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  嘯 害 の 善 後 策 に 就 て (當局者の注意を乞ふ)

今回の嘯害や眞に慘絶なりしと雖も幸にして本
縣下に於ては他二縣に比して被害甚だ多かず死
者の如きは三縣の通計に對すれば百分の二三に
過ぎず左れば災後の統計及び取片附等も既に其
大半を了し自今は專ら善後策即ち救助法を討究
すべき事となれりと聞く
救助には二途あり其一は災民一時の困窮を救ふ
事、其二は永久的にして災民の爲めに生業に就
くの道を授くる事とす、此の二者は固より並び
行はざる可らず一方には一時の窮を救ふと共に
他方には就業の道を授くるの法を講せざる可ら
さる事勿論なりと雖とも人情動もすれば一邊に
傾き易く眼前の慘状を睹ては意念專ら此所に傾
注して或は後事に疎なきの患なきにあらず、然
りと雖も善後策と稱する者の眞意は一に後來の
遇活に重きが故に當局者たるもの决して眼前の
慘状を悲しみて後事を粗畧すべき者にあらず
余輩を以て本縣罹災民の状况を視て其救助法を
案ずるに主として善後の事を重んすべきか如し
盖し今回の罹災者たる十の八九は漁民にして農
民にあらず若し之を農民なりとせば次年秋収の
際に至るまで救與を繼續せざるを得さるべしと
雖も海洋を以て田園とする漁民に在りては救與
を要するは漁具なき間に限り今日充分の漁具を
與ふれば明日より直ちに自活の途を立つるを得
べし今回縣下の罹災地方の如き皆今より秋末に
至るまで漁獲あるの地にして若し其豊漁をして
災前の半ならしむるも秋末までには充分資本を
償却して猶ほ且つ獨立生計を得べしと云へり此
の故に今日に於て專ら善後的の方法即ち漁具の
整備に勉むるに於ては日一日に救助の事功進む
のみならず不日にして救助の事を完了して被害
地は舊態に復するに至るべし
若し夫れ然らずして意念專ら眼前に注ぎ一に衣
食の救與のみに周旋し荏苒時日を經過して漁期
を失するに至らん乎更に來年の春末に至るまで
之を續給し來春に於て又更に漁具の整備等を謀
らざるを得ざるに至るべし、斯の如くなれば給
助の費用は甚だ多きを要して而して難民も亦甚
だ安堵の状態に復し難かるべし、當局者宜しく
深く考へざる可らず
目下四周の状况より案し來れば義捐金、縣救助
金、國庫補助等より本縣難民に配與さるべき金
額は少なくとも五万円には上ぼるべく多ければ
十万円にも近くべし今五万円を罹災戸數約五百
に配與すれば平均一百円なるが故に一戸の受く
る所畧ぼ百二三十円位と見積るを得べく此の内
既に費消したる分もあるべしと雖も其額少にし
て算するに足らさるべきが故に此百二三十円を
以て直ちに漁具を整備せしむる者を■■■■等
は直ちに生計の方法を確立するを得べし、漁舟
網釜其の他の器械を整備せんには百二三十円に
ては足らざる事勿論なれども難民は八戸野邊地
等に助力を與ふべき實業家を有するを以て不足
の分は其の方面より補足する事容易なるべく事
此に至つて彼等は救與を要せさる獨立の漁民と
なり官民共に全く其堵に安んするを得るに至る
べし況んや舟網は悉く流失し擧りたるにあらず
餘す所猶ほ多きおや
若し然らずして專ら衣食を給與するに止まるが
如き姑息の手段に耽り今三四ヶ月にして漁期を
失し更に來春まで難民を育養するとせば僅々百
二三十円の金員は餘ます所幾何もなかるべくし
て而して善後の事功更に成る所なかるべし之れ
を以て余輩は當局者に於て目前の救助よりは深
く善後的の救助に傾心されんことを望まさるを
得ず
尤も救助の金額は現に存するにあらず今に於て
之を支出するの途なきが如しと雖も若し今之を
支出せざるに於ては前來陳ふるが如く利害得喪
甚だ較著なる者あり故に當局者たるもの此の無
前の大事變に際して非常の决斷に就き不日弁償
し得べき金額を豫算して直ちに國庫其他より借
り入るヽも可ならん兎に角即時に善後の計を確
立するを切要と思惟するなり
舟網の如き流失破壞既に多きが故に今直ちに費
金を支出するも調製に至らんには頗ふる時日を
要すべし、網の如きは遠地に注文を要するもあ
るべく舟の如きも大工不足にして遠地より招か
ざる可らず、彼此時日を要するの虞甚だ大なる
が故に余輩は當局者の决斷と手配一日を早くし
て速かに所望の妙果を見ん事を切望するなり

     雜     報