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文化

大津波が二十四日早朝、音もな
く突然わが国の太平洋沿岸全域を襲
った津波の高さは大きいところ
で五層以上にも及び北海道、三陸、
紀伊方面を中心に各地に大きな被
害をもたらしたことは新聞やラジ
オなどの報道により明らかになっ
た。昨年九月伊勢湾台風による高
潮の**を経験しているわれわれ
にとって自然の脅威とはいえわが
国において震源地のチリにつぐ多
数の死傷者、行くえ不明者を出し
その他家屋や船舶の大被害を受け
たことはまことに残念である。
 今回の津波は、日本時間で二十
三日午前四時十分ごろ、日本から
一万七千㌔も遠く離れた地球の裏
側にあたる南米チリの首都サンチ
アゴの南部の都会コンセプシオン
の三百㌔あまりの沖合いに起こった
大地震によるものである。津波は
この地震の発生後約24時間で
わが国に襲来しているので、平均
毎秒約二百*(時速七百二十㌔)の
速度できたことになるが、まずハ
ワイを襲い、さらに約八時間後に
わが国に襲来した。わが国ではこの
ような遠方の外国で起こった津
波によって、災害をこうむったこ
とは全く例がなく、有史以来ので
きごとであろうと思われる。
なかった前ぶれ地震
今回の津波の特徴を考えられる
ことは、第一に、手近に地震と
いう前駆現象の予告なしに、突然
太平洋を襲い被害を生ぜしめた
ことで、従来経験している海底大
地震による津波とは著しく趣を異
にしているものである。たとえば
従来三陸地方沖
合に発生した大
地震による津波
は三陸地方に被
害を及ぼしても
房総半島以西に
は被害をもたら
さず、また紀州
沖や四国沖合に
発生した大地震
による津波で
は、紀州や四国
沿岸に被害を生
じても、三陸地方
には被害がなか
ったのである。
第二に、津波の
規模の大きいこ
とで、従来チリ
や東インド諸島
などで発生した
二,三の津波で
は、わが国では*潮*の記録の認
める程度で、その高さは一層以下
であって全く被害のないものであ
った。第三に、今回の津波の周期
は二十分以上もの比較的長いもの
のようで、また長時間続いたこと
である。これらのことから津波が
起こった浪源域の大きいこと、ま
た地震の規模の大きいことなどが
想像される。実際この地震の規模
は約八・七であるというから、世
界の最大級の地震の規模は約八・
五であることから考えると超最大級
ともいうべく、
大正十二年の関東
大地震(規模七・
九)の約十倍程度
の大きさの地震で
あるといえるであ
ろう。
 わが国における
最大級の地震とし
て津波を伴ったも
ののうち昭和にな
ってからは、八年
三月三日の三陸
大地震(規模八・
三、津波の波高最
大は三陸*里湾で
二十四㍍、浪源域
は直径約六百㌔)
十九年十二月七日
の東南海道沖大地
層(規模八・0、津
波最大波高は尾*
で十㍍、浪源域の直径約二百㍍)二
十一年十二月二十一日の南海道沖
大地震(規模八・一、津波最大波
高は紀伊半島南端で六㍍、浪源域
の直径約三百五十㌔)二十七年三
月四日の十勝沖大地震(規模八・
一、津波最大波高は霧多布で五㍍
浪源域直径約百二十㌔)などであ
る。これらはいずれも沿岸に大被
害を与えたが、これらのほかに被害
の全然ない小津波まで数えると昭
和以後では約四十回にも達する津
波の襲来があったわけである。
津波の原因は地震
 一般に被害のある津波はこれま
で日本海近海に起こった地震による
ものであり、地震の規模が六・四
以上になれば津波を伴いうるし、
規模が七・三以上では必ず津波の
発生がみられている。ことに津波
を伴う地震は本震に続く多くの余
震を伴うのが特徴的である。津波は
地底地震により生じた地形変動の
ために発生した長波が、四方へ伝
播して陸上にあふれ出る現象で、
その長波は海の深さと重力の加速
度との積の平方根で表わされる速
度で海岸に達し、そこの水位を高
めると共に水流となって陸地に*
達する。長波として進行している
間の波の高さは、どんな大津波で
も、せいぜい約数㍍で、波長は数
十㌔以上になるから、ほとんど海
上では感知できない。また太平洋
を横切る津波は減衰作用がきわめ
て小さく、三陸や北海道の近海で
発生した津波も、ハワイに災害を
及ぼしたり、遠くチリにも達して
いる。海岸に津波が襲来する様子
は場所により非常に違うのは、沖
からやってくる海水の運動の方向
や大きさ、その周期、また海岸の
湾形やその大きさ、深さ、海底の
傾斜などが関係するからである。
直線的な海岸は津波の高さが低い
のに、V字形やU字形の湾では高
さが高く、ジグザグなリアス式海
岸では津波の影響が大きい。
多くの研究資料提供
 地震を感じてから津波が来襲す
るまでの時間は、わが国では十分
内外から三、四十分が普通である。
これを利用して津波警報が出され
ている。今回の津波は地震という
前駆現象があまりにも遠くにあっ
たのに規模が大きく、わが国のス
ケールに適合しなかったのであろ
う。ともかく海底大地震には津波
がつきものである。さる三月アガ
ジールに起こった大地震にも津波
が伴っていて被害を大きくしたこ
とは記憶に新たである。
海底に大地震が起こったら、ま
ず海岸近くでは避難すべきであろ
う。今回の津波は幾多の研究資料
を提供してくれた。遠方の大地震
による津波がいかにしてわが国に
被害をもたらすほど大きなものに
なりえたか。またその地震の本件
はどうか。これらは今後明らかに
されるであろう。この辺で災害国
の汚名を返上できるよう、抜本的
な対策が講じられるようになるこ
とを切望してやまない。
(名大理学部教授・地球科学)