岩手縣沿岸大海嘯取調書(甲・乙・丙・丁)

陸前国気仙郡気仙村(現、岩手県陸前高田市)

陸前國氣仙郡氣仙村

●本村海嘯被害地 字福伏 要害 双六 古谷 長部  五ケ所
○流亡戸數 二十七戸 ○潰戸數     拾壹戸 ○流亡納屋  三拾壹棟
○潰納屋    七棟 ○死亡人口   四十二人 ○負傷人口  四十壹人
○流亡牛馬      ○流亡耕地・田畑     ○流亡舩舶
○流亡財産      ○流亡道路・堤防

漁村新位置
一、新住家ヲ設クヘキ地及舊住家トノ利害
  ○本村 字長部ハ 氣仙村 第壹ノ被害地ニシテ 大ニ 原地形ヲ 失へ 再ヒ 家宅 建立スル見込 無
   之ヨリ 被害 漁民ハ 港ヨリ 拾五六町 計リ 山手ノ上 長部ニ 居地ヲ 移サント云 アリ 長部
   港ハ 氣仙村 有益カ 港 故ニ 本村 有志者ハ 今泉町ヨリ 通スル 二日市坂ヲ 掘崩シ 該所ヨ
   リ 長部マテ 百廿間 計 所ナリ 該 土砂ヲ 運ヒ 長部港 海岸ヨリ 凡 壹丁 計リ 引揚ケ
   五尺ノ埋立 其 坪數 凡 四千坪ヲ 要セントス
   地位ハ 地図ニ 詳細 認ム 然ルニ 該 費用 充ムト云 該 工事 成就ノ上ハ 本村 今泉町ヨリ
   平坦ノ車道トナリ 誠ニ 将耒ノ便利ナリ 長部港ハ 氣舩モ 停泊セシ為メ 氣仙郡 第一 河川  今
   泉川(氣仙川トモ云)利用スル 木材等 該 港ニテ 搭載スル 便アリ 故ニ 氣仙村 有志者 前
   工事費ヲ 壹坪 壹円 凡 四千円ヲ 以テ 足ルト云 之レハ 如何哉 本村 長部湾ハ 高田湾内
   必用ノ港ナリト 視察セリ
二、海面ヨリ高低及沿岸地形方位
  ○本村 被害地ハ 海面ヨリ 高キ事 四五尺(満潮 干潮ノ差)五尺 其 方位等ハ 別紙 見取絵図 
   壱部落毎ニ 詳細ニ 記入ス
三、津浪ノ耒タリタル場所
  ○本村 被害地ハ 東北ニ 大洋ヲ面シ 津浪ハ 廣田湾内 廣田村 字太陽 字泊港ヲ 打崩シ 其 反
   動 本吉郡 小原木方面ニ走リ 戻ル 激浪 米崎村 字堂ノ前 脇ノ沢 沼田ヲ 経テ 高田松原ニ
   罹リ 本村ノ長部港ニ  打込ミタルヤノ 如シ 詳細ハ 部落図ニ 記ス
  ○一説ニハ 廣田村 反動ノミ アラス 大洋ヨリ 宮城縣下 唐桑ノ崎 及 南方 海岸 長部港マテ 
      一面ニ 打込ミ タリトモ云
四、防風林及防浪林其他堤防必要の有無
  ○氣仙村 福伏ヨリ 要害 双六 古谷の四ケ所ハ 海濱 嶮阻 絶壁ノ小濱 故ニ 敢テ 防風林ヲ 要セ
      スト 雖モ 漁村林 大ニ 関係アリ 詳細  其 条項ニ記入ス



  ○長部港ハ 東西ニ 堤防 二百間位ヲ 築キ 其 内部ニ 防風林ヲ 植付ルハ  目下ノ急務ナリ 詳細
     地図ニ 記入ス
五、漁村場及海湾近傍山林原野ノ景況并林相種目
  ○本村ハ 宮城縣界 本吉郡小原木ニ 杉樹 在リ 一新以耒 私有山トナリ  明治十八九年比(頃)伐木
      セシ 以耒 根付キ魚ノ漁業ヲ 失ヘタルハ  本村ノミ ナラス 小原木辺迄 大ニ 減少セリ
  ○本村 高田松原ノ為メニハ 古谷ヨリ長部港マテ 鰯 鮪漁ノ在ルハ 高田松原の効ナリ 此 松原ハ 防
     風 防潮 魚寄林ノ三徳 在リ 実ニ 貴ムヘシ 故 宗真 此 松原 植付シ 子孫ヲ 捜索セシニ 
      高田町役場ヨリ  別紙ノ事蹟書ヲ 得タリ 実ニ 菅野杢之助 功徳ナリ 別紙ニ見ヨ
六、新道路ノ見込ミ及古道ノ便否
  ○道路ハ 氣仙沼街道ヲ 以テ 本村 第一トス 然ルニ 長部港ヨリ 元通 山手ニ 通スル 設計ナリ
   ト 聞ク 長部港 埋立ノ上ハ 仝港ヲ 経テ 開鑿スルニ 便アリ
七、漁村沿岸運搬ノ便否
  ○海岸ニハ 氣仙沼街道 陸ニハ 矢作村ヨリ 一ノ関ニ 通スル 道路 開通スルニ 便アリ 舟便ハ
   必要ヲ 見ズ
  ○本港ハ 氣舩 及 三千石積ミノ舟 入津 自在 平素 百石 五百石舟ハ 日々 停舶セサル 事 無

住 家
一、海濱住屋ノ建造ノ方法
  ○土基 造リハ 流 離シ石据ハ流 易シ多ク 萱葺キ 屋根ニ 利アリ 何トナレハ 根 重キ 故ニ
   流テモ 破散セサル為メ 流亡者ハ之ニ乗リ 助命セシ モアリ 波 屋根ノ如キハ軽ク為メニ流 易ク
   破レ易キ利 無シ
二、住家ト納屋ト離合ノ利害
  ○本宅ハ 海面ヨリ 高キ地 納屋 海濱ニ 造リ 漁業品 取扱ニ 便利の地ニ 設ルニ 利アルヘシ
三、海濱住屋建造ノ違法ノ有無
  ○別ニ無

漁民風俗
一,祭事婚姻家庭ノ状況
  ○漁民 難破舩ノ為メ 死亡 又ハ 津浪ノ為メ 死亡等ノ アルトキハ 諸祭ト唱ヘ 僧侶ヲ 以テ 海
   岸マテ 絶(施)我鬼ヲ 祭ルナリ
  ○婚姻及家庭ノ状況 別ニ 記事 無
二、漁民ノ禁物
  ○猿ヲ ヤエント云 蛇ヲ 長モノト云 産婦及 死亡者ヲ忌ム 忌 人 アル組合ハ 漁獲物ヲ 割合ヲ



   シテ 忌 日中 贈与スル 慣例アリ
三,食物
  ○漁民ハ 米 少々ニ 麦 稗ヘ 大根 糧ヲ 交セ 常食トス 凶年ハ ふき メノコ ところ 葛根 
   蕨ノ酒粉ヲ 食ス
四、衣服
  ○木綿七分 麻三分
五、漁民衣食供給ノ時季
  ○旧七月盆市旧十二月正月
六、漁民年々北海道及其他ヘ出稼ノ状況
  ○無
七、良習慣及不良習慣トノ種類
  ○漁民ハ 部内 結婚 其他 吉凶 アルトキハ 部内ノ者ハ 一日分 漁獲物 贈与シテ 補助ス 受領
   セシ者ハ 是レヲ 百事ノ費用ニ 充ル

漁村制
一、漁業組合ノ状況及改善ノ策
  ○新 漁業組合 方法ハ 宜敷 法ナレトモ 其 取扱人 適當の人物 無キ 為メニ 充分 行ハレス
二、漁民ノ労働及稼業ノ順序
  ○壱定ノ方法 無
三、旧漁場ト新漁場トノ位置状況
  ○大ニ 変リ タルトハ 見ヘス 一新以耒 垂水辺ハ 魚附林 伐木 以耒 魚族 沖ニ 寄ルト云
四、漁場紛擾仲裁法
  ○別記スル事 無
五、捕獲魚類沖合販賣ノ利害
  ○記スル事別ニ 無
六、藩政ノ當時ノ方法及税法
  ○一新ノ際 江刺縣廳ヨリ 大肝入 其他の役所の書類 取揚ケラレ 本村ニ 記録 無キ為メ 記スル 
   能ハス

凶行調査
一、海産物凶年備荒品及製造
  ○凶年ノ備荒品ハ メノコ 陸産物ハ 壹人付 籾 五合 麦 壹升 稗 壹升ヲ 年々 貯蓄ス



二、凶年ノ状況
  ○江刺縣廳ハ 古書類 有 揚ケラレ 記スル 能ハス
三、凶年ノ際藩政ノ救助方法
  ○凶年ニ 救民 藩主ヨリ 大肝入 役所ニ 命ス 粥等ヲ 施シタル 事 在リ
四、凶年ノ后及津浪后ノ流行病
  ○凶年ノ后 チヤウチフシ 流行 津浪后 流行病アルヲ 知ラス

漁民需用品
一、海岸山林原野ノ状況及將耒ノ企望但材木及薪炭木トモ云
  ○本村 字上長部 山ニ(共有山)安部芳吉 企ニテ 山ヲ 區画ス 秣場 薪炭木 用材林ト 區分ス
   部落 青年ニ 苗圃ヲ 造ラシメ 漸次 植付 セシムル 役アリ 目今 此 方法ニヨリ 植付 居ル
   ト云
二、竹木大麻藁物消費年額
  ○麻網類ハ 水沢 岩谷堂 麻ハ 金沢 金成地方ヨリ 需メ 藁物 地元産ニテ 足ル
三、造舩種類及年々造舩員数
  ○合コ舩 サッパ舩 網カケ舩(六反帆三十石積)惣 舩数 二百艘 壹艘 拾三年位ヲ要ス 年 拾五艘
   宛 新造 スルナリ
四、木材ヲ需ムル便宜ノ場所
  ○本郡 横田村 関根山 矢作村 板橋及 野越山官林ヲ 便トス 津 出シハ 今泉川ヲ 利用スル為メ
   ナリ
五、將耒漁舩漁具改良ノ方法
  ○漁民 馴レサルヨリ 急ニ 改良ハ 行ハレス
六、漁民衣食供給ノ場所
  ○宮城縣本吉郡氣仙沼町ヲ第一トス 其他 本郡高田町 盛町

海 湾
一,旧漁場ノ位置及変更ノ状況
  ○未詳
二、海湾ノ主産
  ○鰯 鮭
三、海湾捕魚ノ種類及時期
  ○春・鰯 赤魚  夏・鰹 鮪 鯣  秋・鱒 鮭 鮪 鯣 ふり



   冬・鱈 赤魚 ホヤ 鮑 海鼠 カセ 東海婦人 鯖 シツキ 鯛
四、沖合漁業ノ位置里程
  ○鰹・七哩  鮪・七哩  鯣・二哩  ぶり・三哩
   赤魚・五哩  鱈・二哩
五、製塩所位置
  ○本村ハ 古谷濱ニ アレトモ 將耒 見込 無

海事考
一、四季ノ季候
  ○雪・旧自十月至二月迄 降ル  梅花・旧正月下旬 二月迄 開ク 桜・旧三月   雨・入梅ニ 多シ
二、起風雨前知
  ○氷ノ上山ニ かし カカルトキハ 雨近シ 氣仙川口(今泉川)浪音 明方 ニ 在ルトキハ 雨降ル
   夕方ニ 赤雲 西ニアルトキハ 風 在リ
三、不漁前知
  ○未詳
四、大漁前知
  ○岩 磯草 多ク 付着スタルトキハ 鰯漁 多シ 又タ かもめ鳥 多ク 耒ルトキハ 大漁ト スルヘシ
五、潮流ノ状況
  ○未詳
六、海湾ニ関スル事歴
  ○本村 大庄屋 吉田庄平方ニ古文書アルト云 長部港 海鹿 時々 多ク 捕獲セシ 事 アルト云
七、固有漁場ノ変遷ノ状況
  ○未詳
八、津浪ノ歴史
  ○明治廿九年ヲ 去ル 七百年前(後鳥羽帝 文治元年七月ノ大地震 全国ニ アリト云 此時 ナラン)
   の 津浪ニテ 今泉町 中大町ト云 所 流亡セシ事 アリト云
  ○今泉町ハ 大昔 氣仙郡玉山ト云 金山ノ工夫 小屋 設ケタル后 今ノ町ト 成リ 凡 是 七百年 
   昔ナリト云 口碑ニ 傳フ

古書写
  ◎安政三年七月二十三日 大地震 并 津浪在リ 九ツ時ヨリ地震 度々 沸出シ 九ツ時下昇 大地震 
   家内ニ 人居ウス さわきタル内 八ツ時 上昇ヨリ 津浪 寓リ 長部港 居住 低キ所ハ 壹丈 高
   キ 屋敷 五六尺 潮 押込ミ 馬屋 及 雪隠納屋等マテ数十軒計 押 流 諸道具 穀物ヲ 失ヘ 



   誠ニ 困却セリ
  ◎稲作ハ 花 最中ノ比(頃)ニテ かのめノ田ト 三ツ 壹ツ程 水付ニ相成候
  ◎右 外 人馬 舩網 共 一円 痛 無 御座候
  ◎古谷濱 双六 要害 福伏濱迄 居家ニ模シ程ノ水 揚リ 不申候
  ◎今泉 高田沖 通リ 田畑 惣体 水揚リ 相成候所 何レ 塩水 相 入ル 田地ハ 皆 無 同様ニ
   相成候
  ◎小友村 田地■ 又 以上ノ村方ハ 半分 余 水入 相成候
  ◎何方モ昼 津浪 人馬ニ 怪我 無
  ◎大舟渡 赤崎両村 大痛ニ 相成候
  ◎右之通リ 時節柄 何方ニモ 変事 有之 モノニ 相見得ヘ 去年ハ 江戸 上洛中 大地震 津浪ニ
   テ 居家 震ヘ 潰レ 人馬 数万死亡
  ◎上方辺ニモ有之 去年ハ 伊豆下田ト申所 居家ノ十軒 有之 場所ハ 大地震 津浪ニテ 居家 大体
   押流レル事 相見ヘ 得ヘ候
  ◎安政二年ヨリ 六十二年(寛政六年ニ當ル)(寛政四年四月 肥前国 温泉嶽 噴火 島原 海中ヨリ 
   亦タ 火ヲ発シ 逆浪 大ニ 起リ 肥前 海濱及 天草 人家■■没シテ 死亡スル者 五万余人 島
   嶼ノ新出スル者 七八十アリト云事 在 或ハ 此時 ナランカ 將 又 今泉 記録ハ是ヨリ 三ケ年
   后 則 寛政六年 奥州 津浪 アリシヤノ如シ)前 正月七日 大地震ニテ 長部港 大水 揚ケ 此
   度の樣ノ 居家等 相 痛 候 事 相見得候 其時ノ津浪ヨリ 此度 水 五寸程 低キ 事ニ 相見
   得 港
  ◎右 六拾二年 以前 地震ニモ 跡先ニテ 十日以上モ 毎日地震アリト云
   當年モ 七月廿三日ヨリ 八月朔日迄 地震 毎日 有之 候
  ◎此事ハ 氣仙村役場ヨリ 借用 古文書 写ス 
九、津浪ノ耒ルヘキ前兆
  ○氣仙村ニハ 満潮ノ節 氣仙川ノ水ヲ 支ヘル 其 川水ヲ 以テ 田植スル 所ナリ 本年ハ 旧四月
   廿八日比(津浪ノ日ヨリ 一周間前)一切 潮 滿スル事 無ク 田植スル 能ハス 是ハ 前兆ナラン

漁村挽回
一、迅速ナル業ハ何業ナルヤ
  ○漁舩漁具 漁食 迅速ニ 運ヒ 与ヘシメ 就シムルニ アリト云
二、造舩職工有無
  ○元舩大工五人 アレトモ 二人死亡 三人アルノミ 木挽ニハ 壹人モ 死亡 無 何レモ 尋常 木挽
   ト兼務ナリ





漁民將耒ノ企望
一、管内沿岸一致漁業組合設ル方法
  ○企望 アレトモ 一般ニ 人 無ニ 苦ム
二、授産方法ニ付便利ノ見込有無
  ○氣仙村 大旦那方 漁舩漁具漁網等 漂没セシ 為メ 漁師共 大ニ 困却 是迄 旦那 五百円 漁師
   五百円 合 千円ヲ以テ 漁舟漁具網製造 漁物ノ配當ハ 五主 五民ニ分与 セシモノナリ 此 海嘯
   ニ付 流亡 以耒 殆ト 支弁ニ 苦ム 居ルト云 漁民 六名 耒リ 話合ナリ
三、他ヨリ團体ヲ造リ漁業ニ耒ル者アルトキハ如何スルヤ
  ○別 者 無

陸地産業被害調査
一、家畜ノ関係
  ○馬 五馬 死亡
二、耕地被害
  ○耕地ハ 作毛ヲ 失ヘタル 為メ 津浪 十日目位ニ 稗 大豆ヲ 蒔タルニ 充分 発育セス 津浪后
   二十日目比ニ 蒔タル 大豆 半分通リ 発育セリ
  ○陸作ハ 粟 大豆 第一ニ 枯損セリ 麦モ 充分 実ラス
  ○田ハ 植付 日浅キ 故ニ 大ニ損害セリ 稗 水田 無キ為メ 山畑ヨリ 抜立ヲ 以テ 田ニ植付 
   此 景況 充分 秋ノ実リノ上 ナラテ 確知スル 能ハス

商業調査
一、物價相庭魚類販路
  ○物價 二割口昇ル 魚類 漁具アリテ捕獲スルトキハ 販路 差支無
二、貸借変動及金利質屋ノ景況
  ○貸借 変動 未詳   金利 二割ヨリ壹割五分
   今泉町 質屋  岩代屋  壹軒ノミ  利子 二割五分
  ○隣郡 本吉郡小原木村 明治廿八年九月廿五日 火災ニテ
   四拾六戸 焼失  今回 津浪ニテ 五拾六戸 百九拾人 流亡
   (元戸数  八十戸ノ村 ナリ)