を待って洗い流すことをやってから植えるようにして下さい。
苗不足については、対策本部に於て毎日夫々救援苗の集荷にでかけて非常な苦心をいたしておりますが、中々苗不足の様子でもあり容易ではありません。内陸部からの救援苗は6月10日以后でなければ様子がわかりませんから追苗代等の準備もいたして二段構えのことも必要であります。
尚、不明の点は普及所、農協等におたづね下さい。


6.3 本日より漸く米崎町脇之沢駅まで作業用貨車が通れるようになった。
高田町駅前附近の水田では被害田に消石灰を散布するもの、堆積土を除却するもの、畦畔を新たに作り直す者等が見受けられた。
余りよく除塩作業をやらないで田植えを行ったものは、枯れ初めて来ているものも見受けられる。
救援苗は住田町より9,000把入荷、全員2230まで超勤する。

6.4 土(曇)

0710 早朝より、農民は田植を心配し水田塩分検定依頼のため多数おしかけて来た。


1000 大船渡普及所長を通じて県農蚕課長へ被害状況調査表並びに土壌塩分検定成績表(図表を附す)を提出す。


1410 追苗代播種準備のため、南部試験地高田圃場に160坪播種準備を行う。気仙町鉄砲町に依頼の催芽状況は良好。明日播種予定。


1640 本日より自衛隊1,500名来市古川沼堤防潮止工事に着手す。

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写真 23石灰散布除塩作業
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写真 24堆積土の除却
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写真 25耕起除塩流し

6.5

0820 南部試験地高田圃場に畑追苗代160坪に播種作業を普及所員全員及南部試験地職員の応援を得て行う。


1510 岩谷堂江刺普及所より6月7日救援苗3,500把入荷予定の連絡あり。


1630 小友町に於て除塩作業(三回水掻流し消石灰散布)を実施し田植えを行ったものは活着を認むるも除塩作業不充分なものは枯れ初めるものあり。


1710 県農蚕課に塩分検定用試薬補給を申し込む。
農民多数塩害相談の為め来る。

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写真 26追苗代育苗
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写真 27自衛隊救援本部到着する
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写真 28塩分検定をうける農民

6.6 月(晴)

0710 農民多数塩害検定の為め早朝より詰めかける。


1020 大船渡農林事務所長、大船渡普及所長来所、市役所に於て救援苗の計画並びに受入体制について打合せ検討を行った。


1730 全職員連日の超勤では健康保持上無理と考えられるので、明日より当分の間2名宛の超勤

6.7 火(晴)

1020 県議会議員団1行及び県蚕課長高橋新平氏現地視察の為め来所す。
江刺農林事務所長並に仝市農地課員及岩渕普及所長、小沢歩普及所連絡所長外2名救援苗運搬車に同乗して来所。
所員全員土壌塩分検定調査の為め小友町並びに気仙町方面に出向く。


1700 県より種籾1俵到着す。
塩分検定液欠乏のため県よりの補給を待つ。

6.8 (晴)

1030 緊急対策協議会を開催し、今后の必要苗数を検討すると共に大船渡普及所に、県農蚕課各関係機関(一関、千厩、北上、江刺各農林事務所)に連絡し、北上農林事務所以外は、手配済み以外は一時打ち切り、今后はは専ら北上農林事務所管内に依存することに方針を決定す。


1410 県蚕課藤巻技師、東北農試(大曲)農林技官内田幸正氏、木根渕旨光氏が現地指導調査に来所、簡易塩分検定法についても指導を受ける。
苗は本日以后分の必要数は約20万把と推定決定す。


2330 水沢市より救援苗4895把トラックにて到着受領。各農協に配分引渡す。

6.9 木(曇)

0720 早朝より農民多数詰めかけ、塩分検定、除塩、田植指導に当る。


1830 除塩、田植指導について市役所対策本部と連絡、広報車を以って市内広報指導を行う。


○広報要旨
除塩、田植え作業について
(1)、塩害田については真水を充分かけて良く土をかきまぜ、その水を流しかえ、これを少くも3〜4回繰返して塩分を除いてから田植えをしなければいくら早く田植えしたところで枯れて来てしまいますから、必ず植え急ぎをすることなく塩除けをやってから植えて下さい。
(2)、救援苗については、非常に苦心を致して集めているものであり、又苗もいつまでも沢山あるものでもありませんから必ず到着した苗は直ちに把を解いて仮植しておいて、ゆっくり植えられるようにして下さい。仮植は溝、せき、又は塩害を受けない水田か畑でも結構です。
(3)、追苗代についても必ず枯れて来るものもあると思われますからたとえ照厭に終ったとしても共同の心を以ってやっておいて下さい。
その他不明の点につきましては農協又は普及所にお尋ね下さい。


1910 農林省に対する被害報告書作成の為め全員 30まで夜間勤務をなす。

6.10 金(晴)

0810 全員塩分検定調査指導に当る。早朝より農民多数詰めかけ除塩、田植えにつき相談を受く。


0310 花巻市より救援苗トラック3台をもって41,744把到着するも、1台途中横田町に於いて故障しそれを迎えに行くなどのため0620到着のものもあった。

6.11 土(晴)

0210 北上、東和普及所より救援苗トラックにて98,518把到着受領。各々配分引渡する。


0730 塩分検定のため農民多数来所する。


1110 県農蚕課へ状況報告すると同時に塩分検定試薬100cc註文電話する。


2140 和賀郡より救援苗トラック2台、江釣子より2台、東和より2台到着、各々受領配分する。
本日県農林部より“技術対策”第4報到着。

★5月24日津波の被害農作物に対する技術対策について(第4報)

6月10日 岩手県農林部
水稲についての対策は、第3報に引続いて次の応急措置を講ずる。
基本的な考え方。除塩が不完全な状態において、徒らに田植を急ぐ状況が見られるが、結果において田植后の活着不良、枯死等により、対策としては適切でない場面が起り得る。従って、農試の試験結果を基礎とし、現地の環境を勘案すれば田植の時期が6月下旬となった場合でも、なお生産力の確保が可能であることからして、除塩を徹底的に先行する措置が望ましい。
次に引続き行うべき応急対策を記す。


1.土壌対策
(1)、泥をかぶったところ。
有機物、遺体を多く含み、又異物の混入の甚だしい汚泥は、できるだけ除去すること。
深水、湛水、灌漑后、排水の除塩操作を3〜4回以上行う。その后石灰を10a当り約150kgを表面に散布して、2〜3日后に代掻田植えを行う。
(2)、塩水のみをかぶったところ。
a.塩水の滞水の時間の短いところは、上記の除塩操作を行う。
b.塩水を一日以上かぶったところ、泥炭質土壌のところは石灰散布后(量はaと同じ)除塩作業を行った方が効果的である。
c.以上の除塩作業は普及所において塩分検定結果が0.1%以下になるまで徹底する。
d.山土、赤土の客土、又は鉄珪カル(10a当り200kg)を除塩后投入することが望ましい。この場合は石灰を必要としない。
e.潅水による除塩作業の難しい用水不定地帯は、塩分濃度の高いため、無理して田植を急ぐよりも、晩植の限界期(対策の第3号参照)まで極力、潅水除塩操作につとめる。
例えば、畦畔の漏水防止、雨水の利用及び用水を極力活用するため、計画的、集団の田越灌漑を徹底し田植の2〜3日前に石灰を散布する。


2.施肥対策。
安全栽培を目途として、施肥量はできるだけ控え目にする。特に汚泥をかぶったところは無肥料で田植え、4〜5日前に苗代に根付肥として窒素質肥料を、硫安の場合、3.3平方M当り140g前后(坪当り10匁)を、水に溶かし施用し、田植后、成育の経過を見て追肥を行う。


3.作物対策。
除塩灌漑等のため晩植になることが考えられるので、次の点に注意する。
a.被害軽微な現地苗代は、密播で晩植になる場合、仮植する。
b.救援苗は到着后直ちに仮植する。
c.仮植の方法は、本田又は畑苗代様式として、1株苗数3本位とし、条間6cm、株は接着して条植する。
田植した本田の周囲で、株間に分散する方法も望ましい。その場合、苗は1/3〜1/4程度尖端を剪除して仮植する。
畑苗は、特に活着するまで2〜3日充分に潅水する。又条間に麦棹、青草等を敷草して水分の蒸発を防ぐ。
仮植床の元肥は必要としないが、田植4〜5日前に、硫安3.3平方米当り40gを液肥で施す。
畑に仮植する場合は、2〜3日遮光して生育の停滞を少なくする。


4.今后、考えておくべき措置
(1)、病害の発生予察
(2)、農薬計画(主として、イモチ対象)
(3)、塩分の継続検定。
(4)、作物の生育指標圃の継続調査。


5.第3報に記載の、最終的方法としての、潅水直播は、苗の需給見込がなかったこと及び除塩作業の進捗状況からみて行わない。

6.12 日(晴)

0830 全員塩分検定並びに除塩、田植え作業指導に当る。所内にも農民多数来所する。


1410 県農蚕課に状況報告並びに資材につき連絡する。

6.13 月(晴)

0430 北上農林事務所管内より救援苗トラック9台にて110,243把到着、受領、配分に当る。


0820 各農協に救援苗の取扱い保管について指導連絡する。


1030 県農業試験場長現地指導調査のため来所。


1430 江刺普及所より、“藤里国土親交会クラブ員男子10名1泊2日位の予定にて罹災クラブ員に労力奉仕に出向いてもよい”との連絡があったので米崎クラブ員に連絡する。

6.14 火(曇后雨)

0820 早朝より農民多数塩分検定の為め来所、尚、除塩作業回数指導との関係上精密検定の必要も考えられるので大船渡普及所に要請方依頼する。


1140 県農蚕課松本政一主事来所、救援苗の状況資料提出、更らに塩分の精密検定の必要上器材送達につき要請依頼する。


1820 花巻普及所、北上普及所より救援苗トラック3台、小野普及所同乗の上来所、苗の受領配分に当る。

6.15 水(曇)

0830 南部試験地高田圃場に設置の畑追苗代ビニール除却、生育順調。


1110 副知事来市。現地案内、被害状況報告等に立会する。


1420 県農試化学部夏井部長外6名、東北農試本谷博士等現地指導調査のため来る。


1515 県農試大沼技師塩分検定資材等を持参来所、指導を受ける。
本日農民約45名塩分検定のため来所する。

6.16 木(曇)

0930 県農蚕課に塩分検定応援方連絡了承を得た。


1120 県農試化学部より2名塩分検定資材を持参の上応援に来所する。


1520 自衛隊による高田松原地内古川沼堰堤工事約30m程度を余すのみの程度に進捗する。
排水ポンプ3台を現地に準備排水施設を整備する。
本日県農林部より“技術対策”第5報到着する(次頁に記す)


1720 県農蚕課藤沢技師、県農試化学部大沼、多田の両氏、明日現地出張による塩分検定実施について、協力応援を得ること等につき打ち合せを行なう。

★5月24日津波の被害農作物に対する技術対策(第5報)

6月14日 岩手県農林部
除塩についての対策は、第4報に引続いて次の応急措置を講ずる。


1.田植時の応急措置。
除塩が不完全な状態、即ち塩分濃度が0.1%以上に於て徒らに田植えを急ぐ状況が見られるが、結果に於て、田植え后の活着不良、枯死を生ずることもあるから、必ず除塩して塩分濃度の0.1%以下となってから田植えすること。


2.塩分濃度を0.1%以下に下げる具体的方法。
A.用水不足の場合。
1).井戸を掘り、又は揚水機を設置し、揚水により計画的に間断かけ流し又は田越かんがいする。(補助の対象となる。)
2).水源があっても水路の不備又は機能をそう失の場合は直ちに現地に適合した断面勾配水路をなるべく多く配置新設する。既存の水路は早急に復旧し、小水路(底巾20cm程度、深さ20cm程度)を数多く派出新設し、取水量を短時間に広範囲に配水すること、素掘土水路の新設、配置が困難な場合は、送水管、木樋、暗渠、ホース式サイフォン等の方法を採る。(補助の対象となる。)
B.排水不良地の場合。
排水路は出来るだけ配置を密にし、特に除塩■は小さい断面(深さ30cm底巾20cm程度)でも数多く設け幹線水路、相当水路に接続せしめ完全に用水路と分断し、低地に誘導し、自然排水又は排水溝により排水する。排水樋門の不完全な場合は新設又は改修し排水に便ならしむ(補助の対象となる。)


3.田植后の措置。
田植時の場合の措置と同じく常時塩分濃度0.1%以下とするよう上記の措置をとるものとする。


4.(備考)
揚排水機の設置の撤去、送電施設の架設、機械器具の借入、購入に要する経費、揚排水機の運転に要する燃料費、電力料金、客土、石灰等(鉄カルも含む)の施用に要する経費、その他これに準ずる除塩のための事業に必要な経費は(補助の対象となる)
A.農地に流失した木材、土石等のある場合
農地に流入した木材、土石等の雑物はただちに除去することとし、農業用施設についてもその機能を発揮出来るよう除去すること。(補助の対象となる)
B.石灰等の使用について。
土壌の性質、立地条件により異なるも、県農蚕課、農林事務所、普及所の判定指導のもとに石灰、鉄カル等を使用するものとする。
(石灰については反当240kg程度まで補助の対象となり、鉄カルその他についても補助の対象となる。)


5.(注意)
なお応急工事を実施する場合は、必ず被災状況を事后説明出来るよう資料を準備し、上記の措置を実施したものは必ず写真を撮り、撮影年月日、説明書を添付すること。
ポンプ等の設置については運転日誌、証憑書類等を必ず準備しておくこと。

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写真 29排水ポンプ設置
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写真 30内陸部よりの救援苗

35耕第640号昭和35年6月14日

建設事務所長、農林事務所長、農業改良普及所長殿
☆昭和35年5月発生のチリ地震津波災害除塩事業の査定をうけるための指針についてこのことについては下記の指針に基き査定を受けられるよう指導されたい。





1.除塩事業採択の範囲。
(1).採択する事業は適切且つ確実に計画され、農地の表土塩分(塩素)濃度が0.1%以上の塩害農地を0.1%程度以下の塩分(塩素)濃度に除塩するものでなければならない。
(2).事業の内容としては除塩のための用排水路(送水管、ハイフォン、暗渠、除塩溝等を含む)排水樋門、井戸等用排水施設の改修、改築、新設、揚排水機の設置撤去、送電施設の架設、機械器具の借入、購入に要する経費、揚排水機の運転に要する燃料費、電力料金、客土、石灰等施用に要する経費、その他これに準ずる除塩のための事業に必要な経費とする。
(3).除塩を施行する際農地(農業用施設を含む)に流入した木材土石等の雑物の除去に要する経費とする。


2.次に掲げる事業は適用除外とする。
(1)農地の表土の塩分(塩素)濃度が0.1%以上であることを示す県の機関の長の証明のないもの。
(2)既設揚排水機の償却費。
(3)揚排水機の運転に要する労務費及びこれに伴う維持管理費。


3.事業費決定の基準。
1.事業費は現地調査に基いて決定することを原則とする。
2.事業費の決定にあたっては次の各号に定めるところによるものとする。
(1).揚排水機の購入に対する補助対象額は別に定める借料で算定した額の範囲内とする。
(2).借入れた揚排水機の借料についても別に定める借料で算定した額の範囲内とする。
(3).揚排水機の動力費については、被害発生后除塩の目的の為め一定計画により稼動された動力費であって当該農地の塩分(塩素)濃度が0.1%程度になるまでに要した額を補助の対象とする。
(4).機械器具の運搬、据付、撤去ならびに送電施設に要する費用は必要最小限度のものとする。
(5).取水施設を新設又は改修、改築する場合は必要最小限度の工法とする。
(6).用排水路の新設及び改修については、土水路を原則とするが木造、土留工等を施行することが止むを得ない場合、又は暗渠のコンクリート管等その工法資材を採ることが必要で他に代わるべき方法がない場合はこの限りでない。
(7).除塩溝及び暗渠については必要最小限度のものとする。
(8).既設排水樋門を改修改築する場合は除塩のために通水能力が不充分な場合に限るものとする。
(9).客土工事は水源が得られない場合に限るものとし、客土厚は必要最小限度とする。
(10).石灰等を施用する場合の施用量は、石灰については反当最高240kg程度とする。
(11).耐久資源(鋼材コンクリート製品)については、原則として損料計算とするが資材の規格材質により他に転用しても利用度の少ないもの又は撤去費の著しくかかるものについてはこの限りではない。
(12).補償費は除塩事業を行うために必要不可欠な場合の立毛用地等の補償とする。
(13).農地(農業用施設を含む)に流入した木材土石等の雑物の除去は必要最小限度とする。

6.17 金(晴)

0800 市対策本部と連絡広報車をもって塩分検定現地実施について広報伝達をなす。


○広報伝達要旨。
水田の塩分検定について
田植えは必ず塩分検定をやって0.07%以下であれば安全です。
塩除け作業を充分やらないで田植えを行った所は枯れておりますからあせらず充分塩除け作業をやって塩分検定をうけてから植えて下さい。本日農業
改良普及所から出張いたしまして午前10時から午后4時まで○○に於て塩分検定をいたしますから田の土を上から2〜3寸下の泥を団子1個分位を持って来て検定を受けるようにして下さい。
尚、色々不明の点は当所でおたづね下さい。


0930 全員を3ヶ班に編成し、気仙町、高田町、小友町の三ヶ所に於いて現地出張の上高度塩分検定を行ない、濃度程度に従って夫々除塩、代掻回数並びに田植実施の可否等について指示指導する。(本日の塩分高度検定数312点)


1510 県農試土井部長外3名現地調査に来所、気仙町、高田町方面を案内する。

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塩分検定実績

618 土(晴)

0930農蚕課藤沢技師は大船渡に向い、県農試化学部大沼、多田両氏は帰庁す。土井部長外3名塩害試験設置について現地迸定調査を行う。
塩分検定を続行。

6.19 (晴)

0820 農民多数来、塩分検定続行、塩害相談を行う。


1010 塩害地除塩、田植え進捗状況調査指導を行う。


1310 塩害地展示圃設置計画をなす。

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除塩実施面積
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塩害展示試験圃設置一覧表

6.20 月(曇)

0810 塩害試験展示圃設置準備に取りかかる。


1410 大船渡普及所 農林事務所に近況報告並びに連絡を行う。

6.12 火(曇)

0030 北上市湯田方面より救援苗136,000把トラック7台を入荷受領各々配分する。
本日を以って救援苗は打ち切りとする。
救援苗の受領配分状況表の通り。

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救援苗の受入実績 (単位把)
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救援苗の班別配分実績 (単位把)

6.21 火(曇)

0920 塩害によるりんご園の被害が大きいので、南部試験地松本主任の応援を得て現地調査及び指導を仰ぎたるも対策の見込立たず。
◎其の他主要記事

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写真 31復旧の見込ない■果園

6.22 水(晴)

県農蚕課課長補佐井上三次氏現地指導調査のため来所す。
県農林部より“技術対策”第6報到着する。

★5月24日津波の被害農作物に対する技術対策について(第6報)

6月20日 岩手県農林部
第5報に引続いて次の対策を講ずる。
○作物の技術対策


1.水稲
(1)植付后の管理。
a.除塩作業
○幼穂形期頃まで塩分濃度0.05%(田面水)以下を目安として、積極的に除塩につとめる。その際潅水したら必ず土壌を撹拌して塩分の浸出を充分にしてかけ流し除塩を行う。
○除塩が進んで塩分が害のない濃度になってからでも土の還元性が強くなると根腐れを起し易いから灌漑はできるだけ常に新鮮な真水とする。
b.中耕追肥
除塩に伴う肥料分の損失及び土壌溶液濃度の低下を考えての基肥減肥に対し活着、生育が進んだら早速追肥する。追肥は7月初旬まで10日おき位2〜3回とし、チッソ及びカリとも成分量として10a当り1.0〜1.5kg(反当260匁〜400匁)を施す。
冠朝した田では稲が根腐れを起し易いから中耕の効果が大きいので、除塩が必要な内は潅水のまま除草機で撹拌してから排水し追肥するようにし、除塩作業の必要性が少なくなったら排水してから追肥し中耕するようにする。
c.植付后真水の不足なところでは努めて田起し灌漑することが大切であるが、植付后といえども石灰を散布し、除草機等による撹拌を行い、土壌に吸着された塩分を流出し易くする必要がある。従って、石灰の散布と同時に土壌改良資材としての松尾鉄かる、珪カル等の使用も1方法である。
d.諸事情からしてイモチ病(特にクビイモチ病)の多発の公算が大きいので、早期発見による早期防除と殊に出穂直前と穂揃期の共同防除を重点において指導すること。そのためには防除資材(防除器具、農薬等)を計画的に整備すること。
尚、現在育苗中(晩植用)のものに対しては、苗イモチ病の発生が懸念されるので、第4報の通り田植期に薬剤散布(散布用水銀錠剤は水10lに2〜4錠、1a当11l、水銀粉剤は1a当200g〜300g)とすること。


2.畑作
1).除塩作業
泥土を被覆した畑地は、できるだけ除去后、下記の除塩を行う。
作付するまでにできるだけ除塩に努めるが、実際には用水不足地帯が多いので、雨水の利用による塩分濃度の低下をまつしかないが、最近の晴天続きで地表に塩分の集積が認められているので、地表を薄く除去するも1方法である。
その外地表への塩分集積を最小限に止めるためには(水分の蒸発を抑制する)地表をレーキで軽くかいて下部との毛管を断ち切るとか、できればしきわら、乾草を敷くとかして、塩分の上昇を押えるようにする。
また、畑の周囲に除塩溝を設けて地下水位を下げると同時に降雨による除塩を促進させる。更に、真水が得られる場合には極力潅水除塩の方法をとる。
2).肥料対策
肥料は窒素肥料に重点をおき、りん酸加里質肥料の増肥に努める。また土壌が悪変しているので極力腐熟堆肥を増肥する。


3.果樹
1.除塩作業
除塩が進しんだところは新根の発生をみていることにかんがみ、適宜除塩溝を設け、ポンプで多量に潅水、新根の発生を促すこと。
2.枝の切りつめ
新根が発生するようになれば、萌芽を見ると思われるから、萌芽しやすくするため成木の移植の場合に準じ小枝の整理を行う。
3.追肥
新根の発生に伴って三要素の追肥をする。
萌芽展藁すれば、尿素の葉面散布もよい。
4.支柱
根がいたんでいるから、今后風による倒伏のおそれがある。主幹に支柱を立てて保護すること。

6.22 月

除塩事業査定打合会を開く。
陸前高田市災害対策本部並びに陸前高田農業改良普及所より“技術対策”第3報を各農協宛送達する。

☆5月24日津波の被害農作物に対する技術対策について(第3級)

昭和35年6月24日
陸前高田市対策本部・陸前高田市農業改良普及事務所


稲作の技術対策
(1).植付后の管理
A.除塩作業
○幼穂形成期頃まで塩分濃度0.05%(田面水)以下を目安として、積極的に除塩につとめる。その際灌漑したら必ず土壌を撹拌して塩分の浸出を充分にしてかけ流し除塩を行う。
○除塩が進んで塩分が害のない濃度になってからでも土の還元性が強くなると根腐れを起し易いから灌漑はできるだけ常に新鮮な真水とする。
B.中耕追肥
除塩に伴う肥料分の損失及び土壌液濃度の低下を考えての基肥を減らした分に対して活着し生育が進んだら早速追肥する。
追肥は、7月初旬まで10日おき位2〜3回とし、チッソ質、カリ質とも成分費として10a当1.0〜1.5kg(反当260〜400匁)を施す。
冠朝した田では稲が根腐れを起し易いから除塩の必要な田は潅水のまま除草機で撹拌してから排水し、追肥する。除塩の必要が無くなったら排水してから追肥し、中耕を励行する。
C.植付后真水の不足なところでは努めて田起し灌漑することが大切であるが、植付后といえども石灰を散布し、除草機等による撹拌を行い土壌に吸着された塩分を流出し易くする必要がある。従って石灰の散布と同時に土壌改良資材としての松尾鉄カル、珪カル施用も1方法である。D.諸事情からしてイモチ病(特にクビイモチ病)の多発の公算が大きいので、早期発見による早期防除が大切である。殊に出穂直前と穂前期の共同防除を重点において計画されたい。
なお、現在育苗中の(晩植用)ものに対しては、苗イモチ病の発生が懸念されるので田植前に薬剤散布(イ散布用水銀剤は水10lに2〜4錠a当11lロ水銀粉剤は1a当200g〜300g)すること。


畑作の技術対策
(1).泥土を被った畑地はできるだけこれを除去して下記の除塩を行う。
作付するまでにできるだけ除塩に努めるが実際には用水不足地帯が多いので、雨水の利用による塩分濃度の低下を待つ以外しかないが、最近の晴天続きで地表に塩分の集積が認められているので、地表を薄く除去するのも1方法である。
その外地表への塩分集積を最小限に止めるためには(水分の■発を抑制する)地表をレーキで軽くかいて下部との毛管を断ち切るとか、できれば敷きワラ、乾草を敷くとかして、塩分の上昇を押えるようにする。
また畑の周囲に除塩溝を設けて地下水位を下げると同時に降雨による除塩を促進させる。更に真水が得られる場合には極力潅水除塩の方法をとる。
(2).肥料対策
肥料は窒素肥料に重点をおき、りん酸加里質肥料の増肥に努める。また土壌が悪変しているので極力腐熟堆肥を増施する。
(3).果樹園の管理
A.除塩作業
除塩が進んだところは新根の発生をみていることにかんがみ適宜除塩溝を設け、ポンプで多量に潅水、新根の発生を促すこと。
B.枝の切りつめ
新根が発生するようになれば萌芽をみると思われるから萌芽しやすくするため成木の移植の場合に準じ小枝の整理を行う。
C.追肥
新根の発生に伴って三要素の追肥をする。萌芽展業すれば、尿素の葉面散布も良い。
D.根が傷んでいて、今后風よる倒伏のおそれがあるから主幹に支柱を立てて保護すること。

7.1 金

県農試芳賀場長、夏井化学部長塩害地に於ける田植后の生育状況調査並びに塩害展示圃、大豆播種指導のため来所す。

7.2 土

塩害試験地田植え実施。
岩大本間先生等の応援指導も得る。

7.4 月

塩害地田植え進捗状況調査取りまとめ。
7月4日現在耕地面積に対する比率
田植済面積93.3%
田植不能面積4.4%
田植可能面積1.7%

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被害田田植進捗状況

7.6 水

除塩事業査定の為め農林省査定官並びに仙台土地改良区、県農蚕課、県建設事務所係官現地調査の為め来市、立会する。

7.7 木

仝上
○仝上査定に関する総括表、査定結果表は次の通りであった。(別表)はP に収録。

7.19 火

農地復旧除塩事業協議会。

8.3 水

県農林部長並びに農蚕課藤巻SP1行現地調査指導の為め来所。

8.22 月

高田松原地区の塩分調査を行う。

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高田松原地区塩分検定成績表
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地図 松原附近実測図

9.6 火

塩害地稲作生育状況調査指導の為め県農試場長外3名来所。

9.21 水

市役所に於て県下普及所長会議開催、被害状況、復興現況について視察された。

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写真 32現地視察中の県下普及所長一行

9.30 金

塩害試験展示圃水稲標本採集。

10.6 木

北上農試大沼技師来所、塩害表示圃大豆のサンプルを引き渡す。

10.28 金

市役所に於て被害果樹園復旧協議会を開催。

12.26 月

仝上客土対策協議会。

別表

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除塩事業総括表
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除塩事業、石灰類査定結果表
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除塩事業、人夫査定結果表
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除塩事業、直轄分査定結果表

6.普及所の窓から見た一般状況

業務日誌をもとに、叙上のような実情に基づき、普及活動の窓を通して見、又は実際に体験したことより考えられたことなどを総括的にまとめてみると

1.情報について

情報については、今回の津波は地震を伴わなかったので、全く不意をつかれ奇襲されたが、やはり災害情報等についても常にその伝達方法を整備しておく必要があると同時に常に体制をも整えておかなければならない。そしてその方法は平時に考えた事以外の変化を予想して色々な方法手段も考えた上で計画し整備しておく必要があると考えられる。

2.被害状況について

特に耕地の被害中水田は、市内に於て最も大きな集団地域で被害面積も約300町歩で、然も田植直前の水田と苗代が、一朝一瞬にして泥海と化してしまったので取るべき手段方法もなく1時はただ茫然としたが、各々各関係機関の速かなる指導協力と社会的に大きな助け合い運動による救援特に予想だに出来ず期待も無理かと考えられた救援苗は夜を日についで送り届けられ青田に復活することが出来、そして予想以上の収穫の秋を迎えることが出来たことはまったくただただ感謝の外はなかった。

3.農業技術面について

(イ).被害地


a.苗代について
苗代において冠水したものは、そのままでは3日目頃から葉先より枯れ初めて来たが、冠水后1昼夜以内に淡水でよく洗い、流しかけ流し潅水を行ったものは被害を免れたものもあった。


b.苗の輸送について
水稲苗の梱包、荷造りは、多く「炭俵」が使われたが、中央に空気抜きとして小麦棹、笹等で直径10cm位の把が入られたものは輸送間の発熱も少なく良好だった。又苗把をそのままトラックにバラ積みしたものも良好(路面で車がバウンドする都度空気が入る為かと考えられる)であった。
炭俵1俵には50〜60把詰でトラック1台には70〜80俵積程度のものは最も良いようであった。1台に130俵程度は積み込めるようであるが、多くなると輸送中の発熱も亦多くなる。
輸送時刻は大抵夜間で、午后8時頃から朝の6時頃までの間に行われたが、やはり夜間輸送がよい。


c.品種の混雑について
集荷の場合、品種区分をして集荷個所をまとめておかれたとの事で、最も心配された小、中学校生徒の1把救援苗運動のものでも案外混雑がなかった。
送り届けられた苗は、市役所から各農協に配分計画によって配分され小川、池、水田(植付けられないもの又は植付けられた株間)に把をといて仮植された。


d.植付けについて
各農家は、指示事項をよく守り、除塩作業もよく行い(5〜6回も代掻をやり、水を入れかえて塩分を流す、1回の代掻流し作業で約0.005%の塩分を除けられる効果がありそうな事もわかった)。植付けを行ったが、充分除塩を行わないで植付けたものは5〜6回植え替えを行っても枯死している。但しこの様な水田でも畦畔に近い1〜3株は生きている現象があったので色々な角度から調査して見たが、代掻が終り植付けの際1株でも多く植付けようとのことから畦畔の斜面削りの土(塩分を殆んど含まない位の土)の混った部分が稲の生育の良かったことと考えられた。
それは局部的に客土効果が行われ塩分がうすめられた結果と考えられる。
塩害田は、普通田より約1週間位活着がおくれる。特に塩分の比較的多く含まれてあった様な処は悪く根部の発達も正常でなく、先端が黒変して曲折しつづれた様になり、しかも下方に伸びず横上の方に伸びて来る傾向が多かった。


e.植付后の肥培管理
活着の悪い様な処は、少量(10a当り116kg)の硫安等を追肥を施したものが良かった様であった。田面に凹凸のあったもので水面から露出している様な処は塩分が濃厚になり、枯死する様な処もあった。


f.水稲生育状況
除塩をよく行い、堆積土のあった所などは、天候に恵まれた関係もあったとは考えられるが、気仙町字中■附近に於ては反当4后近くの収量のあった所も見受けられた。
当普及所に於ての塩害試験展示図の成績は下記の通りであった。


g.大署調査成績
(a).本年と前年との比較
南部試験地 34年 棹長81.8cm 茎数21.5本
南部試験地 35年 棹長63.0cm 茎数18.4本
矢作施肥改善 34年 〃 65.3cm 〃24.0
〃 35年 〃 66.1 〃22.3
(b).塩害地と無被害田
高田町長砂 被害 棹長 67.9cm 茎数20.9本
〃 無害 〃 68.1 〃19.7
米崎町中田 被害 〃 67.4 〃24.2
〃 無害 〃 66.1 〃20.5
小友町柳沢 被害 〃 67.1 〃20.3
〃 無害 〃 64.1 〃 17.8
広田町羽根穴 被害 68.7 〃12.3
〃 無害 〃 69.9 〃 17.8
(c).水稲作付面積(昭35)
昨年作付686.2ha 本年作付662.2ha 増11ha 減25.1ha 差引240
(注)増は開田1.1ha.減は作付放棄漬地25.1ha


h.水稲作況調

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写真 33畦畔より1〜3株の成育
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33畦畔より1〜3株の成育
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水稲作況調
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写真 34泥海と化した被災当時の水田(松原近傍)
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写真 35同胞の友情と■家の努力で稔った秋(同上)

7.塩害試験展示圃成績

☆1.ポットによる水稲の活着試験

○土壌の条件並びに区別
1日冠水、2日冠水、1度冠水の3段階とし、泥と作土を現状のままとした区と、泥と作土を混合撹拌した区とに別けて試験する。


○操作
1.土壌採取は5月27日 津波后晴天
2.挿秧 5月28日 5本植
3.被害苗 東北14号、シナノモチ
無害苗 チョウカイ、ササシグレ、シナノモチ 本藁5.2枚
直播 コケシモチ
4.注水 毎日各区同番宛注水
5.肥料 使用せず


○考察
水稲の活着については、塩分濃度0.2%になれば発根するものが現われ、0.10%になれば大部分発根すると考えられる。苗は無害苗が成績がよい。土壌撹拌については効果がないと考えられる。

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土壌の条件並びに区別
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操作

☆2.被害田における田植前の撹拌操作の比較

○目的
田植前除塩を兼ねた撹拌操作に機械(耕転機)を使用した場合と、人力(平にならしただけ)の場合との生育並びに収量の差を知ろうとする。


○圃場の位置ならびに担当者
陸前高田市小友町新田 村上栄五郎


○耕種概要
供用品種 新イ号
育苗様式 4月20日折■苗代播種
挿秧 6月12日
肥料 津波前に下田の取草の乾草物を投入、その他なし。
耕種報 慣行法
土壌条件 泥土の堆積はなし(異動はあった)。
試験条件 機械区、田植前耕転機で撹拌(代掻)する。
人力区 田植前エブリで平にする。


○調査
(注)入力区は朝の境であった(田半分)


○考察
機械区が収量が優っているが、操作の違いより津波そのものが何か結果的には増収に効果的であったのではないかと考えられる。

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調査

☆3.被害田と無被害田の比較

○目的
津波被害田において普通の耕種法の場合の成育並びに収量の差を知ろうとする。


○圃場の場所並びに担当農家氏名
陸前高田市高田町字長砂 菅野小五郎


○耕種の概要
供用品種 東北14号
育苗様式 4月21日折衷苗代播種
挿挟月日 6月14日 33×15cm
供試田の条件 被害田は1回海水の流入があり泥の堆積0〜2cm
耕種法 慣行法(中耕除草2回)
肥料 各区共同−肥料で且つ同量、津波后に全量基肥 10a当り 堆肥800k硫安18k過石40k塩化12k石灰90k


○調査


○考察
土壌の異動が少く且つ雑物(泥を含む)の堆積の少い場合には生育並びに収量に特に大きな差がないと考えられる。
灌漑水が充分であったことも、差が少なかったことの一原因と考えられる。
病害虫についても大差がなく(当圃場には病害虫が少なかった)稍■被害地が少な目であった。但し被害地の稲の葉色は緑が濃く下葉よりの枯れ上りが稍■おそい。

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調査
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大暑当時における水稲の生育調査(7月23日)

☆4.挿挟時の苗の相違による生育、収量試験

○目的
津波被害田における挿挟時の苗の相違による生育の状況並びに収量を知ろうとする。


○圃場の場所並びに担当者
陸前高田市米崎町沼田 米崎町沼田 菅原利得


○耕種の概要
供用品種 地方の代表品種
耕種法 特に示す以外は慣行法、除塩を兼ねた中耕除草2回
供試田の条件 塩分濃度0.15%のものを高濃度区とし、0.10〜0.05%のものを低濃度区として夫々使用する。
苗の条件 追苗代苗 6月5日隣種畑苗代、ハツニシキ
救援苗 陸羽132号
救援苗カツティング 陸羽132号
標播陸苗代苗 4月中旬播種 東北14号
標播折衷苗代苗 4月中旬播種 東北14号
標播折衷苗代苗カツテング 4月中旬播種 東北14号
一区面積並びに連制 一区5坪の連制
挿挟月日 6月27日
裁植密度 36cm×15cm 5〜6本植、但し追苗代苗は10本


○調査
(1)塩分濃度0.10%〜0.05%(低濃度区)
(注)玄米1.8l重は1.510kとして計算した。
(2)塩分濃度0.15%(高濃度区)
(注)玄米1.8l重は1.500kとして計算した。
収量よりの考察は適当とは考えないが高濃度区、低濃度区の平均は
追苗代苗区 2.1422石
救援苗区 2.1143
標播陸苗代苗区 2.0400
標播折衷苗代苗区 1.8940
救援苗カツテング区 1.4953
標播折衷苗代苗カツテング区 1.4747


○考察
供用した品種が同一でなく、しかも1株の本数が追苗代苗が他の2倍入っており比較検討は困難と考える。尚苗イモチ病の発生した苗も使用したが、イモチは被害が少なかった。
塩分濃度間の差は傾向として低濃度区(0.10%)が高濃度区(0.15%)より各種要素において良好と考えられる
苗の種別では一応健全な熟苗が良いと思われる。
カツテングについては種々検討すべくと考えるが、カツテング区は収量が少なかった。これは晩植であり且つ過熟苗であったため葉面積の不足が栄養の不足の要素と組み合さって収量にひびいたと考えられる。剪葉が特に発根を促進したとか蒸散抑制に役立ったとは考えられなかった。

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(1)塩分濃度0.10%〜0.05%(低濃度区)
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(2)塩分濃度0.15%(高濃度区)

☆5.施肥法試験(肥料と剪葉の組合せ)

○津波被害田における施肥の方法(追肥、基肥の別)を知り併せて挿挟時の苗の相違による生育の状況並びに収量を知ろうとする。


○圃場の位置並びに担当者名
陸前高田市高田町長砂 高田町長砂 菅野みほの


○耕種の概要
供用品種 地方の代表品種(東北14号 ハツニシキ)
耕種法 特に示す以外は慣行法による。
挿挟月日 6月28日
供用田の条件 塩分濃度を0.05以下とし10a当下記のとおり施す。
基肥重点区 石N22.5k尿素8k過石20k塩化10k石灰750k
追肥重点区 石N22.5k〃8k〃20k〃10k〃750k
(注)石Nは各区共基肥に施した。(津波前施肥)
基肥重点区は各肥料共田植直前に施用。
追肥重点区は石灰のみ田植前に、その他は田植后(7月10日)施用。
供用苗の条件 追苗代苗 6月5日播種畑苗代、品種ハツニシキ
標播陸苗 4月中旬播種 品種東北14号
標播折衷苗代苗 4月中旬播種 品種東北14号
植栽密度 36cm×15cm 5〜6本植 但し追苗代苗は10本。
1区面積並びに連制 1区1a1連


○調査
(1)基肥重点区
(2)追肥重点区


○考察
地方差が勿論あったと考えられるので収量よりの優劣の■■■下適当と考えられる。
■■■の場合どれだけ肥料分が土壌に堆積されたか判定■困難と思うが基肥を重点に栽培した方が有利と考えられる。
■播折衷苗代苗について一部葉先をカツテングしたが、初期成育において特に甚しく生育が■■した。然し収量については大差がなかった。

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(1)基肥重点区
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(2)追肥重点区

☆6.品種間の差試験

○目的
被害田における品種間の差(有芒種と無芒種)を知りたい。


○圃場の位置並びに担当農家
陸前高田市気仙町古川 気仙町三本松 菅野清二


○耕種概要
供用品種 有芒種 東北14号
無芒種 チヨウカイ
耕種法 中耕、除草なし
苗代様式並びに播種 折衷苗代 4月28日播種
挿挟月日 6月22日
肥料 津波前(10a当)過石56.3k 塩加11.3k 珪カル75k
津波后(10a当)石灰113k 硫安15k
本田の条件 泥の堆積なし


○調査


○考察
大暑当時の調査はないが聞取調査の結果植付当時は生育良好であったが2週間后の高潮のため生育不良となり畦畔近くのみ稍〃普通の生育を示した。
有芒種も特別生育、収量が優ってもいない、鴨の害にも差は認められなかった。
以上の事柄より東北14号が、塩害に特に強いとは言えない。

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調査

☆7.品種間の差試験

○目的
被害田における種類間(モチとウルチ)の差を知ろうとする。


○圃場の位置並びに担当農家
陸前高田市気仙町古川 気仙町 村上松男


○耕種概要
供用品種 モチ 赤芒 シナノモチ
ウル 白芒 東北14号
苗代様式並びに播種 折衷苗代 4月20日播種
挿挟月日 6月28日 30cm×15cm 除草2回
肥料 10a当り 硫安 8k(津波后に施用)その他なし。
本田の条件 泥の堆積はなし、排水不良他、砂質土。


○調査


○考察
1.大暑当時の生育調査はないが聞取調査の結果、植付当時(1週間后)に高潮のため枯葉が出て生育不良となった。その時の差は認められなかった。
2.試■田以外でも「シナノモチ」の穂は多種より良いものが多かった。

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調査

☆8.挿挟后の管理試験(撹拌差)

○目的
津波被害田における挿挟后の中耕等による(肥料を含まず)生育の状況並びに収量を知ろうとする。


○圃場の位置並びに担当農家
陸前高田市気仙町中堰 気仙町上八日町 吉田卯五郎


○耕種概要
供用品種 チヨウカイ。
耕種法 特に示す以外は慣行法。
本田の条件 津波による泥土13〜15cm堆積、水の便良好
区の分け方並びに管理の条件 撹拌区 中耕除草慣行通り(2回)
無撹拌区 特に雑草が伸びた場合草抜き、中耕なし。
1区面積並びに連制 1区1a 1連
挿挟月日 6月21日
中耕 撹拌 第1回は7月1日
苗の条件 適期播種(4月中旬)折衷苗代苗。
裁植距離 36×18cm


○調査
(注)無撹拌区は収量調査刈取りのため出来ず。
玄米1.8l重1,500とすれば10a当り石数3,9984石


○考察
7月23日塩分検定の結果撹拌区■、無撹拌区■であった。
撹拌区は無撹拌区に比較して生育が稍〃劣っているように感じられた。特に初期成育が無撹拌区がまさっていた。
出穂については1〜2日位無撹拌区が早く成熟期もまた同様であった。
供用圃場は比較的知力差が少ないと考えられるが、無撹拌区の収量調査が出来なかったのが残念である。
以上の事柄より見て挿挟后の除塩のための深層までの撹拌は特に検討の要があると考える。(県農林部発行の報告書に収量もある参照のこと)

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調査

☆9.被害地における大豆の播種法による差試験

○目的
被害地における大豆の発芽並びに生育の状況を知ろうとする。


○圃場の位置並びに担当農家
陸前高田市気仙町中堰 気仙町上八日町 吉田卯五郎


○耕種概要
供用品種 フクメジロ。
土壌の条件 壌土、泥土の堆積2cm。
畦巾株間 60cm×24cm 3粒播き、7月1日播種。
肥料 石灰前面散布 10a 70k、その他なし。
区制 1区3坪 2連。
試験の条件
標準区 慣行法(高畦播)
高播被覆区 高畦播直后ワラにて被覆
平播区 播種したあとが平らになる様に(麦の土寄せミゾ播き)
平播被覆区 仝上、ワラにて被覆
管理 特に示す以外は慣行法。


○調査
発芽当時の状況
標準区 発芽は一番おそく且つ一番不整なる発芽であった。
高播被覆区 発芽は中程度、標準区より稍〃良好なるも不整であった。
平播区 発芽は稍〃良好であった。
平播被覆区 発芽は平播区とほぼ同時であり一番良好であると見うけられた。
生育中の状況
高播関係区は発芽の状況も悪く生育中は葉の大きさが目立って小さかった。且つ葉色は青色が強かった。
平播関係区は発芽も早めで稍〃整一であり葉は大きく且つ葉色は緑が強かった。
収穫期に於ける調査
(註)収量調査は現物農試に送付のため調査せず
B区は低地であったためか生存株がきわめて少なかった。(成績はA区のみ)


○考察
塩分濃度を下げれば発芽は良好である(水分との関係)
地表面が生育中(発芽を含まず)たえず湿気(黒く見える程度)を帯びている場所では生育の中途で枯死する。これは塩分が流失しないで停滞したためと考えられる。
地下水が高い地形の所では特殊な高畦栽培の検討が考えられる。
塩分がある場合初期に生育しても開花期に影響を受け着装しないものが多い。

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収穫期に於ける調査

☆10.大豆の被害、無被害ちにおける収量の比較

○目的
津波被害地における大豆の収量を知ろうとする。


○圃場の位置並びに担当農家
陸前高田市高田町長砂 高田町長砂 亀井亀三郎


○耕種概要
供用品種 フクメジロ
耕種法 特に示す以外は慣行法。
試験の条件 各区共無肥料、高畦播とする。
播種月日 6月15日 63cm×25cm、点播。
管理 発芽后(3葉発生当時)片側より土寄。
圃場の状態 被害地は泥の堆積2〜3cm。


○調査
(註)収量調査は坪刈現物を農試に送付のため調査せず。


○考察
開花並びに落葉期共7日〜10日早く泥土の堆積の多かった個所程生育が悪かった。
結論的には、大豆は塩分が高ければ枯死又は着装しない。

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調査

☆試験のまとめ

以上は、水稲並びに畑作関係について調査した主なものであるが、あくまでも傾向を知るために実施したものであり、調査結果も傾向として取扱われるべきだが、調査結果を記し得なかった事柄も併せて取りまとめて見ると


1.水稲について
イ、苗代においては、本葉5枚前后で海水のみ冠潮した場合淡水でかけ流しすれば殆んど障害を認められず、葉先が1/4位枯れる程度である。
雑物並びに泥が相当量堆積し苗の先が見えなくなる程度でも早期に(当日)これを除去して淡水をかけ流しすれば1/3以上葉先が枯れるが、大部分苗として利用出来る。但しその場合折■などしてあれば不可なことはいうまでもない。
2日間泥の中にあったものは、仮令苗が生存したとしても利用は不能と考えられる。


ロ、本田の除塩については、淡水をかけ流し撹拌を繰返すわけだが、目安とすれば深水として土壌を撹拌し水を入れ替えることを1回繰返す毎に塩分が0.05%内外減る。


ハ、肥料については、耕期前で然も泥の堆積が無い場合には普通の肥料又は稍〃多くしても良いと考えられる。但しこの場合適期植えが出来る場合である。


ニ、挿挟は、塩分濃度が0.15%でも活着はするが0.10〜0.05%で実施した方が得策である。
剪葉についての効果は不明であるが、剪葉して生育の不良なものもあった。


ホ、苗については、普通播の地元苗が最もまさると考える。


ヘ、品種については有芒種特に東北14号が強いと地方では言っているが、特に強いとは考えられない。チヨウカイが一番強いと思われ、ハツニシキは比較的弱いのではなかろうか。糯でシナノモチ13号が稍〃強いと考えられる。


ト、田植后の管理としては絶対に水を乾しては駄目である。
水が不足すると活着后でも枯死する。(水が不足すると土壌中の塩分濃度が高くなる)
田植后の除塩のための撹拌は不明であるが、一時に深層までの撹拌は生育を害する様子も見られ撹拌が特に有利とは考えられない。
活着后特に深水とする必要はない。


チ、生育については、天候にも恵まれたが極めて健全な生育ぶりであった。
茎は「カヤ」の様に堅く、葉は濃緑で下葉の枯れ上りは極めて少なく、収穫期になっても尚お青かった。
出穂並びに収穫期も稍〃おくれ気味なるも普通であった。


リ、イモチ病、斑枯病の被害も少なかった。


2.麦について
被害跡地に当年秋播種した麦についてはほとんど影響が認められなかった。


3.豆類について
豆類は塩分に弱く、発芽生育しても開花期頃より障害が顕著になり結実しない。但し泥の堆積も少なく然も雨水等で早急に除塩出来た個所に播種すればいくらかは結実する。


4.蔬菜について
生育中に冠潮した葱、玉葱、馬鈴薯、甘らん、人参、里芋、大根、菜類は、泥の堆積が無くても収穫は望めず、葱、甘らんがわずかに生育する程度。然し、泥の堆積が無かった場合白菜、京菜、人参、小蕪、大根、葱は除塩しなくても発芽生育した。
茄子、甘らん、胡瓜、トウガラシも生育が劣るが収穫は出来る。但し収量の少ないのは言うまでもない。


5.牧草について
荳科は、殆んど完全に枯死した。潮のみ流入した個所にわずかに残る程度。オーチャードも泥の堆積の多い処は枯死した。
再生力はケンタッキ31フエスクがもっとも良く、リードカナリーグラス、オーチャードがそれに次ぎ、クローバーは問題にならない。播種も禾木科はあまり問題とならないが、荳科は充分に除塩しないと無理と考える。


6.果樹について
地方の代表果樹である苹果について、剪定並びに刈込みを実施したが特に効果は認められなかった。

(附)参考 植物の対塩性の調査(県農試昭35)

1.飼料作物
播種8/13 塩素濃度0.213% 畑土壌(大槌町)
(註)黒数字は塩害地、( )内数字は普通畑土、施肥は行わない。
◎成績の概要
スムーズブロームグラスは特に強く発芽及びその后の成育に於ても塩害他、普通畑土との間には大差がない。イタリアンライグラス、ペレニアルライグラスは発芽、立毛歩合にも塩
害地では劣るも次第に回復がみられた。次ぎにチモシー、ケッタッキー31フェスク、オーチャードグラス、リードキャナリーグラスは一般に発芽歩合の低いことが特徴的であるが、その后次第に良好となった。リードキャナリーグラスも草丈が劣っていたが生育本数は普通畑土に比べ遜色が認められなかった。ケンタッキーブルーグラスは発芽、生育共に不良であった。荳科ではバーズフットトリホイル、ルーサン、ラデノクローバーは概して強い方で発芽歩合及び初期生育は抑制されるが次第に発芽、生育共に良好となり差は認められなかった。レットクローバー、アルサイククローバーは劣った。ルタバカは発芽、生育共に旺盛で供試作物の中では最も強いものと考えられる。


2.普通作物
塩害地土壌(大槌町畑土壌)、普通畑(県農試飯岡圃場土壌)、塩素濃度0.213%、播種8月27日
(註)黒数字は塩害地、( )内数字は普通畑土壌
大豆では中〜大粒のものは発芽せず、小粒〜青刈大豆は比較的良好であった。大豆に根瘤菌が着生せず、塩害土壌は著しく生育は劣った。
○上記調査は、県農試本場で行われたものの要約である。

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飼料作物
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普通作物

8.試験展示圃以外の作物並びに植物の塩害に対する強弱程度の観察

○大麦
出穂、開花期に於て冠潮したものは稔実不能に依り4〜5日后頃から芳穂先端(止葉)の葉先から白く枯れて来るものが多く刈り捨てたるものが多かった。


○豆類
極めて弱く、枯死せるもの又は生存したものでも着莢が極めて少なかったが小豆は大豆よりも強いと考えられた。


○蔬菜類
玉葱−当時玉の肥大成長が始められて来た頃であったが、2日目頃より葉が枯れ始めて5〜6日位で殆んどの葉が枯れたが約3週間后に再び芽が伸長し出して来たが極めて不良にして殆んど皆無であった。
甘らん−秋植又は早春植付のもので生育最盛期のものが多かったが非常に抵抗力強く枯死する等のことが見られなかった。
馬鈴薯−当時10cm程度に生育したものが多かったが極めて弱く3日目頃で殆んど枯死したが25cm程度に生長が進んでいたものがいく分抵抗力が認められた。
その他−葱、ホウレンソウ、白菜、大根、アスパラカス、里芋等が比較的強い様に見うけられた。


○果樹
ブドウは最も強く冠潮后も伸長し、稍〃普通の結果を見ることが出来たが苹果はもっとも弱く4〜5日目頃より葉が枯れ初め、小枝等も約2週間目頃より被害が顕著になって来た。梨、桃、梅、桜桃、柿、イチヂク等も生存するものがあっても殆んど結果は皆無であったようである。


○■木
桑は、2日目頃から葉が枯れ初めたが、然し回復新芽の萌芽はもっとも早く3週間目位から始めた。赤松、杉は極めて弱く10日目頃より褐色に変り始めて枯死した。黒松、マサキ、椿、竹等は強いようであった。


○牧草
禾本科の牧草類が一般に強く、荳科牧草類が極めて弱いようであった。


○雑草
冠潮により地上部は大部分枯死したが、一般に深根性の禾本科類が強く、浅根性の荳科のものは弱いようであり、宿根性のものは一年生のものより強い。又水辺のヨシ類マコモ、ガツモ、ガバ等の被害は少なく、フキ、チガヤ、カヤ等では再生し、スギナは再生しても生育は悪い。ハコベ、スベリヒコ、ノミノフスマ、メヒシバ、コニシキソウ、アカザ等の広葉のものは枯死したがイヌガラシ、ナズナ、スズメノカタビラ等は生育しているのが見られた。
(附記)○○○○氏の水稲の塩害試験に依れば灌漑水は0.1%以下、分けつ期は0.2%、穂孕期0.6まで耐えられるとのことでありますし一般作物はcl0.04%(食塩0.07%)になると枯死するものといわれてあります。

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(附)塩害に対する強弱一覧表

9.重点指導対策の概要総括

1.被害地の塩分濃度検定により作物に対する■■■■■■とを知り、差し当り田植できるように水田耕地一筆毎の塩分検定を実施し、無害濃度(0.1%以下)になるまで除塩作業を実施せしめ、再度塩分検定を行ない、田植の可否を決定指示した。
尚、これが実施に当っては県農蚕課、県農試より器材、器具持参の上現地指導の応援を得た。(総塩分検定点数約3.523点)


2.救援苗の懇請、受配の任に当り救援苗数701.000把の取扱い、指導を行ない、植え傷みを除き活着を図った。
その他追苗代指導(面積875坪、生産把数29.817把)をも行なった。


3.田植実施に当っての施肥設計指導並びに用水の効果的な利用、適期挿挟を指導した。


4.活着后の除草、灌漑水については特に注意し、塩害防止につとめる様指導した。


5.停滞水の排水、海水の流入防止、排除指導を行なった。


6.畑作大豆の蒔き付けについては、畑の塩分検定と除塩指導を行ない、適期播種を指導した。


7.その他関係機関との連絡を密にし、絶えず情況に応じ適期適切なる指導協力に努めた。


尚、被害苹果園(7.4ha)の復旧と今后の果樹園経営については、殆んどが10〜30年の成木であり、枯死、流失が多く、復旧見込がないと考えられるものが多く、これが対策については除塩事業と併行して樹種の切り替え等の問題も考えられたが、農家は切り替えに容易でない様子であった。

10.復旧対策事業

昔から津波は天災として扱われて来た。そしてその都度尊い人命や貴重な財産を海底にのみ込まれ、その度に沿岸住民は激しい憤りと深い悲しみを味わされながら「天災である」とあきらめの歴史をくり返して来た。しかしいつまでも津波を天災として見過ごすことを許しておく訳には行かない。「備えあればうれいなし」の諺もあるように、完全な備えを考え造らなければならないことを覚るに至った。
今回の津波被害結果から考察するに、津波も、これによって生ずる被害もすべて水の動きの物理的法則にしたがって起った現象というほかはない。従って津波の被害を防ぐにもこれを基礎としていろいろの方途が講じられて一日も早く安全なる態勢を固めるために為政者はもとより一般住民もともに一体となって鋭意努力せねばならないことを痛感する。
これがための復旧対策事業の規模概要は別図の通りである。

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農地並びに農業施設復旧事業計画標
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地図 チリ地震津浪復旧及対策事業要図

11.むすび

津波は必ずまたやって来ることを予想し覚悟しなければならない。ただその時期と規模については何人も知ることは出来ないだけであろう。私達は過去の経験を何かの形で生かし、この様な惨害を再び繰り返さない様に、そして被害を最小限に止めることが出来るようにしなければならないが、止むを得ず被害を受けた場合には、直ちに最善の措置を速急に講じ得る態勢と心備えが必要であると考える。
私達の周辺には、常に水害、台風、干害、大火、そして津波と、絶えず災害がつきまとっているものと考えなければならない。
この度の災害に、私達の歩んだ道は決して最善の方法であったとは考えないし、反省すべき点も沢山あると思う。
ここに、ただ迷い、急いだ足どりをそのままに、当時の状態の一部と私達の手がけた作物等について粗雑ながら取りまとめ記録にとどめる。
若し、これが何かの参考となることがあれば幸甚と考える。
−1963.4−(陸前高田農業改良普及所一同)

☆参考記事☆

明治29年6月15日大海嘯の際は当地方にも御下賜金のあったことの窺われる証文が現在も秘蔵(陸前高田市小友町谷地戸羽文一宅所蔵)されているので参考まで記す。
恩賜
本年六月十五日本県下海嘯ノ為メ被害尠なからざる趣■然ニ被思召
聖上
皇后両陛下ヨリ 金壱万円
皇太后陛下ヨリ 金貮千円
御下賜相成タルヲ以テ之ヲ配布ス
謹テ皇恩ノ厚キヲ拝スベシ
明治二十九年九月一日
岩手県知事 服部一三

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(附)三陸地方津波年表(岩手県昭和震災誌より)

奥付

1963.4発行 限定版150部
★編集発行 陸前高田農業改良普及所
★プリント 陸前高田市高田町 佐々木俊夫


仙台市荒巻字青葉
東北大学工学部土木工学科
河川工学研究室
電話〇二二二(22)一八〇〇内四五八二