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社説 災害対策を優先させよ

伊勢湾台風を上回るといわれる津波の被災者救援、災害復旧対策は
何ものにも優先して急がねばならぬ。与野党ともに、安保問題とは
切り離し、一さいの”戦術”を抜きにして、話し合うべきである。

 大津波による全国の被害は、実情がわ
かるにつれて、加速度的にふくれ上がっ
てきた。何しろ被害地域が北は北海道か
ら南は九州まで、一道十六県というかつ
てない広範囲にまたがり、しかも各所に
集中的な惨害が発生している。各地方の
被害状況は、各省ごとに集計中である
が、道路、河川、漁港、船舶、漁具、田
畑、家屋、工場などを含めれば、伊勢湾
台風のときを大きく上回りそうだといわ
れている。
 これら被災者の救助および被害地の
復旧対策は、できるだけ急がねばなら
ぬ。とくに今回は、台風の場合と違っ
て、文字どおり”寝耳に水”の災害で
あり、一瞬にして家財道具や生活の資を
失った人たちなのだ。救援、復旧ととも
に、将来このような不手ぎわな予報を繰
り返さないよう、なんらかの恒久対策を
真剣に検討する必要もあろう。
 これに対して政府は、いまのところ本
年度予算のなかで八十億円足らずの予備
費を支出するだけで足りると見ているよ
うだ。しかし、伊勢湾台風のときでも災
害対策の補正予算として、総額六百十四
億円が組まれたのである。伝えられるよ
うに、今回の被害総額が伊勢湾台風を上
回るとすれば、とうてい八十億円そこそ
この予備費で間に合いそうもなく、当
然補正予算も考えねばならない。
 ところが、ここにこう一つやっかいな
問題が起こってくる。補正予算となれ
ば、国会の承認を必要とするわけだが、
このところ国会は、政府与党の安保強行
採決いらい、混乱から空白へと、全く動
きの取れない行き詰まりに陥ったままで
ある。そういう姿のなかで、突然降って
わいたこの災害対策を、どう処理すべき
であるか。
 野党側は、国会の会期延長を認めず、一
さいの審議に応じないという立場を固執
している。だから、自民党から災害対策
の話し合いを呼びかけても、おいそれと
は乗って行きそうもない。しかも、野
党側の主張するように、会期延長を認め
ないということになれば、第三十四国会
は、きょう二十六日をもって幕を閉じる
わけで、いよいよもって両者の対立は、
抜き差しならぬものになってしまう。
 本来ならば、まず軌道を外れた国会
を正常な姿に返し、そのうえで災害対策
を討議するのが順序だろうが、それはと
ても望むべくもない。といって、政局混
迷のために災害対策がおくれ、被災者の
救援が間に合わないことがあっては、そ
れこそ一大事といわねばならない。
 われわれは、たとえどんなことがあろ
うとも、災害対策だけは何ものにも優先
させるよう、このさいとくに強調した
い。その方法は、与野党ともに真剣に考
え直す必要がある。とりあえず八十億円
の予備費を支出して、最も緊急を要する
救済費に当てるとしても、その後の本格
的な災害対策の審議を欠かすことはでき
ない。岸内閣の総辞職、あるいは衆院の
解散によって政局の混迷を脱するとして
も、それに時間がかかり、対策の時期を
逸するのでは困る。したがって、このさ
いは安保問題と全然切り離して、災害対
策に限って与野党間に話し合いの場を持
つ必要があると考える。
 もちろん、これには与野党ともに、一
さいの”戦術ないし”駆け引き”を排
して、虚心に話し合う気持ちが先決であ
る。自民党が、災害対策を絶好の材料と
して、暗礁に乗り上げた国会審議の中央
突破をねらったり、野党が、会期延長無
効、審議拒否の態度にこだわって災害対
策を放棄したりしないよう、きびしく望
んでおきたい。もし全国の被災者の窮状
をよそに、政治家がみずからの意地とメ
ンツだけしか頭にないとすれば、議会政
治もいよいよ末期の症状というほかない
のである。