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  何 ぞ 夫 れ 緩 慢 な る (政府の救助何の日なるか望むべき)

天災の來るや忽然たり之を以て罹災人民の慘状
特に甚しからさるを得ず且つ夫れ既に忽然とし
て來るが故に被害の實■容易に査定し難きを脱
かれず況んや地方數百里に亘り一瞬にして覆没
の災に罹る事這回大海嘯の如きに至つて被害の
調査一朝にして成る可らず罹災地の官衙公署皆
な共に脱かれず公簿書類悉く亡失したるに於て
調査の材料の求むべき者を遺さず調査の困難な
る當初より明白にして縱令一■を費やすも其明
確を期す可らず夫れ然り調査の明確は終に期す
可らずとも雖も禍患の慘烈なるは眼前に著るし、
此の時に當つて救濟の局に當る者必す調査を口
にし空しく時日を遷延せん乎、救濟の實終に行
はる可きにあらず若し夫れ行はるヽとするも既
に多く時日を經過し難民をして充分の苦楚を嘗
めしむるに於ては救濟の■を完ふしたる者と謂
ふ可らず故に這回の如きは突なる大變災に際し
ては巧遅ならんよりは寧ろ拙速を期し細密なる
調査を待たんよりは眼前の慘禍に照して即時に
救濟の法を建つるもの豈に當局者の責務にあら
ずや、然るに政府の迂疎緩慢なる寧ろ余輩をし
て慨嘆に堪へざらしむる者あり
這回三陸の大海嘯たる無前の大慘禍と稱す、太
平洋沿岸百里の地一瞬の間死者三萬人、資財悉
く流亡して■に死を脱かれて而して死に瀕する
もの幾萬人、災變の斯の如く突然、斯の如く慘
絶、斯の如く廣きもの近史多く其例を見ざる所
に係る、當局者の救濟を策するや宜しく一日を
早くして速かに此幾萬の窮氓をして蘇息せしむ
るを務めざる可らず、然るに政府當局者の迂疎
なる或は視察調査と云ひ或は支出方法を案じ煩
ふ者の如く此所に空しく數十日を經過し中央備
荒貯蓄金の如き其支出期限既に經尽せんとす、
而かも政府は猶ほ救濟を急にする■念なきか如
く或は國庫剰餘金と云ひ或は第二豫備金と稱し
今以て救助費の出所すら定まらざるか如し斯の
如くにして彼れ能く救濟の責を尽くし得るとす
る耶、三陸被害の人民夫れ能く不日にして政府
の救助の來らん事を想望し得る耶
備荒貯蓄の如き尤も應■の費用として罹災ある
毎に人の其支出を想望する■■るに其支出期限
三十日將に蕩尽して支出するを得ざるに至らん
とす斯の如くなれは備荒貯蓄果して何の用をか
爲す、當局者或は例の調査を云々すべしと是れ
固より姑息の遁辞のみ盖し今回の調査不精確な
りとするも是れ調査する者の怠慢に依るにあら
ず被害餘りに■■にして調査の途なきは依る所
、今の塲合に於て■■■■不充分■るに準じて
以て災害の慘■■るを証する■■■、此の故に
當局者にして■■罹災民■を哀■するの域あら
は迅速の支出を决行して急に■するの途固より
多々なるべし、若し又飽までも貯蓄金を支出す
るの途を得ざりし■云はヾ特に他の費用より緊
急の支出を■行ず可かりし、盖■這回の事たる
疑問は支出■■■や否にあ■ず支出は■より萬
々急にせざる可らざる事尤も明らかなるも唯た
貯蓄金支出の條件を得ずと云ふに在るを以て他
の應急の費用より之を支出するも固より不可な
ければなり、然るに政府は貯蓄金より支出せざ
ると共に又他の費目より支出せざるのみならず
數十日經過の今日に至るも今以て支出の費目す
ら一定せずと云ふ、其迂疎緩慢なる寧ろ驚くべ
く斯の如くなれば三陸罹災の窮民は政府の救助
を何の日にか期すべき
這回の大災變に對しては當局者は當初よりして
甚だ冷淡なりき、災變は六月十五日の夜にして
報告の東都に達せるは十六日中にありしなるべ
く東園侍從の如き十九日に於て北行慰問の途に
上ぼれり然るに板垣内相は二十二日に至つて始
じめて視察の途に上ぼり災後既に一週日を經た
りき若し夫れ内相視察の結果にして救助行政上
に影響する所大なる者ありとせば斯の時後れの
發途は業既に大に罹災民の不幸なり、而かも内
相にして發程の當時既に救濟策を胸中に一定し
視察と共に直ちに之を斷行するあらしめば猶ほ
堪ふべしと雖も悠々百里の沿岸を巡視し數百哩
を來往して歸京の後事に救助の會議を開らくと
云ふに至つては其疎漫殆んと堪ふ可きにあらず
、此の會議は去る五日に開らかれ災後既に二十
餘日を經過したるも此會議に於てすら救助金支
出の道確定せさりしと云ふ斯の如くなれば罹災
の窮民は政府の救助を何の日にか望むべき
災害の慘状彼が如くにして而して政府の疎漫斯
の如く災後三十日に垂んとするの今日猶ほ未だ
救助金一厘をも支出せず是れ罹災民の深く悔恨
する所なるべきも幸にして世人義侠の赤誠に依
り不充分ながらも生存者をして衣食を得せしめ
來りたるは余輩の昊天に向つて感謝する所なり
若し夫れ此間世間仁人の義擧なからしめば被害
地生存の窮氓幾千万人は現政府の疎漫なる爲政
の下に災後亦餓死を脱かれさりしなるべし、嗚
呼危哉
想ふに政府如何に緩慢なりとするも既に過分に
時日を經過したる以上は不日にして救濟の方法
を立つるならん是れ余輩の信せんと欲する所な
りと雖も從來當局者の施措緩慢を極めたるに鑑
みれは應急の施設或は望み難きの虞なきにあら
ず此の時に當つて本縣當局者が便々として事の
决定を待たば時機を失するの恐なきを保せず、
之を以て余輩は本縣當局者に於て本縣の事趣大
に他と殊異なる所以を顧み更らに政府の模樣に
鑑みて時宜の方法を實行せんことを希望するな
り、之れに關する卑見は陳べし前■号の紙上に
在り

  ●海 嘯 と 閣 議

去七日の閣議にて板垣内相は三陸海嘯視察の結
果を報告し救助處分を議する筈なりしも内相は
去八日午後より病氣にて出席せず且つ三縣知事
中勝間田宮城縣知事のみ午前中に着京服部巖手
佐和靑森は午後二時過ぎならでは着京せざるが
爲め三縣知事の意見を聽く能はず遂に普通の閣
議にて了りたるが聞く所に依れば三縣知事は着
京否や内務省及び内相官邸に到りて種々の評議
もありしと云へば内相の病氣全快次第臨時閣議
を請求し善後策を畫すべく而して政府の方針は
來る火曜日即ち十四日迄に閣議を開き第二豫備
金支出の事等を决定すべしとなり

  ●第二豫備金現在額

嘯害地救濟善後の金員は差詰め第二豫備金より
支出するを當然とは然らば第二豫備金の現在額
は如何同金より支出せしは都合三回にて支出せ
られたるもの二十九萬六千■圓而して第二豫備
金は百萬圓なれば即ち殘額左の如し
 第二豫備金総額  一、〇〇〇、〇〇〇。〇〇〇
第一回以來支出額 二九六、六八二。二九九
殘 額 七〇三、三一七。七〇一
殘額七十萬圓に過ぎず被害地の救濟善後に充て
んには尚甚だ不足なり先づ其全部を支出して且
他の財源より更に支出補給せざる可らざるなり

●宮城縣下の被害田畑

 宮城縣下の海嘯被害地
なる本吉桃生牡鹿三郡の被害田畑宅地鹽田等の
反別、地價、地租は左の如し
 田反別 二百三十七町一畝十一歩
  此地價 四萬六千七百九十八圓六十三錢
  此地租 千百六十九圓六十六錢六厘
 畑反別 百七十六町一反二歩
  此地價 九千四百二十六圓二十七錢一厘
  此地租 二百三十五圓六十五錢六厘
 郡村宅地反別 七十町九反六畆十六歩
  此地價 九千五百三十六圓七十一錢五厘
  此地租 二百三十八圓四十一錢八厘
 鹽田反別 一反八畆十二歩
  此地價 四十四圓二十四錢
  此地租 一圓十九錢六厘
 反別合計 四百八十四町五反六畆一歩
 此地價合計 六萬五千八百五圓八十五錢六厘
 此地租合計 千六百四十五圓十四錢六厘

●赤十字仮病院の引揚

 東京本社の出張員及び
本縣支部出張員其他係りの人々には去る七日谷
地頭仮病院前に於て寫眞を撮り同時に同病院を
引揚たりと云ふ

●重傷者來る

 前號に記載したる海嘯負傷者は
醫師成田敬爾氏附添ひいよ々々一昨日の直行列
車にて當地に來ち直ちに靑森病院に収容せられ
たるが病状は爾来其の經過甚だ宜しく遠からず
快癒すべしと云ふ

●救護員等歸る

 赤十字社靑森支部より三戸上
北兩郡嘯害地に出張中なる救護員三名は一昨日
歸靑支部書記神山文立氏は昨日歸靑

●三澤、百石兩村の患者

 客月十六日より本月
五日まて日本赤十字社本縣支部病院に於て取扱
はれたる三澤、百石兩村の嘯害負傷患者は三百
九十七名なりと云ふ

●鰥寡孤獨の調査

 嘯害死亡者の數ハ幾許なる
か知る可らざるを以て皆被害前の現在人口より
眼前生存者を差引き其餘は悉く死亡者と見做し
たるものなれば中にハ他に出稼中にて變を聞て
急き歸るもあれば遠方に漂着して送り還さるヽ
もあり實際の死亡者は尚其數明らかならず隨つ
て鰥寡孤獨の人員を精査して救助金額を確定す
る事も容易に調査附かざれば内務當局者は三縣
知事と協議して便法を設くる筈なりと

●三陸の海嘯に付き

 學校及び敎員の被害は文
部省の取調たる所に依れば高等小學校一尋常小
學校三十にて敎員の死亡は靑森縣一人岩手縣九
人宮城縣二人總計十二人なりと云ふ

●嘯害義捐

 當地新安方町四十三番戸加藤甚五
郎外三十九名は金拾六圓五拾五錢を昨日町役塲
へ差出たり

●高橋山林局長

 山林局長高橋琢也氏は滯在中
の處昨日一列車にて仙臺に趣かる