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災害と警報

 「警報さえ早く出ていたら……」という声
 は、大災害のあとなん回聞かされたことだろ
 う。だが、私たちは「警報」がいったいどう
 いう性格のものかよく知らない。また私たち
 に「警報」を伝えてくれる機関が身近にある
 のかどうかすらもわからない。戦争中の「空襲警
 報」は、思い起こすのもいやな記憶だが、そ
 の伝達の方法だけは、割台はっきりと決め
 られていた。暴風雨、津波、落雷など自然現
 象に対する警報のあり方を改めて考えてみよ
 う。

6時間前に「ライハ」

”落雷警報”というものは、実際
には存在しない。しかし「落雷予
報」はこれから毎日のようにラジ
オで聞かれるシーズンだし、身近
だという点から、まず雷を例にと
ってみよう。
 雷の本場はなんといっても日
本アルプスのある中部山岳地帯
だ。ここで発生した雷雲は、関東
地方の山沿いを平野部へ向かって
流れ、しばしば京浜地方を襲う。
 落雷に対していちばん神経過敏
なのは地方会社である。送電線や
変電所に雷が落ちると大きな被害
が出るからだ。それで中部山岳地
帯には、気象庁の調達所のないよ
う山奥にも電力会社の観測所が
たくさんある。雷雲発生の第一報
はこれら観測所から気象庁へ打電
される。「ライ
ハ」=雷が発生
した=、「ライ
サ」=雷が盛ん
になった=とい
ったぐあいだ。
 一方、気象庁
の塔上にはレー
ダーがあって、雷雨の起こりそう
な日には、アンテナが回転してい
る。電力会社の観測網からはずれ
た雷雲もこれで見える。
 双方のデータをもとに、気象庁
はその日の天気図による大気の安
定度を考え合わせて、雷雲の流れ
る方向を判断する。雷雲のコース
は、発生場所によってだいたいき
まっているから、そう大きな当た
りはずれはないようだ。このよう
な方法により、京浜地方で雷雨が
降り始める六時間ぐらい前に予報
することが可能になっている。

警報網確立に3要素

 雷雨予報の例で考えさせられる
ことは三つある。その一つは、電
力会社という落雷の直接の利害関
係者が大きな役割を果たしている
ことだ。このため気象庁のまばら
ば観測網が補われている。次に気
象レーダーという近代的な観測機
械が非常に有効だということ。最
後にもっとも大事なのは、こうし
てせっかく出た予報も、ラジオと
いう伝達機関に耳を傾けていない
限り、一般の人には伝わってこな
いということである。
 陸上を対象に出される「警報」
には、現在気象庁をから出る「暴風
雨警報」、「暴風*警報」、「大雨警
報」、「大雪警報」、「高潮警報」、
「暴風雨高潮警報」、「津波警報」、
気象庁と建設省が共同で出す「火災警
報」がある。
 このほか海上の船舶には「海上
気象警報」が出され、また少し性
格の違うものとしては、郵政省の
だす「電波警報」がある。電波警
報はデリンジャー現象により国際
通信がマヒ状態になりそうなとき
出される警報で、一般の生活には
直接の関係はない。
「観測網の密度を高めること」、
「観測機械を近代化すること」、
「伝達の方法を確立すること」の
三つは、これらいずれの警報にも
当てはまる原則だといえよう。

 比重大きい”感覚”

 津波の場合を考えてみよう。
「津波警報」は地震波の進行速度
に比べて津波の伝わり方がおそい
性質を利用している。たとえば海
岸から発生したとすると、地震波
はおよそ二十五秒後には海岸に近
い地震観測所にキャッチされる。
 データは直ちに気象庁を初め管
区気象台や地方気象台の一部に報
告され、一方、他の観測所からの
データも次々に入電する。報告を
うけた気象台では。これらのデー
タに基づいて、地震の起こった地
点や震源の深さ、規模の大小を算
出し、津波発生の有無を判断す
る。
 津波来襲の危険があると判断さ
れた場合は、すぐに都道府県警察
海上保安庁、放送局などを通じて
「津波警報」が発令されることに
なっている。だが、地震波の観測
から警報の発令までにかりに十分か
ら二十分しかかからなかったとし
ても、津波は平均秒速百メートル前後の
速さで進んでいるから、第一波の
襲来までに数十分程度の余裕しか
ないことが多い。
 とくに、地震が陸地に近い場合
には、時間的な余裕はますます少な
くなる。気象台を初め、警察、消
防署、放送局といった警報伝達の
ポイント、ポイントにいる人の判
断力、機知、感覚といったもの
が、人命の救助にいかに大きな役
割を果たしているかがわかる。
 どんなに観測網を整備しても、
伝達の方法を確立しても、このよ
うな要素が欠ければ、災害防止に
なんの役にも立たないことが、こ
んどのチリ地震津波で立証され
た。二十四時間前にせっかくチリ
大地震をキャッチしながら、丸一
日を放置した気象庁の態度は、判
断力の不足というよりは”感覚の
欠除”といった方がぴったりする
ようだ。

 雨量ロボット活躍

 新しい観測機械が警報の発令に
大いに役立ち、災害防止の役割を
果たしている例としてよくあげら
れるのが「雨量ロボット」だ。こ
の装置は、観測所の目の届かない
人跡まれな山奥に設置され、無線
で雨量を報告する無人観測所であ
る。数百個の雨量ロボットが全国
の山岳地帯に設けられて以来、局
地的な大雨を気象台が見落とす危
険は少なくなり、洪水予報の制度
は非常に向上した。
 このほか建設省が使っているダ
ム水位の遠隔測定装置(ラジオ・テ
レメーターと呼ばれる)、気象庁が
近く東京月島で使い始める「無線
ロボット検潮*」、東大地震研究所
で研究している「無線ロボット地
震計」など、正確な警報を早く出
すためには観測機械の近代化、自
動化がどうしても必要である。
 ただ、このような新しい技術を
もってしても、現在のところまだ
予報の不可能な自然現象があるこ
とを私たちは忘れてはならない。
その代表的なものが「地震」と
「噴火」だ。

 弱い火山の観測陣

 地震の予知が非常にむずかしい
ことはよく知られているが、火山
の噴火の方はどうも忘れられがち
だと気象庁でも指摘している。現
在、法的にも気象庁には、”噴火警
報”を出す義務は負わせられてい
ない。東大地震研究所などの研究によ
り浅間山など一部の火山ではその
活動を事前に予知することが曲が
りなりにもできるようになってき
た。
 しかしその精度はまだ高いとは
いえず、浅間の方法を**の違う
他の火山に適用するわけにもいか
ない。さらに気象庁の火山観測網
は全国的にみれば”手薄”というよ
り”ないに等しい”といった方
が正直だろう。
 夏の観光シーズンを控え、私た
ちは「火山はそこに火山があるこ
とがすでに警報だ」という認識を
もった方が安全だといえる。