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明治二十九年七月七日 その他 ●軍艦發着

嚴島ハ去る四日洲本に向ひ大島抜錨、龍田ハ女川に筑紫ハ舞鶴に扶桑ハ佐世保に去る三日孰れも投錨

雜報 海嘯被害記『其十五』 (六月三十日午後十時發)碧泉生 水産上の大損害

海嘯慘状の波及する處ハ獨り人畜の死傷家屋の流亡等に止まらず沿岸人民唯一の生命とも稱す可き漁船漁具等亦悉く毀潰流失して一隻片網の剰すなく從て水産上に及ぼせる損害の大なるハ實に尠少に非ざるなり今回の被害地ハ數百年來單に漁業を以て生活を計營せる者に係れり故に纔かに萬死の間に一生を得たる者と雖も漁船漁具にして急速に求め得るの方法を*せずんバ彼等は到底其殘命を繋*し能ハざるハ勿論陸中沿岸より供給されたる水産物なる者ハ将來長く世の需用を滿たず事態ハざる可し試みに最近の統計に依りて海嘯被害の地たる陸中東海岸に於ける水産獲収の價格を見れバ實に左の如き者あり
東閉伊郡水産獲収價格二九七、三三四
北閉伊郡水産獲収價格三〇、〇六九
南閉伊郡水産獲収價格一三二、五四八
南九戸郡水産獲収價格三三、四一八
北九戸郡水産獲収價格二六、六六〇
氣仙郡水産獲収價格二〇三、五一二
大体の計算よりするも殆んど五十萬圓に近き水産物ハ海嘯の爲め一朝獲収の道を杜絶せらる若夫れ漁町漁村審かに精査統計し來らば或は以て六七十萬圓以上の影響を海産物市塲に及ぼすに至らん乎一市に於て斯の如き水産物獲収の道を杜絶せると共に一方に於てハ岩手縣の經濟に關係を及ぼす事極めて大なる可し明治廿九年度に於ける岩手縣全管内より徴収さる可き地方税ハ實に金三十五萬五千九百餘圓にして其中今回の被害地より仕拂ハれたる地方税ハ左の如きを見る一金七萬四千七百七十圓被害村々負擔額
内一金  一萬三千九百六圓     地租割
一金   一萬四千二百七十七圓   營業税
一金   一萬六千二百五十二圓   戸數割
一金   三萬〇三百三十五圓    漁業及採藻税
被害村々の負擔額なる金七萬四千七十圓の中其過*を占むる者ハ實に漁業及採藻税に屬せり沿岸被害地方ハ如何に漁業盛大にして且つ衣食の料に富みしかを知るに足らん全國中漁業及採藻税の三萬圓以上に及ぶ者ハ絶てなくして纔かに岩手縣に見る所也然るに是の盛大を極めたる東海岸ハ悉く漁民漁屋流潰して是を獲収するに人なく今や海産物を以て威名を市塲に*得したる沿岸各町村は殆んど一千圓ハ愚一百圓の漁業及採藻税さへも納め得可からざるに至る耕地損害の大なるハ久慈野田其最にして他は概して侵水の面積狭小なるが如し是れ必竟沿岸地方ハ磽碩磊塊の地多きを以て人民ハ總て耕地に依頼せず單に漁業を以て生活し來りたるが爲め耕地の如きハ殆んど見るに足る可き所なきに依る是の結果として米粟の如きも舉げて他方に仰き沿岸人民ハ只だ枚々として魚獲専業を爲せしに今や不幸にして二万一千餘の人民ハ流亡溺死の慘に陥り生存せる者又衣食の道を失ふ若夫れ當局者にして空く日時を*延し漁船漁具等を給與するなくんバ獨立生存者救恤の道を缺けるのみならず岩手縣の水産業ハ絶滅に歸して終らんのみ

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