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伊 勢 灣 に 津 浪 な し 日常に備へて流言を愼め

地震と空襲と流言ー微妙な人心に投じて昨今世上
の話題はこの三つに集つたといつていゝ、言ふ
ものも■くものも■る眞劍であるが、遂にはとん
でもない間違ひまで仕出かしてしまう、去る十
四日夜、根も葉もないデマに惑はされた津市民の
一部が瞬時にして群集心理のとりことなつて、
大擧して附近の愛宕山に殺到し、大騒ぎを演じた
など悲喜劇といふよりは寧ろ醜態であつた、一
體この種の流言はどうすれば未前に防ぐことが出
來るだらう、そして空襲下の市民生活の平常は
如何にあるべきかについて取締の責任にある市川
津警察署長の話をきいて見よう…
◇…僕の家ではこの間中頻發す
る地震についてはもとより非常
の塲合、いざといふときの■■
について平常からしつかりした
方針をたて、家族の行動は絶對
これに從ふやうに云ひ聞かせて
ゐる、僕が家にゐるときは僕の
命令があるまでは絶對戸外に飛
び出さない、僕がゐなければ家
内が留守司令官である、この間
の地震の例でも無闇にあはてて
却つて戸外に出てから落ちて來
る瓦に打たれたり倒れる板塀に
壓せられたのがあつた、だが、
何の備へもなしに泰然としてを
れといふのではない、不斷の準
備をしてゐることがもとより大
切である、例へば僕は最初の判
斷によつて家族に一言を殘して
署に出て行く、そのあと家族は
豫ねて定めの部署について咄嗟
の處置をとることになつてゐる
火元の取締りをどうするか、避
難の通路はどこか、非常持出の
品物はどれかなどである、この
ことは強い地震に限つたことで
はない、何時空襲があるやも知
れないのだから、この位の準備
はいつでも出來てゐなければな
らない
◇…そこで何故あのやうなつま
らない流言によつて重大な間
違ひをひき起すかと云ふこと
になると根本的には相當むづ
かしいことなのだが、実際問
題としては市民の生活態度に
敢然とした自信がないからだ
■時の生活に對する心構へが
足りないからだ、そしてこの
自信と心構へを基礎づけるも
のが不斷の準備である
敵機が來れば爆彈を喰ふのが極
めて當り前である、爆彈を喰ふ
のが恐ろしいのではない、備へ
なきところ不意をつかれて不覺
を取ることが恐ろしいのだ、地
震だつて勿論そのとほりだ
◇…この間の流言事件でデマの
とび出した經路を調べて見ると
誰かがあのかなり大きい地震の
直後〝地震の後の津浪はこはい
ものだ〟と云つたのが忽ち動揺
した民心を刺戟して次から次へ
しかも〝津浪はこわいぞ〟〝津
浪が來るぞ〟〝津浪が來たぞ〟
といふ風に傳へられてあの騒ぎ
となつたのだ
群衆心理の恐ろしさはよくわ
かるが、かくの如くたわひも
ない群衆心理に支配される市
民の生活態度の無氣力さが甚
だ心もとないのではないか、
これが津浪の流言だつたから
まだいゝが敵の謀略宣傳によ
る何等かの流言であつたらど
うするのだ、何故あのときた
だの一人でも今少し冷靜な頭
と太い神經とをもつてデマの
眞相をたしかめようとしなか
つたのだらう
一人としてあの群衆の中から治
安の全責任に任する警察に電話
をかけたものがなかつたのだか
ら呆れざるを得ないと同時に空
襲に備へる平常の訓練の出來て
ゐないことは遺憾に堪へないの
である
◇…然らばどうすればこの種の
流言に惑はされないか、群衆心
理に■同する如きことはないか
といふと今度の經驗で痛切に感
じたのは先づ足もとにある組織
の力を活用することだ、隣組の
如きを平常からガツチリ組み立
ててこれをあらゆる塲合の市民
生活の基礎において行く
班長は隣組員をしつかり握り
隣組は班長のもとに固く團結
する、地震でも空襲でも何ん
でも來い、隣組は隣組で讓り
とほして見せるといふ自信を
もつて一切の準備を整へてお
くことが肝要なのだ
今までにすでにこの種の準備と
訓練は防空訓練などによつて充
分に出來てゐるはずなのだから
今はもう非常の突發したときに
活用するまでなのである
◇…僕がこんなことをいふと眞
向から不服を稱へるものもある
だらう、それは地震などの塲合
間違つても避難するに越したこ
とはなからう、幸ひこの間の塲
合は津浪が來なかつたからいゝ
ようなものゝ、大事を取るに何
の文句があるかと…なる程大事
をとるのはよいが根も葉もない
ことに惑はされるのは絶對に大
事を取るの方策ではない、先に
もいつたが津浪でなくて敵の謀
略だつたらどうするのだ、大事
をとるなら何故ことの眞僞をた
しかめないのだ
◇…それから例へ津浪の流言に
しても一體地震に對する認識
のないのに驚かざるを得ない
新聞などでも云つてゐるとほ
り昨今の地震は余震の程度で
しかも伊勢灣ではこの程度の
地震で津浪の伴ふことは絶對
にありようはずがない
信念のない市民生活の心の隙に
つけ込んで微震をも強震に感ず
る神經衰弱症状が文字通り風■
■唳の醜態を演じたのだ
◇…警察の立塲としては一應非
常の塲合に對する万全の構へが
整つてゐることをはつきり知つ
てもらひたい、警察こそあらゆ
る塲合に大事をとつて微震とい
へども必ず署員を非常の配置に
つけてゐる、警防團の海上班を
動員して津浪に對する事前の觀
測も刻々に行つて危險の豫知に
つとめてゐる、津浪はしかも今
までの經驗によつてその徴候を
海水の状態で完全に判ずること
が出來るのだ、万が一にも變事
が豫想されるならいやしむも市
民生活の治安に任じる警察が責
任をもつて待避の指令を發する
から安心してもらひたい
最後にそれにも拘らずこの種
の流言に惑ひ例へ故意や惡意
によるものでなくても市民生
活を攪亂するやうな者は斷じ
て處斷する方針であるからく
れぐれも日頃の言動をつゝし
んでもらひたいものである

泗市臨時市會

二十四
日臨時市会をひらき本年度市民
税課額の決定と市關係の震災應
急復舊費豫算十七万四千円を附
議する
豫算の主なる内譯は道路、港
灣、河川など一般土木七万八
千円、学校五万六千円、市立
病院、市營住宅關係三万二千
円である

建造計畫進捗す 三井木造船○○造船所

三井木造船建造○○造船所では
災害を克服し全工員は滅敵の闘
魂をたぎらせて造船報國に敢闘
してゐるが、これがため十九年
度○○隻の建造計畫は着々進捗
し年度末には豫定通り全部竣工
する見通しがつき淺井所長以下
全工員は貼切つてゐる

申請者は至急手續 震災被害者の免税

震災被害者の租税の減免、徴収
猶豫の申請は二十日限りとなつ
てゐるが申請期日が切迫してゐ
るにも拘らず減免、猶豫の申請
の手續をするものは比較的尠い
ので津税務署では恩惠をうけた
い者は速かに申請の手續きを行
ふやう要望してゐる
この恩惠は適用の範圍をなる
べく寛大に取扱ふ方針で、し
かも中,小納税義務者に重點
をおいて行はれることになつ
てをり申請者はその樣式その
他不明の點があれば各税務署
市町村役塲などで問合せどし
どし申請すべきである

短 信

一 日婦町村支部長会議
十八日郡会議塲で開き
志 今般■■宮殿下より震
災に對する御見舞金拜受に關す
る件および震災義捐金一千円寄
附その他に就て協議した

震災義捐金寄附者芳名 十八日正午現在

五千円、中西軸承金■会社三重
工塲▼一千円、員弁郡梅戸井村
門脇丈助▼一千円、桑名市大橋
長治▼一千円、桑名郡城南村伴
又一▼一千円、多氣郡川添村西
村仙松▼一千円、トモエ製作所
桑名工塲▼一千円、三重醤油味
噌統制株式会社▼一千円、東京
都澁谷区永住町宮田光雄▼一千
六百四十七円五十錢(二人分)

累計金
七十二万八千六百二十一円六十九錢