文字サイズサイズ小サイズ中サイズ大

耐震家屋發明家 伊藤爲吉君と語る

われ等の間に於て社會改良に熱心の士として知らるゝ米國建築家伊藤爲吉君と一夜語る、相見て*然、談話ハ君が近日爲し來れる海嘯地視察を尋ねたるより初まる曰く、余が觀たる所を以て言へば能く海嘯に耐へ得たる家屋は僅に五百に一の比例なり、而して今ま建てられつゝある大工連の爲すものを見れバ同じく舊來の築造なり、今後若し海嘯有らば果して其の建築にて耐へ得べきやと試に問へば渠等ハ唖然として答ふる所を知らず、唯だ仕方御座りませぬと言ふのみ、渠等は仕方御座りませぬにて或ハ濟むべしと雖も社會の上より之を想へバ仕方なしと稱して濟ます可らず天災は幾多有爲の人物を殺し天才を殺す*に人物經濟の上より言ふも之が豫防を思ハざるべからず之を我が工學上より見るも天災に對して甚だ盡すべき事多し、しかも今度の海嘯に對して博士學士と稱する工學者ハ一人として進んで海嘯地に到れる者なく殆ど對岸の火災觀するものに似たり、斯くの如くにして果して學者の本分を全ふせるものと言ふを得べきや余ハ大に疑ふ。今日學者と稱せらるゝ者ハ彼の華族の一般民人と相關らざると等しく渠等の研究せりといふなる學理も社會公衆と關ると甚だ少なし、日本の學者ハ書籍を*ゆる一種の華族なり渠等→→彼等
余ハ耐震家屋を發明し技師として世に立つと共に受負事業に從事するも大に思ふものあるが故なり而して在來の耐震家屋ハ日本家屋の建築に比して費用を要するを以て一般に普及せられざるを憂ひ今度新に新式大工法といふを發明せり、新式大工法を以てせバ普通の家屋建築と費用を等ふし而かも地震洪水暴風に耐ふるを以て甚だ一般に便宜なるを信ず、若し出來べくんば海嘯地各地方に新式大工法の模範家屋を建築せんと思ふなり日本現時の家屋構造を慨して資を費やしゝ事幾何なるを知らず、先年も各縣知事に寫眞を添へて書簡を送れるも今に一ツの返書だも得ず、馬鹿骨ばかり折りて居るなりと慨けるを聞き、山師の多い世の中だから各縣知事が直に信ぜざるも無理なかるべしと吾言を挿バ正しい者ハ困ると快笑一番家屋建築と勞動問題とハ至審の關係あり、家屋建築にハ器械を用ふると少きを以て直に職工の勞を待たざる可らず余ハ今日爲しつゝある事業に於て先づ我が理想を實際にせん事を期す談話*して社會論に渉り卓を囲んで快談縦横、に還りたるハ十二時に近かゝし(有磯逸郎)