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論説 ●海嘯後の罹災地

○先づ家族の死者を問ふ相知り合ふ被災者と被災者偶ま道にて相逢ふ時ハ先づ互に家内溺死者の數を問ふなり扨其十人位の家族にして其中九人八人若しくハ六七人の死亡者ありと聞けば始めて吊詞を用*るに至るも二人や三人位の死亡數にてハ到底遭難者の部類にだも入れず其位ならバ誠に幸福の至りにして目出度いなどヽ祝ふ程な
○夜具蒲團の欠乏罹災者の差當り困難を感ずるものは夜具蒲團の欠乏是なり罹災者ハ殘據或ハ泥砂の中より此等綿入物を蒐集せしも多くハ潮水に浸りて乾すことさへ思ふ儘に得出來ず兎角其方法處置に苦みつヽあれど之を綿打職人の手に附したらんにハ容易に仕揚げを爲して實用に供せしむるを得ることなれば此際他國より綿打職人の雇入尤も必要なりといふ
○海魚人肉に飽く被害後一般市に魚無し人亦た魚肉を食はず而して魚却て人肉に飽く是れ海嘯
後漁村漁市の景况なり
○嘯害後の物價俄かに騰貴すること二三割以上災餘の窮民僅かに生を義金繋き商估*り其利を占む
○孤兒院設立の計畫岩手縣の有志相謀り義金を醵集して孤兒院設立の計畫あり美舉といふべし
○物品の義捐罹災民の最も困難を訴ふるものハ日常の物品なり此程岩手縣に達せる古着義捐ハ袷あり單衣あり襦袢ありシャツあり足袋あり股引あり脚絆あり義捐豈に獨り金穀に限らんや
○旅店の収利他の不幸のうちに利益を得たるものは旅店を以て第一となすといふ