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農村負債整理法と實効(中) 同 胞 相 和 す 『修 身』の法律化

農村負債整理組合法案の仕組の趣
旨について後藤農相は貴衆兩院に
於ける提案理由説明の際次の如く
述べてゐる。
 農山漁村の經濟更生といふ事に
 つき中央、地方互に力を協せて
 之が指導助成を只今努力致して
 居ります。然るに農山漁村の經
 濟更生といふことを實行します
 上に常に問題となることは其住
 民の負債の整理をどうするかと
 云ふことであります。で是等の
 農山漁村の住民の負債はその經
 濟を頗る苦しめて居るので經濟
 更生の仕事の一端と致しまして
 農山漁村住民の共同の努力に依
 る負債整理の途を講ずると云ふ
 ことを考へたわけであります。
 然る所農山漁村に於ける此負債
 を整理致しますには、どうして
 も農山漁村の隣保共助の精神を
 基調として互ひに其力を協せ組
 織的に計畫的に之を行ふのでな
 ければ其目的を達する事は困難
 であります。從つて政府に於て
 は此負債整理組合と云ふ共同の
 精神に基いて御互に努力奮闘を
 することを刺戟し合つて負債を
 償還せしめ經濟更生を圖ると云
 ふ一つの仕組みの制度を樹てる
 ことに致しました。
此の提案理由にも述べてある如く
本法案の最重要點は、隣保共助の
精神である『四海 兄弟』『同胞相
和す』といふ修身の敎科書を法律
にすると恰度この負債整理組合法
が出來上るわけである、だが負債
整理その物を兎や角言ふわけでは
ない。唯本法によつて五十億、六
十億と稱せられる農村の負債が整
理せられるとは誤つても考へては
ならない事だ、そこで本法の骨子
を述べて見るに先づ隣保共助の精
神は本法の鐵則である以上、負債
整理組合の組織は當然無限責任を
主とし別に保證責任をも認めてゐ
るが、有限責任は絶對に排撃して
ゐる。そして組合は原則としては
七人を以て實際上の問題としては
斯る少人數では到底負債整理の實
を擧げ得ないばかりでなく却つて
有害である塲合を伴ふので行政官
廳は之を認可しない方針になつて
居り大体部落單位で組合を組織せ
しめるもので勿論債務者のみで組
合を作つたところで認可しない。
だから事實上一組合を成立させる
事でも相當の困難がある。
 即ち大体に於て無限の連帶責任
 を負はせられる組合に地方の富
 農や債權者が債務者と同席して
 加入するか頗る疑問である、此
 の點に關し當の農林省では、そ
 こが即ち隣保共助の精神を活用
 すべきところではないかと言つ
 て居る。
そこで組合が出來上ると組合は組
合員の背負つてゐる謝金の償還計
畫を樹てその經濟更生計畫を樹て
る事がその任務で、組合員と債權
者との間の負債の金額、利率、償
還期限とかその方法等の條件の緩
和に關する斡旋をなしその他組合
員に對する負債整理資金の貸付な
どの事業を行ふ。
 次に此の組合は本法施行の日よ
 り三ヶ年内に設立認可を受ける
 ことになつてゐるが、之は二億
 圓の特融が五ヶ年間に行はれる
 關係上三ヶ年とされたもので又
 その取扱ふべき負債も本法施行
 前のものに限られてゐるが、施
 行後のものでも組合設立前のも
 のだけは行政官廳の認可を受け
 たものに限つて本法の恩典を受
 け得ることになつてゐる。
尚負債整理組合の上に市町村負債
整理委員會を設けて組合に於て協
定が出來ない塲合の斡旋を行ふこ
とになつて居り、形式上に於ては
先づ至れり盡せりの感があるが殘
る問題は整理資金の點である。如
何に隣保共助の精神に則つても油
をやらずにエンヂンを廻すことは
少々無理である、そこで二億圓の
特融が豫定されてゐる、當初特融
は三億圓の筈であつた、即ち全國
農村の負債を四十五億圓と推定し
て、その三分の一、十五億圓を整
理の目標とする。
 此の整理を要すべき負債十五億
 圓の二割三億圓を融資するわけ
 である、即ち大体一農家の負債
 を千圓とみると、その内三百圓
 を整理の對象となし、これの二
 割六十圓を先づ融通してやつて
 元金を幾分減ずるなり或は條件
 を緩和せしめるなりして償還計
 畫を樹てさせる譯である。尤も
 一農家當り特融資金の貸付額は
 大体最高限度三百圓程度になつ
 て居る。
これが農林省と内務省との間で揉
み合つた結果二億圓に?額された
が大体に於てその整理の目標は三
億圓の塲合と同樣とみることが出
來る、農林省の原案では三億圓の
特融に對する國家の損失補償を從
來不動産の資金化或は産業組合固
定貸の資金化に於ける國家補償の
例に倣ひ其の二割即ち六千萬圓を
豫定して居たが藏相の反對で半額
を國家、他の半額を本縣で負擔す
るといふ形式をとることヽなつた。
        (つヾく)