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電報

板垣内相 廿三日 仙臺特報
板垣内務大臣△本日午前二時半當市を經て巌手縣被害地に赴く
嘯害視察 廿三日 賴森特報
太田内務書記官嘯害地を經て昨晩當地に來り再び實地調査の途に就く筈
學事視察 廿三日 賴森特報
岡田文部省參事官本日水害地に向け出發巌手縣を經て歸京の途に就く筈
被救助者 廿三日 仙臺特報
炊出を爲し救助を爲し居る人員一萬七千三百三十七人あり
憲兵の被害地行 廿三日 仙臺特報
小笠原憲兵隊長憲兵廿五を率ゐ罹災地に向け出發せり
龍田 廿三日 仙臺特報
死体捜索中の軍艦龍田△一昨日女川灣に昨日△荻の濱に入港せり

雑報 嘯害慘状

釜石町△小數千百餘、人口六千二百餘にして多く漁業を以て營みと爲す所たるに全市街の
家屋土藏△皆流失破壞し僅かに臺村澤村とて小鄕き部分に四五戸を殘すのみ避難後救助米
を受け居るもの千餘名なれ▲他の五千餘名△擧げて溺死したるものと見るより外なし前代
未聞の珍事にして酸鼻の至りなり若夫れ海嘯當時の一班を記さんが三浦某の一家△家族五
人二階に在り枕を並べて悉く死し其家屋及び土藏△浮上り三百間も隔りたる所に押流され
て家△潰れ土藏△破壞せり又縣會常置委員小輕米汪氏△其夜舊五月節句のことて警察署長
山口某、町長服部某等と共に自宅に於いて小宴を催し居たるに午後八時半と覺しき頃突然
鳴動ありしを以て先づ地震か火事かと驚く署長と町長と△裏手の山に馳せ登りしに小輕米
氏△表へ馳せ出て其海嘯なるを知て引返し是も裏手の岡に登らんとしたれど妻の病床に在
るを氣遣いて戻りしものヽ如く遂に一家九人皆死せり、斯の如くにて全戸流亡のもの頗る
多けれ▲死体の引取人△殆ど無く唯官廳の手を煩はすのみ死体累々として處々として埋れ
あり臭氣甚だしくして見るに堪へず市街△泥にて苗代の如く破壞せる家屋散在して歩行す
る能はず村上參事官一の倉群長出張し警部巡査を指揮して生存者負傷者の手當死体の蒐集
に人夫を雇上げ盡力中なれも何樣五千に餘る死体千戸に餘る家屋散亂することヽて容易に
△捗らず因に記す南閉伊郡各町村の被害△流失戸數千六百六十四戸死亡者八千三百五十人
負傷者七百六十三人又船舶の流失△七百三十耕地の荒廢△四百七十町歩餘なり

巌手縣東閉伊郡

海嘯の前兆如何、區々にして知る可らざるも當時異状なりし一△鍬ヶ崎の漁夫某、女★戸
沖にし居たるに沖合鳴動幽かに聞え氣味惡きを以て歸途に就けるに同所より鍬ヶ崎へ△常
に二時間半許を費すに非れ▲到着する能はざるに僅かに三十分許にして歸着せり甚だ奇怪
なりと言い居たるに果して海嘯ありたりと又當日田老村に林壮藏なる者同業者十二と小湊
に網引に赴き居りたるに午後九時前と覺しき頃俄然海水の引き退くこと三百間餘陸地△暗
A|K咫尺を辨ぜらるに海面及び退潮せし海底△恰も月光の如き蒼白なる光輝を發し諸物を明
視するを得たり此れ只事に非らずと吃驚周章傍への鄕所に攀じ登ると漸く二間餘の瞬間凡
十丈餘の怒濤屏風の如く屹立し非常の速力を以て浸襲し來り同人も辛くして引きさらは
るヽを免れたり但し同行の八名流死せりと又田老崎山等の被害△宮古鍬ヶ崎と△趣を異に
し宮古等に在て△怒濤漸く五六丈に過ぎず且浸襲の大なるに比し退潮緩慢微弱なりしため
家材の陸上に押上げられたる儘堆積せしもの多し然るに田老等に在て△直ちに太平洋に面
したる爲めか濤も大にして十丈餘なりし如く断崖數丈の鄕さに於て尚其徴を存す而して浸
襲力退去力共に強大にして田老避病院裏沿岸にありし松木何れも二抱へ以上のもの凡そ百
本餘一撃の下に折挫提去せられ痕跡だも止めず
僅かに樹根を存するのみ又小湊より同日船卸せんとせし風帆船一隻山腹中央(海岸浪打際
を去る二丁)に打上げられ轉覆し居るを視る其他樹皮を剥落し大木を轉倒せしもの無數而
して其方向皆退潮に從い海に向へり且家財破壞材△概ね海上に流亡し陸上に存するもの僅
に五分の一許、田老小湊等に於て生命を全うせるもの最も少なく而して死屍發見の稀なる
亦之が爲めなるべし實に悲慘の極縣下又其比を見ず

A{r森縣三戸郡上北郡

A{r森縣に於る最大の被害區域△三戸郡にて△市川下長苗代、湊、鮫、階上の五ヶ村にして
上北郡にて△百石、三澤、六ヶ所の三村海岸なるが特に馬渕河口より小川原沼口まで十餘
里の間を甚だしとす中に就て尤も慘状を極めたる△百石、三澤の兩村にして此兩村△全部
慘害を蒙り脱がれたる者△十が一二に過ぎず津波の陸上に打ち揚げたる程度△土地の鄕低
其他の情況に依て一樣なるを得ざれども概して二丁内外に至り鄕地の爲めに遮ぎられて引
き去りしが如し津波の鄕さも亦地勢に依て一樣ならざるべしと雖も通常二三丈の間に在り
しを見る尤も塲所に依りて△水面上七八丈の鄕所に小舟の打ち揚げられて草木の間に波泡
の跡を止むる者あり打ち寄せ△都合三回にして第一回△僅かに沿岸家屋の床下に浸水した
るに止まりて此の時より津波ぞと騒ぎて逃げ仕度を爲したるものありしが大抵△何共心附
かず平氣にて在りしに第二回に△山の如き怒濤一時に頭上より襲ひ來り人々魂を消して爲
す所を知らざりしに直に第三回の最大洪波に襲はれたる次第なり洪波襲來の時に△遠く聞
け▲大砲の如く近くに随つて汽車の如き鳴動あり十數里の内地にても聞きたる所ありと云
ふ前兆とて右鳴動の外に見聞する所なし尤も一ヶ月前より近年無比の鰯大漁なりしのみな
らず魚形の大なると鰊の如くなりし△稀有の事にして斯る豊漁△數十年來聞きも及ばざる
所なりとて漁業者の歓喜一通りならず附近△勿論遠隔の地よりも新に漁業に就きし者少な
からず資力ある者△數十名の漁夫を雇役し盛に漁獲に從事し北海道の鰊時も斯くやと思は
れ附近海岸未曾有の盛況なりしが一瞬にして収穫の〆粕△勿論船舶漁具より人畜財寶無前
の慘害に罹りたるなり而して斯く未曾有の豊漁ありし△何故なりしかを知らずと雖も地温
等の關係より來れる者にして大鰯の郡來是或△海嘯の前兆に△あらざりしやと云ふ者あり
尤も海嘯後今日まで△鰯の跡を見ずと云ふ

慘話一束