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I-1.はしがき

 伊勢湾北部地方一帯の地盤沈下の実体を把握するため、昭和36年2月より昭和41年2月に至る5ヵ年間,愛知県,名古屋市および名古屋港管理組合によって国土地理院中部近畿地方測量部の指導のもとに1・2等の水準点の測量が実施されてきた.今回その成果を基本としてあらゆる角度から地盤沈下に関する調査研究が行なわれ,その要因の究明がなされた.ここにこれらの成果を総括する.

1-2.調査研究の内容

 濃尾平野南部地域から伊勢湾臨海部地域を地盤沈下の調査研究の対象とした.調査研究の項目および分担者は次の通りである.
1)調査研究の総括              飯田汲事
2)地殻変動                 飯田汲事
3)地盤および地質    横尾義貫・嘉藤良次郎・桑原徹
4)地下水利用               井関弘太郎
5)土質                    植下協
 以上の各項目の2)-5)の成果は第2章以下において詳述されている.

1-3.研究結果の要約

(1)地盤変動の考察
 昭和36年から41年に至る5ヵ年間の水準測量の成果と,それ以前の1885年から1960年にわたって行なわれた14回の水準測量成果とを併せて考察した.考察の対象となった伊勢湾北部地域約800平方キロメートルにおいて分布した総計367点の水準点の変動および三重県ならびに愛知県下の6ヵ所の観測井群による層別深度沈下量の考察から,洪積層以深の変動量の推定を行ない,結局地殻変動量を求めた.また,名古屋港および鳥羽港などの検潮記録の調査から海水面の変動量を求めた.これらの調査結果から本調査の地殻の垂直変動量を推定した.
 地盤の垂直変動量は愛知県豊明町の水準点基39を基準とすると,昭和6年より現在までの35年間の変動量ではその最大は弥富町における水準点1472におけるものであり,116cmの沈下が示されている.これに次いで大きい沈下量は名古屋市熱田区市場町,港区小確町,瑞穂区内浜町などにおける60cm内外のものである.特に昭和35年以降には定期的に水準測量が行なわれたので,沈下変動地域の表示が明らかとなった.それは平均して東部丘陵地帯は年約0~5mm,熱田付近は30mm以内,名古屋駅付近は5~20mm,市街中心部は年約10mm内外,一級国道1号線沿は年約20mm,名古屋港周辺工場地帯は年約1~10mm,蟹江付近は年約50mm内外,木曽川下流域は年約60~128mmとなっている.年によりまた場所的にも年平均の地盤沈下量は違っており,波状的に変化していて波長の長い変動と短かい変動とが重なって変化していることを示した.波長の長い変動は弥富町付近を中心とするものと,四日市を中心とするものとがあり,これらはいずれも盆状の変動を示している.変動の半波長は前者は約30km,後者は約15kmであり,前者は後者の約2倍である.また,変動のうち短かいものの半波長は前者で約7km,後者も約7kmであって,いずれもその値は類似である.以上のは伊勢湾に沿う東西方向から南西方向の変動であるが,名古屋市から一宮,岐阜に至る南北幹線路に沿う変動を見ると複雑であり,その南部では主として沈降,北部では隆起となる年が多い.また西春日井郡新川町付近の変動は盆状変動を示す傾向があるとみなされる.この場合は大きな変動の半波長が約27kmとなる.
 年間当りの地盤変動量は経年的に変化するが,その変化に特徴が見られる.すなわち,大正14年(1925)以前の変動の小さい期間とそれ以後の変動の大きい期間とに分けられるが,細かく分ければ,1950年以前の第1期,大正14年~昭和25年の第2期,昭和25年~昭和35年の第3期,昭和35年以降の第4期とに分けられる.年変動量は第1期において最も小さくて1.4~1.8mmであり,第2期においては第1期より大きく2~5mmとなり,第3期においては大きく10~20mm,第4期においては最も大きく20~30mmとなっている.1955年以降の変動は特に大きくcmにも達している所がある.
 潮位変化の経年的傾向を見ると地盤の変動と相関があり,名古屋港,四日市港,松坂港,鳥羽港などの潮位の長年の変化を見ると東南海地震時の25~75cmの急激な潮位の上昇,すなわち,陸地の沈降はあったが,その他の年には潮位の緩慢な上昇的傾向を示している.この変化は平均して年2~数mmである.
 深度による層別地盤沈下の観測は一宮,名古屋市富田町,愛知県海部郡.飛島村および四日市川尻町,同千才町.川越町亀崎新田等の観測井群によって行なわれ,これらの地域における深度別地層中の収縮変動量が求められた.これらの変動量と水準測量の結果との対比から洪積層以深の地層の年変動量の推定が行なわれた.このようにして,地層別年変動量は冲積層では平均19~46mm,洪積層では平均10~20mm,第三紀層では平均0.8~14mmであり,第三紀層では年平均8mmである.
 以上の考察により本地域の地殻変動量は一般には人工的影響の少ない時代の年1~2mmから数mm以下であると考えて,最大に見積っても地殻変動量は年10mm程度であることが知られた.
(2)地質学的考察
 地質学的調査およびボーリング資料から考察された本地域の地質および地盤構成より地盤沈下の究明が行なわれた.その結果,濃尾傾動地塊運動と地盤沈下との関係をみると,名古屋市を含む濃尾平野地域は,西方に傾く基盤地塊の運動に支配されている.第三紀後半より現在に至るまでの間に,この地域に順次積重なって堆積した地層は,古いものほど強く西に傾き,上位の新しいものほど弱く傾き,それぞれの地層は西側ほど厚く堆積していることにその運動のあとが留められている.このような,傾動地塊運動によって生じた濃尾平野沈降盆地の地下には,第三紀以降の地層が1,500m以上の厚さに堆積している.これらの地層の堆積量は基盤の沈降量のおおよそを示すものであり,地層の堆積量や地層の堆積面の傾きの量から過去の濃尾平野における基盤の傾動沈降量を推定することができる.こうして求めた基盤の傾動沈降量は,約35,000年以降で,弥富付近であれば60mと算定され,この間の年平均沈下量は1.7mmという値になる.この値は関東盆地などの年沈下量とほぼ一致する.また,この値は濃尾平野の人工的沈下促進が加わると考えられる時期以前(昭和元年頃以前)の地盤沈下速度と近似しており,現在でも基盤の沈下運動に伴う全般的な地盤の変動量は,ほぼこの年間2mm前後の値であろうと推定される.
 濃尾平野の基盤地塊は,断層によっていくつかの地塊ブロックに分かれ,個々の差別的運動を行なっていることが判っている.基盤地塊ブロックによっては先の全般的な変動量よりも大きな変動量を示すものもあり,また,地表地盤の変動にもブロック別の動きが現れてくる.「弥富盆状変動」は天白川河口から,伊勢湾内び連なる断層線の南側上昇塊(知多ブロック)の引きづりをうけ,また,木曽川河口付近は相対的上昇ブロックにもなっているので,濃尾平野の沈下の中心部はむしろ内陸よりの弥富付近となっていることと考え合わせると興味深い.
 地層の圧密と沈下量については昭和30年以降,沈下量が急激に増大する時期は,主として地下水の汲上げなどによる人工的な地層の圧密沈下の促進に原因があると推定されるが,ちなみに,沖積層中の最も圧密され易い泥質層の層厚分布と,昭和36年から5年間の累計沈下量との相関を調べると,泥質層の層厚分布と沈下量との比較的よい相関を示すものが多い.しかし,なかには著しく不調和なものある.これらのものは,特定の地域に分布しており,地域的な人工的圧密促進因の差等の地域的な原因が考えられる.
 最近の沈下傾向の地域的特性をみると,濃尾平野西南部のものは泥層層厚に比して,沈下量が甚だ小さくなっている.この地域の5年間の変動量をみると,一般には昭和38年から昭和39年の間に著しい沈下が見られるのに,この地域では,同年間の沈下は5年間の最小値となっている.各水準点の年度別変動量の推移を注意深くながめると,それには地域的に特定のパターンが存在している.共通する変動パターンを示す地域として,一つには名古屋市東部の第三紀丘陵地帯,洪積丘陵・台地地域,それに,これらを沖積層が薄く覆う地域であり,昭和39年度に異常な相対的沈下量を記録し,この5年間では年々沈下量が増加する傾向を示す地域となっている.一方濃尾平野西南隅では昭和39年に沈下量が極小を記録し,上記5年間には沈下量が減少する傾向を示すものが多くなっている.
 これらの地域差は,一つには基盤ブロックの差別運動,さらには,地盤構成地質の差が反映していると解釈される.
(3)地下水利用からの考察
 地盤沈下の原因を地下水利用の面から考察を行なった.伊勢湾北部地域における過去の地変殻動の状況は,少なくとも昭和20年代以前においては,地震時の地殻変動を除けば年間10mmを超える変位はほとんどみられなかった.しかるに最近は10mm/年を上廻る激しい変動が続いていること,および地下水利用増大していることから見て,地下水汲上げによる圧密収縮の加速が考えられるに至ってきた.このような理由から,次のような方法によって,地下水汲上げと地盤沈下との関係について検討を行なった.
 各水準点を中心とした半径1km円内(面種3.14平方キロメートル)における深層地下水汲上量を求め,これと,それぞれの水準点の5年間の標高変位量との間における相関関係の追求から検討した.その結果を,沖積層中の泥層厚別地区(層厚20m以上地区,10~20m地区,10m未満地区)に分けて整理して両者の関係をみると,それにはかなり特徴ある地域差のあることが明らかになった.
(a)泥層厚20m以上の地区,すなわち海部,津島地区では,地下水汲上げ量と地盤沈下量との間には明瞭な相関関係が認められ,日量5,0000立方メートル/3.14平方キロメートルの地区(水準点)では,32~64mm/年,日量10,000立方メートル/3.14平方キロメートルの場合には48~84mm/年の地盤沈下のあることが明らかになった.このような値は,地殻変動・自然圧密からなる自然原因による変位量に比較すればはるかに大きいことがわかる.
(b)泥層厚10~20m地区の場合においては,日量5,000立方メートル/3.14平方キロメートル程度までの深層地下水汲上地区では,地下水汲上量と地盤沈下との相関関係は認め難いが,日量5,000立方メートル/3.14平方キロメートルを超えると両者の間に相関関係があることがわかった.すなわち,日量5,000立方メートル/3.14平方キロメートルの場合には12~42mm/年,日量10,000立方メートル/3.14平方キロメートルの場合には30~60mm/年という値が得られた.
 なお,当地区の日量5,000立方メートル/3.14平方キロメートル以下の地下水汲上地区においても,地盤沈下に対して地下水汲上げの影響は一般的にあるといえるが,さらに沈下量を局地的に高めるようになるのは,日量5,000立方メートル/3.14平方キロメートル以上であることを示している.
(c)名古屋市北部の泥層の厚さ10m未満の地区では,地下水汲上量と地盤沈下量との相関関係は認められなくなっている.一般的には地下水汲上げの影響を受けているが,地層の敏感性が低いため,局地的に大量の地下水汲上げがあっても,直ちにその地点における地盤沈下に反映していないことを示している.したがって,これを数値で示すと,日量5,000立方メートル/3.14平方キロメートルの場合,沈下量が0~20mm/年であると共に,日量10,000立方メートル/3.14平方キロメートルの場合でも0~20mm/年である.しかし名古屋市西部の中川運河付近などでは,日量10,000立方メートル/3.14平方キロメートル内外の汲上量のある地区では30mm/年の沈下を示し,これ以上の汲上げのある場合には両者の間に相関のあることがわかった.
 名古屋南部臨港地帯は,一般的には名古屋市西部の沖積泥層厚10m未満地区の場合と同様な状態にあるが,しかし天白川,山崎川,旧稲永川(仮称)などの埋積谷部にあたるところでは,地下水汲上量5,000立方メートル/3.14平方キロメートル以下の場合でも顕著な地盤沈下を示している.これは,上記の埋積谷を充填している物質が,含水比・間隙比の高い過敏性の沈泥を主とするためと判断される.
 以上からみて,沖積泥層厚が20m以上地区,および名古屋港地域の埋積谷部分においては,日量5,000立方メートル/3.14平方キロメートル以下の地下水汲上げについても慎重に検討することが必要であり,また泥層厚10~20m地区および10m未満地区では,日量5,000立方メートル/3.14平方キロメートル以上になることを避けるようにすることが,地盤高を維持する上から望まれる.
(4)土質力学的考察
すでに行なわれた5年間の計測で沈下量の著しい箇所の沈下原因を踏査により,土質力学的に対象地盤の圧縮性を検討した.そして地下水汲上げによる地盤沈下の進行状況および愛知県下の堤防荷重による沈下現象を考究した.その結果,名古屋市内,愛知県下,および隣接地域の沈下の顕著なところは,(1)地盤に圧縮性軟弱粘土層に顕著なこと,(2)盛土等の荷重条件の存在すること,(3)伊勢湾台風時における地盤の浸食,土砂堆積は行なわれたことなどであることが明らかとなった.
 地下水汲上げによる地盤沈下の進行速度を海部郡の地盤条件をもとに,土質力学的検討を加えた結果,地下水汲上げにより毎年数cmの地盤沈下が生ずることを推定した.50mまでの沖積層の圧縮の果す役割は前記の量の半分ないしそれ以上と考えられている.
 愛知県下の海岸堤防の沈下現象は堤体荷重による圧密沈下とその他の原因による全般的沈下の加算によるものと推定される.沈下率は計算値と実際の値と大体一致することがわかった.

1-4.むすび

 以上各項目において示した要約および第2章以下の詳述により検討された地盤沈下の要因を総括すると次のようになる.
(1)地盤沈下の要因は自然的なものと人工的なものとに大別される.
(2)自然的要因は地殻変動ないし自然圧密による地盤変動である.その値は一般に2~3mm/年であり,最大に見積っても約10mm/年程度である.
(3)地盤の圧密加速される人工的要因は地下水の汲上げ,地表面における荷重その他が考えられる.年間沈下量の大きいところは,沖積層が厚く,かつ地下水揚水量の大きいところと一致する.
(4)沖積泥層の厚さが20m以上の場所では,1日当りの地下水揚水量が半径1km以内において5,000立方メートルの場合には地盤沈下量が年間32~64mm,10,000立方メートルの場合には年間48~84mmである.沖積層の厚さが10~20mの場合は,前記地下水揚水量が5,000立方メートルおよび10,000立方メートルなる値に対し,沈下量はそれぞれ年間12~42mm,30~60mm/年となる.
(5)地盤沈下が地下水の増減に敏感な地域とそうでない地域とがある.敏感なところは地下水汲上げ量との相関は高い.日光川以西の海岸地域や名古屋港臨海地帯埋積谷部などは相関の高い例である.
(6)沖積泥層厚が20m以上の地区および名古屋港臨海地域の埋積谷部分においては,半径1km以内の地下水揚水日量が5,000立方メートル以下の汲上げについても慎重に検討する必要があり,また,泥層厚が10~20m地区および10m未満の地区では前記地下水揚水日量5,000立方メートル以上になることを避けるようにすつことは地盤高の保持上望まれる.
(7)堤体その他の表面荷重が地盤沈下促進の主な原因と考えられるところも終息状態に近づきつつあるといえよう.例えば木曽崎海岸地帯においては地盤沈下の5年間における平均は50~60mmであるが,昭和40年度においては年20~30mmであり,堤体荷重による沈下の割合は減少の傾向にある.

LAND SUBSIDENCE AND ITS CAUSES IN THE NOBI PLAIN AND ITS VICINITY AROUND ISE BAY AFFAISSEMENTS ET LEURS CAUSES DANS LA PLAINE DE HOBI ET SON VOISINAGE AUTOUR DE LA BAIE D’ISE Kumuzi IIDA Department of Earth Sciences, Nagoya University, Nagoya

ArrayABSTRACT
 The subsidence of land surface in the Nobi plain and its vicinity around Ise Bay is discussed on the basis of the results of repeated precise levellings, the changes in the sea level, and the contraction of surface layers observed in the deep wells. The rate of subsidence in this region changes with time and locality. The yearly values of the subsidence were 1.4-1.8 mm before 1925, 2-5 mm during the period of 1925 to 1950,10-20 mm during the period of 1950 to 1960, and 20-30 mm since 1960. The maximum value of the subsidence was 212.6 mm in the year from 1961 to 1962. The rate of the recent subsidence is 5 to 30 mm in Nagoya district, 50 mm in Kanie area, 60-128 mm in the mouth of Kiso river and 20-100 in Yokkaichi area. The contraction rate of surface layers with depth was investigated in connection with the consideration of geology and soil mechanics, and ground water withdrawal.
 The area of great subsidence is corresponding to the area where the surface layers of soft clay and silt are thick and where their shrinkages are great. The amounts of the Subsidence are related to the thickness of the surface layer and to the amounts of the ground water withdrawal.

RESUME【フランス語】

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